タイトル: | 特許公報(B2)_多コピー型・ゲノム挿入型の選択両用ベクター |
出願番号: | 2002081360 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12N 15/09 |
吉田 稔 松山 晃久 JP 4049364 特許公報(B2) 20071207 2002081360 20020322 多コピー型・ゲノム挿入型の選択両用ベクター 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 廣田 雅紀 100107984 吉田 稔 松山 晃久 20080220 C12N 15/09 20060101AFI20080131BHJP JPC12N15/00 A C12N15/00-15/90 PubMed BIOSIS/WPI(DIALOG) JSTPlus(JDream2) GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq 特開2000−262284(JP,A) 10 2003274958 20030930 21 20040913 池上 文緒 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、目的遺伝子の過剰発現に適した多コピー型のベクターとして、あるいは、目的遺伝子の細胞当たりの発現量を精確に把握するのに適したゲノム挿入型のベクターとして使用することができる選択両用ベクターに関する。【0002】【従来の技術】安価な培地で生育が可能な酵母は、動物細胞と比較して分裂速度が速く、また細菌と比較して翻訳後修飾が動物細胞と類似していることから、組換えDNA技術による蛋白質産生の宿主として注目を集め、従来、種々の酵母を宿主とした発現系が報告されている(Yeast, 8, 423-488, 1992)。分裂酵母であるシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)は、出芽酵母であるサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)と同様に、その遺伝的及び分子的アプローチの容易さから真菌一般のモデル生物として広く利用されている上に、特に細胞周期、染色体の構造、RNAスプライシング、産生タンパク質のアセチル化・リン酸化、翻訳後修飾などが動物細胞に類似し(Cell, 45, 781-782, 1986; Nature, 318, 78-80, 1985; Cell. Biol., 109, 2693-2702, 1989)、このため、動物細胞由来のタンパク質を発現させる宿主として、すでに実用化段階に達している。【0003】【発明が解決しようとする課題】分裂酵母では、研究対象の遺伝子を細胞に導入し発現させるためのベクターとして様々なものが作製されている。これらは主として染色体外でプラスミドとして保持される多コピー型のものであり(Gene, 221, 59-68, 1998; Gene, 191, 191-195, 1997; Gene, 164, 173-177, 1995; Yeast, 18, 463-468, 2001; Yeast, 16, 861-872, 2000)、これら多コピー型のベクターを用いて目的遺伝子を発現させることにより、ある変異の抑圧や遺伝子の過剰発現による影響、あるいは遺伝子産物の局在観察などが行われてきた。これら多コピー型のベクターは目的遺伝子の過剰発現や遺伝子産物の検出などが容易になるという利点を有するものの、場合によってはその発現量が正しい生理的現象を反映せず、誤った実験結果を導くこともよく見うけられる。【0004】一方、最近、プラスミドを一カ所だけ制限酵素で消化し、その直鎖状のDNA断片を酵母に導入すると、制限酵素で消化した部分の周辺のDNA配列と相同なゲノム上のDNA部分との間で相同組換えが起こり、導入した断片がゲノムに挿入されることが明らかにされた(Gene, 123, 127-130, 1993)。このようにしてゲノムに挿入された遺伝子断片は細胞内でのコピー数が必ず1に限定されるため、遺伝子の過剰発現の目的には適さないが、細胞ごとのばらつきがほとんどなくなり、安定した実験結果が得られるという利点がある。