タイトル: | 特許公報(B2)_アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性測定試薬 |
出願番号: | 2002066815 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12Q 1/48,G01N 33/68 |
藤井 隆行 JP 4095814 特許公報(B2) 20080314 2002066815 20020312 アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性測定試薬 株式会社三菱化学ヤトロン 000138277 森田 憲一 100090251 山口 健次郎 100139594 藤井 隆行 20080604 C12Q 1/48 20060101AFI20080515BHJP G01N 33/68 20060101ALI20080515BHJP JPC12Q1/48 ZG01N33/68 C12Q 1/00ー70 G01N 33/00-98 C12N 1/00ー9/99 PubMed、MEDLINE(STN) BIOSIS/WPI(DIALOG) 特開平08−126496(JP,A) 4 2003259896 20030916 11 20050201 斎藤 真由美 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性測定試薬に関する。【0002】【従来の技術】アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(以下、ASTと略称する)は、心臓や肝に多く分布する酵素であり、各種疾患時に血中に遊出されるので、尿や血液等の生体液中AST活性の測定は、心疾患又は肝疾患の診断や治療の経過観察の指標として重要な項目の一つである。【0003】AST活性の測定法としては、L−アスパラギン酸及び2−オキソグルタル酸を基質として、ASTによって生成されるオキサロ酢酸をリンゴ酸脱水素酵素(以下、MDと略称する)によってリンゴ酸に変え、共存させておいた還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NADHと略称する)量の減少量を、波長340nm付近で測定することによりAST活性を測定する方法が汎用されている。【0004】この反応式を示せば、以下のとおりである。なお、前記式中で、NADは酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドである。【0005】前記反応式に基づくAST活性測定方法では、ピルビン酸及び乳酸脱水素酵素(以下、LDと略称する)を含有する被検試料(例えば、血液)を測定する場合、試薬中のNADHがAST活性非依存的に減少してしまうため、AST活性測定に正の誤差を与えてしまう。この現象を回避するために、AST反応を開始するまでに、大量のLDをNADHと共に添加し、被検試料由来のピルビン酸を消費して、その影響を回避する手法が用いられている。この反応式を示せば、以下のとおりである。【0006】先に述べたとおり、AST活性測定は、心疾患又は肝疾患の診断や治療の経過観察の指標として重要な項目の一つであるため、国際的に測定されている。しかし、AST活性の測定法は各種知られており、いろいろな測定法が用いられているため、施設間や測定者間で測定値が異なり、その測定値の互換性がとりずらく、臨床的な診断に支障をきたす恐れがある。そのため、各国において、反応原理、試薬組成、及び試薬濃度等を規定した勧告法が提唱されており、勧告法で求められた測定値と互換性が得られるよう、各施設においてAST活性測定が行われるようになってきた。【0007】日本でも日本臨床化学会(JSCC)が1989年にAST活性測定の勧告法を公表している[日本臨床化学会:ヒト血清中酵素活性測定の勧告法―アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ―(1989−08−30),臨床化学,18(4),226−249(1989)]。日本臨床化学会の公表した前記勧告法は、測定値の互換性を取るために、臨床検査室等の技術レベルで共有することのできる共通の酵素活性測定を最適な条件で測定する方法であるため、一般には日常の検査法として使用することのできるものではない。そこで、臨床検査薬メーカーは、日本臨床化学会の勧告法と測定値との互換性が取れるような試薬を提供している。そして、日本臨床化学会の勧告法と測定値との互換性が取れることを前提に、正確で、精密な測定値を得られるような、より安定で、安価な試薬を提供しようと日々努力している。