タイトル: | 特許公報(B2)_日本脳炎不活化ワクチン及びその製造方法 |
出願番号: | 2001574140 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | A61K 39/12,A61P 31/14 |
園田 憲悟 葛原 祥二 阿部 元治 西山 清人 堀川 義兼 城野 洋一郎 菅原 敬信 JP 4751558 特許公報(B2) 20110527 2001574140 20010405 日本脳炎不活化ワクチン及びその製造方法 一般財団法人化学及血清療法研究所 000173555 田村 恭生 100068526 鮫島 睦 100100158 品川 永敏 100126778 森本 靖 100150500 山中 伸一郎 100156111 坪井 有四郎 100076521 園田 憲悟 葛原 祥二 阿部 元治 西山 清人 堀川 義兼 城野 洋一郎 菅原 敬信 JP 2000105943 20000407 20110817 A61K 39/12 20060101AFI20110728BHJP A61P 31/14 20060101ALI20110728BHJP JPA61K39/12A61P31/14 A61K 39/00-39/395 CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) 特開昭61−047185(JP,A) 特開2000−083657(JP,A) 特表平11−510151(JP,A) 国際公開第99/011762(WO,A1) 特開昭61−54450(JP,A) 1 JP2001002939 20010405 WO2001076624 20011018 9 20071211 小堀 麻子 技術分野本発明は、日本脳炎ウイルス(以下、「JEV」と称することもある)ワクチンに関する。更に詳細には、JEVをアフリカミドリザル腎臓由来の株化細胞(例えば、Vero細胞)に感染させ、該株化細胞を培養し、培養物からJEV又はJEV抗原成分を高度に精製する方法、及びこれらを主成分とする日本脳炎ワクチンに関する。背景技術日本脳炎は、フラビウイルス科に属する直径50nmの一本鎖RNAウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患で、発熱、髄膜刺激症状、脳炎を主症状とする重篤な疾患である。一般に予後は悪く、致死率は平均35%程度で高齢者ほど高い。日本脳炎に対する予防法としてはワクチン接種以外にはなく、大谷らの報告(Acta.Paediatr.Jpn.,30:175−184,1988)によれば、ウイルス感染を防御するための最小有効量として、1:10倍の中和抗体価があれば日本脳炎の発症を予防できるとしている。1954年に日本で最初の日本脳炎ウイルスワクチンが製造され、ワクチン材料として日本脳炎ウイルス中山株を感染させた5%マウス脳乳剤が使用された。1989年には、このワクチン材料は、免疫原性が高く、抗原性が野生株により近いと考えられる北京−1株を感染させたマウス脳乳剤に変更された。現行ワクチンは以下の方法に従い製造される。まず、生後3〜5週のマウス脳内にウイルスを接種し、脳炎症状を示した死亡直前の脳を採取する。これを緩衝生理食塩水で20%脳乳剤として、その上清を限外ろ過濃縮、硫酸プロタミン処理及びショ糖密度勾配遠心法等の併用でウイルスを精製し、これにホルマリンを加えて不活化して原液とする。この原液を希釈して得られる最終バルクに、ポリソルベート80、チメロサールを加え、不活化ワクチン液とする。現在、日本脳炎ワクチンの蛋白質含量は、生物学的製剤基準の一般試験法を準用して試験するとき、1mL中に80μg以下でなければならないとされており、この基準に従うワクチン液0.5mLが1接種量となる。現在、日本で使用されている日本脳炎ウイルスワクチンは、上記の製法によりウイルス粒子を高度に精製したもので、有効かつ安全であることが認められているが、一方では下記の問題も存在する。すなわち、現行ワクチンは、日本脳炎ウイルスが感染したマウス脳乳剤を出発材料としているためにマウス脳由来の汚染物質によるアレルギー性中枢神経障害や病原微生物の混入の恐れがあること、現行ワクチンの製造に際して大量にマウスを供給することが困難になりつつあり、その製造コストも高いこと、加えて動物愛護の点から動物を使用することは望ましくないこと等が指摘されている。