タイトル: | 特許公報(B2)_RNA抽出方法 |
出願番号: | 2002340942 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12N 15/09 |
鈴木 雄二 河津 哲 小山 博之 JP 4131562 特許公報(B2) 20080606 2002340942 20021125 RNA抽出方法 国立大学法人岐阜大学 304019399 王子製紙株式会社 000122298 金谷 宥 100102369 中本 宏 100078503 井上 昭 100087022 鈴木 雄二 河津 哲 小山 博之 20080813 C12N 15/09 20060101AFI20080724BHJP JPC12N15/00 A C12N 15/00 CAplus(STN) PubMed Methods:A Companion to Methods in Enzymology,1998年,Vol.15,p.75-83 6 2004173524 20040624 8 20050615 (出願人による申告)平成14年度植物利用エネルギー合理化工業原料生産技術の研究開発 長井 啓子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、生物組織からのRNA(リボ核酸)の抽出方法に関し、特に、RNAを高い収率で得ることができる方法に関する。近年、遺伝子工学の進展に伴い、これを応用した形質転換植物の作出が盛んに行われている。遺伝子操作を行うためには、目的とする植物種からのRNA抽出が不可欠である。従って、本発明によるRNA抽出方法は、遺伝子工学的技術分野において有用である。【0002】【従来の技術】今日までに、植物組織からの核酸抽出に適用可能な実験手法が多く提唱されている。代表的なものとしては、▲1▼ドデシル硫酸ナトリウム(以下SDSと略す)を含む抽出溶液を用い、フェノール抽出操作及び塩化リチウム処理によりそれぞれタンパク質と糖質を除去するSDS・塩化リチウム法(非特許文献1参照)、▲2▼臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(以下CTABと略す)を含む抽出溶液を用い、糖質、タンパク質画分をクロロホルム抽出することによって除くCTAB法(非特許文献2参照)、▲3▼グアニジウムチオシアネートを含む抽出溶液を用いて試料を破砕した後、塩化セシウムを用いる超遠心分離によりRNAを沈殿させる方法(非特許文献3参照)、▲4▼酸性グアニジンチオイソシアネート溶液、フェノール及びクロロホルムを用い、単一のステップでRNA画分をその他の画分から分離できるAcid guanidinium-Phenol-Chloroform法(以下AGPC法と略す:非特許文献4参照)などが挙げられる。【0003】これらの方法の中で、▲4▼のAGPC法は非常に簡便な方法であるが、材料とすることができる植物種が非常に限られている。一方、その他の方法においては、材料とすることができる植物種が比較的多いものの、長時間にわたる煩雑な操作が必要とされる。【0004】このように、従来の方法には広い範囲の植物種から簡便にRNAを抽出することができる方法は存在していなかった。その理由として、植物材料がポリフェノール等の二次代謝産物や多糖類を多く含む場合、これらをRNA画分から除くためには多くの操作が必要になる、ということが挙げられる。特に、ポリフェノールは核酸抽出時に核酸に結合し(非特許文献5参照)、その分解を引き起こし核酸の収量や質を著しく低下させる可能性が指摘されている(非特許文献6参照)。【0005】このような状況において、広い範囲にわたる植物種から高品位のRNAを簡便に抽出する方法の開発が望まれていた。さらに、植物に対する育種は地球環境の保全や食料増産の立場からみた場合においても今後益々重要になると考えられ、そのためには従来の交雑育種に加え、遺伝子工学的手法を用いる育種法の応用が不可欠であることは言うまでもない。【0006】【非特許文献1】Shirzadegan et al., Nucleic Acids Res. 19:6055 (1991)【非特許文献2】Wagner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84: 2097-2100 (1987)【非特許文献3】Chirgwin et al., Biochemistry 18:5294-5299 (1979)【非特許文献4】Chomczynski and Sacchi, Anal. Biochem. 