【0005】最近、分裂酵母シゾサッカロミセス・ポンベの全ゲノム構造解析が終了した(Nature 415, 871-880, 2002)。かかる構造解析により、塩基配列が決定されても遺伝子発現産物のうちデータベースを利用した相同タンパク質の検索などにより、機能が推定できる遺伝子は極めて少なく、また、実際に細胞内において発現、機能しているタンパク質の多くは細胞の状態によって、その発現量の変化や翻訳後修飾によって様々に変動する。そこで、全遺伝子発現産物の機能や発現部位・時期等について、得られた配列情報に基づいて予測されているすべての遺伝子をクローニングし、得られたDNAを、蛍光性タンパク質GFP遺伝子に連結しうる多コピー型のベクターを利用して解析を進めたところ、遺伝子産物を容易に検出することができるが、発現量が正しい生理的現象を反映しないことがしばしば観察され、他方、ゲノム挿入型のベクターを用いると、細胞ごとのばらつきがほとんどなくなり、安定した実験結果が得られることがわかった。被検遺伝子の数が少ない場合は、多コピー型のベクターとゲノム挿入型のベクターとの両ベクターに被検遺伝子をクローニングする作業負担は少ないが、被検遺伝子の数が数千に及ぶと、多コピー型のベクターとゲノム挿入型のベクターとの両ベクターに被検遺伝子をクローニングする作業負担がきわめて大きくなる。そして、この両ベクターに被検遺伝子をクローニングする作業負担が遺伝子の機能解析上大きな問題となっていた。【0006】本発明の課題は、目的遺伝子の過剰発現に適した多コピー型と、目的遺伝子の細胞当たりの発現量を精確に把握するのに適したゲノム挿入型とを容易に選択することができる選択両用ベクター、例えば、そのまま細胞に導入した場合には細胞内で多コピー型として保持されるが、導入前に制限酵素で処理することにより、染色体上の所定の遺伝子座に挿入されるゲノム挿入型に変換することができる選択両用ベクターを提供することにある。かかる選択両用ベクターを用いると、形質転換体をそれぞれ異なる選択マーカーで選択することにより、例えば、制限酵素による消化の有無と形質転換後の選択培地を組み合わせることによって、多コピー型とゲノム挿入型の二つのタイプを容易に選択することができ、ひいては被検遺伝子をクローニングする作業負担を大幅に軽減できる。【0007】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、そのまま細胞に導入した場合には細胞内で多コピー型として保持されるが、導入前に制限酵素(Not I, Sac II又はApa I)で処理することにより、染色体上のleu1遺伝子座に挿入することができるベクターを用いて、分裂酵母シゾサッカロミセス・ポンベを形質転換すると、かかる形質転換体はそれぞれ異なる栄養要求性マーカーで選択するため、制限酵素による消化の有無と形質転換後の選択培地を組み合わせることにより、多コピー型とゲノム挿入型の二つのタイプを容易に選択することができ、分裂酵母で汎用されるベクターの二つの利点を一つのベクターで利用できることを見い出し、本発明を完成するに至った。【0008】 すなわち本発明は、(1)切り出し可能なARSに連結された第1選択マーカー遺伝子と、宿主細胞のゲノムDNAとの間で相同組換え可能な分断された状態の第2選択マーカー遺伝子とを備え、該第2選択マーカー遺伝子の3’側DNA断片は第2選択マーカー遺伝子機能欠失処理が施されており、前記宿主細胞は第2選択マーカー遺伝子機能をゲノム上で欠失しており、かつ、前記ARSに連結された第1選択マーカー遺伝子を切り出すと、ゲノム挿入型とすることができ、前記ARSに連結された第1選択マーカー遺伝子を切り出さないと、多コピー型とすることができることを特徴とする選択両用ベクターや、(2)ARSに連結された第1選択マーカー遺伝子が、制限酵素認識部位を介して第2選択マーカー遺伝子を分断していることを特徴とする上記(1)記載の選択両用ベクターや、(3)第2選択マーカー遺伝子が、leu1遺伝子であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の選択両用ベクターや、(4)宿主細胞