更に、近年保存剤として添加されてきたチメロサールの人体に及ぼす影響が懸念され、その使用量や使用方法は制限される方向にある。これに代わる保存剤として、2−フェノキシエタノールの使用が報告されている(Cameronら、Develop.biol.Standard.24,155−165,1974)。当該物質は、ワクチンの保存剤としての実績がある一方で、蛋白質抗原に対する変性作用を有することが知られている。すなわち、ワクチンの長期保存試験において、ジフテリア及び百日咳ワクチンでは24〜59%の抗原性が低下するのに対し、破傷風ワクチンでは1.5〜2倍の抗原性が増加する。したがって、2−フェノキシエタノールが抗原性を消失することなく保存剤として使用できるか否かは、使用するワクチン抗原に依存しており、全種類のワクチンに使用できるわけではない。上記の諸問題を解決するために、米国では黄熱病ウイルスを用いたワクチンの開発が進められている。黄熱病ウイルスワクチン株である17D株に日本脳炎ウイルスの主要な感染防御抗原である外被膜糖蛋白(E蛋白)の遺伝子とその上流のPreM遺伝子を組み込んだキメラウイルスワクチンが作製された。このワクチンは接種後10年以上という長期にわたり有効性を発揮する。しかし、突然変異による病原性の復帰が懸念されており、問題点を残している。また、米国や日本では、組換えワクシニアウイルスを用いたワクチンの開発が進められている。メイソン及びコイシ等は、組換えワクシニアウイルスをアフリカミドリザル腎臓由来の株化細胞(Vero細胞)や鶏胚線維芽細胞(CE細胞)に感染させると上清中にこれらのタンパク質を含む粒子様構造物が分泌されることを報告した(Mason P.W.ら、Virology 180:294−305,1991;Koishi E.ら、Virology 185:401−410,1991)。この粒子はマウスに対して高い免疫原性を示すものの、ワクチンとして実用化されるまでには、まだ多くの安全性及び有効性試験が必要であろう。また、中国では、弱毒化した日本脳炎ウイルス(SA14−14−2株)を初代イヌ腎細胞(PCK細胞)に感染させ、該感染細胞を培養し、培養物から弱毒生ワクチンを製造する試みがなされており、既に、この弱毒生ワクチンを用いた多くの臨床試験が行われている(Kenneth H.Eckels、Vaccine Vol.6,p513,1988)。しかしながら、このワクチン株については、弱毒性、免疫原性に問題があるとの指摘もある。以上のような背景から、経済的に安価で、有効、安全かつ一定品質を保証できる日本脳炎ウイルスワクチンの開発が強く望まれている。これらの問題を解決する点で現在最も優れているワクチンは株化細胞をウイルス培養基材として用いて調製するワクチンである。この場合、ウイルス培養方法の検討による高生産性とさらなる安全性のための高度な精製方法の確立が必要になる。石川らは、ショ糖密度勾配遠心を2回繰り返すことで培養時に添加した牛血清抗原含量を13ng/mLにまで減らすことができると報告している(臨床とウイルスVol.26,No.5,1998)。ファンジェ、ベルナールらは、イオン交換クロマトグラフィー、核酸吸着クロマトグラフィー、ゲルパーミエーションをすべてあるいはうち一つのゲルを用いて精製することにより、1接種量あたり細胞DNA含有率が100pgであるワクチンを提供できることを報告している(特表平11−510151)。日本脳炎ウイルスを精製する方法としては坂本らがセルロース硫酸ゲルを用いたウイルス吸着クロマトグラフィーが利用できることを報告している(特公昭62−33879)。発明の開示(発明が解決しようとする技術的課題)本発明の目的は、JEVをアフリカミドリザル腎臓由来のVero細胞に感染させ、該ウイルス感染細胞を培養し、培養物から高度にJEV又はJEV抗原を精製する方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記の方法により得られるJEV又はJEV抗原を主成分とする日本脳炎ワクチンを提供することにある。(その解決方法)本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、低ウイルス感染価(M.O.I.)