タイトル: | 特許公報(B2)_糖尿病治療薬 |
出願番号: | 2002281247 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | A61K 38/43,A61P 3/10,C12N 9/56 |
中津川 重 一 前 田 浩 明 JP 4309108 特許公報(B2) 20090515 2002281247 20020926 糖尿病治療薬 大和薬品株式会社 595154122 吉武 賢次 100075812 中村 行孝 100091487 紺野 昭男 100094640 横田 修孝 100107342 中津川 重 一 前 田 浩 明 20090805 A61K 38/43 20060101AFI20090716BHJP A61P 3/10 20060101ALI20090716BHJP C12N 9/56 20060101ALN20090716BHJP JPA61K37/48A61P3/10C12N9/56 A61K 38/00-58 CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus(JDreamII) CiNii 医学中央雑誌WEB 特開平01−180834(JP,A) 9 2004115434 20040415 17 20050513 春田 由香 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ナットウキナーゼを有効成分として含有する糖尿病治療薬に関するものである。【0002】【従来の技術】従来、納豆は日本の伝統的な食品の一つで、古来より心臓と血管の疾病における民間薬、或いは、疲労回復や脚気の治療薬として利用されてきた。また、近年では、納豆菌が生産する線溶酵素が強力な血栓溶解作用があることも発表されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。従って、この様な納豆菌によって生産されて単離したナットウキナーゼ含有加工食品が血栓溶解作用や血栓形成阻害作用を有していることも明らかにされている(例えば、特許文献3参照)。この様にナットウキナーゼには血栓溶解作用や血栓形成阻害作用があることが知られていることから、虚血性心疾患(心筋梗塞)や脳梗塞の血栓症の予防食品としてナットウキナーゼ含有食品(粗精製品)が市販されており、この様なナットウキナーゼ含有食品(粗精製品)の摂取量として成人1人当たり250〜500mgであることが推奨されている(例えば、非特許文献1参照)。一方、枯草菌菌体の培養物が水溶性ビタミンK誘導体を含有し、この培養物が骨粗鬆症の予防及び治療剤として有用であることも提案されている(例えば、特許文献4参照)。【0003】【特許文献1】特開平1−180834号公報(第1−5頁)【特許文献2】特開平8−208512号公報(第1−5頁)【特許文献3】特開2001−352929号公報(第2頁)【特許文献4】特開2001−136959号公報(第1−19頁)【非特許文献1】「ナットウ菌培養ろ液乾燥物 NKCP ナットウキナーゼコンパウンド」大和薬品株式会社製カタログ【0004】【発明が解決しようとする課題】しかし、上記のナットウキナーゼ含有食品(粗精製品)は、成人1日当たり250〜500mgの摂取量にて摂取させると、ナットウキナーゼによる血栓溶解作用によって虚血性心疾患(心筋梗塞)や脳梗塞等の血栓症の予防に有効であるが、それ以上の過剰量(5倍量)を直接十二指腸に投与しても、出血が認められなく、血液凝固系においても顕著な症状を誘発しないこと(ラットによる試験)が明記されているだけで、糖尿病の治療については何ら示唆もされていない。また、上記ナットウキナーゼ含有食品(粗精製品)中の純粋なナットウキナーゼの含有量は、100g当たり約12mgであることから、上記成人1人当たり250〜500mgの量で摂取すれば、純粋なナットウキナーゼの摂取量としては成人1日当たり0.03〜0.06mgに相当する量で摂取していることになる。【0005】一方、上記骨粗鬆症の予防及び治療剤として使用する場合には、成人1日当たり1〜50mgの量で1回〜数回に分けて培養物を摂取することにより、骨粗鬆症の予防及び治療剤としての効果が発現することが明記されている。