タイトル: | 特許公報(B2)_神経因性疼痛治療剤および神経因性疼痛のモデル動物 |
出願番号: | 2001518714 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | A61K 31/485,A61P 25/04,C07D 489/08 |
長瀬 博 遠藤 孝 川村 邦昭 田中 利明 鈴木 知比古 鈴木 勉 倉石 泰 白木 公康 JP 4867123 特許公報(B2) 20111125 2001518714 20000824 神経因性疼痛治療剤および神経因性疼痛のモデル動物 東レ株式会社 000003159 長瀬 博 遠藤 孝 川村 邦昭 田中 利明 鈴木 知比古 鈴木 勉 倉石 泰 白木 公康 JP 1999236778 19990824 20120201 A61K 31/485 20060101AFI20120112BHJP A61P 25/04 20060101ALI20120112BHJP C07D 489/08 20060101ALN20120112BHJP JPA61K31/485A61P25/04C07D489/08 A61K 31/00 C07D 489/00 CAPLUS/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) 国際公開第93/015081(WO,A1) Nagase,H.,et al,Chemical & Pharmaceutical Bulletin,1998年,Vol.46, No.2,pp 366-369 Keita,H.,et al,European Journal of Pharmacology,1995年,Vol.277,pp 275-280 Catheline,G,.et al,European Journal of Pharmacology,1998年,Vol.357,pp 171-178 Catheline,G.,et al,European Journal of Pharmacology,1996年,Vol.315,pp 135-143 Hao,J.-X.,et al,Pain,1998年,Vol.75,pp 209-217 3 JP2000005690 20000824 WO2001014383 20010301 13 20070810 岡山 太一郎 技術分野 本発明は、オピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする神経因性疼痛治療剤に関する。また、本発明は、神経因性疼痛のモデル動物、該モデルの作製方法、該モデルを用いる神経因性疼痛の治療に有効な化合物の評価方法、該評価方法により得られる神経因性疼痛治療に有効な化合物に関する。背景技術 難治性疼痛の多くを占める神経因性疼痛は、組織損傷による侵害受容器の刺激がないときにでも、持続的な、耐え難い、焼けるような痛みが起こり、発作的な痛みを合併することも多い。また、疼痛部位に感覚鈍麻があったり、軽微な刺激つまり正常時には痛みを起こさないような刺激により疼痛が誘発されるアロディニアが多くの症状で認められる。臨床的にはこれらの特徴的症状が、個々の疾患で混在している。国際疼痛学会の定義では神経系の一次的病変あるいは機能障害により生じる疼痛を神経因性疼痛といい、この神経系には末梢神経系あるいは中枢神経系が含まれる。具体的には末梢神経障害(糖尿病、アルコール・他の薬物中毒、アミロイドーシス)、四肢切断、脊髄後根切断術、腕神経叢引き抜き損傷、脊髄損傷、多発性硬化症、パーキンソン症候群等に伴う疼痛や帯状疱疹後神経痛、中枢性脳卒中後痛(いわゆる視床痛)などが含まれる。つまり神経因性疼痛は末梢神経あるいは中枢神経そのものへの外傷、感染や虚血などによる神経の基質的変化あるいは機能異常により生じる。 神経因性疼痛の治療においては、広く痛みの治療に用いられているモルヒネでも十分な効果が得られず、神経因性疼痛は、オピオイド鎮痛薬に抵抗することが多い。したがって、神経因性疼痛を含む難治性疼痛に対する有用な治療薬の開発が望まれているが、いまだ実現には至っていない。神経因性疼痛の治療には脊髄刺激療法、後根進入部遮断術などの外科的治療の他、γ−アミノ酩酸(GABA)受容体作動薬のバクロフェンやN−methyl−D−aspartate(NMDA)受容体拮抗薬のケタミンなどを慢性的に脊髄髄腔内投与する方法がある。