のゲノム上のleu1遺伝子が、leu1−32変異を有していることを特徴とする上記(3)記載の選択両用ベクターや、(5)宿主細胞が、真核細胞であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の選択両用ベクターや、(6)真核細胞が、酵母であることを特徴とする上記(5)記載の選択両用ベクターや、(7)酵母が、シゾサッカロミセス・ポンベであることを特徴とする上記(6)記載の選択両用ベクターや、(8)分断された状態の第2選択マーカー遺伝子が、その5’側DNA断片にプロモーター領域を含むことを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれか記載の選択両用ベクターや、(9)目的遺伝子のクローニング部位を有することを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれか記載の選択両用ベクターに関する。【0009】 また本発明は、(10)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、又はこれらの配列の一部若しくは全部を含む配列からなり、かつ選択両用ベクター機能を備えたDNAに関する。【0010】【発明の実施の形態】本発明の選択両用ベクターとしては、切り出し可能なARS(自律複製配列)に連結された第1選択マーカー遺伝子と、宿主細胞のゲノムDNAとの間で相同組換え可能な分断された状態の第2選択マーカー遺伝子とを備え、前記ARSに連結された第1選択マーカー遺伝子の切出しの有無により、多コピー型とゲノム挿入型とを選択することができるベクターであれば特に制限されるものではなく、ARSに連結された第1選択マーカー遺伝子の切出しをしない場合、ARSにより宿主細胞内で自律的に増殖しうるタイプの多コピー型ベクターとして選択・利用することができ、ARSに連結された第1選択マーカー遺伝子の切出しをする場合、宿主細胞のゲノムDNAとの間で相同組換え可能なゲノム挿入型ベクターとして選択・利用することができる。【0011】上記ベクターの種類としては、例えば、プラスミド、ファージミド、コスミド、ウイルス等を例示することができる。また、上記ARSとしては、細胞中で染色体に組み込まれず複製を自律的に続けることができる複製開始点(ori領域)を含むDNA断片であればどのようなものでもよく、大腸菌oriC、酵母ARS、大腸菌oriC、出芽酵母2μ、分裂酵母ars1、糸状菌AMA1等を例示することができる。【0012】上記宿主細胞としては、ARSによりベクターを自律複製させることができ、かつ、ゲノムDNAと相同のDNA配列との間で相同組換えを可能とする細胞であれば特に制限されるものではなく、大腸菌、枯草菌細菌等の細菌原核細胞や、酵母、アスペルギルス等の真核細胞や、CHO細胞、COS細胞等の動物細胞や、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞や、植物細胞などを例示することができるが、カビ、酵母等の真核細胞が好ましく、中でもシゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)に属する分裂酵母が好ましく、特にシゾサッカロミセス・ポンベ(S.pombe)が好ましい。これら宿主細胞へのベクターの導入は、Davisら(BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, 1986)及びSambrookら(MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)などの多くの標準的な実験室マニュアルに記載される方法、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング (scrape loading)、弾丸導入(ballistic introduction)、感染等により行うことができる。