タイトル: | 公開特許公報(A)_香味剤およびその製造方法 |
出願番号: | 2002226963 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,A23L1/226,C12P17/04 |
春日 正史 渡辺 真知子 布村 伸武 佐々木 正興 JP 2004065063 公開特許公報(A) 20040304 2002226963 20020805 香味剤およびその製造方法 キッコーマン株式会社 000004477 春日 正史 渡辺 真知子 布村 伸武 佐々木 正興 7 A23L1/226 C12P17/04 C12P17/04 C12R1:645 JP A23L1/226 G C12P17/04 C12P17/04 C12R1:645 9 OL 11 4B047 4B064 4B047LB08 4B047LG15 4B047LG22 4B047LG56 4B047LP01 4B047LP19 4B064AE45 4B064CA06 4B064CC01 4B064CD09 4B064CD13 4B064CD30 4B064DA10 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、高濃度の4−ヒドロキシ−2(又は5)エチル−5(又は2)メチル−3(2H)フラノン(以下、「HEMF」という)を含有する香味剤およびその製造方法に関する。【0002】【従来の技術】HEMFは、醸造醤油中に含まれる重要な香味成分の一つとして見出されたもので、甘いケーキ様の香りを有しており、このHEMFを醤油、ソース、塩味醂などの調味料や各種の飲食品に添加することにより、味の調和が損なわれることなく、甘いケーキ様の香りの付加、増強された飲食品が得られることから、飲食品、特に含塩食品の香味剤、風味改良剤として、その利用が期待されている。しかし、HEMFは、一般の醸造醤油中にはたかだか20〜100ppm程度含有されているにすぎず、また、従来より、醤油麹に約10倍量の水を加え、高温で数時間消化した後、煮沸し、濾過して得られた醤油麹消化液に醤油酵母を接種、培養して、培地中にHEMFを約80ppm程度生成蓄積させることが知られている。また、1年間もの長期熟成させて得られた醸造醤油中には、HEMFが150〜400ppm存在することが知られている(昭和59年日本農芸化学会講演要旨集、129頁参照)。さらに、HEMFの製造法として、リブロースなどを添加含有した栄養培地に酵母を接種、培養して製造する方法(特開平3−183490号公報)、高タンパク質含有原料の酵素分解液中の分子量1000以下の物質を添加した培地に酵母を接種、培養して製造する方法(特開平5−176781号公報)、D−キシルロース 5−リン酸などを添加した培地に酵母を接種、培養して製造する方法(特開平6−277083号公報)、さらに、タンパク質のペプチダーゼ分解液に酵母を接種、培養して製造する方法(特開平8−116983号公報)などの方法が開示されているが、それぞれ最高で88.7ppm、74.1ppm、31.2ppm、39.0ppmのHEMFの製造量が報告されているにすぎない。さらに、加熱着色した糖・アミノ酸液よりなる単純培地に酵母を接種、培養して最高35.5ppmのHEMFを製造する方法(原田ら、醤研、Vol.26,No.2,2000,83−87)も報告されている。一方、HEMFは、抗酸化作用や抗腫瘍作用などの機能を有することも報告されており、その利用が期待されている。しかし、開示、報告された上記方法は、いずれもHEMFの生成蓄積量が100ppm以下であり、また1年もの長期間醸造熟成した醸造醤油でもたかだか400ppmの蓄積量が認められるにすぎず、飲食品に利用できる高濃度のHEMFを含有する香味剤の工業的に有利な製造方法が求められていた。また、HEMFを製造する方法として、1−ブテン−3−オールを原料として、有機化学的手法を用いて合成するなどの方法が知られていたが、効率的ではなく、かつ食品用途の香味剤を製造する方法としては、好ましい方法とは言えない。さらに、吸着剤等を用いる効率的なHEMFの取得方法については、これまで知られていない。