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タイトル:公開特許公報(A)_固定化ホスホリパーゼA1による1−アシルリゾリン脂質の製造方法
出願番号:2002186206
年次:2004
IPC分類:7,C12P9/00,A23J7/00,A23L1/035


特許情報キャッシュ

茂木 和之 松本 渉 杉山 宏 JP 2004024133 公開特許公報(A) 20040129 2002186206 20020626 固定化ホスホリパーゼA1による1−アシルリゾリン脂質の製造方法 旭電化工業株式会社 000000387 羽鳥 修 100076532 茂木 和之 松本 渉 杉山 宏 7 C12P9/00 A23J7/00 A23L1/035 JP C12P9/00 A23J7/00 A23L1/035 9 OL 11 4B035 4B064 4B035LC04 4B035LE02 4B035LG04 4B035LG33 4B035LG43 4B035LK13 4B035LP41 4B064AD85 4B064CA21 4B064CA31 4B064CB02 4B064DA10 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、1−アシルリゾリン脂質の製造方法に関し、該製造方法で製造された1−アシルリゾリン脂質は、加工食品に好適に用いられる。【0002】【従来の技術】従来から、リン脂質の乳化機能性や水に対する分散性を向上させる目的で、酵素処理によってリン脂質のアシル基を加水分解してリゾリン脂質を生成させる技術が用いられており、アシル基を加水分解するための手段の一つとして、酵素であるホスホリパーゼA1、ホスホリパーゼA2又はホスホリパーゼBが用いられている。ホスホリパーゼA1はリン脂質の1位のアシル基を、ホスホリパーゼA2はリン脂質の2位のアシル基を、ホスホリパーゼBはアシル基を無差別に加水分解することが知られている。【0003】ホスホリパーゼA1の作用を受けて得られる生成物である2−アシルリゾリン脂質は、立体構造的に不安定であるため、アシル基が1位に転移することが知られており、この転移により1−アシルリゾリン脂質を生成するが、転移により生成した1−アシルリゾリン脂質が、再び酵素の作用を受け、さらに分解されてしまう。従って、ホスホリパーゼA1を1−アシルリゾリン脂質の製造に用いる場合、反応時間の厳密なコントロールや酵素の除去・失活の手段を取る必要がある。【0004】ホスホリパーゼBは、任意のアシル基を加水分解するため、リゾリン脂質の製造には事実上使用困難である。それに対し、ホスホリパーゼA2を作用させた場合、生成した1−アシルリゾリン脂質は、それ以上分解されることが無いため、操作性が非常に良く、品質も安定することから、工業的に広く用いられている。【0005】しかしながら、現在広く使用されている動物膵液中に存在するホスホリパーゼA2は、不活性型の前駆体として存在し、活性型にするための処理が必要であり、コストが高い等、必ずしも使いやすいとは言えなかった。【0006】また、リゾリン脂質の乳化機能を利用する場合には、適度なリン脂質/リゾリン脂質比があることも報告されており、このような比を有する製品を製造するに当たっては、適度な反応段階で酵素反応を停止させたり、あるいは完全にリゾ化したリゾリン脂質とリン脂質とを混合する方法が考えられるが、遊離の酵素を使用する従来の方法では難しかった。また、特公平6−77506号公報等には、遊離のホスホリパーゼでリン脂質を処理した後、ホスホリパーゼをプロテアーゼで失活させ、高品質のリゾリン脂質を製造する方法が報告されているが、該製造方法は手間がかかる上、満足いく品質のリゾリン脂質は得られなかった。