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タイトル:特許公報(B2)_S12リボソームタンパク質に変異を有する大腸菌細胞抽出液及びそれを用いる無細胞系によるタンパク質の製造方法
出願番号:2002345597
年次:2010
IPC分類:C12N 15/09,C12P 21/02,C07K 14/245


特許情報キャッシュ

ナムチップ チュンポルクルウォン 堀 千重 横山 茂之 白水 美香子 木川 隆則 越智 幸三 保坂 毅 JP 4441170 特許公報(B2) 20100115 2002345597 20021128 S12リボソームタンパク質に変異を有する大腸菌細胞抽出液及びそれを用いる無細胞系によるタンパク質の製造方法 独立行政法人理化学研究所 503359821 加藤 朝道 100080816 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 501203344 加藤 朝道 100080816 矢野 裕也 100086221 ナムチップ チュンポルクルウォン 堀 千重 横山 茂之 白水 美香子 木川 隆則 越智 幸三 保坂 毅 20100331 C12N 15/09 20060101AFI20100311BHJP C12P 21/02 20060101ALI20100311BHJP C07K 14/245 20060101ALN20100311BHJP JPC12N15/00 AC12P21/02 CC07K14/245 C12N 1/20 C12N 15/09 C12P 21/02 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) Biochimie,1990年,Vol.72,p.345-349 J.Bacteriol.,2001年,Vol.183,p.4958-4963 Appl.Environ.Microbiol.,2001年,Vol.67,p.1885-1892 Antimicrob.Agents Chemother.,1998年,Vol.42,p.2041-2047 4 2004173627 20040624 21 20051117 野村 英雄 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、S12リボソームタンパク質遺伝子に突然変異を有する変異体大腸菌細胞から調製された抽出液、及び該抽出液を用いる無細胞系でのタンパク質合成方法等に関する。【0002】【従来の技術】細胞抽出液を用いる無細胞系タンパク質合成システムは、おもに遺伝子産物の同定や、その働きを調べるために用いられている。例えば、合成されたタンパク質の酵素活性やDNA結合能等の機能を調べたり、放射性同位元素で標識して翻訳産物の分子量を決定することができる。また、近年その合成量が飛躍的に増大する技術が開発されたことから、X線結晶構造解析やNMR等によるタンパク質の構造解析等へも利用されるようになってきた。【0003】翻訳反応を行わせる抽出液は、大腸菌由来のもの、コムギ胚芽由来のもの、ウサギ網状赤血球由来のものが市販されている。大腸菌の抽出液としては、ズベイら(例えば、非特許文献1参照。)により報告されたS−30無細胞抽出液がよく用いられている。大腸菌S−30抽出液の調製には、RNaseI欠損株のA19、D10などの菌株が用いられるが、目的タンパク質がプロテアーゼによる分解を受けやすい場合にはompTエンドプロテアーゼとlonプロテアーゼ活性の欠損した大腸菌B株が用いられる場合もある。【0004】クローン化したcDNAからmRNAを合成するためには、種々のプロモーターを有する適当なベクターに組み込むことが必要である。タンパク質の発現効率を上げるために、現在では強力なプロモーターであるT7、T3やSP6などのファージ由来のポリメラーゼが用いられており、鋳型DNAの種類に適した種々の系に用いるシステムが市販されている。このような無細胞系を用いることにより、極めて簡便な方法でクローン化DNAを発現させることができ、細胞毒性のあるタンパク質も合成可能となる。【0005】しかしながら、近年のゲノム解析の結果得られた数多くの遺伝子を系統的、網羅的に発現させると、発現量が相対的に少ないか又は全く発現しない遺伝子も存在することが分かっている。