のJEVを感染させたVero細胞を無血清培地中で培養すると多量のJEVが生産されること、セルロース硫酸エステルゲル吸着クロマトグラフィーをJEVの製造工程に導入すると高度に精製されたJEVが得られること、日本脳炎ワクチン抗原に対する2−フェノキシエタノールの影響が小さく、保存剤として実用に耐えうること、及び該2−フェノキシエタノールを含む該JEVワクチンでマウスを免疫すると該マウスの血清中にJEVに対する高力価の中和抗体が誘導されることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の方法は、JEVワクチンの製造過程において、JEVの精製に使用されるセルロース硫酸エステルゲル吸着クロマトグラフィーによって特徴付けられる。日本脳炎ワクチンの製造には、以下の工程が実施される。(1)不活化JEV含有溶液の調製JEVの増殖に用いる宿主細胞としては、JEVの増殖性が良く、且つ免疫原性の高い抗原を産生する細胞ならば特に制限されず、動物又は昆虫細胞由来の株化細胞を使用することができる。具体的には、ハムスター肺由来のHmLu−1細胞(Hideo Okumura,Cancer Cells in Culture,292−298,1968)、ハムスター腎臓由来のBHK−21細胞(IAN Macpherson及びMichael Stoker,Virology 16:147−151,1962)、アフリカミドリザル腎臓由来のVero細胞又はGL37細胞、イヌの腎臓由来のMDCK細胞、蚊由来のC6/36細胞等が挙げられるが、好ましくは、Vero細胞が使用される。なお、GL37細胞は、平成10年6月19日付で工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERMP−16857として、出願人により寄託されている。ワクチンの製造に使用されるJEV株は、感染防御抗原を維持しているウイルスならば特に制限されない。例えば、北京−1株、中山株が使用される。細胞の拡張に用いる培地(以下、「増殖培地」と称することもある)としては、M199−earle base、イーグルminimum essential medium(E−MEM)、ダルベッコminimum essential medium(D−MEM)、SC−UCM102(日水)、VP−SFM(GIBCO BRL)、EX−CELL302(ニチレイ)、EX−CELL293−S(ニチレイ)、TFBM−01(ニチレイ)、ASF104等、一般に組織培養に使用されているものを適宜選択し、これにアミノ酸、塩類、抗カビ・抗菌剤及び動物血清等を添加したものが使用される。好ましくは、D−MEM培地とこれにアミノ酸、塩類、抗カビ・抗菌剤及び動物血清等を添加したものが使用される。ウイルス接種後、ウイルスの増殖に用いる培地(以下、「維持培地」と称することもある)としては、無血清又は低蛋白濃度の培地が使用される。動物血清を含まない上記の培地を使用することができるが、好ましくは、VP−SFMに1−グルタミン酸を添加した培地が使用される。無血清培地の使用により、除去すべき不純物質が少なくなるために精製が容易となり、また、血清由来の未知の病原体が混入する可能性を排除できる。細胞を増殖させる方法として、静置培養法、ローラボトル培養法及び浮遊培養法などが知られている。これらの内、浮遊培養法の一つであるマイクロキャリアを使用したタンク培養は、細胞の高密度培養が可能でワクチン材料を大量に取得する方法として好適と考えられる。この目的に使用されるマイクロキャリアは、数多く市販されており、Vero細胞を増殖させるのに好ましいものとしてサイトデックス(Cytodex I、アマシャムファルマシアバイオテク社)が挙げられる。斯かるサイトデックスは、1〜5g/Lの濃度で使用するのが好ましい。細胞へのウイルス接種は、M.O.I.=0.1〜0.0001の範囲で可能であるが、好ましいM.O.I.濃度は、使用する培地によって異なる。例えば、VP−SFMを用いる場合は、M.O.I.=0.0001〜0.01の範囲で接種するのが好ましく、また、E−MEMを用いる場合には、M.O.I.=0.01〜0.1の範囲で接種するのが効果的である。細胞及びウイルスを増殖させる際の培養温度及び培養期間は、細胞の種類、ウイルス接種量及び培養スケール・方法等の組み合わせにより調節される。例えば、静置培養又はローラボトル培養法により、Vero細胞でJEVを増殖させる場合には以下の方法がとられる。