【0003】【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、高濃度のHEMFを含有する香味剤、および、短期間でさらに高濃度のHEMFを生成蓄積せしめることのできる工業的に有利な該香味剤の製造方法を提供することにある。【0004】【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題解決のため鋭意研究を重ねた結果、麹消化液、糖およびアミノ酸の混合液の加熱処理液を含む培養液に酵母を接種して培養することにより、麹消化液の加熱処理液を用いる方法や糖及びアミノ酸の加熱処理液を用いる方法などの既知の方法に比べて10倍以上もの高濃度のHEMFが、短期間に生成蓄積することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、HEMFを400ppm以上含有することを特徴とする香味剤であり、さらにイソブチリックアシッドの含有量が40ppm以下である該香味剤である。さらに、以下の工程を含むことを特徴とする上記香味剤の製造方法である。(1)麹消化液と、糖およびアミノ酸の混合液を加熱処理する第1工程。(2)第1工程で得られた加熱処理液を含む培養液に酵母を接種して培養する第2工程。また、第1工程に用いる糖が、D−リボース、D−キシロース及び/又はD−アラビノースである香味剤の製造方法であり、第1工程に用いるアミノ酸がグルタミン酸である香味剤の製造方法であり、さらに、第1工程の加熱処理が、80〜125℃で5〜60分の処理である香味剤の製造方法である。また、第2工程がその培養途中でさらに酵母を接種することを含む工程である香味剤の製造方法、さらに第2工程の培養が嫌気培養である香味剤の製造方法である。この香味剤は、そのまま使用しても良いし、ろ過と加熱殺菌をして清澄な液にして用いても良い。さらに本発明は、HEMF含有液を合成吸着剤(XAD−7)に接触させ、HEMFを該吸着剤に吸着させた後、溶出液でHEMFを溶出させることを特徴とする香味剤の製造方法である。【0005】【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。4−ヒドロキシ−2(又は5)エチル−5(又は2)メチル−3(2H)フラノン(HEMF)は、醸造醤油の香気成分の一つとして見出され、甘いケーキ様の香りを有しており、このHEMFを醤油、ソース、塩味醂などの調味料や各種の飲食品に添加することにより、味の調和が損なわれることなく、甘いケーキ様の香りの付加、増強された飲食品が得られることから、飲食品、特に含塩食品の香味剤、風味改良剤として、その利用が期待されている。イソブチリックアシッドは、イソバレリックアシッドとともに、醗酵飲食品などに含まれている成分ではあるが、不精臭などといわれ悪臭成分として嫌われる香気成分として知られる。これらの物質は、食品の香味を改良、増強する場合、極力少なくする必要がある。【0006】本発明の香味剤とは、HEMFを高濃度に含有する香味剤であり、なおかつイソブチリックアシッド含量を減少せしめた香味剤であり、食品衛生上、安全に食品に添加することのできるものを言う。本発明の香味剤は、含有するHEMF量により、適宜、各種飲食品に官能検査などにより最も好ましい量を添加することができる。例えば、減塩醤油に50ppmになるように香味剤を添加すれば、濃口醤油の風味に負けない香りの芳醇な減塩醤油を得ることができる。本発明の香味剤は、以下に述べる第1工程および第2工程により製造することができる。本発明の香味剤の製造方法の第1工程に用いられる麹消化液とは、通常の発酵食品の製造に用いられる米麹、醤油麹、ふすま麹などの固体麹の水抽出液や麹菌を用いる液体培養液およびそれらのろ液等を言う。例えば、通常の方法で得られた醤油麹に水を加え、室温〜60℃で数時間保持した後、固形分を除いて得られる醤油麹消化液などが好ましく用いられる。本発明の第1工程に用いられる糖とは、以下に述べる酵母の培養に炭素源として用いられる糖であれば、いかなる糖でも用いることができる。例えば、グルコース、フラクトース、マンノース、シュークロース、マルトース、リボース、キシロース、アラビノース、グリセロール、デンプン、デンプン加水分解物などの炭水化物やアルコールなどの酵母が資化可能な炭素源などが挙げられる。