タイトル: | 公開特許公報(A)_ハイドロキノンと界面活性剤の結晶性の分子錯体を含む美白剤 |
出願番号: | 2002264636 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,A61K7/48,A61K7/00 |
大橋 裕二 飯村 菜穂子 JP 2004099542 公開特許公報(A) 20040402 2002264636 20020910 ハイドロキノンと界面活性剤の結晶性の分子錯体を含む美白剤 財団法人理工学振興会 899000013 石田 敬 100077517 鶴田 準一 100092624 中村 和広 100108903 西山 雅也 100082898 樋口 外治 100081330 大橋 裕二 飯村 菜穂子 7 A61K7/48 A61K7/00 JP A61K7/48 A61K7/00 C 8 OL 15 4C083 4C083AC491 4C083AC492 4C083AC691 4C083AC692 4C083AD211 4C083AD212 4C083BB01 4C083CC02 4C083DD21 4C083EE16 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ハイドロキノン又はその誘導体と界面活性剤から成る結晶性の分子錯体を含む美白剤であって、上記分子錯体の形成により、熱、酸素又は光に対する上記ハイドロキノン含有美白剤の保存安定性が向上され、かつ、上記ハイドロキノンが徐放されて上記美白剤の美白効果が持続されることを特徴とする前記美白剤に関する。【0002】【従来の技術】ハイドロキノン(Hydroquinone; 1,4−Benzenediol; 1,4−Dihydroxybenzene)は、図1に示す構造を有し、CA[123−31−9]、化審3−543,C6H6O2=110.11、融点170〜171℃、沸点285〜287℃、d1.332、白色結晶を呈する化学物質である。メタノール、エーテルに易溶、水に可溶、ベンゼン、酢酸エチルに難溶で、空気酸化により徐徐に着色し、キンヒドロンを生成する。【0003】欧米諸国で見られるハイドロキノン製品は、通常の化粧品原料を用いて製造されたクリーム等に美白成分であるハイドロキノンを2〜4%含有させ、ハイドロキノン・クリームとして販売されている。その使用方法は制限付きで、例えば、ハイドロキノン・クリームはできるだけ夜間に使用するように指示されていたり、昼間の使用には日焼け止めクリームの併用を指示されていたりする。すなわち、これは、ハイドロキノンの有する酸素や光の影響を受けやすいという性質について何ら対策が採られていないことを意味すると考えられる。ハイドロキノンの酸化等を避けるために出荷時に窒素を封入し、密閉遮光容器内に保存するという方法が採用されているようであるが、一旦開封してしまえば、その後の保存においては、酸素や光への暴露は免れない。酸化防止剤等の添加によりこれを回避することも教示されているが、これによって肌荒れを起こすケースもあることが報告されている。【0004】大島らは、「ハイドロキノン外用剤による色素沈着症の治療」西日皮膚・42巻1号・昭55中、第二次世界大戦後の一時期に化粧品メーカーの発売した薬効成分の中に含有されたハイドロキノン化合物はほとんどがハイドロキノン・モノベンジル・エーテル(MEHQ)であったこと、その後ハイドロキノンの長期使用により尋常白斑に似た白斑の発生、脱色班などの治療上の副作用が相次いで報告されたことにより、ハイドロキノン化合物は薬事法では昭和32年の薬事第534号により化粧品への配合が禁止されるに至ったことを記載している(非特許文献1参照)。したがって、ハイドロキノン製剤は我が国では製品として市販されていないが、米国ではEldoquin, Eldopaqueの名前でElder社より発売されていて、これにはハイドロキノンが2%含有されていることも記載している。大島らは、HQ外用剤が軟膏缶にて常温保存すると約2週間で完全に茶褐色となり、酸化防止の目的で3%のL−アスコルビン酸を加え、調製直後にチューブに入れることにより安定性が非常によくなったが、念のため冷蔵庫の扉裏にあるバター入れに保存し、できるだけ速やかに使用することにしたこと、そして過去3年間、治療に適用して変質による何らの副作用を経験していないことを報告している。【0005】Patricia G, et al., ”Cosmetics and dermatology: Bleaching creams” J AmAcad Dermatol. 5:143−147 (1981)は、ハイドロキノン含有美白クリームは、2〜5%の濃度で有効・安全であるが、患者は日焼けからの保護や使用に関して厳しく指示されていることを記載している(非特許文献2参照)。そして内科医の処方による表在局所的コルチコステロイド、サリチル酸又はトレチノイン(tretinoin)の併用が、ハイドロキノン含有美白クリームの美白効果をかなり改善することを報告している。【0006】植田らは、「ハイドロキノン軟膏の検討」医薬ジャーナルVol.20, No.10, pp.1929−1934 (1984)中、肝班、雀卵班、リール黒皮症、皮疹後の色素沈着に対し脱メラニン療法として、2%ハイドロキノン軟膏(HQ軟膏)が用いられるが、HQは容易に自己酸化を行い黒褐色に変色し、使用に不便をきたしていたことを記載している(非特許文献3参照)。