【0013】本発明における第1選択マーカー遺伝子と第2選択マーカー遺伝子は異なるマーカー遺伝子であり、かかるマーカー遺伝子としては、抗生物質等の薬剤耐性遺伝子や、栄養要求マーカー遺伝子等のレシピエント細胞における欠失産物をコードするDNAを挙げることができ、上記薬剤耐性遺伝子としては、ネオマイシン、カナマイシン、パロモマイシンの耐性遺伝子であるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ、G418耐性遺伝子であるアミノグリコシドホスフォトランスフェラーゼ遺伝子、ハイグロマイシンB耐性遺伝子であるハイグロマイシンBホスフォトランスフェラーゼ遺伝子などを例示することができる。特に、酵母選択マーカー遺伝子としては、上記の抗生物質耐性遺伝子の他、leu1、LEU2、HIS3、URA3、ura4等の栄養要求マーカー遺伝子を例示することができる。これら選択マーカー遺伝子と選択培地を組み合わせることによって、選択マーカー遺伝子を発現する細胞を選択することができる。【0014】本発明の選択両用ベクターは、ARSに連結された第1選択マーカー遺伝子を切出しできるように構築されている。かかる切出しには、各種制限酵素を使用する方法や部位特異的な組換え方法を用いることができる。部位特異的な組換えには、バクテリオファージP1由来のリコンビナーゼCre/loxP配列、出芽酵母サッカロミセス・セレビッシェ由来のリコンビナーゼFLP/FRT配列、醤油酵母チゴサッカロミセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)由来のリコンビナーゼR/RS配列、バクテリオファージMu由来のリコンビナーゼGin/gix配列等を用いることができる。【0015】本発明の選択両用ベクターの好適な態様として、ARSに連結された第1選択マーカー遺伝子が、制限酵素認識部位を介して第2選択マーカー遺伝子を分断しているベクターを挙げることができる。この場合、分断された状態の第2選択マーカー遺伝子の5'側DNA断片にプロモーター領域を含むものが、相同組換え後の第2選択マーカー遺伝子の高発現の点で好ましい。このプロモーター領域の上流にターミネーター配列を連結させ、第2選択マーカー遺伝子の高発現が影響されないようにしておくこともできる。また、分断された状態の第2選択マーカー遺伝子の3'側DNA断片としては、相同組換えが生起しうる範囲で、3'側末端を削除したり、読み枠をずらしたりして、第2選択マーカー遺伝子機能を欠失させる処理を施こしておくことが、第1選択マーカー遺伝子の切り出し前のベクター上で第2選択マーカー遺伝子が機能する可能性を排除する点で、また、相同組換え後の宿主細胞において、1つの第2選択マーカー遺伝子を再構築させる点で好ましい。同様に、相同組換え後の宿主細胞において、1つの第2選択マーカー遺伝子を再構築させる目的で、宿主細胞として、点変異など第2選択マーカー遺伝子機能がゲノム上で欠失しているものを用いることもできる。【0016】本発明の選択両用ベクターには、目的遺伝子のクローニングサイトを設けておくことが好ましく、このクローニングサイトをGFP遺伝子等の蛍光蛋白質遺伝子の3'側末端に設けておくことにより、目的遺伝子の発現産物の局在観察が可能となる。そして、分裂酵母シゾサッカロミセス・ポンベに好適に用いることができる本発明の選択両用ベクターとして、配列番号1に示される塩基配列からなるpDUALを具体的に例示することができるが、配列番号1の配列の一部又は全部を含む配列からなり、かつ選択両用ベクター機能を備えたDNAもpDUAL同様に好適に用いることができる。【0017】【実施例】以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこの実施例によって何ら制限されるものではない。実施例A(材料と方法)A−1(使用した分裂酵母菌株等)野生株としてシゾサッカロミセス・ポンベJY3(h90 wild-type)、ロイシン要求株としてシゾサッカロミセス・ポンベJY265(h- leu1-32)、及びウラシル・ロイシン・アデニン要求株としてシゾサッカロミセス・ポンベJY745(h+ ura4-D18 leu1-32 ade6-M216)を用いた。これら分裂酵母菌株は、東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻山本正幸博士から供与されたものを用いた。