これらの遺伝子の発現量が低いことは、大量に発現する遺伝子に比べてその塩基配列の相違に基づく翻訳段階での効率低下が原因と考えられる。【0006】一方、従来より放線菌の抗生物質耐性株においては2次代謝産物(抗生物質等)の生産能の増強が起こることが知られ、これらはリボソームタンパク質遺伝子の点突然変異に由来することが報告されている。これらの変異株では、S12やS4リボソームタンパク質の点突然変異によって、16SリボソームRNA(以下「16SrRNA」という。)の高次構造が変化し、mRNAの読み取り効率に影響を与えることが示唆されているが(例えば、非特許文献2参照。)、このようなリボソームタンパク質の変異が放線菌の2次代謝産物の生産量を増強する機構については明らかではない。ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、及びリファンピシンに対する耐性を示す放線菌では、特定の転写調節タンパク質の発現が、増殖期において著しく増加することが報告されている(例えば、非特許文献3、FIG.5参照。)。しかし、当該放線菌の細胞抽出液中での外来タンパク質の合成能については明らかではない。また、放線菌は他の細菌に比べて増殖速度が遅く、至適培養温度が低いなど、大量の細胞抽出液を供給するためには困難な点がある。【0007】【非特許文献1】ジェフリー・ズベイ(Geoffrey Zubay)、「アニュアル・レビュー・オブ・ジェネティクス(Annual Review of Genetics)」1973年、 第7巻、p.267−287【非特許文献2】ヨシコ・ホソヤ(Yoshiko Hosoya)外3名、「アンチマイクロバイアル・エイジェンツ・アンド・ケモセラピー(Antimicrobial Agents and Chemotherapy)」1998年、第42巻、p.2041−2047【非特許文献3】ハイフォン・フー(Haifeng Hu)外1名、「アプライド・アンド・エンバイアロンメンタル・マイクロバイオロジー(Applied and Environmental Microbiology)」2001年、第67巻、p.1885−1892【0008】【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明は大腸菌の細胞抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系において、リボソーム上でのmRNAのコドンの読み取り効率を改善することによりタンパク質の生産性を向上させることを課題とする。【0009】【課題を解決するための手段】本発明者らは、ストレプトマイシンに対して耐性となった大腸菌株の培養特性やその抽出液のタンパク質合成活性等を調べた結果、S12リボソームタンパク質の特定の部位に突然変異を有する大腸菌から調製した細胞抽出液が極めて高いタンパク質合成活性を有することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。【0010】 すなわち、第一の視点において、本発明の抽出液は、S12リボソームタンパク質遺伝子に突然変異を有する大腸菌細胞から調製されることを特徴とする。なお、本発明において、前記突然変異はS12リボソームタンパク質にアミノ酸置換を引き起こす変異であり、前記アミノ酸置換が配列番号2に示すアミノ酸配列において43番目の位置でのリジンからスレオニンへの置換及び/又は88番目の位置でのリジンからグルタミン酸への置換である。【0011】 好ましい態様において、前記突然変異はストレプトマイシンに対する耐性又は依存性を付与する変異であることを特徴とする。さらに好ましくは、前記突然変異は、S12リボソームタンパク質にアミノ酸置換を引き起こす変異であって、前記アミノ酸置換が配列番号2に示すアミノ酸配列において43番目の位置であることを特徴とする。前記アミノ酸置換がリジンからスレオニンへの置換であることがさらになお好ましい。このアミノ酸置換を有するS12リボソームタンパクによって、当該変異株はストレプトマイシン存在下においても増殖することができ、その細胞抽出液は高いタンパク質合成活性を示す。なお、本発明において、前記突然変異はS12リボソームタンパク質にアミノ酸置換を引き起こす変異であり、前記アミノ酸置換が配列番号2に示すアミノ酸配列において43番目の位置でのリジンからスレオニンへの置換及び/又は88番目の位置でのリジンからグルタミン酸への置換である。