従って、ナットウキナーゼ含有培養物(粗精製品)を1〜500mgの摂取量で摂取すれば、血栓症の予防や骨粗鬆症の予防としての有効な効果を示すことが明らかにされているが、これら摂取量以上の量で摂取することについては、何ら報告や示唆もされていない。また、この様な糖尿病治療効果が現れる程度の摂取量を納豆自体より食して得ようとするならば、数kgから数十kgの量を食さなければならず、栄養学上納豆自体のみを食するだけでは、蛋白質が過剰となり糖分や脂質が不足する等の栄養学的な弊害が生じてしまう等の問題点が発生する。【0006】【課題を解決するための手段】本発明者は、上記ナットウキナーゼ含有食品(粗精製品)について更に鋭意研究を重ねた結果、市販の血栓症の予防食品としての摂取量の約5〜10倍程度の摂取量とすることにより、糖尿病を治療することができるとの知見に基づき、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明の糖尿病治療薬は、ナットウキナーゼを有効成分として含有すること、を特徴とするものである。【0007】【発明の実施の形態】[I] 糖尿病治療薬(1) 有効成分(A) ナットウキナーゼ本発明の糖尿病治療薬として用いられるナットウキナーゼは、各種方法によって製造したものが使用できるが、特に、大豆を培地にして納豆菌を培養することにより得られる培養物を限外濾過膜等を用いて固形分を分離した後、濃縮し、乾燥することにより得られる固形成分よりなるナットウキナーゼ含有物(粗精製品)やその精製品を用いることが好ましい。【0008】(a) ナットウキナーゼ含有物(粗精製品:ナットウキナーゼコンパウンド)上記大豆を培地にして納豆菌を培養することにより得られる納豆菌培養物より固形分を分離したナットウキナーゼ含有物(粗精製品)中には、主たる成分としてナットウキナーゼが100g当たり約12mg含まれており、該ナットウキナーゼ以外にも、アミラーゼ、プロテアーゼ、リバーゼ等の酵素や、グルタミン酸のポリペプチド、フラクトースの重合体のフラクタン等が含有されているものである。具体的には、上記納豆菌の培養物中に蓄積されているナットウキナーゼの量は、使用する菌体や培地の種類や培養条件などによって変化するが、通常、培養物中に10〜20mg/100gの割合で含有されている真空乾燥粉末である。【0009】 (b) ナットウキナーゼ精製品(ナットウキナーゼフラクション) 上記ナットウキナーゼ含有物(粗精製品)中にはナットウキナーゼが100g当たり約12mgしか含まれていないことから、高純度の、例えば100倍以上に精製した、好ましくは200〜1,000倍に精製した、具体的には20〜100重量%の濃度に精製したナットウキナーゼ精製品(ナットウキナーゼフラクション)とすることもできる。精製方法 上記高純度のナットウキナーゼ精製品(ナットウキナーゼフラクション)に精製する方法としては、通常行われている酵素の精製方法と同様に行うことができるが、特に、ナットウキナーゼ含有物をTris−HCl緩衝液で溶解させ、疎水クロマトグラフィー用樹脂に吸着させて、不純物を分離した後、再度Tris−HCl緩衝液で溶出させることにより精製したものであることが好ましい。【0010】(c) 性 状上記ナットウキナーゼの物理化学的特性としては、分子量が24,000〜40,000、好ましくは30,000〜36,000(257アミノ酸残基)、等電点が好ましくは8.6±0.3(svenssonカラム法)、pH6〜12の塩基性水溶液中で60℃までの加熱に対して安定なものである。【0011】(2) 摂取量本発明における糖尿病治療用薬剤としての投与量は、症状の程度、患者の年齢、体重及び処置期間等によって異なり、正確な量は医師により決定されるものであるが、本薬剤を糖尿病治療用薬剤として投与する場合、通常、前記ナットウキナーゼの投与量換算で、成人1日当たり0.3〜3.0mg、好ましくは0.4〜2.0mg、特に好ましくは0.5〜1.0mgを1回または数回に分けて投与する。上記ナットウキナーゼ含有物の粗精製品(ナットウキナーゼコンパウンド)を用いる場合には、培養物の投与量換算で、成人に対し1日当り成人1日当たり2.5〜25g、好ましくは2.8〜20g、特に好ましくは3.0〜18gを1回または数回に分けて投与する。また、上記ナットウキナーゼ精製品(ナットウキナーゼフラクション)を用いる場合には、培養精製品の投与量換算で、成人に対し1日当り成人1日当たり12.5〜125mg、好ましくは14〜100mg、特に好ましくは15〜80mgを1回または数回に分けて投与する。