タイトル: | 特許公報(B2)_E−セレクチンに対する寛容誘導による脳卒中防止法 |
出願番号: | 2001585800 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | A61K 38/00,A61P 37/02,A61P 9/00 |
ハレンベック ジョン エム. タケダ ヒデタカ スパッツ マリア JP 4986361 特許公報(B2) 20120511 2001585800 20010523 E−セレクチンに対する寛容誘導による脳卒中防止法 ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ アズ リプレゼンティッド バイ ザ シークレタリー デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズ 500400032 清水 初志 100102978 ハレンベック ジョン エム. タケダ ヒデタカ スパッツ マリア US 60/206,693 20000524 20120725 A61K 38/00 20060101AFI20120705BHJP A61P 37/02 20060101ALI20120705BHJP A61P 9/00 20060101ALI20120705BHJP JPA61K37/02A61P37/02A61P9/00 A61K 38/00 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 国際公開第00/004928(WO,A1) 松本純夫,医学用語解説 『E-セレクチン E-selectin』,G. I. Research,日本,1997年12月,Vol.5,No.6,P.726-727 13 US2001016583 20010523 WO2001089557 20011129 2004503471 20040205 18 20080509 中尾 忍 【0001】発明の技術分野本発明は、脳卒中を治療または予防する方法およびE-セレクチンに対する寛容を誘導する方法に関する。本発明は特に、脳卒中のリスクが増大した患者および脳卒中のリスクが増大しつつある患者における使用に適している。【0002】背景E-セレクチン(ELAM-1、CD62、およびCD62Eとしても公知)は、専ら内皮細胞において見られるサイトカイン誘導可能な細胞表面糖タンパク質細胞接着分子である。E-セレクチンは、好中球、単球、好酸球、ナチュラルキラー(NK)細胞およびT細胞サブセットを含む様々な白血球の、活性化された内皮細胞への接着を媒介する(Bevilacquaら、「内皮細胞白血球接着分子1:補体制御タンパク質およびレクチンに関連した好中球の誘導可能な受容体(Endothelial leukocyte adhesion molecule 1: an inducible receptor for neutrophils related to complement regulatory proteins and lectins)」、Science、243:1160(1989);Graberら、「新規誘導可能なシアロ糖タンパク質および内皮白血球接着分子-1によりサイトカインで活性化した内皮細胞に結合するT細胞(T cells bind to cytokine-activated endothelial cells via a novel, inducible sialoglycoprotein and endothelial leukocyte adhesion molecule-1)」、J. Immunol.、145:819(1990);Carlosら、「培養ヒト内皮細胞上の2種のサイトカイン誘導した接着リガンドに結合するヒト単球:内皮白血球接着分子-1および血管細胞接着分子-1(Human monocytes bind to two cytokine-induced adhesive ligands on cultured human endothelial cells: endothelial-leukocyte adhesion molecule-1 and vascular cell adhesion molecule-1)」、Blood、77:2266(1991);Hakkertら、「サイトカインで活性化した内皮細胞に接着しおよび単層を超えて移動する好中球および単球:CD18、ELAM-1およびVLA-4の寄与(Neutrophil and monocyte adherence to and migration across monolayers of cytokine-activated endothelial cells: the contribution of CD18, ELAM-1, and VLA-4)」、Blood、78:2721(1991);および、Pickerら、「皮膚ホーミングT細胞の接着分子であるELAM-1(ELAM-1 is an adhesion molecule for skin-homing T cells)」、Nature、349:796(1991))。【0003】E-セレクチンの発現は、サイトカインIL-1およびTNFに、更には細菌性リポポリサッカリド(LPS)に反応して、転写の上方制御によりヒト内皮細胞上に誘導される(Montgomeryら、「内皮-白血球接着分子-1(ELAM-1)遺伝子転写の活性化(Activation of endothelial-leukocyte adhesion molecule 1(ELAM-1)gene transcription)」、Proc. Natl. Acad. Sci.、88:6523(1991))。E-セレクチンは、細胞が活性化されている血管内皮組織に発現される。Pober, J. S.ら、「2種の個別のモノカインであるインターロイキン1および腫瘍壊死因子は各々独立して培養ヒト血管内皮細胞表面上で同一抗原の生合成および一過性発現を誘導する(Two distinct monokines, interleukin 1 and tumor necrosis factor, each independently induce biosynthesis and transient expression of the same antigen on the surface of cultured human vascular endothelial cells)」、J. Immunol.、136:1680(1986);Bevilacqua M. P.ら、「誘導可能な内皮-白血球接着分子の同定(Identification of an inducible endothelial-leukocyte adhesion molecule)」、Proc. Natl. Acad. Sci.、84:9238(1987)。血管内皮細胞の活性化は、少なくとも一部症例においては、炎症性血管組織損傷が関与し、血栓症につながると考えられている(Fareed, J.