タイトル: | 特許公報(B2)_γ−グルタミルシステインの製造法 |
出願番号: | 2001587106 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C12N 1/16,C12N 15/09,A23L 1/28,C12R 1/865 |
西内 博章 佐野 公一朗 杉本 玲子 上田 要一 JP 4622204 特許公報(B2) 20101112 2001587106 20010524 γ−グルタミルシステインの製造法 味の素株式会社 000000066 川口 嘉之 100100549 松倉 秀実 100090516 佐貫 伸一 100126505 丹羽 武司 100131392 西内 博章 佐野 公一朗 杉本 玲子 上田 要一 JP 2000155121 20000525 20110202 C12N 1/16 20060101AFI20110113BHJP C12N 15/09 20060101ALI20110113BHJP A23L 1/28 20060101ALI20110113BHJP C12R 1/865 20060101ALN20110113BHJP JPC12N1/16 GC12N15/00 AA23L1/28 AC12N1/16 GC12R1:865 C12N 15/00〜15/90 A23L 1/28 C12N 1/16 PubMed 国際公開第00/030474(WO,A1) 特開平04−066069(JP,A) 特開平08−228714(JP,A) 特開昭61−074596(JP,A) Agric Biol Chem, vol.54, p.3145-3150 (1990) 2 JP2001004366 20010524 WO2001090310 20011129 15 20070522 光本 美奈子 技術分野本発明は、γ−グルタミルシステイン含量の高い酵母及び酵母エキス、並びに同酵母を育種する方法に関する。γ−グルタミルシステイン、及びそれから製造されるシステインは、食品分野で有用である。背景技術システインは、食品の風味改善などを目的に用いられている。システインの製法については蛋白分解法や半合成法などが知られているが、現在主に用いられている方法は蛋白分解法と半合成法である。システインを食品の風味改善に用いることを目的として、システイン含量の高い天然食品素材が求められているが、そのような天然食品素材は従来ほとんど知られていなかった。一方、システインにグルタミン酸及びグリシンが結合したトリペプチドであるグルタチオンも、食品の風味改善に用いることが知られている。グルタチオンは、システインから、γ−グルタミルシステインを介して合成される。しかし、γ−グルタミルシステインを食品の風味改善に用いることはほとんど行われていない。γ−グルタミルシステインは、γ−グルタミルシステイン合成酵素(GSH1)により、システインとグルタミン酸から合成される。そして、グルタチオンは、γ−グルタミルシステインとグリシンから、グルタチオン合成酵素(GSH2)により合成される。γ−グルタミルシステイン合成酵素遺伝子のプロモーターが強転写プロモーターΔP8で交換された酵母サッカロマイセス・セレビシエYHT178株は、菌体内でγ−グルタミルシステイン合成酵素を大量に生産することが報告されている(大竹康之ら、バイオサイエンスとインダストリー、第50巻第10号、第989〜994頁、1992年)。また、大竹らは、別の報告で、サッカロマイセス・セレビシエのグルタチオン合成酵素遺伝子欠損株YL1株では、グルタチオンが検出されなかったと報告している(大竹康之ら、Agricultural and Biological Chemistry、第12巻、第54号、第3145〜3150頁、1990年)。井上らは、染色体上のグルタチオン合成酵素遺伝子の遺伝子破壊について報告している(Yoshiharu Inoueら、Biochimica et Biophysica Acta、第1395号、第315〜320頁、1998年)。