生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_人工歯根
出願番号:2002153529
年次:2009
IPC分類:A61K 6/033,A61C 13/08


特許情報キャッシュ

福井 康裕 青木 秀希 尾関 和秀 勇田 敏夫 李 団団 JP 4272845 特許公報(B2) 20090306 2002153529 20020528 人工歯根 福井 康裕 591185054 山八歯材工業株式会社 592081645 柳川 泰男 100074675 福井 康裕 青木 秀希 尾関 和秀 勇田 敏夫 李 団団 20090603 A61K 6/033 20060101AFI20090514BHJP A61C 13/08 20060101ALI20090514BHJP JPA61K6/033A61C13/08 A A61K 6/033 A61C 13/08 JSTPlus(JDreamII) JMEDPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) 特開平09−301797(JP,A) 特開平10−072666(JP,A) 特開平08−056963(JP,A) 特開平02−001286(JP,A) 特開平06−293505(JP,A) 特開平05−103827(JP,A) 4 2003342113 20031203 8 20050520 原田 隆興 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、人工歯根に関する。さらに詳しくは、義歯を確実に支持固定するために有用な人工歯根に関する。【0002】【従来の技術】義歯を固定するために、従来より人工歯根が用いられている。現在利用されている人工歯根は、その形状から、シリンダー型(棒状型)、スクリュー型(ネジ状型)およびブレード型などに分類されているが、なかでもシリンダー型が主に用いられている。人工歯根は、義歯を直接に支持する義歯支台部と顎骨内に埋設される歯根部とからなり、主としてチタン等の金属製である。人工歯根の義歯支台部は、義歯を支持固定するためのテーパ状突起を有する。また、シリンダー型またはスクリュー型の人工歯根の歯根部の周囲には、顎骨内への挿入を容易にするために、螺旋状の突起が設けられている。【0003】顎骨内に埋設された人工歯根とその骨組織との間に早期に安定した骨結合を形成するために、歯根部の外側表面を、骨組織の基本成分と同様のハイドロキシアパタイトでコーティングすることが行われている。ハイドロキシアパタイトは、水酸基を持つアパタイトであって、組成式Ca10(PO)4(OH)2で表される塩基性リン酸カルシウムである。コーティング方法としては、化学蒸着(CVD)法、スパッタリング法等の気相法、ディッピング法等の液相法、および熱分解法等の固相法など各種の方法が研究されているが、実際に実用化されて主流となっているのは、固相液相法の一種であるプラズマ溶射法である。【0004】プラズマ溶射法は、しかしながら、コーティングの厚みが数十μm以上と厚くなってしまうために、顎骨内に埋設された歯根部が長期間に渡って繰り返し負荷を受けると、そのコーティング層中に破壊が生じがちであり、破壊が進むにつれて歯根部と骨組織との結合が失われて、人工歯根が脱落する原因となっている。これは、ハイドロキシアパタイトが圧縮強さは大きいものの、引張り強さや破壊靭性値が小さいことに依る。また、プラズマ溶射法によるコーティングではコーティング層と歯根部のチタンなど金属との結合力が弱いので、前処理として歯根部表面にサンドブラスト法などにより微小の凹凸を付けないと、コーティング層が剥がれやすいとの欠点がある。さらに、インプラント歯科医からは、プラズマ溶射法によるコーティング層の表面が多孔質であるために、細菌の感染が起こるとその進行が速いなどの問題点も指摘されている。スパッタリング法以外の他の方法も同様に、金属との接着強度が小さいなどの欠点がある。【0005】一方、スパッタリング法は、ハイドロキシアパタイトを薄膜でコーティングすることが可能であり、歯根部の金属との結合力も強く、コーティング方法として最適であると言える。しかしながら、ハイドロキシアパタイトは1000℃付近の比較的低温度で分解が始まるために、分解を全く生じさせることなくスパッタリングを行うことが難しく、得られたコーティング層中にはハイドロキシアパタイトだけではなく、ピロリン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、酸化カルシウムなどの副生成物も混在することになる。