生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_グルタミン酸高生産性納豆菌株およびそれを用いて作られるグルタミン酸高含有納豆
出願番号:2002100352
年次:2010
IPC分類:C12N 1/20,A23L 1/20,C12R 1/07


特許情報キャッシュ

三ッ井 陳 雄 田 村 正 紀 JP 4574103 特許公報(B2) 20100827 2002100352 20020402 グルタミン酸高生産性納豆菌株およびそれを用いて作られるグルタミン酸高含有納豆 旭松食品株式会社 000116943 勝沼 宏仁 100117787 中村 行孝 100091487 横田 修孝 100107342 伊藤 武泰 100111730 三ッ井 陳 雄 田 村 正 紀 20101104 C12N 1/20 20060101AFI20101014BHJP A23L 1/20 20060101ALI20101014BHJP C12R 1/07 20060101ALN20101014BHJP JPC12N1/20 AA23L1/20 109ZC12N1/20 AC12R1:07 C12N 1/00-7/08 A23L 1/20-1/201 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) 特開平03−254659(JP,A) 特開平08−275772(JP,A) 特開平11−253123(JP,A) 特開平10−262655(JP,A) Plant Cell Physiol.,1990年,Vol.31, No.3,p.325-331 千葉大学園芸学部学術報告,1990年,第43号,p.199-204 J.Bacteriol.,1993年 2月,Vol.175, No.3,p.892-897 J.Biol.Chem.,1987年,Vol.262, No.23,p.11038-11045 J.bacteriol.,1984年,Vol.157, No.2,p.612-621 New Phytol.,1991年,Vol.119,p.541-550 3 FERM P-18644 2003289853 20031014 8 20041102 水落 登希子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、納豆の旨味の主成分であるグルタミン酸の生産能が高い新規納豆菌の創製、並びに、その納豆菌を利用した、グルタミン酸含有量が高く、チロシン含有量が低い、美味しくて、かつ品質の安定した納豆を製造する方法に関するものである。【0002】【従来の技術】納豆は、大豆の煮豆に納豆菌を接種して発酵させて得られる日本独自の伝統食品である。取扱いが簡便で、安価な栄養食品であることに加えて、近年血栓症や骨粗鬆症の予防効果を有することが発見されて以来、需要の伸びが期待できる食品である。納豆の旨味の基は、納豆菌が産生する蛋白分解酵素によって大豆蛋白が分解されて生じるアミノ酸であるが、このアミノ酸の中でもグルタミン酸が旨味の中心であり、通常の納豆には100g当り50乃至150mg程度のグルタミン酸が含有されている。この観点から、納豆の旨味を増強することを目的とした研究が従来より種々報告されている。例えば、発酵時間と熟成時間を長くして大豆蛋白の酵素による分解を促進する方法や、特開平03−254659、特開平04−40889等に開示されているような、自然界からのスクリ−ニングや育種により蛋白分解酵素活性の強い納豆菌を開発して納豆を製造する方法等が報告されている。しかし、これらの方法で納豆の旨味の増強化を図った場合、いずれも、グルタミン酸ばかりでなく、ほとんどすべてのアミノ酸量が増加し、その結果、例えば、シャリの原因となるチロシンのような水に溶けにくいアミノ酸が、製品の保存中に結晶化して食感の劣化を引き起こしたり、或いは、苦みのあるペプチドが生成して味を悪くする等、マイナスの面が多々認められていた。このように、蛋白質の分解を促進して旨味を増強するという従来の方法には限度があり、よって、グルタミン酸を納豆100g当り150mg以上含有し、且つチロシン含量を、結晶化による食感の劣化が認め難くなる、納豆100g当り110mg以下とした、旨味が強くて品質の良い納豆の製造は、実際のところ非常に困難であるのが現状であった。