特に好ましくは、D−リボース、D−キシロース、D−アラビノースなどが挙げられる。また上記糖を2種以上適宜組み合わせて用いることもできる。本発明の第1工程に用いられるアミノ酸とは、必須アミノ酸ばかりでなく、D−アラニンやその他のアミノ基とカルボキシル基を有する物質であれば如何なるアミノ酸でも良い。例えば、本発明ではグルタミン酸、およびその塩などが好ましいアミノ酸としてあげられる。また上記アミノ酸を2種以上適宜組み合わせて用いることもできる。【0007】本発明では、上記麹消化液、糖、アミノ酸の混合液を調製する。それぞれの混合割合は、用いる麹消化液、糖、アミノ酸によって適宜選択されるが、例えば、麹消化液、1に対して、糖、0.015 〜0.09、アミノ酸0.00 〜0.11、を混合する。例えば、醤油麹消化液5L 、D−リボース300g 、グルタミン酸ナトリウム 374g などを混合した液などが特に好ましい。また、本発明では、麹消化液と糖の混合液も好ましく用いられる。次に、上記混合液を加熱処理して、加熱処理液を得る。本発明の加熱処理条件としては、加熱温度、80〜125℃で加熱時間、5〜60分の処理条件を、用いる混合液の種類により適宜組み合わせて用いることができるが、例えば、処理条件としては、120℃、5分や、100℃、30分が特に好ましい処理条件として挙げられる。【0008】第2工程に用いられる、第1工程で得られた加熱処理液を含む培養液とは、上記、麹消化液、糖、アミノ酸を混合して、加熱処理して得られる液を含有する培養液であれば如何なる培養液でも用いることができる。例えば、得られた加熱処理液をそのまま培養液として用いることもできるが、好ましくは、培養に用いる酵母が良く生育、醗酵するために、従来から用いられる天然培地や合成培地に上記加熱処理液を適宜添加した培養液などが挙げられる。添加割合は、用いる酵母や培地により適宜選択することができるが、培地1部にたいして、加熱処理液を0.5〜2部添加することが好ましく、本発明においては等量添加して得られた培養液が特に好ましい。本発明に用いられる培地は、通常好ましくは液体培地として用いられ、天然培地としては、麹消化液や生醤油 など、合成培地としては、酵母エキス、グルコース、無機塩やビタミン、ミネラルが適度に組み合わせて含有させたものなどが挙げられる。本発明に用いられる液体培地には、酵母の生育に必要な充分量の炭素源、特にグルコースを添加することが好ましい。本発明の第2工程で用いられる酵母としては、任意の酵母が挙げられ、具体的には、醤油酵母(Zygosaccharomyces rouxii ATCC 13356,Candida etchellsii IFO 10037、Candida versatilis IFO 10038)、清酒酵母( Saccharomyces cerevisiae AHU 3492, Saccharomyces cerevisiae IFO 2146, Saccharomyces cerevisiae IFO 2342)、焼酎酵母( Saccharomyces cerevisiae IFO 0216),ワイン酵母( Saccharomyces cerevisiae OC 2 IFO 2260(RIB 6600), Saccharomyces cerevisiae OUT 7083),シャンパン用酵母( Saccharomyces cerevisiae OUT 7892),シェリー用酵母( Saccharomyces bayanus IFO 0262, Saccharomyces cerevisiae IFO 0233, Yarrowia lipolytica ATCC 44601)などが挙げられる。好ましくは、 Zygosaccharomyces rouxii IFO0495、IFO0505 などが挙げられる。また上記酵母を2種以上適宜組み合わせて用いることもできる。【0009】培養液に酵母を接種するときは、通常の酵母の培養に準じて行なう。酵母用寒天培地に生育した酵母菌体を集めて、その懸濁液を種菌液として接種しても良いし、液体培地で培養した培養種菌液を適量接種しても良い。例えば、酵母菌体量として約107/mlとなるように接種する。