【0012】本発明の他の視点において、S12リボソームタンパク質遺伝子の突然変異を有する大腸菌より調製される無細胞タンパク質合成用抽出液と、エネルギー再生系、少なくとも一種のアミノ酸、ヌクレオチド三リン酸、及び/又はRNAポリメラーゼを含む混合液と、を含む無細胞タンパク質合成キットが提供される。前記混合液は、タンパク質合成反応を行う際に混合して用いるが、あらかじめ前記大腸菌抽出液と混合されていてもよい。従って、本発明の他の視点において、前記大腸菌より調製される無細胞タンパク質合成用抽出液と、エネルギー再生系、少なくとも一種のアミノ酸、ヌクレオチド三リン酸、及びRNAポリメラーゼからなる群より選択される少なくとも一種と、を含む無細胞タンパク質合成のための混合物が提供される。【0013】更に異なる視点において、本発明は無細胞系によるタンパク質の合成方法を提供する。この方法は、まずタンパク質をコードするポリヌクレオチドを調製し、前記ポリヌクレオチドをS12リボソームタンパク質遺伝子に突然変異を有する大腸菌より調製される無細胞タンパク質合成用抽出液を用いて発現させることを特徴とする。所望のポリヌクレオチドを発現させようとする場合、その塩基配列によっては、例えば、リボゾーム上でのコドン−アンチコドン対合に何らかの障害が生じるために著しく発現効率の悪い場合がある。本発明の方法によれば、S12リボソームタンパク質が特定の変異を有することによってこのような問題を解決し、発現しにくいポリヌクレオチドの発現効率を向上することができるのである。【0014】【発明の実施の形態】(S12リボソームタンパク質変異体と抗生物質耐性機構)本発明の大腸菌細胞抽出液は、S12リボソームタンパク質に突然変異を有する大腸菌変異株を培養し、その菌体細胞から抽出される。ここで、S12リボソームタンパク質とは、リボソームを構成するタンパク質の1種であって、大腸菌では16SrRNAと結合し、小サブユニットを形成することが知られている。例えば、SWISS−PROTのAcc.No.P02367には、大腸菌の30Sリボソームを構成するS12タンパク質のアミノ酸配列が登録されており、このアミノ酸配列を配列番号2に示す。【0015】タンパク質の翻訳段階における様々な過程を触媒しているのは、タンパク質とRNAからなる大きな複合体、リボソームである。リボソームは原核生物でも真核生物でも、構造や機能がよく似ており、大小1個ずつのサブユニットが集合して数百万ダルトンの複合体を作っている。小サブユニットはmRNAとtRNAの結合をつかさどり、大サブユニットはペプチド結合の形成を触媒する。【0016】リボソーム上でのポリペプチド鎖の伸長は、まず、アミノアシルtRNAがリボソーム上でいわゆるA部位に結合し、その位置に現れたmRNAの3つのヌクレオチドと塩基対合を起こす。次に、A部位の隣のP部位のtRNA分子についているポリペプチド鎖のカルボキシ末端がはずれ、A部位のtRNA分子に結合しているアミノ酸とぺプチジル転移酵素の働きによりペプチド結合を作る。最後に、リボソームがmRNAに沿って正確に3ヌクレオチド分移動して、A部位に新しくできたぺプチジルtRNAをP部位へ移す。【0017】ストレプトマイシンやハイグロマイシン等のアミノグリコシド系抗生物質は、リボソームの翻訳校正能力を特異的に減少させ、mRNAコドンの読み違いを誘導することが知られている。本発明の一つの実施形態として、S12リボソームタンパク質の突然変異はストレプトマイシン等の抗生物質の存在下で生育可能な変異株をスクリーニングすることによって得ることができる。その結果、当該変異株のリボソームは、その構造やタンパク質翻訳過程における機能が変化することによって、一方では抗生物質耐性能を獲得すると共に、他方ではタンパク質の翻訳効率や校正能力にも大きな影響を与えるのである。【0018】本発明の1つの実施形態において、タンパク質の翻訳効率が向上するような突然変異を有するS12リボソームタンパク質の変異株が提供される。このような変異株としては、ストレプトマイシンに対する耐性又は依存性を付与するものでも、或いはそのような耐性又は依存性を付与しないものであっても、細胞抽出液のタンパク質合成活性が向上するものであれば何れでもよいが、好ましくは配列番号2に示すアミノ酸配列の43番目のリジン、86番目のアルギニン、87番目のバリン、88番目のリジン、89番目のアスパラギン酸、90番目のロイシン、91番目プロリン、92番目のグリシン、及び94番目のアルギニンの何れかに置換が起こる場合に有利な効果が得られる。