【0003】【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の技術上の問題点を解決し、納豆需要の更なる拡大を図るために、品質の劣化を伴うことなく旨味が一段と増強された納豆を製造しうる技術を開発することを主な目的とする。【0004】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の目的に即して鋭意研究を重ねたところ、品質の劣化を生じさせることなく納豆中のグルタミン酸を増強する方法として、納豆の発酵中に、煮豆中に存在する糖から納豆菌によりグルタミン酸を生産させることを思考するに至った。従来の納豆菌では、糖からグルタミン酸を生産する能力は非常に低いので、まず、突然変異やスクリ−ニングの手段により、グルタミン酸の生産能が高い納豆菌の創製/育種を行い、次いで、こうして得られた納豆菌を実際に用いて、グルタミン酸を納豆100g当り150mg以上含有し、かつチロシン含量の低い、即ち、従来の納豆におけるチロシン含量或いはそれ以下である、品質の安定した納豆を製造することを種々試みたところ、下記の方法によるならば、所期の目的が達成されることがわかった。【0005】本発明者らは、まず、通常用いられている納豆菌を、蛋白源を全く含まない、糖、無機窒素源およびミネラルを含む最小液体培地で培養したところ、極少量ではあるがグルタミン酸が生産されることを確認した。このことから、納豆菌においてもグルタミン酸の合成経路が存在すると思考するに至り、更に、突然変異によりグルタミン酸アナログ耐性株を創製し、グルタミン酸生産能の増強化を種々試みた結果、親株として市販の納豆から分離した菌株を用いて、後述において詳説するような方法により、グルタミン酸高生産能を有する菌株を得ることに成功した。ここにおいて、グルタミン酸アナログとして、L−グルタミン酸−γ−メチルエステル、α−メチルグルタミン酸、β−ヒドロキシグルタミン酸、メチオニンスルホキシミン、グルタミン酸−γ−モノヒドロキサメ−ト、2−アミノ−4−ホスホノ酪酸、L−グルタミン酸−γ−モノエチルエステル、L−グルタミン酸ジメチルエステル、L−グルタミン酸−ジ−t−ブチルエステル、モノフロログルタミン酸、L−グルタミン酸ジエチルエステル、D−グルタミン酸等、納豆菌の生育を抑制するが、L‐グルタミン酸が併存すれば生育抑制が解除される様な物質を試みた。よって、本発明は、第一義的に、グルタミン酸アナログに耐性を有し、かつグルタミン酸高生産能を有する納豆菌株を提供するものである。上記の納豆菌を、通常の納豆製造条件下で用いて実際に納豆を製造させたところ、旨味の成分であるグルタミン酸を大量に含有していても、品質を劣化させるチロシンなどの難水溶性のアミノ酸の含量が低く、即ち、従来の納豆における程度或いはそれ以下であり、また、苦味ペプチドによる苦味も少ない、美味しくて、品質の安定した納豆が得られることを確認した。よって、本発明は、第二義的に、納豆を製造するに際して、グルタミン酸アナログに耐性を有し、かつグルタミン酸高生産能を有する納豆菌株を用いることを特徴とするグルタミン酸高含有納豆の製造方法を提供するものである。また、本発明は、このような製造方法により得られるグルタミン酸高含有納豆を提供するものである。【0006】【発明の実施の形態】以下、本発明を詳しく説明する。I.突然変異作出手段市販の納豆菌を親株としてLB培地(トリプトン10g、酵母エキス5g、食塩5gおよび純水1L:pH6.8)で前培養し、5mlのLB培地を入れた試験管にこの前培溶液50μlを接種し、37℃、120rpmで2時間振盪培養する。次いで、遠心機で集菌した菌体をトリス・マレイン酸緩衝液〔トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 6.1g、 マレイン酸 5.8g、 MgSO4・7H2O 0.1g、 クエン酸ナトリウム0.5gおよび純水1L:pH6.0〕で3回洗浄後、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)溶液(最終濃度300μg/ml)に再懸濁し、30℃で30分間静置して変異処理を行う。