タイトル: | 特許公報(B2)_ガスセンサ用センシング膜の製造方法 |
出願番号: | 2002072343 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,G01N27/12 |
都外川 真志 松葉 頼重 三澤 嘉久 後藤 英之 大迫 雄久 小田 正明 齋藤 記庸 鈴木 敏洋 阿部 知行 JP 3711953 特許公報(B2) 20050826 2002072343 20020315 ガスセンサ用センシング膜の製造方法 株式会社デンソー 000004260 ハリマ化成株式会社 000233860 株式会社アルバック 000231464 伊藤 洋二 100100022 三浦 高広 100108198 水野 史博 100111578 都外川 真志 松葉 頼重 三澤 嘉久 後藤 英之 大迫 雄久 小田 正明 齋藤 記庸 鈴木 敏洋 阿部 知行 20051102 7 G01N27/12 JP G01N27/12 A G01N27/12 C 7 G01N 27/12 JICSTファイル(JOIS) 特開平07−260729(JP,A) 特開2002−090324(JP,A) 特開2002−126869(JP,A) 8 2003270184 20030925 13 20040517 黒田 浩一 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、金属または金属酸化物からなる粒子を焼結してなるガスセンサ用のセンシング膜を製造する方法に関する。【0002】【従来の技術】従来、CO、NOx、アルコール等のガスを検出するガスセンサにおいて、そのセンシング膜には、金属または金属酸化物からなる粒子を焼結してなる半導性酸化物皮膜を基板上に形成したものが用いられている。このようなセンシング膜においては、検出ガスが膜表面にて反応し、センシング膜の抵抗値が変化することにより、ガス検出が可能となっている。【0003】この皮膜を形成する方法としては、該半導性酸化物材料を粒子化したものを有機ビヒクル中に分散し、ペースト化したものを、スクリーン印刷法等にてパターニングした後、焼成して形成する厚膜方法と、真空中にて、例えばスパッタリングなどで直接基板上に堆積させ形成する薄膜方法とに大別される。【0004】【発明が解決しようとする課題】ところで、上記厚膜方法は、上記薄膜方法に比較して、プロセスが簡単であるため低コストではあるが、半導性酸化物の融点近くまで焼結温度を上げる、あるいは、半導体粒子を固定(バインド)させるべくガラスフリットを混入する必要がある。【0005】また、上記厚膜方法では、できあがったセンシング膜が数μm以上の大きな粒子の焼結体であるため、粒界を持ち、その膜厚も例えば数十μm程度と厚い。このことは、膜の表面積が大きく、膜内における検出ガスの反応性向上すなわちセンサ感度向上のためには好ましいが、反面、ガスセンサとしては応答性に劣るといった問題がある。【0006】一方、上記薄膜方法においては、例えば膜厚がサブミクロンオーダから数ミクロン程度と比較的薄く均一なバルク膜が得られるが、真空中でのプロセスであるためコスト的に不利である。また、センシング膜を必要に応じて熱処理を施す際、周辺材料、例えばAl配線の耐熱性の制限を受ける等の問題がある。【0007】さらに、上記薄膜方法により形成されたセンシング膜は、膜厚が薄いことからガスセンサとして応答性は優れるが、粒界の少ない均一な膜であることから検出ガスが反応するための表面積が小さく、センサ感度に劣るといった問題がある。【0008】そこで、本発明は上記問題に鑑み、感度や応答性といったセンサ特性に優れたガスセンサ用のセンシング膜を簡便に形成できるようにすることを目的とする。【0009】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明者等は、従来の厚膜方法にて形成されるセンシング膜よりも小さい粒子の焼結体とすることで、粒界を持ちつつより薄い膜厚を有するセンシング膜とすれば、感度および応答性を十分に確保できるのではないかと考えた。【0010】しかしながら、従来の厚膜方法にて形成されるセンシング膜よりも小さい粒子の焼結体とするには、原料となるペースト中の粒子をナノメータオーダとする必要がある。