そして植田らは、酸化防止剤としてクエン酸と亜硫酸ナトリウムの併用添加、あるいは酸性亜硫酸ナトリウムの単独添加により変色が防止でき長期保存に耐えることを報告している。【0007】辛島らは、「ハイドロキノン軟膏の品質及び臨床評価」JJSHP, Vol.24, No.7,8 (1988)中、HQ(和光純薬特級試薬)製剤は、光と空気により容易に自己酸化し褐色に変化するため、抗酸化剤として重亜硫酸ナトリウム、局方アスコルビン酸(VC)などが使用されているが、このVC添加によるHQ軟膏使用における皮膚アレルギーが報告されていることを記載している(非特許文献4参照)。そこで、辛島らは、各種基剤を用いたHQ軟膏及びVCを配合したHQ軟膏を調製し、製剤学的評価を行っている。そしてプラスチベース(大正製薬、PL)を基剤とするHQ軟膏は温度の影響を受けずに安定であったが、他の基剤局方親水軟膏(HP)及び局方吸水軟膏(Ab)ではいずれも経時的に着色したこと、そしてHP及びD−1−0(デカグリセリン・モノオレエート・ゲル)を基剤とするHQ軟膏は、VCの添加と4℃保存で着色が防止されたことを報告している。【0008】松原らは、「(2)熱傷治療用軟膏剤および色素沈着治療用軟膏剤について」月刊薬事Vo.38, No.12 (1996)中、多くの施設においてハイドロキノン軟膏が色素沈着症に用いられていること、ハイドロキノン・モノベンジル・エーテルは脱色作用が強すぎ、白班を生じるという報告があり、現在ではハイドロキノンのみが臨床で用いられていることを記載している(非特許文献5参照)。また、ハイドロキノン軟膏の塗布により、日光に過敏な色素増加が見られる副作用もあるため注意が必要であることを記載している。【0009】Noguchi K, et al., ”Structures of complex crystals of alkylammonium salts with aromatic molecules” Mol. Cryst. Liq. Cryst., 1996, Vol.276, pp.185−191は、ドデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(LTAC)とカテコールから成る及びLTACとヒドロキノンから成る分子錯体結晶のX線回折法による分析結果を記載している(非特許文献6参照)。しかしながら、ヒドロキノンの安定性に対する言及は全くなされていない。【0010】吉村らは、「レチノール酸を用いた炎症後色素沈着の治療」形成外科42(4): 297−301, 1999は、炎症後色素沈着の治療のためのハイドロキノン外用剤について報告している(非特許文献7参照)。そして調製した5%ハイドロキノン・7%乳酸プラスチベースは不安定であるため、毎月1回調剤し冷暗所に保管したこと、患者自身に上記ハイドロキノン乳酸軟膏を毎日2回患部に塗布させ、昼間は日焼け止めクリームを併用させたこと、ハイドロキノンの外用は特に高濃度になると灼熱感、皮膚炎が生じるため注意を要することを報告している。【0011】Zhai H, et al.,「美白剤の研究」Fragrance Journal 2001−3, pp.65−66(翻訳)は、ハイドロキノンは米国においてはOTC(over−the−counter)薬として2.0%濃度まで、処方薬ではそれ以上の濃度が使用されていること、ハイドロキノン配合クリームの効果などについて記載している(非特許文献8参照)。【0012】田中らは、「色素沈着治療用軟膏剤の有用性の評価」医薬ジャーナルVo.37, No.2, pp.807−812 (2001)中、老人性色素班、扁平母班等の色素沈着に対して、数年前よりメラニン生成抑制作用を有するハイドロキノンを主薬とした軟膏剤が各施設で調製され、臨床の場で使用されていること、そして皮膚科外来受診中の患者を対象に上記製剤の製剤学的評価及び治療効果について報告している(非特許文献9参照)。ハイドロキノン軟膏の患者による有効以上判定の割合は高く、かつ、副作用の割合は意外に少なかったと報告している。そしてケミカルピーリングやルビーレーザー治療と軟膏剤との併用により、上記症状に対して良好な結果が得られているが、治療のための外来受診のわずらわしさもあり、手軽に行える軟膏剤単独による治療を望む声も多く聞かれるので、治療用薬剤として、より強力で副作用も少なく、短時間で各種色素沈着症状に対して治療可能な色素沈着治療用軟膏剤の調製が必要であると考えていると述べている。【0013】一方、特願2000−118551号は、本願発明者らによる先願であり、界面活性剤と芳香族化合物から成る分子錯体結晶を形成することにより芳香族化合物の気化速度を抑制する方法を開示している(特許文献1参照)。使用される芳香族化合物にはハイドロキノンが含まれるものの、特にハイドロキノンに向けられたものではなく、酸化又は光に対する安定性向上という課題は全く示唆又は教示されていない。【0014】【非特許文献1】大島ら「ハイドロキノン外用剤による色素沈着症の治療」西日皮膚・42巻1号・昭55【非特許文献2】Patricia G, et al., ”Cosmetics and dermatology: Bleaching creams” J Am Acad Dermatol. 