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タイトル:特許公報(B2)_水溶性チタン化合物及びその製造方法
出願番号:2002177590
年次:2008
IPC分類:C07C 59/265,C07C 51/41,C07F 7/28


特許情報キャッシュ

平野 智章 小鹿 博道 JP 4156282 特許公報(B2) 20080718 2002177590 20020618 水溶性チタン化合物及びその製造方法 出光興産株式会社 000183646 大谷 保 100078732 平野 智章 小鹿 博道 20080924 C07C 59/265 20060101AFI20080904BHJP C07C 51/41 20060101ALI20080904BHJP C07F 7/28 20060101ALN20080904BHJP JPC07C59/265C07C51/41C07F7/28 F C07C 59/235 C07C 59/245 C07C 59/265 C07C 51/41 C07F 7/28 CAplus(STN) REGISTRY(STN) 特開2001−181231(JP,A) 特開2000−351787(JP,A) 6 2004018477 20040122 12 20050307 藤森 知郎 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、水溶性チタン化合物、その水溶液及び該チタン化合物の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、腐食や環境汚染などの問題が少ない上、水に対する溶解度が高く、かつ水溶液状で良好な安定性を有する水溶性チタン化合物、コーティング液や含浸液などとして好適なその水溶液及び上記水溶性チタン化合物を、簡便かつ安価に製造する方法に関するものである。【0002】【従来の技術】チタン化合物は、例えば光触媒機能を有する触媒として、あるいは各種触媒の担体などとして、様々な用途に使用されている。しかしながら、これらの目的に汎用的に使用することができ、かつ水や有機溶媒に溶解しやすいチタン化合物の種類は限られている。工業品として入手が容易なチタン化合物としては、塩化チタン(III ,IV)、硫酸チタン、硫酸チタニルなどの無機チタン化合物、アルコキシチタン、アセチルアセトナート化合物などの有機チタン化合物を挙げることができ、さらにはヒドロキシ(ヒドロキシカルボキシラト)チタン化合物、有機チタンペルオキシ化合物(チタンペルオキソカルボン酸アンモニウムなど)も入手可能である。しかしながら、これらの化合物には下記の不具合がある。【0003】水溶液の形態でのみ入手できる無機チタン化合物、すなわち、塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニルは、入手性がよく、安価であるが強酸性で取り扱いにくいことに加え、強酸性以外の条件で容易に加水分解する上、腐食や環境汚染などの問題がある。また、アルコキシチタンやアセチルアセトナート化合物などの有機チタン化合物は、入手性はよいが高価である上、加水分解しやすく、安全性に問題があり、また原料として使用した場合に有機化合物が遊離し、該化合物によっては火災の危険がある。一方、ヒドロキシ(ヒドロキシカルボキシラト)チタン(特開2000−351787号公報)は、水溶液であるにもかかわらず、安定で使用しやすい化合物であるが、アルコキシチタンから製造されるため、高価であるという欠点を有している。また、有機チタンペルオキシ化合物(特開2000−159786号公報)は、そのクエン酸錯塩が粉末状又は水溶液の形態で入手できるが、加熱処理によりペルオキソイオンが分解して一部重合するなど、安定性にやや難があると共に、チタン金属から製造するため、極めて高価であり、用途が制限されるのを免れないなどの問題がある。【0004】【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような状況下で、腐食や環境汚染などの問題が少ない上、水に対する溶解度が高く、しかも水溶液状でも安定性を有し、簡便かつ安価に製造し得る水溶性チタン化合物を提供することを目的とするものである。