上記摂取量において、その量が少なすぎると本発明の糖尿病治療効果を発現することが低下する。また、その量が多すぎると血液凝固能が低下し過ぎる等の副作用が発現し易くなる傾向がある。【0012】(3) 薬剤の形態本発明の糖尿病治療用薬剤は経口投与され、本剤を血液中に投与しても効果を見出すことはできない。従って、本発明の糖尿病治療用薬剤の形態としては、前記培養物を単体で、又は、錠剤、丸剤、散剤、粉剤、顆粒剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤、カプセル剤等として患者に経口投与するのが一般的である。これら糖尿病治療用薬剤の形態は、患者の年齢、性別、体質、症状、処置時期等に応じて、医師によって適宜選択されるが、後記食品中に配合したものであっても良い。【0013】(4) 添加剤本発明における糖尿病治療薬を錠剤、丸剤、散剤、粉剤、顆粒剤等の固形製剤とする場合には、前記培養物を、常法に従って適当な添加剤、例えば、乳糖、ショ糖、マンニット、トウモロコシデンプン、合成若しくは天然ガム、結晶セルロース等の賦形剤、デンプン、セルロース誘導体、アラビアゴム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボシキメチルセルーロースカルシウム、カルボシキメチルセルーロースナトリウム、デンプン、コーンスターチ、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム等の滑沢剤、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム等の充填剤又は希釈剤等と適宜混合して製造することができる。また、錠剤等は、必要に応じて適当な被覆用基剤を用いて、糖衣、ゼラチン、腸溶被覆、フイルムコーティング等を施しても良い。【0014】(5) 食品中への配合上述した様に、前記ナットウキナーゼ含有物をそのまま混合したり、水に溶かしたりして、通常食することのできる食品や飲料中に含有させたものであっても良い。【0015】[II] ナットウキナーゼの製造(1) 納豆菌の培養本発明の糖尿病治療用薬剤は、大豆を培地にして納豆菌を培養して得た培養物から固形成分を分離し、濃縮乾燥することにより得られるナットウキナーゼを有効成分として含有するものである。【0016】(A) 菌 体本発明のナットウキナーゼを有効成分として含有する糖尿病治療薬を得るのに使用される納豆菌としては、安全性やナットウキナーゼの産生量等を考慮すると、枯草菌類(Bacillus subtilis)に属する公知の納豆菌(Bacillus subtilis natto)が使用される。納豆菌としては、特に制限されないが、高橋菌(高橋祐蔵研究所製、山形)、成瀬菌(株式会社成瀬醗酵化学研究所製、東京)、宮城野菌(有限会社宮城野納豆製造所製、仙台)、朝日菌(株式会社朝日工業製、東京)、日東菌(株式会社日東薬品工業製、京都)、目黒菌(株式会社目黒研究所製、大阪)等の市販の納豆菌;及び雲南SL-001菌等を挙げることができる。なお、雲南SL-001菌は、平成11年5月7日付で通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に、受託番号FERM BP−6713号で国際寄託された。【0017】(B) 培地の調製納豆菌の培養にて使用される培地としては、納豆菌を一般的に培養するのに用いられる公知の培地と同様の培地が使用される。具体的には、例えば、オカラ、大豆、味噌や納豆製造時に副生する大豆煮汁、豆腐や油揚げ製造時に副生する豆腐粕、大豆を原料とした製油時に副生する大豆粕、味噌製造時の副産物である大豆の種皮等、納豆菌によって発酵できる材料を使用しても良い。従って、各種培養成分を適宜混合することにより調製しても、或いは、市販の培地をそのまま使用しても、或いは、市販の培地に下記の炭素源、窒素源及び無機塩及びその他の栄養素等を補助成分として適宜添加した培地を使用しても良い。この際、培地は、固体又は液体培地のいずれを使用しても良いが、生産性の観点から液体培地が好ましく、使用目的によって適宜選択され、また、使用する微生物が資化し得る栄養素を含有する培地であれば、合成培地又は天然培地のいずれであっても良い。