生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_難聴疾患の予防又は治療剤
出願番号:2002264418
年次:2004
IPC分類:7,A61K38/43,A61K35/39,A61P27/16


特許情報キャッシュ

久保 武 土井 勝美 難波 俊彦 長野 弘 JP 2004099537 公開特許公報(A) 20040402 2002264418 20020910 難聴疾患の予防又は治療剤 株式会社三和化学研究所 000144577 久保 武 土井 勝美 難波 俊彦 長野 弘 7 A61K38/43 A61K35/39 A61P27/16 JP A61K37/48 A61K35/39 A61P27/16 3 OL 6 4C084 4C087 4C084AA02 4C084BA44 4C084CA21 4C084CA32 4C084DC01 4C084NA14 4C084ZA34 4C087AA01 4C087AA02 4C087AA04 4C087BB51 4C087CA50 4C087NA14 4C087ZA34 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は医薬品の分野に属するもので,難聴疾患の予防又は治療剤に関するものである。【0002】【従来の技術】音が外耳道を通り鼓膜を振動させ,その振動が耳小骨を経由して内耳に達するまでは,そのエネルギーは物理的な振動という形での伝達である(伝音器:外耳,中耳)。音の振動は内耳の有毛細胞で神経の興奮に置き換えられ,それより先,聴神経,脳幹部, 中脳を経て神経のインパルスとして伝えられ,大脳皮質で音として感覚される(感音器)。この経路のいずれかに病的状態が生じて,大脳皮質に生ずる音の感覚が正常状態に比べて変化した時,それを聴覚障害といい,その障害がとくに正常と比べて情報量の減少である場合,それを難聴疾患という。【0003】難聴疾患の中でその原因が内耳にあって,音のエネルギーが物理的振動から神経の興奮に置き換わる部分での障害によるものを内耳性難聴という。聴神経かそれ以後に原因があって,神経の興奮伝達の障害であるとき,それを後迷路性難聴という。【0004】内耳性難聴の原因としては,▲1▼薬剤中毒▲2▼強大音響▲3▼頭部外傷▲4▼遺伝▲5▼加齢などがあり,この他に,局所または全身疾患の部分症や合併症として起こる場合がある。また,その治療には,主として薬物療法が用いられる。薬剤としては,ステロイドホルモン,ビタミンB12,ATP,血管拡張剤などが主なものであるが,緩徐に発生し進行するものに対しては,その治療効果は疑問視されている。また回復不能の難聴に対しては,補聴器が用いられる。【0005】これまでの研究から,内耳から脳幹,聴覚野へと至る聴覚系の求心性神経伝達には,主としてグルタミン酸受容体が関与することが明らかとなっている。蝸牛におけるグルタミン酸受容体(AMPA型GluR)は,内有毛細胞直下のシナプス後膜に高密度に発現し,内耳虚血,音響負荷後の病態生理と密接に関連する。NMDA型GluRもI型ラセン神経節細胞に発現を認め,強大音圧時の聴覚伝達,求心性シナプス損傷後の可塑性変化に関与すると推察されている(Nippon Jibiinkoka GakkaiKaiho 101巻 1048頁−1051頁,1998年)。【0006】前記▲1▼の薬剤中毒の一つとしてカナマイシンによる難聴がある。カナマイシン投与期間中に通常は耳鳴が生じ,ついで難聴が高音部から始まる。カナマイシン投与を中止すると若干改善することもあるが,多くは改善も悪化もせずにそのまま固定する。カナマイシン投与を続けると難聴は低音部へと進行する。その治療としては,ステロイドホルモン,ビタミンB12の投与などを行うが,効果はあまり期待できない。また,その病変は内耳有毛細胞およびラセン神経節細胞の変性が主体と考えられている。カナマイシン誘発のラット難聴モデルでは,有毛細胞およびラセン神経節細胞の変性はグルタミン酸毒性により生じ,これにより難聴に至ることが知られ,当該モデルは,ヒトの難聴に近いモデルと推察される。