タイトル: | 公開特許公報(A)_急性肝炎および慢性肝線維化の治療剤 |
出願番号: | 2002226552 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,A61K38/00,A61P1/16,C07K14/47 |
淀井 淳司 中村 肇 奥山 裕照 嶌原 康行 JP 2004067542 公開特許公報(A) 20040304 2002226552 20020802 急性肝炎および慢性肝線維化の治療剤 レドックス・バイオサイエンス株式会社 502208076 淀井 淳司 591253227 三枝 英二 100065215 掛樋 悠路 100076510 小原 健志 100086427 中川 博司 100090066 舘 泰光 100094101 斎藤 健治 100099988 藤井 淳 100105821 関 仁士 100099911 中野 睦子 100108084 淀井 淳司 中村 肇 奥山 裕照 嶌原 康行 7 A61K38/00 A61P1/16 C07K14/47 JP A61K37/02 A61P1/16 C07K14/47 3 OL 13 特許法第30条第1項適用申請有り 2002年8月25日〜29日 開催「11th International Symposium on the Cells of the Hepatic Sinusoid&Their Relation to Other Cells」において文書をもって発表 4C084 4H045 4C084AA02 4C084BA44 4C084CA04 4C084CA17 4C084CA18 4C084MA01 4C084NA14 4C084ZA752 4H045AA30 4H045BA10 4H045CA40 4H045EA27 4H045HA05 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、急性肝炎および慢性肝線維化の治療剤に関する。【0002】【従来の技術およびその課題】チオレドキシンはその活性部位配列の−Cys−Gly−Pro−Cys−内にレドックス活性なジスルフィド/ジチオールを有する小さい12 kDaの多機能タンパク質である(ref. 1)。 チオレドキシンはリボヌクレオチドリダクターゼに対するハイドロゲン供与体,デオキシリボヌクレオチドの合成に重要な酵素として大腸菌から単離されて以来,多くの原核生物,真核生物から単離同定されてきた。成人T細胞白血病誘導因子(ADF)は,本発明者らがHTLV−Iに感染したTリンパ球によって産生されるIL−2受容体誘導因子として最初に同定したもので,ヒトチオレドキシンである。細胞内チオレドキシンはラジカル消去や,activator protein−1や nuclear factor−κB などのレドックスに関する転写因子の制御に重要な役割を果たしている(ref. 2)。 さらに, ヒトチオレドキシンはp38 mitogen activating protein kinase (MAPK) やapoptosis signal regulating kinase−1 (ASK−1)のシグナル伝達を制御する。ヒトチオレドキシンはCDDP誘導性の細胞障害に抵抗性を示す。われわれは, TRX transgenic (Tg) mice (TRX Tg mice)が脳虚血,インフルエンザ肺炎や他の酸化ストレス疾患に有効であることを示してきた(ref. 3)。【0003】酸化ストレスは肝疾患においても重大な原因となっている(ref. 4)。 肝炎ウイルス,アルコール,薬剤は肝において活性酸素種を産生し,肝細胞のアポトーシスを誘導し,急性肝炎,ひいては肝線維化を引き起こす。(ref. 5) 肝線維化の際には,肝細胞死のみではなく,肝星細胞の活性化を伴う。肝星細胞はラジカルによって活性化し,増殖,コラーゲン産生,遊走,収縮,などの多機能を発揮する(ref. 6) 。肝線維化には,この星細胞の関与が非常に大きい。細胞培養実験では,抗酸化剤によって肝星細胞の活性化が抑制され,また,動物実験でも,抗酸化剤によって肝線維化が抑制されることからも,星細胞活性化,肝線維化に酸化ストレスが関与していることが分かる。【0004】本発明者らは,これまで,グルタチオン前駆体のN−acetylcysteineがチオアセトアミド誘発肝線維化を抑制することを報告してきた(ref. 7) 。ADF はこれまで,胎児肝や肝癌において強発現し,肝線維化でも強発現することがわかっており,ADF が肝疾患でなんらかの役割をはたしていることが予想される。【0005】本発明は、チオレドキシンを有効成分とする肝疾患治療剤を提供することを目的とする。