ら、「止血活性化の分子マーカー、血栓症、血管および心臓血管系障害の診断における意味(Molecular markers of hemostatic activation. Implications in the diagnosis of thrombosis, vascular, and cardiovascular disorders)」、Clin. Lab. Med.、15:39(1995))。【0004】血管組織損傷および血栓症が、脳卒中の発生に関連していることはよく確立されている。血管組織損傷および血栓症に起因した血液から脳細胞への酸素および栄養素の供給の低下は、脳細胞の死、脳卒中の臨床徴候につながり、およびこれらの細胞により残された検出可能な空隙、いわゆる梗塞の形成を引き起こす。脳卒中は、世界中で主な死因であり、米国単独でも100億ドルの医療経費がかかっている。脳卒中予防のいくつかの治療は利用できるが、罹患した患者のより大きい画分に利用可能なより効果的治療が必要である。【0005】構造的に、E-セレクチンは、P-セレクチンおよびL-セレクチンも含む「セレクチン」と称される接着分子ファミリーに属する(総説についてLasky、「セレクチン:炎症時の細胞特異的糖質情報の解釈者(Selectins: interpreters of cell-specific carbohydrate information during inflammation)」、Science、258:964(1992)、並びにBevilacquaおよびNelson、「セレクチン(Selectins)」、J. Clin. Invest.、91:379(1993)参照)。これらの分子は、アミノ末端レクチン様ドメイン、上皮増殖因子(EGF)ドメイン、およびある種の補体結合タンパク質において認められるものに類似した不連続数の補体反復モジュール(各々およそ60個のアミノ酸)のような共通の構造的特徴により特徴付けられる。【0006】最近、経口的または経粘膜的に寛容を誘導する新規方法および薬学的製剤が見つかった(例えば、寛容剤(tolerizer)として、自己抗原、バイスタンダー抗原、もしくは自己抗原またはバイスタンダー抗原の疾患-抑制断片または類似体を使用し、鼻腔内投与による)。このような治療は、Wiener, H.らの「自己免疫疾患のバイスタンダー抑制(Bystander suppression of autoimmune diseases)」、国際公開公報第9316724号(1993);BrighamおよびWomens Hospital(US)、「自己抗原の経口投与による自己免疫疾患の下方制御の増強(Enhancement of the down-regulation of autoimmune diseases by oral administration of autoantigens)」、国際公開公報第9112816号(1991);Weiner, H.ら、「自己抗原のエアゾール投与による自己免疫疾患の改善された治療(Improved treatment of autoimmune diseases by aerosol administration of auto antigens)」、国際公開公報第9108760号(1991);Weiner, H.ら、「哺乳類における自己免疫性ブドウ網膜炎の治療および予防法(Methods of treating or preventing autoimmune uveoretinitis in mammals)」、国際公開公報第9101333号(1991);Weiner, H.ら、「インスリン経口投与によるI型糖尿病の治療または予防法(Method of treating or preventing type 1 diabetes by oral administration of insulin)」、国際公開公報第9206704号(1992);Hafler, D.ら、「レトロウイルス関連神経疾患のバイスタンダー抑制(Bystander suppression of retroviral-associated neurological disease)」、国際公開公報第940121号(1994);Weiner, H.ら、「II型コラーゲンによるリウマチ様関節炎の治療法(Method of treating rheumatoid arthritis with type II collagen)」、国際公開公報第9407520号(1994);Weiner, H.ら、「哺乳類における同種移植片拒絶反応抑制の方法および組成物(Methods and compositions for suppressing allograft rejection in mammals)」、国際公開公報第9207581号(1992);Wucherpfenning, K.ら、「多発性硬化症T細胞受容体(Multiple sclerosis T-cell receptor)」、国際公開公報第9115225号(1991);Weiner, H.ら、「多型性クラスII mhc同種ペプチドの増殖性反応の抑制および寛容の誘導(Suppression of proliferative response and induction of tolerance with polymorphic class II mhc allopeptides)」、国際公開公報第9320842号(1993);Weiner, H.ら、「ミエリン塩基性タンパク質のペプチド断片を用いるT細胞増殖の抑制(Suppression of T-cell proliferation using peptide fragments of myelin basic protein)」、国際公開公報第9321222号(1993);および、Weiner, H.ら、「自己抗原の経口投与による自己免疫疾患の治療(Treatment of autoimmune diseases by oral administration of autoantigens)」、国際公開公報第9206708号(1992)に記されている。【0007】自己抗原(および免疫ドミナントなエピトープ領域を含むそれらの断片)の静脈内投与は、クローンアネルギーと称される機構を介して、免疫抑制を誘導することがわかっている。クローンアネルギーは、特定の抗原に対して特異的な免疫攻撃T細胞のみの失活を引き起こし、その結果この抗原に対する免疫応答が顕著に低下する。従って、自己抗原に特異的な自己免疫応答促進性T細胞が、一旦クローンアネルギー化されると、もはやその抗原に反応して増殖することはない。この増殖の低下は、自己免疫疾患症状(MSにおいて認められるような神経組織損傷など)に寄与する免疫反応も低下する。自己抗原(または免疫ドミナントな断片)の単回投与の量および「能動的抑制」を引き起こす量よりも実質的に多い量での経口投与により、クローンアネルギー(またはクローン欠失)を介して寛容が引き起こされ得るという証拠もある。【0008】能動的抑制により進行する治療法も明らかにされている。能動的抑制は、そのクローンアネルギー由来の様々な機構を介して機能する。この方法は、Weinerの論文(1993)において広範に考察されているが、これは自己免疫攻撃下での組織に特異的な抗原の経口または経粘膜投与に関連している。