タイトル: | 特許公報(B2)_温度感受性リポソーム |
出願番号: | 2002015553 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | A61K 9/127,A61K 47/24,A61K 47/32,A61K 8/14 |
河野 健司 青島 貞人 JP 4247361 特許公報(B2) 20090123 2002015553 20020124 温度感受性リポソーム 公立大学法人大阪府立大学 505127721 三枝 英二 100065215 斎藤 健治 100099988 中野 睦子 100108084 林 雅仁 100115484 河野 健司 青島 貞人 20090402 A61K 9/127 20060101AFI20090312BHJP A61K 47/24 20060101ALI20090312BHJP A61K 47/32 20060101ALI20090312BHJP A61K 8/14 20060101ALI20090312BHJP JPA61K9/127A61K47/24A61K47/32A61K8/14 A61K9/00-9/72 A61K47/00-47/48 JSTPlus/JMEDPlus(JDreamII) 特開平05−228358(JP,A) 特開2000−319473(JP,A) 特表昭62−257910(JP,A) 4 2003212755 20030730 15 20050117 特許法第30条第1項適用 高分子学会予稿集第50巻第7号(2001年8月28日)第1335頁及び同巻第14号(2001年8月28日)第3702頁に発表 安居 拓哉 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、特定温度で内部に封入された物質を放出できる温度感受性リポソームに関する。【0002】【従来の技術】リポソームは、リン脂質等の脂質二重膜からなり、生体内で代謝されるために、抗ガン剤、抗菌剤のような薬剤や遺伝子等の安全な運搬体としての応用価値がある。【0003】特に、所定温度で崩壊して内容物を放出する温度感受性リポソームは、抗ガン剤を内包させた温度感受性リポソームをガンの温熱療法と併用することにより、優れた治療効果が得られることが報告されている(「癌の臨床」第32巻、第13号(1986)、「総合臨床」第37巻、第1号(1988))。【0004】従来の温度感受性リポソームとしては、相転移温度を有するリン脂質等を主成分とし、相転移温度でゲル状態から液晶状態に変化し、膜構造に乱れを生じて内包物質を放出するものが一般的である。【0005】しかし、脂質のみからなるリポソーム膜の相転移温度は脂質によって定まっているため、内包物の放出温度の設定の自由度が低い。【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は、内包物の放出温度を自由に設定できる温度感受性リポソームを提供することを主目的とする。【0007】【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために本発明者は研究を重ね、以下の知見を見出した。▲1▼ リン脂質等の膜脂質の他に、感熱応答性部分と疎水性部分とを有する高分子化合物を用いて、リポソームを調製することにより、この高分子化合物を保持したリポソームが得られる。この理論に限定されるものではないが、本発明者は、このリポソームにおいては、リポソームの脂質膜に高分子化合物の疎水性部分が埋め込まれ膜外に感熱応答性部分が存在していると考えている。▲2▼ このリポソームに目的物質を内包させておき、水中に分散させた状態で昇温させると、ある温度で内包物を放出する。この理論に限定されるものではないが、本発明者は以下のように考えている。すなわち、低温下では高分子化合物の感熱応答性部分が水和されているが、温度を上昇させると脱水和し、その結果、感熱応答性部分の疎水性が増大して、当初脂質膜外に存在していた部分の全体又は一部がリポソーム膜内に入り、脂質二重膜が乱れる。リポソーム膜の脂質が整然と配列することにより、目的物質が内部に封入されているため、このように膜が乱れる場合には内包物が放出される。▲3▼ このリポソームの内包物の放出温度は、高分子化合物の構造を設計することにより、リポソーム自体が安定に保持される温度範囲内で任意に設定することができる。例えば、感熱応答性モノマーユニットの親水性部分を大きくするほど高い温度で内包物を放出するようになる。▲4▼ この高分子化合物の分子量、特にその感熱応答性部分をある程度以上大きくすると、より狭い温度領域で、内包物を放出させることができる。▲5▼ この高分子化合物をリビングカチオン重合により合成する場合には、開始剤量とモノマー量を設定することにより所望の分子量の高分子化合物を得ることができる。