【0006】【課題を解決するための手段】本発明は、チオレドキシン活性を有するファミリーに属するポリペプチド類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分とする急性肝炎治療剤に関する。【0007】また、本発明は、チオレドキシン活性を有するファミリーに属するポリペプチド類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分とする慢性肝炎(特に、肝線維化)の治療剤に関する。【0008】【発明の実施の形態】本明細書においては、チオレドキシン活性を有するファミリーに属するポリペプチド類には、チオレドキシン活性を有するものであれば、オリゴペプチドからポリペプチド(タンパク質)まで広く含まれる。【0009】チオレドキシン活性を有するファミリーは、活性中心に配列−Cys−X−Y−Cys−(X及びYは同一又は異なって20種類の天然アミノ酸のいずれかを示す。)を有しており、チオレドキシンスーパーファミリー(以下、「TRXファミリー」という)と呼ばれている。【0010】TRXファミリーに属するポリペプチドとしては、活性中心に配列−Cys−Gly−Pro−Cys−、−Cys−Pro−Tyr−Cys−、−Cys−Pro−His−Cys−、−Cys−Pro−Pro−Cys−を有するポリペプチド類を例示することができ、これらの中でも、活性中心に配列−Cys−Gly−Pro−Cys−を有するポリペプチド類が好ましい。【0011】また、TRXファミリーに属するポリペプチドには、具体的には、ヒトを含む動物のチオレドキシン(ヒトを含む動物のADF)、大腸菌などの細菌のチオレドキシン、酵母のチオレドキシン等のチオレドキシン;ヒトADF活性を有するポリペプチド(ヒトADFP);ヒト,大腸菌等のグルタレドキシン等が含まれる。【0012】TRXファミリーに属するポリペプチドとしては、チオレドキシンが好ましく、特にヒトチオレドキシン及び酵母チオレドキシンが好ましい。酵母チオレドキシンは、酵母から単離したものでもよいが、チオレドキシンを多く含む酵母の形態で使用することもできる。【0013】これらTRXファミリーに属するポリペプチド類は、本発明の急性肝炎及び慢性肝炎治療剤に、単独で、又は2種以上組み合わせて含有させることができる。【0014】TRXファミリーに属するポリペプチドは、細菌(大腸菌)、酵母、植物及び動物、特にヒトを含む哺乳動物(ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、サル、モルモット、ラット、マウス、ウサギなど)由来のいずれであってもよい。また、TRXファミリーに属するポリペプチドは、天然物を精製する方法、遺伝子組換え法により、酵母,大腸菌等から得られるものであってもよく、TRX活性を有する限り、その1又は複数のアミノ酸を置換、付加、欠失等した誘導体であってもよい。【0015】チオレドキシンを含む該ポリペプチド類は、酸化型であっても還元型であってもよいが、好ましくは還元型である。【0016】治療される肝疾患としては、急性肝炎及び慢性肝炎が挙げられ、これらは、ウイルス性(急性、慢性)肝炎、薬物性(急性、慢性)肝炎が挙げられ、慢性肝炎としては、特に肝線維化が挙げられる。【0017】投与経路としては、経口(錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤など)及び非経口(注射剤、吸入剤、点鼻剤、坐剤など)のいずれでも投与することができる。【0018】急性肝炎ないし慢性肝炎治療剤のTRXファミリーに属するポリペプチドの有効量としては、成人1日あたり50〜500 mg程度であり、これを1日あたり1〜3回に分けて投与することができる。【0019】【発明の効果】本発明によれば、副作用の心配がない急性肝炎及び慢性肝炎の治療剤を提供することができる。【0020】【実施例】以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。実施例1(1)方法材料.ヒト組み換えチオレドキシンは味の素より供給された。抗ヒトチオレドキシン抗体は Fuji Rebio により供給された。コラゲナーゼ,チオアセトアミドは和光薬品より購入した。 プロナーゼEはメルク社より購入した。smooth muscle −actin (−SMA) に対する抗体は DAKO A/S から購入した。 [3H]チミジン and [−32P]dCTPはアマシャムファルマシアから購入した。動物.チオレドキシントランスジェニックマウス(10週令)はOriental Bioservice Inc. から購入した。 C57BL/6 mice (10週令)はJapan SLC Inc.から購入した。 Wistarラットは SLC から購入した。チオアセトアミド誘発急性肝炎モデル.25グラムから30グラムの雄マウスを肝障害モデルに使用した。