タイトル: | 特許公報(B2)_アフリカツメガエル卵母細胞抽出液を用いるタンパク質合成システム |
出願番号: | 2002303838 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12P21/02,C12N9/98,C12N15/09 |
白水 美香子 アレクサンダー トクマコフ 横山 茂之 JP 3668942 特許公報(B2) 20050422 2002303838 20021018 アフリカツメガエル卵母細胞抽出液を用いるタンパク質合成システム 独立行政法人理化学研究所 503359821 加藤 朝道 100080816 白水 美香子 アレクサンダー トクマコフ 横山 茂之 20050706 7 C12P21/02 C12N9/98 C12N15/09 JP C12P21/02 C C12N9/98 C12N15/00 A 7 C12N 15/09 JSTPlus(JOIS) BIOSIS/WPI(DIALOG) Development, 1989, Vol.106, No.1, pages 1-9 Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1977, Vol.74, No.4, pages 1483-7 Plant Physiol., 1982, Vol.69, pages 150-4 7 2004135590 20040513 15 20021018 (出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成14年度、文部科学省、タンパク3000プロジェクト委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの) 鈴木 恵理子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明はアフリカツメガエル等の両生類の卵母細胞抽出液、特に、卵母細胞の成熟過程における特定の時期においてタンパク質合成能が著しく亢進した卵母細胞の抽出液及びこの抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系によるタンパク質の製造方法等に関する。【0002】【従来の技術】アフリカツメガエルの卵母細胞及び卵は、DNAの複製、転写、転写物のプロセッシング、翻訳、及び翻訳されたタンパク質の修飾等の研究や、導入された外来遺伝子の発現系として利用されている。1977年にガードンとブラウンは、アフリカツメガエルの卵母細胞及び卵に外来性遺伝子を注射し、その遺伝子の機能を調べる方法を初めて報告した。この方法は、アフリカツメガエルの卵母細胞若しくは卵へmRNAを導入するか、又は卵母細胞の核へcDNAを導入することにより行われる。従来、mRNAやcDNA等の遺伝子をアフリカツメガエルの卵母細胞又は卵に導入する際には、これらの試料を充填したピペットをマニピュレーターを用い、顕微鏡下にて手動で、又は自動制御にてマイクロインジェクションしている(例えば、特許文献1、参照。)。【0003】一方、所要の酵素等を含む各種細胞抽出液とエネルギー源から構成される無細胞タンパク質合成系が開発され、これらは、タンパク質の構造や機能を解析するために重要な実験手段を提供する。細胞抽出液としては、ウサギ網状赤血球、大腸菌、小麦胚芽、HeLa細胞、好熱性細菌、マウスL−細胞、エールリッヒ腹水癌細胞、CHO細胞、出芽酵母等が使用され、ウサギ網状赤血球、小麦胚芽、大腸菌由来の無細胞タンパク質合成系のキットが市販されている。上記2つの方法を簡単に比較すると、一般的には、無細胞タンパク質合成系でのタンパク質合成がアフリカツメガエルの卵母細胞中での合成より短時間で行われ、かつコントロールが容易とされている。【0004】アフリカツメガエルの卵母細胞は、通常、細胞周期において減数分裂の第一分裂前期で停止している。少数の細胞がホルモンの影響下で周期的に成熟し、第一分裂を完了して2次卵母細胞となり、第二分裂中期で停止する。この卵母細胞の成熟は、プロゲステロンにより引き起こされる。プロゲステロンは、生体内では脳下垂体から放出された性腺刺激ホルモン(gonadotropin)によって刺激された卵巣内の濾胞細胞(follicle cells)から分泌される。プロゲステロンによる卵母細胞の成熟は試験管内でも可能である。アフリカツメガエルの卵母細胞の成熟過程において、内因性のタンパク質合成速度が約2倍に増加することが報告されており(例えば、非特許文献1、参照。)、第二次減数分裂中期まで成熟し受精可能となったアフリカツメガエルの卵の抽出液は、タンパク質の翻訳後修飾、すなわち糖鎖の付加、リン酸化、シグナルペプチドの切断、局在化、高次構造の形成を行わせることが可能である(例えば、非特許文献2、参照。)。【0005】高度な真核生物由来のmRNAは上記アフリカツメガエルの卵の抽出液で翻訳可能であるが、原核生物由来のmRNAは翻訳効率が低下する。リボヌクレアーゼ処理した卵の抽出液へ合成mRNAを添加した例では数μg/mlのタンパク質が合成されているが(上記非特許文献2参照。)、卵母細胞抽出液を用いた系で外来(グロビン)mRNAを効率よく発現させるためには、ウサギ網状赤血球抽出液S−100の添加が必要であり、卵母細胞抽出液で外来遺伝子を発現させるためには何らかの因子が不足していることが示唆されている(上記非特許文献1参照。)