【0007】一方,カリジノゲナーゼは,高血圧症,閉塞性血栓血管炎,更年期障害,網脈絡膜の循環障害に適用を持ち,今日臨床の場で広く使用されている。耳鼻科領域ではメニエール症候群に適用を持ち,内耳血流を増加させめまい症状を改善することが知られている(基礎と臨床 22巻 923頁−928頁,1988年)。【0008】【発明が解決しようとする課題】これまでに難聴疾患,特に内耳性難聴に有効な治療薬は知られていない。本発明は,新しい概念に基づく,難聴疾患,特に内耳性難聴の予防又は治療剤を提供することを課題とする。【0009】【課題を解決するための手段】本発明者らは,若齢ラットを用いてカナマイシン誘発の難聴動物モデルを作製した。本モデルは,薬剤の臨床的治療効果をみたり,グルタミン酸受容体変化の生理学的意義の研究において有用であると考えられる。従って,本発明者らは,この実験モデルを用いて,カリジノゲナーゼが難聴疾患,特に内耳性難聴の予防又は治療効果を有することを実証した。即ち,本発明は,カリジノゲナーゼを有効成分とする難聴疾患,特に内耳性難聴の予防又は治療剤に関するものである。【0010】【発明の実施の形態】本発明は,カリジノゲナーゼを有効成分とする難聴疾患,特に内耳性難聴の予防又は治療剤である。カリジノゲナーゼとしては,ブタ膵から製したカリジノゲナーゼ等が例示される。他に,カリジノゲナーゼは,動物の尿や膵臓等から,当該分野公知の方法で抽出・精製することができる。カリジノゲナーゼの分離精製は多くの研究者によって検討され,代表的精製法として,ブタ膵臓からDEAE−セルロース,HydroxyapatiteおよびセファデックスG−100を用いて精製する方法(Biochemical Pharmacology 18巻 549頁−552頁,1969年)が知られている。また,製剤化のためには,カリジノゲナーゼと腸溶性基材,更に乳糖等の一般的な賦形剤を使用して錠剤とすることができる。なお,カリジノゲナーゼ製剤としては,カルナクリンが代表的な製剤として上市場されており,カルナクリン錠25(カリジノゲナーゼ25単位含有),カルナクリン錠50(カリジノゲナーゼ50単位含有),カルナクリンカプセル25(カリジノゲナーゼ25単位含有)を使用することができる。これらカリジノゲナーゼ製剤は,カリジノゲナーゼとして,通常,成人1日15〜1500単位,好ましくは75〜300単位を,例えば1日3回分割経口投与することができる。【0011】【実施例】[試験例1]カナマイシン誘発のラット難聴モデルにおける聴覚閾値に対するカリジノゲナーゼの作用【0012】(1)方法1−1)難聴モデルの作製SD系雄性ラット(6週齢,約200g,日本エスエルシー供給)を用いて,カナマイシン(400mg/kg/day,皮下投与)を2週間連続投与して,難聴ラットを作製した。【0013】1−2)使用薬物と投与方法被検物質はラット尿由来カリジノゲナーゼを使用した。カリジノゲナーゼは,ラット尿を採取し,原尿を濃縮後,イオン交換クロマトグラフィー,アプロチニン固定化カラムおよびゲルろ過クロマトグラフィーを用いて精製した。精製したカリジノゲナーゼは生理的食塩水で用時溶解し,前記ラットの尾静脈より投与(1.4μg/body/day)した。投与スケジュールは,カナマイシンと同時投与による2週間連続投与とした。また,対照の薬物無投与群には生理的食塩水を投与した。【0014】1−3)難聴動物モデルの聴覚閾値聴覚閾値は,聴性脳幹反応(ABR)により決定され,薬物投与終了後0週目,1週目および2週目までの間でABR記録を行った。【0015】(2)結果図に示す如く,カナマイシン(400mg/kg/day)の2週間連続全身投与により,聴覚閾値は101.7±5.3 dB (n=7)と上昇し,また閾値は2週間にわたりほぼ一定であり,難聴動物モデルの作製が可能であった。これに対して,カリジノゲナーゼ(1.4μg/body/day)の同時投与では,聴覚閾値は80.3±3.7dB (n=7)と改善し,0週,1週,2週のいずれの時点でも,両群の聴覚閾値には有意差が認められた。