タイトル: | 特許公報(B2)_ジチオカルバマート誘導体を使用した癌の治療方法 |
出願番号: | 2002531975 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | A61K 31/27,A61K 31/28,A61K 31/285,A61K 31/295,A61K 31/30,A61K 31/315,A61P 9/00,A61P 9/10,A61P 11/06,A61P 29/00,A61P 35/00,A61P 43/00 |
ケネディ,トーマス・プレストン JP 4268801 特許公報(B2) 20090227 2002531975 20011004 ジチオカルバマート誘導体を使用した癌の治療方法 シャーロット‐メクレンバーグ・ホスピタル・オーソリティ,ドゥーイング・ビジネス・アズ・キャロライナズ・メディカル・センター 500241985 奥山 尚一 100099623 有原 幸一 100096769 松島 鉄男 100107319 ケネディ,トーマス・プレストン US 09/679,932 20001005 US 09/735,205 20001212 20090527 A61K 31/27 20060101AFI20090430BHJP A61K 31/28 20060101ALI20090430BHJP A61K 31/285 20060101ALI20090430BHJP A61K 31/295 20060101ALI20090430BHJP A61K 31/30 20060101ALI20090430BHJP A61K 31/315 20060101ALI20090430BHJP A61P 9/00 20060101ALI20090430BHJP A61P 9/10 20060101ALI20090430BHJP A61P 11/06 20060101ALI20090430BHJP A61P 29/00 20060101ALI20090430BHJP A61P 35/00 20060101ALI20090430BHJP A61P 43/00 20060101ALI20090430BHJP JPA61K31/27A61K31/28A61K31/285A61K31/295A61K31/30A61K31/315A61P9/00A61P9/10A61P11/06A61P29/00A61P35/00A61P43/00 121 A61K 31/27 BIOSIS(STN) CA(STN) EMBASE(STN) MEDLINE(STN) REGISTRY(STN) JSTPlus(JDreamII) JMEDPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) European Journal of Medicinal Chemistry,1986年,21(3),pp.261-265 Polyhedron,1999年,18,pp.2827-2837 Journal of Inorganic Biochemistry,1988年,33,pp.1-9 Inorganica Chimica Acta,1989年,166,135-140 Anti-Cancer Drug Design,1988年,3,pp.205-216 Journal of Inorganic Biochemistry,1990年,38(1),pp.81-93 Toxicology Letters,1993年,66,pp.97-104 14 US2001031142 20011004 WO2002028349 20020411 2004525079 20040819 37 20041004 清野 千秋 【0001】[発明の分野]本発明は、一般に、癌の治療方法、特にジチオカルバマート誘導体(dithiocarbamate derivative)を使用した癌の治療方法に関する。【0002】[発明の背景]制御されない悪性細胞の成長である癌は、現代医学の主要な健康上の問題であり、米国での死因としての心臓疾患のみの次位を占めている。心臓の腺癌などの悪性疾患およびホジキン病などのリンパ腫は現代の化学療法による抗新生物薬投薬計画に比較的十分に反応するが、他の癌、特に非小細胞肺癌、膵癌、前立腺癌、および結腸癌は化学療法の反応性が低い。初期には化学療法に感受性を示す小細胞肺癌でさえも、寛解後に再発して広範に転移して患者を死に至らしめる。したがって、この疾患に対するより良好な治療アプローチが必要である。また、ほとんど全ての現在利用可能な抗新生物薬は、顕著に有毒である(骨髄の抑制、腎不全、口内炎、腸炎、および脱毛症など)。【0003】20世紀の終わりに、全ての他の腫瘍型よりも悪性黒色腫の発症が劇的に増加した。悪性黒色腫の生物学的研究により、悪性細胞増殖の転写因子の重要性の例が提供されている。悪性黒色腫は、転移性を示し、化学療法およびγ線照射などの従来の化学療法に耐性を示す。ヒトの悪性黒色腫の発症は、多段階のプロセス(メラノサイトから母斑への移行、放射状の成長、およびその後の垂直方向への成長(成長因子への依存の減少、足場依存性の減少、接触阻害の減少、ならびに照射および薬物耐性の増加に関連する自立性黒色腫の転移性表現型))を経て進行する。【0004】黒色腫進行の分子の理解は、細胞分裂誘起刺激に対する培養黒色腫細胞の応答の研究に由来する。培養では、メラノサイト増殖および分化は、cAMPを増加させる薬剤によって陽性に制御され(P.M.Coxら、「MHCクラスIIDrαプロモーターを異常な構成性発現およびSV40 T抗原による活性化にATF/CREB結合モチーフが必要である」、Nucleic Acids Res.,20、4881〜4887、1992;R.Halabanら、「培養によって成長させたヒトメラノサイトのチロシナーゼによる制御」、J.Cell Biol.,97、480〜488、1983;D.Jeanら、「CREBおよびその関連タンパク質はヒト黒色腫細胞の生存因子として作用する」、J.Biol.Chem.,273、24884〜24890、1998;P.Klattら、「一酸化窒素は、特異的標的化S−グルタチオニル化によるc−Jun DNA結合を阻害する」、J.Biol.Chem.,274、15857〜15864、1999;J.M.Lehmannら、「MUC18(ヒト黒色腫の腫瘍進行マーカー)は、免疫グロブリンスーパーファミリーの神経細胞接着分子に配列類似性を示す」、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89、9891〜9895;M.Lucaら、「MUC18発現とヒト黒色腫細胞の転移能力との間の直接的相関」、Melanoma Res.,3、35〜41、1993;J.P.Richardsら、「cAMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)およびリン酸化CREBの構造特性の分析」、J.Biol.Chem.,271、13716〜13723、1996;S.Xieら、「優性阻害型CREBは腫瘍成長およびヒト黒色腫細胞の転移を阻害する」、Oncogene、15、2069〜2075、1997を参照のこと)、CRE(コンセンサスモチーフ5’−TGACGTCA−3’またはcAMP応答エレメント)に結合するいくつかのcAMP応答性転写因子は、メラノーマ成長および転移を媒介する優れた役割を果たす。MeWo黒色腫細胞では、転写因子CREB(CRE結合タンパク質)およびその関連ファミリーメンバーATF−1は、CRE依存性遺伝子発現により腫瘍の成長、転移、および生存を促進する。前出のD.Jeanらを参照のこと。転移性MeWoメラノーマ細胞における優性阻害型KCREB構築物の発現により、ヌードマウスにおける腫瘍形成性および転移能力が増加する。S.Xieら、「ヒト黒色腫細胞によるMCA/MUC18の発現により腫瘍成長および転移性が増大する」、Cancer Res.,57、2295〜2303、1997を参照のこと。KCREBトランスフェクト細胞は、基質メタロプロテイナーゼ2(MPP2、72kDaのコラゲナーゼIV型)のmRNAおよび活性を有意に減少させ、それにより基底膜(転移能力における重要な成分)を介した侵入が減少する。【0005】メラノーマ転移に関連する細胞表面接着分子MCAM/MUC18(前出のJ.M.Lehmannら;前出のM.Lucaら;前出のS.Xieら、を参照のこと)はまた、KCREBトランスフェクションによってダウンレギュレーションされる。前出のS.Xieら、Cancer Res.,を参照のこと。さらに、MeWo細胞におけるKCREBの発現により、タプシガルジン誘導性アポトーシスに感受性が与えられ、これにより、CREBおよびその関連タンパク質がヒト黒色腫細胞の生存因子として作用し、それにより悪性表現型の獲得に寄与することが示唆される。前出のD.Jeanらを参照のこと。【0006】黒色腫細胞は、通常Bリンパ球および単球/マクロファージ細胞株の抗原定時細胞のみに見出される主要組織適合遺伝子複合体クラスII(MHCII)抗原を異常に発現する。P.M.Coxら、「ATF/CREB結合モチーフは、MHCクラスIIDrαプロモーターの異常な構成性発現およびSV40のT抗原による活性化に必要である」、Nucleic Acids Res.,20、4881〜4887、1992を参照のこと。B16黒色腫細胞では、これはATF/CREBモチーフの構成性活性化によるMHC II DRαプロモーターの活性化による。CREBファミリータンパク質はまた、UV応答エレメント(URE、5’−TGACAACA−3’)に結合し、CREBファミリーメンバーATF2のURE結合により、MeWo黒色腫株における照射および化学療法薬cis白金、1−β−D−アラビノフラノシルシトシン(araC)、またはマイトマイシンCへの耐性が付与される。Z.Ronaiら、「ATF2はヒト黒色腫細胞に照射耐性を付与する」、Oncogene、16、523〜531、1998を参照のこと。したがって、CREBファミリーの転写因子は、この重要な腫瘍型の悪性潜在性に重要な役割を果たす。これにより、ATF/CREB媒介性転写の標的化分子破壊が比較的耐性の高い悪性黒色腫の成長および転移の調節に治療的に有用であることが他の因子によって示唆される。前出のD.Jeanおよび前出のZ.Ronaiを参照のこと。【0007】多数の転写因子の正電荷DNA結合ドメインは、修復過程を刺激する過酸化水素または一酸化窒素(NO)などの薬剤によって酸化的に改変することができるシステインを含み、これによりグルタチオン(GSH)とタンパク質チオールとの間に混合ジスルフィドが形成される。前出のP.Klattら;およびH.Sies、「グルタチオンおよび細胞機能におけるその役割」、Free Rad.Biol.Med.,27、916〜921、1999を参照のこと。このいわゆるタンパク質の「S−グルタチオニル化」の結果として、通常、正電荷の転写因子であるDNA結合ドメインは、GSHの二つのカルボキシル末端基によって負電荷となる。電荷の変化により、その各DNAコンセンサス配列に結合する転写因子が破壊される。前出のP.Klattら、および前出のH.Siesを参照のこと。この機構は、どのようにしてNOがDNA結合領域内のシステインの特異的に標的化されたS−グルタチオニル化によるc−Jun DNA結合を阻害するかを説明するために実証されてきており、類似の機構により、一般にどのようにして窒素ストレスがFos、ATF/CREB、Myb、およびRel/NFκBファミリー転写因子の活性化を機能的に阻害するかが示唆されている。前出のP.Klattらを参照のこと。【0008】ジチオカルバマートは、金属と錯体を形成してスルフヒドリル基およびグルタチオンと反応する広範な分子クラスを含む。金属触媒による、その対応するジスルフィドへの変換後、ジチオカルバマートは、重要なタンパク質チオールとの混合ジスルフィドの形成により、システインプロテアーゼを阻害する。C.S.I.Nobelら、「アポトーシスのジチオカルバマート阻害機構:ジチオカルバマートジスルフィドによるチオールの酸化によりカスパーゼ3プロ酵素のプロセシングが阻害される」、Chem.Res.Toxicol.,10、636〜643、1997を参照のこと。CREBは、DNA結合領域中にDNA結合には不可欠ではないがS−グルタチオニル化の反応部位を提供し得る3つのシステイン(Cys300、Cys310、およびCys337)を含む。S.Orreniusら、「ジチオカルバマートおよび細胞死の酸化還元調節」、Biochem.Soc.Trans.,24、1032、1038、1996を参照のこと。【0009】最近、還元スルフヒドリル基を含むジチオカルバマート(例えば、ピロリジンジチオカルバマート(PDTC))が、培養直腸結腸癌細胞の増殖を阻害することが示された。「抗酸化剤により直腸結腸癌の化学療法薬の細胞傷害性を増強する:C/EBPβを介したp21WAF1/CIP1のp53依存性誘導」、Nature Med.,3、1233〜1241、1997;Chineryら、「抗酸化剤によりシクロオキシゲナーゼ2発現、プロスタグランジン産生、および直腸結腸癌細胞が減少する」、Cancer Res.,58、2323〜2327、1998を参照のこと。【0010】その還元チオ酸形態に加えて、ジチオカルバマートは、三つの他の形態で存在する。これは、例えば、a)チオ酸の縮合二量体であるジスルフィド(ジスルフィド結合により還元スルフヒドリル基が消滅する)、b)一般にナトリウムなどのアルカリ金属塩としての負電荷チオラートアニオン、およびc)ジチオカルバマートの二つの隣接硫黄原子がチタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、または金の金属イオンと結合した遷移元素の1,1−ジチオラト錯体である。ジチオカルバマートのジスルフィド、チオラートアニオン、および遷移金属錯体は全て、還元スルフヒドリル分子部分を含まず、遊離基の電子を捕捉するための還元スルフヒドリルからのプロトンの供与により抗酸化剤として機能することができないという点でChineryらによって使用されたPDTCの還元形態と構造的に異なる。Chineryらの教示によれば、還元スルフヒドリル、チオカルバマートジスルフィド、チオラートアニオン、および遷移金属錯体の欠如により、ジチオカルバマートのこれら3つの非還元化学形態は抗酸化剤として機能することができないので、癌に対する抗増殖薬としての活性を示さないはずである。