タイトル: | 特許公報(B2)_(メタ)アクリル酸類の蒸留方法 |
出願番号: | 2001377723 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C07C 51/44,C07C 57/07,C07C 67/54,C07C 69/54,B01D 3/14,B01D 3/16,C07C 51/25,C07C 67/08 |
矢田 修平 小川 寧之 神野 公克 JP 4034559 特許公報(B2) 20071102 2001377723 20011211 (メタ)アクリル酸類の蒸留方法 三菱化学株式会社 000005968 特許業務法人志成特許事務所 110000257 矢田 修平 小川 寧之 神野 公克 20080116 C07C 51/44 20060101AFI20071220BHJP C07C 57/07 20060101ALI20071220BHJP C07C 67/54 20060101ALI20071220BHJP C07C 69/54 20060101ALI20071220BHJP B01D 3/14 20060101ALI20071220BHJP B01D 3/16 20060101ALI20071220BHJP C07C 51/25 20060101ALI20071220BHJP C07C 67/08 20060101ALI20071220BHJP JPC07C51/44C07C57/07C07C67/54C07C69/54 ZB01D3/14 AB01D3/16 AB01D3/16 ZC07C51/25C07C67/08 C07C 51/44 C07C 57/07 C07C 67/54 C07C 69/54 B01D 3/16 B01D 3/42 特公昭48−032513(JP,B1) 特開2001−213839(JP,A) 特開2000−344688(JP,A) 特開2001−340701(JP,A) 3 2003176253 20030624 13 20040803 松本 直子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明はアクリル酸、メタクリル酸又はそれらのエステル(以下、(メタ)アクリル酸類という)の蒸留方法に関する。詳しくは本発明はプロピレン又はイソブチレンの接触気相酸化によって得られるアクリル酸又はメタクリル酸(以下,(メタ)アクリル酸という)、或いはそれらのエステルを蒸留により、分離・濃縮・精製する際にしばしば発生するモノマーの重合を防止する方法に関する。【0002】【従来の技術】(メタ)アクリル酸類を分離・精製する方法として蒸留法が一般的である。近年、蒸留の分離効率の向上、処理量の増強等を目的に高性能充填物が開発され、種々のプロセスにおける蒸留塔に採用され始めた。ところが(メタ)アクリル酸類は極めて重合しやすく、従来のトレイ型の蒸留塔においても、特に高性能充填塔においても、蒸留塔内での重合物の生成は大きな問題であった。従来より(メタ)アクリル酸類の重合物の発生を防止する方法として、トレイ構造の改良(特開2000-300903号公報)、特殊な重合防止剤の使用(特開平7-53449号公報)などが提案されているが、未だ長期連続運転は難しく、運転停止を伴う定期的な点検と修理が必要であった。重合体は蒸留塔の運転初期から発生することが多く、一旦重合体が生成すると気液流に支障が生じ、更に重合体の生成が加速される現象がよく見られた。【0003】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、(メタ)アクリル酸類を分離・精製する際にしばしば発生するモノマーの重合を防止する方法を提供することにある。特に蒸留操作を開始もしくは再開するに当たって、蒸留塔内部を(メタ)アクリル酸類が重合しにくい雰囲気を形成する手段を提供することにある。【0004】【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、一旦重合物が生成すると塔内が部分的に閉塞状態となり、気液の流動に支障を来たし、更なる重合体の生成を促進する原因になることを知得した。