【0007】【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、1−アシルリゾリン脂質を安定に、かつ低コストで製造する方法を提供することにある。【0008】【課題を解決するための手段】本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、安価に手に入り、活性化のための特別な処理を必要としないホスホリパーゼA1に着目し、固定化したホスホリパーゼA1を用いることで、1−アシルリゾリン脂質を安定にかつ低コストで製造し得ることを見出し、本発明に到達した。【0009】即ち、本発明は、固定化ホスホリパーゼA1によって、リン脂質又はリン脂質含有物質を加水分解することを特徴とする1−アシルリゾリン脂質の製造方法を提供するものである。また、本発明は、該製造方法により製造された1−アシルリゾリン脂質を含有する加工食品を提供するものである。【0010】【発明の実施の形態】以下、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。本発明の1−アシルリゾリン脂質の製造方法において用いられるホスホリパーゼA1の起源は、特に限定されるものではなく、動物の脳、肝臓、膵臓組織等の動物組織由来のもの、リゾプス属等の微生物由来のもの、遺伝子組換え等の技術によって異種の起源の遺伝子を導入し、発現・生産させたもの等を用いることが出来る。また、本発明の1−アシルリゾリン脂質の製造方法においては、上記ホスホリパーゼA1にホスホリパーゼA2が混在していても、特に分離等の操作をせずに用いることが出来る。【0011】本発明の1−アシルリゾリン脂質の製造方法において、上記ホスホリパーゼA1の固定化に用いられる固定化担体としては、イオン交換樹脂、キトサン、セルロース、セラミック等の水不溶性担体が好ましく、多孔質に加工された水不溶性多孔性担体がさらに好ましく、アミノ基、アミン、カルボキシル基、スルホン酸基、ジエチルアミノエチル基、直鎖アルキル基、芳香族アルキル基、フェニル基等の官能基や疎水基を有する固定化担体を用いることが出来る。これらの中でもキトサン若しくはキトサン誘導体を用いるのが特に好ましい。固定化担体の形状は、特に限定されるものではないが、ビーズ状のものが好ましい。また、固定化担体は、任意のサイズのものを用いることが出来る。【0012】本発明の1−アシルリゾリン脂質の製造方法において用いられる固定化ホスホリパーゼA1は、用いる固定化担体の性質によって適切な任意の製造方法によって、上記ホスホリパーゼA1を上記固定化担体に固定することにより製造することができる。固定化ホスホリパーゼA1の具体的な製造方法としては、共有結合法、イオン結合法、物理的吸着法等の担体結合法、架橋法、包括法等が挙げられるが、食品・医薬品・化粧品等、人体にかかわる用途に使用するリゾリン脂質としては、固定化担体の活性化試薬や架橋試薬の必要のない、イオン結合法、物理吸着法又は包括法で得られたものが好ましい。【0013】固定化担体へのホスホリパーゼA1(酵素)の固定化は、常法により行なえばよい。担体結合法により固定化する場合は、必要に応じて活性化処理を行った固定化担体と酵素溶液とを混合、撹拌すればよい。架橋法で固定化する場合は、固定化担体にグルタールアルデヒド等の多官能性架橋剤を、酵素溶液を混合する前、酵素溶液と同時、あるいは酵素溶液を混合した後に添加することによって行えばよい。包括法で固定化する場合は、ポリアクリルアミド、κ−カラギーナン、アルギン酸等のゲル化剤と酵素溶液とを混合し、所定の方法でゲル化し、必要に応じてビーズ状等の形状に加工すればよい。さらに具体的には、固定化担体に対する酵素の量は、固定化担体の湿潤重量1gに対し、0.01〜100mg、特に0.1〜10mgが好ましい。酵素溶液の濃度は、酵素が溶解し、かつ固定化担体が酵素溶液に充分浸漬する条件であれば、特に限定されるものではない。