【0005】【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の元素や化合物を含み、その粉末についてのX線回折において、特定のピーク及びX線粒径を有するチタン化合物が、その目的に適合し得ること、そして、この化合物は、チタン原料を特定の条件下で水系溶媒に溶解させると共に、チタンイオンをヒドロキシカルボン酸により安定化させることにより、安価にかつ簡便に得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。【0006】 すなわち、本発明は、(1)(A)チタン水酸化物、チタン含水酸化物及びチタン金属の中から選ばれるチタンと、(B)クエン酸と、(C)アルカリ金属及び/又はアンモニウムとを含み、アルカリ金属化合物及びアンモニアの中から選ばれる少なくとも一種の化合物と過酸化水素の存在下に、該チタンを、pH7〜14の範囲で水系溶媒に溶解させると共に、チタンイオンをクエン酸により安定化させることによって得られ、かつ40℃以下の温度で乾燥して調製した粉末についてのX線回折(CuKα線)において、2θが27〜30°にピークがあり、当該ピークから算出されるX線粒径が5nm以下であることを特徴とする水溶性チタン化合物、(2)前記X線回折において、強度の強い順に2θが6.5〜9.5°及び27〜30°にピークがあることを特徴とする上記(1)記載の水溶性チタン化合物、(3)上記(1)又は(2)記載の水溶性チタン化合物を含有してなる水溶液、(4)アルカリ金属化合物及びアンモニアの中から選ばれる少なくとも一種の化合物と過酸化水素の存在下、チタン水酸化物、チタン含水酸化物及びチタン金属の中から選ばれる少なくとも一種のチタン原料を、pH7〜14の範囲で水系溶媒に溶解させると共に、チタンイオンをクエン酸により安定化させることを特徴とする、上記(1)又は(2)記載の水溶性チタン化合物の製造方法、(5)チタン原料の溶解及びクエン酸の添加後、0〜50℃の温度で加熱処理し、残留過酸化水素の除去を行う上記(4)記載の水溶性チタン化合物の製造方法、(6)残留過酸化水素が実質上存在しないことを確認したのち、さらに60〜100℃の温度で加熱処理し、生成した水溶性チタン化合物の安定化を行う上記(5)記載の水溶性チタン化合物の製造方法、を提供するものである。【0007】【発明の実施の形態】本発明の水溶性チタン化合物は、(A)チタンと、(B)ヒドロキシカルボン酸と、(C)アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属の中から選ばれる少なくとも一種の金属元素及び/又はアンモニウムを含むチタンのモノマー化合物又は該モノマー化合物の重合物からなるものであって、X線回折において、以下に示す特性を有している。すなわち、40℃以下の温度で乾燥して調製した粉末についてのX線回折(CuKα線)において、2θが27〜30°に幅広のピークがあり、当該ピークから算出されるX線粒径が5nm以下である。さらに好ましくは、強度の強い順に2θが6.5〜9.5°及び27〜30°に幅広のピークがあることである。【0008】アナターゼ型酸化チタンの場合、X線回折において、強度の強い順に25.4°、48.1°、37.8°にピークがあり、またルチル型酸化チタンの場合、X線回折において、強度の強い順に27.5°、54.4°、36.1°にピークがある。したがって、本発明の水溶性チタン化合物とこれらの酸化チタンとはX線回折において、明確に区別される。また、本発明の水溶性チタン化合物の特徴は、X線的には局部的に5nm以下の繰り返し単位が見られることと、濃縮しても結晶が析出せず、水あめ状になることである。この特性により、例えば支持体に接触又は含浸させた場合にも、急激な結晶析出が起こらず、支持体への塗布液(コーティング液、含浸液)として優れている。また、X線粒径が5nmより大きいと水に対する溶解性が低下する。【0009】さらに、本発明の水溶性チタン化合物の水溶液のpHは、通常5〜7で中性であるため、安全に使用することができる。また、該水溶液は、常温で結晶析出や沈殿がみられることはなく、長期間保存しても安定である。当該化合物の安定性については、TG/DTA(熱天秤/示差熱分析)においても確認されている。すなわち、100℃までの重量減少は数%程度、200℃までの重量減少は十数%程度であり、150℃までの加熱であれば、再溶解が可能である。以上の特性は、X線回折において観察される繰り返し単位に由来するものと考えられる。