チオレドキシントランスジェニックマウス(23匹)と野生型マウス(23匹)に対して,チオアセトアミド(200μg/g and 100μg/g) を腹腔内投与した。24時間後にジエチルエーテルで麻酔したうえで,肝を摘出した。肝の一部は10%ホルマリンで固定し,組織学的実験に使用した。残りの肝組織は液体窒素で瞬時に凍結し,−80℃で保存した。チオアセトアミド誘発慢性肝線維化モデル. チオレドキシントランスジェニックマウス(10匹)と野生型マウス(10匹)に対して,チオアセトアミド(50 μg/g)を週3回,4週間,腹腔内投与した。最後の投与の翌日に,ジエチルエーテルで麻酔したうえで,肝を摘出した。肝の一部は10%ホルマリンで固定し,組織学的実験に使用した。残りの肝組織は液体窒素で瞬時に凍結し,―80℃で保存した。ラット,マウス肝星細胞分離. Wistarラット肝とC57BL/6 マウス肝からプロナーゼEとコラゲナーゼにより灌流消化を行ったうえで,ナイコデンツ密度勾配遠心法により肝星細胞を分離した。細胞純度は細胞形態とビタミンAによる自家蛍光から判定し,95%以上である。 プラスチックプレート上で,10%血清入りダルベッコイーグルメヂウムで培養した。2日毎にメヂウム交換をした。[3H]チミジン取り込み実験. 培養活性化星細胞の培養上清中にチオレドキシンを添加し,24時間培養した。 1.0μCi/ml [3H]チミジンを添加し,6時間後にその放射活性をシンチレーションカウンターで測定した。ウエスタンブロッテイング. チオレドキシンで処理した肝星細胞を1× SDS サンプルバッファー(100μl/35−mm dish) (62.5mM Tris−HCl, pH 6.8,10% glycerol, 2% SDS, 5% 2−β−mercaptoethanol, 1mM Na3VO4)で溶解し,サンプルを作成した。熱変性後,各サンプル (10μg ) をSDS−polyacrylamide gel electrophoresis (12%) に供し, Immobilon P 膜 に転写した。 hTRX とα−SMAに対する抗体で反応させた後,2次抗体で反応させ,ECL detection reagentでバンドを検出した。ノーザンブロテイング. Isogen を用いて,培養星細胞からTotal RNAを抽出した。 Total RNA (20μg) を1% agarose gel で分離したのち, nylon membrane (Hybond−N+)に転写した。polymerase chain reactionで作成した二重鎖DNAを[α−32P]dCTPでラベルしてプローブとした。DNA配列を確認した。プライマーは以下に示す: α1 typeI collagen , 5’−GATGTCACTGAGACGACGAT−3’ (forward) and 3’−CCTCAAACACCACCTGCAAC−5’ (reverse); glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase, 5’−ACCACAGTCCATGCCATCAC−3’ (forward) and 3’−TCCACCACCCTGTTGCTGTA−5’ (reverse)。 プローブと膜をハイブリダイゼーションさせ,オートラジオグラフィー のバンドをKodak XAR5 x−ray film上で検出した。マロリーアザン染色.パラフィン包埋した組織片を4−μm の厚さに切り,切片を作成した。アザン染色を行った。 Mac SCOPE version 2.5と Photgrab−2500 forMacintosh FUJIX SH−25/M を用いて,画像を取り込み,線維化領域を測定した。免疫組織染色.パラフィン包埋切片を 1% hydrogen peroxide, 0.1% proteinaseK, 1% Triton X−100で 処理した。 1:50に希釈した hTRXとα−SMAに対するマウス モノクローナル抗体で反応させ,その後1:200で希釈した biotin−conjugatedrabbit anti−mouse IgG F(ab’)2 で1時間室温で反応させ,DABで発色させた。(2)結果障害肝におけるチオレドキシンの発現. 組織免疫染色にて,チオレドキシンは慢性肝線維化における肝細胞で強発現し,線維束に存在する非実質細胞(肝星細胞)では発現がほとんど無いことが判明した。なお,正常肝では,肝細胞におけるチオレドキシン発現はほとんど無い(図1)。チオアセトアミド誘発急性肝炎モデルでの効果. チオレドキシンが肝障害防御に関与するかを検討するために,チオレドキシントランスジェニックマウスを用いて,急性肝炎モデルを適応して検討した。野生型マウスとチオレドキシントランスジェニックマウスに過量のチオアセトアミドを腹腔内投与し急性肝炎を起こした。