タイトル: | 公開特許公報(A)_無菌水性懸濁製剤 |
出願番号: | 2002193400 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,A61K9/10,A61K31/56,A61K47/38,A61M15/08 |
西部 義久 永野 篤弘 高梨 一也 上嶋 康秀 JP 2004035441 公開特許公報(A) 20040205 2002193400 20020702 無菌水性懸濁製剤 帝人株式会社 000003001 三原 秀子 100099678 西部 義久 永野 篤弘 高梨 一也 上嶋 康秀 7 A61K9/10 A61K31/56 A61K47/38 A61M15/08 JP A61K9/10 A61K31/56 A61K47/38 A61M15/08 9 OL 9 4C076 4C086 4C076AA22 4C076CC27 4C076CC30 4C076CC32 4C076EE31 4C076EE32 4C076FF43 4C076GG43 4C086AA01 4C086DA10 4C086MA03 4C086MA05 4C086MA23 4C086NA03 4C086ZB26 4C086ZB35 4C086ZC03 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は水難溶性薬物を活性成分とするオートクレーブ滅菌された無菌水性懸濁製剤に関する。【0002】【従来の技術】水性懸濁製剤は、水難溶性の薬物(活性成分)を水性媒体に均一に懸濁分散させ、その一定量を投与または噴霧することができる剤形である。また、チキソトロピー性を有する懸濁基剤を用いることにより、保存中の製剤の安定性に加え、投与部位、例えば鼻腔局所での高い滞留性が得られる。これらのことから、水性懸濁製剤は有用な剤形の一つとして認識されており、すでに多くの水性懸濁製剤が上市されている。【0003】これらの水難溶性薬物の水性懸濁製剤は、通常、微粒子化された該薬物を懸濁基剤とともに、水中に均一に懸濁分散させることによって製造される。該懸濁基剤には通常、水不溶性物質と分散剤との複合体が使用され、複合体中の分散剤が三次元的に相互作用をしてマトリックスを形成して懸濁剤の基剤となる。該薬物は、この基剤中に分散することにより、均一にかつ長期間安定して製剤中に懸濁分散することができる。しかし懸濁基剤単独では分散力が不十分で、時間が経過すると主薬が分離して沈降あるいは浮遊する等のことが往々にあるため、安定な水性懸濁製剤を製造するためには、通常、更に湿潤剤を添加し、主薬の懸濁基剤中の懸濁分散を容易にする。こうして懸濁基剤と湿潤剤と主薬とを含んでなる水性懸濁医薬品製剤が製造される。【0004】一方、水性懸濁製剤は、水性であるため細菌などが繁殖しやすく、市場に供給するためには保存剤の添加が必須である。保存剤として一般に、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェニルエチルアルコール、またはパラオキシ安息香酸エステル類などが使用される。しかしながら、これら保存剤には粘膜組織などに対する副作用が報告されているため好ましくない。【0005】そこで、水性製剤において保存剤を添加せずに保存中の細菌等の繁殖を防ぐ目的で、現状では一般的に以下の方法が使用されている。【0006】すなわち、1.滅菌して無菌とした各成分を原料として無菌的に製剤を製造する方法と、2.滅菌処理していない通常の各成分から製剤を製造し、容器等に充填する前又は後で滅菌する方法である。【0007】これらのうち、前者「1.」については、例えばKarlssonら(WO99−25359号明細書)が主薬のステロイドを粉末状態で乾熱滅菌した製剤を報告している。しかしながら、無菌水性懸濁製剤として供するには、滅菌されたステロイドの無菌状態を保持したまま水性媒体中に懸濁させる必要があり、大掛かりな製造設備が必要となる。【0008】一方、より簡便な後者「2.」は、その滅菌法として更にいくつかの方法が提案されている。【0009】第一に濾過滅菌であるが、この滅菌法は水性懸濁製剤には不溶性粒子の存在のため適用することは困難である。【0010】第二は放射線滅菌であり、例えばIllumら(Arch.Pharm.Chemi. Sci.,Ed.2,1974,pp.167−174)はβ線照射もしくはγ線照射によるステロイドを主薬とする水性懸濁製剤の滅菌処理を推奨している。しかしながら、β線照射もしくはγ線照射によってステロイドをはじめ多くの薬物が分解することが知られているおり、またこの分解生成物の安全性を保証するのは困難であるため、医薬品の滅菌法として現実的ではない。【0011】第三に、製剤の汎用的滅菌操作であるオートクレーブがある。