例えば43番目のリジンの場合には、他の19種類の天然のアミノ酸への置換が考えられるが、好ましくは親水性アミノ酸、特に好ましくはスレオニンに置換された場合に高いタンパク質合成活性が得られる。また、88番目のリジンの場合についても他の19種類の天然アミノ酸への置換、好ましくは親水性アミノ酸等が挙げられ、特にアルギニンへの置換は有利な効果を挙げる。90番目のロイシンや94番目のアルギニンに置換が起こった場合はストレプトマイシンに対する耐性は付与されないがタンパク質合成活性が向上する可能性がある。抗生物質の存在下でスクリーニングされた場合のS12リボソームタンパク質の突然変異は、一般的には単一のアミノ酸置換変異であるが、複数の抗生物質を用いてスクリーニングすることにより2箇所以上のアミノ酸置換を同時に有する変異体を取得することができる。また、後述する部位特異的な変異導入と染色体DNAへの相同的組換えによって、S12リボソームタンパク質に所望のアミノ酸置換を有する変異体大腸菌を作成することもできる。【0019】これらの変異体大腸菌のうち、ストレプトマイシン存在下でも増殖可能なものは、リボソームの翻訳校正能力の向上、即ち、mRNAコドンの認識がより正確になっている可能性がある。一般的にはコドン認識の正確性はtRNAとの親和性の低下を意味し、これによってリボソームのA部位へ競争的に結合する類似のtRNAから正しいtRNAをより厳しく選択できると考えられる。従って、本発明に係る変異体大腸菌の細胞抽出液は翻訳効率の向上によりタンパク質の合成量が増えると共に、コドン認識の正確性も向上すると考えられる。【0020】(S12リボソームタンパク質遺伝子に突然変異を有する大腸菌株のスクリーニング)S12リボソームタンパク質をコードする遺伝子(rpsL)に突然変異を有する大腸菌株は種々の方法によりスクリーニングすることができる。1つの方法としては、高濃度のストレプトマイシン存在下で増殖可能な大腸菌変異株を選択することによって得られる。このような大腸菌株は、例えば、大腸菌の溶液をそのまま、或いは紫外線処理した後に、最小生育阻止濃度の5〜100倍(50〜1000μg/ml)のストレプトマイシンを含む寒天培地に塗布し、2〜7日以内に生じたコロニーとして得ることができる。大腸菌の菌株としては、大腸菌A19(rna,met)、BL21、BL21star、BL21codonplus株等を使用することができる。【0021】第2の方法としては、部位特異的変異の導入により所望のアミノ酸置換を生ずるようなrpsL遺伝子を作製し、これをプラスミドDNAにクローン化して大腸菌の染色体DNAに相同的組換え反応を利用して導入することができる。大腸菌のrpsL遺伝子はすでに公知であり、その塩基配列は、例えば、GenBankやDDBJ等のデータベースにAcc.No.V00355として登録されており、そのコード領域に対応する塩基配列を配列番号1に示す。大腸菌の染色体DNAからPCRによりクローン化したrpsL遺伝子に部位特異的に変異を導入して、S12リボソームタンパク質の所望の位置にアミノ酸置換変異を導入することができる。クローン化したDNAを試験管内において部位特異的に変異を導入する方法としては、例えば、Kunkel法(Kunkel, T. A. et al., Methods Enzymol. 154, 367-382 (1987))、ダブルプライマー法(Zoller, M. J. and Smith, M., Methods Enzymol. 154, 329-350 (1987))、カセット変異法(Wells, et al., Gene 34, 315-323 (1985))、メガプライマー法(Sarkar, G. and Sommer, S. S., Biotechniques 8, 404-407 (1990))等が挙げられる。次に、変異が導入されたDNA断片を相同的組換え用プラスミドベクターにクローン化する。このベクターは、例えば、クロラムフェニコール耐性遺伝子等を選択マーカーとして有する。部位特異的な変異を導入したrpsL遺伝子が組み込まれたプラスミドをDNA組換え能力を持った大腸菌、例えば、BL21株等に導入すると相同的組換えが生じる。導入したプラスミドと染色体DNAとの間で、2ヶ所において組換えが生じた2回組換え体は、ストレプトマイシン耐性能が付与されると共にクロラムフェニコールに対しては感受性を示す。