【0018】(a) 炭素源本発明における納豆菌の培養に使用できる炭素源としては、使用する種によって異なり、使用する菌株が良好に生育し、ナットウキナーゼを効率良く産生できるものであれば特に制限されない。具体的には、例えば、澱粉又はその組成画分、焙焼デキストリン、加工澱粉、澱粉誘導体、物理処理澱粉、α−澱粉、可溶性澱粉、アミロース、アミロペクチン、マルトオリゴ糖、シクロデキストリン、プルラン、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉及びデキストリン、グリセリン、ソルビトール、麦芽汁、グルコース等の炭水化物を挙げることができる。これらの炭素源の中でも、ナットウキナーゼの産生の観点から、グルコース及び澱粉が好ましく使用される。これらの炭素源は、単独或いは2種以上の混合物の形態で使用することもできる。【0019】(b) 窒素源本発明による納豆菌の培養において使用できる窒素源もまた、使用する種によって異なり、使用する菌株が良好に生育し、ナットウキナーゼを効率よく産生できるものであれば特に制限されない。具体的には、例えば、肉エキス、麦芽エキス、ペプトン、大豆由来のポリペプトン(例えば、ポリペプトン−S)、酵母エキス、味液(大豆タンパク酸加水分解物)、大豆粉末、ミルクカゼイン、カザミノ酸、各種アミノ酸及びコーンスティープリカー等の有機窒素化合物、及び、アンモニア、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム及び塩化アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸ナトリウム等の硝酸塩、尿素等の無機窒素化合物等が挙げられる。これらの窒素源の中でも、ナットウキナーゼの産生の観点から、大豆由来のポリペプトン(例えば、ポリペプトン−S)及び大豆粉末が好ましく使用することができる。これらの窒素源も、単独或いは2種以上の混合物の形態で使用することもできる。【0020】(c) 無機塩本発明による納豆菌の培養に使用できる無機塩もまた、使用する種によって異なり、使用する菌株が良好に生育し、ナットウキナーゼを良好に産生でき得るものであれば特に制限されない。具体的には、例えば、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ナトリウム、カリウム、銅、鉄及び亜鉛等のリン酸塩、塩酸塩、硫酸塩及び酢酸塩等から選ばれた1種または2種以上を使用することもできる。【0021】(B) 培養条件本発明において、納豆菌の培養は、従来公知の方法と同様にして行われ、その際の培養条件としては、使用する菌株、培地の組成及び培養法によって適宜選択され、使用する菌株が増殖しナットウキナーゼを効率よく産生できる条件であれば特に制限されない。培養温度は、通常、20〜45℃、好ましくは37〜42℃であり、また、培養に適当な培地のpHは、通常、6.0〜9.5、好ましくは7.0〜8.5である。【0022】(2) 納豆菌の分離本発明の方法によって培養された納豆菌の培養物の固形成分を、濾過や限外濾過や遠心分離等の既知の方法により集菌し、濾液を濃縮する。【0023】(3) 乾 燥そして、これを凍結乾燥、風乾、真空熱乾燥等の公知の方法により乾燥することにより、粉体として得ることができる。得られた粉体はナットウキナーゼ含有物(粗精製品:ナットウキナーゼコンパウンド)として、そのまま糖尿病治療薬として摂取することもできる。【0024】(4) 精 製 上記粉体状のナットウキナーゼ含有物(粗精製品:ナットウキナーゼコンパウンド)を、更に精製することにより高純度のナットウキナーゼ精製品(ナットウキナーゼフラクション)とすることもできる。 具体的には、粉体状のナットウキナーゼ含有物(粗精製品:ナットウキナーゼコンパウンド)をTris−HCl緩衝液に溶解させて、25重量%硫安を用いて分画し、遠心分離して、沈殿物を除去した後、その液状物を疎水クロマトグラフィー用樹脂に吸着させ、その上澄み液を除去した後、Tris−HCl緩衝液により溶出させることにより約200〜1,000倍程度の高純度のナットウキナーゼ精製品(ナットウキナーゼフラクション)に精製することができる。 また、更に精製して、更なる高純度のナットウキナーゼ精製品とすることもできる。