培養は、通常酵母の培養に用いられている培養方法なら、如何なる方法も用いることができる。例えば、静置培養、振とう培養、通気攪拌培養などの好気的条件下で培養する方法、脱酸素剤やヘッドスペースを窒素で置換するなどの嫌気的条件下で培養する方法などが挙げられる。本発明では、飲食品に用いる上で嫌われる香気成分であるイソブチリックアシッドやイソバレリックアシッドなどの含有量の少ないもしくは含まない本発明の香味剤を製造するためには、特に嫌気的条件下で培養する方法が好ましく用いられる。含有量が多すぎると、鼻をつく特有の香りで飲食品に用いるには好まれない、イソアミルアルコールやn−ブチルアルコールも、嫌気的条件下で培養すれば、多量に生産することはない。本発明において嫌気培養とは、窒素置換を行ってヘッドスペース中の酸素濃度をゼロにする、あるいは培養タンクを使用する場合は、培養液中のD.O.値(溶存酸素濃度)を1.0ppm以下で培養することを言い、特に好ましい方法として、例えば、培養液を窒素ガスで置換することにより、D.O.値(溶存酸素濃度)を0.5ppm以下に調節して嫌気的条件下で培養する方法等が挙げられる。好気的条件下で培養した場合、イソブチリックアシッド 20 〜 200ppm、イソバレリックアシッドとイソアミルアルコール 50 〜250ppm含有する香味剤が得られる。しかし、上記嫌気的条件下で培養した場合、得られる香味液のイソブチルックアシッド含有量は5 〜 50 ppm、イソバレリックアシッドとイソアミルアルコールの含有量は5 〜70 ppmと有効に低減し、嫌われる香気成分の少ないさらに優れた香味液を製造することができる。【0010】培養温度は、20〜40℃が好適であり、培養時間は、通常1〜30日間で、HEMFが最高に蓄積される時期を見計らって培養を終了する。本発明では、上記培養の途中で、さらに酵母を接種し、培養することにより、HEMFの生成蓄積量をさらに上げることができる。すなわち、培養期間中、酵母菌体数を高いレベルに維持することにより、醗酵を盛んにし、HEMFの生成蓄積量をさらに挙げることができる。例えば、培養開始後、2日目に種菌液を培養開始時と同様に接種する方法等が挙げられる。この時、酵母の接種と同時に適当な糖を添加することにより、さらにHEMFの生成蓄積量を増加せしめることができる。添加する糖は、前述した糖であれば、いかなる糖でも用いることができるが、好ましくはグルコースなどが挙げられる。糖の添加は、酵母の接種時に限らず、酵母の生育状況をみて、培養期間中ならいつでも適宜添加することが好ましい。上記製造方法を適宜、組み合わせることにより、例えば、400ppm以上、好ましくは400〜1000ppm、特に好ましくは500〜1000ppmの高濃度のHEMFを含有する香味剤、さらには、400ppm以上、好ましくは400〜1000ppm、特に好ましくは500〜1000ppmのHEMFを含有し、かつイソブチリックアシッドの含有量が 40 ppm以下である香味剤を製造することができる。【0011】さらに、HEMF含有液を合成吸着剤(XAD−7)に接触させ、HEMFを該吸着剤に吸着させた後、溶出液でHEMFを溶出させ、さらに高濃度のHEMFを含有し、かつイソブチリックアシッドの含有量の低い本発明香味剤を得ることができる。ここで用いられるHEMF含有液は、前述した本発明のHEMFを含有する香味剤ばかりでなく、含有するHEMFの濃度の多少にかかわらず、HEMFを含有する液であれば如何なるものでも良く、如何なる製造方法および起源のものでも本発明に用いられる。本発明の合成吸着剤とは、イオン交換樹脂、官能基のない吸着剤などを言い、例えば、特に好ましくは、XAD−7(オルガノ社製)などが挙げられる。吸着とは、合成吸着剤に本発明で得られたHEMFを吸着せしめることを言い、一般に合成吸着剤をつめたカラムにHEMF含有液を入れ、吸着させたのち溶離液で抽出する。例えば、XAD−7をビーカーに入れ水でスラリーとして、完全に膨潤させる。カラムに充填した後に、HEMF含有液を入れて、HEMFを吸着せしめる。次に水で洗浄し、溶出液としてエタノールを用いて、HEMFを溶出する。溶出液は、エタノールを主成分としているので、エバポレーターを用いて所望の濃度まで濃縮できる。