これら副生成物の存在が顎骨との骨親和性を妨げるために、スパッタリング法によるコーティングは実用化されるまでは至っていない。【0006】なお、特開平8−56963号公報には、人工歯根、人工関節などの生体用インプラント部品の表面に、スパッタリング法により酸化カルシウムおよびリンを含む化合物を蒸着させて薄膜を形成することが開示されている。【0007】【発明が解決しようとする課題】本発明者は、人工歯根について鋭意研究を重ねた結果、スパッタリング法によるハイドロキシアパタイトのコーティングによって、歯根部表面にコーティング層を相対密度が70%以上の緻密体で、かつ厚み0.1〜5μmの薄膜で形成することができ、そしてチタンなど歯根部金属との結合力も強くできることを見い出した。また、コーティング層をリン酸カルシウム水溶液で処理することにより、層中のピロリン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、酸化カルシウムなど副生成物を効率良く除去して、実質的にハイドロキシアパタイトのみからなる均質で、より一層緻密で表面が滑らかなコーティング層が得られることを見い出し、本発明に到達したものである。【0008】従って、本発明は、顎骨内に堅固にかつ安定して埋設固定されて、義歯を確実に支持固定することができる機能的な人工歯根を提供することにある。【0009】【課題を解決するための手段】本発明は、義歯を支持する義歯支台部と顎骨内に埋設される歯根部とからなる人工歯根であって、少なくとも該歯根部の外側表面が、スパッタリング法によりハイドロキシアパタイトでコーティングされ、そしてリン酸カルシウム水溶液で処理されていることを特徴とする人工歯根にある。本発明で用いるリン酸カルシウム水溶液は、そのカルシウム濃度とリン濃度がいずれも1質量%以下であることが好ましい。【0010】【発明の実施の形態】本発明の人工歯根において、少なくとも歯根部の外側表面は、厚み0.1〜5μmの範囲でコーティングされていることが好ましい。また、リン酸カルシウム水溶液の濃度は1質量%以下であって、かつカルシウム/リンのモル比は約1.5〜2.0の範囲にあることが好ましい。【0011】以下に、本発明の人工歯根について添付図面を参照しながら詳細に述べる。図1は、本発明の人工歯根の代表的な構成を示す側面図であり、図2は、図1のI−I線に沿った断面図である。【0012】図1において、人工歯根は、義歯を支持する義歯支台部11と顎骨内に埋設固定される歯根部12とから構成される。義歯支台部11は、義歯を支持固定するためのテーパ状突起13を有する。歯根部12の周囲には、顎骨内への挿入を容易にするために、螺旋状の突起14が設けられている。【0013】図2において、人工歯根の螺旋状の突起14を含む歯根部12の外側表面全体(周囲および底部分)には、リン酸カルシウム水溶液で処理されたハイドロキシアパタイトの薄膜(コーティング層)15が設けられている。薄膜15の厚みは、一般に0.1〜5μmの範囲にある。【0014】なお、本発明の人工歯根は、上記図1及び図2に示した形状および構造に限定されるものではない。リン酸カルシウム水溶液で処理されたハイドロキシアパタイトの薄膜15は、歯根部12のみならず、義歯支台部11を含む人工歯根の外側表面全体に設けられていてもよい。また、人工歯根の形状は、公知の各種形状のシリンダー型、スクリュー型、ブレード型、ウィング付型とすることができる。【0015】本発明の人工歯根は、例えば以下のようにして製造することができる。人工歯根の基材材料には、歯根材料として公知の各種の材料を用いることができ、例えば、高硬度の金属または合金(例、チタン、チタン合金、コバルトクロム合金)、セラミック(例、ジルコニア、アルミナ)、PMMAなどのポリマーあるいはこれらを組み合わせた複合材を挙げることができる。これら材料を公知の方法により成形加工して、テーパ状突起を有する義歯支台部と螺旋状の突起を有する歯根部とからなる人工歯根基材を用意する。【0016】コーティング材料としては、ハイドロキシアパタイトが用いられる。ハイドロキシアパタイト[組成式:Ca10(PO)4(OH)2]は、顎骨の骨組織の基本成分と同一もしくはこれに近い組成を有するものであり、優れた骨親和性を示す。【0017】人工歯根基材の少なくとも歯根部表面に、スパッタリング法によりハイドロキシアパタイトをコーティングする。スパッタリング装置内の所定位置に人工歯根基材、およびターゲットであるハイドロキシアパタイトを配置する。装置内を真空ポンプにより真空引きした後、アルゴンガスを装置内に導入して、アルゴン分圧が0.5〜5Paとなるようにする。