【0011】1999年9月8日提出の米国特許出願第09/392,122号では、ジチオカルバマートジスルフィドジスルフィラムが腫瘍細胞に対する癌化合療法の感受性を高め、これを癌化学療法薬と組み合わせて使用して、その新生物治療効果を増大させることができることが報告された。最近、ジスルフィラムが細胞からの種々の細胞傷害薬をポンピングする原形質膜状のP糖蛋白質ポンプ(ATP駆動性の170kdの流出ポンプ)の成熟を防止することが示された研究でこの効果が説明された。T.W.Looら、「ジスルフィラム(アルコール中毒症治療に使用される薬物)によるインビトロでの薬物耐性の遮断」、J.Natl.Cancer Inst.,92、898〜902、2000を参照のこと。この効果により、腫瘍細胞中のP糖蛋白質に媒介される薬物耐性が減少し、癌化学療法に対する腫瘍細胞の感受性が高められる。【0012】したがって、本発明の目的は、癌の治療方法を提供することである。【0013】本発明の別の目的は、癌治療用の薬学的組成物を提供することである。【0014】本発明のさらに別の目的は、治療自体による損傷の危険性を伴わずに、より良好に癌患者を治療するために、単独でまたは既存の薬物と組み合わせて利用可能な比較的毒性の低い薬剤を提供することである。【0015】[発明の要旨]本発明は、ジチオカルバマートジスルフィドまたはチオカルバマートアニオンのいずれかを単独で使用するか、重金属イオンと組み合わせて使用するか、重金属イオンのチオカルバマート錯体を使用した、確立された癌の治療方法を提供する。【0016】ジチオカルバマートジスルフィドおよびその対応するチオラートアニオンのみで、その構造内の抗酸化性スルフヒドリル基の非存在下で確立された腫瘍細胞の成長に対する強力な阻害効果を示すことを発見した。チオカルバマートジスルフィドおよびその対応するチオラートアニオンは、現在利用可能な新生物薬に対する応答が不十分であることが知られている、確立された黒色腫および非小細胞肺癌細胞の成長の阻害に有効である。さらに、驚いたことに、確立された腫瘍細胞に対するジチオカルバマートジスルフィドおよびその対応するチオラートアニオンの抗増殖効果および抗新生物効果が、それ自体では癌細胞の成長を害することのない濃度における遷移金属塩で、癌細胞を同時治療することによって大いに強化されることをさらに発見した。遷移金属の強化機能は、ジチオカルバマートジスルフィド由来のチオラートアニオンの形成を促進することである。さらなる腫瘍細胞成長阻害効果を、例えば、銅、亜鉛、金、および銀イオンなどの重金属イオンの添加、または重金属イオン錯体としてのチオカルバマートの投与により顕著に強化することができる。【0017】これらの種の化学的活性は、抗酸化作用に由来するのではなく、ジチオカルバマートと悪性細胞増殖に必要な遺伝子産物の発現の促進に必要な転写因子のDNA結合領域などの細胞タンパク質上の重要な部位に存在するシステインのスルフヒドリル部分との混合ジスルフィドの形成の刺激に由来する。【0018】癌治療に有用なジチオカルバマートジスルフィドには、式:R2R3N(S)CS−SC(S)NR2R3(式中、R1、R2、R3、およびR4は、同一であっても異なっていてもよく、水素、非置換もしくは置換アルキル、アルケニル、アリール、アルコキシ、またはヘテロアリール基を示す)のものが含まれるが、これらに限定されない。アルキル基はシクロアルキル基およびヘテロシクロアルキル基を含むことができる。式中のR1、R2、およびN原子は共にN複素環(例えば、ヘテロシクロアルキルまたはヘテロシクロアリールである)を形成することができる。同様に、式中のR3、R4、およびN原子は共にN複素環(例えば、ヘテロシクロアルキルまたはヘテロシクロアリールである)を形成することができる。典型的には、R1およびR2は共に水素ではなく、R3およびR4は共に水素ではない。【0019】本発明の別の態様によれば、治療的に有効な量のジチオカルバマートジスルフィド、好ましくは、ジスルフィラム、または式:【化7】(式中、R2およびR3は同一であっても異なっていてもよく、水素、非置換もしくは置換アルキル、アルケニル、アリール、アルコキシ、またはヘテロアリール基を示し、Mは重金属(例えば、ヒ素、ビスマス、ガリウム、マンガン、セレン、亜鉛、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、または金)であり、nは金属の価数であり、Anは、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、酢酸イオン、および低分子量の有機または無機の薬学的に許容可能なアニオンからなる群から選択されるアニオンである)の対応するジエチルジチオカルバマートチオラート金属錯体を患者に投与するステップを含む、患者の確立された癌の治療方法が得られる。【0020】好ましい実施形態では、重金属イオンを、ジチオカルバマートジスルフィドまたは対応するチオラートアニオンとの錯体またはキレートとして投与する。適切な重金属イオンには、ヒ素、ビスマス、コバルト、銅、クロム、ガリウム、金、鉄、マンガン、ニッケル、銀、チタン、バナジウム、セレン、および亜鉛のイオンが含まれるが、これらには限定されない。【0021】別の好ましい実施形態では、ジチオカルバマートジスルフィドまたは対応するチオラートアニオンおよび重金属イオンを、別の抗癌薬と組み合わせて投与する。【0022】さらに、本発明は、ジチオカルバマートチオラートアニオンまたは重金属ともジチオカルバマート錯体の投与により化学療法薬に対する癌細胞の感受性を高めて、癌細胞から吸収された抗新生物薬を排出するように機能する腫瘍細胞膜P糖蛋白ポンプを阻害する方法を提供する。【0023】本発明の別の態様によれば、本発明は、薬学的に許容可能な担体およびジチオカルバマートと重金属イオンとの間の錯体を含む薬学的組成物を提供する。任意選択的に、組成物は、別の抗癌薬をさらに含むことができる。【0024】本発明の活性化合物を、種々の投与経路によって投与することができる。例えば、活性化合物を、経口、静脈内、皮内、皮下、および局所的に投与することができる。【0025】本発明は、種々の型の癌の治療に有効である。これらの癌としては、黒色腫、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、腎癌、結腸直腸癌、乳癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮癌、リンパ腫および前立腺癌が挙げられるが、これらには限定されない。特に、本発明は、特に、黒色腫、肺癌、乳癌、および前立腺癌の治療に有効である。従って、本発明でのジチオカルバマートジスルフィドおよびチオラートアニオンの使用により、ヒトおよび他の動物の容易に利用可能且つ容易に使用される癌治療が得られる。【0026】[発明の詳細な説明]本発明は、本発明の好ましい実施形態が示されている添付の実施例を参照して以下に完全に説明される。しかし、多数の異なる形態で本発明を実施することができ、本明細書中に記載の実施形態に制限されると解釈すべきではなく、むしろ、本開示が完璧且つ完全であり且つ本発明の範囲が当業者に伝わるようにこれらの実施形態を提供する。【0027】本明細書中で使用される、用語「ジチオカルバマートジスルフィド」は、式: R1R2N(S)CS−SC(S)NR3R4(式中、R1、R2、R3、およびR4は、同一であっても異なっていてもよく、水素、非置換もしくは置換アルキル、アルケニル、アリール、アルコキシ、またはヘテロアリール基を示す)を有する化合物をいう。アルキル基はシクロアルキル基およびヘテロシクロアルキル基を含むことができる。式中のR1、R2、およびN原子は共にN複素環(例えば、ヘテロシクロアルキルまたはヘテロシクロアリールである)を形成することができる。同様に、式中のR3、R4、およびN原子は共にN複素環(例えば、ヘテロシクロアルキルまたはヘテロシクロアリールである)を形成することができる。典型的には、R1およびR2は共に水素ではなく、R3およびR4は共に水素ではない。したがって、ジチオカルバマートジスルフィドは、還元スルフヒドリル基を有するジチオカルバマートのジスルフィド形態である。【0028】多数のジチオカルバマートが既知であり、当分野で合成されている。ジチオカルバマートの非限定的な例としては、ジエチルジチオカルバマート、ピロロロジンジチオカルバマート、N−メチルおよびN−エチルジチオカルバマート、ヘキサメチレンジチオカルバマート、イミダゾリンジチオカルバマート、ジベンジルジチオカルバマート、ジメチレンジチオカルバマート、ジポリルジチオカルバマート、ジブチルジチオカルバマート、ジアミルジチオカルバマート、N−メチルおよびN−シクロプロピルメチルジチオカルバマート、シクロヘキシルアミルジチオカルバマート、ペンタメチレンジチオカルバマート、ジヒドロキシエチルジチオカルバマート、N−メチルグルコサミンジチオカルバマート、ならびにそれらの塩および誘導体が挙げられる。典型的には、スルフヒドリル含有ジチオカルバマートを酸化して、ジチオカルバマートジスルフィドを形成することができる。【0029】スルフヒドリル含有ジチオカルバマートを、プロトン受容体として、アルカリ金属の水酸化物との処理によりその対応するチオラートアニオンに変換して、構造:【化8】(式中、R2およびR3は同一であっても異なっていてもよく、水素、非置換もしくは置換アルキル、アルケニル、アリール、アルコキシ、またはヘテロアリール基を示し、Mは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、およびリチウムからなる群から選択されるアルカリ金属であり、nはアルカリ金属の価数である)を得ることができる。【0030】最後に、ジチオカルバマートの重金属錯体を、ジチオカルバマートのジスルフィドまたはチオラートアニオン形態の金属塩での処理のいずれかによって合成して、金属が両方の硫黄原子と錯体を形成する種々の有用な以下の金属錯体:【化9】(式中、R2およびR3は同一であっても異なっていてもよく、水素、非置換もしくは置換アルキル、アルケニル、アリール、アルコキシ、またはヘテロアリール基を示し、Mは重金属(例えば、ヒ素、ビスマス、ガリウム、マンガン、セレン、亜鉛、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、銀、または金)であり、nは重金属の価数であり、Anは、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、酢酸イオン、および低分子量の無機の薬学的に許容可能なアニオンからなる群から選択されるアニオンである)を得ることができる。【0031】詳細には、好ましいジチオカルバマートの金(gold)1,1−ジチオキレートは、式:【化10】(式中、R2、R3はエチルであり、Anは低分子量のアニオンである)を有する。【0032】ジチオカルバマートジスルフィドの任意の薬学的に許容可能な形態、それらの対応するチオラートアニオン、およびジチオカルバマート金属キレートを使用することができる。例えば、ジスルフィラムとして知られているテトラエチルチウラムジスルフィドを、本発明の実施形態で使用する。ジスルフィラムは、以下の式:R1R2N(S)CS−SC(S)NR3R4(式中、R1、R2、R3、およびR4は全てエチルである)を有する。ジスルフィラムは、アルコール中毒の治療に臨床的に使用されており、ジスルフィラムは肝臓アルデヒドデヒドロキナーゼを阻害する。【0033】ジスルフィラムのチオラートアニオンの誘導体は、ジエチルジチオカルバマートアニオンであり、その塩は、以下の式:【化11】を有する。【0034】最後に、金(AuIII)1,1−ジチオラト錯体として以下に例示したジエチルジチオカルバマートの重金属錯体は、式:【化12】(式中、R2およびR3はエチルであり、Anは低分子量のアニオンである)を示す。【0035】ジチオカルバマートおよびそのジスルフィドの製造方法は、一般に当分野で既知である。例示的な方法は、例えば、Thornら、「ジチオカルバマートおよび関連化合物」、Elsevier、New York、1962;ならびに米国特許第5,166,387号、同第4,144,272号、同第4,066,697号、同第1,782,111号、および1,796,977号(引用することにより本明細書の一部をなすものとする)に開示されている。【0036】本明細書中で使用される、用語「癌の治療」は、特に、癌と診断された患者、すなわち、確立された癌(established cancer)を有する患者に治療薬を投与して癌性組織中の悪性細胞のさらなる成長または拡大を阻害し、及び/または悪性細胞を死滅させることをいう。【0037】本発明は、患者の癌の治療方法を提供する。本発明によれば、ジチオカルバマートジスルフィド、その対応するチオラートアニオン、およびその重金属錯体(それぞれジスルフィラム、ジエチルジチオカルバマートアニオン、およびジクロロ(ジエチルチオカルバミル)金(II)など)が重金属イオンに依存する様式で、腫瘍細胞の成長を阻害することができることが発見された。特に、銅、亜鉛、金、および銀イオンなどの重金属イオンがジチオカルバマートジスルフィドおよびそのチオラートアニオンの腫瘍細胞に対する阻害効果を有意に増強する一方で、このような重金属イオンの枯渇により、ジスルフィラムおよびジエチルジチオカルバマートアニオンによる成長阻害が防げられる。金属によって発揮される機能は、チオラートアニオンが細胞タンパク質のタンパク質システインスルフヒドリル基と混合ジスルフィドを形成することができるように、インビボでのチオラートアニオンの形を化学的に触媒するか安定化することである。【0038】本発明の一つの態様によれば、患者の確立された癌の治療方法が得られる。ジチオカルバマートジスルフィドを、確立された癌を有する患者に投与して癌を治療することができる。好ましくは、投与したチウラムジスルフィドは、テトラエチルチウラムジスルフィド(すなわち、ジスルフィラム)などのテトラアルキルチウラムジスルフィドである。【0039】本発明の別の態様では、癌患者の治療方法は、治療有効量のジチオカルバマートチオラートアニオンを患者に投与するステップを含む。【0040】本発明の別の態様では、癌患者の治療方法は、治療有効量のジチオカルバマートジスルフィドまたはそのチオラートアニオンおよび重金属イオンを患者に投与するステップを含む。