このような2段階選択を行うことによって、所望のrpsL遺伝子が染色体DNAに組み込まれた大腸菌を取得することができる(例えば、ホソヤら(前掲)参照)。【0022】(変異体大腸菌細胞からの抽出液の調製)大腸菌の抽出液としては、ズベイら(前掲)の報告と同様の方法により調製されたS−30抽出液を用いることができる。大腸菌S−30抽出液は、転写及び翻訳に必要な大腸菌の全ての酵素と因子を含んでいる。更に補充的な混合液を添加することができる。具体的な調製方法としては、まず最初に大腸菌を培養し、菌体を遠心分離等により回収する。回収された菌体は、洗浄後、緩衝液に再懸濁し、フレンチプレスやガラスビーズ、ワーリングブレンダー等を用いて破砕する。破砕された大腸菌の不溶物質を遠心分離で除去し、プレインキュベーション混合液と混合してインキュベーションする。この操作によって内在性のDNA、RNAが分解されるが、更に、カルシウム塩やマイクロコッカスのヌクレアーゼ等を添加して内在性の核酸を分解させてもよい。続いて、透析により内在性のアミノ酸、核酸、ヌクレオシド等を除き、適量ずつ分注して液体窒素又は−80℃にて保存する。【0023】タンパク質合成反応を行う際には、上記S−30抽出液に、Tris−酢酸、DTT、NTPs(ATP,CTP,GTP,及びUTP)、ホスホエノールピルビン酸、ピルビン酸キナーゼ、少なくとも一種のアミノ酸(天然の20種類のアミノ酸の外それらの誘導体を含む。放射性同位元素でタンパク質を標識する場合には標識アミノ酸を除いた残りを添加する。)、ポリエチレングリコール(PEG)、葉酸、cAMP、tRNA、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、グルタミン酸カリウム、及び至適濃度の酢酸マグネシウム等の一部あるいは全部を添加する。これらの補充的な混合液は、通常S−30抽出液とは別に保存しておき、使用直前に混合するが、これらをS−30抽出液とあらかじめ混合して凍結融解を行い、RNA分解酵素複合体を除去することもできる(国際公開WO0183805号パンフレット参照)。【0024】本発明において、エネルギー再生系としては好ましくは0.02〜5μg/μlのクレアチンキナーゼ(CK)と10〜100mMのクレアチンホスフェート(CP)の組合せや、1〜20mMのホスホエノールピルベート(PEP)と0.01〜1μg/μlのピルビン酸キナーゼ(PK)の組合せ等によるATP再生系が使用可能であるが、これらに限定されない。上記PK及びCKは何れもADPをATPに再生する酵素であり、それぞれPEPおよびCPを基質として必要とする。【0025】これらの細胞抽出液又は補充的な混合液は、使用しやすいように一定量ごと分注して製品として配送することができる。これらの製品は凍結又は乾燥状態で保存することができ、保存及び輸送に適した容器に収容してキットとして販売される。キットには取扱説明書や陽性コントロールDNA、ベクターDNA等を添付することができる。【0026】(無細胞タンパク質合成系におけるタンパク質の合成)無細胞タンパク質合成系でタンパク質を合成する方法としては、真核細胞の核と細胞質のように転写反応と翻訳反応を別の試験管で行う系と、両者を同時に行う転写翻訳共役系とがある。本発明のタンパク質の製造方法によれば、原核細胞である大腸菌の抽出液を用いるため何れの反応系も可能であるが、不安定なmRNAを直接扱わなくてすむ転写翻訳共役系が好ましい。【0027】まず最初に、発現させたいタンパク質をコードするポリヌクレオチドを調製する。本発明において「タンパク質」とは、生物学的に活性を有する完全長のタンパク質、又はその一部のポリペプチド断片の何れでもよい。多くのタンパク質、特に真核生物のタンパク質は、遺伝子重複による進化の結果複数のドメイン構造を有するものが多く、各ドメインごとに特徴的な構造や機能を有することから、本発明の方法により発現させることが極めて有効である。目的のタンパク質をコードする核酸はDNAでもRNAでも良く、真核生物又は原核生物の細胞又は組織から公知の方法を用いて抽出することができる。cDNAライブラリー等から公知の方法によりクローン化したDNAでも良い。【0028】クローニングされたcDNAからmRNAを試験管で合成するには、例えば、T7、T3やSP6などのファージ由来の転写反応系、大腸菌由来の転写反応系等が挙げられる。