この繰り返し単位があるために、様々な物性において安定であると推察される。なお、X線回折法による分析及びX線粒径の算出、並びにTG/DTAについては、後で説明する。【0010】本発明の水溶性チタン化合物は、前述のように、構成成分として、(A)チタンと、(B)ヒドロキシカルボン酸と、(C)アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属の中から選ばれる少なくとも一種の金属元素及び/又はアンモニウムを含むものである。前記(B)成分のヒドロキシカルボン酸については、次に示す製造方法において詳述する。前記(C)成分において、アルカリ金属としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウムなどが挙げられ、アルカリ土類金属としては、例えばマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどが挙げられる。一方希土類金属としては、例えばイットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、およびこれらの混合物、好ましくは、イットリウム、ランタン、セリウム、およびセリウムを主成分とした希土類金属の混合物などが挙げられる。本発明においてはこの(C)成分として、アンモニウム、ナトリウム及びカリウムが、性能及び経済性の面などから好適である。(C)成分として使用できるアルカリ金属、アルカリ土類金属又は希土類金属を含有する化合物は、水酸化物、酸化物、炭酸塩、有機酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等であり、特に水酸化物が好適である。【0011】次に、本発明の水溶性チタン化合物は、以下に示す本発明の方法により、効率よく製造することができる。本発明の方法においては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、希土類金属化合物及びアンモニアの中から選ばれる少なくとも一種の化合物(以下、これらの化合物を総称してアルカリ化合物と記す場合がある。)と過酸化水素の存在下、チタン水酸化物、チタン含水酸化物及びチタン金属の中から選ばれる少なくとも一種のチタン原料を、pH7〜14の範囲で水系溶媒に溶解させると共に、チタンイオンをヒドロキシカルボン酸により安定化させることにより、本発明の水溶性チタン化合物を製造する。本発明の水溶性チタン化合物の製造方法におけるチタン原料としては、チタン以外の金属、並びに塩素イオン、硫酸イオンなどのアニオンを実質上含まない、チタン水酸化物やチタン含水酸化物、さらにはチタン金属も使用可能である。【0012】ここで、チタン水酸化物は、オルトチタン酸(TiO2 ・nH2 O、n=2程度)の化学名で示される化合物であって、一般的に知られている方法、すなわち、四塩化チタンあるいは硫酸チタニルの水溶液を室温でアルカリ中和と充分な洗浄によって、得られるゲル状のもの、あるいは乾燥したもので、含水率が2.0質量%以上のもの、さらに好ましくは含水率が5.0質量%以上のものである。そして実質上塩素イオンまたは硫酸イオンなどのアニオンが検出されないものが好適に使用される。なお、「実質上塩素イオンまたは硫酸イオンなどのアニオンが検出されない」とは、アニオン含有量がTiO2 基準で100質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下のことをいう。実際には用途やコスト水準などに応じて適宜選択される。【0013】一方、チタン含水酸化物は、メタチタン酸(TiO2 ・nH2 O、n=1程度)の化学名で示される化合物であって、硫酸法酸化チタン製造工程が実質的に同等の工程において硫酸チタン溶液を熱加水分解後、水またはアンモニア水などで充分に洗浄して得られるゲル状のものをそのまま、または乾燥したもので、含水率が2.0質量%以上のもの、さらに好ましくは含水率が5.0質量%以上のものである。そして硫酸イオン含有量がTiO2 基準で5質量%以下、より好ましくは2質量%以下のものが好適に使用される。チタン含水酸化物中の硫酸イオン含有量が5質量%以下であると、チタンを支持体に担持した際に実質上硫酸イオンフリーとみなすことができる。さらに、チタン金属としては、溶解の容易さなどの点から、粉末状であることが好ましい。