この破壊遺伝子は、396位のアミノ酸残基までは正確に翻訳され、397位以降のC末端側領域を欠失したグルタチオン合成酵素をコードしていると考えられる。井上らは、遺伝子破壊株のグルタチオン含量を測定したがグルタチオンは検出されなかったと報告している。ところで、γ−グルタミルシステインに糖類を添加して加熱することによりフレーバー組成物が得られることが知られている(特開平4−91762号公報)が、γ−グルタミルシステインを加熱するとシステインが遊離することは知られていない。発明の開示上記のように、γ−グルタミルシステイン合成酵素の発現の増強、及び、グルタチオン合成酵素遺伝子の破壊に関する報告がある。しかし、いずれの場合にも、取得されたサッカロマイセス・セレビシエは、γ−グルタミルシステイン含量が低いか、あるいは生育がよくないものであり、工業生産に必要な条件を十分に満足するものとはいえない。γ−グルタミルシステイン合成酵素の発現が増強されたYHT178株は、最小合成培地において最大1.69%のγ−グルタミルシステインを菌体内に蓄積し得ると報告されている(前出、大竹ら、バイオサイエンスとインダストリー)。この培地における酵母の増殖速度は報告されておらず、最小合成培地よりも栄養源に富んだYPD培地での増殖速度が報告されているが、YPD培地においてさえ工業レベルで必要な増殖速度に達しているとはいえない。また、グルタチオン合成酵素遺伝子が破壊されたYL1株の報告されているγ−グルタミルシステイン含有量は0.533%と少なく、工業レベルの実用に耐え得るものでもない(前出、大竹ら、Agric.Biol.Chem.)。なお、クリスら(Chris M.Grantら、Molecular Biology of the Cell、第8巻、第1699〜1707頁、1997年)は、YL1株の表現型がグルタチオン合成酵素を部分的に弱めたものと一致するので、グルタチオン合成酵素を完全に欠落させたものではないと指摘している。しかし、YL1株は、グルタチオンを含む培地と含まない培地における対数増殖期の増殖能が大きく異なっているので、本件発明のグルタチオン合成酵素弱化株とは本質的に異なる。また、井上ら(前出)が作製したグルタチオン合成酵素遺伝子破壊株についてグルタチオン含有量を測定した結果、グルタチオンは検出されなかったと報告されている。このような技術背景の下に、本発明は、システインと同様に食品の風味改善に実用的に用いることができる天然食品素材を提供すること、具体的には、工業レベルでの生産にも適用可能であり、かつ、γ−グルタミルシステインの蓄積量の多い酵母及びその酵母を用いて製造される酵母エキスを提供することを課題とする。本発明者らは、γ−グルタミルシステインを加熱するとシステインが遊離することを見出し、γ−グルタミルシステインを含有する天然食品素材を加熱すれば、システインを含有する天然食品素材と同様に用いられる天然食品素材を製造することができると考えた。そこで、γ−グルタミルシステインを高含有する酵母を育種することを目指し、グルタチオン合成酵素遺伝子の破壊を試みたが、満足できる結果は得られなかった。さらに、鋭意検討を行った結果、γ−グルタミルシステインを高含有し、かつ、生育の良好な菌株を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下のとおりである。(1)サッカロマイセス・セレビシエの野生株よりもグルタチオン合成酵素欠損株の生育が遅い培地で培養したとき、その対数増殖期に、γ−グルタミルシステインを1重量%以上含有することができ、かつ、グルタチオンを0.004重量%〜0.1重量%の範囲で含有するサッカロマイセス・セレビシエ。(2)前記サッカロマイセス・セレビシエの野生株よりもグルタチオン合成酵素欠損株の生育が遅い培地が、グルタチオンを含まない培地、又は、グルタチオン、γ−グルタミルシステイン、L−システイン及びシスチンを含まない培地である(1)のサッカロマイセス・セレビシエ。