また、これらの分裂酵母菌株に使用する培地として、通常の分裂酵母の培養・増殖にはYE完全培地[Yeast extract;0.5%(w/v)、グルコース;2%(w/v)]を、アミノ酸類が含まれておらず、菌株の栄養要求性のチェックや形質転換体の選択にはSD合成選択培地[Yeast nitrogen base w/o amino acids;0.67%(w/v)、グルコース;2%(w/v)]をそれぞれ使用した。なお、栄養要求性株の培養の際にはアデニン、ロイシン又はウラシルをそれぞれ終濃度50 μg/mlになるように添加して用いた。そしてまた、市販品以外のベクターであるpFA6a-3HA-kanMX6とpREP2は東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻山本正幸博士から供与されたものを用いた。【0018】A−2(分裂酵母の形質転換)分裂酵母の形質転換は文献(Genetics, 155, 539-549, 2000)に記載されている方法によって実施した。すなわち、分裂酵母菌株をYE完全培地で培養した、対数増殖期以降の細胞を使用した。遠心分離により細胞を回収し、50μLの0.1Mの酢酸リチウム、pH5.0に再懸濁した。直後にサンプルDNA、サケ精子DNA、及び150μLの50%(v/v)ポリエチレングリコール(PEG4000)を細胞懸濁液に添加し、かかる混合液を室温で少なくとも30分間インキュベーションした。20μLのジメチルスルフォキシドを添加した後、細胞を42℃にて15分間加熱し、遠心沈殿し、H2Oに再懸濁して、適切な選択培地に蒔いた。得られた形質転換体はSD培地で選択した。【0019】A−3(プラスミドの作製に用いたオリゴDNA)PCRによるDNA断片の増幅の際には、Pyrobest DNA Polymerase(TaKaRa)を用いた。また、DNA断片の連結にはLigation High(TOYOBO)を用いた。PCRによるDNA断片の増幅には、以下のプライマーを用い、95℃で3分間変性させた後、95℃で15秒間変性させ、50℃で15秒間アニーリングし、72℃で2分30秒間(leu1-32変異遺伝子を分裂酵母ゲノムDNAから増幅する場合のみ1分間)伸長反応させるというサイクルを25回繰り返し、最後に72℃で3分間伸長反応を行うという条件下に実施した。【0020】(プライマー)SPBC1A4.02c.Fd;(配列番号2)5'-AAAAAGCAGGCTCTCATATGTGTGCAAAGAAAATCGT-3'SPBC1A4.02c.Rv;(配列番号3)5'-AGAAAGCTGGGTACAAAATTTTTTCAAGTTCT-3'BamHI-Tadh-F;(配列番号4)5'-TTCCCGGGATCCGGCGCGCCACTTCTAAATAAGCG-3'SpeI-Tadh-R;(配列番号5)5'- GGGTCGACTAGTATATTACCCTGTTATCCCTAGCGG-3'SpeI-P-leu1-F;(配列番号6)5'-GGGTCGACTAGTAAGATGATTCTTTTATCGTCGATAACG-3'NotI-leu1(5')-R;(配列番号7)5'-TTGCATGCGGCCGCCAAACGAGCAATACGAGAAACTTC-3'NotI-ApaI-ars1-F;(配列番号8)5'-TGCATGCGGCCGCGGGCCCAACCTTCCAATTCATTAAATCG-3'NotI-ApaI-ura4-R;(配列番号9)5'-TTGCATGCGGCCGCGGGCCCAACACCAATGTTTATAACC-3'NotI-leu1(3')-F;(配列番号10)5'-TTGCATGCGGCCGCTTAGCTGAAACTTCCAACCCTCC-3'SacI-leu1(delta3)-R;(配列番号11)5'-GGTCTAGAGCTCGGGAGCGCTACCGTGAATGGGCTC-3'【0021】実施例B(結果)B−1(leu1-32の変異点の解析)宿主細胞(JY745)におけるleu1遺伝子(第2選択マーカー遺伝子)の変異点、すなわちleu1-32変異遺伝子の変異点を決定するために、leu1-32変異株(JY265)のゲノムDNAを鋳型、SPBC1A4.02c.Fd及びSPBC1A4.02c.Rv をプライマーとしてPCRをおこない、leu1遺伝子全長を増幅して、大腸菌ベクターpDONR201(Invitrogen)にクローニングした。