この系を用いたmRNA合成は、市販のキット、例えばMEGAscript(商標)(Ambion社)、RiboMAX(商標)(Promega社)などを利用して実施することができる。翻訳開始コドン(ATG)とプロモーター間の5’非翻訳領域の距離と塩基配列は重要であり、大腸菌のSD配列を含む必要がある。所望の遺伝子を適当なベクターに組み込んだ後、プラスミドDNAはアルカリ−SDS法、又はDNA結合樹脂などを用いて精製する。或いはこれらのプロモーターを含むプライマーを用いて、PCRにより増幅したDNA断片を鋳型として用いることもできる。多検体を同時に処理する場合にはきわめて簡便で迅速な方法として有用である。転写翻訳共役反応を用いる場合には、ここで調製したプラスミドDNA又はPCR産物は無細胞タンパク質合成系の鋳型として直接用いることができる。【0029】反応液に透析膜、限外ろ過膜などを介してATP、GTP、アミノ酸、クレアチンリン酸などの小分子基質を供給し、あわせて老廃物を除去するセミバッチ方式、或いは膜を介して生産物も除去する連続式が報告されている。これらの手法により反応時間は5〜数十倍にも延長することができ、大量のタンパク質を合成することも可能である。例えば、木川ら(Kigawa, T., et al., FEBS Letters 1999, 442:15-19)及び特開2000−175695号公報に記載される方法では、上記反応液を分画分子量10000以上、好ましくは50000以上の透析膜の内部に入れ、反応液の5〜10倍容量の透析外液(アミノ酸、エネルギー源等を含む。)に対して透析する。透析は、通常20〜40℃、好ましくは23〜30℃にて攪拌しつつ行い、反応速度の低下が認められる時点で新しい外液と交換する。最適化した無細胞タンパク質合成系での生産性は大腸菌などの細胞内における生産性をはるかに超えるものである。【0030】【実施例】本発明は以下の実施例においてより具体的に説明される。実施例は大腸菌BL21を親株としてストレプトマイシン存在下で生育するコロニーをスクリーニングした結果得られた9種類の変異株について、タンパク質合成活性等の種々の性質を調べたものである。【0031】(実施例1)大腸菌BL21株からの変異株の取得大腸菌BL21株を親株として、ストレプトマイシン存在下で生育する変異株をスクリーニングした。自然突然変異によるストレプトマイシン耐性株を150株取得してrpsL遺伝子全長のシーケンシングを行った。その結果、約80%の耐性株がrpsL遺伝子に変異を有することを確認した。これらのrpsL変異は9種類であり、それぞれの代表株を表1に示した。表1において、表現型欄のSmRはストレプトマイシン耐性を、SmDはストレプトマイシン依存性を表す。突然変異の位置は、配列番号1に示した塩基配列の位置における塩基置換を、アミノ酸置換は、配列番号2に示したアミノ酸配列の位置におけるアミノ酸置換を示す。なお、塩基及びアミノ酸を表す記号は一文字の略号を用いた。【0032】【表1】大腸菌BL21株から得られた変異株リスト【0033】(実施例2)抗生物質存在下での培養実施例1で得られた大腸菌の変異株(K43T、K43R、及びK88R)と親株(野生型BL21)のそれぞれを2xYT培地中、37℃で培養したときの増殖曲線を図1に示した。図1には、培養開始後2時間から9時間までの間にサンプリングした試料の濁度(600nmの吸光度)を測定して菌体量を推定した。図1に示した何れの変異株も野生型であるBL21とほとんど変わらない増殖特性を示したが、培養8時間経過後の菌体量はK43T変異株が最も多かった。【0034】(実施例3)各種変異体大腸菌からの細胞抽出液の調製とCATアッセイによるタンパク質合成活性の比較大腸菌S-30抽出液はズベイら(前掲)の方法に従って、表1に示したそれぞれの菌株から調製した。タンパク質合成反応は下記の表2に示した組成の溶液に、pK7−CAT(CAT発現ベクター;Kim et al.,Eur. J. Biochem. 239, 881-886, 1996参照)を120ng(4ng/μlx30μl)添加し、上記各大腸菌のS−30抽出液7.2μlを加えて全量を30μlとした反応溶液中で、37℃、1時間バッチ法により行った。合成されたCATタンパク質の定量はShawらの方法(Methods Enzymol. 735-755, 1975参照)に従い、その結果を図2に示した。【0035】【表2】【0036】図2に示したように、S12リボソームタンパク質の43番目のアミノ酸の置換は、タンパク質合成活性に大きな影響を与えていることが分かる。