タイトル: | 公開特許公報(A)_組換えバチルスメガテリウム菌 |
出願番号: | 2002267120 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,C12N15/09,C12N1/21,C12P21/02 |
林 康弘 秋葉 俊一 袴田 佳宏 荒 勝俊 斎藤 英一 JP 2004097153 公開特許公報(A) 20040402 2002267120 20020912 組換えバチルスメガテリウム菌 花王株式会社 000000918 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 林 康弘 秋葉 俊一 袴田 佳宏 荒 勝俊 斎藤 英一 7 C12N15/09 C12N1/21 C12P21/02 C12N1/21 C12R1:11 C12P21/02 C12R1:11 JP C12N15/00 A C12N1/21 C12P21/02 C C12N1/21 C12R1:11 C12P21/02 C C12R1:11 3 OL 14 4B024 4B064 4B065 4B024AA01 4B024AA11 4B024BA19 4B024CA04 4B024DA05 4B024DA06 4B024EA04 4B024FA02 4B024FA18 4B024GA11 4B064AG21 4B064CA02 4B064CA19 4B064CC24 4B064DA01 4B065AA17X 4B065AA17Y 4B065AA26X 4B065AB01 4B065AC14 4B065AC15 4B065BA02 4B065CA24 4B065CA44 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、組換えバチルス メガテリウム菌及びこれを用いた目的タンパク質の製造法に関する。【0002】【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】今日まで、組換えDNA技術による異種タンパク質の生産には、大腸菌(E. coli)をはじめとして、酵母や糸状菌、培養動植物細胞、バチルス属細菌等の宿主ベクター系が用いられてきた。このうち、バチルス属細菌の一つである枯草菌は、産業用酵素の供給源のみならず食品産業でも利用されている菌であり、安全性が極めて高いことに加え、菌体外へのタンパク質の分泌が可能であり、菌体内若しくはペリプラズムで異種タンパク質を生産させる大腸菌の系と比較して異種タンパク質の精製操作が大幅に簡略化できるという利点があることから、大腸菌に次いで遺伝学的研究が行われ、形質転換効率の高い宿主ベクターが開発されている。【0003】しかしながら、枯草菌においても、その宿主ベクター系は適当なプロモーター領域、分泌シグナルペプチド領域がない場合には、目的産物が細胞内に留まったままであったり、分泌生産された目的タンパク質が膜の上や菌体外でプロテアーゼにより分解されたり、シャペロンの不適合等の要因によって効率的な物質生産が行われない(非特許文献1参照)、といった問題がある。【0004】一方、バチルス メガテリウム菌は、枯草菌と同様にバチルス属細菌の一つであり、プロテアーゼ分泌能が枯草菌等に比べて低いことが知られている。斯かるバチルス メガテリウム菌を宿主として異種タンパク質を生産した例はいくつか報告されているが(非特許文献2、非特許文献3参照)、いずれも外来遺伝子産物は菌体内に蓄積されており、菌体外へ分泌生産されたという報告はない。【0005】他方、シスタチン類は、システインプロテアーゼ阻害剤の総称であり、ヒト組織および体液に広く分布し、カテプシンB、H、L及びSのようなシステインプロテアーゼと密接かつ可逆的な複合体を形成し、これらのプロテアーゼが関与する正常又は病的な過程の調節に係わっている。従って、シスタチンは、後天的な肺炎(肺気腫)、劇症肝炎、心筋梗塞、成人呼吸窮迫症候群、細菌毒素に起因するショック様症候群、カテプシンKの選択的阻害による疾患(骨粗しょう症、パジェット病、悪性高カルシウム血症、代謝性骨疾患等)に関与すると考えられている。【0006】そして、斯かるシスタチン類の製造についても、そのアミノ酸構造をコードする遺伝子を用いた組換え生産が試みられており、シスタチンCを始め、シスタチンA、シスタチンB、シスタチンα及びシスタチンSの組換え大腸菌(E.coli)による生産などが知られているが、その生産性は低く実用化されるレベルには至っていないのが実情である。【0007】本発明は、目的タンパク質を効率的且つ大量に製造するための宿主ベクター系及びこれを用いたシスタチン類の製造法を提供することを目的とする。