162:156-159 (1987)【非特許文献5】John, Nucleic Acids Res. 20:2381 (1992)【非特許文献6】Kim et al., Nucleic Acids Res. 25:1085-1086 (1997)【0007】【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記に示した現状に鑑み、生物から高品位のRNAを簡便に得るための抽出方法の提供を目的とする。特に、本発明は、植物からRNAを抽出する際のRNAの収率を向上させることができる方法を提供することを課題とする。【0008】【課題を解決するための手段】上記課題を解決することができる本発明は、以下の各発明を包含する。(1)生物組織を緩衝液と混合してRNAを溶出させる工程を含むRNA抽出方法において、該緩衝液がイソアスコルビン酸ナトリウムを含有することを特徴とするRNAの抽出方法。(2)前記RNAの抽出方法は、(a)生物組織からRNAを含む成分を溶出させる工程、(b)溶出物から、タンパク、DNA等を含む相とRNAと多糖類を含む相とを分離する工程及び(c)RNAと多糖類を含む相からRNAを分離する工程を含むことを特徴とする(1)記載のRNAの抽出方法。【0009】(3)前記RNAを溶出させる工程は、生物組織と緩衝液の混合物を磨砕する処理を含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載のRNAの抽出方法。【0010】(4)前記緩衝液は、イソアスコルビン酸ナトリウムの他に、緩衝剤、有機溶媒及び界面活性剤を含有するものである(1)〜(3)のいずれか1項に記載のRNAの抽出方法。【0011】(5)イソアスコルビン酸ナトリウムは緩衝液中に500〜740mMの濃度範囲で含まれていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載のRNAの抽出方法。【0012】(6)生物は植物であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載のRNAの抽出方法。【0013】【発明の実施の形態】本発明の生物からRNAを抽出する方法は、特に生物組織が二次代謝物や多糖類を含み、抽出に困難性を伴う場合のRNAの抽出方法として有効である。具体的には、植物、菌を主な対象とするものであるが、以下、植物を例として本発明を説明する。【0014】植物としては、特に限定されるものではないが、例えばユーカリ、アカシア、パラゴムノキ、コーヒー、キンモクセイ、チャ等の常緑広葉樹、ポプラ、コナラ、クヌギ、ウルシ等の落葉広葉樹、ミカン、レモン、サクラ、モモ、リンゴ、ナシ、アボガド、キウイフルーツ、カキ、クルミ、ブドウ、イチヂク、アーモンド、マンゴウ等の果樹類、バラ、ツバキ、ウメ等の花木類等、マツ類、スギ類、ヒノキ類等の針葉樹、イネ、コムギ、ソバ、ダイズ、ニガウリ等の草本性の作物などを挙げることができる。さらに、実際に用いるこれら植物の組織としては、茎頂部、あるいは胚軸、葉、樹幹、根等が挙げられる。【0015】次に、本発明のRNAの抽出方法を具体的に説明する。本発明で言う「RNA抽出方法」とは、(a)植物組織からRNA(リボ核酸)を含む成分を溶出させる工程、(b)溶出物から、タンパク、DNA(デオキシリボ核酸)等を含む相とRNAと多糖類を含む相とを分離する工程、(c)RNAと多糖類を含む相からRNAを分離する工程、を含む全行程を意味する。【0016】上記の溶出させる(a)工程は、緩衝液により行なわれる。緩衝液とは、水に緩衝剤、界面活性剤を含有する液であり、本発明では、その中にイソアスコルビン酸ナトリウムを含有することが特徴である。緩衝剤は有機酸の塩であり、例えば、生化学研究に有用なグッド緩衝液があり、より好ましくはトリス−塩酸緩衝液が例示される。イソアスコルビン酸ナトリウムは、緩衝液中で100mM以上であり、250mM以上であることが好ましく、より好ましくは500〜740mMである。100mM未満では効果がはっきりせず、約800mMは、常温におけるイソアスコルビン酸の水に対する飽和濃度であり、これを越えて配合しても効果は向上しない。【0017】前記の溶出工程は、例えば粉砕した植物組織を緩衝液中で攪拌することで行なわれ得る。しかし、より良く溶出させるためには、磨砕することが好ましい。磨砕は、植物組織と緩衝液を混合し、すり鉢、乳鉢などで行なうか、媒体攪拌ミルなどを使用して行なう。【0018】緩衝液中には、必要により、Mg++イオンやMn++イオンを必要とするRNA分解酵素から保護する目的で、キレート剤を含有しても良い。キレート剤としては、例えばEDTA(Ethylenediamine-N,N,N',N'-tetraacetic acid, tetrasodium salt, tetrahydrate)、EGTA〔O,O'-Bis(2-aminoethyl)ethyleneglycol-N,N,N',N'-tetraacetic acid〕、クエン酸ナトリウム、サリチル酸(及びその塩)などが例示される。