なお、以上述べた塩素イオンや硫酸イオンなどの不純物は、本発明の水溶性チタン化合物の安定性に寄与しているわけではなく、原料の選択により限りなく少なくしても、全く問題ない。【0014】チタン水酸化物及びチタンの含水酸化物は、スラリーのまま使用してもよいが、乾燥したものも用いることができる。乾燥条件については特に制限はなく、一般的な条件、すなわち、常圧下あるいは減圧下にて150℃以下の温度で乾燥処理されるが、状況に応じて適宜選択することができる。なお、TiO2 含有率は、500℃で焼成して水分を除去した後に秤量して求める。また、チタン水酸化物やチタン含水酸化物の間には化学種としての差異はなく、生成した微粒子の凝集度の相違があるにすぎないと一般に考えられており、上記のn値は目安値にすぎないことはいうまでもない。本発明においては、下記の工程に従って、水溶性チタン化合物を製造することができる。【0015】まず、上記のチタン水酸化物、チタン含水酸化物及びチタン金属の中から選ばれる少なくとも一種のチタン原料を水系溶媒に分散させて、スラリー状とする。この際、ホモジナイザーなどを用いて粒子を細かくすることにより、分散性を向上させることができる。次いで、このチタン原料を含むスラリーを、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、希土類金属化合物及びアンモニアの中から選ばれる少なくとも一種の化合物(アルカリ化合物)と過酸化水素の存在下、pH7.0〜14.0、好ましくはpH8.0〜13.0の範囲に保持する。これにより、大部分のチタン原料が溶解する。このpHは、主に上記アルカリ化合物の添加量で調整する。pHが低すぎるとチタン原料の溶解が進行せず、pHが高すぎても溶解反応の向上効果はあまり認められない。上記アルカリ化合物の中では、特にアンモニアや水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が好適に使用される。水溶性チタン化合物の用途において、チタン以外の金属が不純物であるとみなせる場合、アンモニアの使用が最も好ましい。【0016】温度は特に限定されないが、通常水溶液を処理する温度、すなわち5〜80℃、さらに好ましくは10〜70℃の範囲が適当である。温度が低すぎるとチタン原料の溶解が進行しにくい。また温度が高すぎると過酸化水素の分解反応(酸素放出)が起こり添加した過酸化水素が無駄になるのみならず、圧力上昇により溶解槽の破裂のおそれがある。アルカリ化合物及び過酸化水素の添加量については、TiO2 1モルに対し、アルカリ化合物が1.5〜20モル程度、過酸化水素が1.0〜20モル程度になるように、それぞれアルカリ化合物と過酸化水素水を添加する。これらの添加量が少なすぎるとチタン原料が溶解しにくくなり、また、過剰に添加しても溶解反応の向上効果はあまり認められないのみならず、特に過酸化水素を過剰に入れた場合は溶解槽が破損するおそれがあり危険である。【0017】アルカリ化合物と過酸化水素水の添加順序は特に限定されるものではなく、pHを上記の範囲内に設定すればどのように添加してもかまわない。後述のヒドロキシカルボン酸を含め、一般的な添加の順序は下記の通りである。(1)アルカリ化合物、過酸化水素水、ヒドロキシカルボン酸(2)過酸化水素水、アルカリ化合物、ヒドロキシカルボン酸(3)アルカリ化合物/過酸化水素水混合溶液、ヒドロキシカルボン酸(4)アルカリ化合物、アルカリ化合物/過酸化水素水混合溶液、ヒドロキシカルボン酸(5)アルカリ化合物、ヒドロキシカルボン酸、過酸化水素水一般的には、(1)又は(2)の方法で行うが、大量生産の場合の温度制御を容易にするために、(3)、(4)の方法も採用可能である。例えば、(4)の方法では、少量のアルカリ化合物でチタンスラリー水溶液のpHを調整した後、アルカリ化合物と過酸化水素水を予め混合し除熱した水溶液を少しずつ添加し、チタン原料溶解後にヒドロキシカルボン酸を添加する。また、(5)の方法を採用することにより、特に熱安定性に優れた水溶性チタン化合物を製造することができる。【0018】なお、チタン原料の溶解過程においては、過酸化水素の分解反応が併発するため発熱が起こり、除熱が十分でないと温度の急激な上昇、圧力上昇が起こり制御不能の状態になるおそれがある。したがって、スラリーの温度を調節する機構をもった容器を使用すること及びスラリーの温度が上記の範囲内に入るようにアルカリ化合物、過酸化水素水及びヒドロキシカルボン酸の添加速度を加減すること、ならびに温度上昇を緩和させるために希釈水、特に好ましくは予め冷却した希釈水の注入が必要になることがある。