また、リビングカチオン重合によると、この高分子化合物における感熱応答性部分と疎水性部分との比率を簡単に所望の値にすることができる。また、様々な感熱温度を有するモノマーの重合、共重合も可能である。従って、リビングカチオン重合により得られる高分子化合物を用いることにより、リポソーム内包物の放出温度の設定が一層容易になる。また、リビングカチオン重合により得られる高分子化合物は、ラジカル重合や通常のイオン重合に比べて分子量分布の狭いものとなり、これを用いたリポソームは、一層狭い温度範囲で内包物を放出できるものとなる。【0008】本発明は、前記知見に基づきさらに研究を重ねて完成されたものであり、以下の各項の温度感受性リポソームを提供するものである。項1. 感熱応答性部分と疎水性部分とを有する高分子化合物を、少なくともその疎水性部分を介してリポソーム膜に保持した温度感受性リポソーム。項2. 高分子化合物が、水和可能なヘテロ原子を1個以上含む感熱応答性ビニル系モノマーと疎水性ビニル系モノマーとのブロック共重合体である項1に記載の温度感受性リポソーム。項3. 高分子化合物が、以下の式3の化合物である項2に記載の温度感受性リポソーム。【0009】【式3】【0010】(式中、R1は水素原子、以下の式4に示す置換基又はリビングカチオン重合の開始剤として従来公知の化合物から得られる置換基であり、R2は炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜4のエステル基、アルデヒド基、フェニル基、ビフェニル基又は炭素数7〜14のアラルキル基であり、R3は炭素数4〜30の炭化水素基であり、R4は水素原子又は炭素数1〜10のアルコキシ基又はリビングカチオン重合の停止剤として従来公知の化合物から得られる置換基である。mは5〜500、nは1〜10、yは0〜100である。)【0011】【式4】【0012】(式中、Xは同一又は異なって、水素原子またはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子である。R11は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、エーテル基、オキシエチレン基又はアリール基である。)項4. 高分子化合物の感熱応答性部分の数平均分子量が1000〜30000である項1、2又は3に記載の温度感受性リポソーム。項5. 高分子化合物の数平均分子量が2000〜50000である項1から4のいずれかに記載の温度感受性リポソーム。項6. 高分子化合物の重量平均分子量/数平均分子量の比率が1〜4である項1から5のいずれかに記載の温度感受性リポソーム。項7. リポソームの全体重量に対する高分子化合物の重量の比率が30〜60重量%である項1から6のいずれかに記載の温度感受性リポソーム。項8. 高分子化合物が、リビングカチオン重合により合成されたものである項1から7のいずれかに記載の温度感受性リポソーム。項9. 内部に目的物質が封入された項1から8のいずれかに記載の温度感受性リポソーム。項10. 目的物質が、遺伝子、医薬品、化粧品、香料、香辛料、色素、染料、2液性髪染め料又は脱色剤の1成分、2液性硬化剤の1成分からなる群より選ばれた物質である項9に記載の温度感受性リポソーム。【0013】【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。【0014】本発明の温度感受性リポソームは、感熱応答性部分と疎水性部分とを有する高分子化合物を、少なくともその疎水性部分を介してリポソーム膜に保持したリポソームである。【0015】本発明のリポソームにおいて、高分子化合物は、少なくともその疎水性部分がリポソームの脂質2重層内に埋入され、感熱応答性部分が膜外に存在していると考えられる。また、高分子化合物の疎水性部分が非常に小さい場合には、感熱応答性部分が脂質2重層表面と相互作用することにより脂質膜に保持されていると考えられる。構造等本発明のリポソームは、粒径0.05〜10μm程度の範囲内であればよく、使用目的に応じて種々の粒径とすることができる。ヒトの血管内に投与する目的の場合には、通常0.05〜0.2μm程度、特に0.05〜0.1μm程度であることが好ましい。リポソームの粒径は、従来公知の方法で調節できる。例えばエクストルーダー法でリポソームを調製する場合にはエクストルーダーに装着するフィルターの孔径を調節することにより、任意に設定することができる。リポソームの粒径は、動的光散乱法又は電子顕微鏡観察により測定された値である。【0016】本発明のリポソームは、前記粒径の範囲内であれば、単層リポソームまたは多重層リポソームのいずれであってもよい。【0017】本発明のリポソームは、使用目的によっても異なるが、通常10〜100℃程度、好ましくは20〜80℃程度の温度範囲内で内包物を放出できるものである。