なお、変異株の作出は、エチルエタンスルホン酸(EMS)等の化学的な方法、紫外線やX線照射等の物理的な処理、遺伝子工学的な手法等を用いて実施することも可能であり、特に限定されるものではない。【0007】変異処理後の菌体はLB培地で2回洗浄後、5mlのLB培地に再懸濁し、37℃で一晩振盪培養を行う。翌朝、Spizzen最少培地〔(NH4)2SO42g、K2HPO4 14g、KH2PO4 6g、クエン酸ナトリウム1g、MgSO4 0.2g、グルコ−ス 5g、ビオチン 0.1mgおよび純粋1L:pH6.8〕で3回洗浄後、適当量を、メチオニンスルホキシミンまたはL−グルタミン酸−γ−メチルエステルを100μg/ml含むSpizzen最少寒天培地にプレ−ティングし、37℃で3日間の培養により生育してきたコロニ−をグルタミン酸アナログ耐性株として取得する。なお、ここにおいて、グルタミン酸アナログとしては、L−グルタミン酸−γ−メチルエステル、α−メチルグルタミン酸、β−ヒドロキシグルタミン酸、メチオニンスルホキシミン、グルタミン酸−γ−モノヒドロキサメ−ト、2−アミノ−4−ホスホノ酪酸、L−グルタミン酸−γ−モノエチルエステル、L−グルタミン酸ジメチルエステル、L−グルタミン酸−ジ−t−ブチルエステル、モノフロログルタミン酸、L−グルタミン酸ジエチルエステル、D−グルタミン酸等、納豆菌の生育を抑制するが、L−グルタミン酸が併存すれば生育抑制が解除される様な物質から選ばれる少なくとも1つであればよく、特に限定されるものではない。【0008】これら耐性株を、いずれも2倍濃度のSpizzen最小液体培地で、37℃の条件下1日間振盪培養した後、培養液中のグルタミン酸濃度を、F−キット L−グルタミン酸(J.K.インターナショナル製)を用いて測定し、コントロ−ルの親株よりも多くL−グルタミン酸を生産した株を、グルタミン酸高生産性菌株とする。これらグルタミン酸高生産性菌株を使用して、常法に従い納豆を製造し、白粉のかぶり、糸引き、味の官能評価を行い、また、同時に10℃で保存試験を行い、経時的にシャリの発生(結晶の発生)を官能評価し、変異株の選抜を行う。これらグルタミン酸高生産性菌株のうち最もグルタミン酸を多く生産し、納豆の品質のよかったものを、目的を達成した変異株とする。【0009】II.変異体の同定後述の実施例で示すように、上記の方法に従って、グルタミン酸アナログに耐性を示し、グルタミン酸生産能が従来の3倍以上も増強された変異株DG1199 株が得られた。この菌株は、グルタミン酸アナログに耐性であること以外の菌学的性質は、市販の納豆菌のもの〔食総研報(Rep.Natl.Food Res.Inst.)No.50,18〜21(1987)および大豆月報、12月号、21〜29(1985)参照〕と大差はなかった。即ち、この変異株DG1199は、好気性、グラム染色陽性の桿菌であり、菌(栄養細胞)の大きさ(1×2〜3μm)、生育適温(35〜45℃)、各種の糖の発酵性、DNAのGC含量等の性質がBergey´s Manual 8版の枯草菌(Bacillus subtilis)の性質と一致しており、かつ粘質物を生成し、ビオチン要求性であること、及び、納豆菌のファ−ジに対して感受性であることから、いわゆる納豆菌(Bacillus natto)に属しているものである。このDG1199株 (Bacillus sp.DG1199)は、平成13年11月29日、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、 FERM P−18644号として寄託されている。【0010】【実施例】以下、本発明を実施例をもってさらに詳しく説明する。実施例1市販の納豆種菌(宮城野納豆製造所製)から良質の納豆を作る菌株を分離し、親株とした。この親株をLB培地で前培養し、5mlのLB培地を入れた試験管にこの前培溶液50μlを接種し、37℃、120rpmで2時間振盪培養した。次いで、遠心機で集菌した菌体をトリス・マレイン酸緩衝液で3回洗浄後、NTG溶液(最終濃度300μg/ml)に再懸濁し、30℃で30分間静置して変異処理を行った。