先ず、Vero細胞を、非必須アミノ酸及び牛血清を添加したD−MEM培地からなる増殖培地中で、培養温度32℃〜38℃、好ましくは37℃で、培養期間2〜7日間、好ましくは5〜7日間培養する。次いで、Vero細胞の増殖が安定期に達した時に、培地を吸引除去し、リン酸緩衝食塩水等で数回洗浄した後、JEVをM.O.I.=0.01〜0.0001、好ましくは、M.O.I.=0.001で接種し、維持培地としてVP−SFMを添加した後、培養温度32℃〜38℃で、3〜8日間、好ましくは37℃で5〜7日間培養する。こうして得られる培養物、すなわち、細胞の破砕液又は培養上清には多量のJEVが存在する。ウイルスの不活化は、該培養物の不溶物を粗遠心又は膜ろ過により除去した後、その上清を、更に排除限界分子量10〜50万の限外ろ過膜(排除限界分子量30〜50万が使用される)で濃縮し、この濃縮液に0.08%ホルマリンを添加し、4℃前後で1ヶ月以上静置することにより達成される。JEVの不活化処理は、精製後のウイルス抗原液について行われる場合もある。(2)JEVの精製先ず、不活性化されたJEV濃縮液をショ糖密度勾配遠心にかけ、抗原陽性画分を分画・プールし、JEVを粗精製する。ショ糖密度勾配遠心は特公昭62−33879に記載されているようなウイルス粒子の精製に一般的に使用される条件下、すなわち、60〜20%ショ糖濃度、20,000〜30,000rpm、1〜4時間、4〜15℃で行われる。次に、該粗精製物を適当な緩衝液で透析した後、予め同じ緩衝液で平衡化したセルロース硫酸エステルゲルに接触させることにより、JEVを吸着させ、洗浄後、溶出・回収する。JEVは、pH7〜10でセルロース硫酸エステルゲルに吸着するが、JEVのセルロース硫酸エステルゲルへの吸着は、pH8〜10で行うのが好ましい。更に好ましくは、pH9で吸着させる。斯かるpHを維持するのに適した緩衝液として炭酸−重炭酸緩衝液(炭酸緩衝液と称することもある)、トリス−塩酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液などが挙げられる。また、上記の緩衝液の濃度は、通常、イオン交換クロマトグラフィー等に使用される濃度、例えば、10〜100mMである。好ましくは、10〜50mMが使用される。ゲルの洗浄には、吸着に使用した同緩衝液又はpHを維持した類似の緩衝液が使用される。JEVは,同緩衝液の塩濃度を高めることによってゲルから溶出される。塩濃度を高めるために、イオン交換や吸着クロマトグラフィーなどに使用される一般的な塩類、例えば、0.2〜1M塩化ナトリウムが使用される。このようにして得られるJEV又はJEV抗原液は、実質的に細胞由来の核酸及び蛋白を含有しない高度に精製されたものである。(3)ワクチンの製剤化日本脳炎ワクチンは、上記のJEV又はJEV抗原液を限外ろ過法もしくは透析法等により脱糖又は適当な緩衝液で希釈した後、メンブランフィルターで無菌ろ過し、必要に応じて水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カリウム、ミネラルオイル又はノンミネラルオイル等の免疫不活剤、ポリソルベート80、ポリソルベート20等のウイルス分散剤及びアミノ酸や糖等の安定剤を添加することにより調製される。保存剤として、0.375〜0.5%の2−フェノキシエタノール又は0.01〜0.001%のチメロサールが添加される。(従来技術より有効な効果)本発明によると、JEV感染症を予防するための高純度のJEV不活化ワクチンが提供される。また、本発明の方法により、日本脳炎ウイルスを高純度に精製することができ、そして株化細胞を使用することにより、従来のマウス脳組織を使用する方法に比べ、一定品質のワクチンを低コストで安定的に供給することが可能となる。この様にして調製される本発明のワクチンは、JEVに対する中和活性を有する抗体を誘導し得るものであり、他のウイルス(例えば、A型肝炎ウイルス、狂犬病ウイルス)及び細菌(例えば、百日咳・ジフテリア・破傷風菌)に対するワクチンよりなる群から選択される少なくとも1種類のワクチンと組み合わせることにより混合ワクチンとして使用することができる。以下、実施例に従い、本発明を更に詳細に説明するが、下記の実施例に何ら限定されるものではない。