しかしながら、これらの方法は侵襲が大きいため、より侵襲の少ない治療法が望まれ、神経因性疼痛に有用な新薬の開発は重要である。 一方、特許第2525552号に、オピオイドκ受容体作動活性を有し、鎮痛作用を有するモルヒナン誘導体が開示されているが、これら化合物の神経因性疼痛に対する治療効果は明らかではない。 神経因性疼痛に対する有用な新薬の開発には、ヒト神経因性疼痛と同様の臨床症状を示すモデル動物が不可欠である。現在、神経因性疼痛のモデル動物としては、末梢神経の切断や結紮(G.J.Bennet&Y.K.Xie、Pain、33:87−107、1988)あるいは脊髄への障害(J.X.Hao、Pain、45:175−185、1991)などがあるが、スクリーニング法としては操作が煩雑であり、簡便な神経因性疼痛のモデル動物の開発が望まれている。 一方、齧歯類、特にマウスの脊髄腔内投与法は、無麻酔下で、比較的簡便に行うことができる方法として知られている(J.L.K.Hylden&G.L.Wilcox、Eur.J.Pharmacol.、67:313−316、1980)。さらに、マウス脊髄腔内にNMDA(L.M.Aanonsen&G.L.Wilcox、J.Pharmacol.Exp.Ther.、243:9−19、1987)やsubstanceP(J.L.K.Hylden&G.L.Wilcox、Brain Res.、217:212−215、1981)を投与すると引っ掻き行動(scratching)、噛みつき行動(biting)、足舐め行動(liking)すなわちSBL行動が発現し、疼痛が発現することが示唆されている。また、脊髄腔内に(+)−4a−(3−ヒドロキシフェニル)−2−メチル−1,2,3,4,4a,5,12,12a−オクタヒドロ−トランス−キノリノ[2,3−g]イソキノリンを投与することによってマウスに痛覚過敏が発現することも報告されている(L.F.Tsengら、J.Pharmacol.Exp.Ther.、280:600−605、1997)。しかしながら、これらのモデル動物は薬物誘発侵害反応モデルとして示されているのみであり、神経因性疼痛のモデルとしての有用性は明らかではない。 本発明は神経因性疼痛の治療剤を提供することを目的とする。本発明はまた、神経因性疼痛に対する薬物の治療効果を判定可能な神経因性疼痛のモデル動物、該モデル動物を用いる神経因性疼痛治療に有効な化合物の評価方法、該評価方法により得られる化合物を提供することを目的とする。発明の開示 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ってきた結果、一般式(I)で表される化合物が神経因性疼痛を軽減することを見出した。また、一般式(II)で表わされるオクタヒドロイソキノリン誘導体を動物に投与することにより、神経因性疼痛を発現するモデル動物を作製できることを見出し、本モデル動物が神経因性疼痛を軽減する化合物の評価に利用できることを見出して本発明を完成した。 すなわち、本発明は一般式(I)【化1】[式中、---(これは、点線と実線の二重線を表わす)は単結合を表し、R1はシクロプロピルメチルを表し、R2はヒドロキシを表し、R3はヒドロキシを表し、Aは−XC(=Y)−(ここでXはNR4を表し、YはOを表し、R4はメチルを表す)を表し、Bは−CH=CH−を表し、R5は3−フラニルを表し、R6とR7は一緒になって−O−を表し、R8は水素を表す。]で表される化合物、またはその薬理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする神経因性疼痛治療剤である。 さらに本発明は、一般式(II)【化2】[式中、R1は水素、炭素数1から5のアルキル、炭素数4から7のシクロアルキルアルキル、炭素数5から7のシクロアルケニルアルキル、炭素数7から13のアラルキル、炭素数3から7のアルケニル、フラン−2−イルアルキル(ただしアルキル部の炭素は1から5である)、またはチオフェン−2−イルアルキル(ただしアルキル部の炭素は1から5である)を表し、R2は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルコキシ、または炭素数1から5のアルカノイルオキシを表し、R3は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルコキシ、または炭素数1から5のアルカノイルオキシ、または炭素数7から13のアラルキロキシを表し、XはCHまたはNを表し、mは0から2の整数を表し、m個のR4はそれぞれ別個に、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、ニトロ、アミノ、またはアルキルアミノを表す。]