生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_バイオサーファクタントを産生する新規微生物
出願番号:2002324863
年次:2007
IPC分類:C12N 1/20,B01F 17/56,B01J 13/00,A01N 63/02


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河合 富佐子 マネラート スパシル JP 3937324 特許公報(B2) 20070406 2002324863 20021108 バイオサーファクタントを産生する新規微生物 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 下田 昭 100110249 河合 富佐子 マネラート スパシル 20070627 C12N 1/20 20060101AFI20070607BHJP B01F 17/56 20060101ALI20070607BHJP B01J 13/00 20060101ALI20070607BHJP A01N 63/02 20060101ALN20070607BHJP JPC12N1/20 AB01F17/56B01J13/00 AA01N63/02 P C12N 1/20 B01F 17/56 B01J 13/00 A01N 63/02 BIOSIS/WPI(DIALOG) PubMed JSTPlus(JDream2) 特開昭62−175189(JP,A) 特開昭63−156714(JP,A) 特開平06−184194(JP,A) 特開平06−298784(JP,A) 4 FERM P-19061 2004154090 20040603 12 20040914 六笠 紀子 【0001】 この発明は、海洋由来の新規微生物、及びこの微生物の培養液を用いて油、特に原油を乳化する方法に関する。【0002】【従来の技術】界面活性剤は、現代生活には欠かせない物質としていわゆる洗剤のほか様々な生産過程で使用されるとともに、様々な日用製品や食品中に含まれている。特に、天然の界面活性剤として知られたサポニンやいわゆる石鹸の使用は歴史的にも長いが、天然の界面活性剤はその界面活性能力や生産性から用途が限定されている。界面活性剤としては、コストや生産量などから一般に合成界面活性剤が用いられているが、生物毒性や環境残留性といった問題が指摘されている。一方、微生物由来の様々な界面活性剤様物質が報告されており、これらはバイオサーファクタントと称されるが、ミセル形成臨界濃度(CMC)が合成洗剤に比べて低く、生物毒性や環境残留性がないといった長所を有している。また、培養により大量生産することができるといった特徴も有している。【0003】自然界には様々な微生物が存在し、それらの中にはまだ未知の機能を持つものが含まれており、バイオサーファクタント生産菌も次々と報告されている。ラムノリピド(例えば、非特許文献1参照。)やソフオロリピド(例えば、非特許文献2参照。)を含むいくつかのバイオサーファクタントは生産性を上げて既に実用化され、生合成経路なども解明されている。これらの中で海洋細菌は生育環境が海水であるため、塩分濃度の高い環境で生育可能であり、生産されるバイオサーファクタントは、塩分その他の物質が含まれる海水や廃水のような、高塩分濃度においても有効に界面活性剤として働くことが期待される。更に、このような海洋細菌由来のバイオサーファクタントは基本的に生分解性を有するので、環境残留性はない。これまで、海洋細菌由来バイオサーファクタントについてはAlcaligenes sp. MMI の glucose lipid(例えば、非特許文献3参照。)、Arthrobacter sp. の trehalose lipid(例えば、非特許文献4参照。)や Alcanivorax borkumensis の glucose lipid glycineamide(例えば、非特許文献5参照。)の報告があるが、これらの海洋細菌は本発明の海洋細菌とは分類学的に異なり、これらが産生するバイオサーファクタントも本発明のものとは異なる。【0004】【非特許文献1】M. Benincasa et al., 2002. J. Food Eng. 54:283-288【非特許文献2】M. Deshpande and Daniels, L. 1995. Bioresour. Technol. 