(3)前記培地が最小培地である(2)のサッカロマイセス・セレビシエ。(4)染色体上のグルタチオン合成酵素遺伝子によってコードされるグルタチオン合成酵素が、370位のアルギニン残基以降のC末端側の領域を欠失していることを特徴とするサッカロマイセス・セレビシエ。(5)(1)〜(4)のいずれかのサッカロマイセス・セレビシエを好適な培地で培養し、得られた菌体を用いて製造された酵母エキス。(6)サッカロマイセス・セレビシエのグルタチオン合成酵素遺伝子を遺伝子組換え法によって改変した組換え体を作製し、サッカロマイセス・セレビシエの野生株よりもグルタチオン合成酵素欠損株の生育が遅い培地で培養したとき、その対数増殖期にグルタチオンを0.004重量%〜0.1重量%の範囲で含有する組換え体を選択することを特徴とするγ−グルタミルシステインを含有するサッカロマイセス・セレビシエの育種方法。以下、本発明を詳細に説明する。前記したように、本発明は第一に、γ−グルタミルシステインを加熱するとシステインが得られるという知見に基づいている。γ−グルタミルシステインをpH1〜7において50〜120℃で3〜300分加熱すると、γ−グルタミルシステインはシステインとPCA(ピロリドンカルボン酸)に分解するため、システインが全体として高収率で得られる。尚、以降、「システイン」というときは、L−システインとその酸化型ジスルフィドであるシスチンの両者をいうことがある。本発明のサッカロマイセス・セレビシエは、上記知見に基づき、食品の風味改善用等を目的として作製されたものである。本発明のサッカロマイセス・セレビシエは、サッカロマイセス・セレビシエの野生株よりもグルタチオン合成酵素欠損株の生育が遅い培地で培養したとき、その対数増殖期に、γ−グルタミルシステインを固形成分に占める割合で1重量%以上含有する。尚、本発明において、γ−グルタミルシステイン又はグルタチオンの含有量は、菌体の固形成分、例えば、105℃で4時間加熱した後の菌体重量に対するγ−グルタミルシステイン又はグルタチオンの含有量(%)をいう。また、本発明のサッカロマイセス・セレビシエは、サッカロマイセス・セレビシエの野生株よりもグルタチオン合成酵素欠損株の生育が遅い培地で培養したとき、その対数増殖期に、γ−グルタミルシステインを1重量%以上、好ましくは1.7重量%以上含有することができ、かつ、グルタチオンを0.004重量%〜0.1重量%の範囲、好ましくは0.004重量%〜0.01重量%の範囲で含有する。後記実施例に示すように、本発明のサッカロマイセス・セレビシエは、グルタチオンを微量産生し、グルタチオンを含まない培地においてグルタチオン合成酵素欠損株よりも良好な生育を示す。ここで、本発明のサッカロマイセス・セレビシエのごとく、前記培地で0.004重量%〜0.1重量%のグルタチオンを産生する程度の微弱なグルタチオン合成酵素活性を有する株を、「グルタチオン合成酵素弱化株」ということがある。これに対し、「グルタチオン合成酵素欠損株」とは、グルタチオン合成酵素活性を実質的に欠損し、最小培地でグルタチオンを産生できない株をいう。また、本発明において、「対数増殖期」とは、培養中におけるサッカロマイセス・セレビシエの細胞数が培養時間に対して対数的に増加する時期をいう。尚、γ−グルタミルシステイン含有量は、対数増殖期のすべてにわたって1重量%以上である必要はなく、少なくとも対数増殖期の任意の時点において、好ましくは、対数増殖期の次に述べる状態で1重量%以上であればよい。即ち、前記状態とは、対数増殖期から定常状態になったときの培養液の吸光度の1/2以上の吸光度を有する対数増殖期である。上述したように、本発明のサッカロマイセス・セレビシエは、γ−グルタミルシステインを一定量以上産生し、かつ、グルタチオンが存在しないような工業的に用いられる培地における生育も良好であるので、単位時間あたりのγ−グルタミルシステインの生産能に優れ、γ−グルタミルシステインを含有する酵母エキスの効率的な製造に適している。