で表される化合物を動物に投与することにより痛み反応を発現させることを特徴とする神経因性疼痛のモデル動物、該モデルを用いる神経因性疼痛を軽減する化合物の評価方法、該評価方法により得られる化合物である。発明を実施するための最良の形態 本発明は一般式(I)【化3】[式中、---(これは、点線と実線の二重線を表わす)は単結合を表し、R1はシクロプロピルメチルを表し、R2はヒドロキシを表し、R3はヒドロキシを表し、Aは−XC(=Y)−(ここでXはNR4を表し、YはOを表し、R4はメチルを表す)を表し、Bは−CH=CH−を表し、R5は3−フラニルを表し、R6とR7は一緒になって−O−を表し、R8は水素を表す。]で表される化合物、またはその薬理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする神経因性疼痛治療剤である。 これら一般式(I)で表されるモルヒナン誘導体は、特許第2525552号に示される方法に従って製造することができる。 薬理学的に好ましい酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、グルタル酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マンデル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、フタル酸塩等の有機カルボン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンセンスルホン酸塩、P−トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩等の有機スルホン酸塩等があげられ、中でも塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩等が好まれるが、もちろんこれに限られるものではない。 上記一般式(I)で表される化合物、またはその薬理学的に許容される塩は、鎮痛薬として広く使用されているモルヒネでは十分な治療効果が得られない神経因性疼痛を軽減することから、神経因性疼痛治療剤として有用であることが明らかとなった。 上記一般式(I)で表される化合物を神経因性疼痛治療剤として使用する際には、一種のみならず数種を有効成分として使用できる。これらの化合物は、医薬品用途にまで純化され、必要な安定性試験に合格した後、そのまま、または公知の薬理学的に許容される酸、担体、賦形剤などと混合した医薬組成物として、経口または非経口的に投与することができる。投与形態として、例えば注射剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などによる経口剤、座剤による経腸投与等を挙げることができる。本発明の神経因性疼痛治療剤は、上記有効成分を1〜90重量%、より好ましくは30〜70重量%含有することが望ましい。その使用量は症状、年齢、体重、投与方法等に応じて適宜選択されるが、成人に対して、注射剤の場合、有効成分量として1日0.0001mg〜1gであり、経口剤の場合、0.005mg〜10gであり、それぞれ1回または数回に分けて投与することができる。また、神経因性疼痛に対する治療効果を高めることを目的とした各種補助剤を含有させることができる。更に既知の疼痛を治療するために使用されうる薬剤と併せて用いることができ、併用される薬剤として格別に限定されるものはないが、具体的に例示すれば、抗うつ薬、抗不安薬、抗痙攣薬、局所麻酔薬、交感神経作動薬、NMDA受容体桔抗薬、カルシウムチャンネル遮断薬、セロトニン受容体拮抗薬、GABA受容体機能促進薬、オピオイド作動薬、抗炎症薬等を挙げることができる。