タイトル: | 特許公報(B2)_酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法 |
出願番号: | 2001387322 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C08B 37/14,C12P 19/04,A23L 1/308 |
泉 可也 安住 尚也 古城 敦 木村 敏幸 魚津 伸夫 阪本 禮一郎 JP 4073661 特許公報(B2) 20080201 2001387322 20011220 酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法 王子製紙株式会社 000122298 王子コーンスターチ株式会社 000122243 金谷 宥 100102369 中本 宏 100078503 井上 昭 100087022 泉 可也 安住 尚也 古城 敦 木村 敏幸 魚津 伸夫 阪本 禮一郎 20080409 C08B 37/14 20060101AFI20080319BHJP C12P 19/04 20060101ALI20080319BHJP A23L 1/308 20060101ALN20080319BHJP JPC08B37/14C12P19/04 ZA23L1/308 C08B 37/14 特開2001−226409(JP,A) Carbohydrate Research,1978年,Vol.62,p.117-126 Carbohydrate Research,1981年,Vol.95,p.101-112 Carbohydrate Research,1974年,Vol.38,p.217-224 Carbohydrate Research,1997年,Vol.300,p.95-102 5 2003183303 20030703 17 20040401 今村 玲英子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、健康食品、食品添加物、薬品・化粧品添加物、農業用生長促進剤などとして利用される酸性キシロオリゴ糖組成物に関する。特に、本発明は、キシロースオリゴマーを主鎖とし、ウロン酸残基を側鎖に持つ酸性キシロオリゴ糖の混合物からなる酸性キシロオリゴ糖組成物とその製造方法に関する。【0002】【従来の技術】国民の健康に対する関心の高まりから、毎日摂取する食物を通して健康を維持する試みが注目を集めている。特に、食物繊維やオリゴ糖といった多糖やそれらの分解生成物は、それらの消化器官で発揮する生理活性が注目され、近年、熱心に研究されている分野でもある。食物繊維は、従来から糖質代謝や脂質代謝といった生体の基本的代謝に関わるフードファクターとして重要視されてきた経緯がある。機能性食品のなかにもこの食物繊維の作用をうたったものが少なくない。【0003】食物繊維は、便通性の改善や発ガン物質を吸着することで腸内における発ガン物質の希釈を行うといった機能があり、近年ではヒトのフードファクターとして重要視されている。また、従来の食物繊維の中には血液の高脂血症を改善したり、糖代謝を制御することでヒトの健康を制御できる可能性を有するものも存在している。特に、タマリンド種子ガムやグアーガム、アルギン酸ナトリウムやペクチンといった酸性糖を多く含む食物繊維は血液中の総コレステロールやリン脂質、トリグリセライドの量を低下させ高脂血症を改善すると報告されている。〔Rotenberg,S. and Jakobsen,P,E.:The effect of dietary pectin on lipid composition of blood, skeletal muscle and internal organs of rats. J.Nutr.,108,1384(1978)〕【0004】しかし、これらの食物繊維は大腸菌の生育を抑え、ビフィズス菌の選択的増殖性を促す働きを持つ糖類ではない。むしろ、小腸の粘膜細胞を物理的にこそぎ落とし、栄養吸収に対して負の影響を与えることも少なくない。〔Fahey Jr.,G.C.:Dietary fiber ; chemistry and nutrition, p.117〜146, Academic Press, New York (1979)〕【0005】一方、オリゴ糖類は腸内有用細菌の選択的な増殖促進効果を通して、おなかの調子を良好に保つ機能を有し、特定保健用食品として認定された乳酸菌飲料に利用され、チョコレートなどの菓子類にも利用されている有用な糖類である。また、ヒトの食品用途だけではなく家畜の飼料としての用途もある。さらに、医薬、サニタリー製品の分野でも乳化剤、皮膚の保湿成分としての用途がある。【0006】一般に、特定保健用食品に用いられるオリゴ糖類は、そのほとんどが整腸作用、即ち腸内悪玉菌である大腸菌や腸内腐敗発酵菌であるクロストリジウム属やオイバクテリウム属の菌の数を減らし、相対的に腸内善玉菌といわれるビフィズス菌を増加させる作用を持っている。いろいろあるオリゴ糖類の中でも、例えば、小麦フスマやコーンコブに由来するキシロオリゴ糖は有名である。キシロオリゴ糖の作用については、他のオリゴ糖と同様に腸内善玉菌のビフィズス菌の選択的増殖を促す一方で、腸内悪玉菌である大腸菌の数を相対的に低下させると言われている。大腸菌や腸内腐敗発酵菌は腸内で増殖しながら発ガン性物質を生産することが知られている〔金沢ら:大腸細菌叢-とくに胆汁酸代謝と大腸発癌について-.総合臨床,26,1042〜1050(1977)〕ことから、大腸菌や腸内腐敗発酵菌の数を腸内で減らすことは長期にわたる健康を考えた場合に重要である。【0007】近年、オリゴ糖の生理活性の中でも腸管における免疫作用についての研究の進展は特に著しいものがある。特に、キシロオリゴ糖により選択的に増殖したビフィズス菌には腸管免疫の増強作用があることがわかっている。腸管の粘膜細胞下に存在するB細胞は、感染防御、食物アレルギーの抑制に関係するIgA(イムノグロブリンA)と呼ばれる物質を生産し、これを腸管内に分泌することで粘膜細胞防御している。ビフィズス菌の細胞壁に由来する成分はマクロファージを介して小腸粘膜細胞下に存在するB細胞に作用し、局所免疫をつかさどる成分であるIgAを生産させる方向に働く。【0008】このため、オリゴ糖の摂取により腸管に存在するビフィズス菌をコントロールすることで、外から進入してくる病原菌等の感染を防御したり、アレルギー誘発性の物質が経口でもたらされた時でも中和抗体的に作用するIgAの生産が亢進する可能性が生まれてきた。〔保井久子、加藤紀子、三毛明人、早川和仁、大協真、菅 辰彦.1991.Bifidobacterium breveの経口投与による腸管免疫系(IgA抗体生産)の増強.