本方法は、通常121℃に加熱されるため、水存在下で不安定な薬物に適用することは不可能である。【0012】しかし、この第三の方法は、加熱時の安定性の問題さえクリアできれば水性懸濁製剤の製造法としては最も採用しやすい方法である。【0013】ところが、たとえオートクレーブ操作中に水難溶性薬物が化学的に安定であっても処理により水難溶性薬物の含量均一性が低下することが公知である。この現象は加熱により一部溶解した水難溶性薬物が冷却されて析出する時に粒子径の制御ができず、大きな粒子や小さな粒子となって析出し、懸濁基剤中に再分散するため、懸濁製剤の場所により薬物の含量に差が出ると説明されている。そして、この含量不均一化を防止する方法として、O’Neillら(US3962430号明細書)は、飽和濃度の塩化ナトリウムを添加する方法を提案している。しかし、水相に飽和食塩水を使用すると、水性懸濁製剤の浸透圧が著しく高くなる、あるいは高イオン濃度のため水素結合等からなる懸濁基剤のマトリクス構造を変化させ懸濁状態の不安定化をもたらすという問題がある。【0014】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、保存剤を添加しない水難溶性薬物含有無菌水性懸濁製剤を提供することである。【0015】さらに本発明の目的は、保存剤を添加せず、水難溶性薬物の含量均一性(均一分散性)を維持可能な水性懸濁製剤を提供することである。【0016】本発明者らは上記目的に鑑み鋭意研究した結果、水難溶性薬物を含有する水性懸濁製剤をオートクレーブ処理によって滅菌してもその薬物含量は低下しない、すなわち水難溶性薬物がオートクレーブ処理によっても分解しないことを発見して本発明に到達した。【0017】さらに本発明者らは、湿潤剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いることにより、水難溶性薬物含有水性懸濁製剤をオートクレーブ処理によって滅菌しても、その薬物の含量均一性(均一分散性)を維持できることを発見して本発明に到達した。【0018】【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、水難溶性薬物を含有し、オートクレーブにより滅菌された、無菌水性懸濁製剤を提供するものである。【0019】【発明の実施の形態】本発明の水難溶性薬物としては、水への溶解度が約10mg/mL以下の薬物であり、無菌製剤として臨床で使用される必要があるか使用されることが望ましい薬物であり、かつオートクレーブ処理に安定であるものであれば何れでもよい。これらの薬物としては点眼剤、点鼻剤、注射剤などに使用されるステロイド類、抗生物質類、あるいは注射剤などに使用される抗癌剤などが挙げられる。ステロイド類としてはプロピオン酸フルチカゾン、フルオロメトロン、酢酸ヒドロコーチゾン、プレドニゾロンなどが挙げられる。抗生物質類としてはテトラサイクリンなどが挙げられる。また制癌剤としてはダカルバジン、エノシタビン、シスプラチン、塩酸イリノテカン、塩酸ピラルビシンなどが挙げられる。【0020】本発明において水難溶性薬物の水性懸濁製剤中の濃度は特に限定されないが、好ましい濃度は、製剤全体量に対して0.01%w/w以上10%w/w以下であり、さらに好ましくは0.01%w/w以上3%w/w以下である。【0021】本発明の湿潤剤であるヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)はセルロースのメチル及びヒドロキシプロピルの混合エーテルであり製剤の添加物として通常使用されている。メトキシル基とヒドロキシプロポキシル基の量によりいくつかのグレードがあるがそれらの何れでもよい。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2208、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2906、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910が挙げられそれぞれ商品名メトローズ90SH、メトローズ65SH、メトローズ60SHなどとして販売されている。これらのグレードの中でもヒドロキシプロピルメチルセルロース2910がより好ましい。該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの本水性懸濁製剤中の濃度は、製剤全体に対して0.01%w/w以上5%w/w以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.05%w/w以上1%w/w以下である。