【0041】重金属イオンの非限定的な例には、ヒ素、ビスマス、コバルト、銅、クロム、ガリウム、金、鉄、マンガン、ニッケル、銀、チタン、バナジウム、セレン、および亜鉛のイオンが含まれる。好ましくは、金、銀、亜鉛、セレン、および銅の各イオンを使用する。このような重金属イオンの供給源は、当業者に既知である。例えば、このようなイオンを、硫酸塩もしくは塩化物または任意の他の薬学的に許容可能な形態で得ることができる。好ましくは、塩は、キレート化形態であるか、胃腸管からの金属の吸収が増強されるように薬学的に許容可能な有機アニオン(酢酸イオン、グリシン酸イオン、グルコン酸イオン、プロピオン酸イオン、または乳酸イオンなど)と錯体を形成している。【0042】一つまたは複数のジチオカルバマートジスルフィドまたは対応するチオラートアニオンおよび一つまたは複数の重金属イオンを、患者に投与することができる。ジチオカルバマートジスルフィドまたはチオラートアニオンおよび重金属イオンを、組み合わせるか、または別個で投与することができる。好ましくは、これらをキレート化錯体として投与する。当分野で既知であるように、ジチオカルバマートは優れたキレート化剤であり、重金属をキレート化してキレートを形成することができる。ジチオカルバマートと重金属イオンとのキレートの調製は、当業者に既知である。例えば、ジエチルジチオカルバマートと銅イオン、亜鉛イオン、銀イオン、または金イオンとのキレートを、適切な溶媒中でジスルフィラムまたはジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムと、例えば、CuSO4、ZnCl2、C3H5AgO3、またはHAuCl4・3H2Oとの混合によって都合よく合成してキレートを形成させることができる。他のジチオカルバマート−重金属イオンキレートは、例えば、D.Coucouvanis、「ジチオ酸および1,1−ジチオラート錯体の化学」、Prog.Inorganic Chem.,11、234〜371、1970;D.Coucouvanis、「ジチオ酸および1,1−ジチオラート錯体の化学、1968〜1977」、Prog.Inorganic Chem.,26、302〜469、1978;R.P.Burnsら、「遷移金属の1,1−ジチオラト化合物」、Adv.Inorganic Chem.and Radiochem.,23、211〜280、1980;L.I.Victorianoら、「塩化銅(II)とテトラルキチウラムジスルフィドとの反応」、J.Coord.Chem.,35、27〜34、1995;L.I.Victorianoら、「ジチオカルバミン酸銅:合成および反応性」、J.Coord.Chem.,39、231〜239、1996(引用することにより本明細書の一部をなすものとする)に開示されている。【0043】本発明の別の態様によれば、治療的に有効な量のジチオカルバマートアニオン化合物および患者の上記重金属イオンの細胞内レベルを上昇させることができる細胞内重金属イオン刺激物質を患者に投与するステップを含む、癌患者の治療方法が提供される。【0044】細胞内重金属イオン担体は既知である。例えば、セルロプラスミンを患者に投与して細胞内の銅レベルを上昇させることができる。他の重金属イオン担体が当分野で既知であり、これらもまた本発明の態様にしたがって投与することができる。重金属イオン担体およびジチオカルバマートジスルフィドまたはチオラートアニオンを、いっしょに、または別個で、好ましくは別個の組成物として投与することができる。【0045】セルロプラスミンは、ヒトの体内で天然に産生されるタンパク質であり、ヒト血清から精製することができる。3つを超える43〜45kDのドメインと錯体を形成する7個の銅原子を有するこの132kDの糖タンパク質は、急性期反応物質であり、且つヒト血漿中の主要な銅含有タンパク質である。Halliwellら、Methods Enzymol.,186、1〜85、1990を参照のこと。細胞に輸送される場合、少なくとも数個の結合第二銅イオンは、患者に投与されたジチオカルバマートジスルフィドまたはチオラートアニオンとの錯体形成に利用可能である。Percivalら、Am.J.Physiol.,258、3140〜3146、1990を参照のこと。典型的には、セルロプラスミンおよびジチオカルバマートジスルフィドまたはチオラートアニオンを、異なる組成物で投与する。ジチオカルバマートジスルフィドまたはチオラートアニオンを、およそ同時に投与しても幾らか時間をおいてもよい。例えば、セルロプラスミンをジチオカルバマートジスルフィドまたはチオラートアニオンを患者に投与する約5分〜約12時間前後に投与することができる。【0046】別の態様では、重金属イオンキャリヤの代わりに、ジチオカルバマートジスルフィドまたは対応するチオラートアニオンに加えてサイトカインを投与する。適切なサイトカインには、例えば、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、およびインターロイキン6(IL−6)が含まれる。このようなサイトカインは、患者に投与した場合、患者の身体に急性期反応を誘導して患者の血清セルロプラスミンの上昇を刺激することができる。【0047】このようなサイトカインの生化学的および生理学的特性が当分野で広く研究されており、当業者に既知である。サイトカインを、ヒトまたは動物血清から精製することができる。これらを、遺伝子操作技術で得ることもできる。さらに、上記で識別したサイトカインの市販サンプルを本発明で使用することもできる。遺伝子または化学的に改変したサイトカインを投与することもできる。例えば、あるペプチドサイトカインは、このようなサイトカインがポリエチレングリコールなどの水溶性の非免疫原性ポリマーと結合した場合に動物体内での循環時間がより長くなることが知られている。【0048】典型的には、サイトカインを、ジチオカルバマートジスルフィドまたは対応するチオラートアニオンと異なる組成物で投与する。サイトカインおよびジチオカルバマートジスルフィドまたはチオラートアニオンを、ほぼ同時または互いに幾らか時間をおいて投与することができる。例えば、サイトカインを、ジチオカルバマートジスルフィドまたはチオラートアニオンから約5分後〜約24時間前後に投与することができる。【0049】本発明の別の態様によれば、本発明の方法を、従来の癌化学療法と組み合わせて使用することができる。ジチオカルバマートジスルフィドまたはチオラートアニオンを使用する治療、重金属を別個に使用するもしくは使用しない治療、または、ジチオカルバマート重金属キレートとして使用した治療により、従来の癌化学療法に対する腫瘍の感受性が増大し、従来の癌化学療法薬がより有効になる。例えば、本発明の方法を、従来の照射療法または化学療法に補足することができる。したがって、本発明の一つの実施形態では、本発明の方法は、ジチオカルバマートジスルフィド化合物または対応するチオラートアニオンおよび重金属ならびに他の抗癌薬を患者に投与するステップを含む。セルロプラスミンまたはサイトカインおよびジチオカルバマートジスルフィドまたはチオラートアニオンによる治療を、他の抗癌薬治療と共に行って、抗癌薬の有効性を増大させることができる。【0050】当分野で既知の任意の抗癌薬を、使用するジチオカルバマートジスルフィドまたはチオラートアニオン化合物、重金属イオン、セルロプラスミン、および/またはサイトカインと薬学的に適合可能である限り、本発明で使用することができる。「薬学的に適合可能な」は、他の抗癌薬が癌治療に逆効果であるか、患者が任意の実質的な副作用を起こすような方法で上記組成物と直接にまたは間接的に相互作用または反応しないことを意図する。【0051】当分野で既知の抗癌薬の例には、ブスルファン、クロラムブシル、ヒドロキシウレア、イフォスファミド、マイトマイシン、ミトーテン、クロラムブシル、メクロレタミン、カルムスチン、ロムスチン、シスプラチン、カルムスチン、ヘルセプチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、ニトロソウレア、フォテムスチン、ビンデシン、エトポシド、ダウノルビシン、アドリアマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、ストレプトゾシン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、イダルビシン、プリカマイシン、ペントスタチン、マイトトキサントロン、バルルビシン、シタラビン、フルダラビン、フロクスウリジン、クラルドリビン、メトトレキセート、メルカプトプリン、チオグアニン、カペシタビン、イリノテカン、ダカルバジン、アスパラギナーゼ、ゲムシタビン、アルトレタミン、トポテカン、プロカルバジン、ビノレルビン、ペガスパルガーゼ、ビンクリスチン、リツキサン、ビンブラスチン、トレチノイン、テニポシド、フルオロウラシル、メルファラン、ブレオマイシン、サリチル酸塩、アスピリン、ピロキシカム、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロシン、ジクロフェナク、トルメチン、ケトプロフェン、ナムブエトン、オキサプロジン、ドキシルビシン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)などの非選択性シクロオキシゲナーゼインヒビター類、および選択性シクロオキシゲナーゼ2(COX−2)インヒビター類が含まれる。【0052】使用する抗癌薬を、ジチオカルバマートジスルフィドまたはチオラートアニオン化合物、重金属化合物、またはジチオカルバマート−重金属キレート、セルロプラスミンおよび/または上記のサイトカインを含む同一の医薬製剤中で同時に投与することができる。抗癌薬を、ほぼ同時に投与することもできるが、別個に投与することができる。あるいは、抗癌薬を、ジチオカルバマートジスルフィドまたはチオラートアニオン化合物、重金属化合物、またはジチオカルバマート−重金属キレート、セルロプラスミンおよび/または上記のサイトカインの投与と異なる時間に投与することができる。最良の投与様式の決定にはいくらかの経験が必要であり、一旦本開示を適用すれば、これは当業者の能力の範囲内である。【0053】本発明の方法は、ヒトの治療に特に有用である。また、本発明の方法は、動物、詳細には、イヌ、ウシ、ブタ、および他の動物などの哺乳動物の治療に適切である。本方法は、種々の型の癌の治療に有用である。この癌には、黒色腫、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、腎癌、結腸直腸癌、乳癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮癌、リンパ腫、および前立腺癌が含まれるが、これらに限定されない。特に、本発明は、特に、黒色腫、肺癌、乳癌、および前立腺癌の治療に有効である。【0054】本発明の活性化合物を、典型的には、非経口、静脈内、経口、皮内、皮下、または局所投与などの任意の適切な経路によって薬学的に許容可能な担体中で投与する。本発明の活性化合物を治療に有効な量で投与して、治療を受けた患者がいかなる深刻な副作用を引き起こすことなく所望の治療効果が達成される。【0055】ジチオカルバマートジスルフィド化合物であるジスルフィラムおよびそのジエチルジチオカルバマートチオラートアニオンは、当分野で決定された従来の臨床範囲内の量で投与した場合に有効である。米国食品医薬品局承認のジスルフィラム(Antabuse(登録商標))を、Wyeth−Ayerst Laboratories、Philadelphia、PA、19101から経口投与用の250mgおよび500mgの錠剤で購入することができる。典型的には、約125〜約1000mg/日、好ましくはジスルフィラムとして約250〜約500mg/日、ジエチルジチオカルバマートとして100〜500mg/日、または週に1回、5mg/kgの静脈内投与、または10mg/kgの経口投与で有効である。しかし、投薬量は、治療を受ける患者の体重によって変化し得る。有効成分を一度に投与するか、多数のより少量に分割して所定の時間間隔で投与することができる。各ジスルフィラムの適切な投薬単位は、例えば、約50〜約1000mg/日、好ましくは約250〜約500mg/日である。検出可能な治療効果を達成するためのジスルフィラムの望ましいピーク濃度は、一般に、約0.05〜約10μM、好ましくは約0.5〜約5μMである。ジチオカルバマートチオラートアニオンおよびジチオカルバマート−重金属錯体についても類似の濃度範囲が望ましい。【0056】徐放のために皮下に移植したジスルフィラムは、適切な血漿濃度の達成のための800〜1600mgで有効であることも示された。これを、無菌技術を使用して前腹壁の皮下空間にジスルフィラムを手術によって移植して達成することができる。例えば、Wilsonら、J.Clin.Psych.,45、242〜247、1984を参照のこと。さらに、80%のポリ(グリコール酸−L−乳酸)共重合体および20%のジスルフィラムなどの徐放投薬形態を使用することができる。他のジチオカルバマートジスルフィド化合物の治療有効量を、ジスルフィラムの上記投薬範囲およびジスルフィラムおよび他のジチオカルバマートジスルフィド化合物の分子量、または当分野で既知の他の方法に基づいて、評価または計算することもできる。【0057】ジエチルジチオカルバマートチオラートアニオンは、以前は癌化学療法薬自体として推奨されていたことも、癌化学療法薬に対する腫瘍の感受性を増大させる治療としても示唆されていなかった。HIV感染治療のために、ヒトに、1週間に1回、静脈投与の場合には5mg/kg、または経口投与の場合には10mg/kgを使用することで治療していた。この投薬計画に対する最小の副作用には、口内での金属の味、膨満、およびアルコール飲料に対する不耐性が含まれる。胃内でのジエチルジチオカルバマートの塩酸への曝露の際、二硫化炭素が遊離する可能性があるために、腸内のアルカリ性環境中で、有効な薬物のみを遊離するためのジエチルジチオカルバマートチオラートアニオンの腸溶性経口投薬形態が好ましい。ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムの経口腸溶性形態は、Institute Merieux、Lyon、FranceのImuthiol(登録商標)として125mgの錠剤で利用可能である。