このような小さな粒子では、個々の粒子の表面エネルギーが過大になるため、ペースト中にて粒子の凝集が起こり、均一なペーストを得にくい。【0011】そこで、ペーストにおいて、ナノメータオーダの粒子を凝集させることなく均一に分散させることについて、鋭意検討を行った。本発明は、この検討結果に基づいて実験的に見出されたものである。【0012】すなわち、請求項1に記載の発明では、基材(10)の上に、金属または金属酸化物からなる粒子を焼結してなるガスセンサ用のセンシング膜(40)を製造する方法において、ナノメータオーダの粒子、該粒子の凝集を防止する分散剤および焼結時に該分散剤を捕捉する捕捉剤を溶剤中に混合させることにより、ペースト体を作製し、このペースト体を該基材の上に塗布し、焼成することにより、該センシング膜を形成することを特徴とする。【0013】それによれば、ナノメータオーダの粒子と分散剤と捕捉剤とを溶剤中に混合させることにより作製されたペースト体においては、分散剤によって粒子の凝集が防止され、粒子が溶剤中に均一に分散したペースト体が得られる。なお、ここでいうペースト体とは、ペーストはもちろん、粘ちょう性液体も含む。【0014】そして、このようなペースト体を、基材の上に塗布し焼成すると、分散剤が捕捉剤に捕捉されるため、ナノメータオーダの粒子において、焼結が開始されるとともに酸化が開始される。【0015】その結果、できあがったセンシング膜は、従来の厚膜方法に比べて非常に小さい粒子の焼結体であり、且つ、従来の薄膜方法レベルの薄い膜厚を実現できることとなる。また、本製造方法は、従来の厚膜方法のように、ペースト体の塗布、焼成といった簡便なプロセスにてセンシング膜を製造することができる。【0016】したがって、本発明によれば、感度や応答性といったセンサ特性に優れたガスセンサ用のセンシング膜を簡便に形成することができる。【0017】ここで、請求項2に記載の発明のように、粒子はSnまたはSn酸化物であり、センシング膜(40)はSnの酸化物からなるものにできる。【0018】また、請求項3に記載の発明のように、分散剤としては、窒素、酸素、またはイオウ原子を含み、これらの原子の有する孤立電子対による配位的な結合が可能な基を有する化合物を用いることができる。具体的には、アルキルアミン等に代表される末端アミノ基を1以上有するアミン化合物を用いることができる。【0019】また、請求項6に記載の発明のように、捕捉剤としては、請求項3に記載の分散剤に対して、加熱した際に、当該分散剤が有する窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基との反応性を有する化合物を用いることができる。具体的には、有機の酸無水物またはその誘導体あるいは有機酸を用いることができる。【0020】また、請求項8に記載の発明のように、基材(10)の上に塗布されたペースト体の焼成温度としては、300℃〜600℃にすることができる。【0021】この焼成温度は、従来のミクロンオーダの粒子を用いた厚膜方法における焼成温度すなわち半導性酸化物の融点に近い焼成温度に比べて、大幅に低い温度であり、ナノメータオーダの粒子を用いたが故に達成されるものである。そのため、ガスセンサにおける周辺材料、例えばAl配線の耐熱性を心配することがない。【0022】なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。【0023】【発明の実施の形態】以下、本発明を図に示す実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るガスセンサS1の概略断面構成を示す図である。このガスセンサS1は、例えば、CO、CH4、NO、NO2等のガスを検出するためのガスセンサとして用いられる。【0024】このガスセンサS1は、基材としてのシリコン基板10の一面上に、絶縁膜としてのシリコン酸化膜20が形成されており、このシリコン酸化膜20の上には、AlまたはAl合金等の金属や多結晶シリコン(Poly−Si)等からなる一対の検出電極30が形成されている。【0025】そして、シリコン酸化膜20の上には、一対の検出電極30を覆うように、金属または金属酸化物からなる粒子を焼結してなるセンシング膜としてのガス感応膜40が形成されている。本例では、ガス感応膜40は、Snの酸化物(SnOx)粒子の焼結体からなる。