【0006】【特許文献1】特開2002−65240号公報【非特許文献1】ティーナ・ディー・パトリック(Tina D. Patrick)外2名、「アフリカツメガエル卵母細胞及び卵からの無細胞タンパク質合成系の調製と性質(Preparation and characterization of cell-free protein syn thesis systems from oocytes and eggs of Xenopus laevis)」ディベロプメント(Development)、(英国)、1989年、第106巻、p.1−9【非特許文献2】グレン・マシューズ(Glenn Matthews)及びアラン・コールマン(Alan Colman)、「アフリカツメガエル卵から調製された、高効率の無細胞タンパク質翻訳/輸送システム(A highly efficient, cell-free tra nslation/translocation system prepared from Xenopus eggs)」ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research)、(英国)、1991年、第19巻、第23号、p.6405−6412【0007】【発明が解決しようとする課題】アフリカツメガエルの卵母細胞、卵、及び初期胚にマイクロインジェクションされた外来性遺伝子の発現については種々検討されているが、これらの異なる細胞周期における細胞抽出液での外来性遺伝子の発現については未だ詳細な検討は行われていない。そこで、本発明は、アフリカツメガエルの卵母細胞抽出液を用いた無細胞タンパク質合成システムの最適化を行い、無細胞タンパク質合成系に使用可能な新たな細胞抽出液を提供することを目的とする。また、アフリカツメガエルの卵母細胞抽出液を用い、卵母細胞へのマイクロインジェクション法や従来の卵抽出液を用いた方法よりも、タンパク質合成効率の優れた無細胞タンパク質合成システムを提供することを目的とする。【0008】【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、アフリカツメガエルの卵母細胞、卵(成熟卵)、胚の細胞周期の各段階と、導入した外来遺伝子のタンパク質の発現効率について詳細に調べた結果、卵母細胞の成熟過程における特定段階で調製した細胞抽出液が、従来から用いられている成熟卵の抽出液や、卵母細胞へのマイクロインジェクション法と比べて、極めて高いタンパク質の合成活性、合成量を示すという知見に基づく。【0009】 すなわち、第一の視点において、本発明はアフリカツメガエルの卵母細胞より調製された抽出液であって、当該卵母細胞が、細胞周期における減数分裂の第一分裂前期で停止している状態から成熟化の初期段階へ移行した卵母細胞であって、第一減数分裂が開始するまでの前記卵母細胞を用いることを特徴とする。【0010】 本発明の異なる視点において、細胞周期における減数分裂の第一分裂前期で停止している状態から成熟化の初期段階へ移行したアフリカツメガエルの卵母細胞であって、第一減数分裂が開始するまでの前記卵母細胞を用いて調製された抽出液と、エネルギー再生系と、少なくとも一種のアミノ酸と、を含む無細胞タンパク質合成キットが提供される。好ましい実施形態において、本発明の無細胞タンパク質合成キットは、外来性のポリヌクレオチドを調製するためのプラスミドDNAをさらに含む。【0011】 本発明のさらに異なる視点において、タンパク質をコードするポリヌクレオチドを調製する工程と、前記ポリヌクレオチドを細胞周期における減数分裂の第一分裂前期で停止している状態から成熟化の初期段階へ移行したアフリカツメガエルの卵母細胞であって、第一減数分裂が開始するまでの前記卵母細胞を用いて調製された抽出液中で発現させる工程と、を含む無細胞タンパク質合成系によるタンパク質の製造方法が提供される。【0012】 好ましい実施形態において、前記卵母細胞は、減数分裂の第一分裂前期で停止している卵母細胞を卵成熟誘導剤で処理することにより成熟化の初期段階、すなわち、第一減数分裂が開始するまでの段階へ移行させた卵母細胞であることを特徴とする。また、前記卵成熟誘導剤はグルココルチコイド、ミネラルコルチコイド、プロゲステロン、テストステロン、及びインシュリンから選択される少なくとも1つであり、前記ポリヌクレオチドは、インビトロで合成、及び修飾された外来性のmRNAであることが好ましい。【0013】【発明の実施の形態】以下に図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。(卵母細胞抽出液の調製方法)アフリカツメガエルの卵母細胞、卵、及び胚は、図1に示すような特徴的な代謝及びタンパク質合成活性を示す細胞周期の異なる段階を通過して成熟する。十分に生育したアフリカツメガエルの卵母細胞は、自然に減数第一分裂の前期においてG2/M境界期で停止している。この卵母細胞は、無傷の核膜と部分的に脱凝縮した染色体を有し、高い転写活性を示すが、細胞分裂調節因子(細胞質に存在して細胞周期を調節する因子)である成熟促進因子(MPF)及び細胞分裂停止因子(CSF)の活性は低い。未成熟の卵母細胞は受精能力がなく、長期間この段階で停止しているが、卵巣内の濾胞細胞から分泌されるステロイドホルモンの一種であるプロゲステロンの刺激によって減数分裂が進行し、減数分裂の第二分裂中期まで進んで停止する。この停止した二次卵母細胞は卵巣から排卵され、受精によって刺激されてはじめて減数分裂を完了する。図1には、減数分裂の第一分裂前期の段階で停止した卵母細胞から成熟卵を経て受精し、卵割を開始するまでの段階が経時的に表示されている。図1においてMAPK、又はCdc2キナーゼの曲線は、アフリカツメガエルの上記細胞周期におけるマイトジェン活性化プロテインキナーゼ、又はCdc2キナーゼの活性を示す。また、本発明において「卵母細胞」とは、減数分裂の第一分裂前期から第二減数分裂中期に至るまでの細胞周期段階の卵母細胞をいう。「卵」とは、減数分裂の第二分裂中期に停止した成熟した卵母細胞のことをいう。CAT遺伝子を用いた従来の研究によれば、アフリカツメガエルの卵よりも、卵母細胞や細胞分裂中の胚にマイクロインジェクションした遺伝子の方がより活発に発現されることが報告されている(Shiokawa et al., 1994)。それにもかかわらず、これまでアフリカツメガエルの卵母細胞を用いた無細胞タンパク質合成系については、比較的タンパク質合成活性の低い卵の抽出液を用いた合成例が数多く報告されている。【0014】本発明の一つの実施形態において、外来性のmRNAとしてアフリカツメガエルのSrcファミリーキナーゼ(Xyk)をコードするmRNAを用いて種々の無細胞抽出液の翻訳効率が開示される。