【0008】【発明が解決しようとする課題】このように、臨床検査室等のAST活性測定を行なっている施設では、日常の検査法として日本臨床化学会の勧告法と測定値の互換性が取れるような臨床検査薬メーカーの提供するAST活性測定試薬を使用しているのが一般的である。しかしながら、生体試料は多種類の成分の混合物であり、また、AST活性測定試薬も多種類の成分の混合物であることから、完璧といえるAST活性測定試薬の開発は極めて困難である。【0009】特に、測定試薬をセットし、条件を設定するだけで自動的に測定する自動分析機と呼ばれている分析装置では、数週間に渡り蓋を開けたまま放置して測定することが多く、この場合、大気中の二酸化炭素を吸収し、AST活性測定試薬のpHが変化し、試薬ブランク反応も変わり、得られるAST活性測定値に誤差が発生する問題点があった。【0010】従って、本発明の課題は、試薬ブランク反応の上昇、すなわち、初期吸光度の上昇を抑制することのできるAST活性測定試薬を提供することにある。【0011】【課題を解決するための手段】前記課題は、本発明による、L−アスパラギン酸、2−オキソグルタル酸、リンゴ酸脱水素酵素、乳酸脱水素酵素、及び還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを含むアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性測定試薬において、乳酸脱水素酵素活性に対する阻害作用を有する物質を、更に含むことを特徴とする、前記アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性測定試薬により解決することができる。また、本発明は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼを含有する可能性のある被検試料と、L−アスパラギン酸、2−オキソグルタル酸、リンゴ酸脱水素酵素、乳酸脱水素酵素、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、及び乳酸脱水素酵素活性に対する阻害作用を有する物質とを接触させることを特徴とする、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性の測定方法に関する。【0012】【発明の実施の形態】本発明のAST活性測定試薬は、L−アスパラギン酸、2−オキソグルタル酸、MD、LD、及びNADHを含む公知のAST活性測定試薬の改良試薬である。L−アスパラギン酸、2−オキソグルタル酸、MD、LD、及びNADHを含む公知のAST活性測定試薬では、L−アスパラギン酸及び2−オキソグルタル酸を基質として、ASTによって生成されるオキサロ酢酸をMDによってリンゴ酸に変え、共存させておいたNADH量の減少量を、波長340nm付近で測定することにより、AST活性を測定することができる。【0013】また、この公知の活性測定試薬では、従来技術欄で先述したように、被検試料(例えば、血液)に由来するピルビン酸の影響を排除するために、例えば、2試薬系からなる場合(例えば、少なくともLDを第一試薬として含有し、2−オキソグルタル酸を第二試薬として含有する場合)には、ピルビン酸を含有する可能性のある被検試料と、LDを含む第一試薬とを混合し、被検試料由来のピルビン酸を消去した後、第二試薬を添加することにより、被検試料由来のピルビン酸の影響を受けることなく、AST活性を測定することができる。また、少なくともLD及び2−オキソグルタル酸を第二試薬として含有する2試薬系であっても、第二試薬添加後、例えば、数十秒から1分間程度で被検試料由来のピルビン酸を消去した後、AST活性を測定することができるし、あるいは、1試薬系であっても同様の目的を果たすことができる。【0014】本発明のAST活性測定試薬は、これらの公知の構成成分に加え、LD活性に対する阻害作用を有する物質(以下、LD阻害剤と称する)を含む。本発明で用いるLD阻害剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、オキサミン酸、シュウ酸、オキサロ酢酸、ピルビン酸、ホスホエノールピルビン酸、ドデシル硫酸ナトリウム、乳酸、若しくはヒドロキシグルタル酸、又はそれらの塩を用いることができ、AST活性測定に誤差を与えることがない点で、オキサミン酸又はその塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、又はリチウム塩)が好ましい。【0015】本発明のAST活性測定試薬に含有されるLD阻害剤の濃度は、使用するLD阻害剤の種類により変化するので、AST活性測定試薬に影響を与えないMD活性が存在し、しかも、被検試料由来ピルビン酸の消去に影響を与えないLD活性が存在する濃度である限り、特に限定されるものではないが、一般的には、測定系における終濃度が0.001〜100mmol/Lとなるように、測定試薬中の含有濃度を調整して用いることができる。