ここで、固定化担体が酵素溶液に充分浸漬するためには、固定化担体に対して、酵素溶液を1〜20重量倍、特に2〜5重量倍用いるのが好ましい。固定化温度は、酵素溶液の凝固点より高く60℃以下、特に10〜40℃が好ましい。固定化時間は、10分〜50時間、特に30分〜5時間が好ましい。【0014】本発明の1−アシルリゾリン脂質の製造方法において、上記固定化ホスホリパーゼA1で加水分解されるリン脂質及びリン脂質含有物質は、特に限定されるものではなく、リン脂質としては、例えば、粉末大豆レシチン等の大豆リン脂質、卵黄リン脂質、動物(牛、ヒツジ、ブタ、ニワトリ等)の脳等に由来するリン脂質等が挙げられ、リン脂質含有物質としては、卵黄等が挙げられる。これらの中でも、大豆リン脂質、卵黄リン脂質又は卵黄が好ましく用いられる。本発明の1−アシルリゾリン脂質の製造方法において、卵黄を上記固定化ホスホリパーゼA1によって加水分解した場合には、1−アシルリゾリン脂質含有卵黄が得られる。【0015】卵黄を使用する場合、生卵黄、冷凍卵黄、冷蔵卵黄、乾燥卵黄等、いかなる形態のものを使用しても構わない。【0016】また、リン脂質中に、コレステロール、フィトステロール等のステロールが含まれていると、得られる1−アシルリゾリン脂質の水への分散性及び安定性が良くなるため好ましい。ステロールの量は、リン脂質に対して、重量比(前者/後者)で、1/(5〜30)、特に1/(10〜20)が好ましい。また、リン脂質中にステロールが含まれているか否かにかかわらず、固定化ホスホリパーゼA1によって、リン脂質又はリン脂質含有物質を加水分解する際に、必要に応じてリン脂質又はリン脂質含有物質にステロールを添加することができ、その場合のステロールの添加量は、上記の重量比とするのが好ましい。【0017】1−アシルリゾリン脂質の製造方法は、回分式でもよく、連続式でもよい。回分式の場合、例えば、固定化ホスホリパーゼA1に、リン脂質を含有する基質を添加し、一定時間撹拌した後、固定化ホスホリパーゼA1を分離することで1−アシルリゾリン脂質が得られる。一方、連続式の場合、例えばカラム中に固定化酵素を詰め、一定速度でリン脂質を含有する基質を通過させることで、1−アシルリゾリン脂質が得られる。その際、必要に応じて基質をカラムに繰り返し通過させてもよい。カラムに基質を通過させる速度は、空間速度(SV)で0.1〜20が適当であるが、目的に応じて適宜調整することが出来る。【0018】1−アシルリゾリン脂質を製造する際に用いる固定化ホスホリパーゼA1の使用量は、リン脂質に対し、重量比(固定化ホスホリパーゼA1/リン脂質)で、(0.000001〜0.1)/1、特に(0.001〜0.01)/1が好ましい。卵黄等のリン脂質含有物質を用いる場合の固定化ホスホリパーゼA1の使用量は、リン脂質含有物質中のリン脂質に対し、上記の重量比とするのが好ましい。反応温度は、10〜65℃、特に35〜55℃が好ましい。反応時間は、10分〜24時間、特に2〜8時間が好ましい。固定化ホスホリパーゼA1を分離した後、0〜90℃で1時間以上放置(インキュベート)すると、さらに安定な品質の1−アシルリゾリン脂質が得られるため好ましい。【0019】このようにして製造された1−アシルリゾリン脂質は、加工食品に好適に用いられる。該加工食品の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、マーガリン、ファットスプレッド、チョコレート、アイスクリーム、ホイップクリーム、マヨネーズ、タルタルソース、サラダドレッシング等が挙げられる。【0020】【実施例】以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。実施例1〜3は、本発明で用いられる固定化ホスホリパーゼA1の製造例を示す。