種々の細胞周期におけるアフリカツメガエルの卵母細胞や卵の抽出液について調べた結果、以下の実施例において具体的に示したように、卵母細胞の抽出液、特に、成熟刺激によって成熟を開始した直後の卵母細胞抽出液が極めて高いタンパク質合成活性を有することが分かった。【0015】従って本発明の一つの実施形態において、無細胞系でタンパク質を合成するために用いるアフリカツメガエルの卵母細胞であって、細胞周期における減数分裂の第一分裂前期で停止している状態から成熟化の初期段階へ移行したアフリカツメガエルの卵母細胞より調製された抽出液が提供される。本形態において、卵母細胞の成熟は自然に成熟したものを使用してもよく、あるいは、ホルモン等を人為的に投与して強制的に成熟させても良い。本形態における「成熟化の初期段階」とは、細胞周期における減数分裂の第一分裂前期で停止している状態から成熟化を開始した後、第一減数分裂を完了するまでの段階であって、好ましくは第一減数分裂の開始段階(第一減数分裂開始の直前又は直後)をいう。卵母細胞が第一減数分裂の開始段階にあるか否かは、図1に示すように細胞質中のMAPK又はCdc2キナーゼの活性を指標として判断することができる。【0016】未成熟の卵母細胞へ注入することによって完全な成熟を引き起こす、成熟卵の細胞質に由来する活性が、Masuiらによって成熟促進因子(MPF)として報告されている(Masui, Y., Differentiation 2001, 69 (1):1-17)。このMPFは、サイクリンB及びサイクリン依存性プロテインキナーゼCdc2を含む。減数分裂の第一分裂前期で停止した未成熟の卵母細胞中には、Cdc2の一部分がpreMPFと呼ばれる不活性複合体として蓄積されており、それらのCdc2の触媒活性は14番目のスレオニン残基及び15番目のチロシン残基のリン酸化によって阻害されている。一方、MPFやCSFの活性が低いことは卵母細胞を減数分裂の第一分裂前期で停止させておくために重要である。Mos、MAPKK、及びMAPKを含むアフリカツメガエルのMAPKカスケードは、卵母細胞の細胞周期を分裂中期で停止させているCSFの主要因子である。Mos、又はMAPKKのmRNAを卵母細胞にマイクロインジェクションすることにより、あるいはMAPKタンパク質自身によって、MPFを完全に活性化したり、未成熟卵母細胞の減数分裂を進行させることが報告されている。一方、MPK1ホスファターゼやMAPKK阻害剤によりMAPKの活性化を阻止することによってMPFの活性化を抑制しプロゲステロンによる卵母細胞の成熟が抑制される。【0017】従って、これらの細胞周期を制御する何れかの方法により、例えば、減数分裂の第一分裂前期で停止している卵母細胞を卵成熟誘導剤で処理することにより、あるいはMAPKカスケードの何れかのタンパク質を活性化することにより卵母細胞を成熟化の初期段階に移行させることができる。減数第一分裂の形態的マーカーである胚胞崩壊(GVBD)は、プロゲステロン、テストステロン、ある種のグルココルチコイド、及びある種のミネラルコルチコイドによって等しく刺激され得ることが報告されている(Morrill, G. A., Bloch, E., J. Steroid Biochem, 1977, 8 (2):133-9)。従って、卵成熟誘導剤としては、好ましくはグルココルチコイド、ミネラルコルチコイド、プロゲステロン、テストステロン、及びインシュリンから選択される1種又は2種以上を組み合わせて用いることができ、さらに好ましくはプロゲステロンが用いられる。これらの卵成熟誘導剤の処理濃度や処理時間は、減数分裂の第一分裂前期で停止している卵母細胞が成熟化の初期段階へ移行するように適宜設定することができ、例えば、プロゲステロン処理の場合は、5〜50μMの濃度で30分〜4時間、好ましくは約10μMで1〜3時間処理する。【0018】卵母細胞抽出液の調製は、公知の方法(Murray A. W., 1991 Cell cycle extracts Methods Cell Biol 36: 581-605参照)により行うことができる。例えば、アフリカツメガエルにホルモンを注射することにより、第VI段階の未成熟卵母細胞を蓄積させる。前記カエルから卵巣を単離し、その卵巣から手操作により、及びコラゲナーゼ等の酵素処理により第VI段階の卵母細胞を得る。続いて、前記卵母細胞を破砕して卵母細胞の細胞質を回収する。得られた抽出液の安定性とタンパク質の発現効率を上げるため、細胞質分裂阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、及びエネルギー物質等の添加物を、前記細胞質に補充して卵母細胞抽出液を調製することができる。前記第VI段階の卵母細胞を得る工程の後で、あるいはそれと同時に、得られた卵母細胞をプロゲステロン等の卵成熟誘導剤で処理することが好ましい。プロゲステロンによる処理条件は、減数分裂の第一分裂前期で停止している卵母細胞が成熟化の初期段階へ移行するように適宜設定することができ、例えば、5〜50μMの濃度で30分〜4時間、好ましくは約10μMで1〜3時間である。また、前記卵母細胞の破砕は、ホモゲナイザーや超音波処理等の通常の方法により行うこともできるが、遠心分離により細胞膜を破裂し、極めて容易に細胞質画分を回収することができる。回収した細胞質画分は、さらに多孔性の膜等でろ過して細胞の破砕片等を除去することができる。このような抽出液は任意の数の卵母細胞から調製することができるが、破砕処理や安定化剤の添加を容易にするため一定数量以上の卵母細胞を用いることが好ましく、本発明の1つの実施形態において、少なくとも100個の卵母細胞から調製される。【0019】このようにして調製した卵母細胞抽出液は、新鮮なもの、例えば、調製後約8時間以内、好ましくは約3時間以内のものを用いることにより高いタンパク質合成活性が得られるが、−80〜−196℃に凍結することによって保存することもできる。凍結によるタンパク質合成活性の低下を防止するため種々の安定化剤を添加することが好ましい。あるいは公知の方法により凍結乾燥することもできる。例えば液体窒素により急速に卵母細胞抽出液を凍結させた後、通常の凍結乾燥機を利用して乾燥する。