【0019】詳しく述べると、チタン原料はpH7〜14で過酸化水素の作用により溶解するが、過酸化水素自体は、低温においても分解しやすく、温度が上昇するとますますその分解が促進される。発生する熱量に比べて除熱量が少ないと系の温度が上昇し暴走するおそれがあることから、工業規模で生産する場合には特に冷却が重要である。ただし、冷却能力が充分でない場合であっても希釈水を適当量添加することにより、系の熱容量を増加させることにより温度上昇が緩和され、暴走に至らないようにすることができる。ここでいう希釈水とは、水として添加するもののみならず、チタン原料、アルカリ化合物水溶液、過酸化水素水のおのおのに含まれる水分も含まれるものとする。この希釈水の添加量としては、TiO2 相当として1質量部のチタン原料に対し、通常10〜100質量部、さらに好ましくは、15〜70質量部が適当である。希釈水の添加量が少ないと、過酸化水素の分解による発熱のため温度が上昇し暴走の危険がある。また、希釈水の添加量が多いと、濃度が低下するため溶解反応が起こりにくくなったり、目標の濃度にするための濃縮に時間がかかり現実的でない。【0020】次に、このようにしてチタン原料を溶解させてなるチタン含有水溶液を安定化するために、ヒドロキシカルボン酸を添加する。このヒドロキシカルボン酸は、前述のように、チタン原料の溶解操作前に、スラリーに加えておいてもよく、あるいは溶解中又は溶解後に添加してもよい。このヒドロキシカルボン酸としては、一分子内にカルボキシル基を2個以上、水酸基を1個以上もち、水に溶けやすいものが好ましい。特に、ヒドロキシカルボン酸は、炭素数が12個以下、更には炭素数が8個以下のものが好ましい。炭素数が多すぎると水に溶解しにくく、一方、炭素数が少なすぎると、チタン化合物を水溶液にした場合、その安定化に寄与しにくくなる。具体的には、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸などが好適に使用される。ヒドロキシカルボン酸の添加量はTiO21モルに対し、通常0.2〜2.0モル程度である。少なすぎると、チタン含有水溶液の安定性が損なわれるおそれがあり、多すぎてもチタン含有水溶液の安定性に寄与しないのみならず、粘度が増加して該水溶液の取扱いが困難になる。該ヒドロキシカルボン酸は、結晶(粒、粉)のままでも、あるいは水溶液の形で添加してもよい。水溶液の形で添加する場合、冷却した後に添加することが必要になる場合がある。ヒドロキシカルボン酸の添加温度は特に限定されるものではないが、通常50℃以下の条件で行われる。さらに好ましくは0〜40℃である。温度が高いと残留過酸化水素の分解が急激に起こるため好ましくない。【0021】チタン原料の溶解ならびにヒドロキシカルボン酸の添加後、0〜50℃程度の温度で、0.5〜48時間程度撹拌しながら温度を保持することにより残留過酸化水素の除去を行う。残留過酸化水素の除去の確認は該水溶液を一部採取し、二酸化マンガン粉末を振りかけても泡が出ないことをもって行う。この工程は、過酸化水素の急激な分解を抑制し、安全かつ安定に水溶性チタン化合物(およびその水溶液)を製造するために必須である。【0022】残留過酸化水素の除去を確認した後に、水溶性チタン化合物を安定化させるためにさらに加熱処理を行うのがよい。この加熱条件は、温度が通常60〜100℃、好ましくは65〜95℃、時間は0.5〜48時間程度である。温度が低すぎると安定な水溶性チタン化合物の水溶液を得ることはできにくい。すなわち、特に温度が60℃未満の場合、時間の経過とともに変質するような水溶性チタン化合物しか得られないため好ましくない。また温度が高すぎると沈殿が生じることがるため好ましくない。上記の適切な条件で加熱した場合にのみ、透明で長期間同一品質で安定な水溶性チタン化合物の水溶液が得られる。なお、所要時間は目安であり、さらに長時間加熱しても特に支障はないが、現実的には上記の時間の範囲が適当である。【0023】該水溶性チタン化合物の水溶液は、光触媒用チタン原料またはコーティング用原料の水溶液として、必要に応じて、残留過酸化水素の除去工程ならびに加熱工程に準じる条件で常圧下または減圧下で濃縮するか、あるいは任意の濃度で希釈することができる。さらには該水溶液から水分を除去することにより、水溶性チタン化合物の固体を得ることもできる。