【0025】[III] 納豆菌培養物の濾液乾燥物の構成成分(1) ナットウキナーゼ上記大豆を培地にして納豆菌を培養することにより得られる納豆菌培養物の濾液乾燥物は、主たる成分としてナットウキナーゼが含有されている。具体的には、上記納豆菌の培養物の濾液乾燥物中に蓄積されているナットウキナーゼの量は、使用する菌体や培地の種類や培養条件等によって変化するが、通常、10〜200mg/100gの真空熱乾燥菌体である。【0026】(2) その他の成分上記ナットウキナーゼ以外にも、アミラーゼ、プロテアーゼ、リバーゼ等の酵素が0.002〜0.005重量%含まれていたり、グルタミン酸のポリペプチドが0.5〜1.5重量%含まれていたり、フラクトースの重合体のフラクタンが0.5〜1.5重量%含まれていたりするものである。【0027】【実施例】以下に示す実施例及び比較例によって、本発明を更に具体的に説明する。[I] 評価方法実施例及び比較例によって得られたものは、以下に示す評価方法によって評価した。(1) 実験動物及び飼育条件7週齢の雄性KK−Ayマウス(II型糖尿病モデル)及びSTZ処理マウス(I型糖尿病モデル)を日本SLC(株)から購入し、室温22±2℃、12時間明暗サイクルのSPF動物実験施設で飼育した。餌(日本クレア(株)製、商品名:CE−2)及び水は自由摂取として、1週間の予備飼育後、実験に供した。【0028】(2) KK−Ayマウス及びSTZ処理マウスに対する影響予備飼育終了後、3時間絶食時の血糖値が200mg/dl以上のマウスを実験に使用した。これらのマウスを血糖値の平均値が等しくなる様に2群に分け、ナットウキナーゼコンパウンド(粗精製品)を水に溶解し、1mg/kg・dayを21日間連続経口投与した。対照群には水を投与した。血糖値は1週間に1度、3時間絶食状態で、眼光静脈りゅうから採血を行い測定した。実験最終日、投与3時間後に血糖値を測定した後、マウスは麻酔科において開腹し、心臓採血を行った。副睾丸上皮脂質を摘出後、液体窒素で保存した。尚、投与は絶食を午前11時から12時とし、その3時間後、採血を行い血糖値を測定した。【0029】(3) 糖負荷試験ナットウキナーゼフラクション(200倍精製品)を3週間連続投与したマウスを18時間絶食させた後、ナットウキナーゼフラクション(200倍精製品)を水に溶解し、1mg/kg・dayにて経口投与を行い、その30分後、グルコース溶液(2g/kg)を経口投与して、その30分後、60分後、120分後の血糖値を測定した。【0030】(4) インスリン負荷試験上記糖負荷試験による方法に準じて行い、グルコース溶液の投与でなく、インスリン(0.5U/kg)を腹腔内投与した。【0031】(5) 血糖値及び血清脂質の測定血糖値の測定は、(株)三和化学研究所製小型血糖測定器グルテストエース(GT−1640)を用いて測定し、血清インスリン値はワンステップ酵素免疫測定法(和光純薬(株)製のグランザイムインスリンEIAテスト)により測定した。血中トリグリセリド(TG)、総コレステロール(T−CHO)、遊離脂肪酸(FFA)、低比重リボ蛋白(LDL)及び高密度リボ蛋白(HDL)については(株)三菱化学ビーシーエルに測定を委託した。【0032】(6) RT−PCRマウスより摘出した脂肪組織を100mgよりTRIZOL試薬を用いてTotal RNAを抽出した。各臓器より抽出したTotal RNAから5μgを用いてT−primed first stand kitによりcDNA化を行い、RT−PCR法により各因子を特異的に増幅するプライマー対を用いてβ−Actinを基準として発現量を検討した。【0033】[II] 実施例及び比較例[ナットーキナーゼの調製](1) 納豆菌コロニーの培養納豆菌(高橋菌)を純水に加えて攪拌することにより懸濁状態にした後、これを標準寒天培地(ニッスイ製)を用いてシャーレに作製した平板培地に少量を加え(接種し)、37℃で24時間培養して上記平板培地上に納豆菌コロニーを得る。【0034】(2) 培養液の調製一方、原料であるグルコース1gと粉末状大豆タンパク質(日清コスモフーズ(株)製,商品名:ソルピーNY)4gからなる液体培地200mlを内容積500mlの三角フラスコ内に作製し、オートクレーブを用いて120℃の状態に30分間保持して上記三角フラスコ内を滅菌する。上記粉末状大豆タンパク質は、大豆より精製したものである。なお、原料として、大豆を粉砕する等して得られる大豆の粉末を用いるようにしても良い。