日本農芸化学会誌 65:623〕【0009】整腸作用を期待し、経口でオリゴ糖類を摂取した場合に関しては、胃酸や消化液中の酵素による酸加水分解からくるオリゴ糖の重合度の低下が大きな問題である。オリゴ糖は、酸や酵素による加水分解により徐々に低分子化し、最終的には大腸菌やクロストリジウム属に属する腐敗性嫌気性菌でも資化することが可能な単糖にまで分解されることが知られている。しかし、2量体や3量体を主成分とするキシロオリゴ糖組成物は、オリゴ糖の中でも胃酸に対する抵抗性が他のオリゴ糖に比べて比較的高く(特許第2549638号)、それほど分解されずに腸内に届けられる可能性が高い。実際にキシロオリゴ糖をヒトに投与した場合、生体内での整腸効果が確認されている。【0010】現在は、2量体や3量体よりずっと分子量の大きな5量体程度の平均重合度を有するキシロオリゴ糖(特開2001-226409号公報)も製造可能である。また、本発明者らは平均重合度が12量体前後である長鎖キシロオリゴ糖も提案している(特願2001−242906号)。鎖長が長いキシロオリゴ糖は腸内でも単糖であるキシロースには変換されにくく、しかも、排泄便量はキシロビオースに比較して増加するというメリットがある。【0011】特に、長鎖キシロオリゴ糖は平均重合度が高く、オリゴ糖と食物繊維の両方の生理活性を有する。つまり、小腸では食物繊維様の作用である抗高脂血症作用を発揮し、小腸を通過して大腸ではビフィズス菌に選択的に資化されることで、整腸作用を発揮するのである。【0012】しかし、これらの優れた生理活性を発揮する長鎖キシロオリゴ糖も1つの問題を有している。その問題とは、溶解性の問題である。中性キシロオリゴ糖は、重合度が大きくなるにつれてその溶解度が低下する。特に、平均重合度が12量体前後のものは、食物繊維様の作用と整腸作用の両方の作用を併せ持つ有用な糖質であるが、中性キシロオリゴ糖の12量体は60℃の水に僅か数%しか溶けない。整腸作用や腸管免疫を発揮させるためには、ある程度水に溶けた状態で腸管に届ける必要があり、長鎖のオリゴ糖の問題点は溶解度にあるといっても過言ではない。また、溶解度が低い点はオリゴ糖の生産効率の上でも大きな問題であり、長鎖であって、なおかつ水溶性が高いキシロオリゴ糖の開発が望まれていた。【0013】食物繊維の中には、生理活性として血液性状の改善をもたらす糖類として酸性糖を含むような多糖類の仲間が存在する。酸性糖を含む多糖類は比較的少ない摂取でも脂質代謝を変化させるので、抗高脂血症の研究実験に非常によく用いられてきた経緯がある。具体的に述べると、酸性糖を含むような多糖や食物繊維は血清中のコレステロールの低下作用を有するものが多く、実験では、コントロール(酸性糖を含まない食餌)を投与されている群に比較して酸性糖を含む食餌を投与されている群の方が約20〜30%も血中のコレステロールが低下するようである。〔辻 悦子ほか:栄養学雑誌,33,273(1975)、辻 啓介ほか:栄養学雑誌,35,227(1977)〕【0014】これらの実験から解かるように、従来より、酸性糖を含む食物繊維は血液性状の改善を期待されて研究を行われてきた経緯がある。特に、ペクチンは酸性糖を含む食物繊維の代表格であり、抗高脂血症の研究だけでなく、血中インスリン上昇抑制作用に関する研究でも良く使われる酸性多糖類である。〔Jenkins,D.J.A.,Leeds, A.R.,Gassull,M.A.,et al.:Decrease postprandial insulin (and glucose concentrations by guar and pectin. Annual. Internal.Med.,80,20(1977)〕糖類の吸収抑制は、酸性多糖が胃で水分を吸い膨潤し、そのゲル中に糖分を取り込むため小腸の粘膜細胞が糖質を十分に取り込むことが出来ずに起こると考えられている。【0015】一般に、酸性多糖類は、その糖鎖内にカルボキシル基や硫酸基といった親水性の官能基を持つため水に解けやすく、鎖長が長い割に水に良く溶けるものが多いようである。一方の不溶性の食物繊維も抗高脂血症作用や糖質の吸収抑制作用を持つが、これらは胃から十二指腸へ移動する際、十二指腸の粘膜細胞を傷つける。このため、糖分の吸収は抑制され、血糖は上昇を抑制される。生体の健康度を考えた場合、粘膜細胞を傷つけることは必ずしも得策とはいえないし、むしろ病原菌の感染や貧栄養の一つの原因になり得るようである。このため、抗高脂血症作用や血中インスリン上昇抑制作用といった食物繊維の生理活性も、できる限り「可溶性の食物繊維」で発揮するほうが望ましい。そのため、水溶性が高く、生理活性も豊富な酸性糖を含む多糖やオリゴ糖は、今後ますます機能性食品や医薬品等への応用が可能な産業上重要な糖質であると考えられている。【0016】キシロオリゴ糖は、通常、鎖長が長くなるにつれて溶解度が低下する中性糖である。しかし、キシロオリゴ糖も製造条件が異なると酸性糖を側鎖に持つ形で精製が可能であり、水溶性が高まることが知られている。従来より、植物細胞壁中のヘミセルロース中のキシランには、側鎖としてグルクロン酸残基、もしくは4−0−メチルグルクロン酸残基をもつものが存在することが知られている。トリコデルマ属に属するカビが生産する酵素液で側鎖を有するキシランを処理すると、α−グルクロニダーゼが側鎖を分解除去しつつキシランを分解し、結果的にキシロビオースやキシロトリオースを主成分とするキシロオリゴ糖組成物を作るようである。また、このとき、α-グルクロニダーゼによる消化を免れた酸性糖部分を含む酸性キシロオリゴ糖は2量体もしくは3量体であり、これらのキシロオリゴ糖の非還元末端にグルクロン酸残基もしくは4−0−メチルグルクロン酸残基が存在することが解かっている。〔R.F.H.Dekker,In "Biosythesis and biodegradation of wood components",p.505,Academic Press Inc.(1985)〕【0017】一方、バクテリアが生産するようなキシラナーゼを用いてキシロオリゴ糖を生成させた場合、酵素の基質特異性が真菌類のキシラナーゼと大きく異なるため、生成するキシロオリゴ糖の組成比が2量体であるキシロビオースから5量体までの分布でキシロオリゴ糖を生成することが知られている(特開平1−252280号公報)。そして、バクテリア由来の酵素は、これらの鎖長のキシロオリゴ糖に酸性糖であるグルクロン酸や4−0−メチルグルクロン酸が非還元末端側のキシロースに1つの側鎖として結合している酸性キシロオリゴ糖を生成する。【0018】広葉樹クラフトパルプを原料とし、これをキシラナーゼ処理して得られた糖液中に存在するキシロオリゴ糖は、リグニンとの複合体を形成して存在することが判明している。特に、キシロオリゴ糖−リグニン複合体は比較的大きなキシロオリゴ糖分子とリグニンが複合体を形成しているため、キシロオリゴ糖部分はキシラナーゼによる消化を逃れることが解かっている。