更に具体的には、アミトリプチリン、イミプラミン、デシプラミン、フルオキセチン、カルバマゼピン、ジアゼパム、ギャバペンチン、バルプロ酸、カルバマゼピン、リドカイン、クロニジン、フェントラミン、プラゾシン、ケタミン、イフェンプロジル、デキストロメトルファン、メキシチレン、ケタンセリン、塩酸サルポグレラート、ベンゾジアゼピン、バルビツレート、トラマドール、フェンタニール、ジクロフェナック等が挙げられる。更にウイルス感染による神経因性疼痛治療にはアシクロビル、ファンシクロビル等の抗ウイルス剤とも併用できる。その他神経因性疼痛の治療に用いられる神経ブロック療法、鍼治療、光線療法、硬膜外通電刺激療法等と組み合わせて治療することも可能である。 治療対象となる神経因性疼痛には、その発症原因から見ると、組織損傷による侵害受容器の刺激がなく、外傷、手術、放射線療法もしくは薬物療法、さらには糖尿病、アルコール・他の薬物中毒、アミロイドーシス、ウィルス感染等により、神経そのものに傷害、機能不全が生じたときに出現する疼痛が含まれる。また機能異常が起きた神経の部位から見ると、三叉神経痛、舌咽神経痛、カウザルギー(四肢末梢神経またはその大きな枝の部分障害のあとで、交感神経機能障害による血管運動神経と発汗の異常を伴い、持続性の灼熱痛を組織の栄養障害が認められる疼痛症候群)反射性交換神経性萎縮症、求心神経遮断性疼痛、視床痛等が含まれる。この他に、帯状疱疹痛、帯状疱疹後神経痛、緊張性痙攣痛、肢端紅痛、灰白髄炎疼痛、または幻肢痛、AIDS感染者の疼痛、多発性硬化症の疼痛、パーキンソン症候群に伴う疼痛等も含まれる。中でも帯状疱疹に伴う疼痛、例えば帯状疱疹痛、帯状疱疹後神経痛等の治療に有効である。 さらに本発明は、一般式(II)【化4】[式中、R1は水素、炭素数1から5のアルキル、炭素数4から7のシクロアルキルアルキル、炭素数5から7のシクロアルケニルアルキル、炭素数7から13のアラルキル、炭素数3から7のアルケニル、フラン−2−イルアルキル(ただしアルキル部の炭素は1から5である)、またはチオフェン−2−イルアルキル(ただしアルキル部の炭素は1から5である)を表し、R2は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルコキシ、または炭素数1から5のアルカノイルオキシを表し、R3は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルコキシ、または炭素数1から5のアルカノイルオキシ、または炭素数7から13のアラルキロキシを表し、XはCHまたはNを表し、mは0から2の整数を表し、m個のR4はそれぞれ別個に、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、ニトロ、アミノ、またはアルキルアミノを表す。]で表される化合物を動物に投与することにより痛み反応を発現させることを特徴とする神経因性疼痛のモデル動物、該モデルを用いる神経因性疼痛を軽減する化合物の評価方法、該評価方法により得られる化合物である。 本発明のモデル動物の作成に用いる一般式(II)で表される化合物のうち、R1が水素、炭素数1から5のアルキル、炭素数4から7のシクロアルキルメチル、炭素数5から7のシクロアルケニルメチル、フェニル、ナフチル、炭素数7から13のフェニルアラルキル、炭素数3から7のアルケニル、フラン−2−イルアルキル(ただしアルキル部の炭素は1から5である)、またはチオフェン−2−イルアルキル(ただしアルキル部の炭素は1から5である)であり、R2が水素、ヒドロキシ、アセトキシ、プロピオノキシ、メトキシ、エトキシであり、R3が水素、ヒドロキシ、アセトキシ、プロピオノキシ、メトキシ、エトキシ、ベンジロキシであり、XがCHであり、mが0から2の整数であり、R4がそれぞれ別個に弗素、塩素、臭素、炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、ニトロ、アミノであるものが好ましい。中でも、R1が水素、メチル、エチル、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロペンテニルメチル、シクロヘキセニルメチル、ベンジル、フェネチル、トランス−2−ブテニル、3−メチル−2−ブテニル、アリル、フラン−2−イルメチル、またはチオフェン−2−イルメチルであり、R2が水素、ヒドロキシ、アセトキシ、またはメトキシであり、R3が水素、ヒドロキシ、アセトキシ、メトキシ、またはベンジロキシであり、XはCHであり、mは0から2の整数であり、m個のR4はそれぞれ別個に弗素、塩素、臭素、メチル、メトキシ、ニトロまたはアミノである化合物が好ましい。 