実施例4〜6は、本発明の1−アシルリゾリン脂質の製造方法の実施例を示し、実施例7及び8は、1−アシルリゾリン脂質を用いた本発明の加工食品の実施例を示す。また、比較例1〜3は、実施例4に対する比較例であり、比較例4〜7は、実施例5に対する比較例であり、比較例8〜11は、実施例6に対する比較例である。比較例12〜15は、実施例7に対する比較例であり、比較例16〜19は実施例8に対する比較例である。【0021】〔実施例1〕固定化ホスホリパーゼA1の製造例キトサン担体(商品名:キトパールAL、富士紡績(株)製)の湿潤重量100gに、予め0.25mg/mlに調製したホスホリパーゼA1(商品名:Lecitase Novo、ノボザイムズ社製)溶液150mlを加え、25℃で5時間撹拌した。ホスホリパーゼA1溶液を除去した後、水を200ml加えて撹拌する洗浄操作を3回繰り返し、固定化ホスホリパーゼA1を得た。【0022】〔実施例2〕固定化ホスホリパーゼA1の製造例アクリルアミド2g及びN,N’−メチレンビスアクリルアミド0.1gを、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて予め5mg/mlに調製したホスホリパーゼA1(商品名:Lecitase Novo、ノボザイムズ社製)溶液10mlに溶解し、アスピレーターで5分間脱気した後、氷水中で冷却しながらエチレンジアミン4μl及び1重量%過硫酸アンモニウム水溶液0.2mlを加え、充分混和した後、室温に20分放置してゲル化させ、ゲル状物を得た。該ゲル状物を一辺1.5mm程度のダイス状に切った後、生理食塩水で充分に洗浄し、包括法による固定化ホスホリパーゼA1を得た。【0023】〔実施例3〕固定化ホスホリパーゼA1の製造例キトサン誘導体担体(商品名:キトパールBCW3010、富士紡績(株)製)の湿潤重量100gに、予め0.5mg/mlに調製したホスホリパーゼA1(商品名:Lecitase Ultra、ノボザイムズ社製)溶液200mlを加え、40℃で3時間撹拌した。ホスホリパーゼA1溶液を除去した後、水を200ml加えて撹拌する洗浄操作を3回繰り返し、固定化ホスホリパーゼA1を得た。【0024】〔実施例4〕1−アシルリゾリン脂質の製造例粉末大豆レシチン10gを水20gに分散させ、実施例1で調製した固定化ホスホリパーゼA1を0.2g(酵素量0.075mg)加え、30℃で12時間反応させた後、乾燥して1−アシルリゾリン脂質を得た。【0025】〔実施例5〕1−アシルリゾリン脂質の製造例粉末大豆レシチン10gを水20gに分散させた後、さらにコレステロールを0.25g加えて分散させ、実施例2で調製した固定化ホスホリパーゼA1を10g(酵素量50mg)加え、60℃で1時間反応させた。固定化ホスホリパーゼA1を除去後、70℃で2時間放置し、乾燥して1−アシルリゾリン脂質を得た。【0026】〔実施例6〕1−アシルリゾリン脂質含有卵黄の製造例卵黄1kgに、実施例3で調製した固定化ホスホリパーゼA1を150g(酵素量150mg)添加し、55℃で5時間撹拌した。メッシュによって固定化ホスホリパーゼA1を分離し、1−アシルリゾリン脂質含有卵黄を得た。【0027】〔比較例1〕実施例1で調製した固定化ホスホリパーゼA1に代えて、酵素量0.075mg相当分の遊離のホスホリパーゼA1(商品名:Lecitase Novo、ノボザイムズ社製)を用いた以外は、実施例4と同様にして、1−アシルリゾリン脂質を得た。【0028】〔比較例2〕実施例1で調製した固定化ホスホリパーゼA1に代えて、酵素量0.075mg相当分の遊離のホスホリパーゼA1(商品名:Lecitase Novo、ノボザイムズ社製)を用い、かつ反応時間を3時間とした以外は、実施例4と同様にして、1−アシルリゾリン脂質を得た。