このためキシロオリゴ糖−リグニン複合体を用いて製造されたキシロオリゴ糖は平均分子量が高く、その平均重合度は製造法にもよるが5量体から20量体まで多岐にわたる。この中性キシロオリゴ糖を主な成分とする長鎖キシロオリゴ糖(特願2001−242906号)は可溶性の食物繊維様の生理活性を有するが、一方で溶解度が低い。【0019】【発明が解決しようとする課題】以上のように、現状では、上市されているキシロオリゴ糖を構成するオリゴ糖は2量体や3量体を主成分とするものがほとんどであり、食物繊維とは異なる物質であると認知されている。本発明は、鎖長が長く、分解されずに腸まで届くことで整腸作用の効果が高く、また、鎖長が長いために、オリゴ糖の特徴ばかりでなく食物繊維様の作用を有し、かつ、水に対する溶解度が高い酸性キシロオリゴ糖を提供することを課題とするものである。さらに、本発明は水溶性の長鎖キシロオリゴ糖を大量安価に供給する方法を提供することを課題とするものである。【0020】【課題を解決するための手段】 上記課題を解決するための本発明は、以下の各発明から選択されるものである。(1)キシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有する平均重合度が8〜15のキシロオリゴ糖混合物からなる酸性キシロオリゴ糖組成物。【0021】(2)前記ウロン酸残基がグルクロン酸残基又は4−0−メチルグルクロン酸残基であることを特徴とする(1)項記載の酸性キシロオリゴ糖組成物。【0022】(3)重合度が5以下の酸性キシロオリゴ糖含有率が5質量%以下であることを特徴とする(1)項又は(2)項に記載の酸性キシロオリゴ糖組成物。【0023】(4)広葉樹クラフトパルプをキシラナーゼで処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分とが酸加水分解性を有する化学結合により結合されたキシロオリゴ糖−リグニン複合体とキシロオリゴ糖を含有する処理液を得るキシラナーゼ処理工程、 該キシラナーゼ処理工程からのキシロオリゴ糖−リグニン複合体とキシロオリゴ糖を含有する処理液を酸加水分解処理して、酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖からなる平均重合度が8〜15のキシロオリゴ糖成分を含有するキシロオリゴ糖混合物とリグニン様物質とを含有する処理液を得る酸加水分解処理工程、 該酸加水分解処理工程からの処理液から弱アニオン交換樹脂により酸性キシロオリゴ糖成分を吸着して分離する吸着分離工程、からなる複数工程を有することを特徴とする、キシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有する平均重合度が8〜15の酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法。【0028】(5)前記酸加水分解処理工程は、キシロオリゴ糖−リグニン複合体のキシロオリゴ糖のキシロース分子間のβ−1,4−キシロシド結合を分解しない酸加水分解処理工程であることを特徴とする(4)項記載のキシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有する平均重合度が8〜15の酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法。【0029】(6)前記キシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体は、キシロースの2〜20量体の混合物である酸性キシロオリゴ糖とリグニン様物質の複合体を30質量%以上含有することを特徴とする(4)項又は(5)項に記載のキシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有する平均重合度が8〜15の酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法。【0030】(7)キシラン及び/又はヘミセルロースをヘミセルラーゼ処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン様成分の複合体を含有する糖溶液を得、該糖溶液を酸加水分解処理し、該加水分解処理液から、重合度が5以下のキシロオリゴ糖含有率が5%以下でかつ平均重合度が8〜15であり、側鎖としてグルクロン酸又は4−O−メチルグルクロン酸を少なくとも1つ結合しているキシロオリゴ糖混合物を分離することを特徴とする酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法。【0031】(8)前記酸加水分解処理は、前記ヘミセルラーゼ処理によって得られる糖溶液を濃縮した糖溶液について行われることを特徴とする(7)項記載の酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法。【0032】(9)前記ヘミセルラーゼ処理は、pH3〜10、好ましくは5〜9の範囲に調整した糖溶液を、10℃〜90℃、好ましくは30℃〜60℃の温度で行われる処理であることを特徴とする、(7)項又は(8)項に記載の酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法。【0033】(10)前記加水分解処理は、pHを3.5、又はそれ以下の値に調整した糖溶液を、105℃〜150℃、好ましくは110℃〜130℃の温度で行われる処理であることを特徴とする、(7)項〜(9)項のいずれか1項に記載の酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法。【0034】(11)前記酸加水分解処理液からの前記酸性キシロオリゴ糖混合物の分離は、前記酸加水分解処理によって得られる糖溶液から、陽イオン交換樹脂カラム−陰イオン交換樹脂カラムを該順序で利用して平均重合度が8〜15の酸性キシロオリゴ糖混合物を分離する処理であることを特徴とする(7)項〜(10)項のいずれか1項に記載の酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法。(12)前記酸加水分解処理液からの前記酸性キシロオリゴ糖混合物の分離は、前記陰イオン交換樹脂カラムに吸着させた酸性キシロオリゴ糖を、金属イオンの塩化物の濃度勾配を用いて溶出させ、回収する処理を包含する方法であることを特徴とする(11)項記載の酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法。