【0026】また、ガス感応膜40の下部に位置するシリコン基板10には、例えば、シリコン基板10にp層やn層の領域を形成するなどによって形成された拡散抵抗としてのヒータ50が形成されている。このヒータ50は通電により発熱し、ガス感応膜40を加熱できるようになっている。【0027】このガスセンサS1は例えば次のように作動させることができる。ヒータ50に通電し、ヒータ50を発熱させることで、ガス感応膜40において良好な感度を確保可能な温度にする。【0028】そして、ガス感応膜40の抵抗値は、測定環境中のCO、CH4、NO、NO2等のガス濃度に応じて変化するが、このガス感応膜40の抵抗値変化を、検出電極30にて検知し、図示しない外部回路等によって信号処理し、出力することによってガスの検出を行うことができる。【0029】次に、本実施形態のガスセンサS1におけるセンシング膜としてのガス感応膜40の製造方法について、図2を参照して述べる。図2は、本製造方法を説明するための説明図である。【0030】まず、図2(a)に示すように、ナノメータオーダの粒子100、この粒子100の凝集を防止する分散剤110および焼結時に分散剤110を捕捉する捕捉剤120を溶剤130中に混合させることにより、粘ちょう性液体140すなわちセンシング膜の原料としてのペースト体を作製する。具体的には、粒子100の表面を分散材110にて湿式処理したものを、捕捉剤120とともに溶剤130に混合する。【0031】この粘ちょう性液体140においては、ナノメータオーダの粒子100の表面は分散剤110にて被覆されており、この分散剤110にて被覆された粒子100と捕捉剤120とが溶剤130中に均一に分散した状態となっている。【0032】つまり、この状態であれば、微粒子化したことで表面エネルギーが増大した粒子100の凝集が、分散剤110によって防止されることで、粒子100が溶剤130中に独立分散状態となったペースト体としての粘ちょう性液体140となっている。【0033】ここで、ナノメータオーダの粒子100は、ガス中蒸発法等で生成し、酸化すると半導性を示す金属元素からなる金属微粒子あるいは半導性を示す金属酸化物微粒子であり、直径数nm〜数十nm程度のものであるが、本例では、直径10nm程度のSn粒子としている。なお、金属酸化物微粒子は、ガス中蒸発法で酸素をドープすることにより生成することが可能である。【0034】また、分散剤110として利用される化合物は、粒子100を構成する金属元素と配位的な結合をする際、窒素、酸素、またはイオウ原子上の孤立電子対を有する基を利用するもので、例えば、窒素原子を含む基として、アミノ基が挙げられる。また、イオウ原子を含む基としては、スルファニル基(−SH)、スルフィド型のスルファンジイル基(−S−)が挙げられる。また、酸素原子を含む基としては、ヒドロキシ基、エーテル型のオキシ基(−O−)が挙げられる。【0035】分散剤110に利用可能なアミノ基を有する化合物の代表として、アルキルアミンを挙げることができる。なお、かかるアルキルアミンは、金属元素と配位的な結合を形成した状態で、通常の保管環境、具体的には、40℃に達しない範囲では、脱離しないものが好適であり、沸点が60℃以上の範囲、好ましくは100℃以上となるものが好ましい。【0036】ただし、このようなアルキルアミンは、ペースト(粘ちょう性液体140)の加熱処理(加熱硬化など)を行う際には、速やかに、粒子100の表面から離脱することが可能であることが必要であり、少なくとも、沸点が300℃を越えない範囲、通常、250℃以下の範囲となるものが好ましい。【0037】例えば、アルキルアミンとして、そのアルキル基は、C4〜C20が用いられ、さらに好ましくはC8〜C18の範囲に選択され、アルキル鎖の末端にアミノ基を有するものが用いられる。例えば、前記C8〜C18の範囲のアルキルアミンは、熱的な安定性もあり、また、その蒸気圧もさほど高くなく、室温等で保管する際、含有率を所望の範囲に維持・制御することが容易であるなど、ハンドリング性の面から好適に用いられる。【0038】一般に、かかる配位的な結合を形成する上では、第一級アミン型のものがより高い結合能を示し好ましいが、第二級アミン型、ならびに、第三級アミン型の化合物も利用可能である。