投与後24時間7日間での生存率は,チオレドキシントランスジェニックマウスのほうが,野生型マウスより有意に高かった(図2A, B)。肝酵素AST とALTのレベルは, チオレドキシントランスジェニックマウスのほうが,野生型マウスより有意に低かった(図2C)。ヘマトキシリンエオジン染色では,肝細胞壊死による脱落はチオレドキシントランスジェニックマウスのほうが,野生型マウスより有意に抑制されていた(図2D)。チオレドキシントランスジェニックマウスでのアポトーシス抑制. 動物実験における肝炎抑制の機序について,アポトーシスについて検討した。タネル染色にて,肝中心静脈周囲ゾーン3で,タネル陽性細胞は,チオレドキシントランスジェニックマウスのほうが,野生型マウスより有意に少なかった(図2E)。チオレドキシン強発現肝細胞株HepG2におけるTNF−α誘発細胞死抑制.つぎに,肝細胞株HepG2 を用いて,チオレドキシンの効果を検討した。チオレドキシン強発現肝細胞株HepG2 と優性ネガテイブチオレドキシン発現肝細胞株HepG2を作成し,その培養上清中に腫瘍壊死因子−alpha (TNF−alpha) を添加し,細胞死を誘導した。細胞の生存率はMTTアッセイによって,測定した。TNF−alphaによる細胞死は,チオレドキシン強発現肝細胞株HepG2 においてコントロールの肝細胞株HepG2より低く,優性ネガテイブチオレドキシン発現肝細胞株HepG2においてコントロールの肝細胞株HepG2より高い(図3)。チオアセトアミド誘発慢性肝線維化モデルでの効果. つぎに,チオレドキシンが肝線維化にどのような影響があるかを検討した。チオアセトアミド週3回4週間の長期投与によって肝線維化モデルを作成した。アザン染色にて組織学的検討を行った。肝線維化領域の面積はチオレドキシントランスジェニックマウスのほうが,野生型マウスより有意に少なかった(図4A, B)。肝酵素AST とALTのレベルは, チオレドキシントランスジェニックマウスのほうが,野生型マウスより有意に低かった(図4C)。チオレドキシン強発現肝細胞株HepG2と初代培養星細胞との共培養.次に,チオレドキシントランスジェニックマウスにおける肝線維化抑制の機序に肝星細胞が関与しているかを検討するために,ラット肝から分離培養した初代培養肝星細胞とチオレドキシン強発現肝細胞株HepG2 および優性ネガテイブチオレドキシン発現肝細胞株HepG2との共培養を行った。共培養後24時間での肝星細胞のDNA合成能を見るために [3H]チミジン取り込み実験を行った。肝星細胞のDNA合成能はチオレドキシン強発現肝細胞株HepG2 との共培養においてコントロールの肝細胞株HepG2との共培養より低く,優性ネガテイブチオレドキシン発現肝細胞株HepG2との共培養においてコントロールの肝細胞株HepG2との共培養より高い(図5A)。これらの結果から肝細胞株HepG2から分泌されるチオレドキシンが活性化肝星細胞の増殖能を抑制している可能性が示唆された。外因性チオレドキシンの培養星細胞増殖抑制効果. チオレドキシンが肝星細胞の増殖能を抑制するかを検討した。培養星細胞の培養上清にリコンビナントチオレドキシンを添加して,肝星細胞のDNA合成能を見るために [3H]チミジン取り込み実験を行った。リコンビナントチオレドキシンは肝星細胞の増殖能を濃度依存性に抑制した(図5B)。(3)考察本実施例では,チオレドキシンの急性肝炎および慢性肝線維化に対する効果をチオレドキシントランスジェニックマウスを用いて検討した。チオアセトアミド誘発急性肝炎モデルでは,生存率,肝酵素,組織のいずれもチオレドキシントランスジェニックマウスにおいて改善した。加えて,タネル染色では,チオレドキシントランスジェニックマウスにおいてアポトーシスが抑制されていることが示された。チオアセトアミドは肝細胞の細胞質において活性酸素種を産生することにより肝細胞を障害することが知られている。 活性酸素種はまた肝細胞のアポトーシスを誘発し,細胞死にいたらしめる。これらのことからもチオアセトアミド誘発急性肝炎モデルにおけるチオレドキシンの抗アポトーシス効果は活性酸素種の排除によると考えている。脳虚血障害モデルでは,中大動脈閉塞後のタンパクカルボニル化の抑制によって チオレドキシントランスジェニックマウスにおいては改善することが示された。さらに,われわれは,チオレドキシン強発現細胞はペロキシナイトライト誘導性の細胞障害に抵抗性を示すことを報告している。また,チオレドキシンによる抗アポトーシスの機序について報告されている。チオレドキシンは,p53 およびp38を抑制してアポトーシスを抑制し,また,ASK−1をフ゛ロックすることにより TNF−(誘導性のアポトーシスを抑制した。【0021】肝線維化もチオレドキシントランスジェニックマウスにおいて改善した。