用いる合成吸着剤により異なるが、合成吸着剤よりHEMFを溶出できる液であれば、如何なる溶出液でも用いることができる。一般に、飲食品に用いられる、溶出効率の高い、かつ安全性の高い溶出液が好ましい。溶出液として、例えばエタノールを用いれば、エタノールを主成分としているので、エバポレーターを用いて所望の濃度まで濃縮できる。つまり、適宜溶出液を除くことにより、さらに濃縮されたHEMFを含有する香味剤、例えば、XAD−7(オルガノ社製)に吸着されたHEMFをエタノールで溶出し、溶出液のエタノールを減圧下で除くことにより、2、000ppm以上のHEMFを含有する香味剤を製造することもできる。【0012】このようにして得られた本発明の香味剤は、飲食品に適量添加することにより、当該飲食品に甘いケーキ様の香りを付与し、消費者に好まれる飲食品を製造することができる。本発明の香味剤はいかなる飲食品にも添加することができるが、例えば、発酵飲食品 など、好ましくは、醤油や味噌、つゆ、たれなどの調味液などの飲食品が挙げられる。HEMFの添加量としては、用いる飲食品によっても異なるが、例えば、最終的に飲食品に含まれるHEMFの濃度が、例えば 20 〜 50ppmとなるように本発明の香味剤を添加することが好ましい。【0013】【実施例】以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。(実施例1)本発明香味剤の製造−1醤油麹20Kgに、蒸留水35Lを加え、58℃で8時間保持し、次に5℃で圧搾を行って消化液30Lを得た。次に、これを2〜3分煮沸後、ろ布で圧搾してろ液を得た。このろ液に、食塩を混合して、食塩含量を10%に調製した。この麹消化液5Lに、D−リボース300g、グルタミン酸ソーダ375gを混合して、耐圧容器に入れて100℃、30分加熱して加熱処理液を得た。別に、同麹消化液3Lにグルコース400gを混合して、蒸留水を用いて5Lとして液体培地とした。加熱処理液と液体培地を1:1で混合して培養液とし、そのうちの5Lを、5L容の耐圧容器に入れた。あらかじめ振とう培養した種酵母(Zygosaccharomyces rouxii IFO0495)を、107/mlになるように接種して、密栓したのち、30℃で静置培養を行った。なお、耐圧容器内のヘッドスペースガスは、酸素濃度計を用いて酵母発酵と共に、速やかに酸素濃度がゼロになることを確認した。培養4、7日後に、それぞれ種酵母を再度107/mlになるように接種するとともに、培地中のグルコース濃度が約2%になるように、グルコースを添加して、添加直後のみ容器を緩やかに振とうした。12日間培養を行ったものを、本発明の香味剤として得た。【0014】実施例1の培養時間(hr)と、培養液1ml当たり中の生菌数とHEMF生成量の変化を図1に示す。また、培養12時間でサンプリングした培養液のHEMF量と図1中の生菌数は、食品微生物ハンドブック(好井久雄・金子安之・山口和夫編著、技報堂出版、第603頁)に記載の方法に従って測定した。また、イソブチリックアシッドとイソバレリックアシッドの量を表1に示す。HEMFやその他の香味成分は、ガスクロマトグラフィーにて分析定量した(Journal ofAgricultural and Food Chemistry Vol.39,934(1991)参照)。表1 培養液の香味成分含有量 (ppm)【0015】図1から、培養開始4,7日後は生菌数が、107から106に低下するが、グルコースと共に酵母を添加することによって、HEMFを多量に生成し続けることがわかる。さらに、上記と同様にして調製した培養液15Lを30L容の培養タンクに入れ、常法に従い殺菌した後、上記と同様に種酵母(Zygosaccharomyces rouxii IFO0495)を、107/mlになるように接種して、30℃、80rpmで攪拌しながら培養を行なった。このときの7日目のHEMFの生成量は520ppmであった。【0016】(実施例2)本発明香味剤の製造−2実施例1と同様の麹消化液7.5Lに、D−キシロース450g、グルタミン酸ソーダ560gを混合して、耐圧容器に入れて100℃、30分加熱して加熱処理液とした。別に、同麹消化液4.5Lにグルコース600gを混合して、蒸留水を用いて7.5Lとして液体培地とした。