また、得られた酵母エキスを加熱することによって、システイン高含有酵母エキスを製造することができる。サッカロマイセス・セレビシエの野生株、すなわちグルタチオン合成酵素活性を有し、グルタチオンを産生する株よりも、グルタチオン合成酵素欠損株の生育が遅い培地としては、例えば、グルタチオンを含まない培地、あるいは、グルタチオン、γ−グルタミルシステイン、L−システイン及びシスチンを含まない培地が挙げられる。具体的には、SD培地等の各種の最小培地が挙げられる。本発明のサッカロマイセス・セレビシエが上記の性質以外の栄養要求性を有する場合は、前記培地は、栄養要求性に応じた栄養成分、例えばシステイン以外の各種アミノ酸、ヌクレオチド、ビタミン等を必要に応じて含む。本発明のサッカロマイセス・セレビシエとして具体的には、染色体上のグルタチオン合成酵素遺伝子によってコードされるグルタチオン合成酵素が、370位のアルギニン残基以降のC末端側の領域を欠失したサッカロマイセス・セレビシエ、つまり、370位以下を欠失したグルタチオン合成酵素を産生するサッカロマイセス・セレビシエが挙げられる。前出の井上らの報告(Yoshiharu Inoueら、Biochimica et Biophysica Acta、第1395号、第315〜320頁、1998年)からは、396番目のアミノ酸残基までを含み、397番目のアミノ酸残基以降を欠失したグルタチオン合成酵素は、活性を欠損していると考えられた。したがって、グルタチオン合成酵素構造遺伝子の396番目のコドンよりも上流のコドンを終始コドンに置換した場合は、発現産物はグルタチオン合成酵素活性を示さないと予想された。しかしながら、後記実施例に示すように、370番目のコドンを終始コドンに置換したグルタチオン合成酵素遺伝子を用いて作製した遺伝子置換株は、微量のグルタチオンを産生したことから、微弱なグルタチオン合成酵素活性を有していることが示唆された。本発明のサッカロマイセス・セレビシエは、上記知見にしたがって、菌体のグルタチオン合成酵素活性を弱化させることによって取得することができる。グルタチオン合成酵素活性を弱化させるには、例えば、グルタチオン合成酵素遺伝子のプロモーターを、同遺伝子固有のプロモーターから他の遺伝子由来の弱いプロモーターに置換する、グルタチオン合成酵素遺伝子のプロモーター又はコード領域を改変して発現もしくは活性又はその両方を弱める、あるいは、同遺伝子の転写因子活性を弱める、等の方法が挙げられる。グルタチオン合成酵素遺伝子配列の改変は、通常の変異処理、例えばUV照射、あるいはN−メチル−N−ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホネート(EMS)、亜硝酸、アクリジン等の変異剤による処理によって、又は、遺伝子組換え技術を利用した遺伝子置換によって、行うことができる。遺伝子置換は、以下のようにして行うことができる(図4参照)。微弱な活性を有するグルタチオン合成酵素をコードするように改変したグルタチオン合成酵素遺伝子、例えば370番目のコドンを終始コドンに改変したグルタチオン合成酵素遺伝子(弱化型グルタチオン合成酵素遺伝子)を含む組換えDNAでサッカロマイセス・セレビシエを形質転換し、弱化型グルタチオン合成酵素遺伝子と染色体上のグルタチオン合成酵素遺伝子との間で組換えを起こさせる。その際、プラスミドには、宿主の栄養要求性等の形質にしたがって、マーカー遺伝子を含ませておくと操作がしやすい。また、前記組換えDNAは、プラスミドを用いて作製した後に制限酵素で切断して直鎖状にし、さらに、サッカロマイセス・セレビシエで機能する複製制御領域を除いておくと、染色体に組換えDNAが組み込まれた株を効率よく取得することができる。