また、一般式(II)は化合物の相対配置を表すものであり、本発明の化合物はラセミ体、絶対構造が下記の一般式(A)、(B)【化5】で示される光学活性体を包含する。その中でも絶対構造が一般式(A)で示される光学活性体が好ましい。 特に好ましくは(+)−4a−(3−ヒドロキシフェニル)−2−メチル−1,2,3,4,4a,5,12,12a−オクタヒドロ−トランス−キノリノ[2,3−g]イソキノリン【化6】である。 本発明に用いられる動物は特に限定されないが、好ましくは齧歯類、さらに好ましくはマウスである。神経因性疼痛を発現させるための化合物の投与部位としては脊髄腔内が好ましい。マウスを用いる場合、マウスの系統、週齢、雌雄などは特に限定されないが、週齢が高くなる、すなわち体重増加にともない、動物の脊髄腔内への投与が困難になるため、体重25gから35gのマウスを用いることが好ましい。 マウスで神経因性疼痛を誘発するためには、脊髄腔内に上記一般式(II)で表される化合物を5μgから30μg程度投与することが望ましく、通常15μg程度が好ましく用いられる。投与溶媒としては等張性の溶液が用いられ、通常生理食塩水も十分に使用できる。脊髄腔内への投与容量は望ましくは数μlから20μlの範囲で、中でも5μl程度が好ましい。また、脊髄腔内への投与には25から30gaugeの注射針を用いることが好ましい。 本発明における評価方法として、動物における種々の行動学的指標を利用できる。その中で正常動物ではあまり認められない引っ掻き行動、噛みつき行動、足舐め行動などを指標にすることが好ましい。これらの行動観察による評価は動物を直接的に観察することも可能であるが、ビデオ等の記録媒体を用いた評価、更に動物の動きを動物が発散する熱で検出する機械等を用いた評価も可能である。また評価時期は一般式(II)の化合物の投与後、それらの行動が安定して発現する時間帯が望ましいが、更に好ましくは投与5分後から5分間が好ましい。 本発明のモデル動物を用い、神経因性疼痛の治療を目的とした薬物のスクリーニングまたは評価を行うとき、評価される薬物の投与経路、溶媒、容量などは特に限定されず、その薬物自身の特徴を考慮し、それらを適切に選択可能である。上記評価方法により、動物の引っ掻き行動、噛みつき行動、足舐め行動などを抑制する化合物を、神経因性疼痛を軽減する化合物として得ることができる。 実際にここで得た化合物は他の神経因性疼痛モデル動物でも有効性を示すことから、該動物モデルの有用性が明らかにされた。それに伴い、該モデルを用いて化合物を評価し、そこで有効性を示す化合物を神経因性疼痛治療剤として開発することが可能となる。従って、ここに記載したモデル動物、モデル動物を用いた評価方法、薬物のスクリーニングまたは評価、評価により得られた化合物は、神経因性疼痛治療のための医薬品の開発に大きな進歩をもたらす。 以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。【実施例】 実施例1:神経因性疼痛モデル動物の作製 ddY系マウス(実験開始時体重22−25g)を恒温恒湿(22±1度、55±5 %)にてプラスティック製ケージ内で、12時間明暗サイクルの条件下で飼育した。餌および水はともに自由摂取とした。 (+)−4a−(3−ヒドロキシフェニル)−2−メチル−1,2,3,4,4a,5,12,12a−オクタヒドロ−トランス−キノリノ[2,3−g]イソキノリン(化合物1)を生理食塩水(大塚製薬)に溶解し、マウスに無麻酔下脊髄内に投与した。薬液の脊髄内投与容量はマウス1匹あたり4μlとし、HyldenとWilcox(J.L.K.Hylden&G.L.Wilcox、Eur.J.Pharmacol.、67:313−316、1980)の方法に準じ、30gaugeの針と25μl用のHamilton syringeを用いた。 化合物1を脊髄内投与して誘発されるscratching、bitingおよびlicking行動を仮性疼痛反応の指標とし、それらの行動が発現している持続時間を化合物1の投与5分後から5分間、20x13x10cmの透明アクリル製ケージ内でsingle−blind法により測定した。その結果を図1に示した。