【0035】【発明の実施の形態】本発明者らは、今回、使用する酵素がバチルス属に由来する中性好熱キシラナーゼで、かつ原材料が広葉樹化学パルプであるようなリグノセルロース材料を用いた場合、キシロースの2量体から20量体にわたるキシロオリゴ糖の分布を有するキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得ることができること、このキシロオリゴ糖成分中には分子量が大きな5量体から20量体が比較的多く含まれ、さらには、このキシロオリゴ糖成分中のキシロビオースの存在比はキシロオリゴ糖成分中の約10質量%以下であることを見出した。また、キシロオリゴ糖成分中には酸性糖を側鎖に有する酸性キシロオリゴ糖が存在すること、そして、この酸性キシロオリゴ糖は濃縮された糖液中の全キシロオリゴ糖成分の約30質量%程度を占めることを見出した。一般にオリゴ糖は鎖長が長いほど溶解性が落ちるが、この酸性キシロオリゴ糖は酸性糖を側鎖に持つため、主鎖の重合度が6量体以上であっても溶解度は非常に高い。【0036】化学パルプ由来のリグノセルロースを原料として製造された長鎖キシロオリゴ糖成分はコーンコブや綿実殻を原料として製造されたキシロオリゴ糖よりも平均重合度が高いという特徴がある。リグノセルロースを原料とした場合、使用する酵素を調整することで平均重合度が2から平均重合度が5までの任意の比率で新規なキシロオリゴ糖を作ることがある程度は可能である。しかし、今回の新たな知見は、「キシロオリゴ糖−リグニン複合体」を中間体として使用して酸性キシロオリゴ糖を製造し得ることにある。【0037】キシロオリゴ糖−リグニン複合体は、広葉樹、針葉樹クラフトパルプを酵素処理もしくは物理化学的処理した場合に、その処理液中に見出された化合物であり、文献に記載されていない化合物である。この化合物は2量体から20量体のキシロオリゴ糖鎖にリグニンが結合した物質である。キシロオリゴ糖に対してリグニンの分子量は圧倒的に大きいため、それが立体的に邪魔になり、キシラナーゼやキシロシダーゼはキシロオリゴ糖−リグニン複合体を分解できない。そのため、酵素処理を行ってもキシロオリゴ糖−リグニン複合体におけるキシロオリゴ糖は分解されずに残り、比較的長鎖のキシロオリゴ糖がリグニンと結合した状態で溶液中に存在する。しかし、このキシロオリゴ糖−リグニン複合体は、希酸による酸処理でキシロオリゴ糖とリグニンの間を容易に開裂させることができ、この性質を利用することで重合度が5〜20量体、特に平均重合度が8〜15のキシロオリゴ糖組成物を容易に製造することができたものである。【0038】以下、本発明をさらに具体的に説明する。本発明で言う酸性キシロオリゴ糖組成物とは、その酸性キシロオリゴ糖組成物中における比較的重合度の大きなキシロオリゴ糖の含有率が高い組成物であり、そのキシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つのウロン酸を結合しているキシロオリゴ糖からなる組成物のことを言う。具体的には、組成物中の全糖質量に対して、キシロースの6量体以上のキシロオリゴ糖が80質量%以上であるものであり、かつウロン酸含量が2質量%以上のものをいう。本発明の酸性キシロオリゴ糖組成物の平均重合度を測定した場合、平均重合度は6以上であり、好ましくは8〜15である。【0039】中でも、酸性キシロオリゴ糖組成物として製造し易く、性能的にも優れているのは、キシロースの6量体〜20量体を主成分とするものである。ここで主成分とは、全糖質量に対して50質量%以上であることを言う。もちろん使用する酵素や酸処理の条件を変更することで平均重合度がさらに高い値の酸性キシロオリゴ糖組成物を自由に設計製造することが可能なことは言うまでもない。【0040】本発明の組成物における長鎖キシロオリゴ糖成分は、リグノセルロース材料をヘミセルラーゼ処理した後に、希酸によりキシロオリゴ糖−リグニン複合体を酸加水分解することによって得られる重合度の大きなキシロオリゴ糖混合物中に存在する。リグノセルロースとしてのパルプのヘミセルラーゼ処理は、パルプ濃度1〜30質量%、好ましくは2〜15質量%の範囲で行われるが、広葉樹クラフトパルプ以外のリグノセルロースを製造原料に用いる場合は、この限りではない。例えば、リグノセルロースに由来するキシランについて、処理時のパルプ濃度を例示すると、小麦フスマ由来キシランでは0.5〜5質量%、好ましくは2質量%前後、コーンコブ由来キシランでは1〜10質量%、好ましくは5質量%前後、綿実殼由来キシランでは1〜10質量%、好ましくは5質量%前後、粉砕コーンパイプでは0.2〜5質量%、好ましくは1質量%前後、カラスムギ由来キシランでは0.2〜5質量%、好ましくは1質量%前後などである。【0041】本発明の酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることができる原料リグノセルロース物質としては、針葉樹や広葉樹のような木材が好ましく用いられるが、ケナフ、麻、バガス、イネ等の非木本性の植物であってもよく、特に限定されるものではない。本発明に使用されるパルプは、化学パルプ、機械パルプ、脱墨パルプ等何でもよいが、広葉樹化学パルプが好ましい。化学パルプを得るための蒸解法としては、クラフト蒸解、ポリサルファイド蒸解、ソーダ蒸解、アルカリサルファイト蒸解等の公知の蒸解法を用いることができるが、パルプ品質、エネルギー効率等を考慮するとクラフト蒸解法が好適に用いられる。【0042】リグノセルロース材料として広葉樹クラフトパルプを用いる場合、まず、アルカリ酸素漂白工程で漂白したパルプをヘミセルラーゼで処理することが望ましいが、蒸解後のパルプや、機械パルプをそのままヘミセルラーゼ処理原料として用いても良い。【0043】クラフト蒸解で得られたパルプ表面には、蒸解工程でパルプ繊維内より溶出されたヘミセルロースが再吸着されていることは周知である。この再吸着されたヘミセルロースは、その90質量%以上がD−キシロースがβ1→4結合することによって構成されたキシランである。広葉樹クラフトパルプでは、ヘミセルロース中の側鎖であるアラビノースやグルクロン酸はそのほとんどが分解除去されている。また、側鎖の中の4−0−メチルグルクロン酸は側鎖として残存するが、アルカリ条件下でヘキセンウロン酸へと変換される。このヘキセンウロン酸は、酸性条件下で加熱すると容易に分解除去されるのでキシロオリゴ糖の製造にはあまり問題にならない。【0044】化学パルプ表面の再吸着キシランは、通常の植物中の細胞壁内に存在するキシランと違ってパルプの蒸解工程において抽出された際に、その主鎖であるキシランに結合している側鎖の大部分は分解除去されている。そのため、再吸着キシランは、通常の細胞壁中のキシランと比べて側鎖の保有率が非常に低く、キシロース10個〜20個に1個程度のグルクロン酸もしくは4−0−メチルグルクロン酸を結合している。