【0016】「AST活性測定試薬に影響を与えないMD活性が存在する」とは、被検試料中のAST活性を測定するために最低必要なMD活性が少なくとも残存していることを意味し、LD阻害剤によりMD活性が阻害されても最低必要量のMD活性が残存していれば、AST活性測定試薬としては問題にはならない。また、「被検試料由来ピルビン酸の消去に影響を与えないLD活性が存在する」とは、被検試料由来のピルビン酸を消去するために最低必要なLD活性が少なくとも残存していることを意味し、LD阻害剤によりLD活性が阻害されても最低必要量のLD活性が残存していれば、AST活性測定試薬としては問題にはならない。更に、本発明の目的は試薬ブランク反応を抑制することにあるので、AST活性測定試薬に影響を与えないMD活性及びLD活性を有し、しかも、試薬ブランク反応がなるべく小さくなるような、MD添加量、LD添加量、及びLD阻害剤量の組み合わせを適宜設定すればよい。【0017】より具体的には、例えば、LD阻害剤としてオキサミン酸を用いる場合には、測定系における終濃度が、好ましくは0.005〜5mmol/L、より好ましくは0.02〜1mmol/Lとなる量で添加することにより、期待される効果を得ることができる。後述するように、試薬構成を第一試薬と第二試薬とに分ける場合には、終濃度が前記と同様であれば、第一試薬又は第二試薬のいずれか一方に、あるいは、両方に添加しても同様の効果を得ることができる。【0018】本発明のAST活性測定試薬に含有される構成成分の内、公知のAST活性測定試薬に含まれる各種成分、すなわち、MD、LD、NADH、L−アスパラギン酸、及び2−オキソグルタル酸については、公知のAST活性測定試薬と同様に用いることができる。【0019】例えば、MDとしては、例えば、ウシ心臓由来、ブタ心臓由来、サーマス・フラバス(Thermus flavus)、バチルス・サブチルス(Bacillus subtillis)、若しくはニューロスポーラ・クラッサ(Neurospora crassa)由来の天然型MD、又はそれらの組換え型MDを用いることができ、その由来は特には限定されない。また、本発明のAST活性測定試薬に含有されるMDの濃度は、測定系における終濃度が、少なくとも200U/L以上となるように、適宜選択して用いることができる。なお、本発明のAST活性測定試薬はLD阻害剤を更に含むことを特徴としているので、LD阻害剤によりMD活性が阻害される場合には、その阻害分を考慮し、終濃度活性が少なくとも200U/L以上となるように、適宜選択して用いることができる。例えば、LD阻害剤としてオキサミン酸を0.02〜1mmol/Lとなる量で添加する場合においても、終濃度活性が少なくとも200U/L以上となるように、適宜選択して用いることができる。なお、本明細書において「MD活性」とは、オキサロ酢酸をリンゴ酸に還元する活性を意味する。また、その単位「U」は、1分間に1μmolの基質(オキサロ酢酸)を生成物(リンゴ酸)に転換する酵素活性の量(標準温度は30℃)で定義される。【0020】また、LDとしては、例えば、ニワトリ心臓由来、ブタ心臓由来、ブタ筋肉由来、若しくはロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)由来の天然型LD、又はそれらの組換え型LDを用いることができ、その由来は特には限定されない。また、本発明のAST活性測定試薬に含有されるLDの濃度は、測定系における終濃度が、少なくとも100U/L以上となるように、適宜選択して用いることができる。なお、本発明のAST活性測定試薬はLD阻害剤を更に含むことを特徴としているので、LD阻害剤によるLD阻害分を考慮し、終濃度活性が少なくとも100U/L以上となるように、適宜選択して用いることができる。例えば、LD阻害剤としてオキサミン酸を0.02〜1mmol/Lとなる量で添加する場合においても、終濃度活性が少なくとも100U/L以上となるように、適宜選択して用いることができる。なお、本明細書において「LD活性」とは、ピルビン酸を乳酸に還元する活性を意味する。また、その単位「U」は、1分間に1μmolの基質(ピルビン酸)を生成物(乳酸)に転換する酵素活性の量(標準温度は30℃)で定義される。【0021】本発明のAST活性測定試薬に含有されるNADHの濃度は、測定系における終濃度が、好ましくは0.05〜2mmol/L、より好ましくは0.1〜0.5mmol/Lとなる範囲で使用することができる。基質であるL−アスパラギン酸の濃度は、測定系における終濃度が、好ましくは100〜3000mmol/L、より好ましくは200〜2000mmol/Lとなる範囲で使用することができる。また、もう一つの基質である2−オキソグルタル酸の濃度は、測定系における終濃度が、好ましくは1〜500mmol/L、より好ましくは5〜100mmol/Lとなる範囲で使用することができる。【0022】本発明のAST活性測定試薬は、公知のAST活性測定試薬と同様に、適当な緩衝剤を更に含むことができ、前記緩衝剤としては、AST活性測定への悪影響がない限り、従来公知の緩衝液を適宜選択して使用することができる。具体的には、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、リン酸、2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジル]エタンスルホン酸、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン、2−ヒドロキシ−N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸、又はn−エチルモルフォリン等を使用することができる。更に、本発明のAST活性測定試薬は、前記必須配合成分及び緩衝剤の他に、必要により、一般的に添加される成分、例えば、キレート剤[例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等]、防腐剤(例えば、アジ化物等)、安定化剤(例えば、アルブミン又はグリセロール等)、及び/又は各種界面活性剤等を適宜添加することができる。【0023】本発明のAST活性測定試薬の試薬構成は、LDを含有する公知のAST活性測定試薬と同様に、特に限定されるものではなく、例えば、1試薬にまとめることもできるし、あるいは、2試薬以上の試薬構成とすることもできる。例えば、被検試料由来のピルビン酸の影響を排除する観点からは、少なくともLDを含有する試薬(例えば、2試薬系からなる場合には、第一試薬)と、前記試薬よりも後に被検試料と接触させる試薬(例えば、2試薬系からなる場合には、第二試薬)として、少なくとも2−オキソグルタル酸を含有する試薬とを含む2試薬以上(特には2試薬系)の試薬構成とすることが好ましいが、本発明のAST活性測定試薬の試薬構成は、これに限定されるものではない。また、一般的には、各構成成分が安定な条件に分け、活性測定に至適な条件にて反応することができる試薬構成にすることが好ましい。このような試薬構成としては、例えば、アルカリ性で安定なNADH、MD、及びLD等を含む第一試薬と、2−オキソグルタル酸等を含む第二試薬とに分け、反応時に活性測定に至適な試薬濃度及びpHになるようにこれらの各試薬を構成し、更に、第一試薬又は第二試薬のいずれか一方、あるいは、両方に、LD阻害剤及びL−アスパラギン酸を添加することができるが、これに限定されるものではない。【0024】本発明のAST活性測定試薬は、例えば、本発明のAST活性測定方法に用いることができる。本発明のAST活性測定方法では、ASTを含有する可能性のある被検試料と、L−アスパラギン酸、2−オキソグルタル酸、MD、NADH、及びLD阻害剤とを接触させ、NADH量の減少量を、波長340nm付近で測定することにより、AST活性を測定することができる。前記被検試料は、AST活性を含有する可能性のある被検試料である限り、特に限定されるものではなく、例えば、臨床診断に一般的に用いられる生体由来液、例えば、血液、血清、血漿、若しくは尿、又は細胞組織、あるいは実験サンプルなどを挙げることができる。【0025】【作用】本発明者は、本発明のAST活性測定試薬において、試薬ブランク反応が抑制される理由を、以下の作用によるものと考えている。なお、本発明は、以下の推論に限定されるものではない。本発明のAST活性測定試薬に含まれるLDは、主たる酵素活性である乳酸に対する脱水素酵素活性に加え、2−オキソグルタル酸を還元する活性、すなわち、2−ヒドロキシグルタル酸脱水素酵素(HGD)活性を有することが知られている[臨床化学,18(4),250−262(1989)]。この反応を示せば、以下のとおりである。【0026】従来技術欄で先述したように、日本臨床化学会の公表した勧告法も含め、汎用されているAST活性測定は、基質として2−オキソグルタル酸を用いているため、LDが2−オキソグルタル酸に対する脱水素酵素活性(すなわち、HGD活性)を有すると、NADHを酸化し、試薬ブランクや試薬ブランク反応を大きくしてしまう。また、2−オキソグルタル酸に対する脱水素酵素活性は、pH変化により酵素活性が変化してしまい、得られるAST活性測定値に誤差が発生する。