特に、K43Tの変異株は、野生型であるBL21の約1.3倍のタンパク質合成活性を示した。図2の下部に示した表には、それぞれの大腸菌株から調製した抽出液のタンパク質濃度と260nmにおける吸光度(主に核酸の濃度を示す。)を示した。これらの結果より、各抽出液中のタンパク質量や核酸量のばらつきは、タンパク質合成活性とは直接関係ないことが分かる。【0037】(実施例4)各種大腸菌変異株の特性評価Mg2+濃度を20mMと5mMのそれぞれに設定して実施例3と同様の方法により野生型及び変異株大腸菌(K43T,K43R)のS−30抽出液を調製した。これらの抽出液を6〜38%のショ糖を含む緩衝液(20mM HEPES,20mM又は5mM MgCl2,100mM NH4Cl,4.5mM 2−メルカプトエタノール)の上にのせベックマンSW28ロータを用いて17000rpm、17時間超遠心分離を行った後、0.8mlずつのフラクションに分画した。縦軸は260nmの吸光度を測定してリボソームの存在画分を推定した。その結果を図3に示した。図3の結果によれば、野生型大腸菌では、Mg2+濃度が5mMに低下すると70Sリボソームの一部が解離して30Sサブユニットが出現していることが分かる。K43R変異体はこの傾向が大きく、低Mg2+濃度でかなりの割合で70Sリボソームが50Sと30Sのサブユニットに分離していた。これに対し、K43T変異体は、低Mg2+濃度においてもほとんど70Sリボソームの解離が起こっていないことが分かる。この結果より、S12リボソームタンパク質にK43Tの変異が起こることによって、リボソーム全体の構造が安定化していることが示唆される。【0038】(実施例5)種々のマウスcDNAからのタンパク質合成種々のマウスcDNAを鋳型として、野生型及びK43T変異体大腸菌のS−30抽出液を用いて無細胞タンパク質合成反応を行い、タンパク質合成活性を評価した。マウスcDNAライブラリーから得られた3種類のクローン(DDBJAccession No. AK003622, AK010399, AK019487)を鋳型として、2段階ポリメラーゼ連鎖反応(2段階PCR)法により、これらのcDNAにT7プロモーター、SD配列、T7ターミネーターを付加したDNA断片を調製した。まず、表3に示した塩基配列のプライマー対を用いて第1次PCRを行った。【0039】【表3】【0040】各プライマー濃度はそれぞれ0.25μMとし、DNAポリメラーゼ(ロッシュ社製)を添加後、94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で2分間のサイクルを10回、続いて94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で2分+1サイクルごとに5秒間延長したサイクルを20回、最後に72℃で7分間の伸長反応を1回行った。【0041】次に、上記反応によって得られたそれぞれの第1次PCR産物と、T7プロモーター配列の下流にヒスチジンタグ配列を有する5’プライマー:5'-GCTCTTGTCATTGTGCTTCGCATGATTACGAATTCAGATCTCGATCCCGCGAAATTAATACGACTCACTATAGGGAGACCACAACGGTTTCCCTCTAGAAATAATTTTGTTTAACTTTAAGAAGGAGATATACATATGAAAGGCAGCAGCCATCATCATCATCATCACGATTACGATATCCCAACGACCGAAAACCTGTATTTTCAGGGATCCAGCGGCTCCTCGGG-3'(T7P-DM5-KH6、配列番号9)、T7ターミネーター配列を有する3’プライマー:5'-CGGGGCCCTCGTCAGGATAATAATTGATTGATGCTGAGTTGGCTGCTGCCACCGCTGAGCAATAACTAGCATAACCCCTTGGGGCCTCTAAACGGGTCTTGAGGGGTTTTTTGCTGAAAGGAGGAACTATATCCGGATAACCTCGAGCTGCAGGCATGCAAGCTTGGCGAAGCACAATGACAAGAGC-3'(T7T-DM3-Term、配列番号10)、及びユニバーサルプライマー:5'-GCTCTTGTCATTGTGCTTCG-3' U2、配列番号11)とを用いて第2次PCRを行った。