使用する脂質によっても異なるが、10〜100℃程度の範囲内であれば、リポソーム自体が不安定になる可能性がない又は低い。内包物の放出温度は、高分子化合物の感熱応答性部分の構造、すなわち親水性部分と疎水性部分の割合及び官能基の種類等を設計することにより、この範囲内で任意に設定できる。ガンや炎症の治療等のためにヒトに投与する目的で用いる場合には、通常40〜45℃程度、特に40〜42℃程度で内包物を放出できるものであることが好ましい。【0018】また、本発明のリポソームは、後述する方法により狭い温度範囲で内包物を放出するものにすることができるが、必ずしも、このように狭い温度範囲で内包物を放出するものでなくてもよい。例えば、芳香剤等を封入したリポソームなどは徐々に芳香剤を放出することが好ましい場合もある。脂質本発明のリポソームの主成分は両親媒性の脂質であり、両親媒性の脂質としては、リポソームの膜脂質として従来公知の脂質を用いることができる。このような脂質として、例えばホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、大豆レシチン、卵黄レシチン等のリン脂質が挙げられる。これらのリン脂質において、脂肪酸部分はラウリル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、アラキドイル、オレイル、リノイル、リノレイル等の任意の組み合わせとすることができる。これらは単独で又は2以上組み合わせて使用できる。特に、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン等が好ましい。【0019】また、遺伝子の運搬体としてのリポソームとする場合には、前記例示したリン脂質の他、従来公知のカチオン性の人工脂質を用いることができる。このようなカチオン性の人工脂質としては、例えばN−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジドデシルグルタメート、N−〔1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル〕−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド及び1,2−ビス(オレオイルオキシ)−3−(トリメチルアンモニオ)プロパン等の第4級アンモニウム塩が挙げられる。これらの脂質は、単独でまたは2以上組み合わせて用いることができる。【0020】リポソームを構成する脂質には、コレステロール、ラノステロール、エルゴステロール等のステロールが含まれていてもよい。高分子化合物<構造>温度感受性リポソームに含まれる高分子化合物は、感熱応答性部分を有する高分子化合物である。特に、感熱応答性部分と疎水性部分とを有する高分子化合物であることが好ましい。このような、高分子化合物の種類は特に限定されないが、例えば、水和可能なヘテロ原子を1個以上含む感熱応答性ビニル系モノマーと、疎水性ビニル系モノマーとのブロック共重合体が挙げられる。【0021】水和可能なヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子等が挙げられる。水和可能なヘテロ原子の数の上限は、重合を行える範囲であれば特に限定されない。水和可能なヘテロ原子を含む置換基としては、−CH2−CH2−O−、−CO−、―COO―、―CONH―、−NHCOO−等が挙げられる。【0022】また、疎水性ビニル系モノマーとしては、炭素数3〜40個程度、特に炭素数4〜30個程度の各種の脂肪族、脂環族又は芳香族の炭化水素基を有するビニル系モノマーを使用できる。【0023】前記のブロック共重合体において、ヘテロ原子を1個以上含む感熱応答性ビニル系モノマーと疎水性ビニル系モノマーとの共重合比率は、各モノマーの種類によっても異なるが、通常300:1〜3:1程度、特に200:1〜10:1程度が好ましい。この範囲内であれば、高分子化合物をリポソームの膜に安定に保持できる。<分子量>高分子化合物の数平均分子量のうち感熱応答性部分に該当する量は、特に制限されないが、通常数百〜数十万程度とすればよい。特に、1000〜30000程度、さらに特に10000〜20000程度とすることが好ましく、これにより狭い温度範囲で内包物を放出できるものとなる。【0024】また、この高分子化合物全体の分子量は、特に制限されないが、数平均分子量で、通常数百〜数十万程度とすればよい。この範囲内であれば、脂質膜に安定に保持される。特に2000〜50000程度、さらに特に10000〜20000程度(特に11000〜21000程度)とすることが好ましく、これにより狭い温度範囲で内包物を放出できるものとなる。