5:143−147 (1981)【非特許文献3】植田ら「ハイドロキノン軟膏の検討」医薬ジャーナルVol.20, No.10,pp.1929−1934 (1984)【非特許文献4】辛島ら「ハイドロキノン軟膏の品質及び臨床評価」JJSHP, Vol.24, No.7,8 (1988)【非特許文献5】松原ら「(2)熱傷治療用軟膏剤および色素沈着治療用軟膏剤について」月刊薬事Vo.38, No.12 (1996)【非特許文献6】Noguchi K, et al., ”Structures of complex crystals of alkylammonium salts with aromatic molecules” Mol. Cryst. Liq. Cryst., 1996, Vol.276, pp.185−191【非特許文献7】吉村ら「レチノール酸を用いた炎症後色素沈着の治療」形成外科42(4): 297−301, 1999【非特許文献8】Zhai H, et al.,「美白剤の研究」Fragrance Journal 2001−3, pp.65−66(翻訳)【非特許文献9】田中ら「色素沈着治療用軟膏剤の有用性の評価」医薬ジャーナルVo.37, No.2, pp.807−812 (2001)【特許文献1】特願2000−118551号公報【0015】【発明が解決しようとする課題】以上、ハイドロキノンは、有効な美白成分としても知られており、欧米諸国でのハイドロキノン・クリームの普及率は大変高い。しかしながら、日本においては、ハイドロキノン・モノベジル・エーテルと、ハイドロキノンがあたかも同一の成分のごとく認識されてきた沿革があるために、ハイドロキノンは大変に危険な化学物質であるとして敬遠されてきた。ところが、近年、皮膚科医の間で強力なシミ治療薬として実際に使用され、その効果が実証され始め、ハイドロキノンの美白効果が浸透しつつある。しかしながら、製品化においては、酸化や光などにより引き起こされるハイドロキノン含有製剤や製品の保存安定性の低さ、皮膚刺激性のなどを解決する必要性がある。したがって、このような問題を解決することができれば、保存安定性が高く、かつ、ハイドロキノン徐放性の美白製品の開発が可能になる。【0016】【課題を解決するための手段】そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく、ハイドロキノンと界面活性剤から成る結晶性の分子錯体の形成を通じて、保存安定性が高く、かつ、ハイドロキノン徐放性の美白製品を製造することができないものか検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。【0017】上述の特願2000−118551号に記載されるように、本願発明者らは、これまで、界面活性剤と種々の芳香族化合物の間で結晶性の分子錯体が形成することを発見し、その結晶構造を明らかにしてきた。また、界面活性剤と結晶性の分子錯体を形成した芳香族化合物は、その芳香族化合物単体と比較して温度上昇に伴う揮発をかなり高温の温度領域においても抑制することができ、適当な界面活性剤の種類を選択することにより、その揮発速度を制御することができること(徐放性)をも発見した。【0018】これらの発見に加え、今般、本発明者らは、酸化や光に対しても、界面活性剤と結晶性の分子錯体を形成した芳香族化合物は、その芳香族化合物単体と比較して格段に保護されることができるということを発見し、そしてかかる発見を、美白剤の有効成分であるハイドロキノンに適用してその効果を確認することにより、本発明を完成した。【0019】本発明の1の態様においては、ハイドロキノン又はその誘導体と界面活性剤から成る結晶性の分子錯体を含む美白剤であって、上記分子錯体の形成により、熱、酸素又は光に対する上記ハイドロキノン含有美白剤の保存安定性が向上され、かつ、上記ハイドロキノンが徐放されて上記美白剤の美白効果が持続されることを特徴とする、前記美白剤が提供される。【0020】前記ハイドロキノン又はその誘導体は、ハイドロキノン、ハイドロキノン・モノベンジル・エーテル、ハイドロキノン・モノメチル・エーテル、及びハイドロキノン・モノエチル・エーテルから成る群から選択することができ、そして好ましくは、ハイドロキノンである。【0021】前記界面活性剤が、オクタデシルトリメチルアンモニウム・ブロマイド(STAB)、オクタデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(STAC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・ブロマイド(CTAB)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(CTAC)、テトラデシルトリメチルアンモニウム・ブロマイド(MTAB)、テトラデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(MTAC)、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム・ブロマイド(CDBAB)、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(CDBAC)、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム・ブロマイド(BZB)、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(BZCL)、ドデシルトリメチルアンモニウム・ブロマイド(LTAB)、ドデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(LTAC)、デシルトリメチルアンモニウム・ブロマイド(DTAB)、デシルトリメチルアンモニウム・クロライド(DTAC)、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムブロマイド(LDBAB)、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(LDBAC)、デシルジメチルベンジルアンモニウムブロマイド(DDBAB)、デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(DDBAC)、及びn−ドデシル−β−D−マルトシド(DM)から成る群から選ばれることができ、そして好ましくは、オクタデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(STAC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(CTAC)、テトラデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(MTAC)、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(CDBAC)、及びテトラデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(BZCL)から成る群から選択することができる。前記前記界面活性剤は、好ましくは、CDBACである。【0022】本発明の他の局面においては、オクタデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(STAC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(CTAC)、テトラデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(MTAC)、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(CDBAC)、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(BZCL)、及びn−ドデシル−β−D−マルトシド(DM)から成る群から選ばれる界面活性剤とハイドロキノンから成る結晶性の分子錯体が提供される。【0023】本発明のさらに他の局面においては、美白剤の製造において前記分子錯体を使用する方法が提供される。【0024】各種界面活性剤、例えばイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等とハイドロキノンを適当なモル比で、通常の可溶化法により可溶化するか又は両者を適当な有機溶媒に溶解させて適当な温度に放置することにより、上記界面活性剤とハイドロキノンから成る分子錯体を結晶として得ることができる。このようにして得られた結晶性の分子錯体は、ハイドロキノン単体よりも熱、酸素又は光に対して安定であり、さらに使用する界面活性剤のアルキル鎖長の長いものを使用することにより上記分子錯体からのハイドロキノンの放出速度を抑えることができる。これにより、ハイドロキノンの徐放性を制御することができる。【0025】シミ治療に有効であることが確認されており、世界的に支持されている美白成分であるハイドロキノンの欠点を、本発明によって劇的に改善することができる。すなわち、本発明により、美白剤の保存安定性の向上と美白成分の徐放性が達成される。その結果として、上記美白剤の使用者が1日当たりの適用量を抑え、さらにその使用者におけるハイドロキノンの副作用の不安を軽減することができる。本発明によって、最終消費者は、従来行われてきた特別な指示に従わなくとも安心して使用することができ、かつ、欧米におけるようにドラッグストア等で容易に購入することができるハイドロキノン含有美白剤商品の開発が可能になる。