そして(メタ)アクリル酸類の蒸留開始の時点において重合を防止することが極めて重要であり、蒸留塔内壁面の温度を特定の高い状態に保持することにより前記目的が達成できることを見出し本発明を完成した。【0005】【発明の実施の形態】 本発明の要旨は、アクリル酸、メタクリル酸又はそれらのエステルを蒸留塔で蒸留する方法において、該蒸留塔が充填塔又は充填塔と多孔板塔との結合塔であって、かつ該蒸留塔本体に設置された外部加熱装置を用いて、又は該蒸留塔に加熱媒体を供給することにより、該蒸留塔内壁面を、予め、アクリル酸、メタクリル酸又はそれらのエステルの凝縮温度より1〜60℃高い温度に加熱し、該加熱された状態で蒸留塔の運転を開始し、以後、アクリル酸、メタクリル酸又はそれらのエステルを重合防止剤と共に蒸留塔に供給することを特徴とするアクリル酸、メタクリル酸又はそれらのエステルの蒸留方法に存する。【0006】 更に具体的に本発明は、プロピレン又はイソブチレンを気相接触酸化し、該酸化反応混合物を水吸収して得られたアクリル酸又はメタクリル酸の水溶液を共沸剤の存在下濃縮し、得られたアクリル酸又はメタクリル酸を蒸留塔で精製して高純度のアクリル酸又はメタクリル酸を製造する方法における該蒸留塔の運転停止及び運転開始を含む操作において、該蒸留塔が充填塔又は充填塔と多孔板塔との結合塔であって、かつ該蒸留塔本体に設置された外部加熱装置を用いて、又は該蒸留塔に加熱媒体を供給することにより、該蒸留塔内壁面を、予め、アクリル酸又はメタクリル酸の凝縮温度より1〜60℃高い温度に加熱し、該加熱された状態で蒸留塔の運転を開始し、以後、アクリル酸又はメタクリル酸を重合防止剤と共に蒸留塔に供給することを特徴とするアクリル酸又はメタクリル酸の蒸留方法に存する。 更に具体的に本発明は、プロピレン又はイソブチレンを気相接触酸化し、該酸化反応混合物を水吸収して得られたアクリル酸又はメタクリル酸の水溶液を共沸剤の存在下濃縮し、得られたアクリル酸又はメタクリル酸を蒸留塔で精製した後にアルコールと反応させ、得られる反応物を蒸留塔で精製してアクリル酸又はメタクリル酸のエステルを製造する方法における該蒸留塔の運転停止及び運転開始を含む操作において、該蒸留塔が充填塔又は充填塔と多孔板塔との結合塔であって、かつ該蒸留塔本体に設置された外部加熱装置を用いて、又は該蒸留塔に加熱媒体を供給することにより、該蒸留塔内壁面を、予め、アクリル酸又はメタクリル酸のエステルの凝縮温度より1〜60℃高い温度に加熱し、該加熱された状態で蒸留塔の運転を開始し、以後、アクリル酸又はメタクリル酸のエステルを重合防止剤と共に蒸留塔に供給することを特徴とするアクリル酸又はメタクリル酸のエステルの蒸留方法に存する。【0007】本発明において蒸留の対象となる混合物は、アクリル酸、メタクリル酸又はそれらのエステル、即ち(メタ)アクリル酸類である。これらはアクリルモノマーと通称されることもある。例えば、プロピレン又はイソブチレンをMo−Bi系複合酸化物触媒の存在下、気相接触酸化し、アクロレイン又はメタクロレインを生成し、更にMo−V系複合酸化物触媒の存在下、気相接触酸化して得られる(メタ)アクリル酸に適用される。この際、プロピレンを酸化して主としてアクロレインを生成する前段反応とアクロレインを酸化して主としてアクリル酸を生成する後段反応をそれぞれ別の反応器で行う2段反応でも、一つの反応器に前段反応を行う触媒と後段反応を行う触媒を同時に充填して反応を行う1段反応でも構わない。更には、(メタ)アクリル酸を原料としてそのエステルを製造する工程で得られる(メタ)アクリル酸のエステルがあげられる。アクリル酸エステル類を例示すると、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ターシャリーブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸メトキシエチル等があげられ、メタクリル酸エステル類についても同様の化合物を例示することができる。【0008】これらの方法で製造される未精製のアクリルモノマーには、アクリルモノマーの2量体、3量体、4量体、これらのエステル化物、無水マレイン酸、ベンズアルデヒド、β―ヒドロキシプロピオン酸、β―ヒドロキシプロピオン酸エステル類、β―アルコキシプロピオン酸、β―アルコキシプロピオン酸エステル類等の高沸点不純物が含有され、蒸留塔に供給されるアクリルモノマーの含有量としては、通常2重量%以上、好ましくは5重量%以上、更に好ましくは10重量%以上のものが本発明において用いられる。