この後、平板培地上に培養した納豆菌コロニーより、白金線の輪の径が2mmの白金耳で納豆菌を1回採取し、採取した納豆菌を上記三角フラスコ内の液体培地に接種する。次いで、納豆菌を接種した液体培地が収容されている三角フラスコを、40℃に保持したまま密閉せずに2日間回転振盪させて、三角フラスコ内の液体培地を培養する。【0035】(3) 培 養また、内容積が30リットルのジャーファーメンターに、グルコース100g、粉末大豆タンパク質400g、及び、可溶性澱粉(敷島スターチ(株)製SF−400)からなる液体培地20リットルを作製し、これらを滅菌したものを用意する。加えて、上記三角フラスコ内に培養した納豆菌培養液200mlを、ジャーファーメンター内の液体培地に加え、42℃に加温した状態でバブリングしながら攪拌する状態を2日間保持して培養する。同様のものを3つ作製し、約50リットルの大豆タンパク質培養液を得る。【0036】(4) 納豆菌の分離次に、得られた大豆タンパク質培養液より納豆菌および不純物を遠心分離により除去した後、硫酸アンモニウムを1モル添加する。この硫酸アンモニウムの添加により、発酵液中に分散している種々の酵素等のタンパク質性の高分子化合物を含むタンパク質を疎水化して凝集し易い状態とする。また、硫酸アンモニウムの添加により新たに不溶物が形成されるが、これら不溶物は、ガラス繊維濾紙で濾過する。【0037】(5) 凝 集次いで、不溶物を濾過した濾液に、1モルの硫酸アンモニウム溶液で平衡化した疎水クロマトグラフィー用樹脂(東ソー(株)製、商品名:ブチルートヨパール650M)を浸漬し、樹脂上に疎水化した高分子化合物を凝集(添着)させる。【0038】(6) 濃 縮次に、上記樹脂上を0.1モル濃度の炭酸水素アンモニウム水溶液に浸漬し、樹脂に添着した高分子化合物を溶出させることで、大豆タンパク質培養液を濃縮した濃縮培養液40リットルを得る。【0039】(7) 限外濾過次に、プレッブスケールM.W.1万の限外濾過膜を用いて限外濾過することで低分子物質を分離し、上記濃縮培養液40リットルを10リットルになるまで濃縮する。限外濾過することで、限外濾過膜により濃縮された濃縮物に純水10リットルを加えて20リットルとし、再度、上記限外濾過することにより低分子物質を分離して、再び、10リットルになるまで濃縮する操作を3回繰り返し、大豆タンパク質培養液を濃縮した濃縮培養液から、ほとんどの低分子物質を除去した大豆タンパク質発酵物溶液を得る。【0040】限外濾過上記限外濾過は、一般にコロイド粒子の様な微細な粒子を分散媒より分離するために行われることから、それに用いられる限外濾過膜は、布や素焼きの多孔板に付けたコロジオン膜やホルマリンで硬化させたゼラチン膜や珪酸膜やセロハン膜等が用いられ、加圧下でコロイド溶液をこれらの膜を通して濾過する。膜の目の大きさを加減するにはコロジオンではアルコール、エーテルの混合溶媒に対する濃度、乾燥条件等の調節、セロハンでは塩類水溶液中に浸す際の膨張度の調節、又は、膜を通してコロジオン溶液を濾過し、コロジオンを膜に沈着させることにより行うことができる。【0041】濾過により分離されるもの限外濾過により濾過されるものとしては、納豆特有の臭いの主な成分は、ジメチルピラジン(分子量108.14),トリメチルピラジン(分子量122.17),テトラメチルピラジン(分子量126.20),2−メチル酪酸(分子量102.13),イソ吉草酸(分子量102.13),アンモニア(分子量17.03)などの低分子化合物である。また、納豆に含まれているビタミンK2は、分子量が649の炭化水素化合物である。一方、ナットウキナーゼを始めとする酵素などのタンパク質は、分子量数万以上の高分子化合物である。したがって、前述した限外濾過による低分子物質の除去により、大豆タンパク質培養液中から、納豆特有の上記臭いの成分やビタミンK2等の低分子物質が、ほぼ除去された状態となる。納豆に含まれているビタミンK2は、心筋梗塞等の心臓病に対して用いられる拮抗剤「ワーファリン」(医薬品)の効果を抑制するという問題がある。しかしながら、本実施の形態によれば、ビタミンK2が除去されるので、この問題を解消することが可能になる。【0042】(8) 乾 燥最後に、上記限外濾過により低分子物質が除去された大豆タンパク質発酵物溶液に、賦形剤として乳糖2キログラムを加えて凍結乾燥すれば、大豆タンパク質発酵物粉末(加工食品)約2.1kgが得られる。