【0020】(無細胞タンパク質合成キット)本発明の卵母細胞抽出液は、エネルギー再生系と、少なくとも一種のアミノ酸と共に無細胞タンパク質合成用キットを構成することができる。エネルギー再生系とは、タンパク質の合成に必要なATPやGTP等のエネルギー源の再生に関わる要素を意味し、例えば、ATP再生に関わる酵素(クレアチンキナーゼやピルビン酸キナーゼ等)及び/又はその基質(クレアチンリン酸やホスホエノールピルビン酸等)をいう。アミノ酸は少なくとも一種、好ましくは天然に存在する20種のアミノ酸を含むが、これらの他に非天然のアミノ酸を含んでいても良い。さらにその他に、緩衝液(例えば、HEPESカリウムやトリス酢酸等)、各種の塩類、界面活性剤、RNAポリメラーゼ(T7、T3、及びSP6RNAポリメラーゼ等)、シャペロンタンパク質(DnaJ、DnaK、GroE、GroEL、GroES、及びHSP70等)、RNA(mRNA、tRNA等)、プロテアーゼ阻害剤、又は(リボ)ヌクレアーゼ阻害剤等を含むことができ、これらは2種以上併用することができる。本発明における無細胞タンパク質合成キットとは、使用時において上記抽出液、エネルギー再生系、アミノ酸を少なくとも含む混合体となるものであればよく、使用前にはこれら構成成分は別々に保存されてキットを構成していてもよい。【0021】本発明の好ましい実施形態において、前記無細胞タンパク質合成キットは外来性ポリヌクレオチドを調製するためのプラスミドDNAをさらに含むことができる。「外来性ポリヌクレオチド」とは、異種生物若しくは細胞由来の、又は人工的な核酸分子又は核酸構築体のことをいう。核酸分子はDNA、RNA、又はそれらのアナログであってもよく、天然又は人工的に合成したものでも良い。これらの核酸分子はさらに他の分子と共有又は非共有結合していてもよく、例えば、タンパク質、脂質、化学合成物、化学合成基、担体、又は磁気ビーズ等である。【0022】本発明の外来性ポリヌクレオチドは、アフリカツメガエル卵母細胞抽出液中でタンパク質を発現させることができるものであり、所望のタンパク質をコードしたDNAを含む発現ベクターを用いて調製することができる。上記抽出液が転写活性を有する場合には、例えば、内在性又は外来性のRNAポリメラーゼを含む場合は上記発現ベクターをそのまま添加することができる。上記発現ベクターにおいて、上記タンパク質をコードした配列の上流には転写を開始させるプロモータが備えられる。このプロモータとしては、特に限定はないが、一本鎖のmRNAを合成するためには、種々のRNAポリメラーゼプロモータを好適に用いることができる。その例として、アフリカツメガエルのRNAポリメラーゼプロモータ、T7RNAポリメラーゼプロモータ、T3RNAポリメラーゼプロモータ、SP6RNAポリメラーゼプロモータ等が挙げられる。従って、「外来性のポリヌクレオチドを調製するためのプラスミドDNA」とは、RNAポリメラーゼプロモータやポリA付加シグナル等を備え、所望のDNA断片をクローン化し得るプラスミドDNAのことをいう。【0023】本発明のさらに好ましい実施形態において、外来性ポリヌクレオチドとしては、インビトロで合成及び修飾されたmRNAが用いられる。インビトロ転写系としては、例えば、T7ファージ由来の転写反応系、大腸菌由来の転写反応系等が挙げられる。この系を用いたmRNA合成は、市販のキット、例えばMEGAscript(商標)(Ambion社)、RiboMAX(商標)(Promega社)などを利用して実施することができる。さらに真核細胞のmRNAを発現させる場合は、転写後の修飾としてmRNAの5’末端にキャップ構造、3’末端にポリAを備えることが好ましい。ほとんどの真核生物のmRNAは、5’末端にm7G(5’)ppp(5’)Gキャップ構造を持っており、このキャップ構造は翻訳開始因子の結合において重要である。またmRNAを安定化することによって翻訳効率を上げることが知られている。例えば、インビトロ転写系にキャップアナログ(7−メチルグアノシン)を加えることによって簡単にキャップ構造を有する転写産物を合成することができる。一方、3’末端へのポリA付加は、例えば、ポリA重合酵素により触媒される。ポリA付加により3’末端からのエキソヌクレアーゼによる切断を防止しmRNAを安定化できる。【0024】(無細胞タンパク質合成系によるタンパク質の製造方法)アフリカツメガエルの卵母細胞抽出液を用いる無細胞タンパク質合成系でのタンパク質合成は、基本的に上記タンパク質合成活性を有する無細胞抽出液に、上記mRNAを添加することにより行う。例えば、卵母細胞抽出液を含む反応系に、目的とするタンパク質をコードするmRNA、目的タンパク質の構成材料となるアミノ酸及びエネルギー源(ATP、GTP等)を添加し、当該反応液を通常20〜40℃、好ましくは23〜30℃に加温することで目的タンパク質を合成することができる。また、本発明の無細胞タンパク質合成系には、バッチ法、フロー法の他、従来公知の技術がいずれも適用可能であり、例えば限外濾過膜法や透析膜法、樹脂に翻訳鋳型を固定化したカラムクロマト法等(Spirin, A.ら、Meth. In Enzymol. 217巻、123〜142頁、1993年参照)を挙げることができる。上記透析法としては、例えば、Kigawaら(Kigawa, T., et al., FEBS Letters 1999, 442:15-19)及び特開2000−175695号公報に記載される方法が挙げられ、上記反応液を分画分子量10000以上、好ましくは50000以上の透析膜の内部に入れ、反応液の5〜10倍容量の透析外液(アミノ酸、エネルギー源等を含む。)に対して透析する。透析は、通常20〜40℃、好ましくは23〜30℃にて攪拌しつつ行い、反応速度の低下が認められる時点で新しい外液と交換する。【0025】また、上記無細胞タンパク質合成系には、タンパク質を合成する翻訳活性と、翻訳後の修飾活性、例えば、糖鎖の付加やリン酸化活性等を有しているため、上記無細胞抽出液へのmRNAの添加により、当該mRNAからタンパク質が合成され、その後、このタンパク質に対する翻訳後の修飾が行われて糖タンパク質、リン酸化タンパク質等が合成される。