これらのいわゆる「バイスタンダー抗原」は、消化管関連リンパ組織(GALT)、気管支関連リンパ組織(BALT)、または最も一般的には粘膜関連リンパ組織(MALT)において誘導されるべき調節性(サプレッサー)T細胞を生じ;MALTは、GALTおよびBALTの両方を含んでいる。これらの調節細胞は、血液またはリンパ組織において放出され、その後自己免疫疾患に罹患した器官または組織へと移動し、罹患した器官または組織の自己免疫攻撃を抑制する。【0009】バイスタンダー抗原により誘発されたT細胞は、それらを誘発するために使用されたバイスタンダー抗原の少なくとも1種の抗原決定基を認識し、かつそれらが免疫変調因子およびトランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、インターロイキン-4(IL-4)、および/またはインターロイキン-10(IL-10)のようなサイトカイン類の局所放出を媒介する自己免疫攻撃の部位へ標的化される。これらの中でTGF-βは、その攻撃を引き起こす抗原とは無関係に免疫攻撃を抑制する点で、抗原非特異的免疫抑制因子である(しかし、バイスタンダー抗原の経口的または経粘膜的寛容では、自己免疫攻撃近傍におけるTGF-βの放出が引き起こされるのみであるので、全身の免疫抑制は結果として生じない)。IL-4およびIL-10も、抗原非特異的免疫調節サイトカインである。特にIL-4は、Th2反応を増強する(すなわち、T細胞前駆体に作用し、かつそれらにTh1反応の消費(expense)時にTh2細胞への優先的分化を引き起こす)。IL-4は間接的にTh1増悪も阻害する。IL-10は直接的Th1反応の阻害物質である。自己免疫疾患状態に罹患された哺乳類がバイスタンダー抗原で経口的に寛容化された後、TGF-β、IL-4、およびIL-10の増大したレベルが、自己免疫攻撃の部位において認められる(Chen, Y.ら、「経口的寛容により誘導された調節性T細胞クローン:自己免疫性脳脊髄炎の抑制(Regulatory T cell clones induced by oral tolerance: suppression of autoimmune encephalomyelitis)」、Science、265:1237-1240(1994))。このバイスタンダー抑制機構は、von Herrathらにより確認されている(「β細胞のウイルスが誘導した抗原特異性破壊を抑制しトランスジェニクマウスにおいて自己免疫性糖尿病を予防する経口インスリン治療(Oral insulin treatment suppresses virus-induced antigenspecific destruction of beta cells and prevents autoimnmune diabetes in transgenic mice)」、J. Clin. Invest.、96:1324-1331(1996))。【0010】寛容およびバイスタンダー作用の誘導は多くの抗原について明らかにされているが、E-セレクチンに対する寛容を誘導する方法を開発すること、およびこのような誘導が可能であるかどうかの決定は依然必要である。更に、E-セレクチンは、能動的抑制を提供する寛容の誘導に関してバイスタンダー抗原として使用することができるかどうかを決定することが依然必要である。【0011】本発明は、E-セレクチンの寛容を誘導する方法を提供することにより、これらの必要性に合致している。更に本発明は、E-セレクチン寛容により提供されたバイスタンダー作用を明らかに介して、E-セレクチン処置により脳卒中を治療する方法を提供する。これらおよびその他の本発明の利点、恩恵、および使用は、本明細書を考慮する際に当業者には明らかであろう。【0012】発明の概要概して、本発明は、E-セレクチン処置による血管閉塞に起因した脳組織の損傷を予防する方法に関する。本発明は更に、E-セレクチンに対する寛容を誘導する方法にも関する。より詳細に述べると、本発明は、哺乳類をE-セレクチンで治療することによる、脳卒中に関連した組織損傷を低下する方法を提供する。好ましくはこの治療は、哺乳類においてE-セレクチン寛容を誘導する。別の本発明の局面は、好ましくはブースター投与を含む、E-セレクチンの鼻腔内投与を通じて、哺乳類においてE-セレクチン寛容を誘導する方法である。【0013】本発明は、脳卒中のリスクが増したことがわかっている患者の治療において特に有用である。このような患者は、例えば、高血圧(特に重症の高血圧または通常の薬物治療では管理不可能な高血圧)のヒト、脳卒中の家族歴のあるヒト、1回または複数回の脳卒中、糖尿病、高コレステロール血症などの既往歴のあるヒトを含む。本方法は更に、脳卒中のリスクを増大し得る薬物治療または外科的手技を受けるように予定された患者の治療のために使用することができる。しかし本発明は、脳卒中のリスクが増大したことがわからない個人にも使用することができる。【0014】好ましい態様の説明E-セレクチンによる脳卒中の予防または治療法ひとつの局面において、本発明は、患者において脳卒中を予防するか、または脳卒中により引き起こされた組織損傷を軽減する方法である。この方法は、患者へのE-セレクチン投与を含む。好ましくは、E-セレクチンは、寛容を、最も好ましくはバイスタンダー作用寛容を誘導する方法で投与される。【0015】E-セレクチン(ELAM-1、CD62、およびCD62Eとしても公知)は、専ら内皮細胞において見られるサイトカインで誘導可能な細胞表面糖タンパク質細胞接着分子である。構造的に、E-セレクチンは、更にP-セレクチンおよびL-セレクチンを含む「セレクチン」と称される接着分子ファミリーに属する(総説については、Lasky、1992、並びにBevilacquaおよびNelson、1993参照)。これらの分子は、アミノ-末端レクチン様ドメイン、上皮増殖因子(EGF)ドメイン、およびある種の補体結合タンパク質において認められるものに類似した不連続数の補体反復モジュール(各々およそ60個のアミノ酸)などの、共通の構造的特徴により特徴付けられる。【0016】本発明で使用することができるE-セレクチンの給源は、天然の給源から実質的に精製されたE-セレクチン、当技術分野において周知の方法により原核または好ましくは真核宿主細胞において作出された組換えE-セレクチン、およびE-セレクチン断片を含む。更にE-セレクチンは、本発明において、E-セレクチンの一部を模倣する構造、好ましくは免疫反応性部分を使用する構造を伴う小さい有機分子または小さいペプチドと交換することができる。本明細書において使用される「実質的に純粋」とは、脳卒中の治療または寛容の誘導のためのE-セレクチンの有効使用をもたらす純度を意味する。【0017】本発明のE-セレクチンは、投与を受ける種と同じ種に由来することが好ましい。しかし添付の実施例において例証されたように、E-セレクチンは、少なくとも一部の例において、当初それが由来した以外の種において有効である。例えばヒトE-セレクチンは、本発明の方法に従いラットに投与した場合に有効である。