変異処理後の菌体はLB培地で2回洗浄後、5mlのLB培地に再懸濁し、37℃で一晩振盪培養を行った。翌朝、Spizzen最少培地で3回洗浄後、適当量をメチオニンスルホキシミン100μg/mlを含むSpizzen最少寒天培地にプレ−ティングし、37℃で3日間培養した。このプレ−トからグルタミン酸アナログ耐性株DLS342、DLS404、DG1199を得た。また、同様に、L−グルタミン酸−γ−メチルエステル100μg/mlを含むSpizzen最少寒天培地から、M54、M65株を得た。これら耐性株を、いずれも2倍濃度のSpizzen最小液体培地で、37℃の条件下1日間振盪培養した後、培養液中のグルタミン酸濃度を測定した。その結果を、下記の表1に示す。【0011】【表1】【0012】実施例2実施例1で取得したグルタミン酸高生産性菌株のうち最も多く(培地100ml当り29.2mg)グルタミン酸を生産したDG1199株を、20%大豆煮汁寒天培地の試験管スラントで培養し、保存した。この試験管スラントから1白金耳の胞子をかき取り、200mlの滅菌水に懸濁し、80℃程度の熱い蒸煮大豆に噴霧した。この蒸煮大豆を小型の発泡スチロ−ル容器に入れ、大豆の上を薄いポリエチレンフィルムで覆い、蓋をして40℃で18時間発酵させた後、4℃で1日間熟成させた。こうして出来上がった納豆は、白粉のかぶりがきれいで、糸引きも良く、強い旨味を有していた。また、この納豆のアミノ酸組成を分析したところ、下記の表2に示すように、グルタミン酸は納豆100g当り210mgで、親株の納豆に比べ非常に高かったが、チロシンは納豆100g当り102.5mgで、親株の112.0mgと大差はなかった。次いで、この納豆を10℃に保存して品質の変化を調べたところ、チロシンの結晶化による食感の劣化は17日目に起こり、親株の納豆と変わらなかった。【0013】【表2】【0014】実施例3親株、DG1199、および、蛋白分解酵素活性の強い納豆菌株NN−1(特開平03−254659)を使用して、実施例2と同様にして納豆を製造した。ただし、発酵時間は17時間とした。また、4℃での熟成は2日間とし、その後10℃に保存して保存試験を行った。熟成終了後の納豆中の遊離アミノ酸の量をアミノ酸分析装置で分析してみたところ、下記の表3に示すような結果が得られた。すなわち、DG1199は親株と比べると、グルタミン酸のみが特に増加しているのに対して、NN−1は遊離アミノ酸が全体的に増加している。また、10℃での保存中にシャリの発生の有無を観察した結果を、下記の表4に示す。この表から明らかなように、NN−1では、7日目当たりからシャリの発生が確認され始め、10日目では明らかに確認されているのに対して、親株、DG1199では、25日目になって初めて食感の変化が認められている。シャリの発生はチロシンの結晶化に起因すると一般的に考えられている。NN−1では遊離アミノ酸全体が増えてしまうため、シャリの発生の原因となるチロシンも増加してしまい、その結果、シャリの発生が他の株の場合よりも早く起きてしまうと考えられる。【0015】【表3】【0016】【表4】【0017】【発明の効果】納豆菌変異株DG1199株で作った納豆は、旨味の成分であるグルタミン酸を納豆100g当り150mg以上、好ましくは200mg以上含有するため、美味しく、また、シャリの原因となるチロシン含量は従来の納豆と同程度、或いはそれ以下であることから、品質も安定である。よって、このような納豆は消費者に好まれると考えられることから、納豆の消費及び市場の拡大、即ち、納豆需要の更なる拡大が期待できる。 グルタミン酸アナログであるメチオニンスルホキシミンに耐性を有する、グルタミン酸高生産性変異株DG1199(Bacillus sp. DG1199)FERM P−18644。 納豆を製造するに際して、請求項1に記載の変異株を納豆菌株として使用することを特徴とするグルタミン酸高含有納豆の製造方法。 請求項2に記載の製造方法により得られるグルタミン酸高含有納豆。


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