【0025】また、高分子化合物の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、通常1〜4程度、特に1.0〜1.5程度であることが好ましい。この範囲内であれば、得られるリポソームが実用上十分に狭い温度範囲で内包物を放出できるものとなる。【0026】本発明において、数平均分子量及び重量平均分子量は、それぞれ実施例に記載の方法により測定した値である。<含有量>本発明のリポソームにおける高分子化合物の含有量は、通常10〜60重量%程度、特に30〜60重量%程度とすることが好ましい。高分子化合物の含有量が多い方が、得られるリポソームの温度感受性が高くなるが、含有量が余りに多いとリポソームを調製すること自体が困難になってくる。前記の範囲内であれば、リポソームを十分に温度感受性とすることができるとともに、実用上十分に安定なリポソームが得られる。<高分子化合物の具体例>高分子化合物の好適な具体例としては、以下の化合物が挙げられる。【0027】【式5】【0028】(式中、R1は水素原子、以下の式6に示す置換基又はリビングカチオン重合の開始剤として従来公知の化合物から得られる置換基であり、R2は炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜4のエステル基、アルデヒド基、フェニル基、ビフェニル基又は炭素数7〜14のアラルキル基であり、R3は炭素数4〜30の炭化水素基であり、R4は水素原子又は炭素数1〜10のアルコキシ基又はリビングカチオン重合の停止剤として従来公知の化合物から得られる置換基である。mは5〜500、nは1〜10、yは0〜100である。)式5において、R1として例示した式6の置換基は以下の通りである。【0029】【式6】【0030】(式中、Xは同一又は異なって、水素原子またはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子である。R11は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、エーテル基、オキシエチレン基又はアリール基である。)リビングカチオン重合の開始剤として従来公知の化合物としては、例えば特開平1-108202号公報又は特開平1-108203号公報に記載の開始剤、イニファー法(米国特許4276394号)で用いられている開始剤(α位に芳香環を有する塩素化合物)から得られる置換基(特開2001-055408)、東村らによりMacromolecules,17,265,1984において報告されている開始剤(ヨウ化水素とヨウ素とを組み合わせた開始剤)、特開昭62−48704、特開昭64−62308に記載されている開始剤から得られる置換基等が挙げられる。【0031】R2は、上記列挙した置換基のうち、特に炭素数1〜4個程度のアルキル基であることが好ましい。【0032】R3は、炭素数4〜30個程度の炭化水素基であるが、このような置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。特に、炭素数8〜30個程度の直鎖アルキル基が好ましい。【0033】mとnとの比率については、R1、R2、R3、R4の種類及びオキシエチレン鎖の長さ等によっても異なるが、m:nが300:1〜3:1程度、特に200:1〜10:1程度となるようにすればよい。【0034】前述したように、yは0〜100程度であり、y=0の場合にはオキシエチレンは存在しない。yは特に0〜10程度であることが好ましい。オキシレチレン鎖が長いほど、内包物の放出温度が高くなるが、この範囲内であれば、リポソームを10〜100℃程度の温度範囲で内包物を放出させることができる。<合成方法>この高分子化合物は、ビニルモノマーの種類によっても異なるが、カチオン重合等の公知の方法でモノマーを重合させることにより得られる。特に、リビングカチオン重合によることが好ましい。リビングカチオン重合法は、例えば特開平1-108202号公報、特開平1-108203号公報、特開2001-055408号公報、特開2000-198825号公報、特開平8-269118号公報に記載されている。【0035】リビングカチオン重合によると、モノマーが無くなるか又は停止剤を添加するまで成長末端が消滅しないため、感熱応答性部分及び疎水性部分の各鎖長ひいては高分子化合物の分子量を容易に所望の値にすることができる。また、他の重合法に比べて、狭い分子量分布の高分子材料を得ることができる。従って、得られる高分子化合物を用いて調製したリポソームは、狭い温度範囲で内包物を放出できるものとなる。内包物本発明のリポソームは、内部に遺伝子、医薬品、化粧品、色素、染料、香料、香辛料、2液性髪染め料又は脱色剤の1成分、2液性硬化剤の1成分等を含んでいてもよい。