ヒトE-セレクチンは、589個のアミノ酸からなり、分子量64kDaを有する。ヒトE-セレクチンをコードしている核酸は、クローン化されかつ配列決定されている(Bevilacqua, M. P.、1989)。ある態様において、本発明に使用されるE-セレクチンの給源は、組換えヒトE-セレクチンである。【0018】本発明のバイスタンダー抗原により誘導されたE-セレクチン寛容は、広範な用量範囲にわたって用量依存性である。しかし、当然投与法に応じて変動するような最大および最小有効量が存在する。別の表現をすると、脳卒中に随伴するまたはそれにより引き起こされる臨床的および組織学的変化の能動的抑制は、特定の用量範囲内において生じるが、しかしこれはその用量を受けた生物、投与経路、E-セレクチンが他の共刺激分子と一緒に投与されたかどうか、およびE-セレクチン投与の具体的投薬法によって変動する。例えば、経口投与について、E-セレクチンは一般に、約0.005〜500mg/日、より好ましくは約0.05〜50mg/日の範囲の用量で投与される。好ましい経口用量は、1回の投与につき0.5μg〜50mgである。【0019】バイスタンダー作用寛容を誘導するための多くの送達経路が、当技術分野において公知である。これらの経路は、腸内、経口、吸入、および鼻腔内経路のような経粘膜経路を含むが、これらに限定されるものではない。本発明について、E-セレクチン寛容は、鼻腔内へのE-セレクチンの滴下または噴霧適用により誘導されることが好ましい。【0020】本発明の方法で使用するためのE-セレクチン製剤は、当技術分野において周知であるように、薬学的に許容できる担体、希釈剤、可溶化剤、乳化剤、塩類などを含む不活性成分を含有することができる。好ましいE-セレクチン製剤は、例えば等張および生理的に緩衝された生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)のような、通常の生理食塩水を含む、鼻腔内製剤である。鼻腔内製剤の総容量は、典型的には1ml未満であり、好ましくは100μl未満である。本発明において使用するための経口または腸内E-セレクチン製剤については、当技術分野において周知の固形担体を使用する常法に従い錠剤を処方することができる。本発明の方法で使用される経口処方用のカプセル剤も、ゼラチンまたはセルロース誘導体などの、薬学的に許容できる物質から製造することができる。経口投与剤形のための徐放性経口送達システムおよび/または腸溶コーティングも企図されており、例えば1987年11月3日に発行された米国特許第4,704,295号「腸溶性フィルムコーティング組成物(Enteric Film-Coating Compositions)」;1985年12月3日に発行された米国特許第4,556,552号「腸溶性フィルムコーティング組成物(Enteric Film Coating Compositions)」;1982年1月5日に発行された米国特許第4,309,404号「徐放性薬学的組成物(Sustained Release Pharmaceutical Compositions)」;および、1982年1月5日に発行された米国特許第4,309,406号「徐放性薬学的組成物(Sustained Release Pharmaceutical Compositions)」に開示されている。【0021】固形担体の例は、デンプン、糖、ベントナイト、シリカ、および他の通常使用される担体を含む。更に本発明の製剤において使用することができる担体および希釈剤の非限定的な例は、生理食塩水、シロップ剤、デキストロース、および水を含む。【0022】E-セレクチンは更に、エアゾールまたは吸入型で投与することもできる。吸入により投与される寛容化剤(tolerizing agent)の製剤の例は、Weiner, H.ら「自己抗原のエアゾール投与による自己免疫疾患の改善された治療(Improved treatment of autoimmune diseases by aerosol administration of auto antigens)」、国際公開公報第9108760号(1991)に開示されている。これらの抗原は、乾燥粉末粒子または担体ガス(例えば、空気、N2など)中に浮遊させた噴霧化水溶液として投与することができる。【0023】液体中に溶解または浮遊させていないE-セレクチンの固形細粒の形状の乾燥エアゾールも、本発明の実行において使用することができる。E-セレクチン製剤は、散布剤(dusting powder)の形状であることができ、および平均粒度が約1〜5μm、好ましくは2〜3μmであるような細粒を含む。細粒は、当技術分野において周知の技術を使用する微粉砕および選別濾過により調製することができる。これらの粒子は、細粒化または粉末化された物質の予め決定された量を吸入することにより投与することができる。本発明のE-セレクチン製剤は、例えば1986年11月25日に発行された米国特許第4,624,251号;1972年11月21日に発行された米国特許第3,703,173号;1971年2月9日に発行された米国特許第3,561,444号;および、1971年1月13日に発行された米国特許第4,635,627号に開示されたネブライザーのような、エアゾールスプレーの形においても投与することができる。エアゾール送達の別のシステムは、加圧型定量噴霧式吸入器(MDI)および乾燥粉末吸入器(例えば、Newman, S. P.「エアゾールおよび肺(Aerosols and the Lung)」、Clarke, S. W.およびDavia, D.編集、197-224頁、Butterworths、ロンドン、英国、1984参照)などを、本発明を実行する場合に用いることができる。【0024】脳卒中の治療または予防におけるE-セレクチン製剤およびそれらの有効性の分析に関する特に有用な動物モデルのひとつは、脳卒中傾向および自然発症高血圧SHR-SPラットである(Okamoto, K.ら、「脳卒中傾向のある自然発症高血圧ラット(SHR)の確立(Establishment of the stroke-prone spontaneously hypertensive rat(SHR))」、Citc. Res.(補遺)、34, 35:1(1974))。SHR-SPラットは、Yukio Yamori教授(京都大学大学院人間・環境学研究科、京都市左京区吉田二本松町、606-8316、日本)に要請し、入手することができる。SHR-SPラットは、典型的には心臓血管系疾患の早期発症により死亡し、時には14週齢と早期であることがあるが、一部のSHR-SPラットは、56週齢より長く生存する。これらのラットにおいては、心臓血管系疾患は頻繁に脳卒中として発症する。これらのラットにおける脳卒中の発生は、4種のパターンに分類されうる行動状態の測定により診断される:異常なし(グレード1)、刺激反応性(irritable)(グレード2)、傾眠(グレード3)、無動(グレード4)(Yamori, U.ら、Japanese Criculation Journal、46:274(1982))。【0025】死亡時のSHR-SPラットの脳は、典型的には、脳切片の鏡検により計数しかつ測定することができるような多くの梗塞および実質内出血領域を含む。