タイトル: | 公開特許公報(A)_アントラセン−9−カルボン酸の製造方法 |
出願番号: | 2002171441 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,C07C51/295,C07C63/44 |
藤林 良一 JP 2004018391 公開特許公報(A) 20040122 2002171441 20020612 アントラセン−9−カルボン酸の製造方法 住金エア・ウォーター・ケミカル株式会社 398037527 中嶋 重光 100075524 山口 和 100070493 藤林 良一 7 C07C51/295 C07C63/44 JP C07C51/295 C07C63/44 2 OL 5 4H006 4H006AA02 4H006AC46 4H006BB11 4H006BJ50 4H006BS30 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、写真薬として有用なアントラセン−9−カルボン酸の新規な製造方法に関する。【0002】【従来の技術】アントラセン−9−カルボン酸を製造する方法として、アントラセンにホスゲンあるいは2塩化オキサリルを反応させて得られる酸塩化物を加水分解する方法が知られている(Helv. Chim. Acta.,2巻,482頁(1919)など)。この方法では毒性の強いホスゲンを取り扱うことや反応温度が高いことなどから、実機での製造においては設備が限定されるという難点がある。またアントラセンをマンガンやクロム等の重金属の化合物で酸化してアントラセン−9−カルボン酸を製造する例も知られている(Bull. Chem. Soc. Japan,62巻,545頁(1989)など)が、いずれも収率が低いか触媒コストが高いなどという問題点があり、工業的に採用できる方法とはいえない。【0003】そこで本発明者らは、9−アントラアルデヒドの酸化によりアントラセン−9−カルボン酸を製造することを思い立ち、先ず過マンガン酸カリウムによる酸化や重金属触媒存在下での分子状酸素による酸化を試みたところ、アントラキノンのような酸化生成物は得られるもののいずれも目的とするアントラセン−9−カルボン酸を得ることができなかった。【0004】またカニッツァーロ反応の適用を試みべく、9−アントラアルデヒドにアルカリ水溶液を作用させたが、アントラセン−9−カルボン酸を得ることができなかった。【0005】アントラセン−9−カルボン酸は、脱炭酸してアントラセンに変化し易いという自身の性質に加え、上記のように一般的な芳香族カルボン酸の製法の転用によっても製造が難しいことから、アントラセン−9−カルボン酸の効率的な製法の開発は多大な困難を伴うものであった。【0006】本発明者らは先に、特開2002−88014号公報において、炭素環式芳香族アルデヒド類を非極性有機溶媒中、アルカリ金属水酸化物の存在下加熱して、相当する炭素環式芳香族カルボン酸類を製造する方法を提案している。この提案によれば、炭素環式芳香族アルデヒド類としてアントラセンアルデヒドが原料として使用できることは開示されているが、9−アントラアルデヒドの使用については具体的に示していない。またこの公報における実施例においては副生物の生成が非常に少なく、その多くは原料アルデヒド類に対して80%を超える収率で相当するカルボン酸を得ている。【0007】本発明者らは、この方法を9−アントラアルデヒドの酸化に適用した場合について特願2000−385403号で提案しているが、この提案に具体的に示されている実施態様によれば、アントラセン−9−カルボン酸の収率は最高38%程度にすぎず、アントラセンやアントラキノンなどの副生が少なからず認められ、得られたアントラセン−9−カルボン酸の精製も容易ではなかった。またアルカリ金属水酸化物の使用量を9−アントラアルデヒド1モル当たり、少なくとも5モル程度使用しないと反応速度が遅く、収率の低下が見られた。さらに反応速度のばらつきがあり、安定した反応を進めることが難しかった。【0008】【発明が解決しようとする課題】そこで本発明者らは、より一層有利に9−アントラアルデヒドからアントラセン−9−カルボン酸を得るべく、上記先願の方法について検討を加えた。その結果、アルカリ金属水酸化物として、ディスパーサーを用いて溶媒中において微粉砕したものを使用することにより、アルカリ金属水酸化物の使用量を減ずることができ、しかもアントラキノンやアントラセンなど低価値の副生物の生成を低減させ、改善された収率で目的とするアントラセン−9−カルボン酸を安定性よく製造できることを知った。