また、後述するキシロオリゴ糖−リグニン複合体を形成しているため、再吸着キシランをキシラナーゼで分解、除去するとパルプスラリーにこのキシロオリゴ糖−リグニン複合体が溶出してくるため反応液が茶色になる。この茶色の反応液中には280nmの吸収を持つ物質が存在するが、これはリグニンの芳香環に由来する吸収であると考えられている。【0045】再吸着分を含めたキシラン含量は、広葉樹クラフトパルプ絶乾質量の約20質量%を占める。ヘミセルラーゼ処理においては、酵素が広葉樹クラフトパルプに作用し、再吸着分を含むキシラン全般に作用してこれを低分子化する。例えばバチルス・エスピ−S−2113株のキシラナーゼ(特開平8−224081号公報参照)を利用する場合、処理反応液中に生じるキシロース及びキシロオリゴ糖の構成糖の割合は、3〜5量体が最も多く、単量体が少ない組成比のオリゴ糖を生成する。【0046】本発明者らは、すでに、広葉樹クラフトパルプのヘミセルラーゼ処理工程より得られる排水中にキシロオリゴ糖とリグニン様物質が結合したキシロオリゴ糖複合体が存在することを見出している。更には、キシロオリゴ糖複合体は比較的重合度の大きなオリゴ糖にリグニン様の物質が結合していることを見出している。このキシロオリゴ糖−リグニン複合体は希酸処理により容易にキシロオリゴ糖とリグニン様物質に分解できるので、重合度の大きなキシロオリゴ糖を大量安価に製造できる。キシロオリゴ糖−リグニン複合体から製造されるキシロオリゴ糖組成物の中で、ウロン酸残基を側鎖に有する酸性キシロオリゴ糖の占める割合は、全糖量に対して約30質量%にもなる。【0047】現在のところ、大規模な酵素処理工程で利用されている酵素は、そのほとんどがヘミセルラーゼであるが、市販のヘミセルラーゼのいずれも本発明のキシロオリゴ糖の製造方法における酵素処理工程に用いることができる。例えば、商品名カルタザイム(クラリアント社製)、商品名エコパルプ(ローム・エンザイム社製)、商品名スミチーム(新日本化学工業社製)、パルプザイム(ノボノルディクス社製)マルチフェクト720(ジェネンコア社)などの市販の酵素製剤や、トリコデルマ属、テルモミセス属、オウレオバシヂウム属、ストレプトミセス属、アスペルギルス属、クロストリジウム属、バチルス属、テルモトガ属、テルモアスクス属、カルドセラム属、テルモモノスポラ属などの微生物により生産されるキシラナーゼを使用することができる。【0048】酵素処理温度は、10〜90℃、好ましくは30〜60℃の範囲であるが、酵素の至適温度に近い処理温度がより好ましい。一般的な酵素の場合、処理温度が10℃未満では反応が不十分となる上、そのような温度を得ること自体に多大のコストを要するので適さない。一方、温度が90℃を超えて高くなると、処理系を密閉化しないと熱ロスが大きくなる上、一般的な酵素の場合、酵素自体が変性し、不活性になるので適さない。処理時の溶液pHは3〜10、好ましくは5〜9の範囲であるが、酵素の至適pHに近い方がより好ましい。【0049】広葉樹クラフトパルプをアルカリ酸素漂白して得られるパルプを酵素処理して糖液を得る場合、パルプのpHがアルカリ側に傾いているため、酵素の至適pHがアルカリ側に近い酵素の方がpHを調整する際のコストも低く優位性がある。もし、pHの調整が必要な場合は、任意の酸性溶液又はアルカリ性溶液を添加して調整し、酵素処理を行えばよいことは言うまでもない。【0050】酵素処理により得られた糖液中には、キシロオリゴ糖(2〜20量体)とキシロオリゴ糖−リグニン複合体が含まれる。酵素処理液中の糖濃度は、バチルス・エスピー2113株(独立行政法人 産業技術総合研究所 特許微生物寄託センター寄託菌株FERM BP−5264)の生産するキシラナーゼを対パルプ絶乾質量当たり1ユニット(1ユニットは、1分間に1マイクロモルのキシロースを遊離させる酵素力)で使用し、10質量%濃度のパルプスラリー中に添加して処理した場合、約3000μg/ml(キシロース換算)である。【0051】この糖溶液は、後段の製造工程を考慮に入れた場合、荷電NF膜やその他の限外ろ過膜、逆浸透膜などの膜分離技術を用いて濃縮したり、エバポレーション等の濃縮作業により糖濃度を上昇させる作業を行うことも可能である。実際に糖液のボリュームを減らすことは、大量の糖液を後段の精製工程で処理する際のハンドリングを容易にする。加えて言うならば、膜濃縮における作業より得られた透過液は、糖濃度が酵素処理液より低く、リグニン等着色性の有機物含量が少ない特徴を持つ。このため、膜濃縮工程より得られる透過液はパルプ製造工程における工業用水として再利用できる。【0052】糖溶液もしくは濃縮処理工程後の糖溶液については、希酸による酸加水分解処理を行ってキシロオリゴ糖−リグニン複合体をキシロオリゴ糖と酸性キシロオリゴ糖、そしてリグニン様物質とに分離する。糖液のpHの調整方法としては、糖液に対して鉱酸もしくは有機酸を適宜添加して糖液のpHを3.5付近に調整することが一般的であるが、アンバーライト200C(商品名、ローム・アンド・ハース社製)といったカチオン交換樹脂で糖液を処理してイオン交換によりpHを下げることも可能である。【0053】その後、pH調整の終わった糖溶液を105℃〜150℃、好ましくは110℃〜130℃の範囲で加熱し、酸加水分解の処理を行う。処理時間は15分以上であるが、好ましくは30分から60分である。加熱処理時間を90分以上に設定するとオリゴ糖の単糖への分解が進み好ましくはない。糖液のpHが3.5付近である場合、キシロオリゴ糖複合体とリグニン様物質、キシロオリゴ糖と側鎖の一種であるヘキセンウロン酸は分離除去可能であるが、酸性キシロオリゴ糖自身はほとんど分解することはない。【0054】この処理で、キシロオリゴ糖−リグニン複合体からはリグニン様の有機物が分解除去され、酸性キシロオリゴ糖とキシロオリゴ糖へと変換される。pH3.5、121℃、60分の処理条件の時のキシロオリゴ糖複合体から酸性キシロオリゴ糖とキシロオリゴ糖への変換効率は約95%である。このとき、単糖の一部は加水分解が進みフルフラール様物質となり更に縮合して沈殿する。キシロオリゴ糖複合体から切り離されたリグニン様物質も、同様に酸性下で縮合し不溶化して沈殿する。この不溶化した沈殿物は濾紙や珪藻土によるろ過はもちろんのこと、UF膜やMF膜そしてセラミックフィルター等による分離除去が可能である。【0055】上記のようにしてキシロオリゴ糖−リグニン複合体から得られた酸性キシロオリゴ糖組成物は、比較的鎖長が長い重合度が6〜20程度のキシロオリゴ糖を高い割合で含んでいる新規な酸性キシロオリゴ糖組成物である。重合度が比較的高い酸性キシロオリゴ糖が得られる理由としては、酵素処理により得られた糖液中のキシロオリゴ糖複合体は2量体から20量体程度の鎖長の酸性キシロオリゴ糖にリグニン様物質が結合しているため、ヘミセルラーゼによる必要以上の消化を免れていることに起因している。