53:143-150【非特許文献3】A. Passeri et al., 1992, Appl. Microbiol. Biotechnol. 37:281-286【非特許文献4】A. Passeri et al., 1991, Z. Naturforsch. 46c, 204-209【非特許文献5】Abraham et al. 1998, Biochim. Biophys. Acta. 1393(1): 57-62【0005】【発明が解決しようとする課題】海洋汚染の要因として原油汚染が問題になっているが、海洋由来の原油分解菌は汚染現場のバイオレメディエーションに適していると考えられる。そこで、本発明者は原油を炭素源として加えたマリンブロスで生育でき、かつ原油乳化能を示す微生物を海水から検索した。このような菌株は海洋由来であるため塩水環境でも生育できるので単独で原油処理に用いることができる。原油は乳化剤が存在しないといわゆるタールボールを形成するが、微生物が乳化力を示すと、均一に懸濁される。【0006】【課題を解決するための手段】 これらの観点から培養液中にバイオサーファクタントを産生する海洋細菌をスクリーニングし、本発明の菌株を得ることができた。この菌株は、バイオサーファクタントを産生し、油乳化能を示す。 即ち、本発明は、バイオサーファクタントを産生するMyroides odoratus SM-1(受託番号FERM P-19061)(以下、単に「SM−1」という。)である。 また本発明は、この微生物の培養液、好ましくはその上澄液である。 ここで用いる培地に特に制限はなく、マリンブロス(例えば、Difco社製、Bacto Marine Broth 2216)が好ましいが、下記の基礎塩培地を使用してもよい。【0007】1)SM−1用培地には、下記溶液A、B及びCを混合して全量を1Lとし、pH7.5に調製したものを使用できる。【0010】 また本発明は、上記培養液を主要成分とする界面活性剤組成物である。この界面活性剤組成物は、この外の公知の界面活性剤を含んでもよい。この培養液としてその上澄液を用いてもよい。更に、この界面活性剤組成物は、必要に応じて、公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、香料、精油、防腐剤、化粧用活性剤、加湿剤、ビタミン、スフィンゴ脂質、脂溶性ポリマー等を含んでもよい。 更に、本発明は、上記培養液、又は上記界面活性剤組成物を用いて油、特に原油を乳化する方法である。これらは乳化能を有するため、常法に従い使用すれば、油、特に原油を乳化できる。 なお、培養液からバイオサーファクタントを抽出する方法としては、通常の界面活性剤の抽出法を用いればよいが、例えば、濃塩酸でpH2に調整後、1/4量の酢酸エチルで抽出を例えば3回繰り返すことにより行うことができる。ここで培養液としてその上澄液を用いて抽出を行ってもよい。【0011】 なお、Myroides odoratus SM-1は、2002年10月9日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、受託番号FERM P−19061が付与された。【0012】 この微生物の形態的性質、培養的性質及び生理学的性質を表1に示す。【表1】【0013】【0014】【発明の実施の形態】 本発明の微生物は下記の方法により単離した。(1)1次スクリーニング: タイ南部海域海水を微生物源として使用し、3%食塩を添加した栄養培地にこの海水を塗り付け、出現したコロニーを分取し、約200株の細菌を分離した。このコロニーを3%食塩を添加した血液寒天培地に塗布し、溶血反応を示したものを選択し、23株を選択した。(2)2次スクリーニング: 市販のマリンブロス(Difco 社製、Bacto Marine Broth 2216)に2滴の人工風化原油(weathered crude oil,「w.c.o.」と略す。:Arabian light crude oilを230℃で2時間処理したもの。)を加えたもので、上記の選択菌株を培養し、強い乳化能を示した9菌株を選択した。 水中では原油は溶解せず塊のままであるので、原油が乳化したということは、培養液中でバイオサーファクタント(以下「BS」という。)が生産されていることを示す。