次いで、スパッタリング用イオンビームを50〜150Wの放電電力でターゲットに照射すると、ターゲットのハイドロキシアパタイトが蒸発飛散して、人工歯根基材表面にはハイドロキシアパタイトが蒸着する。このとき、人工歯根基材を回転させながら蒸着を行うことにより、基材表面に均一にハイドロキシアパタイトを蒸着させることができる。また、人工歯根の歯根部表面にのみハイドロキシアパタイトを蒸着させる場合には、予め義歯支台部をアルミ箔などで覆っておくことが望ましい。【0018】なお、スパッタリングに先立って、ハイドロキシアパタイトの接着性を高めるために、前処理として、サンドブラスト法などによりアルミナやフッ素アパタイト鉱物の粉末を用いて人工歯根基材表面に微小の凹凸を設けておいてもよい。【0019】このようにして、人工歯根の外側表面にハイドロキシアパタイトのコーティング層を形成することができる。コーティング層の厚みは、一般に0.1〜5μmの範囲にある。【0020】次に、この人工歯根のコーティング層をリン酸カルシウム水溶液で処理する。リン酸カルシウム水溶液中のカルシウム/リンのモル比(Ca/P比)は、約1.5〜2.0の範囲にあることが好ましく、特には、ハイドロキシアパタイトのCa/P比と同じ1.67付近であることが好ましい。水溶液中のCa/P比がこれより大幅に低い、あるいは高いと、コーティング層中に別種のリン酸カルシウム化合物が生成する傾向にあるからである。また、リン酸カルシウム水溶液は、濃度が1質量%以下であることが好ましい。濃度が1質量%より高いと、コーティング層が剥がれる可能性がある。【0021】リン酸カルシウム水溶液処理は、人工歯根を上記水溶液中に数時間乃至数十時間浸漬することにより行う。処理温度は60〜120℃の範囲にあることが好ましい。この処理により、コーティング層中に混在するピロリン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、酸化カルシウムなどの不純物が、水と反応または溶解するなどして取り除かれて、実質的にハイドロキシアパタイトのみからなり、均質で緻密なコーティング層を得ることができる。なお、蒸留水による処理では、ハイドロキシアパタイト自体が溶解して、コーティング層が薄いために剥がれたり、あるいは消失したりすることになる。【0022】このようにして、ハイドロキシアパタイトからなる均質で、緻密な、薄膜のコーティング層を有する本発明の人工歯根を製造することができる。この人工歯根を顎骨内に埋設固定すると、ハイドロキシアパタイトの高い骨親和性によって、早い時期にコーティング層と骨組織との間に骨結合を生じさせて、人工歯根を顎骨内に堅固に固定することができる。また、コーティング層は薄膜であるので層内で亀裂や破壊が生じることがなく、そして人工歯根基材との接着強度が高いので、長期間に渡って安定して顎骨内に固定することができる。【0023】【実施例】[実施例1]人工歯根基材として直径4mmの棒状チタンを用意し、これをスパッタリング装置(SPF−210HS、アネルバ社製)内に配置した。ターゲットとしてハイドロキシアパタイトを装置内の所定位置に配置した。装置内を真空ポンプにより1×10-5Paの真空度にした後、この真空度を維持したままアルゴンガスを10ml/分の量で装置内に導入した。イオンビームを放電電力100W、放電圧力0.5Paにてターゲットに照射して、回転している人工歯根基材の表面全体にハイドロキシアパタイトを均一に蒸着させ、厚み1μmのコーティング層を形成した。【0024】このコーティング層をX線回折装置およびエネルギー分散蛍光X線分析装置を用いて解析したところ、コーティング層のうち約80%は、粒径100nm以下のハイドロキシアパタイト微粒子で構成されていたが、残りはピロリン酸カルシウム、リン酸三カルシウムおよび酸化カルシウムの副生成物からなる混合組成であった。【0025】次に、コーティングされた人工歯根を、カルシウム100ppmおよびリン30ppmを含む、温度100℃のリン酸カルシウム水溶液(Ca/P比=1.67)中に24時間浸漬した後、乾燥した。このようにして、リン酸カルシウム水溶液で処理されたハイドロキシアパタイトのコーティング層を有する本発明の人工歯根を得た。得られた人工歯根のコーティング層は、均質で緻密な結晶性ハイドロキシアパタイトに変化し、厚みも1μmで不変であった。【0026】[実施例2]実施例1において、コーティング層をカルシウムおよびリンをそれぞれ20〜100ppmの範囲で含む、温度が60〜120℃の範囲の各種のリン酸カルシウム水溶液を用いて処理したこと以外は実施例1と同様にして、本発明の人工歯根を得た。