水分の除去方法は、特に限定されず、一般的な方法、すなわち乾燥やフリーズドライの方法により行うことができる。例えば、100℃以下の条件で0.5〜500時間程度、常圧ないし減圧下で乾燥させることにより水溶性チタン化合物の固体を得ることができる。この場合、さらに粉砕によって粉末化することもできる。なお、X線回折法による分析のための試料を調製するためには、水溶性チタン化合物の変質の可能性を回避するため、40℃以下の温度で乾燥させることが好ましい。【0024】本発明においては、該水溶液から水分を除去する方法には工夫が必要である。高温で乾燥すると生成した水溶性チタン化合物が分解するのみならず、表面のみ乾燥し膜ができるため、内部まで乾燥しない状態になる。内部は水あめ状である。そこで、該水溶液を平らな皿に薄く伸ばした後に、100℃以下の条件、特に好ましくは60℃以下の条件で乾燥させると、内部まで乾燥させることができる。薄く伸ばす条件としては、乾燥後の水溶性チタン化合物の厚さが5mm以下程度になるように行う。特に好ましくは1mm以下である。【0025】次に、本発明の水溶性チタン化合物の用途について説明する。本発明の水溶性チタン化合物は、その水溶液を塗布し必要に応じて熱処理して成る薄膜を支持体表面に形成し、光触媒作用を有する多機能材として用いることができる。ここで支持体の材質は、陶磁器、セラミック、金属、ガラス、熱硬化性樹脂、木材、コンクリート、煉瓦あるいはそれらの複合物等基本的に何でもよい。支持体の形状もどのようなものでもよい。該水溶性チタン化合物の水溶液を塗布する方法としては、スプレー・コーティング、ディップ・コーティング、ロールコーティング、スピン・コーティング等、さまざまな方法があり、そのいずれでもよいし、その他の方法でもよい。特に民生用を考えた場合、刷けやローラーで塗る方法が適当である。【0026】熱処理は必ずしも必要ではなく、用途により適宜選択される。例えば、民家のブロック塀やコンクリート壁に塗布する場合には、天気のよい日を選んで塗布すれば、必ずしも加熱処理は不要である。その理由は、チタンの光触媒作用により該水溶性チタン化合物が適宜分解し、支持体に固定化されるからである。もともと該水溶性チタン化合物のX線粒径は5nm以下と非常に細かいので、光触媒作用が顕著に発揮されるためである。一方、工業的に使用する場合、電気炉やガス釜での加熱、あるいはガスバーナーなどであぶる等の方法で加熱するのが普通であるがその方法は特に限定されない。加熱する場合の条件としては、通常200〜500℃が好適であり、さらに好ましくは、250〜450℃である。該化合物の安定性が非常に高いため、200℃未満では該化合物の分解がほとんど起こらず、支持体への固定化が起こりにくいためであり、500℃を超えると発熱反応とともに酸化チタンの凝集が起こり、光触媒としての機能が発揮されないおそれがある。また、波長400nm以下の紫外線を照射する方法によっても、支持体への固定化を促進することができる。この場合は光触媒作用によりヒドロキシカルボン酸が分解される。さらには、加熱処理と紫外線照射処理を組合わせてもよい。【0027】該水溶性チタンの支持体への付着性を高めるために、支持体をシリカコーティングした後に該水溶性チタンを接触させ担持させる方法は非常に優れた方法であり、用途によっては好適に使用できる。本発明はまた、前記本発明の水溶性チタン化合物を含有してなる水溶液をも提供する。この水溶液は、粉末状の水溶性チタン化合物を水系溶媒に溶解して調製したものであってもよいし、水溶液として製造し適当な濃度に水系溶媒で希釈して調製したものであってもよいが、後者の方が経済的である。【0028】【実施例】次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、水溶性チタン化合物のX線回折法による分析及びTG/DTA(熱天秤/示差熱分析)は、以下に示す方法に従って行った。(1)X線回折法による分析水溶性チタン化合物粉末について、CuKα線(0.15418nm)を用いる一般的なX線回折装置にて分析を行う。また、X線粒径t(nm)は、下記のSherrerの式t=0.9λ/(Bcosθ)[ただし、λ=0.15418nm、B=半値幅(rad)、θ=入射角(゜)である。]により求める。(2)TG/DTA(熱天秤/示差熱分析)水溶性チタン化合物粉末について、市販の一般的なTG/DTA装置を用い、サンプル量20mg、流通空気量100ミリリットル/分、昇温速度10℃/分の条件で安定性の分析を行う。