加熱処理液と液体培地を1:1で混合して、培養液15Lとして、30リットル容の培養タンクに入れた。あらかじめ振とう培養した種酵母(Zygosaccharomyces rouxii IFO0495)を、107/mlになるように接種し、30℃で、DO(溶存酸素)センサーを用いてDO(溶存酸素)濃度が1.0ppm以下になるように内圧と通気量を調整して、80rpmで攪拌しながら培養を行った。培養2日ごとに、培養液中のグルコース濃度が約2%になるように、グルコースを添加した。実施例2の培養時間(hr)と、培養3日目から測定したHEMFとイソバレリックアシッドの生成量の変化を図2に示す。図2から、培養5日目でHEMF含有量が、523.3ppmと最大値になった後は、低下していく。それと共に、イソバレリックアシッドは、上昇していき40ppmを超えるようになる。したがって、培養5日目で培養を終了すれば、HEMF523.3ppm、イソバレリックアシッド25.7ppmと香気の良好な本発明の香味剤として得た。【0017】(実施例3)加熱処理時間の検討実施例1と同様の麹消化液5Lに、D−キシロース450g、グルタミン酸ソーダ560gを混合して、30L容培養タンクに入れた。200rpmで攪拌しながら、121℃に加熱し、加熱後2分、4分、6分、10分で200mlずつサンプリングし、加熱処理時間の異なる加熱処理液を得た。室温で放冷した後、別に、同麹消化液130mlにグルコース16gを混合して、蒸留水を用いて200mlとした液体培地を、それぞれ1:1で混合して400mlとして、加熱処理時間の異なる加熱処理液を含む培養液を調製し、それぞれ耐圧容器に入れた。あらかじめ振とう培養した種酵母(Zygosaccharomyces rouxii IFO0495)を、107/mlになるように接種して、密栓したのち、30℃で静置培養を行った。培養2日後に、それぞれ種酵母を再度107/mlになるように接種するとともに、グルコースを2%になるように添加した。添加直後のみ、緩やかに振とうした。121℃での加熱処理時間と、培養4日後のHEMF生成量との関係を図3に示す。図3より、加熱処理時間6分が、HEMF生成量552.2ppmと多く生成することがわかった。【0018】(実施例4)本発明香味剤の官能評価実施例1の香味剤を用いて、香りの官能評価を行った。対照の醤油は、市販の濃口醤油を用いた。実施例1の香味剤を、対照の濃口醤油に添加して、濃口醤油としょうゆ試験法(財団法人 日本醤油研究所編、114頁)記載の2点識別法で比較した。その結果を、表2に示す。パネルは、醤油のきき味に熟練した28名で実施した。香味剤を1%添加することで、香りが芳醇となり、好まれるようになることがわかる。表2 香りの官能評価結果【0019】**・・・1%有意また、実施例2の香味剤を用いてつゆを試作した。つゆに用いる醤油のうち、10%分を香味剤とした。全て醤油を使用した対照区のつゆと、そばで比較した。醤油のきき味に熟練した8名で比較した結果を、表3に示す。【0020】表3より、香味剤を添加したつゆの方が、高級感が増し、おいしく感じられた。表3 つゆの官能評価結果*・・・5%有意【0021】(実施例5)糖の添加効果実施例1と同様の麹消化液100ml4つに、それぞれD−キシロース0g、1.5g(100mM)、3.0g(200mM)、9.0g(600mM)を混合して、121℃で5分、加熱処理した。別に、同麹消化液66mlにグルコース8gを混合して、蒸留水を用いて100mlとした液体培地を4つ用意し、それぞれ1:1で混合して培養液200mlとして、耐圧容器に入れた。あらかじめ振とう培養した種酵母(Zygosaccharomyces rouxii IFO0495)を、107/mlになるように接種して、密栓したのち、30℃で静置培養を行った。培養4日後に、それぞれ種酵母を再度107/mlになるように接種するとともに、グルコースを2%になるように添加した。添加直後のみ緩やかに振とうした。キシロースの添加量と、培養7日後のHEMF生成量との関係を図4に示す。図4より、キシロースの添加量200mMが、HEMF生成量263.1ppmと多く生成することがわかった。