上記のようにして染色体に組換えDNAが組み込まれた株は、染色体上にもともと存在するグルタチオン合成酵素遺伝子配列との組換えを起こし、正常なグルタチオン合成酵素遺伝子と弱化型グルタチオン合成酵素遺伝子との融合遺伝子2個が組換えDNAの他の部分(ベクター部分及びマーカー遺伝子)を挟んだ状態で染色体に挿入されている。したがって、この状態では正常なグルタチオン合成酵素遺伝子が機能する。次に、染色体DNA上に欠失型グルタチオン合成酵素遺伝子のみを残すために、2個のグルタチオン合成酵素遺伝子の組換えにより1コピーのグルタチオン合成酵素遺伝子を、ベクター部分(マーカー遺伝子を含む)とともに染色体DNAから脱落させる。その際、正常なグルタチオン合成酵素遺伝子が染色体DNA上に残され、弱化型グルタチオン合成酵素遺伝子が切り出される場合と、反対に弱化型グルタチオン合成酵素遺伝子が染色体DNA上に残され、正常なグルタチオン合成酵素遺伝子が切り出される場合がある。いずれの場合もマーカー遺伝子が脱落するので、2回目の組換えが生じたことは、マーカー遺伝子に対応する表現形質によって確認することができる。また、目的とする遺伝子破壊株は、PCRによりグルタチオン合成酵素遺伝子を増幅し、その構造を調べることによって、選択することができる。サッカロマイセス・セレビシエの形質転換は、プロトプラスト法、KU法、KUR法、エレクトロポレーション法等、通常酵母の形質転換に用いられる方法を採用することができる。上記と同様にして、プロモーターなどの発現調節配列を改変することもできる。また、本発明のサッカロマイセス・セレビシエは、微弱なグルタチオン合成酵素活性を有することに加えて、γ−グルタミルシステイン合成酵素活性が増強されていてもよい。本発明のサッカロマイセス・セレビシエ又はその作製に用いる親株は、1倍体でも2倍体でも、それ以上の倍数体でもよい。上記のようにして改変したサッカロマイセス・セレビシエについて、サッカロマイセス・セレビシエの野生株よりもグルタチオン合成酵素欠損株の生育が遅い培地で培養したとき、その対数増殖期にグルタチオンを0.004重量%〜0.1重量%の範囲で含有する組換え体を選択することにより、本発明のサッカロマイセス・セレビシエを取得することができる。本発明のサッカロマイセス・セレビシエを好適な培地で培養し、得られた菌体を用いて、γ−グルタミルシステインを含有する酵母エキスを製造することができる。また、得られた酵母エキスを加熱することにより、システイン含量の高い酵母エキスを製造することができる。酵母エキスの製造に用いる培地は、本発明のサッカロマイセス・セレビシエが良好に生育し、かつ、γ−グルタミルシステインを効率よく産生するものであれば特に制限されない。特に、本発明のサッカロマイセス・セレビシエは、グルタチオンを含まない培地でも良好に生育することができるので、通常、工業的に用いられる培地を用いることができる。尚、必要に応じて、用いる菌株の形質にしたがって必要な栄養素を培地に添加する。培養条件及び酵母エキスの調製は、通常のサッカロマイセス・セレビシエの培養、及び酵母エキスの調製と同様にして行えばよい。酵母エキスは、酵母菌体を熱水抽出したものを処理したものでもよいし、酵母菌体を消化したものを処理したものでもよい。発明を実施するための最良の形態以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。<1>加熱処理によるγ−グルタミルシステインからのシステインの遊離還元型γ−グルタミルシステインの1mmol濃度の水溶液(pHは3又は5に調整した)を98℃で加熱し、生成物を経時的に調べた。その結果、図1、2に示すように、加熱によりγ−グルタミルシステインがシステインとピロリドンカルボン酸(図1及び図2中、「PCA」と示す)に分解し、システインが高収率で得られることが判明した。<2>グルタチオン合成酵素遺伝子破壊株の構築次に、グルタチオン合成酵素遺伝子破壊株の構築を行った。