【0016】(3)考察内耳性難聴の実験的モデルとして,カナマイシン誘発モデルは,蝸牛有毛細胞およびラセン神経節細胞でのグルタミン酸毒性により難聴に至ることが知られている(Adv Otorhinolaryngol 57巻 7頁−11頁,2000年)。また生直後の幼弱ラットにカナマイシン(800mg/kg/day)を2週間連続投与して作製した難聴モデルのラセン神経節細胞において,求心性神経伝達に直接関与するイオンチャンネル型のグルタミン酸受容体(GluR1,GluR2,NR1)に,聾直後より発現量の変化(up−regulation)が生じていることが報告されている(Neuroreport 11巻 2515頁−2519頁,2000年)。【0017】今回我々は,若齢ラットを用いてカナマイシン誘発の難聴動物モデルを作製した。本モデルは,薬剤の臨床的治療効果をみたり,グルタミン酸受容体変化の生理学的意義の研究において有用であると考えられる。実験の結果,カナマイシンにより誘発される聴覚閾値の上昇に対して,カリジノゲナーゼはこれを軽減し,聴力を改善させる作用を有することが明らかとなった。【0018】これまでに眼科領域の研究では,柏井らが,培養アマクリン細胞を用いたin vitroの試験系で,少量のNOはNMDA受容体を抑制してCa2+の細胞内流入を阻止し,網膜神経細胞保護的に働くが,逆に,多量に生じたNOはO2−(スーパーオキシド)と反応してONOO−(ペリオキシ亜硝酸)を生じ,周囲の神経細胞に障害性を発揮することを報告(Jpn J Pharmacol 61巻 375頁−377頁,1993年)した。【0019】一方,耳鼻科領域のin vivoの試験系では,NOのグルタミン酸毒性に対する影響は明らかにされていないが,聴覚閾値の上昇に対するカリジノゲナーゼの改善作用の機序について,我々は次のように考えている。1)カナマイシン投与により作製される難聴動物モデルでは,蝸牛ラセン神経節細胞におけるグルタミン酸受容体(GluR1,GluR2,NR1)にup−regulationがおこる。2)グルタミン酸受容体のup−regulationにより,細胞内への過剰なCa2+流入が惹起され,ラセン神経節細胞にアポトーシスが起こる。3)カリジノゲナーゼにより内耳で産生されるNOはNMDA受容体を抑制し,細胞内へのCa2+流入を阻止する。4)NOは,同時に,ミトコンドリア内へのCa2+流入を抑制する。5)3)4)の結果として,カリジノゲナーゼはラセン神経節細胞のアポトーシスを抑制する。6)カリジノゲナーゼにより内耳で産生されるNOは,蝸牛軸動脈,コイル状細動脈,血管条などの血管内皮細胞に作用して,血管拡張・血流改善を促し,有毛細胞等において低酸素状態からの回復を促す。【0020】以上のことより,カリジノゲナーゼは難聴疾患,特に内耳性難聴の予防又は治療効果を期待できる薬剤である。【0021】【発明の効果】本発明は,カリジノゲナーゼが今までに難聴の治療剤において提唱されていない新しい機序で難聴疾患,特に,内耳性難聴の予防又は治療剤になるというもので,カリジノゲナーゼ製剤の新たな適用拡大の基礎的裏付けとなる。【図面の簡単な説明】【図1】カナマイシンの2週間連続投与(400mg/kg/day)により難聴を惹起させるラット難聴モデルにおいて,カリジノゲナーゼ投与群と対照群(生理的食塩水投与)の聴覚閾値(ABR)の測定結果を示すグラフである。なお,図中の記号*は,危険率pが p<0.05であることを示す。 カリジノゲナーゼを有効成分とする難聴疾患の予防又は治療剤。 カリジノゲナーゼがブタ膵由来カリジノゲナーゼである,請求項1記載の難聴疾患の予防又は治療剤。 難聴疾患が内耳性難聴である,請求項1又は2に記載の予防又は治療剤。 【課題】新しい概念に基づく,難聴疾患,特に内耳性難聴の予防又は治療剤を提供することを課題とする。【解決手段】カリジノゲナーゼ,例えば,ブタ膵由来カリジノゲナーゼを有効成分とする難聴疾患,特に内耳性難聴の予防又は治療剤とした。


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