【0026】【実施例】実施例1:ハイドロキノンと界面活性剤(オクタデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(STAC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・ブロマイド(CTAB)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(CTAC)、テトラデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(MTAC)、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(CDBAC)、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(BZCL)、及びn−ドデシル−β−D−マルトシド(DM))から成る分子錯体結晶の調製窒素気流下、界面活性剤水溶液又はアルコール溶液に等モル量のハイドロキノンを加え、均一溶液とした後、2〜3℃の冷所で3〜7日間放置し、生じた沈殿物を単離することにより界面活性剤/ハイドロキノン分子錯体結晶を得た。【0027】得られた分子錯体結晶を、十分に乾燥させ、メタノールに溶液とし、紫外可視分光光度計(UV160A、島津)を用いて特定吸収波長における吸光度を測定し、この値を、その単体についての吸光度と比較することにより、結晶性分子錯体の形成を確認した。【0028】図1に、分子錯体結晶の調製に用いた界面活性剤の構造を示す。【0029】実施例2:分子錯体結晶のX線構造解析CDBAC/HQ結晶についてX線結晶解析を行った。結晶を、窒素吹付型冷却装置を用いて−50℃に冷却し、その後、イメージングプレート単結晶自動X線構造解析装置(RAPID,RIGAKU)において、MoKαの単色化したX線を用いて解析した。プログラムSIR−97を用いて直接法により位相を決定し、そして最小二乗法プログラムSHELXL−97により精密化した。1例として、CDBAC/ハイドロキノン(HQ)分子錯体の結晶学的データを、以下の表1に示す。【0030】【表1】【0031】CDBAC/ハイドロキノン分子錯体の分子構造図を、図2に示す。【0032】CDBAC/ハイドロキノン分子錯体の結晶構造図(a軸投影図)を図3に、そしてb軸投影図を図4に示す。【0033】上記結晶学的データ、及び結晶構造図から、上記分子錯体が結晶を形成していることは明らかである。【0034】実施例3:ハイドロキノンと界面活性剤(オクタデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(STAC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(CTAC)、テトラデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(MTAC)、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(CDBAC)、及びテトラデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(BZCL)から成る分子錯体結晶と、ハイドロキノン単体に対する酸素の影響の比較ハイドロキノン単体及び各界面活性剤/ハイドロキノン分子錯体結晶について48〜80メッシュに粒子径を揃えた後、37℃の恒温槽に放置し、経時的にサンプリングを行い、メタノール溶液とした後、紫外可視分光光度計(UV−160A、島津)を用いて特定吸収波長における吸光度を測定し、スタート時からのハイドロキノンの劣化を確認した。【0035】図5に、ヒトの体温として37℃を設定し、その設定温度におけるハイドロキノン単体及び上記分子錯体結晶の酸化による表すグラフを示す。【0036】ハイドロキノン単体と比較すると、界面活性剤と分子錯体を形成したものが格段にハイドロキノンの酸化を抑制することが分かる。【0037】実施例4:界面活性剤(ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(CDBAC))とハイドロキノンから成る分子錯体結晶の熱安定性の測定RigakuTG8120(装置名、及びメーカー)を用いて窒素気流下で昇温速度10K/分で25〜160℃の温度範囲内の、温度上昇に伴う上記分子錯体結晶中のハイドロキノンのモル数減少を測定し、これをハイドロキノン単体のものと比較した。【0038】図6に、ハイドロキノン単体、及び界面活性剤/ハイドロキノン分子錯体結晶の熱安定性を表すグラフを示す。図6に見られるように、昇温に伴うハイドロキノンの揮発が、界面活性剤と分子錯体結晶を形成することにより抑えられることが分かる。【0039】この揮発の抑制は、特願2000−118551号に記載されるように、使用される界面活性剤のアルキル鎖の鎖長に比例することが分かっており、これは、Lennard−Jones potentialを用いた分子錯体結晶のvan der waalsエネルギーの計算結果から理論的に裏付けられる。したがて、適当な界面活性剤の種類を選択することにより、その揮発速度を制御すること、すなわち、ハイドロキノンの徐放性を制御することができる。【0040】実施例5:界面活性剤/ハイドロキノン分子錯体結晶の25℃における光の影響の確認図7に、実施例1において調製されCDBAC/Hq、BZCl/Hq、及びCTAC/Hg分子錯体結晶、並びにHq単体の25℃における光の影響を示す。