【0058】重金属イオンを、薬学的に適切な塩の形態の水溶液として別個に投与することができる。理想的には、塩形態は、吸収を増大させるために酢酸塩、乳酸塩、グリシン酸塩、クエン酸塩、プロピオン酸塩、またはグルコン酸塩である。しかし、重金属を、1,1−ジチオラート錯体としてイオンがジチオカルバマートと錯形成したキレート形態で投与することが好ましい。したがって、有利に使用される重金属イオンの量は、キレート中の重金属イオンとジチオカルバマートとの比に基づいて、投与されるジチオカルバマートジスルフィド化合物の量に比例する。このようなキレートまたは複合体の調製方法は既知であり、好ましい方法は上記および以下の実施例で開示されている。【0059】治療有効量のIL−6は、約1〜約100μg/kg/日、好ましくは約5〜約50μg/kg/日であり得る。インターフェロンαを、約0.1×106〜約10×106国際単位/日、好ましくは約3〜約8×106国際単位/日で投与することができ、投与頻度は、1週間に3回から1日1回までであり得る。インターフェロンβの適切な投薬量は、約1〜約200μg/日、好ましくは約10〜約100μg/日の範囲であり、これを1週間に1回から1日に1回まで投与することができる。インターフェロンγを、約1〜約1000μg/日、好ましくは約50〜約250μg/日の投薬量で投与することができる。セルロプラスミンを、約1〜約100mg/日、好ましくは約50〜約30mg/日の量で投与することができる。【0060】上記投薬量範囲は例示のためのみであり、本発明の範囲を制限することを意図するものではないと理解すべきである。各活性化合物の治療に有効な量は、因子によって変化し得る。この因子には、当業者に明らかな使用化合物の活性、患者の体内での活性化合物の安定性、緩和すべき病態の重症度、治療を受ける患者の総重量、投与経路、身体による活性化合物の吸収、分散、および排出の容易さ、治療を受ける患者の年齢および重症度などが含まれるが、これらに限定されない。種々の因子が長期間変化するにつれて、投与量を調整することもできる。【0061】有利には、活性化合物を、非経口(すなわち、静脈内または筋肉内)で患者に送達させる。非経口投与のために、活性化合物を、溶液もしくは懸濁液、または使用前に溶液または懸濁液に変換するための凍結乾燥形態に処方することができる。薬学的に許容可能な担体または希釈剤として、滅菌水、生理食塩水(例えば、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS))を都合よく使用することができる。従来の溶媒、界面活性剤、安定剤、pH平衡緩衝液、抗菌薬、および抗酸化剤(酢酸、クエン酸、もしくはリン酸緩衝液、塩化ナトリウム、デキストラン、不揮発性油、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、メチルパラベン、アスコルビン酸、二硫化ナトリウムなどが含まれるが、これらに限定されない)を全て非経口処方物に使用することができる。非経口投与のために、活性化合物、特に、吸収性を高め、且つ潜在的な毒性を減少させるためにリポソーム中に含まれたジチオカルバマートと金属とのキレートを処方することができる。非経口処方物を、任意の従来の容器(バイアル、アンプル、およびシリンジなど)で保存することができる。【0062】活性化合物を、密封したゼラチンカプセルまたは圧縮された錠剤において経口送達させることもできる。カプセルおよび錠剤を、任意の従来の技術で調製することができる。例えば、活性化合物を、賦形剤(例えば、デンプン、ラクトース)、結合剤(例えば、ゼラチン、セルロース、ガム)、崩壊剤(例えば、アルギン酸塩、Primogel、およびコーンスターチ)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、二酸化珪素)、および甘味料または香料(例えば、グルコース、スクロース、サッカリン、サリチル酸メチル、およびペパーミント)などの薬学的に許容可能な担体を含む処方物に組み込むことができる。カプセルおよび錠剤の香り、味、色、および形状を改変するために、カプセルおよび錠剤に種々のコーティングを調製することもできる。さらに、カプセルに脂肪油などの液体担体を含めることもできる。ジチオカルバマートチオラートアニオンおよびジチオカルバマート−金属錯体の投与には、胃の酸性環境におけるジチオカルバマート由来の二硫化炭素の放出を防止し、且つジチオカルバマート−金属キレートの完全性を保存するために胃酸に対して非透過性であるが小腸のアルカリ性環境で溶解する腸溶性カプセルとして化合物を投与することが望ましい。【0063】本発明で使用された活性化合物を含むチューイングガム、懸濁液、シロップ、ウェハース、エリキシルなどの他の経口処方物形態を調製することもできる。香味、味、色、および特殊な形態の形状の種々の改変剤も含むことができる。さらに、嚥下が不可能な患者における経腸栄養チューブによる都合のよい投与のために、活性化合物を、オリーブ油、トウモロコシ油、およびベニバナ油などの許容可能な親油性の植物油に溶解することができる。【0064】活性化合物を、直腸、膣、鼻、または粘膜への適用を介して局所投与することもできる。局所用処方物は、一般に当分野で既知であり、クリーム、ゲル、軟膏、ローション、粉末、ペースト、懸濁液、スプレー、およびエアロゾルが含まれる。典型的には、局所用処方物には、一つまたは複数の増粘剤、湿潤剤、および/または軟化剤(キサンタンガム、ワセリン、蜜蝋、またはポリエチレングリコール、ソルビトール、鉱物油、ラノリン、スクラレンなどが含まれるが、これらに限定されない)が含まれる。局所投与の特殊な形態を、経皮パッチによって送達させる。経皮パッチの調製方法は、例えば、Brownら、Annual Review of Medicine、39、221〜229、1988(引用することにより本明細書の一部をなすものとする)で開示されている。【0065】活性化合物を、徐放のための皮下移植によって送達させることもできる。これを、無菌技術を使用して前腹壁の皮下空間に任意の適切な処方物を手術によって移植して達成することができる。例えば、Wilsonら、J.Clin.Psych.,45、242〜247、1984を参照のこと。ヒドロゲルなどの特殊なキャリアへの有効成分の組み込みによって徐放を達成することができる。典型的には、ヒドロゲルは、水中で膨潤してゲル様物質を形成することができる高分子量生体適合性ポリマーの網状組織である。ヒドロゲルは、一般に、当分野で既知である。例えば、ポリエチレングリコールまたはコラーゲン、ポリ(グリコール酸−L−乳酸)共重合体で作製したヒドロゲルは、本発明に適切である。例えば、Phillipsら、J.Pharmceut.Sci.,73、1718〜1720、1984を参照のこと。【0066】活性化合物を、水溶性の非免疫原性高分子量ポリマーと結合(すなわち、共有結合)させて、ポリマー結合物を形成することもできる。有利には、このようなポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)は、活性化合物に、溶解性および安定性を付与し、免疫原性を減少させることができる。結果として、結合物中の活性化合物は、患者に投与した場合、体内でより長い半減期を有し、より良好な効率を示す。現在、タンパク質置換療法および他の治療用途にPEG化タンパク質が使用されている。例えば、PEG化アデノシンデアミナーゼ(ADAGEN(登録商標))を使用して、重症複合免疫不全(SCIDS)を治療する。PEG化L−アスパラギナーゼ(ONCAPSPAR(登録商標))を使用して、急性リンパ性白血病(ALL)を治療する。【0067】あるいは、マイクロカプセルおよびナノカプセルを含む徐放または保護の他の形態が当分野で既知であり、上記のヒドロゲルは、活性化合物の経口、非経口、局所、および皮下投与の全てに使用することができる。【0068】上記考察のように、別の好ましい送達形態は、担体としてリポソームを使用する。リポソームは、コレステロール、リン脂質、脂肪酸、およびこれらの誘導体などの種々の脂質から形成されたミセルである。活性化合物を、このようなミセル内に封入することができる。そのなかに有効成分を含むリポソーム懸濁液の調製方法は、一般に、当分野で既知であり、例えば、米国特許第4,522,811号(引用することにより本明細書の一部をなすものとする)で開示されている。リポソームの形態で送達されるいくつかの抗癌薬が当分野で既知であり、Lipsome,Inc.,Princeton、NJから市販されている。リポソーム送達により活性化合物の毒性を減少させてその安定性を向上させることができることが示されている。【0069】活性化合物を、治療を受ける患者の別の疾患または症状を治療または予防するための他の活性因子と組み合わせて投与することもできる。しかし、このような他の活性因子は、治療する癌に対する本発明の活性化合物を妨害することも悪い影響を与えることもあるべきではないと理解すべきである。このような他の活性因子には、抗ウイルス薬、抗生物質、抗真菌薬、抗炎症薬、抗凝固薬、心筋薬、コレステロール低下薬、高血圧薬などが含まれるが、これらに限定されない。【0070】任意の形態の癌の治療のためにジチオカルバマートジスルフィドまたはチオラートアニオン療法がなされた個体は、血流中のアセトアルデヒドの蓄積による悪心および嘔吐の進行を回避するために、任意の形態のアルコールへの曝露に警戒しなければならないと理解すべきである。したがって、被験体は、飲料を含むアルコールの摂取を絶つだけでなく、アルコールを含む咳用シロップなどの処方箋なしの処方物の摂取も消毒用アルコールの局所的使用もすべきではない。【0071】[実験手順]<材料>ヒト悪性細胞株を、American Type Tissue Culture Collection(Rockville、MD)から入手した。RPMI培地1640、LeibovitzのL−15培地、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、抗菌抗真菌薬(10,000Uのペニシリン、10,000μgのストレプトマイシン、および25μgのアンホテリシンB/ml)、ウシ胎児血清(FBS)、およびトリプシン−エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)溶液を、Life Technologies社(Grand Island、NY)のGIBCO−BRL部門から購入した。ヒトBcl−2、p53、p21WAF1/Cip1、サイクリンAおよびB1、CREB1、ATF1、ATF2、c−Jun、およびJunBに対するウサギポリクローナル抗体は、Santa Cruz、Biotechnology社(Santa Cruz、CA)から得たものであった。c−FosおよびA431細胞溶解標準に対するウサギポリクローナル抗体は、Calbiochem社(San Diego、CA)から得たものであった。ペルオキシダーゼ標識ロバポリクローナル抗ウサギIgGは、Amersham Life Science社(Buckinghamshire、England)から得たものであり、ペルオキシダーゼ標識抗ヤギIgGは、Santa Cruz Biotechnology社から得たものであった。DNAプローブを含む電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)を、ProMega社(Madison、WI)から購入した。プロテアーゼインヒビターは、Boehringer Mannheim社(Indianapolis、IN)から得たものであった。2’,7’−ジクロロフルオレセインの二酢酸塩(DCF−DA)を、Molecular Probes社(Eugene、OR)から購入した。特記しない限り、ピロリジンジチオカルバマート(PDTC)、ジエチルジチオカルバマート、テトラエチルチウラムジスルフィド(ジスルフィラム)、バトクプロインジスルホン酸(BCPS)、金属塩、非酵素細胞溶解溶液(Cell Dissociation Solution(登録商標))、Nω−ニトロ−L−アルギニン、インドメタシン、ウシ血清アルブミン(BSA)、および他の全ての材料を、Sigma Chemical Co.(St.Louis、MO)から購入した。【0072】<悪性細胞株の培>ヒト悪性細胞株を、American Type Tissue Culture Collection(Rockville、MD)から入手した。黒色腫細胞株CRL1585および1619を、10%FBSを含むRPMI 1640(GIBCO−BRL、Life Technologies、Grand Island、NY)中で培養し、非酵素細胞溶解溶液(Cell Dissociation Solution(登録商標):(Sigma社製)に通過させた。前立腺癌細胞株CRL1435(PC−3)もまた、10%FBSを含むRPMI 1640中で培養したが、0.05%のトリプシンおよび0.53mMのEDTAに通過させた。扁平上皮肺癌NCI−H520および腺扁平上皮肺癌NCI−H596細胞株を、10%のFBS、10mMのHEPES、および1.0mMのピルビン酸ナトリウムを含むRPMI 1640中で培養し、トリプシン/EDTAに通過させた。小細胞肺癌NCI−H82を、懸濁液として10%のFBSを含むRPMI 1640中で培養した。上記全てを、5%のCO2/大気を含む37℃の湿った環境で成長させた。乳癌細胞株MDA−MB−453を、自由に大気とガス交換される37℃の湿った環境にて2mMのL−グルタミンおよび10%のFBSを含むLeibovitzのL−15培地中で、成長させ、トリプシン/EDTAに通過させた。【0073】<細胞培養処理>ジチオカルバマートのジスルフィドが抗酸化剤として作用する遊離チオールを含まないので、ほとんどの実験をテトラエチルチウラムジスルフィドであるジスルフィラムを使用して行った。細胞増殖に重要な選択遺伝子の活性化に対するジスルフィラムの効果を研究するために、悪性黒色腫細胞を、100×15mmのプラスチック製のぺトリ皿にコンフルエンス(confluence)まで成長させ、5μMのジスルフィラムまたは5μMのジスルフィラム+1.6μMのCuSO4で処理した。この薬剤での慢性治療におけるヒト被験体の定常血漿および組織濃度に近づけるためにこの用量を選択した。ジスルフィラムをジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解して、DMSOの最終濃度を0.3〜0.5%未満とする。同体積のDMSOをコントロール実験物に添加した。以下に概説のように、核タンパク質を採取し、環状AMP応答エレメントのDNAコンセンサス結合配列を使用して、電気泳動移動度ゲルシフトアッセイを行った。ジスルフィラムおよび金属が転写因子の結合に直接影響を与えているかどうかを同定するために、いくつかの実験では、5μMのジスルフィラムおよび/または1.6μMのCuSO4(最終濃度)を、薬物または金属の非存在下で、10%のFBSで刺激したコントロール細胞から得た核タンパク質の結合反応物に添加した。結合緩衝液の還元剤として2.5mMジチオスレイトール(DTT)または3.0mMのGSHのいずれかを使用して、結合反応物へのジスルフィラムおよびCuSO4のインビトロ添加を行った。【0074】悪性細胞株に対するジスルフィラム(0.15〜5.0μM)、ジエチルジチオカルバマート(DDC、1.0μM)、またはPDTC(0.625〜5.0μM)の効果を、10%のFBSで刺激した培養物で研究した。24〜72時間後に細胞を計数した。いくつかの実験では、ジスルフィラムまたはPDTCを細胞のプレーティング直後に添加した。他の実験では、細胞をプレーティングし、24〜72時間成長させた後、ジスルフィラムまたはPDTCを含む新鮮な培地を添加し、24〜72時間後に細胞数をアッセイした。培地に添加したジスルフィラムとN,N’−ビス(2−クロロエチル−N−ニトロソウレア)(カルムスチンまたはBCNU、1.0〜1000μM)またはシスプラチン(0.1〜100μg/ml)との間の相乗効果を研究した。ジスルフィラムに対する金属の効果を、培養培地に添加した0.2〜10μMの銅イオン(CuSO4として提供)、亜鉛イオン(ZnCl2として)、銀イオン(乳酸銀として)、または金イオン(HAuCl4・3H2Oとして)を用いて研究した。培養培地への金属塩の添加によってpHは変化しなかった。生物学的に関連する銅の供給源を得るために、いくつかの実験では、培地に低濃度および高濃度の正常な成人血清濃度(250および500μg/ml)のヒトセルロプラスミンを補足した。【0075】ジスルフィラムの潜在的な酸化還元効果を、3組の実験で研究した。チオカルバマートの毒性の媒介または調整における細胞グルタチオン(GSH)の重要性を、ジスルフィラム処理後の細胞内GSHレベルの測定によって研究した。以下に概説のように、1.6μMのCuSO4を含むか、または含まないジスルフィラム(5μM)を100×15mmのプラスチック製皿上でコンフルエンスまで成長させた細胞に添加し、GSHの測定のために、24時間後に細胞を採取した。また、ジスルフィラムまたはPDTCの非特異性抗酸化効果が細胞成長阻害を説明できるかどうかを評価するために、悪性細胞株の増殖に対する強力な親油性抗酸化プロブコール(1.0〜1000μM)の効果を研究した。最後に、ジスルフィラム(0.625〜5μM)、銅(0.2〜1.6μMCuSO4)、または1.25μMのジスルフィラム+種々の濃度の銅に対する細胞内酸化剤の生成を、直接測定した。【0076】腫瘍細胞成長に対するシクロオキシゲナーゼ阻害の役割を調査するために、シクロオキシゲナーゼ1(COX1)およびシクロオキシゲナーゼ2(COX2)インヒビターであるインドメタシン(5μg/ml)またはサリチル酸ナトリウム(1mM)の存在下または非存在下でジスルフィラムを用いるか、または用いないで細胞を培養した。ジスルフィラムがNO生成の妨害または刺激によって成長の遅延を誘導しているかどうかを探索するために、成長培地に添加した一酸化窒素シンターゼインヒビターNω−ニトロ−L−アルギニン(100μM)の存在下または非存在下でジスルフィラムを使用するかまたは使用しないで増殖を調べた。【0077】最後に、細胞に対する多数のジチオカルバマートの効果は、銅イオンの細胞内レベルの増加にあった。ジスルフィラム由来の細胞傷害性の媒介における銅の役割をさらに探索するために、細胞外成分中のCu2+を隔離するために培地に添加した非透過性Cu2+キレート剤であるバソクプリオインジスルホン酸(BCPS、100μM)を添加するか添加しないで細胞を培養した。細胞を、種々の濃度のジスルフィラム(0.625〜5.0μM)で12時間処理し、以下に概説のように細胞内銅レベルを測定した。【0078】<電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)>核タンパク質を単離し、以前に詳細に記載のようにDNA結合反応を行った(例えば、R.Dashtakiら、「ジヒドロエピアンドロステロンおよびアナログはAP−1のDNA結合および気道平滑筋の増殖を阻害する」、J.Pharmacol.Exper.Ther.,285、876〜219、1998;T.Kennedyら、「特定の大気汚染による銅依存性炎症および核因子κB活性化」、Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.,19、366〜378、1998を参照のこと)。単層を冷DPBSで2回洗浄し、氷上でプロテアーゼインヒビターPI(1mM Pefabloc、50μg/mlアンチパイン、1μg/mlロイペプチン、1μg/mlペプスタチン、40μg/mlベスタチン、3μg/ml E−64、および100μg/mlキモスタチン)を含む0.7mlの冷原形質抽出緩衝液CEB(10mM Tris(pH7.9)、60mMKCl、1mM EDTA、1mM DTT)で10分間平衡化した。界面活性剤Nonidet P−40(NP−40)を最終濃度0.1%まで添加し、細胞スクレイパーで取り出した。核を遠心分離によってペレット化し、CEB/PIで洗浄した。次いで、核を氷上のPIを含む核抽出緩衝液NEB(20mM Tris(pH8.0)、400mMのNaCl、1.5mMのMgCl2、1.5mMのEDTA、1mMのDTT、および25%のグリセロール)中で20分間インキュベートし、短時間スピンして破片を除去し、電気泳動移動度シフトアッセイを行うまで、−80℃で保存した。【0079】[γ32P]−ATPおよびT4ポリヌクレオチドキナーゼでのリン酸化によって末端標識された環状AMP応答エレメントCRE(ProMega、Madison、WI)についてコンセンサスオリゴヌクレオチド(5’−AGAGATTGCCTGACGTCAGAGAGCTAG−3’および3’−TCTCTAACGGACTGCAGTCTCTCGATC−5’)を使用してEMSAを行った。2μgの核タンパク質(Pierce法によって同定)および30〜80,000cpmの32P末端標識二本鎖DNAプローブの10mMのTris−HCl(pH7.5)溶液、50mMのNaCl、0.5mMのEDTA、0.5mMのDTT(表示した場合以外)、1mMのMgCl2、50μg/mlポリdI−dC、および4%のグリセロールを使用して、DNAとタンパク質との結合反応を行った。標識プローブ以外の全ての結合反応成分を合わせ、標識プローブの添加前に室温で10分間インキュベートし、その後さらに20分間インキュベートした。【0080】標識プローブ前に添加したCREまたはNF−κBの10×非標識野生型オリゴヌクレオチド配列(p50、5’−AGTTGAGGGGACTTTCCCAGGC−3’および3’−TCAACTCCCCTGAAAGGGTCCG−5’)を使用して競合実験を行った。1μgのスーパーシフト抗体(supershifting antibody)との結合反応物のインキュベーション後に電気泳動することによってスーパーシフト実験を行った。Tris−グリシン−EDTA(TGE、120mMのグリシンおよび1mMのEDTAの25mMのTris(pH8.5)溶液)緩衝液中での5%の未変性ポリアクリルアミドゲルでサンプルを電気泳動した。ゲルを乾燥させ、画像増強スクリーンを使用した−80℃でのオートラジオグラフィーによって分析した。Kodak Digital Science1次元画像分析ソフトウェア(Eastman Kodak社製、Rochester、NY)を使用して、バンドのデンシメトリーを行った。【0081】<細胞培養物増殖の測定>培養細胞の増殖を、以前に報告されたミトコンドリアのスクシニルデヒドロゲナーゼの作用による可溶性黄色テトラゾリウム色素3−[4,5−ジメチルチアゾール]−2−イル−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)のその不溶性紫色ホルマザンへの代謝還元に基づく比色法を使用して定量した(例えば、S.J.Hirstら、「血清および血小板由来成長因子に応答する培養ヒトおよびウサギ気道平滑筋の増殖の定量」、Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.,7、574〜581、1992;前出のR.Dashtakiら、R.;S.S.Brarら、「血清誘導性および血小板由来の成長因子誘導性気道平滑筋成長における反応性酸素種の必要性」、J.Biol.Chem.,274、20017〜20026、1999を参照のこと)。このアッセイは、細胞の死滅および生存とを経験的に区別する。増殖研究のために、細胞を、24ウェルの非コートプラスチックプレート(Costar)に50,000細胞/ウェルで播種し、各培地およびマイトジェンと培養した。24〜96時間後、培地を除去し、細胞をCa2+およびMg2+(DPBS)を含まない1mlの滅菌ダルベッコ改変リン酸緩衝化生理食塩水で2回洗浄し、培地を、100μg/mlのMTTを含む1ml/ウェルの新鮮な培地と交換し、プレートをさらに1時間インキュベートした。MTT含有培地を除去し、各ウェルに0.5mlのジメチルスルホキシド(DMSO)を添加し、溶解した紫色のホルマザン色素の吸光度を540nmで測定した。各処理条件で合計4〜6ウェルを研究した。15分〜3時間インキュベートした50〜200μg/mlのMTTを使用して予備研究を行って、変換速度が直線であり、且つ細胞の存在数と比例する至適濃度およびインキュベーション時間を決定した。MTTホルマザン還元生成物の吸光度(A540)は、R2=0.99の血球計によって計数した細胞数と相関していた。いくつかの実験では、MTTアッセイならびにFBSおよびインヒビターに対する応答もまた、0.01cm2の接眼レンズグリッドを使用した40倍で観察したギムザ改変ライト染色単層のウェルあたり10箇所の視野の細胞の計数によって確認した。【0082】<細胞傷害性およびアポトーシスの測定>細胞傷害性を評価するために、細胞を、24ウェルプレートに50,000/ウェルでプレーティングし、24時間成長させた。次いで、ジスルフィラムを添加した。さらに36時間後、培地を除去し、0.1%のトリパンブルーを含むDPBSと交換した。細胞死を、4つの異なるウェルについて、5つの10倍の無作為な視野における平均トリパンブルー陽性細胞の計数によって評価した。【0083】ジスルフィラム誘導性アポトーシスを同定する為に、35mmぺトリ皿またはガラススライドでコンフルエンスまで成長した細胞を、ジスルフィラムまたは賦形剤としてDMSOで処理した。フルオレセイン−FraEL(登録商標)DNA断片化検出キット(Oncogene Research Products社製、Cambridge、MA)を使用したDNAフラグメントの末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)依存性3’−OHフルオレセイン末端標識によってアポトーシスを研究した。アポトーシスを、臭化エチジウム染色アガロースゲルに対するエンドヌクレアーゼ依存性DNA断片化の視覚的評価によっても研究した。【0084】<DNA細胞周期の測定>DNA細胞周期に対するジスルフィラムの効果を研究するために、細胞を25cm2のプラスチックフラスコ中でコンフルエンスまで成長させ、10%のFBS+DMSO賦形剤、FBSおよびDMSO賦形剤+銅供給源としての250μg/mlのセルロプラスミン、FBS+5μMのジスルフィラムまたはFBS+5μMのジスルフィラムおよび250μg/mlのセルロプラスミンで処理した。細胞のトリプシン処理から24時間後、1mMのEDTAおよび1%のBSAを含む冷DPBSで2回洗浄し、氷冷70%エタノールで30分間固定し、ヨウ化プロピジウムのDPBSおよび1mg/mlのRNアーゼAの10μg/mlの溶液中での37℃で30分間のインキュベーションによって染色した。FACStarPLUSFlow Cytometer(Becton−Dickenson社製、San Jose、CA)を使用して、DNA細胞周期測定を行った。【0085】<タンパク質の免疫アッセイ>細胞を溶解し、タンパク質を単離し、先に詳述のように、ヒトbcl−2、p53、p21WAF1/Cip1、サイクリンAおよびサイクリンB1に対する2μg/mlのウサギポリクローナル一次抗体ならびにペルオキシダーゼ標識ロバポリクローナル抗ウサギIgGを使用した免疫アッセイによって定量した。細胞を、氷上に置き、冷DPBSで2回洗浄し、0.5mlのボイル緩衝液(10%[vol/vol]グリセロールおよび2%[wt/vol]のドデシル硫酸ナトリウム[SDS]の83mMのTris(pH6.8)溶液)に掻き取り、4回のピペッティングによって取り出した。BCAタンパク質アッセイ(Pierce)を使用したタンパク質の同定のために、アリコートを取り出した。10%のβ−メルカプトエタノールおよび0.05%のブロモフェノールブルーを添加後、溶解物を5分間ボイルし、免疫ブロッティングを行うまで−80℃で保存した。解凍したサンプル中のタンパク質を、12%のポリアクリルアミドゲルで(15μgタンパク質/レーン)のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、移行緩衝液(0.025MのTris、0.192Mのグリシン、2.6mMのSDS、および20%[vol/vol]のメタノール(pH8.0))中での100ボルトで1時間の湿式トランスブロット法を使用して0.45μmのHybond ECLニトロセルロース膜(Amersham Life Science社製)に電気的に移行させた。ブロットを、5%の脱脂粉乳(Carnation社製、Glendale、CA)を含むブロッキング緩衝液(0.1%Tween20を含むPBS)を使用して4℃で一晩ブロックした。