化合物1を7.5μg/mouse以上の投与で有意、かつ用量依存的に仮性疼痛反応が増大した。この化合物1の15μg/mouseにより誘導される仮性疼痛反応は図2に示すようにGABAB受容体作動薬Baclofenの脊髄内同時投与により、用量依存的に抑制された。しかしながら図3に示すようにMorphineの脊髄内同時投与では化合物1の15μg/mouseにより誘導される仮性疼痛反応は全く抑制されなかった。 Baclofenは現在、脳血管障害や多発性硬化症などによる痙攣麻痺の治療薬として臨床上使用され、動物実験では全身投与や脳室内投与、また、脊髄内投与により抗侵害作用が発現することが知られている。更にBaclofenの脊髄内投与により神経因性疼痛(neuropathic pain)は抑制され、臨床において神経因性疼痛に対する治療薬としての応用が期待されている。また神経因性疼痛に対して、臨床ではモルヒネは有効性を示さない。これらのことから、化合物1脊髄内投与により作製される本モデル動物が、神経因性疼痛の特徴を有していることが明らかとなった。 実施例2:神経因性疼痛抑制作用の評価−1 ddY系マウス(実験開始時体重22−25g)を恒温恒湿(22±1度、55±5%)にてプラスティック製ケージ内で、12時間明暗サイクルの条件下で飼育した。餌および水はともに自由摂取とした。 化合物1を生理食塩水(大塚製薬)に溶解し、マウスに無麻酔下脊髄内に投与した。薬液の脊髄内投与容量はマウス1匹あたり4μlとし、HyldenとWilcox(J.L.K.Hylden&G.L.Wilcox、Eur.J.Pharmacol.、67:313−316、1980)の方法に準じ、30gaugeの針と25μl用のHamilton syringeを用いた。 選択的なオピオイドκ受容体作動性化合物である(−)−17シクロプロピル−3,14β−ジヒドロキシ−4,5α−エポキシ−6β−[N−メチル−トランス−3−(3−フリル)アクリルアミド]モルヒナン塩酸塩(化合物2)【化7】(H.Nagase et al. Chem.Pharm.Bull.46,366,1998)を脊髄内に化合物1と同時に投与し、その神経因性疼痛に対する効果を、scratching、bitingおよびlicking行動などの仮性疼痛反応を指標に評価した。それらの行動が発現している持続時間を、化合物2と化合物1(15μg/mouse)の同時投与5分後から5分間、20x13x10cmの透明アクリル製ケージ内でsingle−blind法により測定した。なお、化合物2は生理食塩水に溶解したものを用いた。その結果を図4に示した。化合物2は10nmol/mouseで生理食塩水投与群と比較して有意に仮性疼痛反応を抑制し、神経因性疼痛治療に有効であることが示された。 実施例3:神経因性疼痛抑制作用の評価−2 神経因性疼痛に対する薬物の効果を判定する目的で、実施例2に示した方法と同様に、化合物2を1または3nmol/mouseの低用量で脊髄内に化合物1と同時投与した時、および薬物の全身暴露での評価を行うために、化合物2を皮下投与した時の仮性疼痛反応を調べた。その結果を図5、図6に示した。いずれの場合も用量依存的に仮性疼痛反応を抑制し、化合物2が神経因性疼痛に有効であることが示された。また、全身暴露でも化合物2の有効性が示されたことにより、薬物の局所投与を行わなくても、つまり薬剤学的に許容できる様々な剤型による投与でも化合物2は有効性を示すことが明らかになった。 実施例4:座骨神経結紮モデルにおける薬物の神経因性疼痛抑制作用の評価 化合物2の神経因性疼痛抑制作用を、既に広く知られた他の神経因性疼痛モデルを用いて検討した。すなわちA.B.Malmberg and A.I.Basbaum(Pain,76,215−222,1998)らの方法を多少改変して、座骨神経部分結紮モデルマウスにおける化合物2の作用を検討した。神経因性疼痛で一般的に認められるアロディニアあるいは痛覚過敏の測定には、強さの異なる2本のvon Frey hair(0.17、1.48g)を用いた。手術後4週間経過したマウスをアクリルケージ(90×100×300mm)に入れ、少なくとも30分間環境に慣らしたのち、後肢足蹠に垂直にvonFrey hairを軽く曲がる程度に3秒程度適用した。これを数秒おきに6回繰り返した。このときの反応は以下のようにスコアをつけた。