そのような状態から希酸による酸加水分解でリグニン様物質と分離すると、比較的長い鎖長の酸性キシロオリゴ糖が得られる。【0056】酸加水分解して得られた糖液中には、酸性キシロオリゴ糖の他にキシロース、グルコースといった単糖類やリグニン、フラン化合物、フルフラールといった有機物も含まれる。これらの有機物の混合物からキシロオリゴ糖のみを分離、精製する工程としては、イオン交換、分子ふるい、エタノール分画、膜処理などの従来のいかなる精製方法を組み合わせて用いても良い。例えば、活性炭→強カチオン交換樹脂→強アニオン交換樹脂→強カチオン交換樹脂→弱アニオン交換樹脂といった順序でカラムを用いる精製方法では、出発原料である酸処理糖液中の総糖量を100質量%とした場合、精製酸性キシロオリゴ糖自身の回収率は約30質量%である。【0057】濃縮糖液を出発原料として酸性キシロオリゴ糖組成物を精製する方法は、次のとおりである。まず、セラミックフィルターを用いて糖液をろ過し比較的分子量の大きな不溶性着色物や希酸処理で得られたリグニン縮合物を除去する。この時糖液の供給側に活性炭を対糖量で数質量%添加してセラミックフィルター処理を行うと、より小さな着色物質などは活性炭に吸着されながらろ過されるので得られたろ過糖液の清澄度が増して後の精製工程が楽になる。【0058】セラミックフィルターでろ過された糖液は、更に分画分子量が20000以下のUF膜を用いてろ過する。この工程では、更に小さな着色物を除去できる。濃縮側に残された着色物及び重合度が非常に大きなキシロオリゴ糖とリグニンの複合体は廃棄するべきではなく、できる限り前段階のセラミックフィルターを用いた処理における供給側の糖液に戻し、回収率を上げることが好ましい。【0059】セラミックフィルター処理、UF膜による処理を経て得られた糖液中にはキシロオリゴ糖組成物と酸性キシロオリゴ糖組成物が溶解している。この糖液から酸性キシロオリゴ糖組成物のみを取り出す方法はイオン交換樹脂を用いる方法が適している。糖液を、まずカチオン交換樹脂にて処理し、糖液中の金属イオンを除去する。次いで、強アニオン交換樹脂を用いて糖液中の硫酸イオンなどを除去する。この工程では、硫酸イオンの除去と同時に弱酸である有機酸の一部と着色成分の除去も同時に行っている。【0060】強アニオン交換樹脂で処理された糖液は、もう一度カチオン交換樹脂で処理し、更に金属イオンを除去する。そして、最後に弱アニオン交換樹脂で処理し、着色物質と酸性キシロオリゴ糖を樹脂に吸着させる。中性糖であるキシロオリゴ糖は、このとき弱アニオン交換樹脂には吸着されずそのまま回収され、このときの中性キシロオリゴ糖組成物の回収率は約70質量%前後に落ち着く。【0061】弱アニオン交換樹脂に吸着された酸性キシロオリゴ糖は、金属塩を溶解した溶出液を用いて弱アニオン交換樹脂から溶出して回収できる。カラムを用いて吸着した酸性キシロオリゴ糖を溶出する場合は、グラジエント操作を行い適正なイオン強度にて樹脂から溶出させることも可能である。また、アルカリを用いて溶出させることも可能である、しかし、このときは溶出画分に着色成分が混入してくる比率が高まるので、後段で着色成分を除去する操作がもう一段必要となる。【0062】金属塩の溶液で酸性キシロオリゴ糖を溶出・回収する際の金属塩は、基本的に何を用いても良い、しかし、回収された酸性キシロオリゴ糖が生理活性を発揮するためには、生物に摂取されることが必須であるため、生体にあまり害を与えないような金属塩が望ましいことはいうまでもない。例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化鉄などが挙げられる。その際に、日常では摂取しにくい金属塩を用いて溶出し、酸性キシロオリゴ糖の摂取と同時に、ミネラルとしてこれらの金属塩を同時に摂取できるように酸性キシロオリゴ糖を設計することも可能である。具体的には、近年、日本人はカルシウムやマグネシウムの摂取量が不足がちであるので、カルシウム:マグネシウムのモル比を適当に設定した溶出液を作製し溶出を行い、酸性キシロオリゴ糖の回収することもできる。【0063】精製された酸性キシロオリゴ糖を含む糖溶液をイオンクロマトグラフィー(ダイオネクス社)を用いて分析したところ、2量体ないし20量体及びそれ以上の酸性キシロオリゴ糖を含む糖液であることが判明した。このときの有機分質量を分析したところ絶乾質量中の全糖量は95質量%前後であった。また、秤量されたるつぼを用いての灰分の測定では、精製糖液中の灰分は5質量%前後であった。灰分中の金属の酸化物は、溶出に用いた金属塩に由来すると思われる金属がほとんどを占めていた。【0064】前述したように、本発明の新規な酸性キシロオリゴ糖組成物は、リグノセルロース材料を出発原料とし、それをヘミセルラーゼ処理した反応ろ液から分離、精製して得られる重合度の大きな酸性キシロオリゴ糖含有組成物である。また、この重合度の大きな酸性キシロオリゴ糖組成物は、酵素処理や爆砕などの物理化学的手法を用いることで、既知のキシロビオース、キシロトリオース、キシロテトラオース、キシロペンタオースを主鎖の主成分とする酸性キシロオリゴ糖などに容易に変換することもできる。【0065】【実施例】以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、もちろん、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下に示す%は、特に断らない限りすべて質量%を意味するものであり、対パルプの添加率は、パルプの絶乾質量に対する質量の比率である。なお、各測定法は以下のとおりである。【0066】(1)全糖量の定量:全糖量は、検量線をD−キシロース(和光純薬工業)を用いて作製し、フェノール硫酸法(「還元糖の定量法」学会出版センター 発行)にて定量した。(2)還元糖量の定量:還元糖量は、検量線をD−キシロース(和光純薬工業)を用いて作製、ソモジ−ネルソン法(「還元糖の定量法」学会出版センター 発行)にて定量した。【0067】(3)ウロン酸量の定量:ウロン酸は、検量線をD−グルクロン酸(和光純薬工業)を用いて作製、カルバゾール硫酸法(「還元糖の定量法」学会出版センター 発行)にて定量した。(4)平均重合度の決定法:サンプル糖液を50℃に保ち、15000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し、上清液の全糖量を還元糖量(共にキシロース換算)で割って平均重合度を求めた。【0068】(5)酸性キシロオリゴ糖の定量法酸性オリゴ糖1分子中のウロン酸残基とキシロース残基の量比は核磁気共鳴装置(以下NMR、日本電子(株)製)用いて行った。サンプルは凍結乾燥、重水素置換を行った後、測定を行った。