乳化能を観察して、最も優れた乳化能を示した菌株をSM−1と名付けた。【0015】 次に、上記スクリーニングで得られた菌株について、簡単な形態観察、培養及び生理学的所見とともに16S リボゾームRNA遺伝子を解析し、データベースからホモロジー検索により同定した。 遺伝子解析は菌体から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、既報の方法(A. Hiraishi, Y. K. Shin, Y. Ueda and J. Sugiyama, J. Microbiol. Methods, 19, 145-154 (1994))に従って作成した下記のプライマーを用いて、16SリボゾーマルRNA遺伝子を増幅した。PCR産物はpGEM−T Easyベクターにサブクローニングしシーケンスした。この結果をBLASTと照合して判定した。【0016】(1)PCR増幅用プライマーEu8f(5’-AGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3’, Eschelichia coli positions 8 to 27)(配列番号1)Eu1492r(5’-GGTTACCTTGTTACGACTT-3’, Eschelichia coli positions 1510 to 1492)(配列番号2)(2)シーケンス用プライマーEu518r(5’-GTATTACCGCGGCTGCTGG-3’, Eschelichia coli positions 536-518)(配列番号3)Eu803r(5’-CATCGTTTACGGCGTGGAC-3’, Eschelichia coli positions 821-803)(配列番号4)Eu1092f(5’-AAGTCCCGCAACGAGCGCA-3’, Eschelichia coli positions 1092-1110)(配列番号5)Eu1093r(5’-TTGCGCTCGTTGCGGGACT-3’, Eschelichia coli positions 1111-1093)(配列番号6)Eu1389r(5’-ACGGGCGGTGTGTACAAG-3’, Eschelichia coli positions 1406-1389)(配列番号7)【0017】 その結果、SM−1は、Myroides odoratus と判定された。 Myroides odoratusはgut bacteriaあるいは淡水魚から分離されているが、BS生産に関する報告はない。【0018】 次に、本発明の微生物が産生するBSの活性を調べた。 本発明の微生物は、培養液中で原油が乳化されることから(上記2次スクリーニングを参照のこと)、乳化剤(バイオサーファクタント)を産出していることは明らかであるが、その乳化能を次のような方法で定量的に測定した。培養上清は3%NaClを含んでいるので、活性測定は3%NaCl存在下で行われたことになる。乳化試験1(ヘキサデカン乳化能力) 4mlの培養上清に同量のヘキサデカンを加えて、2分間vortex mixerで十分撹拌した後、10分間静置する。結果は、乳化部分の高さの元のヘキサデカン層液全体に占める割合(%)で表わす。この数値が高いほど、乳化能力は高い。乳化試験2(人工風化原油の乳化力) 2.5mlの培養上清に2滴のw.c.o.を加えて室温で24時間振盪し、生成したミセルの有無と大きさを肉眼で観察した。ミセルが細かいほど乳化能は高い。観察結果は、乳化力が大きく生成するミセルがほぼ識別できないものを「微小」、乳化力が大きいが生成するミセルがほぼ識別できるものを「小」、乳化力が小さく生成するミセルがはっきり識別できるもの(大きさはmm単位であると考えられる。)を「大」、全く乳化が見られなかったものを「なし」とした。【0020】抗菌試験市販栄養寒天培地に下記の試験菌を混釈して平板培地を作成し、直径8mmの穴をあけて、培養上清20〜70μlを入れて、30℃で1〜2日培養した。生育抑制を示すクリアーゾーンの有無を判断した。試験菌: Pseudomonas aeruginosa IFO 13275、Staphylococcus aureus IFO 13276、Rhodococcus globerulus BK1、Klebsiella pneumonia IFO 3318、Acinetobacter sp. 11W2、Bacillus subtilis IFO 3314、Serratia marcescens IFO 12648【0021】まず、SM−1について、下記の方法でBSを単離した。