【0036】遺伝子としては、それには限定されないが、例えば、重症複合型免疫不全症の治療のためのアデノシンデアミナーゼ遺伝子、家族性高コレステロール血症の治療のためのLDL受容体遺伝子、癌治療のためのインターフェロン(IFN)−α、β又はγ遺伝子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CFS)遺伝子、各種インターロイキン(IL)遺伝子、腫瘍壊死因子(TNF)−α遺伝子、リンホトキシン(LT)−β遺伝子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)遺伝子、T細胞活性化共刺激因子遺伝子等が挙げられる。その他、アルツハイマー病、脊椎損傷、パーキンソン病、動脈硬化症、糖尿病、高血圧症等の治療のための遺伝子も挙げられる。【0037】医薬品としては、それには限定されないが、例えば温熱療法と併用される抗腫瘍剤、抗炎症剤等が挙げられる。抗腫瘍剤の具体例としては、シスプラチン、カルボプラチン、テトラプラチン、イプロプラチン等の金属錯体、アドリアマイシン、マイトマイシン、アクチノマイシン、アンサマイトシン、ブレオマイシン、Ara-C、ダウノマイシン等の制癌抗生物質、5-FU、メトトレキセート、TAC-788等の代謝拮抗剤、BCNU、CCNU等のアルキル化剤、インターフェロン(α、β、γ)、各種インターロイキン等のリンホカイン等が挙げられる。また、抗炎症剤の具体例としては、プレドニン、リンデロン、セレスタミン等を例示できる。これらの医薬品を内包したリポソームは、ヒトに投与後、患部を温めることによりその部分で内包物を放出して薬効を表す。【0038】化粧品としては、それには限定されないが、例えば長時間皮膚に付けると炎症等を引き起こしやすい日焼け止め等が挙げられる。このような化粧品は本発明のリポソームに封入することにより日光が当たったときに初めて内包物を放出するようになるため、皮膚に対するダメージを最小限に抑えることができる。【0039】色素は食用のものでもそうでなくてもよい。色素及び染料は、必要時にのみ加熱してリポソーム外に放出させ、発色させることができる。これにより取り扱い時に意図しない部分に付着して発色することがない。意図しない部分に付着した色素又は染料は水で洗い流せばよい。【0040】香料及び香辛料は、揮発性のものであってもそうでなくてもよい。それには限定されないが、揮発性の香料又は香辛料である場合には、必要時まではリポソーム内に封入されているため減量せず、必要時にリポソームから放出されて十分に芳香を放つことができる。例えば、清涼感のある香料を封入したリポソームは、室温が高くなると香料を放出して清涼感のある香りを周囲に漂わせることができる。【0041】髪染め料及び脱色剤の中には、2液性であって使用時に2成分を混合するものがあるが、このような髪染め料又は脱色剤は、一方の成分を本発明のリポソームに封入した上で他方成分との混合物にしておくことができる。そして、使用時に加熱することにより両成分を反応させればよい。これにより、混合する手間が省け、また容器を汚すことがない。【0042】2液性硬化剤としては、例えばシリコーン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリウレタン系樹脂又はエポキシ系樹脂のように反応硬化型の樹脂が挙げられる。このような2液性硬化剤は、一方の成分を本発明のリポソームに封入した上で他方成分との混合物にしておくことができる。そして、塗布した後に加熱することにより両成分を反応させて硬化させればよい。これにより2成分を混合した後に、素早く塗布しなくてもよくなり、作業が簡単になる。これは、家庭用接着剤、建設用接着剤又は建設用シーリング剤等のいずれとしても使用できる。【0043】内包物の量は、リポソームの使用目的、リポソームの使用環境の浸透圧等を考慮して適宜選択すればよいが、通常0.1mol/l〜0.4mol/l程度の濃度で薬物等を内包することができる。リポソームの製造方法本発明のリポソームは、従来公知のリポソームの製造方法において、脂質とともに本発明の高分子化合物を添加することにより製造することができる。従来公知のリポソーム製造方法としては、エクストルーダー法、超音波法、フレンチプレス法等が挙げられる。これらの方法の詳細は、「リポソーム」(野島小七、砂本順三、井上圭三編、南江堂)及び「ライフサイエンスにおけるリポソーム」(寺田弘、吉村哲郎編、シュプリンガー・フェアラーク東京)に記載されている。【0044】例えば、エクストルーダー法により本発明のリポソームを製造する方法について説明すると、全体量に対して10〜60重量%程度の高分子化合物をクロロホルム等の適当な有機溶媒に溶解させた溶液を容器内に入れる。次いで、エバポレーターを用いて溶媒を除去し、容器壁に脂質と高分子化合物とからなる膜を形成させる。