肝酵素が有意に改善していることからも,チオレドキシンの抗線維化作用は肝細胞死抑制の2次的効果が大きいと考えている。 しかし,おもしろいことに,外因性のチオレドキシンに肝星細胞増殖抑制効果のあることを発見した。実際,肝星細胞のDNA合成能はチオレドキシン強発現肝細胞株HepG2 との共培養において抑制された(ref. 8) 。これらの結果は,肝線維化の際に肝細胞で強発現するチオレドキシンは肝細胞への抗アポトーシス作用だけでなく,その周囲の肝星細胞への抗増殖作用も発揮していることを示唆する。【0022】以前,我々は,抗酸化剤N−acetylcysteine が肝星細胞の血小板由来増殖因子(PDGF)依存性増殖能を抑制する事を報告した。その機序は,N−acetylcysteine が,星細胞から分泌されるカテプシンBの酵素活性を上昇させ,PDGF受容体を分解することにより,抑制された(ref. 9) 。本研究でも,チオレドキシンが星細胞の増殖能を抑制するが,PDGFなどの細胞膜受容体に影響はなかった。肝星細胞は酸化ストレスにより増殖も含めた活性化を起こすことから,われわれは,チオレドキシンの抗増殖作用は活性酸素種の排除によると考えている。【0023】線維化は増殖能と同様に活性化星細胞の重要な機能であることはよく知られている(ref. 10)。抗線維化療法は 肝硬変の治療に有効となりうる(ref. 11)。以前,報告したように,抗酸化剤N−acetylcysteine は動物モデルだけでなく,培養星細胞でもそのコラーゲン発現をmRNAレベルで抑制する。チオレドキシンは培養肝星細胞においてむしろコラーゲン産生を促進する傾向がみられた。さらに,われわれは,チオレドキシン強発現マウス線維芽細胞株NIH3T3を作成し,コラーゲン発現とチオレドキシンとの関係を検討したが,NIH3T3では,チオレドキシンはコラーゲン発現に影響なかった(未発表)。これらの結果からも,動物モデルにおけるチオレドキシンの線維化抑制効果は,肝細胞死抑制と星細胞増殖抑制効果によると考えられる。【0024】抗線維化治療薬はこれまでいくつか報告されているが,すべて人工の薬剤である。よって,その副作用がつねに問題となり,臨床応用にはなかなか結びつかなかった。しかし,チオレドキシンは体内でも発現する内因性のチオールタンパクであるため,より臨床応用に導きやすいと考えている。【0025】結論として,チオレドキシンは急性および慢性肝疾患の有効な治療法となることが示された。参考文献1. Nakamura H, Nakamura K, Yodoi J. Redox regulation of cellular activation. Annu. Rev. Immunol. 1997; 15: 351−369.2. Hirota K, Matsui M, Iwata S, Nishiyama A, Mori K, Yodoi J. AP−1 transcriptional activity is regulated by a direct association between thioredoxin and Ref−1. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1997; 94(8): 3633−3638.3. Takagi Y, Mitsui A, Nishiyama A, et al. Overexpression of thioredoxinin transgenic mice attenuates focal ischemic brain damage. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1999; 96(7): 4131−4136.4. Okuyama H, Shimahara Y, Kawada N. The hepatic stellate cell in the post−genomic era. Histol. Histopathol. 2002; 17(2): 487−495.5. Shimahara Y, Yamamoto N, Uyama N, Okuyama H, Momoi H, Kamikawa T, Terajima H, Iimuro Y, Yamamoto Y, Ikai I, Kushihata F, Kiyochi H, KobayashiN, Yamaoka Y. Significance of Serum Type IV Collagen Level of Hepatectomized Patients with Chronic Liver Damage. World J. Surg. 2002; 26(4): 451−456.6. Kawada N, Kristensen DB, Asahina K, Nakatani