【0029】〔比較例3〕実施例1で調製した固定化ホスホリパーゼA1に代えて、酵素量0.075mg相当分の遊離のホスホリパーゼA1(商品名:Lecitase Novo、ノボザイムズ社製)を用い、かつ反応時間を18時間とした以外は、実施例4と同様にして、1−アシルリゾリン脂質を得た。【0030】〔比較例4〕実施例2で調製した固定化ホスホリパーゼA1に代えて、酵素量50mg相当分の遊離のホスホリパーゼA1(商品名:Lecitase Novo、ノボザイムズ社製)を用いた以外は、実施例5と同様にして、1−アシルリゾリン脂質を得た。【0031】〔比較例5〕実施例2で調製した固定化ホスホリパーゼA1に代えて、酵素量50mg相当分の遊離のホスホリパーゼA1(商品名:Lecitase Novo、ノボザイムズ社製)を用い、かつ反応時間を30分とした以外は、実施例5と同様にして、1−アシルリゾリン脂質を得た。【0032】〔比較例6〕実施例2で調製した固定化ホスホリパーゼA1に代えて、酵素量50mg相当分の遊離のホスホリパーゼA1(商品名:Lecitase Novo、ノボザイムズ社製)を用い、かつ反応時間を3時間とした以外は、実施例5と同様にして、1−アシルリゾリン脂質を得た。【0033】〔比較例7〕実施例2で調製した固定化ホスホリパーゼA1に代えて、酵素量50mg相当分のホスホリパーゼA2(商品名:Lecitase 10L、ノボザイムズ社製)を用い、かつホスホリパーゼA2の活性発現に必要なカルシウムイオン源として塩化カルシウムを100mg加えた以外は、実施例5と同様にして、1−アシルリゾリン脂質を得た。【0034】〔比較例8〕実施例3で調製した固定化ホスホリパーゼA1に代えて、酵素量150mg相当分の遊離のホスホリパーゼA1(商品名:Lecitase Ultra、ノボザイムズ社製)を用いた以外は、実施例6と同様にして、1−アシルリゾリン脂質含有卵黄を得た。【0035】〔比較例9〕実施例3で調製した固定化ホスホリパーゼA1に代えて、酵素量150mg相当分の遊離のホスホリパーゼA1(商品名:Lecitase Ultra、ノボザイムズ社製)を用い、かつ反応時間を3時間とした以外は、実施例6と同様にして、1−アシルリゾリン脂質含有卵黄を得た。【0036】〔比較例10〕実施例3で調製した固定化ホスホリパーゼA1に代えて、酵素量150mg相当分の遊離のホスホリパーゼA1(商品名:Lecitase Ultra、ノボザイムズ社製)を用い、かつ反応時間を8時間とした以外は、実施例6と同様にして、1−アシルリゾリン脂質含有卵黄を得た。【0037】〔比較例11〕実施例3で調製した固定化ホスホリパーゼA1に代えて、酵素量150mg相当分のホスホリパーゼA2(商品名:Lecitase 10L、ノボザイムズ社製)を用い、かつホスホリパーゼA2の活性発現に必要なカルシウムイオン源として塩化カルシウムを100mg加えた以外は、実施例6と同様にして、1−アシルリゾリン脂質含有卵黄を得た。【0038】〔評価例〕実施例4〜5及び比較例1〜7においてそれぞれ得られた1−アシルリゾリン脂質中のリン脂質量及びリゾリン脂質量、並びにリン脂質として用いた粉末大豆レシチン中のリン脂質量及びリゾリン脂質量を、後述の定量法によりそれぞれ定量した。定量結果から、粉末大豆レシチン中のリン脂質量及びリゾリン脂質量の合計を100とし、ホスホリパーゼ処理により得られた1−アシルリゾリン脂質中のリン脂質量及びリゾリン脂質量をそれぞれ相対的に求めた。ホスホリパーゼ処理後に、リン脂質量の減少に見合ったリゾリン脂質量の増加が無い場合は、1−アシルリゾリン脂質がさらに加水分解されて消失したものとみなし、その消失量を求めた。実施例6及び比較例8〜11においてそれぞれ得られた1−アシルリゾリン脂質含有卵黄についても、同様にして、リン脂質量、リゾリン脂質量及び消失量を求めた。これらの結果を表1に示す。