例えば、測定試薬をセットし、条件を設定するだけで自動的に測定する自動分析機と呼ばれている分析装置では、数週間に渡り蓋を開けたまま放置して測定することが多く、大気中の二酸化炭素を吸収し、AST活性測定試薬のpHが変化し、試薬ブランク反応も変わり、得られるAST活性測定値に誤差が発生する。ここで起きる試薬ブランク反応は、LD自体が示す2−オキソグルタル酸を還元する反応、すなわち、HGD活性であると考えられる。【0027】本発明者が確認したところ、LD中にHGD活性が存在し、AST活性測定試薬に添加されているLD量に依存して試薬ブランクも変化する。また、HGD活性は、弱酸性から中性付近に至適pHを持っている。例えば、LD量を増やせば、試薬ブランクも大きくなるほか、弱アルカリ性条件下でAST活性を測定する場合、試薬容器開封保存後の試薬pH低下により試薬ブランクが大きくなってしまい、正確なAST活性測定値を得ることができない。試薬ブランクを小さくするには、LD量を少なくすることが考えられるが、LD量が少なすぎると、被検試料由来のピルビン酸を消去するために必要なLD量が不足し、定量性が得られなくなってしまう。また、試薬容器開封保存後の試薬pH低下による試薬ブランク上昇は、AST活性測定時のpHをアルカリ性に移動することにより、試薬ブランクを回避できるが、AST活性の至適pHは弱アルカリ性であるので、適当な方法とは言えない。【0028】従来、HGD活性の阻害剤は全く知られておらず、このような状況下、本発明者は、公知のAST活性測定試薬にLD阻害剤を添加することにより、LD自体が示すHGD活性を阻害し、その結果、定量性が損なわれることなく、試薬ブランクを小さくし、試薬容器開封保存後の試薬pH低下による試薬ブランク上昇も回避することができたものと考えている。【0029】【実施例】以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。【調製実施例1】本発明のAST活性測定試薬として、表1に示す組成からなる第一試薬と、表2に示す組成からなる第二試薬とからなる2試薬系試薬を調製した。また、比較用の従来公知のAST活性測定試薬として、第一試薬中にオキサミン酸を含まないこと以外は、前記第一試薬と前記第二試薬と同じ組成からなる2試薬系試薬を調製した。以下、比較用の前記2試薬系試薬を「試薬A」と称し、本発明の前記2試薬系試薬を「試薬B」と称する。調製した試薬A及び試薬Bは、以下の評価例で使用するまで、それぞれ、密封可能な容器に入れ、密封状態で保存した。【0030】《表1》【0031】《表2》【0032】【評価例1】《本発明のAST活性測定試薬の評価》(1)試薬ブランクの測定前記調製実施例1で調製した比較用の試薬Aの第一試薬60mL及び第二試薬20mL、並びに本発明の試薬Bの第一試薬60mL及び第二試薬20mLを、それぞれ、自動分析装置(7170S;株式会社日立製作所製)用の試薬容器に充填し、これらの試薬容器を自動分析装置にセットし、5週間放置した。評価中の自動分析装置は、試薬容器がセットされている部分には冷却装置が付いており、約10℃に保たれている。また、試薬容器の蓋は開けた状態のままにした。放置直後、1週間経過後、2週間経過後、3週間経過後、4週間経過後、及び5週間経過後に、それぞれ、以下の手順に従って、試薬A及び試薬Bの試薬ブランクを測定した。【0033】より具体的には、自動分析装置の反応セルに、検体として生理食塩水7.5μLを加えたところに、第一試薬150μLを加えて撹拌し、37℃で5分間加温した後、第二試薬50μLを加えて撹拌し、更に37℃で5分間加温した。第二試薬を添加してから約1分経過後から5分経過後まで(すなわち、4分間)の波長340nmにおける吸光度変化量を測定し、1分間当たりの吸光度変化量を算出し、ブランク感度とした。結果を図1に示す。図1に示すように、蓋を開けた状態で放置しておくと、比較用の試薬Aでは、試薬ブランクが経時的に上昇していくのに対して、本発明の試薬Bでは、試薬ブランクがほとんど変化しなかった。【0034】(2)プール血清におけるAST活性の測定前記評価例1(1)と同様に、前記調製実施例1で調製した試薬A及び試薬Bを5週間放置した。放置直後、1週間経過後、2週間経過後、3週間経過後、4週間経過後、及び5週間経過後に、それぞれ、以下の手順に従って、検体(プール血清)中のAST活性を測定した。すなわち、プール血清又は生理食塩水(試薬ブランク)7.5μLに第一試薬150μLを加えて撹拌し、37℃で5分間加温した後、第二試薬50μLを加えて撹拌し、更に37℃で5分間加温した。第二試薬を添加してから約1分経過後から5分経過後まで(すなわち、4分間)の波長340nmにおける吸光度変化量を測定し、1分間当たりの吸光度変化量を算出した。