好ましくは、さらに3〜12時間程度真空乾燥させた後、この容器内に、内包化合物を水や適当なバッファーに溶解した溶液を入れる。内包化合物の溶液の濃度は、目的に応じて異なるが、通常、リポソーム作製時に使用する化合物溶液濃度を0.1mol/l〜0.4mol/l程度にすることができる。次いで、溶液を超音波処理またはボルテックスミキサー等を用いて強く攪拌することにより、溶媒中に分散したリポソームが得られる。さらに、リポソーム分散液をエクストルーダーに通すが、そのフィルター孔径を適宜設定することにより、粒径0.05〜0.5μm程度のリポソームが得られる。この方法により、通常1~数層程度のリポソームが得られる。最後に、得られたリポソームから、担持されなかった高分子化合物及び内包化合物を除去する。残余の高分子化合物及び内包化合物は、通常ゲルろ過法、透析法等により除去すればよい。電荷を有する化合物の場合には、イオン交換クロマトグラフィーによることもできる。【0045】【発明の効果】本発明によると、放出温度を自由に設定できる温度感受性リポソームが得られる。詳述すれば、本発明のリポソームは、感熱応答性部分と疎水性部分とを有する高分子化合物を、少なくともその疎水性部分が脂質膜に埋入されることにより保持している。このリポソームの温度を上げることにより感熱応答性部分に水和していた水が脱水和し、感熱応答性部分が疎水性となって膜内に入り脂質2重層が乱れて内包物が放出される。ここで、高分子化合物の感熱応答性部分の置換基の種類を選択することにより内包物の放出温度を調節することができる。また、高分子化合物の分子量分布を狭くしたり、感熱応答性部分の分子量を大きくするほど、狭い温度で内包物を放出するようになる。また、従来使用されている遺伝子の運搬体としてのリポソームは、カチオン性の人工脂質からなるリポソームに遺伝子を内包させ、負に荷電した細胞表面に静電的相互作用によりその遺伝子を運搬するものであった。この方法では、細胞選択性がなく、注入した部位の細胞にのみ遺伝子が運搬される。この点、本発明の温度感受性リポソームを、カチオン性の人工脂質を用いて調製する場合には、リポソーム表面に中性の高分子化合物の感熱応答性部分が存在するために、その表面は中性になる。このリポソームをヒトに投与後、所定部位を暖めることにより、その部位で感熱応答性部分の水和水が脱水和し、高分子鎖の全体又は略全体がリポソーム膜内に入るため、リポソーム表面がカチオン性となって負荷電した細胞表面と相互作用できるようになる。これにより、所望の細胞に選択的に遺伝子を運搬することができる。【0046】【実施例】以下、実施例を示して本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。<分子量の測定方法>高分子化合物の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、それぞれゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の結果から算出した。GPCは、高速液体クロマトグラフ(東ソー社製のTSKgelカラムG-200HXL+G-3000 HXL+G-4000 HXL、溶離液はクロロホルム)を用いて行い、そのクロマトグラフィーの結果から、被験化合物の分子量をポリスチレンを標準物質として算出することにより、ポリスチレン換算Mw及びMnとして求めた。<内包物質放出試験>試験的内包物質として蛍光物質であるカルセインを用いて、以下の方法でリポソームからのカルセインの放出温度を調べた。【0047】カルセインを封入したリポソームを、所定の低い温度のTris-HCl(140mM Tris-HCl, 100mM NaCl)緩衝溶液中に分散させ(脂質濃度にして10μM)、この緩衝液の温度を徐々に上げていき、分散液の蛍光強度を分光蛍光光度計(島津製作所社製、RF5300)を用いて経時的に測定した。【0048】カルセインは高濃度において消光するため、リポソーム内部に封入されているときには蛍光を出さないが、リポソームから緩衝液中に放出されると蛍光を発する。したがって、緩衝液を昇温させつつリポソーム分散液のカルセインの蛍光をモニターすることによって、リポソームからのカルセインの放出温度を調べることができる。カルセインの励起波長およびモニター波長はそれぞれ490nmおよび520nmとした。【0049】リポソームからのカルセインの放出率は以下の式によって算出した。