【0041】ハイドロキノン単体及び各界面活性剤/ハイドロキノン分子錯体結晶について48〜80メッシュに粒子径を揃えた後、ポリエチレン製袋に0.01g量り取り、Vacuum Sealer(VS−400、As−ONE)を用いて脱気を充分に行った後密封し、キセノンランプ、Super Bright 152S(SAN−ELECTRIC)を用いて30mW/cm2 において光照射を行った。経時的にサンプリングを行い、メタノール溶液とした後、紫外可視分光光度計(UV−160A、島津)を用いて特定吸収波長における吸光度を測定し、スタート時からのハイドロキノンの劣化を確認した。【0042】実施例6:各種界面活性剤/ハイドロキノン分子錯体結晶を、軟膏基剤(単軟膏、親水軟膏)に配合した場合の、上記軟膏の保存安定性(外観の変化)図8に、単軟膏のみ(上段左)、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(CDBAC)/Hq分子錯体結晶3%含有単軟膏(上段右)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・ブロマイド(CTAB)/Hq分子錯体結晶3%含有単軟膏(下段左)、テトラデシルトリメチルアンモニウム・ブロマイド(MTAB)/Hq分子錯体結晶3%含有単軟膏(下段中央)、及びドデシルトリメチルアンモニウム・ブロマイド(LTAB)/Hq分子錯体結晶3%含有単軟膏(下段右)を、空気中に室温で放置したときの3ヶ月後の外観を示す。上記分子錯体結晶含有単軟膏は全て、単軟膏のみと同じ色合いを呈しており、ハイドロキノンによる着色変化が抑制されていることが分かる。【0043】図9に、ハイドロキノン単体を5%添加した親水軟膏(左端)、親水軟膏のみ(左から2番目)、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(CDBAC)/Hq分子錯体結晶1%含有親水軟膏(左から3番目)、及びn−ドデシル−β−D−マルトシド(DM))/Hq分子錯体結晶2%含有親水軟膏(右端)を、空気中に室温で放置したときの2週間後の外観を示す。ハイドロキノン単体を5%添加した親水軟膏(左端)に茶色の斑点を確認されたが、その他のものには上記着色は確認できなかった。したがって、ハイドロキノンは上記界面活性剤と結晶性分子錯体を形成することにより、ハイドロキノンの酸化を免れ安定化されていることが分かる。【0044】実施例7:皮膚反応の肉眼観察試験界面活性剤単体、界面活性剤/ハイドロキノン分子錯体結晶を白色ワセリンに練合し、30代女性の背部を使用してパッチテスター(鳥居薬品)を用いてパッチテストを行った。貼付後、48時間経過後のかぶれ、紅斑、浮腫、丘疹などの皮膚反応を肉眼的に行った。また72時間後の皮膚反応の確認も行った。【0045】パッチテストに使用したサンプルは以下の通りである。(%は、界面活性剤又は分子錯体結晶の配合割合を示す。)1. 8%DM単体2. 2%DM単体3. 0.2%DM単体4. 0.02%DM単体5. 4%DM/HQ分子錯体結晶6. 0.3%DM/HQ分子錯体結晶7. 8%CDBAC単体8. 2%CDBAC単体9. 0.2%CDBAC単体10. 0.02%CDBAC単体11. 10%CDBAC/HQ分子錯体結晶12. 4%CDBAC/HQ分子錯体結晶13. 0.3%CDBAC/HQ分子錯体結晶14. 0.05%CDBAC/HQ分子錯体結晶15. 対照結果:図10と11に、パッチテスト48時間後の結果を示す。7番中央部に少々赤みが見られたが、その変化はほとんど判らず、陰性領域であった。【0046】図12と13にパッチテスト72時間後の結果を示す。7番中央部に少々赤みが残ったが、陰性領域であった。【0047】分子錯体結晶(5〜6,10〜14)のいずれについての皮膚反応は見られなかったので、本発明に係る界面活性剤/ハイドロキノン分子錯体結晶は、皮膚刺激性が低いことが分った。【図面の簡単な説明】【図1】ハイドロキノン、及び分子錯体結晶の調製に用いた界面活性剤の構造図。【図2】CDBAC/ハイドロキノン分子錯体の分子構造図。【図3】CDBAC/ハイドロキノン分子錯体の結晶構造図(a軸投影図)。【図4】CDBAC/ハイドロキノン分子錯体の結晶構造図(b軸投影図)。【図5】37℃におけるハイドロキノン単体及び上記分子錯体結晶の酸化を表すグラフ。【図6】ハイドロキノン単体、及び界面活性剤/ハイドロキノン分子錯体結晶の熱安定性を表すグラフ。【図7】実施例1において調製されCDBAC/Hq、BZCl/Hq、及びCTAC/Hq分子錯体結晶、並びにHq単体の25℃における光の影響を示すグラフ。【図8】各種界面活性剤/Hq分子錯体結晶3%含有単軟膏を空気中室温で放置したときの3ヶ月後の外観を表す図面に代わる写真。【図9】各種界面活性剤/Hq分子錯体結晶1〜2%含有親水軟膏を空気中室温で放置したときの2週間後の外観を表す図面に代わる写真。【図10】パッチテスト48時間後の結果(1〜10番)を示す図面に代わる写真。【図11】パッチテスト48時間後の結果(11〜15番)を示す図面に代わる写真。【図12】パッチテスト72時間後の結果(1〜10番)を示す図面に代わる写真。【図13】パッチテスト72時間後の結果(11〜15番)を示す図面に代わる写真。 ハイドロキノン又はその誘導体と界面活性剤から成る結晶性の分子錯体を含む美白剤であって、上記分子錯体の形成により、熱、酸素又は光に対する上記ハイドロキノン含有美白剤の保存安定性が向上され、かつ、上記ハイドロキノンが徐放されて上記美白剤の美白効果が持続されることを特徴とする、前記美白剤。 