【0008】【非特許文献1】Simonen, M., and Palva,, I., Microbiol. Rev. 57:109,(1993)【非特許文献2】Yamagata, H., et al., Pro. Natl. Acad. Sci. USA., 86:3589,(1989)【非特許文献3】Rygus, T., and Hillen, W., Appl. Microbiol. Biotechnol., 35:594,(1991)【0009】【課題を解決するための手段】本発明者らは、バチルス属細菌の宿主ベクター系を用いたタンパク質の生産方法について種々検討したところ、バチルス メガテリウム菌を宿主とし、これをバチルス属細菌由来のアルカリセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナルペプチド領域を含む発現ベクターで形質転換させた組換えバチルス メガテリウム菌を用いることにより、目的タンパク質が効率よく大量に分泌生産できることを見出した。【0010】すなわち本発明は、バチルス メガテリウム菌を、バチルス属細菌由来アルカリセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナルペプチド領域と目的タンパク質をコードする遺伝子とを含むDNA断片を保持するベクターで形質転換させてなる組換えバチルス メガテリウム菌を提供するものである。【0011】また本発明は、目的タンパク質をコードする遺伝子としてシスタチン類をコードする遺伝子を組み込んだ上記組換えバチルス メガテリウム菌を培養し、当該培養物中からシスタチン類を分離するシスタチン類の製造法を提供するものである。【0012】【発明の実施の形態】本発明の組換えバチルス メガテリウム菌は、バチルス メガテリウム菌を宿主とし、これをバチルス属細菌由来アルカリセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナルペプチド領域と目的タンパク質をコードする遺伝子とを含むDNA断片を保持するベクターで形質転換させてなるものである。以下、本発明の組換えバチルス メガテリウム菌について説明する。【0013】本発明において用いられる宿主菌は、バチルス メガテリウム菌(Bacillus megaterium)であればよいが、プロテアーゼの機能が消失又は低いか或いはプロテアーゼの菌体外分泌能が低く、分泌生産された目的タンパク質の細胞膜上や菌体外での分解が抑制されるものが好ましく、例えばバチルス メガテリウム菌 WH320株が挙げられる。WH320株は、Rygusらによって調製されたDSM319株の派生株であり、DSM319株をEMSにて変異処理し、ラクトース及びXGalを含む寒天培地上で白いコロニーを示す株として取得されたものである。本株にはβ−ガラクトシダーゼ活性が見られない(Rygus.T et al.,Arch Microbiol 155:535(1991)。【0014】本発明の組換えバチルス メガテリウム菌を形質転換するためのベクターは、バチルス属細菌由来アルカリセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナルペプチド領域と、目的タンパク質をコードする遺伝子とを含むDNA断片を含むものであればよい。プロモーター領域及び分泌シグナルペプチド領域としては、Bacillus sp. KSM−64(FERM P−10482)由来のDNA断片(配列番号1、特開平6−217781号公報)、Bacillus sp. KSM−S237(FERM P−16067)由来のDNA断片(配列番号2、特開2000−210081号公報)が好適に挙げられ、特にBacillus sp. KSM−S237セルラーゼ由来のDNA断片(配列番号2)が好ましい。【0015】斯かるプロモーター領域及び分泌シグナルペプチド領域のセルラーゼ遺伝子からの単離は公知の方法、例えば Maniatisら[Maniatis, T., et al., MolecularCloning 2nd ed., A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1989)]に記載の方法で行うことができる。また、公知のポリメラアーゼ・チェイン・リアクション(PCR)法によって特異的に増幅することにより効率的に取得できる[Innis,M.,A., et al., PCR Protocols, A guide to methods and applications, Academic Press (1990)]。