【0009】【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、微粉化されたアルカリ金属水酸化物の存在下、9−アントラアルデヒドを非極性有機溶媒中において加熱反応させることを特徴とするアントラセン−9−カルボン酸の製造方法に関する。【0010】【発明の実施の形態】本発明の原料として使用される9−アントラアルデヒドは、いかなる方法で製造されたものであってもよい。一般には市場で容易に入手することができるし、また例えばアントラセンに塩化アルミニウム存在下にシアン化水素と反応させるかN−メチルアニリドとオキシ塩化リンを作用させる方法、ソムレー(Sommelet)反応などによって得ることが可能である。【0011】本発明においては、この9−アントラアルデヒドを、微粉化されたアルカリ金属水酸化物の存在下に反応させるものである。アルカリ金属水酸化物としては水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどであり、とくに反応収率の点から水酸化カリウムの使用が最も好ましい。これらアルカリ金属水酸化物は、一般にはフレーク状で入手できるが、本発明においてはこれを重量平均粒径が2mm以下程度になるまで微粉化して使用するものである。微粉化の手段は任意であるが、吸湿を伴わずに短時間で所望の粒径に粉砕できるところから、ディスパーサーを用いて不活性有機溶媒中において微粉砕したものを使用することが好ましい。ディスパーサーとしては、処理液を回転する内刃と外刃の微小間隔に吸い込み、微小間隔を通過するときに強制的に微細化する吸い込み型、攪拌羽を高速回転することで高剪断力を与え、微粉化を行うインペラー型などを使用することができる。このような微粉砕したアルカリ金属水酸化物を使用することにより、アルカリ金属水酸化物の使用量を低減させることができ、しかも副生物の生成を抑え、高収率でアントラセン−9−カルボン酸を安定性よく製造することができる。【0012】ディスパーサーを用いてアルカリ金属水酸化物を粉砕するのに使用する不活性有機溶媒としては、後述する反応溶媒から選択して使用すれば、粉砕後そのまま反応に使用できるので好都合である。粉砕条件はディスパーサーの種類によっても異なるが、通常容易に入手することができる粒径が5〜30mm程度のフレーク状のアルカリ金属水酸化物1重量部に対し、溶媒を3〜20重量部程度使用し、回転翼を1000〜8000rpmの条件で、1〜10分程度回転させて粉砕を行えばよい。粉砕の程度は、アルカリ金属水酸化物の重量平均粒径が少なくとも2mm以下、とくに1mm以下程度になるまで行えばよい。【0013】本発明において9−アントラアルデヒドの反応は、非極性有機溶媒中で行われる。使用可能な非極性有機溶媒としては、ヘキサン,ヘプタン、灯油のような脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンのような脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、メチルナフタリン、メチルビフェニルのような芳香族炭化水素、クロルベンゼン、ジクロルベゼンのようなハロゲン化炭化水素、ジイソプロピルエーテル、メチルフェニルエーテルのようなエーテル類、あるいはこれらの混合物などを例示することができる。非極性有機溶媒中には反応に大きな影響を与えない範囲であれば少量の水が存在しても差し支えないが、反応を円滑に進めるためには実質的に無水であることが望ましい。【0014】非極性有機溶媒の使用量は任意に選択でき、とくに制限されないが、通常、9−アントラアルデヒド1重量部に対して2〜20重量部程度の範囲とするのがよい。すなわち溶媒の使用量が過少であると反応容器中の撹拌混合を均一に行うことが難しくなり、また逆に溶媒の使用量が過多となると後処理操作の負荷が大きくなりすぎる。【0015】本発明の反応は、非極性有機溶媒中に9−アントラアルデヒドと上記のごとくにして得られた粉砕されたアルカリ金属水酸化物を懸濁混合することによって行われる。アルカリ金属水酸化物の使用量は、原料9−アントラアルデヒド1モルに対し、1〜5モル程度、とくに1.2モル以上2モル未満モル程度の範囲とするが好ましい。