実施例1:Vero細胞の拡張とビーズ培養用いられるVero細胞はATCCより入手されたCCL−81であり、適切な培地と培養方法で増殖させ、細胞バンクを作製した。この細胞バンクは、特性検討と適格性検討用の多くの試験が実施されたものである。この細胞バンクの細胞を、牛血清を含むD−MEM培地で培養する。最初は150cm2フラスコで培養を行い、その後ローラーボトルへ拡張する。最終的に50L容の発酵タンクを、1〜5g/lの濃度でサイトデックスを含むVero細胞用培地で満たす。培地にVero細胞を播種する。細胞を付着させ、6日間増殖させた。実施例2:VP−SFM使用時の低接種M.O.I.の有効性培地を除去し、リン酸緩衝生理食塩水で細胞が付着したビーズを洗浄して細胞培養時に用いた培地の成分、牛血清などを除去した後、無血清培地としてVP−SFMまたはE−MEMを添加した。それぞれに対して感染効率が0.1〜0.0001になるように計算した量のウィルスを添加した。温度37℃で5日後にウィルス増殖培地を回収してウイルス懸濁液を得た。培地中のウイルス含有量をプラークアッセイ法により測定した。表1に培地とウイルス接種M.O.I.の関係を示す。数値はウイルス産生量(nLog10)を示す。E−MEMよりVP−SFMの方が高いウイルス産生がみられ、また、VP−SFM使用時には感染効率を下げた方が多くウイルス量が産生されることが示された(表1)。また、VP−SFM使用時のウイルス培養日数は5日間が最も良いことが示された(表2)。実施例3:ウイルス浮遊液の不活化およびショ糖密度勾配遠心ハーベストされたウイルス液を限外ろ過濃縮(排除限界分子量30万)で約5Lまで濃縮した。濃縮液をホルマリンで4℃に1ヶ月以上おいて不活化し、ショ糖密度勾配遠心(30,000rpm、1時間)で精製した。遠心終了後、抗原陽性画分をプールし、リン酸緩衝液100Lに4℃、4日間透析後、無菌ろ過を行い、精製不活化抗原を得た。実施例4:pHが日本脳炎ウイルス抗原活性に与える変化透析チューブに実施例3で得られた不活化日本脳炎ウイルス液を入れ、透析を行った。透析時に、pH7および8にはリン酸緩衝液、9および10には炭酸緩衝液を用いた。一晩透析後、抗原の残存活性をELISAにて測定したところ、高pHほど残存活性が高い事が判明した(表3)。実施例5:セルロース硫酸エステルゲルクロマトグラフィーによる精製セルロース硫酸エステルゲルは、たとえば硫酸化−セルロファイン(チッソ)として入手できる。これを適切なカラムに充填後、pH9に調製した10mM炭酸緩衝液で繰り返し洗浄した。洗浄後、同緩衝液に置換した不活化日本脳炎ウイルス液を通して抗原を吸着させた。溶出は1M塩化ナトリウム溶液を徐々に添加して行った。抗原活性の高い画分を集めてワクチン製造用原液とした。pH8では抗原の吸着回収率が60%以下であったのに対してpH9ではほぼ100%の回収が見られた。また実施例7および実施例8に示す方法により細胞由来の核酸および蛋白量を測定したところ、pH8に比べてpH9の方が、それらがさらに除去されており、すなわち不純物が少なく、高純度であることが示された(表4)。実施例6:2−フェノキシエタノールの抗原活性に与える影響細胞培養由来不活化JEV抗原に2−フェノキシエタノール(終濃度;0.5%)、ポリソルベート80(終濃度;0.01%)を加え、ワクチンを調製した。抗原安定性を確認するために4℃に数ヶ月放置し、経時的に残存抗原活性を測定した。その結果、6ヶ月後でも大きな変化はなかった。他のワクチン抗原では2−フェノキシエタノールの添加に伴い、抗原性の低下が認められるのに対して、日本脳炎ウイルス抗原ではその影響が小さく、保存剤として2−フェノキシエタノールが使用可能であることが示された(表5)。実施例7:ワクチン原液中の宿主由来核酸の定量検体からの核酸抽出にはDNAエクストラクターキット(和光)を用いた。得られた核酸をバイオドットSF(バイオラッド社)を用いてナイロンメンブレンにブロットした。同メンブレン上には、標準検体として既知量のVero細胞由来核酸もブロットしておく。このメンブレンに対し、Gene Image Labeling System(アマシャムファルマシアバイオテク社)でラベリングしたVero細胞由来DNAを用いてハイブリダイゼーションを行った。検出はGene Image Detection Kit(アマシャムファルマシアバイオテク社)を用いた。