【0016】目的タンパク質をコードする遺伝子は、上記プロモーター領域及び分泌シグナル領域の下流末端に結合すればよく、当該目的タンパク質としては、各種酵素タンパク質や生理活性ペプチド等、いずれの異種タンパク質でもよい。【0017】斯かるバチルス属細菌由来アルカリセルラーゼのプロモーター領域及び分泌シグナルペプチド領域と目的タンパク質をコードする遺伝子とを含むDNA断片を保持する発現ベクターは、バチルス メガテリウム菌に保持され増殖するプラスミドであればよく、例えば、Staphylococcus aureus由来のpUB110、Bacillus cereus由来のpBC16、Enterococcus faecalis由来のpAMα1、pAMα1の一部を含むシャトルベクターpHY300PLKなどが挙げられる。【0018】斯かるベクターを用いて、宿主バチルス メガテリウム菌を形質転換するには、プロトプラスト法、コンピテントセル法、エレクトロポレーション法等の公知の方法を用いればよい。【0019】斯くして得られる組換えバチルス メガテリウム菌(形質転換体)を、当該組換えバチルス メガテリウム菌が生育可能な培地中で適当な培養条件で培養することにより、目的タンパク質を大量に生成させることができる。特に、本発明の組換えバチルス メガテリウム菌はシスタチン類の大量分泌生成に適するものであり、宿主バチルス メガテリウム菌を、バチルス属細菌由来アルカリセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナルペプチド領域と、シスタチン類をコードする遺伝子とを含むDNA断片を保持するベクターで形質転換させてなる組換えバチルス メガテリウム菌を用い、これを適当な培地中で適当な培養条件で培養することによって、シスタチン類を大量に分泌生成させることができる。【0020】ここで、シスタチン類としては、その起源や種類に限定されず、ファミリー1(ステフィンファミリー)、ファミリー2(シスタチンファミリー)及びファミリー3(キニノーゲンファミリー)に分類される全てのシスタチンスーパーファミリー並びに、システインプロテアーゼに対する阻害活性を有する特開平7−126294号公報に記載の新規システインプロテアーゼインヒビター、特表2001−512966号公報に記載のCSTINのようなシスタチン様タンパク質が挙げられる。【0021】斯かる、1)ファミリー1としては、ヒトシスタチンA、ヒトシスタチンB、ラットシスタチンα、ラットシスタチンβ、ヒトc−Ha−ras oncogene product−p21、オリザシスタチンI、オリザシスタチンII、コーンシスタチン、ソヤシスタチン等が挙げられ、2)ファミリー2としては、ヒトシスタチンC、ヒトシスタチンS、ヒトシスタチンSN、ヒトシスタチンSA、ヒトシスタチンD、ヒトシスタチンM、ヒトロイコシスタチン(シスタチンF)、ラットシスタチンC、ラットシスタチンS、マウスシスタチンC、マウスロイコノシスタチン、チキンシスタチン、ウズラシスタチン、ウシ初乳シスタチン、カープシスタチン、タイワンコブラ毒シスタチン、カブトガニシスタチン、チャムサーモンシスタチン、Drosophiaシスタチン、サーコシスタチン、マムシ毒シスタチン等が挙げられ、3)ファミリー3としては、ヒト低分子量キニノ−ゲン、ヒト高分子量キニノーゲン、ウシ低分子量キニノーゲン、ウシ高分子量キニノーゲン、ラット低分子量キニノーゲン、ラット高分子量キニノーゲン、ラットT−キニノーゲン1、ラットT−キニノーゲン2等が挙げられる。【0022】このうち、本発明の組換えバチルス メガテリウム菌を用いた製造には、特にファミリー2に属すものが好ましく、特にヒトの唾液由来のシスタチンであるシスタチンS、シスタチンSA、シスタチンSNが適する。尚、これらシスタチン類の遺伝子は、生体からの抽出や増幅、化学的合成等の公知の方法により取得すればよい。【0023】組換えバチルス メガテリウム菌の培養に用いる培地の種類としては、適当な窒素源、炭素源、ミネラルを含み、本発明のバチルス メガテリウム菌宿主が生育し、目的タンパク質を生産することのできるものであればよい。例えば、配列番号2で示されるDNA断片を含む組換えバチルス メガテリウム菌WH320株によってシスタチン類を生産する場合、炭素源として、ぶどう糖や果糖等の単糖類、しょ糖、麦芽糖等の二糖類又は可溶性澱粉等の多糖類等を配合した培地や、窒素源として、酵母エキス、魚肉エキス、コーンスティープリカー(CSL)等を配合したCM培地等を用いることができる。【0024】また、培地のpHは、用いる組換えバチルス メガテリウム菌が生育し得る範囲のpHであればよいが、pH6.0〜8.0に調整するのが好適である。培養条件は、15〜42℃、好ましくは28〜37℃で2〜7日間振盪または、通気撹拌培養すればよい。