すなわちその使用量が過少であると反応速度が遅く、目的とするアントラセン−9−カルボン酸の収率を高めることが難しくなる。またその使用量が過多になるとアントラキノンやアントラセンなどの副生が多くなると共に、後処理の負荷が大きくなるので経済的でない。【0016】反応温度は20〜100℃、とくに30〜70℃程度とするのが好ましい。すなわち20℃未満のようなかなりの低温でも反応は進行するが反応速度が遅く、また冷却の必要が生じるので経済的ではない。一方、あまり高温にするとアントラセン−9−カルボン酸の収率が低下し、また分解によるアントラセンの副生が多くなるので好ましくない。反応時間は、使用する溶媒やアルカリ金属水酸化物の種類及びその使用量や反応温度などにより異なるが、通常1〜30時間程度である。いずれにしても本発明の反応においては、アントラセン−9−カルボン酸とともにアントラセン−9−メタノールが副生するが、その副生量をアントラセン−9−カルボン酸1モル当たり、0.9〜1.1モルとなるように反応温度及び反応時間を調節するのがよい。すなわちアントラセン−9−メタノールは回収すれば、9−アントラアルデヒドやアントラセン−9−カルボン酸の製造原料として利用できる一方で、上記本発明の反応で、ある限度以上反応を進行させていくと、アントラセン−9−カルボン酸の収率は若干増加はするが、アントラセン−9−メタノールの収率はそれ以上に低下する。またそれに伴い、アントラセンやアントラキノンなどの副生物の生成が多くなり、アントラセン−9−カルボン酸の精製が容易でなくなる。したがって総合的な見地から見て、過度の反応は避けた方が好ましい。【0017】反応液からアントラセン−9−カルボン酸を回収するには、例えば次のような方法を採用することができる。すなわち反応液に充分な水を添加することにより残存アルカリ金属水酸化物を溶解すると共にアントラセン−9−カルボン酸をアルカリ金属塩として水層に抽出する一方、副生するアントラセン−9−メタノール結晶を濾過により除去する。濾液を静置分液し、下層の水層を分取したのち酸析することにより得られるアントラセン−9−カルボン酸の結晶を濾別して回収する。得られた粗結晶から洗浄、再結晶など常套の精製手段により高純度のアントラセン−9−カルボン酸を得ることができる。【0018】【実施例】以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。【0019】[実施例1]内容積200mlの撹拌機付き反応容器にキシレン100g及び95%フレーク状水酸化カリウム8.0g(0.136モル、9−アントラアルデヒドに対し2.0モル倍)を仕込み、ディスパーサーを用いて2000rpmで1分間粉砕し、平均粒径0.1mmの粉砕品とした。次いで9−アントラアルデヒド15g(0.068モル)を仕込み、撹拌しながら内温50℃まで加熱し、5時間反応を行った。HPLC(高速液体クロマトグラフィ)により分析を行い、反応生成物中の原料9−アントラアルデヒド、生成物であるアントラセン−9−カルボン酸、アントラセン−9−メタノール及びその他生成物(アントラセンやアントラキノン)の含量を求めた。結果を表1に示す。【0020】[実施例2〜5]実施例1において、水酸化カリウムの使用量及び反応時間を表1のように変えた以外は、実施例1と同様に反応を行った。生成物の分析結果を表1に示す。【0021】【表1】【0022】【発明の効果】本発明によれば、少量のアルカリ金属水酸化物の使用で、9−アントラアルデヒドから純度の高いアントラセン−9−カルボン酸を高収率で製造することが可能である。 微粉化されたアルカリ金属水酸化物の存在下、9−アントラアルデヒドを非極性有機溶媒中において加熱反応させることを特徴とするアントラセン−9−カルボン酸の製造方法。 9−アントラアルデヒド1モル当たり、アルカリ金属水酸化物を1〜5モルの割合で使用することを特徴とする請求項1記載のアントラセン−9−カルボン酸の製造方法。 【課題】アルカリ金属水酸化物を用いて9−アントラアルデヒドからアントラセン−9−カルボン酸を製造する方法において、アルカリ金属水酸化物の使用量を低減させ、高収率で高純度の目的物を安定性よく得る方法を提供する。【解決手段】ディスパーサーを用いて不活性溶媒中で粒径2mm以下程度に微粉化したアルカリ金属水酸化物の存在下、9−アントラアルデヒドを非極性有機溶媒中において加熱反応させてアントラセン−9−カルボン酸を製造する。【選択図】 なし