【0039】リン脂質及びリゾリン脂質の定量法を以下に示す。サンプルを凍結乾燥、減圧濃縮等の方法で脱水した後、クロロホルム:メタノール=2:1(v/v)の混合溶媒に溶解あるいは抽出した。定量は、シリカカラムを用いた液体高速クロマトグラフィーにより行なった。得られたクロマトグラムのピーク面積値より、リン脂質の減少量及びリゾリン脂質の増加量を定量した。分析機器、カラム等の条件を以下に示す。【0040】カラム;LiChrospher Silica−60 5nm(φ4.6×250mm、SUPELCO INC.)流速;1.0ml/min.検出器;SEDEX 55 ELSD(SEDERE)溶媒組成及びグラジエント条件A;イソオクタン:テトラヒドロフラン=99:1(v/v)B;イソプロパノール:クロロホルム=4:1(v/v)C;イソプロパノール:水=1:1(v/v)A  B  C(%)0min. 100  0  02     100  0  010     80 20  010.2   42 52  660     25 52 23【0041】【表1】【0042】表1の結果から明らかなように、固定化ホスホリパーゼA1を用いた場合(実施例4〜6)は、ホスホリパーゼA2を用いた場合(比較例7及び11)と同様の高い効率で、品質の良い1−アシルリゾリン脂質が得られた。一方、遊離のホスホリパーゼA1を用いた場合(比較例1〜6及び比較例8〜10)は、1−アシルリゾリン脂質の一部がさらに加水分解されて消失していることが確認された。【0043】〔実施例7〕マヨネーズの製造例実施例6で得られた1−アシルリゾリン脂質含有卵黄8重量%、食酢5重量%、調味香辛料3重量%及び水9重量%を充分に混合し、撹拌しながらサラダ油75重量%を徐々に加えて予備乳化した後、コロイドミルによって仕上げ乳化を行い、マヨネーズを得た。【0044】〔比較例12〕実施例6で得られた1−アシルリゾリン脂質含有卵黄に代えて、未処理卵黄を用いた以外は、実施例7と同様にして、マヨネーズを得た。【0045】〔比較例13〕実施例6で得られた1−アシルリゾリン脂質含有卵黄に代えて、比較例8で得られた1−アシルリゾリン脂質含有卵黄を用いた以外は、実施例7と同様にして、マヨネーズを得た。【0046】〔比較例14〕実施例6で得られた1−アシルリゾリン脂質含有卵黄に代えて、比較例9で得られた1−アシルリゾリン脂質含有卵黄を用いた以外は、実施例7と同様にして、マヨネーズを得た。【0047】〔比較例15〕実施例6で得られた1−アシルリゾリン脂質含有卵黄に代えて、比較例10で得られた1−アシルリゾリン脂質含有卵黄を用いた以外は、実施例7と同様にして、マヨネーズを得た。【0048】実施例7及び比較例12〜15においてそれぞれ得られたマヨネーズを、−20℃、−30℃及び−40℃でそれぞれ1週間放置した後、色差計にて色差値(ΔE)の測定を行い、冷凍耐性の評価をした。色差値が高いほどマヨネーズ中で油の分離が起こっており、乳化が不安定で、冷凍耐性が低いことを示すが、実施例7において得られたマヨネーズは、いずれの温度においても、比較例12〜15において得られたマヨネーズに比べ色差値が低く、本発明の製造方法により得られた1−アシルリゾリン脂質含有卵黄は、乳化特性が向上し、冷凍耐性に優れていることが確認された。また、比較例12〜15においてそれぞれ得られたマヨネーズについては、いずれの温度においても、色差値の低い順に比較例14<比較例12≦比較例13<比較例15であった。【0049】〔実施例8〕ホイップクリームの製造例液糖25重量部、水35重量部及び卵黄3重量部を混合し、60℃に調温し、水相を調製した。予め60℃に調温したパーム核油30重量部に、脱脂粉乳4重量部及び実施例5で得られた1−アシルリゾリン脂質2重量部を分散・溶解させ、油相を調製した。水相と油相とを混合撹拌し、予備乳化物を調製した。