(1)ウラシル要求性のサッカロマイセス・セレビシエの単離自然界より単離したサッカロマイセス・セレビシエから、常法に従って1倍体Nα株を取得した。Nα株から、ウラシルを含むSDFOAプレート(2%精製寒天、最終濃度で50mg/Lのウラシル及び1g/Lの5−フルオロオロチン酸−水和物を含むSD培地)を用いて、ウラシル要求性株Nα1株を取得した。後述するように、Nα1株のウラシル要求性はURA3遺伝子で相補されたことから、URA3遺伝子の変異株であると考えられる。(SD培地組成)グルコース 2%Nitrogen Base 1倍濃度(10倍濃度Nitrogen Baseは、1.7gのBacto Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate(Difco社)と5gの硫酸アンモニウムを混合したものを100mlの滅菌水に溶解し、pHを5.2程度に調整し、フィルター濾過滅菌したもの)(2)グルタチオン合成酵素欠損用カセットの作製Nα1株を親株として、グルタチオン合成酵素遺伝子破壊株を構築した。まず、Nα1株の染色体DNAを鋳型として、グルタチオン合成酵素(GSH2)遺伝子の上流領域から末端領域までをPCR法により増幅した。PCR反応は、下記に示す組成の反応液を用いて、94℃ 1分の後、94℃ 30秒、60℃ 40秒、74℃ 1分30秒を30サイクル繰り返すことにより行った。(PCR反応液組成)染色体DNA溶液 1μl10X PCR緩衝液 10μl10mM dNTPs 10μl10pmol/μlGAL11F(配列番号1) 1μl10pmol/μlGSH2R3(配列番号2) 1μl精製水 76μlKOD Dash(TOYOBO社)* 1μl合計 100μl(*:PCR用ポリメラーゼ)上記のようにして増幅したGSH2遺伝子断片を、製造者の指示に従ってプラスミドpGEM−T Easy(Promega社)に連結し、GSH2/pGEMを得た。一方、選択遺伝子マーカーとして、URA3遺伝子を、同遺伝子を含むプラスミドpYES2(Invitrogen社)を鋳型とするPCRによって取得した。PCR反応は、下記に示す組成の反応液を用いて、94℃ 1分の後、94℃ 30秒、52℃ 30秒、74℃ 40秒を30サイクル繰り返すことにより行った。(PCR反応液組成)10ng/μl pYES2 1μl10X PCR緩衝液 10μl10mM dNTPs 10μl10pmol/μl URA3F2(配列番号3) 1μl10pmol/μl URA3R2(配列番号4) 1μl精製水 76μlKOD Dash 1μl合計 100μl続いて、GSH2/pGEMを制限酵素MunIで切断し、末端を平滑化した。その切断末端に、制限酵素SmaIで末端を平滑化したURA3遺伝子断片を連結し、プラスミドURA3−GSH2/pGEMを作製した。このURA3−GSH2/pGEMを鋳型として、GSH2遺伝子の両端に相当する配列を有するプライマーを用いてPCRを行い、カセット1を調製した。PCR反応は、下記に示す組成の反応液を用いて、94℃ 1分の後、94℃ 30秒、56℃ 30秒、74℃ 1分を30サイクル繰り返すことにより行った。(PCR反応液組成)10ng/μl URA3−GSH2/pGEM 1μl10X PCR緩衝液 10μl10mMdNTPs 10μl10pmol/μl GAL11F(配列番号1) 1μl10pmol/μl GSH2R (配列番号5) 1μl精製水 76μlKOD Dash 1μl合計 100μl(3)グルタチオン合成酵素遺伝子欠損株の取得以上の方法で作製したカセット1を用いて、Nα1株のグルタチオン合成酵素遺伝子の破壊を行った。Nα1株を前培養した後に、培養物を50mlのYPD培地に植え継ぎ、対数増殖期まで培養した。培養菌体を1Mソルビトールに懸濁し、カセット1を混和して、エレクトロポレーションにより形質転換を行った。形質転換株を1mMのグルタチオンを含むSDプレートで培養し、生育する株を選択した。