前記ハイドロキノン又はその誘導体が、ハイドロキノン、ハイドロキノン・モノベンジル・エーテル、ハイドロキノン・モノメチル・エーテル、及びハイドロキノン・モノエチル・エーテルから成る群から選ばれる、請求項1に記載の美白剤。 前記ハイドロキノン又はその誘導体が、ハイドロキノンである、請求項1に記載の美白剤。 前記界面活性剤が、オクタデシルトリメチルアンモニウム・ブロマイド(STAB)、オクタデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(STAC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・ブロマイド(CTAB)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(CTAC)、テトラデシルトリメチルアンモニウム・ブロマイド(MTAB)、テトラデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(MTAC)、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム・ブロマイド(CDBAB)、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(CDBAC)、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム・ブロマイド(BZB)、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(BZCL)、ドデシルトリメチルアンモニウム・ブロマイド(LTAB)、ドデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(LTAC)、デシルトリメチルアンモニウム・ブロマイド(DTAB)、デシルトリメチルアンモニウム・クロライド(DTAC)、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムブロマイド(LDBAB)、ドデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(LDBAC)、デシルジメチルベンジルアンモニウムブロマイド(DDBAB)、デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(DDBAC)、及びn−ドデシル−β−D−マルトシド(DM)から成る群から選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の美白剤。 前記前記界面活性剤が、オクタデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(STAC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(CTAC)、テトラデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(MTAC)、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(CDBAC)、及びテトラデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(BZCL)から成る群から選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の美白剤。 前記前記界面活性剤が、CDBACである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の美白剤。 オクタデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(STAC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(CTAC)、テトラデシルトリメチルアンモニウム・クロライド(MTAC)、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(CDBAC)、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム・クロライド(BZCL)、及びn−ドデシル−β−D−マルトシド(DM)から成る群から選ばれる界面活性剤とハイドロキノンから成る結晶性の分子錯体。 美白剤の製造において、請求項7に記載の分子錯体を使用する方法。 【課題】保存安定性が高く、かつ、ハイドロキノン徐放性のハイドロキノン含有美白剤の提供。【解決手段】本発明に係る美白剤は、ハイドロキノン又はその誘導体と界面活性剤から成る結晶性の分子錯体を含む美白剤であって、上記分子錯体の形成により、熱、酸素又は光に対する上記ハイドロキノン含有美白剤の保存安定性が向上され、かつ、上記ハイドロキノンが徐放されて上記美白剤の美白効果が持続されることを特徴とする。【選択図】 なし