【0029】実施例1500℃で4時間焼成することにより求めたチタン酸化物(TiO2 )の割合が88.0質量%である含水酸化チタン粉末16gと脱イオン水320gと26質量%のアンモニア水33.5gを、1リットルのガラス製ビーカーに入れ、撹拌してスラリー化し、冷却した。次いで、35質量%の過酸化水素水99.2gを、上記含水酸化チタンスラリーの温度が20℃以下となるように1時間かけて少しずつ添加した。その後、20℃を維持したまま3時間撹拌し、黄緑色で透明なチタン水溶液を得た。【0030】次に、このチタン水溶液に、クエン酸一水和物35.5gを該チタン水溶液の温度が25℃を超えないように徐々に添加した。その後、30℃で6時間保持したのち、水溶液を少量とり、二酸化マンガン粉末を振りかけ、過酸化水素が含まれていないことを確認した。次いで、80±5℃の条件で8時間加熱することにより、pH6.0で黄色透明な水溶性チタン化合物の水溶液(A1)180gを得た。なお、該水溶性チタン化合物は非晶質であり、その水溶液の加熱濃縮により、結晶が析出せず、水あめ状であった。その後、該水溶液を少量とり、40℃にて3時間乾燥したのち、乾燥物を粉砕して水溶性チタン化合物の粉末(B1)を調製した。この粉末について、X線回折装置(CuKα線)により分析したところ、強度の強い順に、2θが8.2゜、28.3゜、15.8゜の3つのピークが観察された。2θ=28.3゜のブロードなピークについて、Scherrerの式により、X線粒径(t)を求めたところ、t=1.3nmであった。図1に、このX線回折チャートを示す。また、前記粉末について、TG/DTA装置により分析を行い、安定性を調べたところ、重量減少は100℃で4.2重量%、200℃で14.1重量%、400℃で53.8重量%であり、顕著な発熱温度は240℃、525℃であった。なお、酸化還元滴定法(沃化カリウム法)により水溶液(A1)中の残留過酸化物(O2)2-濃度を測定したところ、(O2)2-濃度は0.13wt%であり、ほとんど検出されなかった。【0031】実施例2500℃で4時間焼成することにより求めたチタン酸化物(TiO2)の割合が85.0wt%である含水酸化チタン粉末101.5gと26重量%のアンモニア水494ml、ならびにクエン酸一水和物132.4gを2リットルのガラス製ビーカーに入れ、攪拌しスラリー化し、水浴にて冷却した。次に、35重量%過酸化水素水517.2mlを20分間かけて少しずつ添加した。その後、温度25℃を維持したまま5時間攪拌した。その後、50℃に昇温し、2.5時間攪拌した後、80±5℃の条件で4時間加熱することにより、pH6.1で黄色透明な水溶性チタンの水溶液(A2)995gを得た。なお、該水溶性チタンの水溶液は非晶質であり、加熱濃縮により結晶が析出せず水あめ状であった。その後、該水溶液を少量とり、40℃にて3時間乾燥した。得られた乾燥物(B2)を粉砕し、X線回折装置(CuKα線)で分析したところ、強度の強い順に、2θが7.1°、28.6°、15.8°の3つのピークが観察された。2θ=28.6°のブロードなピークについてScherrerの式によりX線粒径(t)を求めたところ、t=1.2nmであった。図2に、このX線回折チャートを示す。また、前記粉末(B2)について、TG/DTA装置により分析を行い、安定性を調べたところ、重量減少は100℃で3.4重量%、200℃で8.1重量%、400℃で41.3重量%であり、顕著な発熱温度は240℃、545℃であった。なお、酸化還元滴定法(沃化カリウム法)により水溶液(A2)中の残留過酸化物(O2)2-濃度を測定したところ、(O2)2-濃度は2.7wt%であった。【0032】比較例1四塩化チタン500gおよび脱イオン水1L(リットル)をそれぞれ氷水の冷却槽で冷却した。この脱イオン水を攪拌しておき、そこに冷却しながら徐々に四塩化チタンを滴下して、無色のチタニアゾル塩酸溶液を得た。このチタニアゾル溶液に、1.2倍当量のアンモニア水(濃度:1モル/リットル)を滴下し、1時間攪拌し、水酸化チタンのゲルを得た。そのゲルを吸引濾過で分別し、約1リットルの脱イオン水に再分散させ濾過洗浄した。この操作を洗液が中性になるまで4〜5回繰り返し、塩素根を取り除いた。得られた水酸化チタンゲルを、TiO2として11g重量分採取した。