PCR、及び後述するように菌体のグルタチオン含量を測定することによって、グルタチオン合成酵素遺伝子がカセット1で置換された株を選択し、Nα2株を得た。上記のようにして作製されたNα2株は、グルタチオン合成酵素遺伝子のコード領域の11番目のコドン以降にURA3遺伝子断片由来の配列が付加されているため、グルタチオン合成酵素遺伝子は11番目のアミノ酸残基までしか正確に翻訳されない。<3>グルタチオン合成酵素弱化株の構築次に、弱化型グルタチオン合成酵素遺伝子置換株の作製を行った。(1)弱化型グルタチオン合成酵素遺伝子置換用カセットの作製Nα1株のグルタチオン合成酵素遺伝子断片を、PCR法により増幅した。PCR反応は、下記に示す組成の反応液を用いて、98℃ 10秒の後、98℃ 10秒、60℃ 30秒、72℃ 1分を30サイクル繰り返すことにより行った。(PCR反応液組成)酵母染色体 1μlPyrobest DNA Polymerase(宝酒造) 0.5μl10X PCR緩衝液 10μl10mM dNTPs 8μl20pmol/μl GSH2F7(配列番号6) 2μl20pmol/μl GSH2R7(配列番号7) 2μl精製水 76.5μl合計 100μl上記のようにして増幅した遺伝子断片を精製し、以下の条件で72℃で10分間酵素反応を行うことにより、末端にAを付加した。(反応液組成)遺伝子断片溶液 5μl10X PCR緩衝液(MgCl2フリー) 10μl25mM MgCl2 3μl2.5mM dATP 5μlTaq DNA polymerase(宝酒造) 0.5μl精製水 31.5μl合計 50μlこの反応産物を、製造者の指示に従ってブラスミドpGEM−T Easy(Promega社)のに連結し、プラスミドGSH2dash/pGEMを得た。次に、部位特異的変異法によって、GSH2dash/pGEMに含まれるグルタチオン合成酵素遺伝子の370番目のアミノ酸に対応するコドンを終止コドンに置換した。この操作は、QuikChangeTMSite−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE社)を用い、製造者のプロトコルに従って行った。プライマーは、GSH2M−F1(配列番号8)、GSH2M−R1(配列番号9)を用いた。このようにしてプラスミドGSH2Mdash/pGEMを作製した。一方、プラスミドpYES2(Invitrogen社)から2μoriを除去したプラスミドを作製した。pYES2を制限酵素SspI、NheIで切断し、切断末端を平滑化した後、連結させ、プラスミドpYES2dashを得た。pYES2dash及びGSH2Mdash/pGEMを、いずれも制限酵素SacI及びSphIで切断し、pYES2dashからはURA3遺伝子を含む断片を、GSH2Mdash/pGEMからは変異を有するグルタチオン合成酵素遺伝子断片を切り出し、これらを連結した。このようにしてプラスミドGSH2Mdash/pYES2dashを作製した。GSH2Mdash/pYES2dashを制限酵素MunIで切断し、カセット2を得た(図3)。(2)弱化型グルタチオン合成酵素遺伝子置換株の構築上記のようにして作製したカセット2を用いて、Nα1株のグルタチオン合成酵素遺伝子の遺伝子置換を行った(図4)。Nα1株を前培養した後に、培養物を50mlのYPD培地に植え継ぎ、対数増殖期まで培養した。培養菌体を1Mソルビトールに懸濁し、カセット2を混和して、エレクトロポレーションにより形質転換を行った。形質転換株を1mMのグルタチオンを含むSDプレートで培養し、生育する株を選択した。カセット2が染色体上の目的の位置に組み込まれたことをPCRによって確認し、得られた株をNα3中間体とした。次に、図4に示すとおり、弱化型グルタチオン合成酵素遺伝子のみを染色体に残すため、以下の操作を行った。Nα3中間体をYPD培地で培養し、培養産物を1mMのグルタチオンを含むSDFOAプレートに蒔いた。