また、緩衝液中には、様々なタンパク質を変性させる目的で、有機溶媒を含有しても良く、有機溶媒としては、例えばクロロホルム、フェノール、クロロホルム・フェノール混合液などが挙げられる。【0019】次に、溶出された液からRNAと多糖類を含む相とタンパク質やDNAを含む相を分離すること〔(b)工程〕が必要である。そのためには、クロロホルム、フェノール、クロロホルム・フェノール混合液などを使用する公知の方法(前記した▲1▼〜▲4▼などに記載されている方法)が適用できる。【0020】最後に、(c)工程、即ちRNAと多糖類を含む水相からRNAを分離する方法としては、前記水相に対して遠心分離を行ないRNAのみを沈殿する方法が挙げられる。このような分離方法には、塩化リチウムの使用(前記した▲1▼に記載されている方法)やイソプロピルアルコール、クエン酸三ナトリウム、及び塩化ナトリウムの混合物の使用〔Chomczynski and Mackey Biotechniques 19:942-945 (1995)参照〕などが挙げられるが、これらに限定されない。【0021】【実施例】<実施例1>抽出方法については、特に詳しく説明しない箇所は、Molecular Cloning (Sambrook, et.al. Molecular cloning : a laboratory manual / J. Sambrook, E.F. Fritsch, T. Maniatis. 2nd ed. Cold Spring Harbor, N.Y.: Cold Spring Harbor Laboratory, 1989)に記載されている方法に従った。供試試料はEucalyptus camaldulensis(播種後2ヶ月)の葉組織を採取し、抽出操作直前まで超低温冷凍庫(−80℃)において保存した。【0022】(1)0.5gの凍結試料を液体窒素下で乳鉢及び乳棒を用い破砕した後、2.5mlのRNA抽出溶液〔500mMイソアスコルビン酸ナトリウム、100mMTris−HCl緩衝液(pH8)、10mMエチレンジアミン四酢酸、5%(v/v)2−メルカプトエタノール、2%(w/v)SDS(H8.0)〕を加え、ヘアドライヤーで凍結した溶液を融解させつつよく磨砕して磨砕液を調製した。【0023】(2)0.5mlの磨砕液を1.5mlのポリプロピレンチューブに移し、等量のクロロホルム:イソアミルアルコール溶液を添加し充分に混合した。混合後、遠心分離(15,000rpm、10分、室温)により上清を回収した。【0024】(3)上清に50%容の66.7%(w/v)グアニジンチオイソシアネート溶液、15%容の3M酢酸ナトリウム溶液(pH5.2)、及び等量の水飽和フェノール溶液を加え、撹拌し均一な溶液とし、室温にて3分間放置した。【0025】(4)その後、加えたフェノールの20%容のクロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)溶液を加えて撹拌し、氷上で15分間放置した後に遠心分離(15,000rpm、10分、4℃)により上清を回収した。サンプルが懸濁されている酸性グアニジンチオイソシアネート及びフェノールの混合物に対してこの操作を行うことで、RNA画分からタンパク質及びDNAを除くことができた〔Chomczynski and Sacchi, Anal. Biochem. 162:156-159 (1987)参照〕。【0026】(5)上清に1/3容の1.2M 塩化ナトリウム及び0.8M クエン酸三ナトリウム混合溶液、2/3容のイソプロピルアルコールを加え室温で10分間放置後、遠心分離(15,000rpm、15分、4℃)を行った。このような塩の混合溶液とイソプロピルアルコールを用いることで、サンプル中のRNAを多糖類が混入することなく沈殿させることができた〔Chomczynski and Mackey Biotechniques 19:942-945 (1995)参照〕。【0027】(6)沈殿を75%エタノール溶液で2回洗浄した後に滅菌水に溶解させ、全RNA画分とした。RNA収量は1260 μg/g新鮮重であった。RNA収率その他の測定結果を表1にまとめて示す。【0028】<実施例2〜4、比較例1>RNA抽出溶液に添加したイソアスコルビン酸ナトリウムの濃度を表中に示すように変えてRNA抽出溶液を調製し、実施例1と同様にユーカリ組織を材料としRNAを抽出した結果を表1に示した。【0029】【表1】【0030】なお、表1における数値の意味は以下の注釈に示す。*1 実施例1における収量の絶対値は1260μg/g新鮮重であり、他の実施例・比較例では、これを100とした時の相対値を記載する。