このleu1-32変異遺伝子断片の塩基配列を確認したところ、137番目のグアニン(G)がアデニン(A)に置換していた(図1)。【0022】B−2(選択両用ベクターpDUALの構築)上記結果に基づき、ゲノム上のleu1遺伝子座位に相同組換えで挿入される際に必要なプラスミド上の配列とゲノム上のleu1遺伝子のオーバーラップする部分として、138番目の塩基(A)より下流の領域約740塩基対を組換え用の配列とし、この断片のほぼ中央に当たる位置(塩基520付近)に組換えを促進する制限酵素Not Iの認識配列を作製することとした。また、正しくleu1遺伝子座位で組換えが生じ、ゲノムに挿入された際は、外部から導入したDNAに含まれている配列に依存してleu1遺伝子の転写がおこなわれるようになるため、leu1遺伝子の発現に必要なプロモーター配列としてleu1遺伝子の開始コドンATGの上流約710bpを含む配列をクローニングして用いることとした。さらに、本プロモーター配列はプラスミド上でも機能することが十分予想されたので、このプロモーターによって発現するleu1が機能してしまうことを防ぐため、leu1遺伝子内部に作製した制限酵素部位の配列でleu1の読み枠をずらし、正しいleu1遺伝子産物が生じないようにした他、プラスミド上のleu1遺伝子の3'末端を欠失させることで、さらにプラスミド上のleu1が機能する可能性を排除した(図1)。【0023】次に、分裂酵母の野生型株JY3より、leu1遺伝子断片をそれぞれPCRプライマーとしてSpeI-P-leu1-F及びNotI-leu1(5')-R、又はNotI-leu1(3')-F及びSacI-leu1(delta3)-Rを用いて二つの断片に分けてPCRで増幅した。これらのPCR断片をアガロースゲル電気泳動した後、ゲルから切り出して精製し、それぞれを制限酵素Spe I及びNot I、又はNot I及びSac Iを用いて末端を消化した後、一度に大腸菌ベクターpBluescriptII-SK(-)(STRATAGENE)のSpe I-Sac I部位にクローニングした。これとは別にpFA6a-3HA-kanMX6プラスミド(Yeast, 14, 943-951, 1998)を鋳型として、BamHI-Tadh-F及びSpeI-Tadh-RをPCRプライマーとしてADHターミネーターを増幅し、アガロースゲル電気泳動した後に制限酵素Bam HI及びSpe Iで消化した。先にクローニングしておいた内部にNot I部位を含むleu1遺伝子断片をSpe I及びSac Iで消化して切り出し、上述のADHターミネーターと共に大腸菌ベクターpUC119(TaKaRa)のBam HI-Sac I部位にクローニングした。【0024】leu1遺伝子内部のNot I認識部位に挿入するura4-ars1断片(ARSに連結された第1選択マーカー遺伝子)は以下のようにして作製した。まず、分裂酵母ベクターpREP2(J. Bacteriol. 146, 746-754, 1993)を制限酵素Sph I及びSac Iで消化した後、Klenow Fragmentを用いてDNAの末端を平滑化し、再度連結することにより、ura4とars1が連続的に存在するプラスミドを作製した。このプラスミドを鋳型とし、NotI-ApaI-ars1-F及びNotI-ApaI-ura4-Rをプライマーとして用いたPCRによりura4-ars1断片を増幅した。このDNA断片をアガロースゲル電気泳動した後、ゲルから切り出すことにより精製し、制限酵素Not Iで消化した。このNot I消化DNA断片を上述のプラスミドのNot I部位に挿入することにより、目的のプラスミドベクターpDUALを作製した(図1)。【0025】B−3(選択両用ベクターpDUALによる分裂酵母の形質転換)宿主細胞として、ウラシル・ロイシン・アデニン要求株であるシゾサッカロミセス・ポンベJY745を用いた。