第2次PCR溶液中での5’プライマーと3’プライマーの濃度はそれぞれ0.05μM,ユニバーサルプライマーの濃度は1μMとし、第1次PCRと同じ増幅反応条件を用いた。続いて、これらのDNA断片をTOPO TA-cloning kit (Invitrogen社)を用いてpPCR2.1にクローン化し、各発現ベクター(クローンA:P011114-10、クローンB:P020107-17、クローンC:P020408-01)を構築した。【0042】実施例3と同様の方法により、表2に示した組成の反応溶液30μlに、クローンA〜Cの各発現ベクターを、表4に示した濃度となるように添加し、37℃で1時間、バッチ法によりタンパク質合成反応を行った。合成反応終了後、Ni−NTAアガロースビーズで粗精製を行った後、SDS−PAGEを行い、蛍光色素SYPRO Orange protein gel stains (Molecular Probes社製)でタンパク質を染色した。合成タンパク質の分子量に相当するバンドをルミノイメージアナライザーLAS−1000(富士写真フィルム社製)により検出、定量した。このようにして測定した3種類のタンパク質の合成量を、野生型に対するK43T変異株の比で表した結果を以下の表4に示した。A、B、Cのいずれのクローンも野生型の大腸菌抽出液中での発現量よりも、K43T変異株から調製した抽出液中での発現量の方が1.5〜2倍以上も多いことが分かった。【0043】【表4】種々のマウスcDNAを用いた合成活性の比較【0044】【発明の効果】本発明に係る変異体大腸菌より調製した細胞抽出液は、S12リボソームタンパク質に特定の変異を有しており、野生型と比較して有意に高いタンパク質合成活性を示す。この変異体S12リボソームタンパク質は、翻訳段階でのmRNAのコドンの読み取り効率に影響を与えている可能性があることから、従来の方法では合成量の少なかったmRNAの発現効率を飛躍的に高める可能性がある。特に、本発明に係る変異体大腸菌のうち、ストレプトマイシンの存在下でも増殖する株は、培養中に他の菌体の夾雑を防ぐことが容易になり、効率よく無細胞タンパク質合成のための抽出液を調製することができる。【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】野生型及びS12リボソームタンパク質に変異を有する大腸菌の増殖特性を、培養時間に対する培養液の濁度(OD600)で示した図である。全ての株について2xYT培地中、37℃で培養した。【図2】野生型及びS12リボソームタンパク質に変異を有する大腸菌の抽出液を用いてCAT合成量を測定した結果である。CATの合成は、バッチ法にて37℃、1時間行った。【図3】野生型及びS12リボソームタンパク質に変異を有する大腸菌のS−30抽出液を異なる濃度のMg2+存在下でショ糖密度勾配超遠心分離により分画した結果である。 S12リボソームタンパク質遺伝子に配列番号2に示すアミノ酸配列において43番目の位置でリジンからスレオニンへの置換及び/又は88番目の位置でリジンからグルタミン酸への置換を引き起こす変異を有する大腸菌より調製されることを特徴とする無細胞タンパク質合成用抽出液。 S12リボソームタンパク質遺伝子に配列番号2に示すアミノ酸配列において43番目の位置でリジンからスレオニンへの置換及び/又は88番目の位置でリジンからグルタミン酸への置換を引き起こす変異を有する大腸菌より調製される無細胞タンパク質合成用抽出液と、 エネルギー再生系、少なくとも一種のアミノ酸、ヌクレオチド三リン酸、及び/又はRNAポリメラーゼを含む混合液と、を含む無細胞タンパク質合成キット。 S12リボソームタンパク質遺伝子に配列番号2に示すアミノ酸配列において43番目の位置でリジンからスレオニンへの置換及び/又は88番目の位置でリジンからグルタミン酸への置換を引き起こす変異を有する大腸菌より調製される無細胞タンパク質合成用抽出液と、 エネルギー再生系、少なくとも一種のアミノ酸、ヌクレオチド三リン酸、及びRNAポリメラーゼからなる群より選択される少なくとも一種と、を含む無細胞タンパク質合成のための混合物。 タンパク質をコードするポリヌクレオチドを調製し、 前記ポリヌクレオチドを請求項1に記載の無細胞タンパク質合成用抽出液を用いて発現させる工程を含むことを特徴とする無細胞系によるタンパク質の製造方法。


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