0:無反応、1:後肢のlifting、2:後肢の鋭い逃避反応およびflinching 薬物投与前、薬物投与30分後、2時間後に手術足および反対対照足の反応を測定し、手術足のスコアと対照足スコアの差をアロディニアおよび痛覚過敏として評価した。つまり差が大きければアロディニアや痛覚過敏の程度が大きいことを示す。化合物2は生理食塩水に溶解し、薬液を皮下投与した。なお対照溶媒は生理食塩水とした。結果を図7に示した。薬物投与前において両群ともアロディニアあるいは痛覚過敏症状を示し、手術足スコアと対照足スコアの差は同じであった。投与30分後、化合物2はアロディニア、痛覚過敏を抑制したが、対照溶媒投与群は改善効果を示さなかった。なお、2時間後に薬物の効果は消失した。これらの結果から実施例1の神経因性疼痛モデルで有効性を示した化合物が、他の神経因性疼痛モデルでも有効性を示すことが判った。 実施例5:帯状疱疹に伴う疼痛に対する薬物の痛覚過敏、アロディニア抑制作用の評価 神経因性疼痛に分類される帯状疱疹に伴う疼痛に対する化合物2の治療効果を検討した。治療効果の評価は、Pain,86,95−101,2000記載の方法にしたがって作成した動物モデルを用いて行った。化合物2を経口投与した時の結果を図8に示した。投与30分後、化合物2は用量依存的に帯状疱疹に伴うアロディニアあるいは痛覚過敏を抑制し、帯状疱疹に伴う疼痛に対して有効性を示すことが判った。 これらの実施例により、実施例1の動物モデルを用いて化合物の評価を行い、そこで有効性を示した化合物が他の神経因性疼痛動物モデルにおいてアロディニアあるいは痛覚過敏を改善する効果のあることが証明された。このことから実施例1のモデル動物および該モデルを用いた化合物の評価法の有用性が示されるとともに、また更にそこで有効性を示した化合物を神経因性疼痛治療剤として開発することが可能となった。従って、ここに記載したモデル動物、モデル動物を用いた評価方法、薬物のスクリーニングまたは評価、評価により得られた化合物は神経因性疼痛治療のための医薬品の開発に大きな進歩をもたらすと考えられる。産業上の利用可能性 本発明の神経因性疼痛治療剤は、神経因性疼痛の薬物療法に有用である。また、本発明の神経因性疼痛のモデル動物はヒトにおける神経因性疼痛と同様の症状を発現する簡便なモデルであり、本発明のモデル動物を用いることにより、効率よく薬剤の神経因性疼痛に対する治療効果の判定が可能になる。すなわち、本発明により、神経因性疼痛の治療のための医薬品の開発が飛躍的に進歩する。【図面の簡単な説明】図1は、化合物1の脊髄内投与により誘発される疼痛関連行動が用量依存的に増加することを示す。図2は、化合物1の脊髄内投与により誘発される疼痛関連行動に対するGABAB受容体作動薬のBaclofenの作用を示す。図3は、化合物1の脊髄内投与により誘発される疼痛関連行動に対するモルヒネの作用を示す。図4は、化合物1の脊髄内投与により誘発される疼痛関連行動に対する化合物2の作用を示す。図5は、化合物1の脊髄内投与により誘発される疼痛関連行動に対する化合物2の投与における用量依存的な抑制作用を示す。図6は、化合物1の脊髄内投与により誘発される疼痛関連行動に対する化合物2の皮下投与における用量依存的な抑制作用を示す。図7は、座骨神経結紮モデルにおける化合物2のアロディニアおよび痛覚過敏抑制作用を示す。図8は、帯状疱疹痛モデルにおける化合物2のアロディニアおよび痛覚過敏抑制作用を示す。 一般式(I)[式中、---(これは、点線と実線の二重線を表わす)は単結合を表し、R1はシクロプロピルメチルを表し、R2はヒドロキシを表し、R3はヒドロキシを表し、Aは−XC(=Y)−(ここでXはNR4を表し、YはOを表し、R4はメチルを表す)を表し、Bは−CH=CH−を表し、R5は3−フラニルを表し、R6とR7は一緒になって−O−を表し、R8は水素を表す。]で表される化合物、またはその薬理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする神経因性疼痛治療剤。 一般式(I)で表される化合物が、(−)−17−(シクロプロピルメチル)−4,5α−エポキシ−3,14β−ジヒドロキシ−6β−[N-メチル-トランス−3−(3−フリル)アクリルアミド]モルヒナンである請求項1記載の神経因性疼痛治療剤。 神経因性疼痛が帯状疱疹に伴う疼痛である請求項1または2に記載の神経因性疼痛治療剤。