E-セレクチン製剤の有効性は、ブースター投薬法により投与された被験E-セレクチン製剤により処置されたSHR-SPラットの梗塞および実質内出血の数および面積を、担体成分、非特異的抗原(例えばオボアルブミン)、またはブースタースケジュールではなく単回寛容化でのE-セレクチンのみからなる対照製剤で処置されたものと比較することにより決定することができる。この戦略の例は、本明細書の実施例の項に明らかにしている。【0026】E-セレクチンの最適用量は、前述のように評価された血栓症により引き起こされた脳組織損傷に対し最大の恩恵作用を生じるものである。有効量は、前述のような、脳卒中の少なくとも1種のマーカー、症状、または組織学的証拠となる特徴の少なくとも統計学的または臨床的に有意な減弱を引き起こす。対照患者または動物が症状または組織損傷の増悪を経験するような条件下での、症状または組織損傷の安定化は、抑制治療の効能のひとつの指標である。【0027】E-セレクチンの最適量に加え有効量範囲の評価は、常法および本明細書の内容を用いて決定される。例えば、哺乳類についての用量およびヒト用量は、比較的低用量(例えば、1μg)から開始し、かつ適当な反応(例えば、TGF-β、IL-4、および/またはIL-10分泌細胞の数;血液中の免疫攻撃T細胞の数および活性化(例えば、限定希釈分析および増殖能による);および/または疾患の重症度)を測定しながら漸増することにより決定することができる。最適用量は、脳卒中予防の最大量または血栓症により引き起こされた脳の組織損傷からの最大保護を生じると同時に、望ましくない副作用は最小化する。可能性のある副作用は、病原性自己抗体の出現(Hu, W.ら、「60kDa心臓発作タンパク質由来のペプチド336〜351によるブドウ膜炎の実験的粘膜誘導(Experimental mucosal induction of uveitis with the 60-kDa heat shock protein-derived peptide 336-351)」、Eur. J. Immunol.、28:2444(1998);Genain C. P.ら、「非ヒト霊長類の免疫偏向療法の後期合併症(Late complications of immune deviation therapy in a nonhuman primate)」、Science、274:2054(1996))、または自己免疫を誘導する細胞傷害性Tリンパ球反応(Blanas E.ら、「自己抗原の経口投与による自己免疫性糖尿病の誘導(Induction of autoimmune diabetes by oral administration of autoantigen)」、Science、274:1707(1996))を含む。【0028】有効量は、例えば、脳梗塞の数または面積、脳実質内出血の数または面積、脳卒中発症の出現率または時間などの、頭蓋窩(skull cavity)内の血栓症の少なくともひとつの徴候の少なくとも統計学的または臨床的に有意な減弱を生じる。ヒトにおけるバイスタンダー抗原の最大有効量は、例えば1回投与当り0.5μgのような、比較的低用量で開始する用量漸増臨床試験を試験することにより確認することができる。【0029】鼻腔内注入の好ましい用量は、1回投与当り0.5〜50mgであり、ヒトについて好ましくは1回投与当りおよそ5μg〜5mgである。ラットについて、ある好ましい用量は、1回投与当り5μgである。好ましいエアゾール薬学的製剤は、例えばE-セレクチンを約1mg〜約300mg含有した生理学的に許容される緩衝生理食塩水を含むことができる。【0030】E-セレクチン投与の最適投薬法の確認は、バイスタンダー抗原および自己抗原の投与に関する本明細書において明らかにされた情報および周知の情報を考慮して決定される。用量、併用および治療期間に関する慣習的変動を、このような変動の生物に対する作用を測定することができるような状況において行うことができる。【0031】E-セレクチンは、好ましくは連続投与を用いる本発明の実行において使用される。典型的にはこれらの投与は、1〜2週間間を空けて行われる。例として下記の実施例に詳述されるように、E-セレクチンは、2週間にわたる5回の鼻腔内投与において投与することができる。好ましくはこのプロトコールには、E-セレクチンの1日おきで10日間の投与が関わっている。好ましくは、この投薬法は、一般に数週間間を空けて投与されるブースター投与で反復される。ある好ましい態様において、ブースター投与は、3週間毎に投与される。ブースター投与は、初回投与について先に説明したような、連続投与を含むことができる。【0032】E-セレクチン寛容化の有効性を増大するために、サイトカインおよび非サイトカイン相乗剤を、本発明においてE-セレクチンと一緒に使用することができる。「一緒の」投与には、同時および逐次投与、更には一緒にした形状または個別の投与が包含される。サイトカイン相乗剤(I型インターフェロン)の経口および非経口使用は、Hafler, D. A.ら、「経口的寛容および/またはI型インターフェロンを用いる自己免疫疾患の治療(Treatment of autoimmune disease using oral tolerization and/or type I interferon)」、国際公開公報第9527499号(1995)に開示されている。Th2増強するサイトカインの投与は、Weiner H. L.ら、「経口的寛容および/またはTh2増強サイトカインを用いる自己免疫疾患の治療(Treatment of autoimmune disease using oral tolerization and/or Th2 enhancing cytokines)」、国際公開公報第9527500号(1995)に開示されている。例えば、IL-4およびIL-10を、Weinerらの同書に説明された方法で投与することができる。【0033】本発明において使用するための非サイトカイン相乗剤の非限定的例は、大腸菌およびサルモネラ菌の様々な亜型のような広範なグラム陰性菌由来の細菌性リポポリサッカリド(LPS、Sigma Chemical Co.、セントルイス、MO;Difco、デトロイト、MI;BIOMOL Res. Labs、プリモス、PA)、リピドA(Sigma Chemical Co.、セントルイス、MO;ICN Biochemicals、クリーブランド、OH;Polysciences Inc.、ワーリントン、PA);免疫調節リポタンパク質、例えばトリパルミトイル-S-グリカリルシステイニル-セリル-セリンに共有結合したペプチド(P.sub.3 C55)で、Deres, K.らの論文で明らかにされたもの(Nature、342:561-564(1989)、「ウイルス特異性細胞傷害性Tリンパ球のリポペプチドワクチンによるin vivoプライミング(In vivo priming of virus-specific cytotoxic T lymphocytes with synthetic lipopeptide vaccine)」)、または大腸菌由来の「Braun's」リポタンパク質で、Braun, V.