また、1,2−ジアミン型、1,3−ジアミン型など、近接する二以上のアミノ基が結合に関与する化合物も利用可能である。また、ポリオキシアルキレンアミンを用いることもできる。【0039】その他、分散剤110に利用可能なアミノ基を有する化合物として、末端のアミノ基以外に、親水性の末端基、例えば水酸基を有するヒドロキシアミン、例えば、エタノールアミンなどを利用することもできる。【0040】また、分散剤110に利用可能なスルファニル基(−SH−)を有する化合物の代表として、アルカンチオールを挙げることができる。なお、かかるアルカンチオールも、金属元素と配位的な結合を形成した状態で、通常の保管環境、具体的には、40℃に達しない範囲では、脱離しないものが好適であり、沸点が60℃以上の範囲、好ましくは100℃以上となるものが好ましい。【0041】ただし、このようなアルカンチオールは、ペースト(粘ちょう性液体140)の加熱処理(加熱硬化など)を行う際には、速やかに、粒子100の表面から離脱することが可能であることが必要であり、少なくとも、沸点が300℃を越えない範囲、通常、250℃以下の範囲となるものが好ましい。【0042】例えば、アルカンチオールとして、そのアルキル基は、C4〜C20が用いられ、さらに好ましくはC8〜C18の範囲に選択され、アルキル鎖の末端にスルファニル基(−SH)を有するものが用いられる。例えば、前記C8〜C18の範囲のアルカンチオールは、熱的な安定性もあり、また、その蒸気圧もさほど高くなく、室温等で保管する際、含有率を所望の範囲に維持・制御することが容易であるなど、ハンドリング性の面から好適に用いられる。【0043】一般に、第一級チオール型のものがより高い結合能を示し好ましいが、第二級チオール型、ならびに、第三級チオール型の化合物も利用可能である。また、1,2−ジチオール型などの、二以上のスルファニル基(−SH)が結合に関与するものも、利用可能である。【0044】また、分散剤110に利用可能なヒドロキシ基を有する化合物の代表として、アルカンジオールを挙げることができる。一例として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール類などを挙げることができる。【0045】なお、かかるアルカンジオールも、金属元素と配位的な結合を形成した状態で、通常の保管環境、具体的には、40℃に達しない範囲では、脱離しないものが好適であり、沸点が60℃以上の範囲、好ましくは100℃以上となるものが好ましい。【0046】ただし、このようなアルカンジオールは、ペースト(粘ちょう性液体140)の加熱処理(加熱硬化など)を行う際には、速やかに、粒子100の表面から離脱することが可能であることが必要であり、少なくとも、沸点が300℃を越えない範囲、通常、250℃以下の範囲となるものが好ましい。例えば、1,2−ジオール型などの、二以上のヒドロキシ基が結合に関与するものなどが、より好適に利用可能である。【0047】このように、分散剤110は、粒子100の表面において金属元素と配位的な結合が可能な基として、窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基を有する化合物から構成され、分散剤は、粒子110の表面を被覆している。【0048】次に、捕捉剤120としては、加熱した際、分散剤110が有する窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基との反応性を有する化合物、例えば、有機の酸無水物またはその誘導体あるいは有機酸を用いることができる。【0049】そして、このような捕捉剤120は、加熱した際、窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基を有する化合物である分散剤110による被覆層を除去するために利用される。【0050】すなわち、加熱に伴い、室温付近では粒子100の被覆層を形成している分散剤110中の、窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基と反応する結果、その反応後、前記窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基は、粒子100の表面において、当該表面の金属原子と配位的な結合を形成することが困難となり、結果的に除去がなされる。