【0050】放出率=(Ft-Fi)/(Ff-Fi)×100Ft:測定温度におけるリポソーム分散液のカルセイン蛍光強度Fi:昇温開始前の温度におけるリポソーム分散液のカルセイン蛍光強度Ff:界面活性剤トリトン-X100 (0.2v/v%)を加えてリポソームを破壊したときのカルセイン蛍光強度<リポソームの調製>卵黄ホスファチジルコリン(EYPC)(3mg)、オイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)(4.5mg)および高分子化合物(3.8mg〜11.3mg)をクロロホルム2mlに溶解した溶液を、10ml容のフラスコに入れ、ロータリーエバポレーターを用いてクロロホルムを除去することにより、フラスコ内壁にリン脂質と高分子化合物との混合薄膜を形成させた。さらに1晩真空乾燥した後、蛍光色素カルセイン(63 mmol/l)の水溶液(0.75 ml, pH7.4)を加え、1分間バス型超音波照射器(Branson, B-32)で超音波照射して脂質/高分子複合体を分散させ、リポソームを得た。さらにこのリポソーム分散液を、エクストルーダー(Avestin, フィルター孔径100nm)を用いて、リポソームの粒径をそろえた。担持されてない高分子化合物およびカルセインは、10mM Tris-HCl+100mM NaCl緩衝液(pH7.4、4℃)を溶離液とするゲル濾過(Sephadex G-75, Pharmacia Biotech)により除去した。実施例1感熱応答性部分のみ有する高分子化合物を溶解させた水溶液を調製し、この水溶液の温度を上昇させることにより、感熱応答性部分が親水性から疎水性となる温度を調べた。水溶液の温度を上昇させると、水和水が外れ又は水和水塊が小さくなり、その結果高分子化合物が分子内又は分子間で会合して沈殿を生じる。従って、水溶液に波長500nmの光を照射して波長500nmの光の透過率をモニターしながら、水溶液の温度を上昇させ、当該透過率が急激に低下するときの温度を臨界溶液温度とした。【0051】感熱応答性部分のみ有する高分子化合物を用いたのは、疎水性部分が含まれていると、疎水性部分が会合体を作るため、感熱応答性部分から水和水が外れることによる透過率の低下を正確に検出することができないからである。<感熱応答性高分子化合物の合成>三方活栓を取り付けたガラス容器を窒素雰囲気下250℃で加熱し、容器内を十分に乾燥した。系を室温に戻した後、(2−エトキシ)エトキシエチルビニルエーテル4mmol、酢酸エチル10mmol、1−イソブトキシエチルアセテート0.04mmol及びトルエン6.2mlを加え、系内温度が0℃に達したところでエチルアルミニウムセスキクロライドを0.2mmol加え重合を開始した。重合の停止は、系内に少量のアンモニア水を含んだメタノール3mlを加えて行った。反応を終えた混合溶液中にジクロロメタンを加えて希釈し、0.6Nの塩酸溶液で3回、次いで蒸留水で3回洗浄した。得られた反応物をエバポレーターで濃縮した後、真空乾燥させ、目的物のポリマーを得た。化合物の同定はNMR及びGPCを用いて行った。これによりMn=15800、Mw/Mn=1.16のポリマーが得られた。【0052】前記説明したMn=15800のポリマーの合成において、(2−エトキシ)エトキシエチルビニルエーテルの量を2.6mmolとした他は同様にしてMn=8300、Mw/Mn=1.15のポリマーを得た。また、前記説明したMn=15800のポリマーの合成において、(2−エトキシ)エトキシエチルビニルエーテルの量を1.3mmolとした他は同様にしてMn=5300、Mw/Mn=1.14のポリマーを得た。<臨界溶液温度の測定>数平均分子量5300、8300及び15800の各ポリ(2-エトキシ)エトキシエチルビニルエーテルについて、それぞれ1.0重量%、0.5重量%、0.2重量%及び0.1重量%の水溶液を調製した。各ポリビニルエーテル水溶液を30℃から50℃まで徐々に昇温させ、その間の500nmにおける透過率をモニターした。【0053】結果を図1に示す。(A)は数平均分子量5300の各ポリ(2-エトキシ)エトキシエチルビニルエーテル、(B)は数平均分子量8300の各ポリ(2-エトキシ)エトキシエチルビニルエーテル、(C)は数平均分子量15800の各ポリ(2-エトキシ)エトキシエチルビニルエーテルを用いた場合の結果である。【0054】図1から、いずれの分子量でも40〜45℃程度の範囲内で高感度で使用液が白濁しており、親水性から疎水性に変化していることが分かる。特に分子量がある程度(ここでは8300)以上大きくなると、その感度は極めて高くなることが分かる。【0055】また、図2は、図1において、熱感応性高分子化合物の濃度に対して臨界溶液温度(500nmにおける透過率が急に低下する温度)をプロットしたグラフである。図2から、いずれの分子量、濃度においても高感度な相分離が見られることが分かる。さらに詳しく検討すると、親水性高分子化合物の分子量が大きいほど臨界溶液温度が概ね高くなることが分かる。実施例2<高分子化合物の合成>ブロックコポリマーの合成は、逐次モノマー添加法により行った。先ず、三方活栓を取り付けたガラス容器を窒素雰囲気下250℃で加熱し、容器内を十分に乾燥した。