1H NMR, 13C NMR, HMQC測定によりグリコシド結合をしているキシロース1位(4.409ppm)とウロン酸1位(5.226ppm)のプロトンケミカルシフトを決定した。水素の量比に相当する各シグナルの面積を算出しグルクロン酸とキシロースの比率を求めた。また、高速液体クロマトグラフィー質量分析装置(アプライドバイオシステム社製)によって高分解能分子量測定を行いオリゴ糖1分子当たりのウロン酸残基数を求めた。(6)酵素力価の定義:酵素として用いたキシラナーゼの活性測定には、カバキシラン(シグマ社製)を用いた。酵素力価の定義はキシラナーゼがキシランを分解することで得られる還元糖の還元力をDNS法(「還元糖の定量法」学会出版センター発行)を用いて測定し、1分間に1マイクロモルのキシロースに相当する還元力を生成させる酵素量を1ユニットとした。【0069】(7)イオンクロマトグラフによる分析:キシロオリゴ糖の分析には、イオンクロマトグラフ(ダイオネクス社)を用いた。分析には、糖類の分析に適したカラムとしてCarbo Pac PA−10(ダイオネクス社)を用いた。【0070】実施例1<酵素処理工程1>国内産広葉樹チップ70%、ユーカリ材30%からなる混合広葉樹チップを原料として、クラフト蒸解によりカツパー価20.1、パルプ粘度41cpsの工場製の未晒パルプを得た。次いで、酸素脱リグニンを行い、カツパー価9.6、パルプ粘度25.1cpsの酸素脱リグニンパルプを得た。このパルプをパルプ濃度10%に調整後、希硫酸を加えてpH6.7に調整し、次いでバチルス・エスピーS−2113株(独立行政法人 産業技術総合研究所 特許微生物寄託センター寄託菌株FERM BP−5264)一の生産するキシラナーゼを対パルプ1ユニット/gとなるように添加し、60℃で120分処理した。処理後、全糖濃度3000mg/リッターを含む76000リッター(全糖量として228kg)の処理液を得た。続いてNF膜(日東電工製:NTR−7450、膜質:スルホン化ポリエーテルスルホン系、食塩阻止率50%)を用いて容量比で40倍に濃縮後、1900リッターの糖液を回収した。この濃縮液は全糖量を190kg含み、全糖回収率は83.8%であった。濃縮液中の糖をイオンクロマトグラフィーを用いて分析した結果、中性のキシロオリゴ糖及び溶出時間24分以降にキシロオリゴ糖複合体のピークが認められた。これを図1に示す。【0071】実施例2<酵素処理工程2>酵素としてジェネンコア社のキシラナーゼ(マルチフェクト720)を用いてキシロオリゴ糖複合体を生成する実験を行った。酵素処理の実験は実施例1と全く同じパルプ、全く同じ条件で行った。反応生成物をイオンクロマト用カラム(ダイオネクス社:CarboPacPA−10)を用いたイオンクロマトグラフィーで分析した結果、実施例1と同じように高濃度のキシロオリゴ糖(2量体〜20量体)を含むことが判明した。この時、酸性キシロオリゴ糖のピークも一部見られる。これを図2に示す。【0072】実施例3<酸加水分解処理工程1>酵素処理工程で得られた濃縮糖液1900リッターに対して硫酸を添加してpHを3.5に調整した後、この濃縮糖液を121℃にて1時間反応させた。反応生成物をイオンクロマト用カラム(ダイオネクス社:Carbo Pac PA−10)を用いたイオンクロマトグラフィーで分析した結果、高濃度のキシロオリゴ糖(2量体〜20量体)を含むことが判明した。この時、酸性キシロオリゴ糖のピークも一部見られる。これを図3に示す。【0073】実施例4<酸加水分解処理工程2>実施例1と全く同様にして得られた濃縮糖液1000リッターに酢酸を添加してpHを3.5に調整し、121℃にて1時間反応させた。反応生成物をイオンクロマト用カラム(ダイオネクス社:Carbo Pac PA−10)を用いたイオンクロマトグラフィーで分析した結果、高濃度のキシロオリゴ糖(2量体〜20量体)を含むことが判明した。この時酸性キシロオリゴ糖のピークも一部見られる。これを図4に示す。【0074】実施例5<酸性キシロオリゴ糖の分離・精製工程>▲1▼セラミックフィルター処理酸加水分解処理工程1で調製したキシロオリゴ糖の糖溶液(100mg/ml)1900リッター、全糖量として190kgをろ過面積4.8m2のセラミックフィルターを用いてろ過した。ろ過の条件は液温60℃にて行い、エアーによる逆洗浄は5分間隔で行った。また、活性炭を対糖3%にて添加してろ過を行った。8時間の連続処理で19000リッターを全て処理し、8時間処理での平均Fluxは40リッター/Hr/m2であった。【0075】▲2▼イオン交換樹脂による精製イオン交換には4塔のイオン交換塔(各塔200リッター容)を使用した。各塔は125リッターの樹脂を含むカラムであり、順番に1塔(強カチオンイオン交換樹脂:PK218、三菱化学製)、2塔(強アニオン+弱アニオン:PA408+WA30=1:1の比率でミックス、両樹脂とも三菱化学製)、3塔(強カチオンイオン交換樹脂:PK218)、4塔(弱アニオンイオン交換樹脂:WA30)である。この4塔のカラムを連続的に用い脱色、脱塩を行った。サンプルはセラミックフィルター処理後の糖液を純水で希釈し(5.0%濃度:600リッター)使用した。その結果、サンプル600リッターを通液流速3リッター/minで行い、酸性キシロオリゴ糖を弱アニオンイオン交換樹脂に吸着させた。溶出は75mMのNaCl(塩化ナトリウム)水溶液を200リッター用いて3リッター/minの通液速度で溶出し4.0%濃度の酸性キシロオリゴ糖を125リッター、5.0kgの酸性キシロオリゴ糖を回収した。このときの回収率は全糖量に対して30%であった。この、酸性キシロオリゴ糖は35%濃度にまで濃縮後、スプレードライヤーで粉体化した。粉体化した酸性キシロオリゴ糖は4.8kg回収され、回収率は96.0%であった。この酸性キシロオリゴ糖をイオンクロマトグラフィーにて分析した結果を図5に示す。また、こうして得られた酸性キシロオリゴ糖中のウロン酸の定量を行った結果、ウロン酸:キシロースの質量比は1:10であった。【0076】実施例6実施例5と全く同様にして得たセラミックフィルター処理後の糖化(5.0%濃度)600リッターを4塔のカラムに連続して通液した。通液条件は3リッター/minで行い、弱アニオン交換樹脂に酸性キシロオリゴ糖を吸着させた。溶出には50mMのCaCl2(塩化カルシウム)300リッターを用いて溶出し、溶出液の通液速度は3リッター/minで行った。回収された酸性キシロオリゴ糖は7.5%の濃度で134リッターの容量で回収され、回収量は10kgであり、回収率は33%であった。【0077】実施例7<酸性キシロオリゴ糖の重合度>実施例5及び実施例6により精製された酸性キシロオリゴ糖の粉末を超純水に溶解し1%水溶液を作製した。平均重合度は全糖量をフェノール硫酸法で測定し、その後1%水溶液の還元糖量をソモジーネルソン法で測定した。