【0022】また、本発明の湿潤剤であるヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は、飽和食塩水添加によらずに、オートクレーブ処理による水難溶性薬物の含量均一性の低下を防止するために有効である。後述のように、通常湿潤剤として使用される界面活性剤に比して、本発明の湿潤剤であるヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は、オートクレーブ処理による水難溶性薬物の含量均一性の低下を防止する効果が優れている。【0023】尚、セルロースエーテル類としては他にヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルメロースナトリウム(CMCNa)などが挙げられるが、ヒドロキシプロピルセルロースでは含量均一性低下は防止できてもオートクレーブ処理によりヒドロキシプロピルセルロース自身がゲル化して不均一となり懸濁製剤の外観を著しく損なうため好ましくない。また、カルメロースナトリウムでは含量均一性低下防止が十分でないことなどの欠点があるため好ましくない。【0024】本発明の懸濁基剤は水不溶性物質と分散剤との複合体である。通常使用される水不溶性物質としては結晶セルロースが挙げられる。また通常使用される分散剤としてはカルメロースナトリウムやキサンタンガムなどが挙げられる。これらの中でも結晶セルロースとカルメロースナトリウムとの複合体(一般名:結晶セルロース・カルメロースナトリウム)が好ましい。本複合体はアビセルRC−A591NFという商品名で旭化成株式会社より販売されている。【0025】該懸濁基剤の本水性懸濁製剤中の濃度は、製剤全体量に対して0.1%w/w以上10%w/w以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5%w/w以上5%w/w以下である。【0026】本発明において、水難溶性薬物、湿潤剤、および懸濁基剤とを混合し均一に懸濁分散させる際には、通常の混合攪拌機、あるいは乳化機等の従来公知の装置を用いることができる。好ましくは、懸濁分散時に発生する気泡を除去するため減圧操作が可能な真空乳化機を用いるのがよい。懸濁分散条件は薬物が均一に分散してチキソトロピー性が最大となる条件を設定するのが好ましい。【0027】本発明のオートクレーブ処理とは、高圧蒸気滅菌器中で加熱蒸気により滅菌処理する方法のことである。通例、オートクレーブ処理は加熱蒸気の温度が115℃の場合30分間、121℃の場合20分間、あるいは126℃の場合15分間行うが、高圧蒸気滅菌器および製剤のスケールに応じて適当な条件を設定することができる。また、懸濁分散に使用した機器に入れたままオートクレーブ処理してもよいし、分散懸濁後の懸濁製剤を個別の容器に移した後に該容器をオートクレーブ処理してもよい。前者の場合には懸濁分散と高圧蒸気滅菌とを同一機器で実施するため特殊な設備となる。【0028】本発明の水難溶性薬物含有無菌水性懸濁製剤は、上記に記載した方法で製造(滅菌含)した後、細菌などの混入を防ぐ構造の容器に充填することが必要である。かかる細菌などの混入を防ぐ構造としては、製剤が噴霧あるいは滴下された後に空気が容器内に進入(逆流)する際に、フィルターなどで細菌などをろ過する構造、容器先端部分に残った製剤を銀線などで殺菌する構造、あるいはこれらの組合せが適当である。これらの構造を有する点鼻剤用の容器の実例としてはプリザーバティブ・フリー・システム(ファイファー社)が挙げられる。【0029】本発明の水難溶性薬物含有無菌水性懸濁製剤は、点鼻以外の径路でも投与可能である。具体例として、点眼投与、経皮投与、経口投与などを挙げることができる。【0030】【発明の効果】本発明により、保存剤を含有しない水難溶性薬物の無菌水性懸濁製剤を提供することができる。また、本発明により、含量均一性の良好な水難溶性薬物の無菌水性懸濁製剤が簡便な方法で製造され提供される。これらの無菌製剤により保存剤による副作用のおそれのない製剤が治療に提供されることは極めて意義深い。【0031】【実施例】以下に本発明を実施例により説明する。【0032】本実施例において、結晶セルロース・カルメロースナトリウムは旭化成工業株式会社製のAvicelTM RC−A591NF、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910は信越化学工業株式会社製のTC−5RWをそれぞれ用いた。乳化機(ホモミキサー)は特殊機化工業株式会社製のロボミクスTMを用いた。オートクレーブは、株式会社千代田製作所製の卓上型高圧蒸気滅菌器IST−150型を用いた。【0033】[実施例1]プロピオン酸フルチカゾンを含有する水性懸濁製剤の調製下記の成分を500mLのガラス製容器に入れ混合した後、ホモミキサー処理し(6000回転/分、30分間)白色均一の外観である水性懸濁製剤(実施例1)を調製した。