の論文で明らかにされたもの(Biochim. Biophys. Acta、435:335-337(1976));並びに、コレラ毒素β鎖(CTB)で、その相乗能がSun, J-Bらの論文「コレラ毒素Bサブユニット:末梢の免疫寛容を引き起こす効率的経粘膜的担体送達システム(Cholera toxin B subunit: an efficient transmucosal carrier-delivery system for induction of peripheral immunological tolerance)」、Proc. Natl. Acad. Sci.(USA)91:10795(1994)に説明されているもの(自己免疫応答の減少については結びつけられていない)を含む。哺乳類に関する非サイトカイン相乗剤の有効量の範囲は、約15ng〜約15mg/kg体重であり、および好ましくは300ng〜12mg/kg体重である。哺乳類についての経口I型インターフェロンの有効量は、1,000〜150,000ユニットであり、最大有効量はわかっていない。E-セレクチンとの組合せにおいて有用である別の活性化合物は、パルス投薬法による投与時に大きく増加したIL-4分泌により、顕著なTh2免疫偏向を引き起こすことがわかっているメトトレキサートである(Weinerら、「メトトレキサートと併用する寛容を用いる自己免疫疾患の治療(Treatment of Autoimmune Disease Using Tolerization in Combination with Methotrexate)」、米国特許第5,935,577号(1999))。【0034】E-セレクチンおよび/または共刺激分子の投与に関する最適投薬法の確認は、バイスタンダー抗原および自己抗原の投与に関する本明細書において明らかにされた情報および周知の情報を考慮して決定される。用量、併用、および治療期間に関する慣習的変動は、このような変動の生物への作用を測定することができるような状況下で行われる。共刺激物質は、E-セレクチン投与の24時間以内に投与されることが好ましい。より好ましくは、これはE-セレクチンと同時に投与される。最も好ましくは、両者は一緒にした経口製剤で投与される。【0035】理論により限定されるものではないが、本発明は、腫瘍壊死因子-αおよびインターロイキン-1-βのような炎症性サイトカインによる血管セグメント(vascular segment)の内皮の内腔表面の活性化は、血栓症の発生またはそのセグメントにおける炎症性血管損傷の進展の前提条件であるという仮説を基にしている。一般的方法は、寛容化されたリンパ球を産生するための、気管支関連リンパ組織(BALT)およびおそらくは消化管関連リンパ組織(GALT)におけるリンパ球の接着分子抗原への曝露に関連している。この抗原は、鼻腔内注入される。寛容化されたリンパ球は、「免疫偏向」を受け、これにより同一抗原に再度遭遇した場合に、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β;炎症性サイトカイン産生のパラクリン「バイスタンダー抑制」を引き起こすサイトカイン)を合成および放出する。この抗原は、活性化された血管セグメントの内皮表面においてのみ発現される接着分子である、E-セレクチンである。従ってこの方法の本質は、血管の連続監視を提供する可動性モニターになるよう自家リンパ球をプログラムすることである。これらが活性化されたセグメントにおいてE-セレクチンと遭遇した場合、これらはそのセグメントに結合し、TGFβを産生するように刺激され始める。TGF-βはその後、炎症性サイトカインの産生を抑制し、内皮の血栓形成性を低下し、かつ血管損傷を最小化する。単回の抗原曝露後、リンパ球の寛容が数週間続き、および長期間の寛容状態の維持には、この抗原に対する反復ブースター曝露が必要である。【0036】更に本発明は、特に頭蓋内出血の低下を含み得る機序により脳卒中の可能性を低下する方法を提供する。理論により制限されることを意図するものではないが、この結論は、頭蓋内出血およびエンドグリン遺伝子多型に関連した下記の考察を基にしている。エンドグリン遺伝子の変異は、患者の頭蓋内出血に関連している(Alberts, M.J.ら、「散在性脳内出血のリスク因子としてのエンドグリン遺伝子多型(Endoglin gene polymorphism as a risk factor for sporadic intracerebral hemorrhage)」、Ann. Neurol.、41:683(1997))。エンドグリンは、TGF-βに結合し、その後血管維持および発生において役割を果たすように見える。エンドクリン機能の障害は、内皮のTGF-βに対する反応を減弱し、出血傾向の増大を生じるように見える。E-セレクチン寛容も、前述のように、TGF-β陽性リンパ球の数を増大し、および活性化され始めた血管セグメント内でのTGF-βの放出を増加することができるように見える。これは、エンドグリン存在下での出血の可能性を低下すると予測されるであろう。このことは恐らく、下記実施例の項に説明するように、E-セレクチン寛容化およびブースター寛容化を受けた群において観察された頭蓋内出血の除去に関連している。【0037】別の局面において、本発明は、脳卒中発生の直後、または好ましくは発生前の患者へのE-セレクチン投与による脳卒中後の脳組織損傷を緩和する方法を提供する。好ましくは、E-セレクチンは、以下に説明されるように、寛容を、最も好ましくはバイスタンダー作用寛容を引き起こす方法で投与される。E-セレクチン給源、投与量、送達経路、製剤などを考慮し、脳卒中を予防する方法が先に説明されている。添付した実施例に示されるように、E-セレクチン投与が脳卒中傾向のあるラットモデルにおいて有意に形成された梗塞数を低下するのみではなく、形成される梗塞が対照の梗塞よりもサイズが有意に小さい。従ってE-セレクチンに対する寛容は、脳卒中を有する動物において脳組織の損傷を最小化すると同時に、E-セレクチン寛容状態であるように見える。【0038】E-セレクチン寛容の誘導法本発明のひとつの局面は、宿主においてE-セレクチン寛容を誘導する方法である。この方法は、E-セレクチンの鼻腔内投与を含む。好ましい態様において、このプロトコールは、E-セレクチンのブースター鼻腔内投与からなる。【0039】ある態様において、E-セレクチン寛容は、2週間に及ぶE-セレクチンの5回の鼻腔内投与の5x2(five by two)投与プロトコールにより誘導される。最も好ましい態様において、この5x2投与は、少なくとも1回反復される。最も好ましくは、このブースター投薬法は、生物の生存期間を通じて3週間毎に反復される。【0040】E-セレクチン寛容を誘導するための鼻腔内注入のために、考慮すべき最適化が目的とされる、好ましい用量、E-セレクチン給源、製剤、用量容積、投薬法、および結果の分析法は、脳卒中予防におけるE-セレクチン投与の使用に関して先に説明したものと類似している。