【0051】この除去機能は、ペーストの調製、保存がなされる室温近傍では発揮されず、その後、加熱処理(焼結)を施す過程において、初めて発揮されるものとなる。具体的には、添加されている酸無水物または酸無水物誘導体は、加熱に伴い、前記窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基を含む化合物である分散剤110、例えば、アミン化合物、チオール化合物、ジオール化合物などと反応し、アミド、チオエステル、エステルを形成するために利用される。【0052】粒子100の表面を被覆していたアミン化合物、チオール化合物、ジオール化合物などは、このアミド、チオエステル、エステルを形成すると、もはや金属原子と配位的な結合を形成することが困難となり、結果的に、粒子100の表面の分散剤110による被覆層が除去される。【0053】この作用により、ペースト(粘ちょう性液体140)中でもともと均一に分散している極めて微細な粒子100は、緻密な充填状態をとることができる。加熱処理前では、粒子100の表面は、分散剤110による被覆層が形成されているため、粒子100同士の表面が直接接することが回避されているが、加熱処理が進み、被覆層の除去がなされると、粒子100の表面を直接接触させた状態となり、比較的低温でも粒子100は互いに焼結を起こす。【0054】したがって、上記被覆層の除去過程で、窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基を有する化合物である分散剤110との反応に用いる、この酸無水物または酸無水物誘導体である捕捉剤120の含有量は、上記アミン化合物、チオール化合物、ジオール化合物などに含まれる末端アミノ基、スルファニル基(−SH)、ヒドロキシ基の総和に応じて、少なくとも、それと等量となる量を超えて添加すると好ましい。【0055】また、上記の反応性を示す限り、捕捉剤120として利用される有機の酸無水物またはその誘導体あるいは有機酸は、特に限定されるものではない。【0056】例えば、利用可能な有機酸としては、C1〜C10の直鎖飽和カルボン酸である、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、オクチル酸をはじめ、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、ならびにアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、安息香酸、ソルビン酸などの、C1〜C18の直鎖または分岐の飽和カルボン酸ならびに各種不飽和カルボン酸、ならびに、オレイン酸、リノール酸などの重合物であるダイマー酸やトリマー酸、さらには、シュウ酸、マロン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸などの二塩基酸など、種々のカルボン酸に加えて、カルボキシ基に代えて、リン酸基(−O−P(O)(OH)2)あるいはスルホ基(−SO3H)を有する、リン酸エステル、スルホン酸などのその他の有機酸を挙げることができる。【0057】また、好適に利用できる有機の酸無水物もしくは酸無水物の誘導体として、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールピス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)などの芳香族酸無水物、無水マレイン酸、無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、アルキル無水コハク酸、アルケニル無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物などの環状脂肪族酸無水物、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物などの脂肪族酸無水物を挙げることができる。【0058】この中でも、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、アルケニル無水コハク酸、およびこれらの誘導体は、比較的低い加熱処理(焼結)温度においても、例えば、アミン化合物の末端アミノ基などに対して適度な反応性を有することから好適に用いられる。