作製したプラスミド(pDUAL)を、そのまま(ARSに連結された第1選択マーカー遺伝子を切り出すことなく)宿主細胞に導入した場合はウラシル要求性を相補してウラシル非要求性となり、あらかじめ制限酵素で消化した場合はロイシン要求性を相補してロイシン非要求性となるかどうかを確認した。pDUALベクターは、制限酵素Not I、Apa I、Sac IIのいずれかで消化することによりura4-ars1断片が切り出され、相同組み換えを生起するleu1遺伝子断片が分断された直鎖DNA断片に変化する(図2)。このDNA断片を宿主細胞に導入した場合、leu1-32変異遺伝子の変異点(G137A)よりも3'末端側でゲノム上のleu1遺伝子座位と相同組換えを起こした形質転換体がロイシン非要求性となることが期待される。pDUALベクターのDNAを上記の制限酵素で消化し、プラスミド上のleu1断片に挿入されていたura4-ars1が切り出されてくることをゲル電気泳動で確認した(図3)。【0026】上記制限酵素の未処理物(None)と処理物(Not I又はApa I)を用いて宿主細胞を形質転換した。それぞれの形質転換細胞を、ウラシルを含まない選択培地(SD ade leu)又はロイシンを含まない選択培地(SD ade ura)に蒔いて、30℃で3日間培養した(図4)。ロイシンを含まない選択培地においては、制限酵素で消化しなかった場合は、ロイシン非要求性の形質転換体は出現せず、制限酵素処理をおこなった場合のみ、ロイシン非要求性形質転換体が出現した(図4左)。他方、ウラシルを含まない培地においては、制限酵素処理の有無に関わらずウラシル非要求性の形質転換体が出現したが、これはおそらく切断によって生じたura4-ars1断片がランダムにゲノムに挿入されたためと考えられる。このようなマーカー遺伝子断片は、ランダムなゲノムへの挿入を利用して突然変異株(遺伝子破壊株)の単離などに用いられているが(Nucleic Acids Research, Vol. 28, No. 11, 2000)、得られたロイシン非要求性の形質転換体にランダムにura4-ars1断片が挿入されてしまうことは望ましくない。【0027】そこで、得られたロイシン非要求性形質転換体のゲノムにura4遺伝子が挿入されているかどうかを形質転換体のウラシル要求性によってチェックした。上記形質転換体から、ロイシン非要求性又はウラシル非要求性の少なくとも100株以上をそれぞれ適当に選び、ウラシルを含まない培地(SD ade leu)とロイシンを含まない培地(SD ade ura)に蒔いて、30℃で3日間培養した(図5)。ロイシン非要求性株はウラシルを含まない培地では生育が認められなかったが、ロイシンを含まない培地では生育が認められた(図5下)。この結果から、制限酵素処理後のpDUALベクターで形質転換した宿主細胞のゲノムには、ura4(-ars1)断片が挿入されていないことが判明した。他方、ウラシル非要求性株はロイシンを含まない培地では生育が認められなかったが、ウラシルを含まない培地では生育が認められた(図5上)。この結果から、制限酵素処理後のpDUALベクターで形質転換した宿主細胞では、leu1遺伝子座位への挿入とura4断片のランダムな挿入が同一株中では起こっていないことが判明した。なお、Sac IIで切断したDNAを用いた場合でも同様の結果が得られた。これらの結果は、pDUALベクターを制限酵素で消化した際に生じるura4-ars1断片は、宿主細胞の形質転換前に除去する必要がないことを意味している。なお、ura4遺伝子配列内部にのみ存在する制限酵素Stu Iの認識部位を予めStu Iによって消化することにより、あるいは、制限酵素処理物からura4-ars1断片をあらかじめ除去することにより、ura4遺伝子がゲノムへ挿入して機能しないようにすることができる。【0028】【発明の効果】本発明によると、目的遺伝子の過剰発現に適した多コピー型と、目的遺伝子の細胞当たりの発現量を精確に把握するのに適したゲノム挿入型とを容易に選択することができる選択両用ベクター、例えば、そのまま細胞に導入した場合には細胞内で多コピー型として保持されるが、導入前に制限酵素で処理することにより、染色体上の所定の遺伝子座に挿入されるゲノム挿入型に変換することができる選択両用ベクターを得ることができる。