アクリルモノマーは低濃度であるにもかかわらず、これら不純物、及び(あるいは)水と共に形成される混合組成物は、蒸留処理を実施する塔内の温度、圧力条件で極めて重合し易い。しかもそのような重合現象は蒸留操作の初期に生じやすいものである。従って本発明の適応範囲は広く、アクリルモノマーが少量含まれるプロセス液の処理においても極めて大きな効果を発揮する。すなわち本発明にいう(メタ)アクリル酸類(アクリルモノマー)の蒸留とは、通常は高純度アクリルモノマーを取得する工程(精製工程)であるが、これに限定されるものではなく、アクリルモノマーを含有する混合物からアクリルモノマーに富む成分を回収する工程(分離・濃縮工程)にも適応されるのである。【0009】次に、図面を用いて(メタ)アクリル酸類を製造するプロセスを例示して説明する。図1は、プロピレンを原料としてアクリル酸を製造するプロセスフロー図の一例である。図中の記号は下記の通りである。A:アクリル酸捕集塔B:脱水塔C:軽沸分離塔(酢酸分離塔)D:高沸分離塔(アクリル酸精製塔)E:高沸分解反応器【0010】プロピレンおよび/またはアクロレインを分子状酸素含有ガスを用いて接触気相酸化して得たアクリル酸含有ガスは、ライン4を経てアクリル酸捕集塔Aに導入し、水と接触させアクリル酸水溶液を得る。次にアクリル酸水溶液を脱水塔Bへ供給する。脱水塔では、共沸剤を供給し、塔頂から水及び共沸剤からなる共沸混合物を留出させ、塔底からは酢酸を含むアクリル酸を得る。脱水塔の塔頂から留出した水および共沸剤からなる共沸混合物は貯槽10に導入し、ここで主として共沸剤からなる有機相と主として水からなる水相とに分離する。有機相は脱水塔Bに循環する。一方、水相はライン7を経てアクリル酸捕集塔Aに循環させて、アクリル酸含有ガスと接触させる捕集水として用いることにより有効に活用することができる。必要に応じてライン8から水を補給する。【0011】脱水塔Bの塔底から、ライン11を経て抜き出した粗アクリル酸は、残存する酢酸を除去するために軽沸分離塔(酢酸分離塔)Cに導入する。ここで塔頂からライン12,13を経て酢酸を分離除去する。ライン13の酢酸はアクリル酸を含むので、一部もしくは全量がプロセスへ戻される場合がある。一方、塔底からライン14を経て実質的に酢酸を含まないアクリル酸を得る。このアクリル酸は相当に純度が高いのでそのままアクリル酸エステルの製造原料として使用することができる。場合によりライン15を経て製品とする。更に高純度のアクリル酸を得るためには、ライン16を経て高沸分離塔(アクリル酸精製塔)Dに導入して高沸点物をライン17より分離除去し、高純度アクリル酸をライン18,19を経て得ることが出来る。ライン17の高沸物は高沸分解反応器Eに導かれ、一部はアクリル酸としてライン20よりプロセスへ回収される。高沸物はライン21より分離除去される。本プロセスにおいて、重合防止剤はライン1〜3いずれか1つ、又は複数のラインから供給される。【0012】図2は、プロピレンを原料としてアクリル酸を製造するプロセスフロー図の他の一例である。図1における脱水塔Bと軽沸分離塔(酢酸分離塔)Cを1塔の蒸留塔Fに纏めたプロセスであり、物質の流れは基本的に図1と同じである。【0013】図3は、プロピレンを原料としてアクリル酸を製造するプロセスフロー図の他の一例である。図中の記号は下記の通りである。G:放散塔D:高沸分離塔(アクリル酸精製塔)H:高沸除去塔K:溶剤回収塔【0014】プロピレンおよび/またはアクロレインを分子状酸素含有ガスを用いて接触気相酸化して得たアクリル酸含有ガスは、ライン4を経てアクリル酸捕集塔Aに導入し、溶剤と接触させアクリル酸含有溶液を得る。次にアクリル酸含有溶液を放散塔Gへ供給する。放散塔Gでは、ライン10よりガス(アクリル酸捕集塔Aの塔頂より排出されるライン6のガス、或いは、ライン6のガス中の有機物を酸化して除去した後のガス等)を供給し、塔頂から水及び酢酸を留出させ、塔底からは溶剤を含むアクリル酸を得る。放散塔Gの塔頂から留出した水および酢酸はアクリル酸捕集塔Aに導入し、水と酢酸は最終的にアクリル酸捕集塔Aの塔頂より排出される。