例えば、好ましい用量は、1回の投与当り0.5μg〜50mgの範囲であり、好ましくはヒトについて1回の投与当りおよそ5μg〜5mgである。免疫抑制に必要な用量の最適化は、本明細書に明らかにされた指針によりもたらされる日常的実験にすぎない。【0041】E-セレクチン寛容を誘導する本発明のこの局面には、多くの利用性がある。例えば、脳卒中および他の血管疾患の形、例えば冠状動脈疾患などの予防および治療において使用することができる。加えて、E-セレクチンが例えば、肺損傷、乾癬、接触皮膚炎、炎症性腸疾患、関節炎などの役割を果たすことが決定された障害、もしくは決定され得るような障害の治療において使用することができる(例えば、Washington R.ら、「多発性硬化症患者から単離された中枢神経系微小血管における免疫学的関連のある内皮細胞活性化抗原の発現(Expression of immunologically relevant endotherial cell activation antigens on isolated central nervous system microvessels from patients with multiple sclerosis)」、Ann. Neurol、35:89(1994);Bevilacqua、(1989);BevilacquaおよびNelson、「セレクチン(Selectin)」、J. Clin. Invest.、91:379(1993);Kochら、「ヒトリウマチおよび骨関節炎滑膜組織における内皮および白血球接着分子の免疫局在(Immunolocalization of endotherial and leukocyte adhesion molecules in human rheumatoid and osteoarthritic synovial tissues)」、Lab Invest.、64:313(1991);Mulliganら、「ラットにおける好中球が媒介した肺損傷における内皮-白血球接着分子-1(ELAM-1)の役割(Role of endotherial-leukocyte adhesion molecule I(ELAM-1)in neutrophil-mediated lung injury in rats)」、J. Clin. Invest.、88:1396(1991);および、Mulliganら、「P-セレクチン依存型肺損傷におけるオリゴ糖の保護作用(Protective effects of oligosaccharides in P-selectin-dependent lung injury)」、Nature、364:149(1993)を参照のこと)。【0042】E-セレクチンの免疫応答に対するE-セレクチン製剤の作用の評価は、例えば、活性化された血管組織に対して示された活性化されたT細胞クローンの数のようなある種の炎症マーカーの減量を決定することにより行うことができる。免疫寛容は、当技術分野において周知の多くの方法により測定することができる。好ましいひとつの態様において、遅発型過敏(DTH)反応を、例えば、分析される生物の足蹠(footpad)へとE-セレクチンを注射し、その後例えば足蹠または耳へと、遅れて、典型的には1週間以降に、最も好ましくは2週間以降にブースター注射投与することにより、動物において測定することができる。DTH反応は、抗原再チャレンジ部位の膨潤の増加として誘発注射後に測定することができる。足蹠または耳の膨潤は、例えばチャレンジの0、24および48時間後に測定することができる。【0043】脳卒中傾向のラットを用いて脳卒中発生または脳卒中に関連した損傷に対するE-セレクチン寛容の作用を分析する方法は、前項および実施例の項において考察されている。この方法は、E-セレクチンの鼻腔内投与を介してのE-セレクチン寛容の誘導に対する特定の用量、製剤、およびプロトコールの有効性の間接測定としても有用である。【0044】本明細書に引用された様々な刊行物、発行された特許、公開された特許明細書などは、本明細書に参照として組入れられている。下記実施例は、本発明の方法および組成物を説明しかつ例証している。これらの例は、本発明を例証することのみが意図されており、範囲も精神も限定するものではない。当業者は、これらの実施例において説明した方法において使用した物質、条件および過程の変種を使用することができることを容易に理解すると思われる。【0045】実施例1:E-セレクチン投与による脳梗塞の減少脳卒中傾向のラットの脳の梗塞に対するE-セレクチン投与の作用を分析した。雄および雌の脳卒中傾向のあるおよび自然発症高血圧(SHR-SP)8〜10週齢のラットを、NIHコロニーから得た(Okamoto、(1974))。11週齢目に、E-セレクチン-(可溶性ヒトE-セレクチン:ヒトE-セレクチンレクチン、EGF、CR1、CR2ドメイン、mycペプチド尾部)オボアルブミンおよび溶媒(PBS)を、鼻腔内投与した。精製したヒトE-セレクチンは、Protein Design Laboratories(フレモント、CA)から入手した。【0046】E-セレクチンおよび対照調製物を、下記の方法で投与した:SHR-SPラットを3群に分けた:(1)生理食塩水(PBS)対照群、(2)E-セレクチン投与群(ES群)、および(3)オボアルブミン(OVA)投与群(OVA群)。加えて、ES群およびOVA群は、単回(非ブースター)および反復(ブースター)投与群に分けた。対照群について、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)20μlを、各鼻孔に10日間隔日、合計5回投与した。ES非ブースター群について、20μl PBS中2.5μg E-セレクチンを、各鼻孔へ10日間隔日、合計5回投与した。ESブースター群について、初回20μl PBS中E-セレクチン2.5μgを、非ブースター群について先に説明したように投与し;加えて、20μl PBS中E-セレクチン2.5μgを、各鼻孔へ10日間隔日(1回目のE-セレクチンコースの3週間後)、鼻腔内投与し、かつ動物を屠殺するまで、3週間毎に繰り返した。OVA非ブースター群については、20μl PBS中2.5μgオボアルブミンを、各鼻孔に10日間隔日、合計5回投与した。OVAブースター群については、初回20μl PBS中オボアルブミン2.5μgを、非ブースター群について先に説明したように投与し;加えて、20μl PBS中オボアルブミン2.5μgを、各鼻孔へ10日間隔日(1回目のE-セレクチンコースの3週間後)、鼻腔内投与し、かつ動物を屠殺するまで、3週間毎に繰り返した。【0047】これらのラットを、脳卒中の生理的および神経学的徴候について評価した。これらの評価は、興奮(すなわち、立毛、多動)、過剰刺激反応性(すなわち、跳躍、脱走の試み)、行動および精神の機能低下(すなわち、運動低下、低体温、低血圧、低反応性)、行動混乱(すなわち、つま先反復持ち上げの一過性発作(episode)、運動失調、不全麻痺、麻痺)、および死期に認められる後期症状(すなわち、アパシー、昏睡、尿失禁)を含んだ。これらのラットは更に、当技術分野において公知の方法を用い、動脈血圧、体重、心重量、および動脈血液ガスについても測定し経過観察した。