系を室温に戻した後、(2−エトキシ)エトキシエチルビニルエーテル4mmol、酢酸エチル10mmol、1−イソブトキシエチルアセテート0.04mmol及びトルエン6.2mlを加え、系内温度が0℃に達したところでエチルアルミニウムセスキクロライドを0.2mmol加え重合を開始した。重合がほぼ終了した時点で、第2のモノマーとしてオクタデシルビニルエーテル0.2mmolを含んだトルエン溶液3mlを加えてブロック共重合を行った。重合の停止は、系内に少量のアンモニア水を含んだメタノール3mlを加えて行った。反応を終えた混合溶液中にジクロロメタンを加えて希釈し、0.6Nの塩酸溶液で3回、次いで蒸留水で3回洗浄した。得られた反応物をエバポレーターで濃縮した後、真空乾燥させ、目的物のポリマーを得た。化合物の同定はNMR及びGPCを用いて行った。これによりMn=16700、Mw/Mn=1.14のポリマーが得られた。得られたポリマーにおいて、オクタデシルビニルエーテル/(2−エトキシ)エトキシエチルビニルエーテルの共重合比率は、100/5であった。【0056】前記説明したMn=16700のポリマーの合成において、(2−エトキシ)エトキシエチルビニルエーテルの量を2.6mmolとした他は同様にしてMn=9300、Mw/Mn=1.16のポリマーを得た。得られたポリマーにおいて、オクタデシルビニルエーテル/(2−エトキシ)エトキシエチルビニルエーテルの共重合比率は、66/5であった。【0057】また、前記説明したMn=16700のポリマーの合成において、(2−エトキシ)エトキシエチルビニルエーテルの量を1.3mmolとした他は同様にしてMn=6900、Mw/Mn=1.13のポリマーを得た。得られたポリマーにおいて、オクタデシルビニルエーテル/(2−エトキシ)エトキシエチルビニルエーテルの共重合比率は、33/5であった。<カルセイン放出温度>分子量6900、9300及び16700の各オクタデシルビニルエーテル−(2−エトキシ)エトキシエチルビニルエーテル共重合体を保持し、カルセインを内包したリポソームの分散液をそれぞれ調製し、各分散液の温度を10℃から50℃まで徐々に上げていき、カルセインの放出率をモニターした。【0058】結果を図3に示す。図3から、高分子化合物の分子量が大きいほど、狭い温度範囲でカルセインを放出することが分かる。【0059】また、前記の各リポソーム分散液を25℃及び40℃でインキュベートし、カルセインの放出率をモニターした。結果を図4に示す。図4から、分子量が大きいほど、短時間でカルセインを放出できることが分かる。【図面の簡単な説明】【図1】数平均分子量5300(A)、8300(B)及び15800(C)の各ポリ(2-エトキシ)エトキシエチルビニルエーテルの水溶液の温度と500nmにおける透過率との関係を示すグラフである。【図2】ポリ(2−エトキシ)エトキシエチルビニルエーテルの水溶液の臨界溶液温度の濃度と臨界溶液温度との関係を示すグラフである。【図3】オクタデシルビニルエーテル−(2−エトキシ)エトキシエチルビニルエーテル共重合体を保持し、蛍光物質のカルセインを内包したリポソームについての、温度とカルセイン放出温度との関係を示すグラフである。【図4】オクタデシルビニルエーテル−(2−エトキシ)エトキシエチルビニルエーテル共重合体を保持し、蛍光物質のカルセインを内包したリポソームの25℃及び40℃における経時的なカルセイン放出率を示すグラフである。 以下の式1:【式1】(式中、R1は水素原子、以下の式2に示す置換基又はリビングカチオン重合の開始剤として従来公知の化合物から得られる置換基であり、R2は炭素数1〜4のアルキル基であり、R3は炭素数8〜30の炭化水素基であり、R4は水素原子又は炭素数1〜10のアルコキシ基又はリビングカチオン重合の停止剤として従来公知の化合物から得られる置換基である。mは5〜500、nは1〜10、yは0〜100である。)【式2】(式中、Xは同一又は異なって、水素原子またはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子である。R11は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、エーテル基、オキシエチレン基又はアリール基である。)で表される感熱応答性部分と疎水性部分とを有する高分子化合物を、少なくともその疎水性部分を介してリポソーム膜に保持した温度感受性リポソーム。 高分子化合物が、リビングカチオン重合により合成されたものである請求項1に記載の温度感受性リポソーム。 内部に目的物質が封入された請求項1又は2に記載の温度感受性リポソーム。 目的物質が、遺伝子、医薬品、化粧品、香料、香辛料、色素、染料、2液性髪染め料又は脱色剤の1成分、2液性硬化剤の1成分からなる群より選ばれた物質である請求項3に記載の温度感受性リポソーム。