(組成)プロピオン酸フルチカゾン 0.1%w/w結晶セルロース・カルメロースナトリウム 1.7%w/wヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 0.1%w/w精製水 300mL次に上記(組成)欄のヒドロキシプロピルメチルセルロース2910、0.1%w/wの替わりに下記の湿潤剤を用いて比較例1〜5のプロピオン酸フルチカゾン水性懸濁製剤を同様に調製した。なお、ここで用いた湿潤剤は、Tween80はニッコールTO−10M(日光ケミカルズ製)、Tween60はニッコールTS−10(日光ケミカルズ製)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60はニッコールHCO−60(日光ケミカルズ製)、ヒドロキシプロピルセルロースはヒドロキシプロピルセルロース(信越化学製)、 カルメロースナトリウムはセロゲン(第一工業製薬製)を使用した。【0034】比較例1:Tween80 0.025%w/w比較例2:Tween60 0.025%w/w比較例3:ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60 0.2%w/w比較例4:ヒドロキシプロピルセルロース 0.1%w/w比較例5:カルメロースナトリウム 0.15%w/wこれらの製剤を調製後3時間放置後製剤中の固体粒子の分散状態を観察した。また、該ガラス容器内容物の上層、中層、下層よりそれぞれ3個所の懸濁製剤をサンプリングし別の容器に取り分けてその中のプロピオン酸フルチカゾン含量を定量し、各部の含量均一性を測定した。【0035】表1にオートクレーブ前の製剤外観、プロピオン酸フルチカゾン含量の均一性を示す。【0036】【表1】【0037】表の説明実施例1、比較例1〜5いずれのプロピオン酸フルチカゾン水性懸濁製剤とも、外観は白色の均一な懸濁製剤であった。また、プロピオン酸フルチカゾン含量の均一性も良好であった。【0038】次にこれらの実施例及び比較例の水性懸濁製剤を蓋付の500mLガラス製容器に入れ、オートクレーブ処理(121℃ 20分)により滅菌し、次いで該500mLガラス容器を高圧蒸気滅菌機より取り出し3時間放置後製剤中の固体粒子の分散状態を観察した。また、該ガラス容器の蓋を取り、内容物の上層、中層、下層よりそれぞれ3個所の懸濁製剤をサンプリングし別の容器に取り分けてその中のプロピオン酸フルチカゾン含量を定量し、各部の含量均一性を測定した。表2にオートクレーブ後の製剤外観変化(オートクレーブ前との比較)、プロピオン酸フルチカゾン含量の均一性を示す。【0039】【表2】【0040】表の説明実施例1のプロピオン酸フルチカゾン水性懸濁製剤は、オートクレーブ処理によっても外観は変化せず含量均一性にも異常は認められなかった。一方比較例1〜3では外観に変化は認められないものの含量均一性が著しく低下した。また比較例4では含量均一性には問題はないもののヒドロキシプロピルセルロースのゲル化に基づくものと思われる大形状の固形物が認められた。また比較例5では外観に変化は認められないものの含量均一性が著しく低下した。 水難溶性薬物を含有し、オートクレーブにより滅菌された、無菌水性懸濁製剤。 該水難溶性薬物が、ステロイド類、抗生物質類、または制癌剤からなる群より選ばれる1種以上である請求項1に記載の無菌水性懸濁製剤。 該ステロイド類がプロピオン酸フルチカゾンおよび/またはフルオロメトロンである請求項2に記載の無菌水性懸濁製剤。 さらに湿潤剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する請求項1に記載の無菌水性懸濁製剤。 該ヒドロキシプロピルメチルセルロースが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910である請求項4に記載の無菌水性懸濁製剤。 さらに懸濁基剤を含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の無菌水性懸濁製剤。 該懸濁基剤が水不溶性物質、結晶セルロースと分散剤、およびカルメロースナトリウムとの複合体である請求項6に記載の無菌水性懸濁製剤。 細菌等の混入を防ぐ構造の容器に充填された請求項1〜7のいずれか一項に記載の無菌水性懸濁製剤。 該容器が無菌製剤用点鼻投与器である請求項8に記載の無菌水性懸濁製剤。 【課題】本発明の目的は、保存剤を添加しない水難溶性薬物含有水性懸濁製剤を提供することである。【解決手段】水難溶性薬物を含有し、オートクレーブにより滅菌された、無菌水性懸濁製剤。【選択図】 なし