ホモジナイーザーによって5MPaの圧力で均質化し、5℃まで冷却後、ミキサーによってホイップした。その後、冷蔵庫で24時間エージングし、ホイップクリームを製造した。【0050】〔比較例16〕実施例5で得られた1−アシルリゾリン脂質に代えて、粉末大豆レシチンを用いた以外は、実施例8と同様にして、ホイップクリームを製造した。【0051】〔比較例17〕実施例5で得られた1−アシルリゾリン脂質に代えて、比較例4で得られた1−アシルリゾリン脂質を用いた以外は、実施例8と同様にして、ホイップクリームを製造した。【0052】〔比較例18〕実施例5で得られた1−アシルリゾリン脂質に代えて、比較例5で得られた1−アシルリゾリン脂質を用いた以外は、実施例8と同様にして、ホイップクリームを製造した。【0053】〔比較例19〕実施例5で得られた1−アシルリゾリン脂質に代えて、比較例6で得られた1−アシルリゾリン脂質を用いた以外は、実施例8と同様にして、ホイップクリームを製造した。【0054】実施例8及び比較例16〜19において得られたホイップクリームそれぞれについて、30℃の恒温槽に1日静置した後の保型性の観察を行った。観察結果を、保型性の良い順に◎、○、△、×として表2に示す。また、実施例8及び比較例16〜19において得られたホイップクリームそれぞれを凍結乾燥し、前述の定量法でホイップクリーム中のリン脂質量及びリゾリン脂質量を定量した。これらの定量結果を表2に示す。【0055】【表2】【0056】表2から明らかなように、固定化ホスホリパーゼA1で処理した1−アシルリゾリン脂質を添加した実施例8のホイップクリームは保型性が優れていた。これに対し、遊離のホスホリパーゼA1で処理した1−アシルリゾリン脂質を添加した比較例17〜19のホイップクリームで保型性が悪くなるのは、1−アシルリゾリン脂質中に残存する遊離のホスホリパーゼA1が、ホイップクリームの原料として用いた卵黄由来のものも含めたリン脂質及びリゾリン脂質を加水分解してしまうためと推測される。【0057】【発明の効果】本発明よれば、工業的利用に好適なホスホリパーゼA1を固定化した上でリン脂質に作用させ、固定化酵素を除去することで、安定した品質の1−アシルリゾリン脂質を製造できる。 固定化ホスホリパーゼA1によって、リン脂質又はリン脂質含有物質を加水分解することを特徴とする1−アシルリゾリン脂質の製造方法。 上記固定化ホスホリパーゼA1の固定化担体が、水不溶性多孔性担体である請求項1記載の1−アシルリゾリン脂質の製造方法。 上記水不溶性多孔性担体が、キトサン又はキトサン誘導体である請求項2記載の1−アシルリゾリン脂質の製造方法。 リン脂質又はリン脂質含有物質を加水分解した後、さらにインキュベートを継続する請求項1〜3のいずれかに記載の1−アシルリゾリン脂質の製造方法。 上記リン脂質が、大豆リン脂質又は卵黄リン脂質である請求項1〜4のいずれかに記載の1−アシルリゾリン脂質の製造方法。 上記リン脂質含有物質が、卵黄である請求項1〜4のいずれかに記載の1−アシルリゾリン脂質の製造方法。 上記卵黄が、生卵黄、冷凍卵黄、冷蔵卵黄及び乾燥卵黄から選ばれる1種以上である請求項6記載の1−アシルリゾレシチン含有卵黄の製造方法。 上記リン脂質が、ステロールを含んでいるリン脂質である請求項1〜5の何れかに記載の1−アシルリゾリン脂質の製造方法。 請求項1〜8の何れかに記載の1−アシルリゾリン脂質の製造方法で得られた1−アシルリゾリン脂質を含有する加工食品。 【課題】1−アシルリゾリン脂質を安定に、かつ低コストで製造する方法を提供すること。【解決手段】固定化ホスホリパーゼA1によって、リン脂質を加水分解することを特徴とする1−アシルリゾリン脂質の製造方法。【選択図】   なし


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