【0025】【実施例】試験方法(1)宿主菌株宿主として、Bacillus megaterium WH320株(MoBiTec社)、比較例としてBacillus subtilis 168株を用いた。【0026】(2)プラスミドの調製遺伝子のサブクローニングに用いる大腸菌宿主としてEsherichia coli HB101株(タカラバイオ株式会社製)を使用した。ヒト顎下腺由来のcDNAからクローニングしてきたシスタチンS遺伝子を含むプラスミドとしてpUSA3(Saitoh,E., andIsemura,S., J.Biochem.116,:399,(1994))を使用した。Bacillus sp. KSM−S237株セルラーゼ由来のプロモーター領域、分泌シグナルペプチド領域を含むプラスミドとしてpHYEglS(Hakamada,Y., et al., Biosci.Biotechnol.Biochem., 64:2281,(2000))を使用した。シスタチン遺伝子をサブクローニングするベクターとしてpHY300PLK(タカラバイオ株式会社製)を使用した(図1)。【0027】(3)使用培地及び培養条件組換え菌の培養には、表1に示したCM培地を使用し、以下の培養条件で行った。すなわち、大型試験管(シード培地、5mL仕込)にて15時間培養した前培養液を、500mLヒダつき三角フラスコ(メイン培地、20mL仕込)に4%植菌し、培養温度30℃、回転数210rpmで3〜4日間培養を行った。【0028】【表1】【0029】(4)遺伝子工学的手法遺伝子断片の増幅にはポリメラーゼ・チェイン・リアクション(PCR)法を用いた。PCR法には、Pwo DNAポリメラーゼ(ロシュー・ダイアグノスティックス社)を用いて、鋳型DNA5ng、表2に示す順方向プライマー及び逆方向プライマー各20pmolとして、PCR反応(変性温度:94℃−1分、アニール温度:54℃−0.5分、DNA鎖伸張温度:72℃−4分を1サイクルとして30回繰り返す)をDNA Thermal Cycler(パーキン・エルマ社)を用いて行った。増幅された遺伝子断片の塩基配列をサンガー法(F.Sangar, et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA,74:5463(1982))により決定し、PCR法による配列のエラーが起こっていないことを確認した。構築した組換えプラスミドのバチルス メガテリウム菌への導入には、プロトプラスト法(Chang,S., and Cohen,N., S.,Mol.Gen.Genet.,168:111,(1979))の変法(プロトプラストの形成:BROWN J.B. & CARLTON.B.C. J.Bacteriol.142:508(1980)、形質転換体の再生:Puyel,A. et al., FEMS. Microbiol,Lett.40:1(1987))に従って行った。【0030】【表2】【0031】(5)組換え菌生産物の解析培養後の培養液を遠心分離し培養上清と菌体を得た。菌体を菌体破砕緩衝液(50mM リン酸緩衝液(pH7.4)、1mM EDTA、1mM PMSF、1mM DTT 、5%グリセロール)で懸濁し、超音波破砕(BIOMIC社7500型、Output 5、Duty Cycle 50%、15分間破砕)後、遠心分離した上清を菌体破砕物とした。SDSポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)はレディゲルJ (分離ゲル濃度15%、バイオラッド)を用い、泳動後のゲルをクイックCBB(関東化学)にてタンパク質染色した。抗体染色はSDS−PAGEで分離したタンパク質をゲルからPVDFフィルター(ミリポア、Immobilonトランスファー膜)上へ電気的に転写後、一次抗体に後記参考例に記載の方法により作製した組換え大腸菌由来のシスタチンSに対する抗シスタチンSマウス抗体、二次抗体にHRP標識の抗マウスIg抗体(アマシャム ファルマシア バイオテク社)を用い、ECL Plusウェスタンブロッティング検出システム(アマシャム ファルマシア バイオテク社)によって、シスタチンSの検出を行った。【0032】参考例 抗シスタチンS抗体の作製(1)パパイン阻害活性の測定方法シスタチンSのパパイン阻害活性はBarretら(Methods in enzymology Vol.80、pp771(1981))に準じて測定した。10mMベンゾイル−L−アルギニン−4−ニトロアニリド(Benzoil−L−arginine−4−nitroanilide)ジメチルスルホキシド溶液を基質とし、2mMのEDTAを含む、200mMリン酸緩衝液にDTTを終濃度8mMとなるように添加した。