【0059】この有機の酸無水物または酸無水物誘導体は、加熱硬化の際、粒子100の表面を被覆する分散剤110、例えば、アルキルアミンやポリオキシアルキレンアミンなどの末端アミノ基を有するアミン化合物と反応し、アミドを形成するために利用される。【0060】したがって、捕捉剤120としての酸無水物または酸無水物誘導体の含有量は、ペースト(粘ちょう性液体140)に含有されている窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基を有する化合物である分散剤110、例えば、末端アミノ基を有するアミン化合物として利用されているアルキルアミンやポリオキシアルキレンアミンの種類とその含有量に応じて適宜選択される。【0061】具体的には、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、アルケニル無水コハク酸、およびこれらの誘導体のような二塩基酸由来の酸無水物または酸無水物誘導体を用いる際、その含有量(モル数)は、前記末端アミノ基を有するアミン化合物、例えば、アルキルアミンならびにポリオキシアルキレンアミンに由来するアミン基の総和(モル数)の1/2よりも過剰な量を選択することが望ましい。【0062】ただし、二塩基酸由来の酸無水物または酸無水物誘導体の含有量は、前記末端アミノ基を有するアミン化合物、例えば、アルキルアミンならびにポリオキシアルキレンアミンに由来するアミン基の総和(モル数)の1倍を超えない範囲に留めることが好ましい。【0063】なお、有機の酸無水物またはその誘導体ではなく、有機酸を用いる際には、カルボキシル基やリン酸基(−O−P(O)(OH)2)あるいはスルホ基(−SO3H)の二つが、二塩基酸由来の酸無水物1分子に相当するとして、その添加量を前記の範囲に選択すると良い。【0064】次に、溶剤130としては、特に限定されるものではないが、粒子100の表面に被覆層を形成している分散剤110、例えばアルキルアミンなどのアミン化合物の溶解性が高すぎて当該被覆層が消失してしまうような高い極性を有する溶剤ではなく、非極性溶剤あるいは低極性溶剤を選択することが好ましい。【0065】加えて、加熱処理(焼結)を行う温度においても、熱分解などを起こすことがない程度には熱的な安定性を有することが好ましい。また、ハンドリング性の面を考慮すると、比較的に高沸点な非極性溶剤あるいは低極性溶剤が好ましい。例えば、テルピネオール、ミネラルスピリット、キシレン、トルエン、テトラデカン、ドデカンなどが好適に用いられる。【0066】次に、ヒータ50、シリコン酸化膜20および検出電極30が形成された基材としてのシリコン基板10を用意し、このシリコン基板10の一面の所定領域上に、スクリーン印刷法等により粘ちょう性液体140を塗布する。その後、塗布された粘ちょう性液体140の膜を例えば300℃〜600℃にて焼成し、焼結体を形成する。【0067】この焼結過程においては、図2(b)に示すように、分散剤110が捕捉剤120に捕捉されるため、ナノメータオーダの粒子100の表面から分散剤110が除去され、粒子100の表面が露出する。すると、図2(c)に示すように、互いの粒子100の表面同士が接触して焼結が開始される。【0068】本例のSn粒子100のようにナノメータオーダの金属粒子100の場合、粒子表面が露出するため、粒子100の酸化が開始される。つまり、金属粒子100は酸化、焼結を起こすこととなる。【0069】このようにして、焼結の完了に伴い、半導性の金属酸化物微粒子の焼結体からなるガス感応膜40が製造される。本例では、酸化スズ(SnOx)の焼結体からなるガス感応膜40が製造される。【0070】本実施形態の製造方法によりできあがったガス感応膜40は、従来の厚膜方法に比べて非常に小さい粒子の焼結体であり、粒界を持つとともに、従来の薄膜方法レベルの薄い膜厚(例えばサブミクロン〜数ミクロン程度)を実現できることとなる。また、本製造方法によれば、従来の厚膜方法のように、ペースト体140の塗布、焼成といった簡便なプロセスにてガス感応膜40を製造することができる。