放散塔Gの塔底からライン11を経て、高純度のアクリル酸を得るために高沸分離塔(アクリル酸精製塔)Dに導入して高沸点物をライン14より分離除去し、高純度アクリル酸をライン13を経て得ることが出来る。ライン14の高沸物は具体的には無水マレイン酸、ベンズアルデヒド等であり、高沸除去塔Hに導かれ、これら高沸点物はライン16より排出される。塔底より溶剤はライン17を経て溶剤回収塔Kに導かれる。回収された溶剤は塔頂よりライン7を経てアクリル酸捕集塔Aに戻される。塔底よりライン18を経て更なる高沸物が分離除去される。重合防止剤はライン1及び/又はライン2から供給される。【0015】図4は、アクリル酸エステルを製造するプロセスフロー図の一例である。図中の記号と番号は下記の通りである。L:エステル化反応器M:アクリル酸分離塔N:高沸分解反応器Q:アルコール抽出塔P:アルコール回収塔R:軽沸分離塔S:エステル精製塔【0016】ライン31からアクリル酸、ライン32からアルコール、ライン35から循環アクリル酸、ライン48から循環アルコールを、それぞれエステル化反応器Lに供給する。エステル化反応器Lには強酸性イオン交換樹脂などの触媒が充填される。ライン33を経て、生成エステル、未反応アクリル酸、未反応アルコール、及び生成水からなるエステル化反応混合物を抜き出し、アクリル酸分離塔Mに供給する。アクリル酸分離塔Mからライン34を経て未反応アクリル酸の実質的全量を含む塔底液を抜き出し、ライン35を経て循環液としてエステル化反応器Lへ供給する。該塔底液の一部はライン36を経て高沸分解反応器Nに供給し、分解され得られた有価物はライン40を経てプロセスに循環される。循環されるプロセス内の場所は、プロセス条件によって異なる。重合物などの高沸点不純物はライン37を経て系外へ除去する。また、アクリル酸分離塔Mの塔頂からは、ライン38を経て生成エステル、未反応アルコール、及び生成水が留出する。流出物の一部は還流液としてアクリル酸分離塔Mに循環し、残りはライン39を経て抽出塔Qに供給される。ライン41よりアルコール抽出の為の水が供給され、ライン42を経て回収されたアルコールを含む水はアルコール回収塔Pに供給される。回収されたアルコールはライン48を経てエステル化反応器に循環される。【0017】ライン43より粗アクリル酸エステルは軽沸分離塔Rへ供給される。ライン44よりアクリル酸エステルを含む軽沸物は抜き出され、プロセス内へ循環される。循環されるプロセス内の場所は、プロセス条件によって異なる。軽沸物を除去された粗アクリル酸エステルはライン45を経てアクリル酸エステル製品精製塔Sへ供給される。塔頂よりライン46を経て、高純度アクリル酸エステルを得る。塔底から若干の高沸物を含む液はライン47を経て抜き出され、プロセス内へ循環される。循環されるプロセス内の場所は、プロセス条件によって異なる。【0018】図5は、粗アクリルモノマーの蒸留塔及びその付帯設備の一例である。図中の番号は下記の通りである。51:蒸留塔52:充填物層、或いは蒸留塔トレイ、或いは充填物、蒸留塔トレイの併用53:インヒビターエア供給ライン54:塔頂ガス冷却用熱交換器55:ベントガス冷却用熱交換器56:環流槽57:デストリビューター58:リボイラー(加熱用熱交換器)59:重合防止剤含有液体タンク60:アクリルモノマー(原料)供給ライン61:重合防止剤供給ライン62:塔頂液抜出ライン63:塔底液抜出ライン64:ベントガス排出ライン特にライン53及びライン61は、蒸留塔条件によって蒸留の種々の部分に1カ所以上設置される。【0019】本発明が適用される蒸留塔は、アクリルモノマーが気液平衡に関与する蒸留装置の全てであり、分離、濃縮、回収、精製などの操作を行うための装置を意味している。例えば、図1に示される、脱水塔B、軽沸分離塔(酢酸分離塔)C、高沸分離塔(アクリル酸精製塔)Dが該当する。同様に、図3に示される放散塔G、高沸分離塔(アクリル酸精製塔)D、高沸除去塔H、溶剤回収塔Kや図4に示されるアクリル酸分離塔M、アルコール回収塔P、軽沸分離塔R、エステル精製塔Sや図5に示される蒸留塔51がこれらに該当する。【0020】蒸留塔としては、多孔板塔、泡鐘塔、充填塔、あるいはこれらの組合せ型(例えば、多孔板塔と充填塔との組合せ。