【0026】また、上記において糖タンパク質やリン酸化タンパク質等を合成するに当たっては、細胞抽出液に細胞質分裂阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、リボヌクレアーゼ阻害剤及びエネルギー物質などを添加して、細胞抽出液を調製することができる。一例として、卵母細胞抽出液においては、最終濃度を10μg/mlのサイトカラシンB、ロイペプチン、ペプスタチン及びキモスタチン、1mM スペルミジン、7.5mMクレアチンリン酸、1mM ATP、1mM MgCl2に調製し、翻訳反応に供することができる。また、細胞抽出液に、アミノ酸混合液を添加することが好適である。この混合液は、例えば、終濃度が25μM程度になるように添加することができ、アミノ酸は天然又は非天然アミノ酸の何れでもよい。【0027】また、本発明の無細胞タンパク質合成系に添加するmRNAの添加量は、例えば、卵母細胞抽出液に対して終濃度で10〜100μg/mlとなるように添加することができる。あるいは、本発明の無細胞タンパク質合成系で転写/翻訳共役反応を行う場合は、上記発現ベクターとして構築されたDNAをそのまま添加する。卵母細胞抽出液中の転写活性が低い場合は、T7RNAポリメラーゼ、T3RNAポリメラーゼ、又はSP6RNAポリメラーゼと共にリボヌクレオチド三リン酸(ATP、GTP、CTP、UTP)等を添加する。【0028】本発明の製造方法によって合成されるタンパク質は、真核生物、又は原核生物由来の何れのタンパク質であってもよく、糖鎖の付加やリン酸化等の翻訳後の修飾を受け、そのタンパク質の機能を発揮するために特徴的な3次構造又は4次構造を形成する。従って、合成されたタンパク質は、その構造と機能に関する研究や、他のタンパク質又は低分子化合物との相互作用を利用した薬剤のスクリーニング等に利用することができる。【0029】【実施例】本発明は以下の実施例においてより具体的に説明される。実施例はアフリカツメガエルSrcファミリーキナーゼ(Xyk)をコードするmRNAを用いて、アフリカツメガエルの卵母細胞若しくは卵の抽出液、又は上記mRNAをマイクロインジェクションした卵母細胞での発現を解析した結果を詳細に記載する。これらの実施例は、発明をより明確に理解するためのものであって、如何なる意味においても本発明を限定するものではない。実施例において、アフリカツメガエル卵母細胞及び卵の調製、卵及び卵母細胞の抽出液の調製、mRNAの調製、マイクロインジェクション、無細胞タンパク質合成系での翻訳反応、免疫沈降法による解析、イムノブロット法による解析、及びプロテインキナーゼアッセイは、以下に記載される方法に従って行った。【0030】[アフリカツメガエル卵母細胞及び卵の調製]野生型のアフリカツメガエル(Xenopus Laevis)は、浜松生物教材株式会社から購入した。カエルは21〜23℃の脱イオン水を満たしたポリプロピレン製容器(1匹当たり2L)で、1週間に2回餌を与えて飼育した。カエルは実験開始5〜7日前に、一匹当たり50ユニットの妊娠中の馬血清性腺刺激ホルモン(Biogenesis社製)で初回刺激した。【0031】卵母細胞を得るために、アフリカツメガエルを氷中に置いて冬眠状態とした後、手術により卵巣を摘出しOR−2溶液(82.5mM NaCl、2.5mMKCl、1mM CaCl2、1mM MgCl2、1mM Na2HPO4、5mM HEPES、pH7.8)に入れた。卵巣は手操作により50から100個の卵母細胞の塊に切裂きOR−2溶液で十分に洗浄した。卵母細胞の塊を、OR−2溶液中で、0.5mg/mlのコラゲナーゼ(和光純薬株式会社製、280U/mg)で23℃、3時間、60回転/分で振とう処理した。遊離した卵母細胞はOR−2溶液で洗浄し、安定化のため4時間以上放置した。傷のない第VI段階の卵母細胞を手操作により選択した。プロゲステロン(シグマ社製)を最終濃度が10μMとなるように添加して成熟化を誘導した。減数分裂への移行は、卵母細胞の動物半球上の白い斑点の出現を指標として胚胞崩壊(GVBD)によって監視した。【0032】卵は、一匹当たり500ユニットのヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(帝国臓器株式会社製)によって排卵を誘導した後に取得した。注射後、8〜12時間の間にカエルから卵をしぼり出し、MMR溶液(100mM NaCl、2mM KCl、1mM MgCl2、2mM CaCl2、0.1mM EDTA、5mMHEPES)を満たしたプラスティックディッシュに入れ、MMR溶液中で2%システイン(シグマ社製)処理によりゼリー状の膜を除去し、100mM KCl、0.1mM CaCl2、1mM MgCl2、5mM EGTA、50mMスクロース、及び10mM HEPESカリウム、pH7.7を含む抽出用バッファーで十分に洗浄した。【0033】[卵及び卵母細胞の抽出液の調製]細胞分裂停止因子によって細胞周期の停止したアフリカツメガエル卵の抽出液は、基本的にMurrayらの方法(前掲)に従って、未受精卵から調製した。卵は、100μg/mlのサイトカラシンB(シグマ社製)と、それぞれ10μg/mlのロイペプチン、ペプスタチン、及びキモスタチンを添加した抽出用バッファーを含む遠心チューブに移し、1000回転/分で30秒間、続いて1500回転/分で30秒間、4℃にて遠心分離した。遠心チューブの上部からすべてのバッファーを除去し、12000回転/分で15分間遠心分離することによって卵を破砕した。遠心チューブ上部の脂質層と沈降した卵黄の間にある細胞質層を集め、同じ条件で再度遠心分離して清澄化した。サイトカラシンB、プロテアーゼ阻害剤、及びエネルギー物質の混合物(20分の1容量の150mMクレアチンリン酸、20mM ATP、20mM MgCl2)を上記抽出液に加え、使用直前まで氷上で保存した。すべての実験は、抽出液の調製後3時間以内に23℃で行った。間期(interphase)に移行した卵の抽出液は、細胞分裂停止因子によって細胞周期の停止した分裂中期(metaphase)の卵の抽出液にカルシウム(終濃度で0.5mM)を加えて調製した。