タイトル: | 特許公報(B2)_低チロシナーゼ活性実用麹菌株の取得方法 |
出願番号: | 2002156126 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12N 1/14,C12R 1/69 |
小畑 浩 秦 洋二 川戸 章嗣 安部 康久 JP 4043847 特許公報(B2) 20071122 2002156126 20020529 低チロシナーゼ活性実用麹菌株の取得方法 月桂冠株式会社 000165251 松本 久紀 100097825 戸田 親男 100075775 小畑 浩 秦 洋二 川戸 章嗣 安部 康久 20080206 C12N 1/14 20060101AFI20080121BHJP C12R 1/69 20060101ALN20080121BHJP JPC12N1/14 BC12N1/14 CC12N1/14 BC12R1:69 C12N 1/00 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JCHEM(JDream2) JMEDPlus(JDream2) JST7580(JDream2) 日本醸造協会雑誌,vol.70, pp.169-173 (1975) 2 2003339370 20031202 6 20050310 長井 啓子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、チロシナーゼ活性が低い実用麹菌株の取得方法に関するものであって、本発明によれば、選択培地を用いて簡単に且つ正確にしかも短期間に非褐変性実用麹菌株を分離、育種することができる。【0002】【従来の技術】清酒の醸造において米麹は欠かすことのできない原料であり、グルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、各種プロテアーゼなどの酵素源としての役割がある。このうちグルコアミラーゼ活性の高い麹菌株は経験的にチロシナーゼ活性も高いことが知られている。チロシナーゼ活性が高い麹菌を用いると、酒粕中に残存したチロシナーゼ活性により米麹粒が著しく褐変してしまう。このような酒粕は商品価値が非常に低下してしまうので大変問題である。このため、清酒の醸造において、チロシナーゼ活性が弱く、かつその他有用な酵素活性は強い麹の菌株が望まれている。【0003】従来より、非褐変性麹菌の取得方法としては紫外線照射により突然変異株を取得し、無作為に選択した株で試験生育を行い、褐変性を示さない株を取得する方法(原ら・醸協70、(5)348(1975))が知られているが、操作に手間がかかり多くの株のスクリーニングを行うことができない。【0004】また、この方法の改良法として、変異処理後回収した胞子を栄養制限培地で液体培養し、発芽しない胞子を回収すると比較的多くの非褐変性変異株が得られるとされている(五味ら)。【0005】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、いずれの方法においても変異剤の使用が避けられず、目的とする非褐変性以外にも未知のあるいは不必要な変異が導入される危険性があり、実際得られる変異株は生育の悪さなどの欠点を伴うことが多い。また、多数の株をスクリーニングしなければ実用上優良な非褐変性株が得られない。このため、未知あるいは不必要な変異が導入される危険性のない、変異剤を用いない変異株の取得方法が望まれている。また、より容易なスクリーニング方法による取得方法も必要とされている。【0006】【課題を解決するための手段】そこで、本発明者等はかかる問題点を解決すべく鋭意検討した結果、驚くべきことに麹菌(アスペルギルス・オリーゼ:Aspergillus oryzae)の硝酸還元酵素をコードする遺伝子(niaD)に変異を生じた株(niaD変異株:硝酸を資化できない麹菌変異株(Nitrate Reductase欠損株))を選択する培地(niaD変異株選択培地)に生育した株がいずれも親株よりもチロシナーゼ活性が低下していることを見出して本発明に到達した。【0007】すなわち、本発明の目的は、niaD変異株選択培地に生育する変異株を選択することにより効率的に優れた性質を持つ非褐変性麹菌を育種する方法を提供することにある。そしてその目的は、親株の胞子懸濁液をniaD変異株選択培地に塗布し(場合によっては白金耳によって画線するだけでもよい)、30℃で3〜7日間培養することにより生じるコロニーを取得することにより容易に達成される。【0008】以下に本発明をさらに詳細に説明する。【0009】本発明で用いている菌株は、Aspergillus oryzaeであるが、特にこれに限定されるものではなく、Aspergillus属一般で実施可能である。本発明を実施するには、低チロシナーゼ活性実用麹菌株選択用培地を用い、該選択培地での生育性を指標して目的とする菌株を分離、育種すればよい。【0010】例えば、麹菌の胞子懸濁液を該選択培地に塗布し、生成したコロニーから目的とする菌株を選択、分離すればよいが、本発明は、該選択培地として、全く予期せざることに、低チロシナーゼ活性変異株とは全く別の変異株である、硝酸を資化できない変異株(niaD変異株)をスクリーニングするのに用いるniaD変異株選択培地を使用する点に特徴を有するものである。