いずれの測定においても、検量線はD−キシロースを用いて作製した。平均重合度は1ml当たりの全糖量を1ml当たりの還元糖量で割ることで求めた。その結果、上記方法で作製された塩化カリウムにて溶出された酸性キシロオリゴ糖の平均重合度は10.2であり、塩化カルシウムにて溶出された酸性キシロオリゴ糖の平均重合度は11.3であった。【0078】実施例8実施例5により得られた精製された酸性キシロオリゴ糖10gを100mlの超純水に溶解し10%水溶液を作製した。この酸性キシロオリゴ糖水溶液に対して70%濃度となるようにエタノールを添加した。これを冷蔵庫に一晩放置することで沈殿してくる酸性キシロオリゴ糖と沈殿しない70%エタノールに可溶の酸性キシロオリゴ糖に分画することが出来た。沈殿と70%エタノールに可溶性画分とを遠心分離で分離し、おのおの平均重合度を測定したところ70%可溶性画分は平均重合度が約4.2であり、沈殿した酸性キシロオリゴ糖の再溶解液の平均重合度は12.8であった。【0079】<核磁気共鳴装置、質量分析装置での分析>上記のうち、70%エタノール可溶性画分について、エタノールを除去し、純水の溶液として、NMR法により重合度及びオリゴ糖1分子中のウロン酸残基とキシロース残基の量比を分析した。キシロース1位(4.409ppm)とウロン酸1位(5.226ppm)のプロトンケミカルシフトを決定し、水素の量比に相当する各シグナルの面積を算出した結果、その面積比は5:1であった。従って、ほとんどがキシロースの5量体に4−0−メチルグルクロン酸が一つ結合した酸性キシロオリゴ糖であることが判明した。【0080】更に参考までに、この水溶液を質量分析装置にかけてキシロースと4−0−メチルグルクロン酸のモル比を求めると5:1でありNMRの結果と一致した。なお、このときの可溶性画分の糖含量はフェノール硫酸法及びカルバゾール硫酸法で測定した場合、初発の10gの酸性キシロオリゴ糖に対して0.44gであった。これらのことから実施例5により得られた精製された酸性キシロオリゴ糖は重合度が5量体以下のものが4.4%であり、その大部分が5量体であることが判明した。【0081】次に、70%エタノール沈殿由来の酸性キシロオリゴ糖をエタノールを除去し、純水の溶液とし、NMR法により前記と同様に重合度及びオリゴ糖1分子中のウロン酸残基とキシロース残基の量比を分析した。キシロースと4−0−メチルグルクロン酸のモル比を測定すると10:1であり、キシロースの10量体に1つの4−0−メチルグルクロン酸残基が結合した酸性キシロオリゴ糖であった。更に参考までに、この水溶液を質量分析装置にかけてキシロースと4−0−メチルグルクロン酸のモル比を求めると10:1でありNMRの結果と一致した。【0082】【発明の効果】本発明により、鎖長が長い酸性キシロオリゴ糖が大量、安価に供給される。この新規酸性キシロオリゴ糖組成物は、酸加水分解、酵素消化などの処理により、容易にキシロビオース、キシロースを主鎖とする酸性キシロオリゴ糖に変換できる。また、中性のキシロオリゴ糖と共に酸性キシロオリゴ糖はビフィズス菌の選択的増殖性があり、機能性食品の材料にも有望である。また、本発明の酸性キシロオリゴ糖組成物は、通常なら溶解度が低い長鎖中性キシロオリゴ糖が主鎖ではあるが、酸性糖鎖を有するために溶解度が非常に高く、製造が容易で、ドリンクや食品への応用が容易な組成物である。【図面の簡単な説明】【図1】実施例1のキシロオリゴ糖のイオンクロマトグラフによる分析図。【図2】実施例2のキシロオリゴ糖のイオンクロマトグラフによる分析図。【図3】実施例3のキシロオリゴ糖のイオンクロマトグラフによる分析図。【図4】実施例4のキシロオリゴ糖のイオンクロマトグラフによる分析図。【図5】実施例5のキシロオリゴ糖のイオンクロマトグラフによる分析図。 広葉樹クラフトパルプをキシラナーゼで処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分とが酸加水分解性を有する化学結合により結合されたキシロオリゴ糖−リグニン複合体とキシロオリゴ糖を含有する処理液を得るキシラナーゼ処理工程、 該キシラナーゼ処理工程からのキシロオリゴ糖−リグニン複合体とキシロオリゴ糖を含有する処理液を酸加水分解処理して、酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖からなる平均重合度が8〜15のキシロオリゴ糖成分を含有するキシロオリゴ糖混合物とリグニン様物質とを含有する処理液を得る酸加水分解処理工程、 該酸加水分解処理工程からの処理液から弱アニオン交換樹脂により酸性キシロオリゴ糖成分を吸着して分離する吸着分離工程、からなる複数工程を有することを特徴とする、キシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有する平均重合度が8〜15の酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法。 前記酸加水分解処理工程は、キシロオリゴ糖−リグニン複合体のキシロオリゴ糖成分のキシロース分子間のβ−1,4−キシロシド結合を分解しない酸加水分解処理工程であることを特徴とする、請求項1記載のキシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有する平均重合度が8〜15の酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法。 前記吸着分離工程は、前記弱アニオン交換樹脂による吸着処理に先立って、前記酸加水分解処理工程からの処理液をセラミックフィルターで濾過処理する段階を含む工程である請求項1又は請求項2に記載のキシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有する平均重合度が8〜15の酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法。 前記吸着分離工程は、前記弱アニオン交換樹脂に吸着させた酸性キシロオリゴ糖成分を、金属イオンの塩化物の濃度勾配を用いて溶出させ、回収する段階を含む工程であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法。 前記吸着分離工程より得られる酸性キシロオリゴ糖成分をエタノール分画してエタノール不溶分を回収する分画工程を有することを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のキシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有する平均重合度が8〜15の酸性キシロオリゴ糖組成物の製造方法。