抽出液中での分裂中期から間期への移行は、通常30分程度かかったが、膜を除去した精子の核を前記抽出液に添加し、その形態変化によって確認した。核の形態変化は、1μlの抽出液を取り、4μlの染色溶液(1μg/mlのHoechst33342(シグマ社製)を10%ホルムアルデヒド及び50%グリセロールを含むMMR緩衝液に溶解したもの)を加えて蛍光顕微鏡で観察及びスコア化した。卵母細胞の抽出液は、選択された第VI段階の卵母細胞を抽出用バッファーで洗浄し、上述した卵の抽出液と同じ方法で調製した。【0034】[mRNAの調製]2ヶ所のアミノ酸置換(Y527F、R121A)を含むアフリカツメガエルのSrcキナーゼ(Xyk)をコードする完全長DNA(GenBank Accession No. M23422参照)を、上流のT7プロモーターと共に、pBluescriptIIベクター(東洋紡社製)にサブクローン化した。インビトロでのRNAへの転写及びこれと共役した5’末端への7−メチル−グアノシンによるキャッピング反応は、制限酵素SpeIで直鎖状にしたプラスミドから、mMESSAGEmMASHINE T7高効率キャップ化RNA転写キット(Ambion社製)を用い、製造業者のマニュアルに従って行った。合成されたmRNAは、RNeasy精製キット(キアゲン社製)を用いて精製した。合成されたmRNAの3’末端への転写後のポリアデニル化は、大腸菌のポリAポリメラーゼを用い、Wormingtonらの方法に従って行った(Wormington, M., 1991, Methods Cell Biol 36: 167-183参照)。すなわち、50mMTris−HCl、pH8.0,250mM NaCl、10mM MgCl2、1mM MnCl2、2mM DTT、50units RNAse阻害剤、50μg/mlウシ血清アルブミン、50μM ATP及び5μg合成RNAを含む反応混合溶液50μl中で37℃、5分間、ポリアデニル化反応を行った。RNeasy精製キットを用いて精製した後、RNAはリボヌクレアーゼを含まない水に1mg/mlの濃度で溶解し、卵及び卵母細胞へのマイクロインジェクション、又は抽出液へ直接添加した。このようにして調製したRNAの品質は、Sambrookらの方法(Sambrook J. et al., Molecular Cloning)に従って、変性アガロース/ホルムアルデヒド電気泳動で管理した。【0035】[マイクロインジェクション]第VI段階のアフリカツメガエル卵母細胞への定量的なmRNAの注入は、顕微鏡で観察しながらパルス駆動型注入システムNANOJECT(Drummond社製)を用いて行った。RNA溶液は、油が充填されたガラス製マイクロキャピラリー針(先端部の直径が10〜30μm)の中に注入した。リボヌクレアーゼを含まない水に溶解した50ngのRNAを、卵母細胞1個当たり全量50nl注入した。【0036】[無細胞タンパク質合成系での翻訳反応]10μg/mlのサイトカラシンB、ロイペプチン、ペプスタチン及びキモスタチン、並びにエネルギー混合物(20分の1容量の150mMクレアチンリン酸、20mM ATP、20mM MgCl2)を添加した調製直後の卵抽出液、又は卵母細胞抽出液を用いて無細胞タンパク質合成反応を行った。この抽出液に、1mMスペルミジン、及び1U/μlリボヌクレアーゼ阻害剤Rnasin(プロメガ社製)の存在下、インビトロで合成したXenopus Src RNA、又は対照としてルシフェラーゼRNA(プロメガ社製)をそれぞれ終濃度で50ng/μl又は20ng/μlとなるように加えてインキュベートした。インキュベートは21〜23℃で90〜120分間行った。反応液の最終容量は、抽出液の希釈が20%を超えないようにして20μlとした。反応は、液体窒素で凍結することにより停止した。【0037】[免疫沈降法による解析]凍結した卵若しくは卵母細胞、又は抽出液の一定量は、均質化バッファー(20mM Tris−HCl、pH7.5、1%TritonX−100、1mMEDTA、1mM EGTA、10mMβ−メルカプトエタノール、1mMバナジン酸ナトリウム、10μg/mlロイペプチン、20μM APMSF)にて10倍に希釈した後、超音波破砕機TOMY UD−201(トミー精工社製)を用いて氷上で2分間超音波処理した。超音波処理した試料を、15000回転/分で10分間遠心分離した後、上清の20μlを5μlの抗Srcファミリーキナーゼモノクローナル抗体mAb327(Ab−1、Omcogene社製)と共に4℃で2時間インキュベートした。免疫反応複合体を集めるために、試料にプロテインAセファロースを終濃度で10%添加して1時間放置した。非特異的に吸着したタンパク質は、50mM Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl、1%TritonX−100、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDSを含むバッファーで洗浄した。発現量を調べるために、試料をSDS−PAGE用サンプルバッファーで処理し、以下に記載するイムノブロット法による解析を行った。機能的に活性なアフリカツメガエルSrcの発現を確認するために、免疫沈降した試料を用いてプロテインキナーゼアッセイを行った。【0038】[イムノブロット法による解析]免疫沈降した試料、又は10倍に希釈した抽出液の20μlを、濃縮SDS−PAGEサンプルバッファーと混合した。タンパク質は、10%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動して分離し、セミドライブロッティング装置(Bio−Rad社製)を用いてPVDF膜に移行させた。膜は、3mg/mlのウシ血清アルブミンを含むT−TBSバッファー(20mM Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl、0.05%Tween20)でブロッキングした後、100倍に希釈した抗pepY血清(Fukami et al.,J. Biol. Chem. 1993, 268:1132-1140参照)と共に2時間インキュベートした。