それに25重量%アンモニア水を50ml添加し、攪拌した。さらに、35重量%過酸化水素水100mlを徐々に添加し、チタニアゲルを溶解させ、ペルオキソチタン溶液を得た。そこへ、クエン酸第一水和物を29g、徐々に添加して、攪拌しつつゆっくりと昇温し50℃にて余剰の過酸化水素水を除去した。さらに、80℃にて溶液を全量が117mlになるまで濃縮し黄橙色透明なチタンペルオキソクエン酸アンモニウム液(A3)を得た。次に、該ペルオキソチタン水溶液を40℃でゆっくりと加熱し、濃縮したところペルオキソチタンの結晶が析出したので、該ペルオキソチタン結晶を採取し、水分を拭った後粉砕することにより、橙色のペルオキソチタン粉末(B3)を調製した。この粉末(B3)について、X線回折装置(CuKα線)で分析したところ、多数のピークが観察された。また、ピーク幅が小さかったため、X線粒径の算出は不可能であった。図3に、このX線回折チャートを示す。さらに、前記粉末(B3)について、TG/DTA装置により分析を行い、安定性を調べたところ、重量減少は100℃で4.5重量%、200℃で16.0重量%、400℃で55.3重量%であり、顕著な発熱温度は215℃、345℃、510℃であり、粉末B1,B2と比較して耐熱性が悪いことが明らかである。また水溶液A3を保管していたところ、水溶液(B1)および水溶液(B2)とは異なり、当初黄橙色であったものが時の経過と共に黄色に変色するという現象が観察された。なお、酸化還元滴定法(沃化カリウム法)により水溶液(A3)中の残留過酸化物(O2)2-濃度を測定したところ、(O2)2-濃度は3.4wt%であった。【0033】【発明の効果】本発明の水溶性チタン化合物は、水溶液の形態において中性で広い範囲のpH領域で長期間安定であり、安全で環境汚染等の問題がなく、しかも安価であるため、さまざまな用途、産業用に関わらず民生用にも安全確実に適用可能である。適用例としては、該水溶性チタン化合物を支持体に塗布や含浸等の手法により接触させた後に、通常乾燥・焼成して使用する。ただし、十分に乾燥を行うことにより焼成は必ずしも必須ではない。この点で民生用への適用が期待できる。該水溶性チタン化合物の水溶液は加水分解を起こさず長期間安定なので、このようにして支持体に該水溶性チタン化合物を接触させることにより、チタンのコーティングを容易に行うことができ、光触媒用酸化チタンの原料として適用することができる。【図面の簡単な説明】【図1】実施例1で得られた水溶性チタン化合物のX線回折チャートである。【図2】実施例2で得られた水溶性チタン化合物のX線回折チャートである。【図3】比較例1で得られたチタンペルオキシクエン酸化合物のX線回折チャートである。 (A)チタン水酸化物、チタン含水酸化物及びチタン金属の中から選ばれるチタンと、(B)クエン酸と、(C)アルカリ金属及び/又はアンモニウムとを含み、アルカリ金属化合物及びアンモニアの中から選ばれる少なくとも一種の化合物と過酸化水素の存在下に、該チタンを、pH7〜14の範囲で水系溶媒に溶解させると共に、チタンイオンをクエン酸により安定化させることによって得られ、かつ40℃以下の温度で乾燥して調製した粉末についてのX線回折(CuKα線)において、2θが27〜30°にピークがあり、当該ピークから算出されるX線粒径が5nm以下であることを特徴とする水溶性チタン化合物。 前記X線回折において、強度の強い順に2θが6.5〜9.5°及び27〜30°にピークがあることを特徴とする請求項1記載の水溶性チタン化合物。 請求項1又は2記載の水溶性チタン化合物を含有してなる水溶液。 アルカリ金属化合物及びアンモニアの中から選ばれる少なくとも一種の化合物と過酸化水素の存在下、チタン水酸化物、チタン含水酸化物及びチタン金属の中から選ばれる少なくとも一種のチタン原料を、pH7〜14の範囲で水系溶媒に溶解させると共に、チタンイオンをクエン酸により安定化させることを特徴とする、請求項1又は2記載の水溶性チタン化合物の製造方法。 チタン原料の溶解及びクエン酸の添加後、0〜50℃の温度で加熱処理し、残留過酸化水素の除去を行う請求項4記載の水溶性チタン化合物の製造方法。 残留過酸化水素が実質上存在しないことを確認したのち、さらに60〜100℃の温度で加熱処理し、生成した水溶性チタン化合物の安定化を行う請求項5記載の水溶性チタン化合物の製造方法。


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