【0071】したがって、本実施形態によれば、感度や応答性といったセンサ特性に優れたガスセンサ用のセンシング膜を簡便に形成することの可能なセンシング膜の製造方法を提供することができる。【0072】また、本実施形態の製造方法においては、粒子100がナノオーダという超微粒子であるため、従来の厚膜方法に用いるミクロンオーダの粒子に比較して融点が降下する。これは、一般に知られている次の数式1に基づく。【0073】【数1】ΔT/Tb=2γ/(ρ・Lb・r)ここで、ΔTは粒子の融点の低下量、Tbはバルクの融点、γは固液界面の表面張力、Lbはバルクの融解熱、rは粒子の半径である。【0074】つまり、粒子の半径が小さくなるほどΔTが大きくなり、必要な焼成温度も低下する、すなわち、低温で焼結させることが可能となる。さらには、粒子の表面の活性状態も増大するため酸化反応も低温で起こるようになる。具体的には、上記したように、焼成温度は300℃〜600℃程度にできる。【0075】ここで、粒子100として金属Sn超微粒子を用いて、ガス感応膜40として半導性酸化スズ膜を形成した例におけるガス感応膜40のX線回折分析の結果を図3に示す。【0076】図3では、焼成温度すなわち焼結温度を300℃、400℃、500℃、600℃とした場合と、比較例として上記粘ちょう性液体140を塗布して焼成しない未焼成の場合とを示してある。【0077】図3から、未焼成ではSnのピーク(図中、黒三角を付したピーク)が現れているのに対し、300℃〜600℃の焼成温度にて焼成した場合では、酸化スズ(SnOx)のピーク(図中、黒丸を付したピーク)が現れており、ガス感応膜40としての半導性酸化スズ膜が形成されていることがわかる。【0078】次に、本実施形態の製造方法によって製造されたガス感応膜40において、感度や応答性といったセンサ特性が良好に確保できていることについて、一具体例を示す。【0079】予め検出電極30等の配線およびヒータ50が形成されたシリコン基板10のうちセンシング膜を形成すべき領域上、すなわちセンシング部に、約10nmサイズの金属Sn粒子100を独立分散させた粘ちょう性液体140を塗布する。【0080】この具体例に用いた粘ちょう性液体140における分散剤110は上記のアルキルアミン等、捕捉剤120は有機の酸無水物またはその誘導体あるいは有機酸であり、粒子100の濃度は5%である。【0081】塗布方法としては、様々な方法を選択可能であるが、簡便な方法として、液をマイクロシリンジ等で定量滴下する方法、あるいは、センシング部以外の領域をマスキングしてディップする方法などの方法を用いることができる。さらには、適切な粘度に調整することで、インクジェットによる方法およびスクリーン印刷による方法を用いることができる。【0082】このようにして粘ちょう性液体140を塗布した後、400℃にて空気中にて熱処理することで焼成を行い、酸化スズの焼結膜としての本例のガス感応膜40を得る。この焼成に関しては、通常のベルト炉あるいはバッチ炉を用いることが可能であるが、本例ではベルト炉にて約1時間の熱処理を行った。【0083】このようにして、シリコン基板10の一面上に酸化スズ焼結体からなるガス感応膜40(膜厚約0.5μmのもの)を形成して上記ガスセンサS1を形成した。ガス感応膜40の膜厚として約0.5μmのもの、約1μmのものを作成し、前者を本実施形態の具体例1、後者を本実施形態の具体例2とする。そして、これら具体例としてのセンサS1をセンサハウジングに組み付けた後、センサ特性を評価した。【0084】ここで、検出するガスとしては、COおよびNO2に関し、各々濃度100ppmのガスを導入し、一定時間後フレッシュエアに切り替え、その出力を調べた。また、ヒータ50の温度は300℃として出力を調べた。【0085】なお、ガス感応膜40を、従来の薄膜方法であるスパッタリングにより成膜された酸化スズ膜(膜厚約0.5μm)としたガスセンサS1を、比較例として作製し、これについても同様にセンサ特性を評価した。【0086】センサ特性としては、感度と応答速度とを調べた。感度は、抵抗値変化率ΔΩとして求めた。この抵抗値変化率ΔΩは、検出ガスが導入される前の初期値とガス導入後における変化が飽和した抵抗値との間で比較した抵抗値変化率であり、この抵抗値変化率ΔΩが大きいほどセンサ感度が良いことになる。