これを洗浄した後、膜を500倍希釈したウサギ抗マウスIgGポリクローナル抗体で処理し、続いて1000倍希釈したウサギIgGに対するヤギポリクローナル抗体ーアルカリホスファターゼコンジュゲート(Santa Cruz)で処理した。この膜をT−TBSバッファーで十分に洗浄した後、免疫複合体を可視化するために現像バッファー(100mM Tris−HCl、pH9.5、5mM MgCl2、100mM NaCl、50μg/ml 5−bromo−4−chloro−3−indolylリン酸パラトルイジン塩、及び150μg/mlニトロブルーテトラゾリウム)中でインキュベートした。【0039】[プロテインキナーゼアッセイ]免疫沈降させた試料の全チロシンキナーゼ活性は、poly(Gly,Tyr)4:1(シグマ社製)をタンパク質基質として測定した。免疫沈降させたアフリカツメガエルSrcキナーゼの比活性は、分裂酵母cdc2遺伝子産物7〜26残基に対応する合成cdc2ペプチドを用いて推定した(Fukami et al.,前掲参照)。抽出液試料はキナーゼ希釈バッファー(80mM βーグリセロリン酸、pH7.5、20mM EGTA、15mM MgCl2、1mMDTT、0.1mM NaF、1mM Na3VO4、0.2mM APMSF、10μg/mlロイペプチン、10μg/mlアプロチニン)を用いて5倍に希釈した。キナーゼ活性の測定に先立って、免疫沈降試料をキナーゼ希釈バッファーで洗浄した。プロテインキナーゼアッセイの反応溶液(20μl)は、50mM Tris−HCl、pH7.5、5mM MgCl2、1mM DTT、0.5mg/mlpoly(Gly,Tyr)又は1mg/ml cdc2ペプチド、2μM[γ−32P]ATP(1μCi)及び5μlの希釈又は免疫沈降抽出液を含んだ。反応混合物は、30℃で10分間インキュベートした後、濃縮SDS−PAGEサンプルバッファーを添加して反応を停止した。電気泳動後、リン酸化タンパク質の放射性バンドは、BAS2000イメージアナライザー(富士写真フィルム株式会社製)により可視化及び定量化した。なお、上記イムノブロット法及びプロテインキナーゼアッセイにより測定した発現量またはキナーゼ活性の定量化は、対応するバンドの濃さを吸光度に換算するソフトウエア(ImageGauge V.3.45)を用いて行い、任意単位(a.u.)で表した。【0040】[比較例1]分裂中期及び間期に停止したアフリカツメガエル卵の抽出液におけるXykの発現量の比較これまで、アフリカツメガエルのSrcキナーゼを無細胞抽出液で発現させた報告がなかったため、上述した方法で調製したmRNAを分裂中期の卵の抽出液及び間期の卵の抽出液を用いて発現させてその発現量を比較した。その結果を図2に示す。図2はポリAなし(−)又はポリAを付加(+)したmRNAを用いて分裂中期または間期の卵から調製した抽出液でのXykの発現量をXyk特異的な抗体を用いた免疫沈降反応と、イムノブロットにより解析した結果を示す。図2に示すように、カルシウムの添加によって間期に移行させた卵の抽出液でのXykの発現量は、分裂中期の卵の抽出液に比べて、40分間及び10時間のいずれの反応時間でも、またポリA付加の有無にかかわりなく1/2〜1/3であることが分かった。【0041】[実施例1]卵母細胞へのマイクロインジェクションと卵母細胞及び卵の抽出液でのXykの発現量の比較次に、上述した方法で調製したmRNAを用いて、マイクロインジェクションした卵母細胞と、卵又は卵母細胞の抽出液とで発現させた結果を図3に示した。図3の試料1は、減数分裂の第一分裂前期で停止している卵母細胞にmRNAをマイクロインジェクションし、24時間インキュベートした後の発現量である。試料2は、同じく減数分裂の第一分裂前期で停止している卵母細胞の抽出液にmRNAを添加して90分インキュベートした後の発現量である。試料3は、分裂中期の卵の抽出液にmRNAを添加して90分インキュベートした後の発現量である。図3に示した結果より、第一減数分裂前期の卵母細胞抽出液でのXykの発現量(試料2)は、分裂中期の卵の抽出液での発現量(試料3)よりも高いだけでなく、mRNAをマイクロインジェクションした卵母細胞中での発現量(試料1)よりも有意に高いということが分かった。【0042】[実施例2]プロゲステロン処理による卵母細胞の成熟化とXykの発現量の相関性の解析続いて、卵母細胞、又は卵母細胞抽出液におけるXykの発現についてプロゲステロン処理の影響を調べた。XykのmRNAをマイクロインジェクションした卵母細胞を種々の条件でプロゲステロン処理し、Xykの発現量をイムノブロット法で調べた結果を図4に、またプロテインキナーゼアッセイで調べた結果を図5に示す。それぞれの図において、試料1はmRNAをマイクロインジェクションせずに23℃で4時間インキュベートしたものである。内在性のSrcキナーゼに由来する微量のバンドが検出された。試料2はXykのmRNAを卵母細胞にマイクロインジェクションした後、プロゲステロンなしで23℃、4時間インキュベートしたものである。試料3はXykのmRNAを卵母細胞にマイクロインジェクションした後、10μMのプロゲステロン存在下、23℃で4時間インキュベートしたものである。試料4は10μMのプロゲステロンで4時間処理した卵母細胞にmRNAをマイクロインジェクションし、さらにプロゲステロンなしの条件で23℃、4時間インキュベートしたものである。これらの結果より、mRNAをマイクロインジェクションした後プロゲステロン処理することによってXykの発現量は約2倍増加するが、卵母細胞をあらかじめプロゲステロン処理した場合には逆に発現量が低下することが分かった。この理由は、プロゲステロンによる前処理によって、卵母細胞の細胞周期が進行し(図1参照)、卵の状態に近づいたために発現量が低下したのではないかと推測され、実施例1(図3)に示した結果と一致する。【0043】種々の条件でプロゲステロン処理した卵母細胞抽出液にmRNAを添加して発現させたXykの発現量について、イムノブロット法で調べた結果を図6に、プロテインキナーゼアッセイで調べた結果を図7に示す。