【0022】そこで、30L培養タンクで、グルタミン酸ソーダ無添加の場合のHEMF生成量を確認した。実施例1と同様の麹消化液7.5Lに、D−キシロース225gを混合して、耐圧容器に入れて121℃、5分加熱して加熱処理液とした。別に、同麹消化液4.5リットルにグルコース600gを混合して、蒸留水を用いて7.5リットルとして液体培地とした。加熱処理液と液体培地を1:1で混合して培養液15Lとして、30リットル容の培養タンクに入れた。あらかじめ振とう培養した種酵母(Zygosaccharomyces rouxii IFO0495)を、107/mlになるように接種し、30℃で、D.O.(溶存酸素)センサーを用いてDO(溶存酸素)濃度が1ppm以下になるように内圧と通気量を調整して、80rpmで攪拌しながら培養を行った。培養2日ごとに、培地中のグルコース濃度が約2%になるように、グルコースを添加した。培養5日以降のHEMF生成量を図5に示す。培養10日でHEMF生成量は、408.6ppmに達した。【0023】【発明の効果】本発明によれば、甘いケーキ様の香りを有するHEMFを高濃度に含有する香味剤の製造方法が提供され、本発明の香味剤を飲食品に、適宜、添加することにより、味の調和が損なわれることなく、消費者の嗜好にそった、甘いケーキ様の香りの付加、増強された飲食品が得られることから、飲食品、特に含塩食品などの香味剤、風味改良剤として利用することができる。【0024】【図面の簡単な説明】【図1】実施例1の培養時間(hr)と、培養液1ml当たり中の生菌数とHEMF生成量の変化を示すグラフ。【図2】実施例2の培養時間(hr)と、培養3日目から測定したHEMFとイソバレリックアシッドの生成量の変化を示すグラフ。【図3】実施例3の121℃での加熱時間と、培養4日後のHEMF生成量との関係を示すグラフ。【図4】実施例5のキシロースの添加量と、培養7日後のHEMF生成量との関係を示すグラフ。【図5】実施例5の培養時間(hr)と、培養5日以降のHEMF生成量を示すグラフ。 4−ヒドロキシ−2(又は5)エチル−5(又は2)メチル−3(2H)フラノンを400ppm以上含有することを特徴とする香味剤。 イソブチリックアシッドの含有量が40ppm以下である請求項1に記載の香味剤。 以下の工程を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の香味剤の製造方法。(1)麹消化液と、糖あるいは糖およびアミノ酸の混合液を加熱処理する第1工程。(2)第1工程で得られた加熱処理液を含む培養液に酵母を接種して培養する第2工程。 第1工程に用いる糖が、D−リボース、D−キシロース及び/又はD−アラビノースである請求項3記載の香味剤の製造方法。 第1工程に用いるアミノ酸がグルタミン酸である請求項3又は4記載の香味剤の製造方法。 第1工程の加熱処理が、80〜125℃で5〜60分の処理である請求項3〜5いずれか1項記載の香味剤の製造方法。 第2工程がその培養途中でさらに酵母を接種することを含む工程である請求項3〜6いずれか1項記載の香味剤の製造方法。 第2工程の培養が嫌気培養、DO(溶存酸素)濃度が1.0ppm以下での培養である請求項3〜7いずれか1項記載の香味剤の製造方法。 4−ヒドロキシ−2(又は5)エチル−5(又は2)メチル−3(2H)フラノン含有液を合成吸着剤(XAD−7)に接触させ、4−ヒドロキシ−2(又は5)エチル−5(又は2)メチル−3(2H)フラノンを該吸着剤に吸着させた後、溶出液で4−ヒドロキシ−2(又は5)エチル−5(又は2)メチル−3(2H)フラノンを溶出させることを特徴とする請求項1又は2記載の香味剤の製造方法。 【課題】高濃度のHEMFを含有する香味剤、および、短期間でさらに高濃度のHEMFを生成蓄積せしめることのできる工業的に有利な該香味剤の製造方法を提供することにある。【解決手段】HEMFを400ppm以上含有することを特徴とする香味剤であり、さらにイソアミルアルコールの含有量が40ppm以下である該香味剤を提供する。さらに、以下の工程を含むことを特徴とする上記香味剤の製造方法を提供する。(1)麹消化液、糖およびアミノ酸の混合液を加熱処理する第1工程。(2)第1工程で得られた加熱処理液を含む培養液に酵母を接種して培養する第2工程。