かかる選択両用ベクターを用いると、形質転換体をそれぞれ異なる選択マーカーで選択することにより、例えば、制限酵素による消化の有無と形質転換後の選択培地を組み合わせることによって、多コピー型とゲノム挿入型の二つのタイプを容易に選択することができ、例えば、被検遺伝子をクローニングする作業負担を大幅に軽減できる。【0029】【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】 leu1遺伝子の塩基配列と遺伝子産物のアミノ酸配列を示す図である。leu1-32変異株で置換しているグアニン残基(G137)を枠囲いで示した。本発明のpDUALベクターに組み込んだleu1断片の5'及び3'末端部分を二重下線で示した。また、leu1遺伝子内部に作製したNot I部位とその周辺の配列を枠囲いで示した。【図2】本発明のpDUALベクターの構造とゲノムへの挿入様式を示す図である。制限酵素処理によって生じたDNAの末端がゲノム上のleu1遺伝子座位に標的化され、相同組み換えが誘発される。実際の相同組み換えはleu1-32変異の変異点(G137)より上流でも起こり得るが、ロイシン非要求性となるのはleu1-32の変異点よりも下流(3'側)で相同組み換えが起こった形質転換体だけである。【図3】制限酵素Not I、Apa I又はSac IIのいずれかの処理により、本発明のpDUALベクター内のura4-ars1断片が切り出されてくることの確認結果を示す図である。ura4-ars1断片挿入前のプラスミド1はNot Iでのみ切断される。【図4】本発明のpDUALベクターを制限酵素Not I又はApa Iで切断後、分裂酵母株JY745 (h+ ura4-D18 leu1-32 ade6-M216)に導入し、それぞれウラシルを含まない培地(SD ade leu)又はロイシンを含まない培地(SD ade ura)に蒔いて、30℃で3日間培養した結果を示す図である。【図5】形質転換体から、それぞれロイシン非要求性又はウラシル非要求性の株を適当に選び、ウラシルを含まない培地(SD ade leu)とロイシンを含まない培地(SD ade ura)で培養をおこなった結果を示す図である。 切り出し可能なARSに連結された第1選択マーカー遺伝子と、宿主細胞のゲノムDNAとの間で相同組換え可能な分断された状態の第2選択マーカー遺伝子とを備え、該第2選択マーカー遺伝子の3’側DNA断片は第2選択マーカー遺伝子機能欠失処理が施されており、前記宿主細胞は第2選択マーカー遺伝子機能をゲノム上で欠失しており、かつ、前記ARSに連結された第1選択マーカー遺伝子を切り出すと、ゲノム挿入型とすることができ、前記ARSに連結された第1選択マーカー遺伝子を切り出さないと、多コピー型とすることができることを特徴とする選択両用ベクター。 ARSに連結された第1選択マーカー遺伝子が、制限酵素認識部位を介して第2選択マーカー遺伝子を分断していることを特徴とする請求項1記載の選択両用ベクター。 第2選択マーカー遺伝子が、leu1遺伝子であることを特徴とする請求項1又は2記載の選択両用ベクター。 宿主細胞のゲノム上のleu1遺伝子が、leu1−32変異を有していることを特徴とする請求項3記載の選択両用ベクター。 宿主細胞が、真核細胞であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の選択両用ベクター。 真核細胞が、酵母であることを特徴とする請求項5記載の選択両用ベクター。 酵母が、シゾサッカロミセス・ポンベであることを特徴とする請求項6記載の選択両用ベクター。 分断された状態の第2選択マーカー遺伝子が、その5’側DNA断片にプロモーター領域を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の選択両用ベクター。 目的遺伝子のクローニング部位を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の選択両用ベクター。 配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、又はこれらの配列の一部若しくは全部を含む配列からなり、かつ選択両用ベクター機能を備えたDNA。