それぞれの図において、試料1はmRNAを添加せずに発現させたものである。試料2はプロゲステロン処理をしない卵母細胞から調製した抽出液を用いて発現させたものである。試料3〜5は、10μMのプロゲステロンでそれぞれ2、4、及び8時間処理した卵母細胞から調製した抽出液を用いて発現させたものである。これらの結果より、プロゲステロン処理2時間後に調製した卵母細胞抽出液のみXykの発現量が増加しており、プロゲステロンで4、及び8時間処理した卵母細胞ではかえって発現量が低下していた。この理由は、細胞周期が進行して卵の状態に近づいたためではないかと推測される。また、発現量の増加も約1.5倍であり、図4の結果(プロゲステロン処理しない場合と比較して約3倍の発現量の増加が認められた。)に比べて少ない。このことは、プロゲステロン処理の時間を2時間よりも短くすることにより、さらに発現量の増加が得られる可能性があることを意味する。以上の結果より、卵母細胞及び抽出液の両方において、短時間(2時間)のプロゲステロン処理はXyk産生を亢進したが、より長時間のプロゲステロン処理(4〜8時間)又はあらかじめプロゲステロン処理した卵母細胞を用いた場合には、非処理の場合の発現量よりもはるかに低い発現量しか得られなかった。また、図4〜図7に示した結果より、発現したXykは機能的に活性(チロシンキナーゼ活性)を有することが明らかである。【0044】[実施例3]卵母細胞抽出液での発現量の同定アフリカツメガエル卵母細胞抽出液中で発現したXykの発現レベルを推定するために、mRNAを添加して90分間反応後の抽出液を電気泳動し、クーマシーブリリアントブルー(CBB)で染色して得られたバンドの濃さからそのタンパク質量を推定した。ウシ血清アルブミン(BSA)を標準物質として比較した結果、卵母細胞中でのXykの発現量は7.8μg/mlと推定された。【0045】[参考例1]抽出液中でのXykの合成速度の解析さらに、抽出液中でのXykの合成条件を最適化するために、mRNAをマイクロインジェクションした卵母細胞、及び卵の抽出液中におけるXykの合成速度を解析した結果をそれぞれ図8及び図9に示した。従来より報告されていたように、細胞抽出液中での翻訳速度(約90分で飽和、図9参照)は、mRNAをマイクロインジェクションした卵母細胞中での翻訳速度(24時間まで増加、図8参照)よりもはるかに迅速であった。【0046】【発明の効果】本発明のアフリカツメガエル卵母細胞抽出液は、卵の抽出液や、マイクロインジェクションした卵母細胞でのタンパク質の発現に比べて有意に高い合成活性を示す。従って、所望のタンパク質、特に真核生物由来のタンパク質の翻訳、及び翻訳後の修飾、例えば、糖鎖の付加やリン酸化、シグナル配列の切断、局在化、高次構造の構築などの種々の用途に利用することができる。本発明は新規な無細胞タンパク質合成系を提供するものであり、既存の無細胞タンパク質合成系では発現しにくいタンパク質、特に真核生物のタンパク質の合成方法として極めて有用である。【図面の簡単な説明】【図1】アフリカツメガエルの卵母細胞,卵及び初期胚における細胞周期を表した模式図である。【図2】アフリカツメガエル卵の分裂中期と間期におけるXykの発現量をイムノブロット法により測定した結果である。【図3】アフリカツメガエルの卵母細胞、卵母細胞抽出液、及び卵の抽出液でのXykの発現量をイムノブロット法により測定した結果である。【図4】マイクロインジェクションされた卵母細胞におけるXykの発現に対するプロゲステロンの影響を、mAb327を用いて免疫沈降した各試料をイムノブロット法により調べた結果である。【図5】マイクロインジェクションされた卵母細胞におけるXykの発現に対するプロゲステロンの影響を、poly(Gly,Tyr)を基質としたプロテインキナーゼ活性の測定により調べた結果である。【図6】アフリカツメガエル卵母細胞におけるXykの発現に与えるプロゲステロン処理の影響を、mAb327を用いて免疫沈降した各試料をイムノブロット法により調べた結果である。【図7】アフリカツメガエル卵母細胞におけるXykの発現に与えるプロゲステロン処理の影響を、cdc2及びXyk(auto:発現産物自身)を基質とし、抗pepY抗体を用いて免疫沈降させて測定したプロテインキナーゼ活性で示した結果である。【図8】マイクロインジェクションされた卵母細胞中でのXykの合成速度を測定した結果である。【図9】マイクロインジェクションされた卵抽出液中でのXykの合成速度を測定した結果である。【符号の説明】a.u. 任意単位 細胞周期における減数分裂の第一分裂前期で停止している状態から成熟化の初期段階へ移行したアフリカツメガエルの卵母細胞であって、第一減数分裂が開始するまでの前記卵母細胞を用いて調製された無細胞タンパク質合成用抽出液。 細胞周期における減数分裂の第一分裂前期で停止している状態から成熟化の初期段階へ移行したアフリカツメガエルの卵母細胞であって、第一減数分裂が開始するまでの前記卵母細胞を用いて調製された抽出液と、エネルギー再生系と、少なくとも一種のアミノ酸と、を含む無細胞タンパク質合成キット。 外来性のポリヌクレオチドを調製するためのプラスミドDNAをさらに含む、請求項2に記載の無細胞タンパク質合成キット。 タンパク質をコードするポリヌクレオチドを調製する工程と、 前記ポリヌクレオチドを細胞周期における減数分裂の第一分裂前期で停止している状態から成熟化の初期段階へ移行したアフリカツメガエルの卵母細胞であって、第一減数分裂が開始するまでの前記卵母細胞を用いて調製された抽出液中で発現させる工程と、を含む無細胞タンパク質合成系によるタンパク質の製造方法。 前記卵母細胞が、減数分裂の第一分裂前期で停止している卵母細胞を卵成熟誘導剤で処理することにより成熟化の初期段階へ移行させた卵母細胞であることを特徴とする請求項4に記載の方法。 前記卵成熟誘導剤が、グルココルチコイド、ミネラルコルチコイド、プロゲステロン、テストステロン、及びインシュリンから選択される少なくとも1つである請求項5に記載の方法。 前記ポリヌクレオチドが、インビトロで合成、及び修飾された外来性のmRNAである請求項4〜6何れか一項に記載の方法。