パパイン1mg/mLの濃度でDTTを含まない緩衝液に溶解した。また、反応停止用溶液として5%トリクロロ酢酸溶液を使用した。測定は以下の手順で行った。測定用チューブに1mLDTTを含む緩衝液と0.05mLのパパイン溶液、試料溶液0.5mLおよび全量2mLとなるよう蒸留水を入れ、25℃で5分間インキュベートした。ついで基質溶液0.05mLを加え攪拌した。25℃で15分反応後、1mLの反応停止液を加え、沈殿が生じた場合は10000rpm、10分間遠心分離を行い、上清の405nmの吸光度を測定した。相対阻害活性は次式(1)より求めた。相対阻害活性(%)=100−((A0−AI)/A0×100) (1)A0:阻害剤フリーの吸光度AI:サンプルの吸光度【0033】(2)シスタチンSの組換え大腸菌による製造ヒト唾液由来シスタチンSは斎藤ら[J.Biochem.116,399−405(1994)]の方法に従って製造した。即ち、ヒトシスタチンSのcDNAを含む発現ベクターを大腸菌(Escherichia coli)JM109(タカラバイオ株式会社製)を宿主として組換え操作を行い、組換え体を作成した。組換え大腸菌の培養はアンピシリン(50μg/mL)添加LB培地50mLにて前培養を行った。本培養はM9最小培地にシュークロース(4g/L)、チアミン(2mg/L)、MgSO4(1mM)、CaCl2(0.1mM)とアンピシリン(50mg/L)を加えた培地16Lを用い30−L容ジャーファーメンターによって、前培養液16mLを添加後、培養温度37℃、通気量4L/min、攪拌数250rpmの条件で行った。培養4時間後(OD600=0.5)にイソプロピルチオガラクトシド(終濃度0.3mM)を添加してさらに4時間培養を行い、シスタチンSを発現した。培養後、Freijeら[J.Biol.Chem.268,15737−15744(1993)]の方法によって菌体処理を行いペリプラズム画分を調製した。【0034】(3)シスタチンSの精製シスタチンSの精製はDEAE−Toyopearl 650C(2.5cm×10cm)によるイオンクロマトグラフィーによって行った。ペリプラズム画分を10mM NH4HCO3(pH8)にて平衡化したDEAE−Toyopearl 650Cカラム(2.5cm×10cm)にロードする。10mM NH4HCO3(pH8)で溶出洗浄後、10mM NH4HCO3(pH8)(250mL)、4%NaCl溶解10mM NH4HCO3(pH8)(250mL)で形成されるグラジエントで溶出する。組換えシスタチンSを含むフラクションは(1)に示した方法によってパパイン阻害活性を測定することで検出した。【0035】パパイン阻害活性を有するフラクションを凍結乾燥後、再度60mLの蒸留水に溶解後、Centriprep3(MILLIPORE社製)にて20mLに脱塩濃縮を行った。さらに、40mLの蒸留水を添加して、同様に脱塩濃縮を2回行った。得られた脱塩濃縮液20mLのうち10mLをさらにCentriprep3にて濃縮を行い1.5mLとした。得られたシスタチンS濃縮液1.5mLをさらに10mM Tris−HClバッファー(pH7.2)で平衡化したToyopearl HW55Fカラム(1.5cm×94cm)によるゲル濾過を行った。組換えシスタチンSを含むフラクションは(1)に示した方法によってパパイン阻害活性を測定することで検出した。パパイン阻害活性を有するフラクションをCentriprep3にて濃縮を行い2mLとした。得られた濃縮液をプロテインアッセイ(バイオラッド社製)により牛血清アルブミンを標準として定量した結果、678μg/mLであった。【0036】(4)抗シスタチンSマウス抗体の作製(3)によって得られた精製シスタチンSを用いて常法に従って抗シスタチンSマウス抗体を作製した。即ち雌のBALB/cマウスに精製シスタチンS溶液60μLを100μL FCAと混合して腹腔内注射により初回免疫を行った。さらに、14、28、48日後に精製シスタチンS溶液60μLを100μL MPL+TDMエマルジョンと混合して腹腔内注射を行った。52日後にマウス尾静脈より全血を採取し、抗血清を分離し抗シスタチンSマウス抗体とした。【0037】比較例1 枯草菌168株による発現KSM−S237株由来のセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域、シグナルペプチド領域を利用した組換えプラスミドを構築した。