【0043】(9) 臭気試験納豆が苦手で食べられない被検者二人による、本実施の形態による大豆タンパク質発酵物粉末の臭いの有無を確認を行ったところ、被検者二人とも納豆臭を感じることはなかった。【0044】(10) 精 製 上記粉体状のナットウキナーゼ含有物(粗精製品:ナットウキナーゼコンパウンド)10gを30ミリモルのTris−HCl緩衝液(pH9.0)500mlに溶解させて、25重量%飽和硫安166mlを加えて15分間攪拌し、15分間放置した後、回転数11000rpm、30分間遠心分離を行い、分画して、沈殿物を除去した後、その液状物に疎水クロマトグラフィー用樹脂(東ソー(株)製「Butyl トヨパール」)50ml(30ミリモルのTris−HCl緩衝液、25重量%飽和硫安、pH9.0)を加えて2時間攪拌して疎水クロマトグラフィー用樹脂に吸着させ、再び回転数3000rpm、5分間遠心分離を行い、その上澄み液を除去した後、30ミリモルのTris−HCl緩衝液、25重量%飽和硫安、pH9.0で洗浄し、再び回転数3000rpm、5分間遠心分離を行い、その上澄み液を除去した後、30ミリモルのTris−HCl緩衝液、pH9.0により溶出させることにより精製したナットウキナーゼフラクション(200倍精製品)を調製した。【0045】[糖尿病治療効果]実施例1及び比較例1上記ナットウキナーゼコンパウンド(粗精製品)をSTZ処理マウス(I型糖尿病モデル)に対して1日当たり200mg/kg、400mg/kg、600mg/kgの摂取量にて21日間連続して経口投与した結果、表1に示す通り、血中グルコース濃度がナットウキナーゼコンパウンド(粗精製品)の用量依存的に減少した。しかし、血中の総コレステロール(T−CHO)及びトリグリセリド(TG)は、表1に示す通り、大きく増加した。【0046】【表1】【0047】これらの結果から、ナットウキナーゼコンパウンド(粗精製品)はI型糖尿病において、血糖値を下げる効果はあるが、その分血中脂質を増加させてしまうとの現象が生じていることが理解できる。また、上記ナットウキナーゼコンパウンド(粗精製品)を400mg/kgの濃度に調製し、肝臓、脂肪、筋肉でのGLUT4、HSD−1、PPAR γ、インシュリンレセプターの遺伝子発現をRT−PCRによって検討した結果、肝臓での遺伝子発現は変化していなかった。また、脂肪組織では、HSD−1の発現がナットウキナーゼコンパウンド(粗精製品)投与によって減少した以外はほぼ同様であった。更に、筋肉では、PPAR γの発現が減少し、インシュリンレセプターも減少傾向を見せた。【0048】実施例2及び比較例2ナットウキナーゼコンパウンド(粗精製品)をKK−Ayマウス(II型糖尿病モデル)に対して1日当たり200mg/kg、600mg/kgの摂取量にて21日間連続して経口投与した結果、表2に示す通り、血中グルコース濃度が減少した。更に、血中の総コレステロール(T−CHO)及びトリグリセリド(TG)も、表2に示す通り減少した。但し、体重増加は途中若干の違いは見られたものの、投与終了時点では差が見られなかった。【0049】【表2】【0050】これらの結果から、ナットウキナーゼコンパウンド(粗精製品)にはII型糖尿病において血糖値を下げる効果があり、更にI型糖尿病の場合と異なり、血中脂質も減少させることができることが理解できる。【0051】実施例3及び比較例3高血糖状態の(250mg/dl前後)KK−Ayマウス(II型糖尿病モデル)に対してナットウキナーゼフラクション(200倍精製品)を1日当たり1mg/kgの摂取量にて21日間連続して経口投与した結果、血中グルコース濃度の上昇を抑制することができた。しかし、体重の増加にコントロール群との差を見ることができなかった。また、投与期間中摂食量に顕著な差は見られなかったが、肝臓の重量は投与群の方が有意に少なくなっていた。【0052】【表3】【0053】実施例4及び比較例4ナットウキナーゼフラクション(200倍精製品)をKK−Ayマウス(II型糖尿病モデル)に対して21日間連続して経口投与して糖負荷試験を行い、血中グルコース濃度を測定した。その結果を図1に示す。図1の結果から、糖負荷開始30分後から有意な血糖抑制作用が見られ、その効果は120分後まで継続していることが理解できる。