図5参照)などがあり、溢流堰やダウンカマーの有無は区別されず、いずれも本発明で使用できる。具体的なトレイとして、泡鐘トレイ、多孔板トレイ、バブルトレイ、スーパーフラッシュトレイ、マックスフラクストレイ、デュアルトレイ等があげられる。充填物としては、円柱状、円筒状、サドル型、球状、立方体状、角錐体状など従来から使用されているもののほか、近年高性能充填物として特殊形状を有する規則的又は不規則的な充填物が市販されており、これらは本発明に好ましく用いられる。【0021】かかる市販品を例示すると、規則充填物として、例えば、スルーザーパッキング(スルザー・ブラザーズ社製)、住友スルーザーパッキング(住友重機械工業社製)、テクノパック(三井物産社)、エムシーパック(三菱化学エンジニアリング社製)などのガーゼ型規則充填物、メラパック(住友重機械工業社製)、テクノパック(三井物産社)、エムシーパック(三菱化学エンジニアリング社製)などのシート型規則充填物、フレキシグリッド(コーク社製)などのグリッド型規則充填物等があげられる。また、不規則充填物には、ラシヒリング、ポーリング(BASF社製)、カスケードミニリング(マストランスファー社製)、IMTP(ノートン社製)、インタロックスサドル(ノートン社製)、テラレット(日鉄化工機社製)、フレキシリング(日揮社製)等がある。【0022】本発明において最も大きな特徴は、蒸留塔の運転開始に先立ち、予め、該蒸留塔内壁面を、アクリルモノマーの凝縮温度より高い温度に加熱しておくことにある。加熱の方法は特に限定されない。例えば、蒸留塔本体を加熱可能なトレースで覆い、これに電気、スチーム、温水などの熱源を供給する外部加熱方式が利用できる。また、加熱されたガス又は加熱された液体を蒸留塔内に供給する内部加熱方式を利用することもできる。加熱ガスは塔底又は原料供給段から供給することができる。加熱ガスとしては空気、窒素、二酸化炭素、アルゴンなど、1種又は2種混合して用いられる。加熱液体の場合は、蒸留塔頂からデストリビュータ(液分散器、液分散ノズル)を経由して噴霧または流下させればよい。加熱液体の流下と共に加熱ガスを塔底から上方に流すこともできる。本発明を実施する前段工程として、プロピレン又はイソブチレンを気相接触酸化し、該酸化反応混合物を水吸収して得られた(メタ)アクリル酸の水溶液を共沸剤の存在下濃縮するプロセスが存在する場合は、当該共沸剤を加熱媒体として用いることができる。特別な不純物が混入しないので好適である。また、運転停止前に取得した当該蒸留塔の塔底液も加熱媒体として好適である。【0023】蒸留塔内壁面の加熱温度は、(メタ)アクリル酸類を含有する蒸留塔内ガスの定常運転条件における凝縮温度より高い温度であればよい。通常は該凝縮温度より1〜60℃、好ましくは3〜60℃、更に好ましくは3〜40℃高めに保持する。上記未満では局部的に凝縮する恐れがあり、凝縮はポリマーの発生原因となる。一方余り高温ではアクリルモノマーの重合を誘発したり、熱源として経済的に有利ではない。ここにいう「(メタ)アクリル酸類を含有する蒸留塔内ガスの定常運転条件における凝縮温度より高い温度」とは、例えば、アクリル酸を塔頂成分として取得する蒸留塔にあっては、アクリル酸を含有する蒸留塔内ガスの凝縮温度より高い温度を意味し、同様にアクリル酸ブチルを塔頂成分として取得する蒸留塔にあっては、アクリル酸ブチルを含有する蒸留塔内ガスの凝縮温度より高い温度を意味する。アクリルモノマーが2種以上混在する場合の加熱温度は、凝縮温度が高い方の凝縮温度よりも高くすることが必要である。実際の運転にあたり、蒸留の対象となる原液は純粋なアクリルモノマーではなく、各種の高沸点不純物が含有されている場合が多いので、目的物の凝縮温度は、高温側に移動する傾向にある。よって、上記したように3〜60℃高めに保持することが好ましい。加熱媒体を蒸留塔内に供給する内部加熱方式を利用する場合は、蒸留塔内壁面、棚段(トレイ)、充填物など全体として一様な温度に加熱することができるので、内壁面の温度を計測し、その温度が前記凝縮温度以上になるように管理すればよい。しかしながら外部加熱方式では、加熱の態様、加熱時間等によっては、内壁面に比べて充填物の温度が低くなることがある。この場合は、充填物の温度を前記凝縮温度よりも高く保持することが好ましい。