それぞれ0.1%Tween20を含むPBS中で5分間5回リンスした後、ブロットを、2.0μg/mlの一次抗体と共に室温で1時間インキュベートした。上位のように再度リンス後、ブロットをブロッキング緩衝液で5000倍に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合二時抗体と共に室温で1時間インキュベートした。免疫ブロットを上記のように再度リンスし、増強化学発光法(ECLウェスタンブロッティング検出システム、Amersham Life Science社製、Buckinghamshire、England)によって検出した。オートラジオグラフィーフィルム(X−OMATAR、Eastman Kodak社製、Rochester、NY)を10、30、または60秒間免疫ブロットに曝露して、満足な画像を得た。【0086】<細胞内の銅の測定>上記概説のように、細胞を、50,000細胞/ウェルの初期プレーティング密度の12ウェルプラスチック組織培養プレート中で培養し、コンフルエンスまで成長させ、ジスルフィラムまたは賦形剤DMSOで処理した。培地を除去し、細胞をDPBSで2回洗浄した。次いで、細胞を1.0mlの3NのHCl/10.0%のトリクロロ酢酸に掻き取り、70℃で16時間加水分解した。加水分解物を、600gmで10分間遠心分離して破片を除去し、325.754および224.700nmの波長での高周波誘導結合プラズマ発光分光学(モデルP30、Perkin Elmer社製、Norwalk、CT)を使用して上清中の銅を測定した。金属夾雑物を最小にするために、この実験ではガラス製品よりもプラスチック製品を使用し、全ての水性溶媒に2回蒸留脱イオン水を使用した。1mlの加水分解物あたりの銅のngとして結果を報告する。【0087】<反応性酸素種の細胞内生成の測定>CuSO4を含む、または含まないジスルフィラムに応答する反応性酸素種の生成を、2’,7’−ジクロロフルオレセインジアセテート(DCF−DA、Molecular Probes、Eugene、OR)および以前に報告された方法(J.A.Royallら、「培養内皮細胞中の細胞内H2O2の蛍光プローブとしての2’,7’−ジクロロフルオレセインおよびジヒドロローダミン123の評価」、Archiv.Biochem.Biophys.302、348−355、1993、を参照のこと)の修正形態を使用して研究した。この方法は、細胞ペルオキシダーゼの存在下でのH2O2によるジクロロフルオレセインの2’,7’−ジクロロフルオレセインへの酸化に基づく。細胞を、24ウェルのプラスチックプレートに50,000細胞/ウェルでプレートし、コンフルエンスまで成長させた。培地をウェルから吸引し、10μMのDCF−DAを含む100μlの培地と交換し、プレートを37℃で30分間インキュベートしたS。DCF−DA含有培地を吸引し、細胞を培地のみで2回洗浄し、100μlの新鮮な培地をウェルに添加した。蛍光マイクロプレートリーダー(HTS7000)上のプレートを使用して、細胞を5倍濃度のジスルフィラムおよび/またはCuSO4を含む25μlの培地で刺激して、それぞれ最終濃度0〜5.0μMのジスルフィラムおよび/または0〜1.6μMのCuSO4を得た。ジクロロフルオロセインの相対濃度を、485nmの励起波長および535nmの発光波長を使用した37℃での蛍光のモニタリングによって直ちに測定した。【0088】<細胞内のグルタチオンの測定>1.6μMのCuSO4を含む、または含まないジスルフィラム(5μM)を、100×15mmのプラスチック皿でコンフルエンスまで成長させた細胞に添加し、5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)−グルタチオンリダクターゼリサイクリングアッセイを使用したGSHの測定のために24時間後に細胞を採取した(M.E.Anderson、「生体サンプル中のグルタチオンおよびグルタチオンジスルフィドの同定」、Methods Enzymol.,113、548〜555、1985を参照のこと)。【0089】<ジスルフィラムと金属キレートとの合成>ジスルフィラムと多数の金属とのキレートを、150mgのジスルフィラムのクロロホルム溶液(7.5mg/ml)と30mlの5倍モル過剰のCuSO4、ZnCl2、C3H5AgO3(乳酸銀)、またはHAuCl4・3H2Oの2回ガラス蒸留脱イオン水との激しい混合によって合成した。混合物を、1,000gmで10分間遠心分離し、上層の水相をデキャントした。下層のクロロホルム相を蒸発させ、ジスルフィラムと金属とのキレート沈殿物を得た。【0090】別の合成では、150mgのジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを、10mlの脱イオン水に溶解した。これに、250mgのHAuCl4・3H2Oを添加する。得られた沈殿を遠心分離によって回収し、クロロホルム中に再溶解した。クロロホルム相を蒸発させ、得られたジチオカルバマートと金とのキレートを結晶として沈殿させた。【0091】これらを分析して、その分子量、融点、溶解度、元素組成、および結晶構造を同定した。【0092】<統計分析>データを、平均値±標準誤差として示す。全ての測定の複製の最小数は、示さない限り4である。複数の群の相違を、一元配置分散分析を使用して比較した。使用した事後的検定は、ニューマンクールス多重比較検定であった。有意性の両側検定を使用した。有意性を、p<0.05と想定した。【0093】[実施例1]本実施例は、ジチオカルバマートジスルフィドが環状AMP応答エレメントへのDNA結合を阻害することを示す。【0094】M1619黒色腫細胞を、100×15mmのプラスチックぺトリ皿上で60%コンフルエンスまで成長させ、核タンパク質を採取し、電気泳動移動度ゲルシフトアッセイ(EMSA)を使用して行った。結果を、図1A〜1Cに示す。5μMジスルフィラムと1.6μMの硫酸銅との組み合わせでの6、12、または24時間の細胞の処理により、CREへの転写因子結合を実質的に妨害する。2、6、12、または24時間の処理のためのEMSA:FBSのみ、レーン1、5、9、および13;FBS+DMSO賦形剤、レーン2、6、10、14;FBS+ジスルフィラム、レーン3、7、11、15;FBS+ジスルフィラム+CuSO4、レーン4、8、12、16。【0095】CRE錯体(IおよびII)を標識する。増殖M1619悪性黒色腫細胞由来の核タンパク質は、環状AMP応答エレメント(CRE)コンセンサス配列を用いた電気泳動移動度シフトアッセイにおいて、DNA結合活性の二つの強い構成性バンド(IおよびII)を示した(図1A、レーン1)。両バンドは、結合反応物へ10倍の非標識CREコンセンサスオリゴヌクレオチドを添加することにより消滅した(レーン8)。スーパーシフト実験により、一番上のバンドIIがCRE結合タンパク質活性化転写因子2(ATF−2、レーン5)を含む一方で、下の錯体Iは少量の成分としてATF−1(レーン4)を含むCREB−1(レーン2)を含むことが証明された。レーン6〜レーン8に示す競合実験により、DNA結合反応の特異性が証明される。レーン6はFBS(ウシ胎児血清)のみ、レーン7は結合反応物に添加した10倍非標識CREプローブを含むFBS、レーン8は結合反応物に添加した10倍非標識NF−κBプローブを含むFBSである。【0096】図1Bに示すように、ジスルフィラムのみでCREへのDNA結合をわずかに減少させるが、遷移金属である銅を使用した細胞処理と組み合わせた場合、ジスルフィラムは6時間の処理後のCREへの転写因子の結合を消滅させた。【0097】錯体を含む上流のATF−2は、より高い阻害に対する感受性を示した。これを図1Cで証明し、これは上流の錯体II実験物を含むATF−2に対して行ったデンシメトリーの結果をバンドの平均合計強度として示している。ほぼコンフルエントな細胞をDMSO賦形剤、ジスルフィラム、銅、またはジスルフィラム+銅の組み合わせで8時間処理した複製実験物(n=4)におけるEMSA。ジスルフィラム+銅の組み合わせにより、上流の錯体IIのDNA結合が半分に減少し、これにより、ATF−2がチウラムジスルフィドといくつかの金属との間の相互作用によって阻害に対して非常に感受性が高くなるが示唆される。上記で使用した濃度で、ジスルフィラム+銅はまた、12時間の処理後にNF−κBのDNA結合を阻害し、24時間後にAP−1のDNA結合を阻害したが(データ示さず)、CREへの結合に対しては劇的な阻害効果を示さなかった。【0098】CREへの転写因子の結合阻害が、ジスルフィラムおよび銅による直接的転写因子の改変に起因するものであるかどうかを同定するために、非処理M1619細胞由来の核タンパク質を使用して行った結合反応物への各薬剤の直接添加効果を研究した。結果を図2に示す。この中の電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)を行い、結合反応物へのジスルフィラム+銅の添加によりCREへのDNA結合が減少することが示された。レーン1、ウシ胎児血清刺激M1619細胞由来の核タンパク質(FBS);レーン2、FBS+DMSO賦形剤;レーン3、FBS+ジスルフィラム(5μM);レーン4、FBS+1.6μM CuSO4;レーン5、FBS+ジスルフィラム+CuSO4;レーン6、FBSのみ;レーン7、FBS+ジスルフィラム;レーン8、FBS+CuSO4;レーン9、FBS+ジスルフィラム+CuSO4;レーン10、FBS+ジスルフィラム+CuSO4。レーン1〜5では、還元剤としてDTT(2.5mM)を結合反応物に添加し、レーン6〜9では、GSH(3.0mM)を使用した。ジスルフィラムのみ(レーン3)またはジスルフィラムおよび銅(レーン5)により、CREへの転写因子結合が減少するが、これらの薬剤の効果は、結合反応を還元剤としてDTT(レーン3およびレーン5)の代わりにGSHと共に行った場合に(レーン7およびレーン9)さらに示された。GSHの存在下でのジスルフィラムおよび銅によるCREへの結合の阻害は、より強力な還元剤DTTの同時添加により逆になる(レーン10)。【0099】結合反応物へのジスルフィラムのみの添加により、錯体IIを含む上流のATF2においてCREへのDNA結合が減少した(図2、レーン3)。この効果は、ジスルフィラムが銅イオンと組み合わされた場合に増大する(レーン5)。これらの結果は、DNA結合領域においてジスルフィラムとシステインとの間に混合ジスルフィドが形成されることによるCREへのATF2結合の最も穏やかな破壊と一致し、これにより、銅が混合ジスルフィドの生成を触媒することが示唆される。しかし、CRE結合の減少は、還元剤としてDTTの代わりにGSHを用いて結合反応を行った場合、よりいっそう増強される(ジスルフィラムについては図2のレーン7、ジスルフィラム+銅についてはレーン9)。GSHの存在下でのジスルフィラムおよび銅によるCREへの錯体IIを含むATFの阻害は、強力な非電荷還元剤DTTの同時添加により逆になった(図2、レーン10)。【0100】これらの結果は、GSH(核区画内にmM濃度で認められる細胞モノチオール)は、ジチオカルバマート付加物と反応して混合ジスルフィドを含む、かさ高い、負電荷のGSHが得られ、ATF2のDNA結合をより有効に破壊することができることを示す。【0101】[実施例2]本実施例は、ジチオカルバマートおよび銅がサイクリンA発現を阻害することを示す。転写因子CREB−1およびc−FosまたはATF2およびJunファミリーメンバーのヘテロ二量対は、サイクリンAプロモーター中のCREエレメントへの結合によりサイクリンA発現をアップレギュレーションすることが知られている。【0102】ジスルフィラムおよび銅がCREへの転写因子DNA結合を破壊するので、サイクリンA発現に対するその効果を研究した。図3Aは、ジスルフィラムおよび銅は細胞周期タンパク質サイクリンAの発現を減少させることを示す。M1619黒色腫細胞を、60×15mmのプラスチック皿で、同じ密度でプレートし、80%コンフルエンスまで成長させ、DMSO賦形剤(5μl/ml)、ジスルフィラム(DS、5μM)、またはジスルフィラムとCuSO4(1.6μM)との組み合わせで処理した。表示の時間後、細胞を溶解し、タンパク質を抽出し、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)およびその後にウサギポリクローナル抗体(Santa Cruz社製)を使用したウェスタンブロッティングに供した。ジスルフィド+CuSO4での2、4、8、12、24、および36時間後の処理についての典型的な実験を示す。【0103】図3Bは、細胞をDMSO賦形剤(5μl/ml、レーン1〜4)、ジスルフィラム(5μM、レーン5〜8)、(5μM/ml)、CuSO4(1.6μM、レーン9〜12)またはジスルフィラムとCuSO4(レーン13〜16)との組み合わせで処理した実験を複製している。溶解から24時間後、免疫ブロットを行ってサイクリンAをアッセイした。図3Cでは、デンシメトリーによる図3Bの実験の定量を示す。バンドの平均総強度を示す。全ての他の処理と比較して*p<0.001。【0104】ジスルフィラムまたは銅のみでは効果はほとんどないが(図3BおよびC)、ジスルフィラム+銅の組み合わせでの処理により長期間サイクリンA発現が徐々に減少し(図3A)、24時間で2/3を超えるサイクリンA発現が減少した(図3Bおよび3C)。対照的に、本発明者らが研究した細胞株ではB1レベルは変化せず、ジスルフィラムは、細胞周期インヒビターp21WAF1/CIP1またはプロアポトーシスおよび抗アポトーシスタンパク質p53またはbcl−2の発現に対して一貫した効果を示さなかった(データ示さず)。【0105】[実施例3]本実施例は、ジスルフィラムが黒色腫細胞株および他の腫瘍細胞株に対して抗増殖性を示すことを例示する。サイクリンA発現の破壊により、細胞周期の進行および細胞増殖を損なうはずである。したがって、通常の臨床量でのヒトが容易に達成する濃度を使用してM1619黒色腫成長に対するジスルフィラムの効果を研究した。ジスルフィラムは、M1619黒色腫のインビトロ成長の強力なインヒビターであった(図4A)。図4Aは、ジスルフィラムがM1619ヒト黒色腫細胞株の増殖を阻害することを示す。