【0054】実施例5及び比較例5ナットウキナーゼフラクション(200倍精製品)をKK−Ayマウス(II型糖尿病モデル)に対して21日間連続して経口投与した後、絶食後にインスリン溶液を腹腔内に投与してインスリン負荷試験を行い、血中グルコース濃度を測定した。その結果を図2に示す。図2の結果から、糖負荷開始180分後においても血糖抑制効果が見られることが理解できる。【0055】実施例6及び比較例6ナットウキナーゼフラクション(200倍精製品)をKK−Ayマウス(II型糖尿病モデル)に対して21日間連続して経口投与した後、血中のインスリンや脂質の代謝をコントロール群と比較したところインスリン量に差はないが、総コレステロール量(T−CHO)は有意に高く、その差はHDL(高密度リボ蛋白)コレステロールによるものであった。一方、トリグリセリド(TG)は有意に低く、遊離脂肪酸(FFA)には大きな差が見られなかった。【0056】【表4】【0057】実施例7KK−Ayマウス(II型糖尿病モデル)より摘出した脂肪組織(副睾丸上皮質)における遺伝子の発現をRT−PCRで検討した。UCP−1(1型ミトコンドリア脱共役蛋白質)はナットウキナーゼフラクション(200倍精製品)投与の有無に拘わらず発現が見られなかったが、UCP−2(2型ミトコンドリア脱共役蛋白質)は元々あった発現が減少していた。β3−アドレノセプターは3匹中の2匹に発現が上昇している場合があった。また、グルコーストランスポーター(GLUT4)は発現が見られなくなり、1型 11βヒドロキシステロイド脱水素酵素(11βHSD−1)は発現の現象が見られた。【0058】実施例8[被験者]空腹時血糖が100〜125mg/dlの正常高血糖者から境界型糖尿病者で血糖降下剤を投与されていない男性6名を選定した。[ナットウキナーゼコンパウンド(粗精製品)の投与]1日6g(毎食後2g)2週間連続経日投与、投与期間中は過度な飲酒と納豆の摂取を禁じた。【0059】[血糖値測定]ナットウキナーゼコンパウンド(粗精製品)の摂取前と摂取2週間後の空腹時血糖と高澱粉食(うどん、米飯、蛋白質13.1g、脂質2.5g、炭水化物139.8g、エネルギー634kcal)を15分以内で全量を摂取させた30分後の血糖値を測定した。測定は酵素電極法による自己血糖測定装置(バイエルメディカル(株)製「デキスターZ」)で行った。その結果を表5に示す。【0060】【表5】【0061】表5の結果から、空腹時の血糖値及び食後の血糖値の上昇はいずれもナットウキナーゼコンパウンド(粗精製品)の摂取により低下し、糖尿病の改善に効果を発揮することができると理解できる。【0062】【発明の効果】このような本発明の糖尿病治療薬は、経口投与することにより血中のグルコース濃度を減少させたり、血中の総コレステロール(T−CHO)やトリグリセリド(TG)を低下させることができるので、糖尿病治療用薬として使用することができる。また、納豆から抽出した食品であることから、副作用が無く、極めて安全性の高いものである。【図面の簡単な説明】【図1】図1は、本発明実施例における糖負荷試験の結果を表す。【図2】図2は、本発明実施例におけるインスリン負荷試験の結果を表す。 ナットウキナーゼを有効成分として含有することを特徴とする糖尿病治療薬。 ナットウキナーゼを成人1日当たり0.3〜3mgの量で摂取する、請求項1に記載の糖尿病治療薬。 ナットウキナーゼを経口投与する、請求項1又は2に記載の糖尿病治療薬。 糖尿病がI型糖尿病及びII型糖尿病である、請求項1〜3のいずれかに記載の糖尿病治療薬。 ナットウキナーゼが、納豆菌を培養して得られるナットウキナーゼ含有物である、請求項1〜4のいずれかに記載の糖尿病治療薬。 ナットウキナーゼ含有物の摂取量が成人1日当たり2.5〜25gである、請求項5に記載の糖尿病治療薬。 ナットウキナーゼが、納豆菌を培養して得られるナットウキナーゼ含有物を疎水クロマトグラフィー用樹脂に吸着させて分離精製したものである、請求項1〜4のいずれかに記載の糖尿病治療薬。 精製ナットウキナーゼの摂取量が成人1日当たり12.5〜125mgである、請求項7に記載の糖尿病治療薬。 ナットウキナーゼの分離精製が、ナットウキナーゼ含有物をTris−HCl緩衝液で溶解させて、疎水クロマトグラフィー用樹脂に吸着させて、不純物を分離した後、再度Tris−HCl緩衝液で溶出させることにより精製したものである、請求項7に記載の糖尿病治療薬。