K, Minamiyama Y, Seki S,Yoshizato K. Characterization of a stellate cell activation−associated protein (STAP) with peroxidase activity found in rat hepatic stellate cells. J. Biol. Chem. 2001; 276(27): 25318−25323.7. Okuyama H, Shimahara Y, Kawada N, Seki S, Kristensen DB, Yoshizato K,Uyama N, Yamaoka Y. Regulation of cell growth by redox−mediated extracellular proteolysis of platelet−derived growth factor receptor beta. J. Biol. Chem. 2001; 276(30): 28274−28280.8. Uyama N, Shimahara Y, Kawada N, Seki S, Okuyama H, Iimuro Y, Yamaoka Y. Regulation of cultured hepatocyte proliferation by stellate cells. J.Hepatol. 2002; 36(5): 590−599.9. Kristensen DB, Kawada N, Imamura K, Miyamoto Y, Tateno C, Seki S, Yoshizato K. Proteome analysis of rat hepatic stellate cells. Hepatology. 2000; 32(2): 268−277.10. Kawada N, Tran−Thi TA, Klein H, Decker K. The contraction of hepaticstellate (Ito) cells stimulated with vasoactive substances. 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Gastroenterology. 2001; 120(7): 1784−1800.【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】線維化肝におけるチオレドキシン発現チオレドキシンの免疫組織染色.左側:正常ラット肝(100倍),右側:チオアセトアミド誘発ラット線維化肝(100倍).【図2】急性致死性肝炎に対するチオレドキシンの効果A.チオアセトアミド誘発急性致死性肝炎(200(g/g)における生存率B.チオアセトアミド誘発急性致死性肝炎(100(g/g)における生存率C.チオアセトアミド投与後24時間での血清GOT, GPTレベルD.ヘマトキシリンエオジン染色による組織学的解析E.タネル染色によるアポトーシス検出【図3】HepG2におけるTNF−α誘導細胞死に対するチオレドキシンの効果チオレドキシン安定発現HepG2にTNF−αとシクロヘキシミドを添加し,細胞死を誘発した.添加後24時間で,MTTアッセイを行った.EV: pcDNA3 empty vector transfected HepG2. wt: TRX wt stably transfected HepG2. dm: TRX double mutant stably transfected HepG2.【図4】肝線維化に対するチオレドキシンの効果A.マロリーアザン染色による組織学的解析B.線維化領域の評価.C.チオアセトアミド最終投与後24時間での血清GOT, GPTレベル【図5】チオレドキシンによる培養星細胞の増殖能の抑制.A.チオレドキシン安定発現HepG2との共培養による星細胞増殖能への抑制効果.B.チオレドキシンによる星細胞増殖能への抑制効果. チオレドキシン活性を有するファミリーに属するポリペプチド類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分とする急性肝炎治療剤。 チオレドキシン活性を有するファミリーに属するポリペプチド類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分とする慢性肝炎の治療剤。 慢性肝炎が肝線維化である請求項2に記載の治療剤。 【課題】肝疾患治療剤を提供する。【解決手段】チオレドキシン活性を有するファミリーに属するポリペプチド類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分とする急性肝炎及び慢性肝炎(肝線維化を含む)治療剤に関する。【選択図】なし