すなわち、プラスミドpHYEglS5ngを鋳型としS237UE及びCS237Dの2種類のプライマー各20nmolを用いたPCRによりKSM−S237株由来のセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域、分泌シグナルペプチド領域をコードする0.6Kbの遺伝子断片を得た。同様にプラスミドpUSA3 5ngを鋳型とし237CSU及びpSDの2種類のプライマー各20nmolを用いたPCRによりヒト・シスタチンSをコードする0.4kbの遺伝子断片を得た。この0.4Kb断片の塩基配列をサンガー法により決定し構造遺伝子中のEcoR Iサイトをコドンに影響の無いように(AAT→AAC)消去したことを確認した。単離した0.6Kb断片、0.4Kb断片をそれぞれ5ngを鋳型としてS237UE及びpSDの2種類のプライマー各20nmolを用いたPCRによりKSM−S237株由来のセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域、シグナルペプチド領域の下流末端にヒト・シスタチンSをコードする遺伝子が結合した1.0kb遺伝子断片を得た。得られた1.0Kb断片とプラスミドpHY300PLKをEcoRI及びHindII処理後、T4DNAリガーゼを用いて結合した。この結合反応物を大腸菌HB101株に導入し、5μg/mLテトラサイクリンを含むLB培地を用いて形質転換体を選択した。組換え大腸菌の保持する組換えプラスミドを常法[D.,M.,Glover, DNA Cloning Volume II,IRL PRESS, Oxford,Washington DC,(1985)]に従って調製し、得られた組換えプラスミドの制限酵素切断点の解析を行って組換えプラスミドpH237−USを得た。プロトプラスト法にて枯草菌168株に組換えプラスミドpH237−USを導入し、得られた枯草菌について培養(30℃、3日間)を行い、培養上清のSDS電気泳動的解析を行った。その結果抗体染色にて菌体破砕物中にヒト・シスタチンSに相当する分子サイズ(14Kd)のタンパク質バンドが検出できたが、培養上清中に抗体に反応するタンパク質バンドは検出できなかった(図2)。【0038】実施例1 バチルス メガテリウム菌による発現組換えプラスミドpH237−USをBacillus megaterium WH320 株に導入し、得られた組換え体について培養(30℃、4日間)を行い、培養上清のSDS電気泳動的解析を行った。その結果、抗体染色にてシスタチンが大量に菌体外分泌されていることが確認され、タンパク質染色においても充分に生産が確認できる生産レベルであることが認められた(図3)。【0039】【発明の効果】本発明の組換えバチルス メガテリウム菌を用いれば、目的タンパク質を効率よく且つ大量に生産することができる。【0040】【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】シスタチン組換えプラスミドの構築(S237プロモーター領域、分泌シグナルペプチド領域)を示す図である。【図2】S237プロモーター領域及び分泌シグナルペプチド領域を導入した組換え枯草菌生産物の解析結果を示す図である(比較例1)。【図3】S237プロモーター領域及び分泌シグナルペプチド領域を導入した組換えバチルス メガテリウム菌生産物の解析結果を示す図である(実施例1)。 バチルス メガテリウム菌を、バチルス属細菌由来アルカリセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナルペプチド領域と目的タンパク質をコードする遺伝子とを含むDNA断片を保持するベクターで形質転換させてなる組換えバチルス メガテリウム菌。 バチルス属細菌が、Bacillus sp. KSM−64(FERM P−10482)又はBacillus sp. KSM−S237(FERM P−16067)である請求項1記載の組換えバチルス メガテリウム菌。 目的タンパク質をコードする遺伝子としてシスタチン類をコードする遺伝子を組み込んだ請求項1又は2記載の組換えバチルス メガテリウム菌を培養し、当該培養物中からシスタチン類を分離するシスタチン類の製造法。 【課題】目的タンパク質を効率的且つ大量に製造するための宿主ベクター系及びこれを用いたシスタチン類の製造法を提供する。【解決手段】バチルス メガテリウム菌を、バチルス属細菌由来アルカリセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナルペプチド領域と目的タンパク質をコードする遺伝子とを含むDNA断片を保持するベクターで形質転換させてなる組換えバチルス メガテリウム菌、及び当該組換えバチルス メガテリウム菌を培養し、当該培養物中からシスタチン類を分離するシスタチン類の製造法。【選択図】 なし