【0048】梗塞は、下記の方法で評価した。動物が心不全、腎不全または脳卒中の徴候を示した場合は、これらを灌流し、かつ脳を組織学的および造影処理のために摘出した。8個の予め定められた定位固定レベルの切片を、各脳から採取した(合計240切片)。梗塞または出血の数および面積を、各動物の各切片について決定した。E-セレクチン投与の統計学的有意性は、E-セレクチン群と対照群とをコックス比例ハザードモデルにより比較することで決定した。【0049】動物は、14週間から、56週間の実験終了時まで変動する期間生存した。死因は、重症の高血圧(平均収縮期血圧215mmHg)に随伴した心不全および腎不全に加え脳卒中であった。死亡時の平均週齢および平均収縮期血圧は、実験群間で異ならなかった。【0050】ブースター投与で維持されたE-セレクチンを受けた動物実験群は、梗塞の頻度および面積が、対照群と比較して統計学的に有意に低下した(p<0.0001)(図1〜7)。梗塞の平均面積は、対照群および単回投与E-セレクチン群の約6.873mm2〜約27.718mm2の間から、E-セレクチンブースター群の約0.002mm2にまで減少した(すなわち、99%を上回る低下;表1〜4、図1および3参照)。梗塞の平均数は、対照群および単回投与E-セレクチン群の約3.0〜約7.3から、E-セレクチンブースター群の約0.3にまで減少した(すなわち、91%を上回る減少;表1〜4、図2および4参照)。実質内出血は、E-セレクチンブースター群においては存在しなかったが、対照群および単回E-セレクチン投与群においては分析した脳切片1個につき平均数約3.2〜約2.3で存在した(表1〜4および図1、2、5または6参照)。【0051】【表1】OVA群のデータ【0052】【表2】OVAb群のデータ【0053】【表3】ES群のデータ【0054】【表4】ESb群のデータ【0055】実施例2:E-セレクチン寛容の誘導脳卒中に関連した組織損傷を減少させるE-セレクチンに対する寛容が、前述のE-セレクチン鼻腔内投与プロトコールにより誘導されたかどうかを決定するために、分析を行った。この分析のために、E-セレクチンまたは対照PBS調製物のいずれかを、実施例1において非ブースター群について説明したようにラットに投与した。遅発型過敏症(DTH)を、鼻腔内投与の14日後、50μlのPBSおよび50μlの完全フロイントアジュバント中の5μg E-セレクチンを後肢蹠(s.q.)へ注射することにより分析した。14日後、ラットを、50μlのPBS中の5μg E-セレクチンを耳への注射することにより再チャレンジし、かつ耳厚を48時間後にマイクロキャリパー(Mitsutoyo)で測定した。【0056】遅発型過敏症アッセイ法の結果は、ヒトE-セレクチンの鼻腔内注入が、寛容を誘導したことを明らかにした。足蹠注射および耳誘発注射前のE-セレクチンの鼻腔内投与は、Mitsutoyo製マイクロキャリパーで測定したところ、対照群と比べ耳の膨潤の有意な抑制を生じた(図7)。このデータは、使用したE-セレクチン投与プロトコールがE-セレクチンに対する寛容を誘導したことを明らかにしている。【図面の簡単な説明】【図1】 経時(日)累積梗塞および出血面積(mm2)のグラフである。黒菱形、オボアルブミン5μg単回投薬法;白菱形、ブースターを伴うオボアルブミン5μg投薬法;黒四角、E-セレクチン5μg単回投薬法;白四角、ブースターを伴うE-セレクチン5μg。【図2】 経時(日)累積梗塞および出血数のグラフである。黒菱形、オボアルブミン5μg単回投薬法;白菱形、ブースターを伴うオボアルブミン5μg投薬法;黒四角、E-セレクチン5μg単回投薬法;白四角、ブースターを伴うE-セレクチン5μg。【図3】 経時(日)累積梗塞面積(mm2)のグラフである。黒菱形、オボアルブミン5μg単回投薬法;白菱形、ブースターを伴うオボアルブミン5μg投薬法;黒四角、E-セレクチン5μg単回投薬法;白四角、ブースターを伴うE-セレクチン5μg。【図4】 経時(日)累積梗塞数のグラフである。黒菱形、オボアルブミン5μg単回投薬法;白菱形、ブースターを伴うオボアルブミン5μg投薬法;黒四角、E-セレクチン5μg単回投薬法;白四角、ブースターを伴うE-セレクチン5μg。アスタリスクは、コックス比例ハザードモデルを用い、対照群について得られた値に対し、ES群の値が統計学的に減少した(p<0.0001)データ点を示す。【図5】 経時(日)累積実質内出血面積(mm2)のグラフである。黒菱形、オボアルブミン5μg単回投薬法;白菱形、ブースターを伴うオボアルブミン5μg投薬法;黒四角、E-セレクチン5μg単回投薬法;白四角、ブースターを伴うE-セレクチン5μg。【図6】 経時(日)累積実質内出血数のグラフである。黒菱形、オボアルブミン5μg単回投薬法;白菱形、ブースターを伴うオボアルブミン5μg投薬法;黒四角、E-セレクチン5μg単回投薬法;白四角、ブースターを伴うE-セレクチン5μg。【図7】 本発明の寛容化E-セレクチン投薬法の遅発型過敏症に対する作用を示す、一連の棒グラフである。E-セレクチン鼻腔内投与を受けた実験ラットは、足蹠においてE-セレクチンで免疫し、その後耳にブースター免疫した。これらのグラフは、E-セレクチンのブースター免疫化を受けた耳における耳厚の変化を、ブースター投与を受けなかった耳と比較して示している。パネルAは、ブースターによる耳の増加(mm)を示し、パネルBは、ブースターを受けた耳の増加を耳厚の変化の割合(%)で示している。各パネルの左側のグラフは、対照PBS投与を受けたラットのデータを示している。各パネルの右側のグラフは、本発明に従いE-セレクチン寛容化投薬法を受けたデータを示している。 動物において寛容を誘導する医薬を製造するための、E-セレクチンの使用。 バイスタンダー作用寛容がE-セレクチン投与により誘導される、請求項1に記載の使用。 動物において脳卒中を治療する医薬を製造するための、E-セレクチンの使用。 動物において脳卒中を予防する医薬を製造するための、E-セレクチンの使用。 E-セレクチンが脳卒中後の脳損傷を軽減するために使用される、請求項3または4記載の使用。 動物において寛容を誘導する医薬を製造するための、請求項3〜5のいずれか一項記載のE-セレクチンの使用。 バイスタンダー作用寛容がE-セレクチン投与により誘導される、請求項3〜6のいずれか一項記載のE-セレクチンの使用。 E-セレクチンがヒトE-セレクチンである、請求項1〜7のいずれか一項記載の使用。 E-セレクチンが鼻腔内投与される、請求項1〜7のいずれか一項記載の使用。 E-セレクチンが2週間にわたって初回鼻腔内投される、請求項9記載の使用。 E-セレクチンのブースター投与が初回鼻腔内投与の後に行われる、請求項9または10記載の使用。 E-セレクチンが、E-セレクチンレクチン、EGF、CR1、およびCR2ドメインを含む、請求項1〜11のいずれか一項記載の使用。 動物において寛容を誘導する医薬を製造するための、有効量のE-セレクチンを含む薬学的組成物の使用であって、E-セレクチンがE-セレクチンレクチン、EGF、CR1、およびCR2ドメインを含む、前記使用。