ATL活性は、プール血清の代わりに、酵素キャリブレーター(国際試薬株式会社製)を用いて得られた測定結果に基づいて、換算した。【0035】結果を図2に示す。図2に示すように、プール血清の測定値に関しても、蓋を開けた状態で放置しておくと、比較用の試薬Aでは、AST活性測定値が経時的に上昇していくのに対して、本発明の試薬Bでは、AST活性測定値の変動がほとんど見られなかった。【0036】【評価例2】《本発明のAST活性測定試薬におけるLDの安定性に関する評価》本評価例では、前記調製実施例1で調製した比較用の試薬Aの第一試薬60mL及び本発明の試薬Bの第一試薬60mLを、それぞれ、70mL容の蓋付きポリエチレン製瓶に密封し、25℃又は37℃にて3週間保管し、各第一試薬中に含まれるLD活性の残存率の経時変化を調べた。具体的には、保存直後、並びに保管開始から1週間経過後、2週間経過後、及び3週間経過後に、それぞれ、各試薬を採取し、測定時に各試薬を0.1%ウシ血清アルブミン含有50mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.50)にて1/10濃度に希釈したものを検体とし、以下の手順に従って、自動分析装置(7170S;株式会社日立製作所製)を用いて実施した。【0037】検体7.5μLに、LD活性測定試薬1[50mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.50)及び0.25mmol/L−NADH]150μLを加え、37℃で5分間加温した後、LD活性測定試薬2[50mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.50)及び12mmol/Lピルビン酸リチウム塩]30μLを加えて撹拌し、更に37℃で5分間加温した。LD活性測定試薬2を添加してから約1分経過後から2分経過後までの波長340nmにおける1分間当たりの吸光度変化量を測定した。保存初日の吸光度変化量を100%としてLD活性の残存率を算出した。【0038】結果を図3に示す。図3において、各記号「1W」、「2W」、及び「3W」は、それぞれ、保管開始から1週間経過後、2週間経過後、及び3週間経過後の結果であることを意味する。図3に示すように、37℃及び25℃のいずれの条件下においても、本発明の試薬Bの方が、比較用の試薬Aと比べて、LD活性の残存率が高かった。【0039】【発明の効果】本発明のAST活性測定試薬によれば、試薬ブランク反応の上昇、すなわち、初期吸光度の上昇を抑制することができるので、正確なAST活性測定値を得ることができる。また、LDの安定化効果を有する。【図面の簡単な説明】【図1】本発明及び比較用のAST活性測定試薬における、ブランク感度の経時的変化を示すグラフである。【図2】本発明及び比較用のAST活性測定試薬を用いて測定した、プール血清中AST活性測定値の経時的変化を示すグラフである。【図3】本発明及び比較用のAST活性測定試薬における、LD安定性を示すグラフである。 L−アスパラギン酸、2−オキソグルタル酸、リンゴ酸脱水素酵素、乳酸脱水素酵素、及び還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを含むアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性測定試薬において、乳酸脱水素酵素活性に対する阻害作用を有する物質を、更に含むことを特徴とする、前記アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性測定試薬。 乳酸脱水素酵素活性に対する阻害作用を有する物質が、オキサミン酸若しくはシュウ酸又はそれらの塩である、請求項1に記載のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性測定試薬。 アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼを含有する可能性のある被検試料と、L−アスパラギン酸、2−オキソグルタル酸、リンゴ酸脱水素酵素、乳酸脱水素酵素、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、及び乳酸脱水素酵素活性に対する阻害作用を有する物質とを接触させることを特徴とする、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性の測定方法。 乳酸脱水素酵素活性に対する阻害作用を有する物質が、オキサミン酸若しくはシュウ酸又はそれらの塩である、請求項3に記載のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性の測定方法。