10%のウシ胎児血清(FBS)で刺激した細胞を、50,000細胞/ウェルの密度プレートし、DMSO賦形剤(5μM/ml)またはジスルフィラム(DS)を、表示の濃度でウェルに添加した。24時間後、可溶性黄色テトラゾリウム色素3−[4,5−ジメチルチアゾール]−2−イル−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)の540nmの吸光度(A540)として測定されるその不溶性紫色ホルマザンへの細胞数依存性還元の評価によって増殖を定量した(6,7)。*FBS+DMSO賦形剤コントロールと比較して、p<0.01であった。【0106】ジスルフィラムはまた、M1585黒色腫、前立腺癌、非小細胞および小細胞肺癌、および乳癌を含む、種々の他の悪性細胞株の成長を阻害する(表1)。これは、ジスルフィラムを培地に添加することにかかわりなく、あてはまる。各値は、DMSO賦形剤で処理したコントロール培地と比較した平均±SE%成長阻害を示す。10%ウシ胎児血清(FBS)で刺激した細胞を、50,000細胞/ウェルの密度でプレートした。いくつかの研究では(最初に処理)、DMSO賦形剤(5μl/ml)またはジスルフィラム(DS)を、表示の濃度でウェルに添加した。48時間後、図4に記載のように増殖を定量した。【0107】他の研究では(24時間後の処理)、細胞を、24時間(M1619、M1585、およびH596肺癌)または48時間(乳癌)成長させた。DMSO賦形剤(5μl/ml)またはジスルフィラム(DS)を、表示の濃度でウェルに添加した。さらに24時間(肺癌)または48時間後(乳癌)、図4に記載のように増殖を定量した。%増殖阻害を、100×(1.0−ジスルフィラム処理細胞におけるMTTホルマザンのA540/DMSO賦形剤処理細胞におけるMTTホルマザンの平均A540)として計算した。いくつかの株では、最も穏やか(10%未満)であるが、統計的に有意な阻害効果が、DMSO賦形剤のみを使用して認められた。各値は、少なくとも4つの実験の平均を示す。AFBS+DMSO賦形剤コントロールと比較して、p<0.01であった。【0108】【表1】【0109】図4Bでは、細胞非透過性Cu2+キレート剤であるバソクプロインジスルホン酸がジスルフィラム由来の成長阻害を防止することを示す。Aに記載のようにM1619黒色腫細胞を刺激およびプレートし、50または100μMバソクプロインジスルホン酸(BCPS)の非存在下または存在下で、1.25μMジスルフィラム(DM)またはDMSO賦形剤(5μ/ml)をウェルに添加した。48時間後、記載のように増殖を定量した。*FBS+DMSOと比較して、p<0.001;FBS+DSと比較して、p<0.001であった。【0110】図4Cは、成長培地への銅の補足によりジスルフィラムの抗増殖活性が増強されることを示す。図4Aに記載のようにM1619黒色腫細胞を刺激およびプレーティングし、CuSO4またはCuSO4+0.625μMのジスルフィラムを補足した。さらに24時間後、増殖を定量した。培地への0.2μMのCuSO4の添加でさえも、0.625μMジスルフィラムが、薬物の50%阻害(IC50)濃度(A)から100%阻害(IC100)濃度に変換させる。*CuSO4なしと比較してp<0.001であった。【0111】図4Dに示す結果は、セルロプラスミンがジスルフィラムの抗増殖活性を増強するための銅供給源として作用することができることを示す。M1619黒色腫細胞をプレートし、刺激し、正常なヒト血清レベルの上限レベル(500μg/ml)を示す濃度のヒトセルロプラスミン(Cerulo)の存在下または非存在下での0.625μMのジスルフィラムまたは5μMのDMSO賦形剤の存在下または非存在下で24時間成長させた。24時間後、増殖を定量した。*FBS+DMSOと比較して、+p<0.001;FBS+DSと比較して、p<0.001であった。【0112】ジスルフィラムは、壊死およびアポトーシスの療法を誘導した。低用量のジスルフィラムでの単層の処理でさえ、トリパンブルー色素取り込みを顕著に増加させた(非処理、DMSO賦形剤処理、または0.625μMのジスルフィラムで処理したH520肺腺癌細胞についてそれぞれ6±2個、8±3.6個、および94±18個のトリパンブルー陽性細胞/ウェル;非処理、DMSO賦形剤処理、または0.625μMのジスルフィラムで処理したH82小細胞肺癌細胞についてそれぞれ12±0.9個、16.5±2.1個、および93±12個のトリパンブルー陽性細胞/ウェル;非処理またはDMSO賦形剤処理コントロールと比較してp<0.001)。ジスルフィラムはまた、DNAフラグメントの3’−OHフルオレセイン末端標識(図5Aよび5B)および臭化エチジウム染色アガロースゲルでのDNAラダー形成を増強した(データ示さず)。最近報告されたP糖蛋白質媒介薬物耐性に対する効果と一致して(T.W.Looら、「ジスルフィラム(アルコール中毒の治療に使用される薬物)によるインビトロでの薬物耐性の遮断」、J.Natl.Cancer Inst.,92、898〜902、2000を参照のこと)、ジスルフィラムは黒色腫細胞(化学療法薬に対する腫瘍の周知の耐性)に対する他の抗新生物薬の抗増殖効果を増大させた(表2)。【0113】図5Aでは、M1619黒色腫細胞をDMSO賦形剤で処理した。図5Bでは、M1619黒色腫細胞を5μMのジスルフィラムで処理した。ジスルフィラムは、DNAフラグメントの3’−OHフルオレセイン末端標識を顕著に増大させる。細胞を、35mmのぺトリ皿またはガラスライド上でコンフルエンスまで成長させ、ジスルフィラムまたは賦形剤としてDMSOで15時間処理した。フルオレセイン−FraEL(商標)DNA断片化検出キット(Oncogene Research Products社製、Cambridge、MA)を使用したDNAフラグメントの末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)依存性3’−OHフルオレセイン末端標識によってアポトーシスを研究した。表2は、ジスルフィラムおよびシスプラチンの組み合わせまたはジスルフィラムおよびカルムスチンの組み合わせがシスプラチンまたはカルムスチンのみよりもM1619細胞に対する高増殖性が有意に高いことを示す。【0114】【表2】【0115】Aでは、M1619黒色腫細胞を、24ウェルプレート中、50,000細胞/ウェルの密度で10%のFBSおよびRPMI1640中で培養した。48時間後、シスプラチンおよび2.5μMのジスルフィラムまたはDMSO(5μl/ml)を培地に添加した。さらに24時間後、増殖を定量した。各バーは、最小限の4つの実験の平均MTTホルマザンの吸光度を示す。ADMSO賦形剤と比較して、p<0.05;BDMSO賦形剤と比較して、p<0.01であった。【0116】Bでは、M1619細胞を、上記のようにカルムスチンおよび0.6μMジスルフィラムまたはDMSO(5μl/ml)を培地に添加して培養した。24時間後、増殖を定量した。各バーは、最小限の4つの実験の平均MTTホルマザンの吸光度を示す。CDMSO賦形剤と比較して、p<0.001であった。【0117】ジスルフィラムは、そのスルフヒドリル含有関連PDTCよりも新生物細胞株の成長インヒビターとして強力であった。例として、M1585に対する50%インヒビター濃度(IC50)は、PDTCについては1.25μMで在るが、ジスルフィラムでは0.3μMであった。これにより、チオカルバマートの活性抗増殖性の構築物は抗酸化剤として頻繁に使用されているチオールを含有する単量体の形態を減少させないようであることが示唆される。【0118】[実施例4]ジチオカルバマートジスルフィドの抗増殖活性は、銅との錯体形成に依存する。PDTCは、培地中のウシ胎児血清に由来する銅の錯体形成およびその後の細胞への銅輸送の促進によって媒介される正常な胸腺細胞のアポトーシスを誘導する。ジスルフィラムによるCRE DNA結合の阻害は、図1A〜1Cおよび図2より、銅依存性であることが示されており、ジスルフィラムによるM1619の成長阻害を研究して、成長培地中に存在する金属と錯体を形成する能力に依存するかどうかを同定した。図4Aは、銅と組み合わせたジスルフィラムがM1619黒色腫細胞のS期細胞周期停止およびアポトーシスを誘導することを示す。非同調M1619黒色腫細胞を、DMSO賦形剤(A)、5μMジスルフィラム(B)、または銅(C)供給源としての5μMジスルフィラム+250μg/mlセルロプラスミン(Cerulo)の存在下で成長させた。24時間後、細胞を採取し、フローサイトメトリー分析を行った。細胞周期中の各期における核の比率(括弧)を、MODFIT DNA分析ソフトウェアを使用して同定した。ジスルフィラムは、S期の細胞の比率を増加させる。ジスルフィラムとセルロプラスミンとの組み合わせは、S期の細胞数を増加させ、G2−M細胞周期への進行を防止して、アポトーシスを誘導する。【0119】以下の表3は、ジスルフィラムは、銅の細胞内取り込みを非常に増大させことを示し、図4Bは、強力な細胞非透過性Cu2+キレート剤であるバソクプロインジスルホン酸(BCPS)がジスルフィラム由来の成長阻害を顕著に減少させることを示す。逆に、ジスルフィラムの抗増殖活性は、それ自体が細胞成長に影響を与えない濃度の銅の培地への補足によって非常に増強される(図4C)。銅輸送タンパク質セルロプラスミンは、ヒト血清中に通常存在するレベルで、錯体形成してジスルフィラムの抗増殖活性を増強することができる銅の供給源として作用することもできる(図4D)。【0120】M1619黒色腫培養物のジスルフィラム処理(図4B)は、G0〜G1期の細胞数をわずかに減少させ、細胞周期のS期の一部を増加させる。ジスルフィラムでの処理へのセルロプラスミン由来の銅の添加により、これらの効果が非常に増大する。フローサイトメトリー細胞周期分析によって同定したところ、2/3を超える細胞がS期に存在し、G2−M期には存在せず、6%がアポトーシスを起こしている(図4C)。これらの研究により、ジチオカルバマートおよびそのジスルフィドによる悪性細胞株の成長阻害は、一定の金属イオンとの相互作用だけでなく、これらの金属イオンとの錯体形成に依存し、その細胞内輸送を増強することが示唆される。【0121】【表3】【0122】M1619黒色腫細胞を、10%のFBSの存在下で24ウェルプレートに50,000細胞/ウェルで培養し、コンフルエンスまで成長させた。ジスルフィラムまたはDMSO賦形剤(5μl/ml)を表示の濃度で添加し、細胞をさらに6時間インキュベートした。細胞から上清を除去し、単層をDPBSで2回洗浄した。細胞を、1.0mlの3NのHCl/10%のトリクロロ酢酸に掻き出し、70℃で16時間加水分解した。600gで10分間遠心分離した後、324.754および224.700nmの波長での高周波誘導結合プラズマ発光分光学を使用して銅を測定した。4つの複製について報告する。金属夾雑物を最小にするために、この実験ではガラス製品よりもプラスチック製品を使用し、全ての水性溶媒に2回蒸留脱イオン水を使用した。ADMSOコントロールと比較してp<0.01;BDMSOコントロールと比較してp<0.001であった。【0123】[実施例5]本実施例は、ジチオカルバマートジスルフィドにより酸化還元機構による増殖を増加させないことを示す。【0124】ジスルフィラムは、M1619細胞中のGSHを枯渇させることができず(FBSのみについては228±18;DMSO賦形剤コントロールについては254±7;5μMジスルフィラムについては273±11nmolのGSH/μg細胞タンパク質)、5.0μMジスルフィラムと1.6μM CuSO4との組み合わせは、細胞内GSHを増加させた(293±16nmol GSH/μg細胞タンパク質;FBSのみと比較してp<0.05)。同様に、H2O2感受性細胞内プローブ2’,7’−ジクロロフルオレセインを使用して測定したところ、ジスルフィラム(0.625〜5μM)、CuSO4(0.2〜1.6μM)、1.25μMジスルフィラムと0.2〜1.6μMのCuSO4との組み合わせのいずれによっても、M1619細胞中の反応性酸素種の生成を測定することができない。J.A.Royallら、「培養内皮細胞中の細胞内H2O2のための蛍光プローブとしてとしての2’,7’−ジクロロフルオレセインおよびジヒドロローダミン123の評価」、Archiv.Biochem.Biophys.,302、348〜355、1993を参照のこと。ベースラインの蛍光である1,431±23単位は、いかなる処理によっても増加しなかった。【0125】さらに、強力な抗酸化剤プロブコールは、いかなる本発明者らの腫瘍細胞株の成長を有意に阻害しなかった(データを示さず)。細胞内の銅の増大により、S−ニトロソグルタチオンおよび他のニトロソチオールのCu2+媒介性分解により、反応性窒素種である一酸化窒素(NO)のレベルも増加する(D.R.Arnelleら、「S−ニトロソチオールのジエチルジチオカルバマート誘導性分解」、Nitric Oxide:Biol.and Chem.,1、56〜64、1997;M.P.Gordgeら、「S−ニトロソチオールの生物活性の銅キレート化誘導性減少」、Brit.J.Pharmacol.,114、1083〜1089、1995;A.C.F.Gorrenら、「銅イオンおよびグルタチオンの存在下でのS−ニトロソグルタチオンの分解」、Archiv.Biochem.Biophys、330、219〜2238、1996を参照のこと)。同様に、NOは、ミトコンドリアの透過性の移行を誘導して他の効果が得られ、アポトーシスを誘導すると考えられている(S.B.Hortelanoら、「一酸化窒素は、ミトコンドリア透過性の移行を介してアポトーシスを誘導する」、FEBS Lett.,410、373〜377、1997;Y.H.Shenら、「一酸化窒素は、異なる経路によりアポトーシスを誘導および阻害する」、FEBS Lett.,433、125〜131、1998を参照のこと)。【0126】一酸化窒素シンターゼインヒビターNω−ニトロ−L−アルギニン(LNAME)のみで細胞成長をわずかに増強する一方で(23.7±2.3%の増加;DMSO賦形剤コントロールと比較してp<0.01)、LNAMEは、ジスルフィラムの抗増殖効果を消滅させなかった(ジスルフィラムのみによる36.8±4.0%阻害に対して、ジスルフィラム+LNAMEの存在下での成長は26.7±3.1%阻害;DMSO賦形剤コントロールと比較して、p<0.001であるが、互いに有意に異なるものではない)。