上記の市販マリンブロスで1〜3日培養させた後、菌体を遠心分離で除去した培養上清を6NHClでpH2に調整し、酢酸エチルで抽出した。抽出液を濃縮後、シリカゲルカラムに吸着させヘキサン、クロロホルム、クロロホルム+メタノール(1〜9%)で順に溶出させた。各溶出画分を濃縮し、溶媒を蒸発させた後、水に溶かしてBS活性を調べた。活性はクロロホルム+メタノール4%画分にのみ見い出された。これを調製用シリカゲル薄層クロマトグラフィー(Kieselgel 60F254 20cm×20cm、厚さ2mm、Merck)にかけた。溶媒はクロロホルム/メタノール/28%アンモニア(65/35/5)を使用した。アニスアルデヒド発色で3つのバンド(p1〜p3)に分離したので、それぞれを掻き取り、溶媒抽出した(クロロホルム/メタノールー1:1)。活性はP2画分に認められたので、これをさらにHPLCにかけ、ODSカラム(ODS120T、東ソー株式会社製)を用いてアセトニトリル/水(1:1)で溶出させ、主ピークを分取した。主ピークは0.5ml/分の溶出速度で7.21分に溶出されたが、9分あたりに若干ショルダーが認められたので、溶出ピークを8分の前後で2分割して、ピークの前半を回収した。この回収物について、さらにHPLC上にかけてシングルピークであることを確認した。【0022】 次に、この回収物(即ち、SM−1が産生したBS)の活性を調べた。(a)定性反応 アニスアルデヒド反応 陽性(糖発色) ニンヒドリン反応 陰性(アミノ酸発色) ローダミン反応 陽性(脂質)(b)熱安定性 酢酸エチル抽出画分を、表2に示す30〜121℃の各温度で20分保ち、室温に冷却した後、乳化試験1及び2を実施した。その結果を表2に示す。【表2】 この結果から、本BSは熱安定性が高いといえる。 本菌の病原性については通常使用では認められない。同種の菌について日和見感染の可能性が示唆されているものの、本菌は表1に示すように、40℃で生育せず、かつ表2から生産するBSは熱安定性が高いので、必要に応じて熱処理することも可能である。【0023】(c)pHの影響酢酸エチル抽出画分を、表3に示すようにpH2〜12に調製して、4℃で12時間放置した後、pHを7.4に再調整して乳化試験1及び2を実施した。その結果を表3に示す。【表3】pH2〜12ではほとんど変化がなかったので、酸及びアルカリの両方に強いと思われる。【0024】(d)食塩濃度の影響酢酸エチル抽出画分に食塩を加えて、乳化試験1及び2を実施した。その結果を表4に示す。【表4】乳化能は9%NaClの時に最大値を示したように、高塩分濃度でむしろ増加した。【0025】(e)培養条件(市販マリンブロス)培養経過とBS生産性を調べるために、乳化試験1及び2を実施した。その結果を表5に示す。【表5】24時間後の培養上清は5倍希釈でも100%の乳化率を示し、微小ミセルを形成した。その他の特性については、溶血性:+、抗菌性:特になし、タンパク質溶解能:特になし、であった。【0028】【発明の効果】 本発明は、油分解性、特に原油分解性の新規微生物を提供する。この微生物は、バイオサーファクタントを産生し、これらは原油乳化能を示し、特に高塩分濃度において有効に界面活性剤として機能する。更に、本発明の微生物は、自然界で生分解性を示すため、生物毒性や環境残留性がなく、環境上の問題を引き起こさない。 この培養液から得られたバイオサーファクタントは、粗精製物又は精製物として、原油汚染海域の環境修復や、廃油を含む廃液処理に用いることが可能であり、また合成界面活性剤の代替として、または合成界面活性剤と共に用いて、洗剤、乳化剤、化粧品、研究用試薬、衛生用品又は抗菌剤その他様々な用途に使用することができる。【0029】【配列表】 バイオサーファクタントを産生するMyroides odoratus SM-1(受託番号FERM P-19061)。 請求項1に記載の微生物の培養液。 請求項2に記載の培養液を主要成分とする界面活性剤組成物。 請求項2に記載の培養液、又は請求項3に記載の界面活性剤組成物を用いて油を乳化する方法。


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