*2 260nmにおける吸光度と280nmにおける吸光度の比。RNA画分へのタンパク質の混入度合の指標となる。混入が少ない場合、この値は1.8−2.0程度となり、混入が増加するほど値は低くなる。*3 260nmにおける吸光度と230nmにおける吸光度の比。RNA画分への多糖類の混入度合の指標となる。混入が少ない場合、この値は2.0−2.4程度となり、混入が増加するほど値は低くなる。【0031】イソアスコルビン酸ナトリウムを添加しない区(比較例1)においてはRNAの収量が著しく低かった。イソアスコルビン酸ナトリウムを100mM添加した区(実施例2)においてはRNAの収量は比較例より少し向上している。250mM添加した区(実施例3)においてはかなり改善が認められ、500mM添加した区(実施例1)においては、すべての実験区の中で収量が最大となり、740mM(飽和濃度)添加した区(実施例4)においては500mM添加した区とほぼ同様の結果が得られた。【0032】イソアスコルビン酸ナトリウムを加えない区及び100から250mM添加した区においてはRNA画分にタンパク質や多糖類の混入が認められたが、500mM及び740mM添加した区においては混入はほとんど認められなかった。このことから、イソアスコルビン酸ナトリウムを添加することはRNA画分の純度を向上させる作用を持つということも同時に明らかになった。なお、740mM添加時には、収量及び質ともに500mM添加時と差異が認められないことから、常温においては、500mM前後の添加量が最も有効であると言える。また、500mM添加した区のRNA画分には電気泳動的に分解がほとんど認められず、逆転写反応に利用可能であることも確認された。【0033】<比較例2>RNA抽出溶液のうち500mMイソアスコルビン酸ナトリウムの代わりに500mMアスコルビン酸を加えたものを用い、実施例1と同様にユーカリ組織を材料としRNAを抽出したところ、収量が1/5に低下し、同時にタンパク質及び多糖の著しい混入が生じた。したがって、本研究における効果はイソアスコルビン酸ナトリウムに特に起因するものであることが明らかとなった。【0034】<実施例5〜10>以下に挙げる木本性植物及び草本性植物の葉から、実施例1と同様の方法でRNAを抽出した。ただし、葉の磨砕直後に行うクロロホルム抽出は2回行った。ウメ(実施例5)、キンモクセイ(実施例6)、チャ(実施例7)、ダイズ(実施例8)、ソバ(実施例9)、イネ(実施例10)。ウメ、キンモクセイ、チャの場合は成木の成熟した葉を用い、ダイズ、イネ、ソバの場合は開花後の個体の成熟した葉を用いた。結果は表2に示した。【0035】【表2】*4 吸光度比1及び2は表1に準じる。【0036】上記の材料とした植物種から量、質ともに充分なRNAを抽出することができた。このRNA画分には電気泳動的に分解がほとんど認められず、逆転写反応に利用可能であることも確認された。したがって、本発明は木本性植物、草本性植物を問わずに広い範囲にわたる種に適用可能であることが明らかになった。本発明を用いることで、多くの植物種における遺伝子工学的育種の進展がより容易になることが強く期待される。【0037】【発明の効果】本発明により、イソアスコルビン酸ナトリウムの新規の効果として、植物より簡便に高品位のRNAを高効率で抽出することを可能にするという効果が明らかとなった。 生物組織を緩衝液と混合してRNA(リボ核酸)を溶出させる工程を含むRNA抽出方法において、該緩衝液がイソアスコルビン酸ナトリウムを100〜800mMの濃度範囲で含有することを特徴とするRNAの抽出方法。 前記RNAの抽出方法は、(a)生物組織からRNAを含む成分を溶出させる工程、(b)溶出物から、タンパク、DNA(デオキシリボ核酸)等を含む相とRNAと多糖類を含む相とを分離する工程及び(c)RNAと多糖類を含む相からRNAを分離する工程を含むことを特徴とする請求項1記載のRNAの抽出方法。 前記RNAを溶出させる工程は、生物組織と緩衝液の混合物を磨砕する処理を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のRNAの抽出方法。 前記緩衝液は、イソアスコルビン酸ナトリウムの他に、緩衝剤、有機溶媒及び界面活性剤を含有するものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のRNAの抽出方法。 イソアスコルビン酸ナトリウムは緩衝液中に500〜740mMの濃度範囲で含まれていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のRNAの抽出方法。 生物は植物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のRNAの抽出方法。