【0087】また、応答時間は、検出ガスを導入した時点からガス導入後における抵抗値変化が飽和するまでの立ち上がり時間、すなわち上記抵抗値変化率ΔΩ分の抵抗変化が生じるのに要する時間である。この応答時間が短いほど応答性が良いことになる。【0088】図4は、上記具体例としてのガスセンサS1と比較例としてのガスセンサについて、COおよびNO2につき、それぞれ上記感度および応答時間を調べた結果を示す図表である。【0089】図4に示すように、具体例1、2では、感度については比較例に比べて大幅に向上しており、応答速度については、従来としても高レベルにある薄膜方法の比較例に比べて同等もしくはそれ以上の向上を示している。【0090】このように、本実施形態によれば、従来の薄膜方法により形成されたセンシング膜と比べて、応答性については同等以上の高レベルを維持しつつ、センサ感度については大幅に向上させることができた。つまり、従来の薄膜方法によるセンシング膜では、応答性には優れるが感度が低かったのに対し、本実施形態では、応答性、感度ともに優れるセンシング膜を実現できる。【0091】なお、本実施形態の変形例として、基材としての基板10に、セラミック基板を用いても良い。この変形例としてのガスセンサS1’の概略断面構成を図5に示す。この場合、セラミック基板10の一面上に、一対の検出電極30およびガス感応膜40が形成され、ガス感応膜40に対応するセラミック基板10の他面側に通電用電極51を有する抵抗発熱体としてのヒータ50が形成されている。【0092】以上述べてきたように、本発明は、基材10の上に、金属または金属酸化物からなる粒子を焼結してなるガスセンサ用のセンシング膜40を製造するにあたり、従来では不可能であったナノメータオーダの微粒子原料を用いたペースト体を実現可能とし、このペースト体を用いて、センサ特性に優れたセンシング膜を簡便に形成するようにしたことを主たる特徴としたものである。【図面の簡単な説明】【図1】本発明の実施形態に係るガスセンサの概略断面図である。【図2】上記実施形態におけるセンシング膜の製造方法を説明するための説明図である。【図3】上記実施形態における酸化スズからなるセンシング膜のX線回折分析の結果を示す図である。【図4】上記実施形態のセンサ特性に対する効果の具体例を示す図表である。【図5】上記実施形態の変形例としてのガスセンサの概略断面図である。【符号の説明】10…シリコン基板、セラミック基板、40…ガス感応膜(センシング膜)。 基材(10)の上に、金属または金属酸化物からなる粒子を焼結してなるガスセンサ用のセンシング膜(40)を製造する方法において、ナノメータオーダの前記粒子、前記粒子の凝集を防止する分散剤および焼結時に前記分散剤を捕捉する捕捉剤を溶剤中に混合させることにより、ペースト体を作製し、このペースト体を前記基材の上に塗布し、焼成することにより、前記センシング膜を形成することを特徴とするセンシング膜の製造方法。 前記粒子はSnまたはSn酸化物であり、前記センシング膜(40)はSnの酸化物からなるものであることを特徴とする請求項1に記載のセンシング膜の製造方法。 前記分散剤として、窒素、酸素、またはイオウ原子を含み、これらの原子の有する孤立電子対による配位的な結合が可能な基を有する化合物を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のセンシング膜の製造方法。 前記分散剤として用いられる化合物が、末端アミノ基を1以上有するアミン化合物であることを特徴とする請求項3に記載のセンシング膜の製造方法。 前記アミン化合物がアルキルアミンであることを特徴とする請求項4に記載のセンシング膜の製造方法。 前記捕捉剤として、加熱した際に、前記分散剤が有する窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基との反応性を有する化合物を用いることを特徴とする請求項3ないし5のいずれか一つに記載のセンシング膜の製造方法。 前記捕捉剤として用いられる化合物が、有機の酸無水物またはその誘導体あるいは有機酸であることを特徴とする請求項6に記載のセンシング膜の製造方法。 前記基材(10)の上に塗布された前記ペースト体の焼成温度は、300℃〜600℃であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一つに記載のセンシング膜の製造方法。