Ca/P比が1.5より低い水溶液で処理して得られた人工歯根は、コーティング層中にCa/P比の低いリン酸三カルシウムの若干量が混在していた。一方、Ca/P比が2.0より高い水溶液で処理して得られた人工歯根のコーティング層には、ハイドロキシアパタイト結晶が完全に均質には形成されていなかった。【0027】[比較例1]実施例1において、リン酸カルシウム水溶液による処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較のための人工歯根を得た。【0028】[比較例2]実施例1において、リン酸カルシウム水溶液の代わりに、蒸留水による処理を行なったこと以外は実施例1と同様にして、比較のための人工歯根を得た。また、蒸留水の温度を60〜120℃の範囲で変えて同様に処理を行った。得られた人工歯根のコーティング層についてX線分析を行ったところ、コーティング層は100%結晶性ハイドロキシアパタイトに変化していた。しかし、人工歯根はいずれも、コーティング層が部分的に溶解して、その厚みが1μm未満になり、また表面の所々で基材のチタン金属が露出していた。【0029】[比較例3]実施例1において、イオンビームの放電電力および放電圧力を変えてスパッタリングを行い、そしてリン酸カルシウム水溶液による処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較のための人工歯根を得た。得られた人工歯根は、コーティング層中のハイドロキシアパタイトが一部分解していた。【0030】[人工歯根の性能評価]1)人工歯根基材(チタン金属)との接着強度得られた人工歯根それぞれについて、コーティング層とチタン基材との接着強度をエポキシ樹脂を用いて引張り強度試験により測定した。【0031】2)骨との結合力得られた人工歯根それぞれを成犬の大腿骨に埋入した。1ヶ月後に、引張り強度試験を行い、骨と人工歯根との結合力を測定した。得られた結果をまとめて表1に示す。【0032】【表1】【0033】表1に示した結果から明らかなように、本発明のリン酸カルシウム水溶液処理した人工歯根(実施例1、2)は、未処理の人工歯根(比較例1)および蒸留水処理した人工歯根(比較例2)よりも、チタン金属基材との接着強度が大きく、また骨との結合力も強かった。そして、人工歯根の周囲は新生骨で覆われ、炎症生細胞は殆ど見られず、周囲の細胞と組織学的には略同一であった。特に、Ca/P比が1.67の水溶液で処理した、均質な結晶性ハイドロキシアパタイトのコーティング層を有する人工歯根(実施例1)は、基材との接着強度が最も大きかった。【0034】一方、骨と人工歯根との境界面を病理標本で組織学的に検査したところ、比較例3の人工歯根は、その周囲に炎症性細胞が多数認められ、骨との結合は殆ど見られなかった。これは、コーティング層中に酸化カルシウムなどの強アルカリ性物質が混在していたためと推定される。また、比較例1、2の人工歯根は組織学的には大きな差異が見られなかった。【0035】【発明の効果】本発明の人工歯根は、ハイドロキシアパタイトのコーティング層が均質で緻密であり、かつ薄膜であるので、人工歯根基材との接着強度が大きく、層内で亀裂や破壊が生じることがなく、そして骨との強い結合力を示す。従って、本発明の人工歯根は、顎骨内に埋設すると早期に堅固に、かつ長期間に渡って安定して固定され、これにより義歯を確実に支持固定することができる機能的で有用な人工歯根である。【図面の簡単な説明】【図1】本発明の人工歯根の代表的な構成を示す側面図である。【図2】図1のI−I線に沿った断面図である。【符号の説明】11 義歯支台部12 歯根部13 テーパ状突起14 螺旋状突起 義歯を支持する義歯支台部と顎骨内に埋設される歯根部とからなる人工歯根であって、少なくとも該歯根部の外側表面が、スパッタリング法によりハイドロキシアパタイトでコーティングされ、そしてリン酸カルシウム水溶液で処理されていることを特徴とする人工歯根。 リン酸カルシウム水溶液のカルシウム濃度とリン濃度がいずれも1質量%以下である請求項1に記載の人工歯根。 少なくとも歯根部の外側表面が、厚み0.1〜5μmの範囲でコーティングされている請求項1もしくは2に記載の人工歯根。 リン酸カルシウム水溶液の濃度が1質量%以下であって、かつカルシウム/リンのモル比が1.5〜2.0の範囲にある請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載の人工歯根。


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