プレート上に生育してきた株のグルタチオン合成酵素遺伝子の配列を決定し、目的の部位の配列が正しく置換されていることを確認し、Nα3株を得た。<4>Nα2株及びNα3株の生育及びγ−グルタミルシステインの産生上記のようにして取得したNα2株及びNα3株の対数増殖期における増殖能を調べた。Nα2株及びNα3株をYPD培地で前培養した後、培養物を50mlのSD培地(50mg/Lのウラシルを含む)又は1mMのグルタチオンを含むSD培地(50mg/Lのウラシルを含む)培地に植え継ぎ、30℃で振とう培養した。結果を図5及び6に示す。図5に示されるように、Nα3株は、グルタチオンを含まない培地においてもグルタチオンを含む培地における増殖能とあまり差違がみられなかった。また、グルタチオンを含まない培地における対数増殖期における生育は、Nα2株よりもNα3株の方が良好であった(図6)。次に、Nα2株とNα3株の対数増殖期における単位時間あたりのγ−グルタミルシステイン及びグルタチオンの生産量を調べた。Nα2株及びNα3株をYPD培地で前培養した後、培養物を50mlのSD(必要量のウラシルを含む)培地に植え継ぎ、30℃で振とう培養した。γ−グルタミルシステイン及びグルタチオンの生産量は、次のようにして測定した。培養物を遠心することにより菌体を取得し、この菌体を蒸留水で2回洗浄した後、70℃で10分間の熱水抽出処理に付し、細胞内容物を得た。これを遠心処理し、得られた上清中のγ−グルタミルシステイン及びグルタチオン含量を測定した。また、一定培地中に含まれる酵母菌体を濾紙上に取り、105℃で4時間加熱した後に残った菌体重量を測定し、乾燥菌体重量とした。表1に、乾燥菌体重量当たりのγ−グルタミルシステイン及びグルタチオンの含有量を示す。これらの結果から、各々の株の単位時間あたりのγ−グルタミルシステイン生産量を測定した。Nα2株に対するNα3株の優位性を示すため、Nα2株においてはγ−グルタミルシステインの含有量が高い方(Nα2株No.1)を、Nα3株においてはγ−グルタミルシステインの含有量が低い方(Nα3株No.1)を用いて計算した。すなわち、Nα2株においては最大値、Nα3株においては最小値が算出される。その結果、Nα2株は0.116mg/時間であり、Nα3株は0.124mg/時間であった。産業上の利用可能性本発明のサッカロマイセス・セレビシエは、γ−グルタミルシステインを一定量以上産生し、かつ、グルタチオンが存在しないような工業的に用いられる培地における生育も良好であり、γ−グルタミルシステインを含有する酵母エキスの効率的な製造に適している。【配列表】【図面の簡単な説明】図1は、pH3における加熱処理によるγ−グルタミルシステインからのシステインの遊離を示す図である。PCAはピロリドンカルボン酸を、Total Cysteineは総システイン量を、γ−Glu−Cysはγ−グルタミルシステインを、各々示す(図2も同様)。図2は、pH5における加熱処理によるγ−グルタミルシステインからのシステインの遊離を示す図である。図3は、弱化型グルタチオン合成酵素遺伝子置換用カセット(カセット2)を含むプラスミドGSH2Mdash/pYES2dashの構築を示す図である。図4は、カセット2を用いたグルタチオン合成酵素遺伝子の遺伝子置換を模式的に示す図である。図5は、Nα3株のSD培地又は1mMのグルタチオンを含むSD培地(必要量のウラシルを含む)での生育(OD660)を示す図である。図6は、Nα2株及びNα3株のSD培地(必要量のウラシルを含む)における生育を示す図である。 染色体上のグルタチオン合成酵素遺伝子によってコードされるグルタチオン合成酵素が、370位のアルギニン残基以降のC末端側の領域を欠失していることを特徴とするサッカロマイセス・セレビシエ。 請求項1に記載のサッカロマイセス・セレビシエを好適な培地で培養し、得られた菌体を用いて製造された酵母エキス。