【0011】niaD変異株選択培地としては、niaD変異株を選択するのに使用する培地であればすべての培地が使用される。通常、該培地は、塩素酸ナトリウム、グルタミン酸塩(ナトリウム又はカリウム塩その他)、グルコース、ミネラル(カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄その他)を含有してなり、所望に応じて寒天を加えて固化してもよいし、寒天を加えることなく液体培地にしてもよい。niaD変異株選択培地としては、例えば下記表1の組成のものを使用することができる。なお、塩素酸ナトリウム濃度は特に限定されるものではなく、場合によって飽和濃度までの範囲で適切な濃度を設定することができる。【0012】【0013】目的とする菌株は、このniaD変異株選択培地に生じたコロニーから選択、取得することができるが、更にこの操作をくり返してもよく、その結果、目的とする菌株を更に確実に取得することができる。具体的に、例えば、niaD変異株選択培地に生じた新しいコロニーは、新しいniaD変異株選択培地に画線し、良好に生育することを確認する。【0014】上記操作だけでも目的とする菌株を取得することができるが、更に胞子形成、実際の製麹試験を行うことにより、目的とする菌株を確実に取得することができる。胞子形成培地としては、胞子を形成せしめるのに適した培地であればすべての培地が使用可能であって、通常、麦芽エキス、酵母エキス等を含有する培地が使用され、その1例としては下記表2の組成の培地が例示される。【0015】【0016】すなわち、本発明によれば、niaD選択培地を用い、必要あれば更に胞子形成培地を用いることにより、低チロシナーゼ活性実用麹菌株をスクリーニングすることができ、所望する場合、これらの操作の少なくともひとつを2回以上くり返して行ってもよい。例えば、次のようにして目的とする変異株を効率良く取得することができる。先ず、niaD変異株選択培地に生じたコロニーは新しいniaD変異株選択培地に画線し、良好に生育することを確認する。さらに表2の組成の胞子形成培地に塗布し、胞子を形成させる。この胞子を回収し製麹試験を行うと、いずれの株も親株と比較してチロシナーゼ活性の低下が認められる。したがって、非褐変性でその他各種有用酵素の活性が良好な変異株を容易かつ良好に探索することができる。【0017】このようにして、親株と比較してチロシナーゼ活性が低い変異株を取得することができ、例えば、チロシナーゼ活性が親株の70%〜50%以下の変異株を取得することができ、後記する実施例において、親株の6〜25%のチロシナーゼ活性しか有しない低チシロナーゼ変異株が実際に分離、育種されているところから、それ以下のチロシナーゼ活性を有する変異株、例えばチロシナーゼ活性を全く示さない変異株のスクリーニングも可能であって、充分に期待される。【0018】また、本発明によれば、niaD変異株選択培地及び所望するのであれば胞子形成培地、そして更に所望するのであればペトリ皿や白金耳等をセットにして、低チロシナーゼ活性実用麹菌株スクリーニングキットを組むことができる。なお、この場合、寒天は別個にセットしてもよい。【0019】【実施例】次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によってなんら限定されるものではない。【0020】麹菌Aspergillus oryzae O−1013(FERM P−16528)の胞子懸濁液100μl(胞子濃度;105〜107spores/ml)をniaD変異株選択培地に塗布した。植菌後、30℃で3日〜7日間培養した。変異株単離のためにコロニーを白金耳により新しいniaD変異株選択培地に画線し、生育の確認も行った。ここからさらに、表2の胞子形成培地に塗布し、胞子を形成・回収後、常法に従って製麹試験を行った。【0021】表3に親株と得られた変異株のグルコアミラーゼ活性とチロシナーゼ活性を示したが、いずれの変異株もグルコアミラーゼ活性は親株と比較して遜色のない値であるが、チロシナーゼ活性はいずれの変異株でも大きく低下しており、目的の変異株を容易に得ることができた。【0022】【0023】【発明の効果】本発明によれば、親株をniaD変異株選択培地に塗布あるいは画線することにより得られるコロニーを単離することにより、容易にチロシナーゼ活性の低下した変異株を得ることができる。これらの株は必要な酵素であるグルコアミラーゼ活性は親株と比べて低下しない。また、本法は紫外線や変異剤を使用しないため、染色体の他の部位に不必要な変異を導入する恐れも少なく安全である。さらに、得られた変異株はチロシナーゼ活性がいずれも低下しているため、従来の方法に比べてより優良な実用株を非常に容易に得ることができる。もちろん、人工変異処理後の目的菌株の効率的分離、選択に利用することも可能である。【0024】また本発明によれば、選択培地においては生成するコロニーを単離すればよいし、胞子形成培地においては胞子の形成を確認すればよく、双方ともにポジティブセクレションによって目的菌株を選択すればよいため、選定が正確且つ容易であってデリケートな判断基準は必要ではないという著効も奏される。 塩素酸ナトリウム、グルタミン酸塩、グルコース、ミネラルを含有してなること、を特徴とする低チロシナーゼ活性実用麹菌株選択用培地。 請求項1に記載の低チロシナーゼ活性実用麹菌株選択用培地を用いて、生育する変異株を選択すること、を特徴とする低チロシナーゼ活性実用麹菌株の取得方法。