最後に、抗酸化剤として機能するPDTCは、シクロオキシゲナーゼ2の発現の減少によって結腸直腸癌の成長の一部が妨害されると推定されている。R.Chinery、前出のNature Med.,;前出のR.Chinery、Cancer Res.,を参照のこと。しかし、シクロオキシゲナーゼインヒビターでは、本発明者らが研究した細胞株の成長を減少させることができなかった(データは示さず)。したがって、まとめると、これらのデータにより、ジスルフィラムは細胞酸化還元状態により成長を阻害しないようであると示唆される。【0127】[実施例6]本実施例は、銅以外の金属がジチオカルバマートジスルフィドの抗増殖活性を増強することができることを示す。腸および細胞の両レベルにおける銅の吸収は亜鉛カチオンによって遮断されるので、ウィルソン病(銅の過負荷による遺伝病)の好ましい治療として酢酸亜鉛が使用されている。【0128】培地中の高濃度の亜鉛は、異なるヒト結腸腺癌細胞中での銅の取り込み、および輸送に影響を与えるので、培地への亜鉛補足により銅依存性と考えられるジスルフィラムの抗増殖活性を阻害し得るかを同定した。活性の減少の代わりに、塩化亜鉛もまた、ジスルフィラムの抗増殖能力を実質的に増強する(図7A)。ジチオカルバマートは、盛んに銅と錯体を形成するが、他の金属とキレート化して(R.P.Burnsら、「遷移元素の1,1−ジチオラト錯体」、Adv.Inorg.Chem.Radiochem.,23、211〜280、1980を参照のこと)、種々の金属塩の補足によってジスルフィラム活性もまた増強することができる能力を上げることができる。【0129】図7A〜7Dは、他の金属もまたジスルフィラムの抗増殖活性を増強することを示す。図7Aは、亜鉛がジスルフィラムの抗増殖活性を強化することを示す。図4のように、M1619細胞を刺激およびプレーティングした。24時間後、細胞を、0.625μMのジスルフィラムの非存在下または存在下で、表示濃度の塩化亜鉛(ZnCl2)にて処理した。さらに24時間後、細胞を計数した。*ZnCl2なしと比較してp<0.01;+ZnCl2なしと比較してp<0.001であった。【0130】図7Bは、亜鉛だけでなく、金および銀でもジスルフィラムの抗増殖活性を往生的に増強することができることを示す。これは、ジスルフィラム、およびおそらく他のジチオカルバマートならびにそのジスルフィドによる細胞増殖の減損は、重金属の存在によって依存し、且つ触媒として増強するという仮説をさらに支持する。図7Bでは、ジスルフィラムの抗増殖活性が、培地への他の重金属の補足によって増強された。上記のようにプレーティングおよび刺激したM1619細胞を、FBSのみ、DMSO賦形剤(5μl/ml)、ジスルフィラム(DS、0.15μM)、5μM濃度の金属塩(硫酸銅、CuSO4;乳酸銀、C3H5AgO3;塩化金HAuCl4・3H2O)またはDS+金属塩の組み合わせで処理した。48時間後、細胞を計数した。*DMSOと比較してp<0.05;+DSのみと比較してp<0.001であった。【0131】図7Cは、ジスルフィラムの金との錯体が抗増殖活性を増強させたことを示す。上記のようにプレーティングおよび刺激したM1619細胞を、FBSのみ、DMSO賦形剤(5μl/ml)、ジスルフィラム(DS、160nM)、または方法に概説した濃度のジスルフィラムとの金錯体(AuDS)で処理した。48時間後、細胞を計数した。*DMSOと比較してp<0.001;+DSと比較してp<0.001であった。【0132】[実施例7]本実施例は、チオラートアニオンの形成はジチオカルバマートおよびそのジスルフィドの抗増殖活性を媒介することを示す。【0133】金属を用いた上記所見に照らして、Cu2+、Zn2+、Ag1+、またはAu3+を含む多数の金属イオンとのジスルフィラムのキレートを合成した。ジスルフィラムと金属との錯体の生成の際、ジスルフィラム含有クロロホルム相の色の変化(単黄色から金イオンとの錯体形成による金色がかった橙色)によって水相由来の金属イオンのキレート化が示唆された。全ての金属錯体は、ジスルフィラムと比較して抗増殖活性を増大させたが、ほとんどの活性化合物は、金のジスルフィラムとの錯体によって形成されており(図7C)、これはnM濃度で抗増殖活性を示した。【0134】本化合物のX線結晶構造により、ジエチルジチオカルバマートのチオラートアニオンおよび他の二つの金の原子価に塩素が結合したキレートであることが明らかとなった(図8)。方法に概説のように錯体を作製した。評価のために、結晶を、Nonius Kappa−CCD回折計に載せた。結晶を十分に回折させ、Mo Kα照射(λ=0.7173A)を使用してθにおける27.5°のデータセットを回収した。最小二乗法による細胞パラメータの精密化によって、a=11.5167(5)、b=7.2472(2)、c=12.9350(7)Aの単位格子パラメータおよび1079.6(1)A3の体積を有する斜方晶系P細胞が明らかとなった。系統的削除試験により、Pnmaであるべき空間群が認められた。SIR92を使用した直説法によって構造を解釈し、ジクロロ(ジエチルチオカルバミル)金(II)である結晶が明らかとなった。構造を、首尾のよい溶液および3.3および3.2%のR因子(ESDは1.499である)に対する893の反射光(Iは3δ(I)以上)についての83個の別個の変数によって確認した。金錯体は、Auおよび4つの配位原子がx,0.25,zでの鏡像である四角い平面錯体である。有機リガンドは、互いに鏡面によって関連する二つの部位を占めるジエチルアミンリガンドとともに不規則になっている。【0135】これらの結果により、細胞固定化ジスルフィド形成の促進に重要な近位反応性ジチオカルバマート構造は、銅および他の金属によって十分に還元されたジチオカルバマートまたはそのジスルフィドから生成されたチオラートアニオンであることが示唆される。この仮説を試験するために、チオラートジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムの単独または完全に還元されたチオ酸の形成を促進するために成長培地に添加された低濃度のDTTの存在下でのM1619増殖を阻害する能力を比較した。図7Dは、チオラートによる成長阻害は、黒色腫細胞のみの成長に影響を与えないDTT濃度によって非常に減損される。図7Dでは、チオラートジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム三水和物(NaDDC)の抗炎症活性は、成長培地中の低濃度のDTTによって減少する。上記のようにプレーティングおよび刺激したM1619細胞を、FBSのみ、NaDDC(1μM)、DTT(100μM)、またはNaDDC+DTTで処理した。48時間後、細胞数を計数した。*FBSと比較してp<0.001;+NaDDCのみと比較してp<0.001であった。したがって、転写因子のDNA結合および細胞増殖の破壊における金属の機能は、ジチオカルバマートアニオン(DNA結合領域のシステインと混合ジスルフィドに縮合する反応性化学形態)を形成し、転写因子をS−グルタチオニル化させるGSHへの二次的結合を促進することであり得る。【0136】本明細書中に含まれる説明および関連する図面に存在する教示の利点を用いて、本発明に属する当業者は多数の修正形態および本発明の他の実施形態を思い浮かべるであろう。したがって、本発明は、開示の特定の実施形態に制限されず、修正形態および他の実施形態は添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図されると理解すべきである。本明細書中に特定の用語を例示しているが、これらは一般的および記述的意味で使用しており、制限を目的としない。【図面の簡単な説明】【図1A】 図1AはM1619黒色腫細胞が環状AMP応答エレメント(CRE)に対して構成性DNA結合活性を示すことを示す。【図1B】 図1Bはジチオカルバマートジスルフィドジスルフィラムおよび銅がCREに結合する転写因子を阻害することを示す。【図1C】 図1Cは、ほぼコンフルエントの細胞を、FBSのみ、DMSO賦形剤(5μl/ウェル)、ジスルフィラム(5μM)、CuSO4(1.6μM)、またはジスルフィラム+銅の組み合わせについて8時間試験した複製試験(n=4)由来の核タンパク質を使用してEMSAを行ったことを示す。【図2】 図2はDNA結合への転写因子結合反応物に直接結合するジスルフィラムまたはジスルフィラム+銅の添加効果を示す。【図3A】 図3Aはジスルフィラムおよび銅が細胞周期タンパク質サイクリンAの発現を減少させることを示す。【図3B】 図3Bは細胞を、DMSO賦形剤(5μl/ウェル、レーン1〜4)、ジスルフィラム(5μM、レーン5〜8)、(5μl/ml)、CuSO4(1.6μM、レーン9〜12)、およびCuSO4(レーン13〜16)で処理した試験(それぞれn=4)を複製したことを示す。細胞溶解から24時間後、免疫ブロットを行ってサイクリンAをアッセイした。【図3C】 図3Cはデンシトメトリーによる図3Bの試験物の定量を例示する図である。【図4A】 図4AはジスルフィラムがM1619ヒト黒色腫細胞株の増殖を阻害することを示す。【図4B】 図4Bは細胞非透過性Cu2+キレート剤であるバソクプロインジスルホン酸がジスルフィラム由来の成長阻害を防止することを示す。【図4C】 図4Cは成長培地への銅の補足によりジスルフィラムの抗増殖活性が増強されることを示す。【図4D】 図4Dはセルロプラスミンがジスルフィラムの抗増殖活性を増強するための銅供給源として作用することができることを示す。【図5A】 図5AはM1619黒色腫細胞をDMSO賦形剤で処理したことを示す。【図5B】 図5BはM1619黒色腫細胞を5μMのジスルフィラムで処理したことを示す。【図6A】 図6Aは銅と組み合わせたジスルフィラムがM1619黒色腫細胞のS期細胞周期停止およびアポトーシスを誘導することを示す。【図6B】 図6Bは銅と組み合わせた5μMジスルフィラムがM1619黒色腫細胞のS期細胞周期停止およびアポトーシスを誘導することを示す。【図6C】 図6Cは5μMジスルフィラム+銅供給源としての250μg/mlのセルロプラスミン(Cerulo)を示す。【図7A】 図7Aは他の金属もまたジスルフィラムの抗増殖活性を増強することを示す。【図7B】 図7Bはジスルフィラムの抗増殖活性が他の重金属での培地の補足によって増強されたことを示す。【図7C】 図7Cはジスルフィラムの金との錯体が抗増殖活性を増強させたことを示す。【図7D】 図7Dはジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム三水和物(NaDDC)の抗増殖活性が、成長培地中で低濃度のDTTによって減少したことを示す。【図8】 図8は四塩化金とジスルフィラムとの混合から形成された錯体のX線結晶構造を示す。 治療有効量の式:(式中、R2およびR3は同一であっても異なっていてもよく、水素、非置換アルキル、アルケニル、アリール、アルコキシ、またはヘテロアリール基を示し、Mは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、およびリチウムからなる群から選択されるアルカリ金属であり、nは該アルカリ金属の価数である)のジチオカルバマートチオラートアニオンを含む、ヒトの黒色腫、肺癌、直腸癌、結腸直腸癌、乳癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮癌、リンパ腫および前立腺癌を治療するための組成物。 前記ジチオカルバマートチオラートアニオンが、薬学的に許容可能な塩の形態である、請求項1に記載の組成物。 前記ジチオカルバマートチオラートアニオンが、体重あたり125mg/日〜1000mg/日の投薬量で含まれる、請求項1に記載の組成物。 前記ジチオカルバマートチオラートアニオンが、250mg/日〜500mg/日の投薬量で含まれる、請求項1に記載の組成物。 前記ジチオカルバマートチオラートアニオンが非経口投与用である、請求項1に記載の組成物。 前記ジチオカルバマートチオラートアニオンを経口投与用である、請求項1に記載の組成物。 ヒ素、ビスマス、コバルト、銅、クロム、ガリウム、金、鉄、マンガン、ニッケル、銀、チタン、バナジウム、セレン、および亜鉛からなる群から選択される金属のイオンを含む金属キレートをさらに含む、請求項1に記載の組成物。 治療有効量の式:(式中、R2およびR3は同一であっても異なっていてもよく、水素、非置換アルキル、アルケニル、アリール、アルコキシ、またはヘテロアリール基を示し、Mは、ヒ素、ビスマス、ガリウム、マンガン、セレン、亜鉛、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、銀、および金からなる群から選択される重金属であり、Anは、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、酢酸イオンからなる群から選択されるアニオンであり、nは金属の価数である)のジチオカルバマートチオラート金属錯体を含む、ヒトの黒色腫、肺癌、直腸癌、結腸直腸癌、乳癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮癌、リンパ腫および前立腺癌を治療するための組成物。 前記ジチオカルバマートチオラート金属錯体が薬学的に許容可能な塩の形態である、請求項8に記載の組成物。 前記ジチオカルバマートチオラート金属錯体が、体重あたり125mg/日〜1000mg/日の投薬量で含まれる、請求項8に記載の組成物。 前記ジチオカルバマートチオラート金属錯体が、250mg/日〜500mg/日の投薬量で含まれる、請求項8に記載の組成物。 前記ジチオカルバマートチオラート金属錯体が非経口投与用である、請求項8に記載の組成物。 前記ジチオカルバマートチオラート金属錯体が経口投与用である、請求項8に記載の組成物。 請求項8に記載の組成物と、 クエン酸イオン、酢酸イオン、グリコン酸イオン、グリシン酸イオン、プロピオン酸イオン、および乳酸イオンからなる群から選択される有機アニオンを含む組成物とを含むキットであって、ヒトの黒色腫、肺癌、直腸癌、結腸直腸癌、乳癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮癌、リンパ腫および前立腺癌を治療するためのキット。