化学発光によるシグナルを数値化し、標準検体をスタンダードとして検体の核酸量を求めた。その結果、ワクチン1mLあたり100pg以下であることが示された(表6)。実施例8:ワクチン原液中の宿主由来蛋白の定量Vero細胞培養上清から得られた蛋白をウサギおよびモルモットに免疫して抗Vero蛋白抗体を作製した。96ウエルプレート(Nunc社)に抗Vero蛋白モルモット抗体を、1ウエルあたり500ngにて添加して吸着させた。ここにワクチンを適宜希釈して添加後、37℃で2時間インキュベートした。次に抗Vero蛋白ウサギ抗体を、1ウエルあたり100ngにて添加した。37℃で2時間インキュベートした後、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG(ZYMED社)を添加した。発色基質(オルトフェニレンジアミン;OPD)を添加し、その発色を既知量のVero蛋白の発色と比較して蛋白量を求めた。本定量系の定量限界は3.2ng/mLであるが、試料を濃縮することにより感度を上昇させることもできる。試作ロットワクチンのVero蛋白量を測定したところ、ワクチン1mLあたり100ng以下であることが示された(表7)。実施例9:ワクチンの力価試験ワクチン液を32倍希釈し、ddYマウス(雌、4週齢)の腹腔内に0.5mLづつ10匹に接種し、1週後に同量を追加免疫した後、採血・血清分離した。なお、参考品として国家検定に適合したマウス脳由来の化血研現行ワクチン(ロット番号35B)を32倍希釈して免疫した。各10匹のプール血清について、Vero細胞を用いたプラークリダクション法により中和抗体価を測定した。また、血球凝集(HI)抗体価も測定した。その結果、Vero細胞培養由来不活化JEV抗原は、現行ワクチン及び参照品に比べ同等以上の免疫原性を有することが示された。その結果を表8に示す。実施例10:Vero細胞由来蛋白に対する抗体測定Vero細胞を無血清培地VP−SFM(LIFE TECHNOLOGEIS社製)で培養し、その培養上清に含まれるVero細胞由来蛋白の抗体産生能をBALB/cマウス(メス)を用いて調べた。該培養上清をリン酸緩衝生理食塩水(以下、「PBS」と称する)で希釈して表9に示される濃度の溶液を調製し、その0.5mlを、4、5および7週齢時に3回、腹腔内に投与した。8週齢時に採血し、血清を分離した。培養上清中の総蛋白量は、ローリーの方法に従って測定した。抗Vero細胞由来蛋白抗体の検出は、ウエスタンブロット法により行った。Vero細胞蛋白4μgをSDS−PAGEにかけた後、ナイロンメンブレン(ミリポア社Immobilon P)に転写させた。5%スキムミルクを含むPBSを用いてブロッキングした後、同PBSで100倍希釈した上記マウス血清を加え、室温で2時間反応させた。陽性コントロールに抗Vero細胞蛋白抗体を使用した。0.05%のポリオキシエチレンモノラウレート(ナカライ、356−24)を含むPBSで洗浄後、同PBSで300倍希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG(BIO−RAD社;172−1011)を加え、室温で2時間反応させた。その後、ECL plus(AP biotech社RPN2132)を添加し、ルミノイメージアナライザーLAS−1000plus(富士写真フィルム社製)で特異バンドを検出した。陽性・陰性の判定は、バンドの検出を以って行った。その結果を表9に示す。本実施例では、培養上清中の総蛋白量が100ng/mL以下のときに抗Vero細胞蛋白抗体の産生は認められなかった。不純物による抗体産生は、アナフィラキシーなどの副反応を誘導する可能性がある。したがって、本発明の日本脳炎ワクチンの主たる不純物であるVero細胞由来蛋白は、100ng/mL以下に制御されることが望ましい。 細胞由来不純蛋白が100ng/mL以下の精製不活化日本脳炎ウイルス溶液の製造方法であって、Vero細胞に感染させた日本脳炎ウイルス培養液を限外濾過膜で濃縮した後、ホルマリン処理により不活化し、これをショ糖密度勾配遠心にかけ、不活化日本脳炎ウイルス含有画分を回収し、該ウイルス含有画分をセルロース硫酸エステルゲルにpH9で接触させることにより該ウイルスを吸着させた後、不純物質を洗浄・除去し、該ウイルスを塩化ナトリウム溶液で溶出・回収する工程を含むことを特徴とする前記方法。