【0024】本発明においては、蒸留塔内壁面を加熱した後、当該加熱された状態で蒸留塔の運転を開始することが重要である。蒸留塔の運転開始の態様としては、原料(粗アクリルモノマー)をリボイラーに供給し、引き続きリボイラーに熱源を供給すればよい。熱源の供給に前後して、原料供給段から原料を供給し、徐々に供給量を増加して定常状態に移行することができる。外部加熱方式で蒸留操作を開始した場合、定常状態に移行後の蒸留塔内壁面の加熱操作は特に制限されない。そのまま加熱を継続してもよく、加熱を中止し、リボイラーからの熱源供給のみに変更してもよい。【0025】本発明の蒸留操作は、連続蒸留でもバッチ蒸留でも適用可能である。蒸留の操作条件は、蒸留塔の形式、充填物の形状、粗アクリルモノマーに含有される不純物の種類や含有量などを勘案のうえ、適宜に決定されるもので、特に限定されない。通常は、塔頂温度20〜80℃、好ましくは40〜60℃、塔底温度60〜120℃、好ましくは65から110℃、塔頂圧力は0.7〜106kPa程度で実施する。【0026】粗アクリルモノマーは重合防止剤の存在下に蒸留するのが好ましい。ここに、重合防止剤とは、安定なラジカル物質、又はラジカルと付加して安定なラジカルを生成する、もしくは生成しやすい物質を総称するものである。場合によっては、目的に応じて、重合抑制剤、重合禁止剤、重合停止剤、重合速度低下剤などと呼称されることもあるが、本発明では重合防止剤と呼称する。【0027】かかる重合防止剤を例示すると、ハイドロキノン、メトキシハイドロキノン(メトキノン)などのフェノール化合物;第3ブチルニトロオキシド、2,2,6,6-テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジル−1−オキシルなどのN−オキシル化合物;フェノチアジン、ビス−(α−メチルベンジル)フェノチアジンなどのフェノチアジン化合物;炭酸銅、アクリル酸銅、酢酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジブチルジチオカルバミン酸銅などの銅系化合物;酢酸マンガンなどのマンガン塩化合物;p−フェニレンジアミンなどのフェニレンジアミン類;N−ニトロソジフェニルアミンなどのニトロソ化合物;尿素などの尿素類;チオ尿素などのチオ尿素類があげられる。これらの化合物は単独でも、あるいは2種以上を組み合わせて使用することもできる。【0028】重合防止剤は原料となる粗アクリルモノマーに混合して蒸留塔に供給してもよく、それぞれ別々に塔に供給してもよく、また還流槽に供給し、蒸留塔頂からデストリビュータ(液分散器、液分散ノズル)を経由して噴霧または流下させてもよい。重合防止剤は通常、水又は有機溶媒の溶液もしくはスラリーとして使用される。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、ブチルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸、プロピオン酸、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボン酸、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、酢酸メチル、酢酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどが挙げられ、これらは混合物としても使用できる。例えば、水・トルエン混合物、水・(メタ)アクリル酸混合物、(メタ)アクリル酸の2量体、3量体を含有する粗(メタ)アクリル酸((メタ)アクリル酸蒸留塔の塔底液)が使用できる。また、これらの有機溶媒は、前記加熱媒体としても使用可能である。【0029】【実施例】次に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り下記の実施例に限定されるものではない。【0030】<実施例1>図5に示すような、内径1100mm、長さ20000mm、内部にノートン社製不規則充填物(IMTP)を14m充填したステンレス鋼製(SUS316)の蒸留塔を用いて粗アクリル酸の蒸留を行った。該蒸留塔外周部にはスチーム配管がトレースラインとして設置され、その上に保温材(ケイ酸カルシウム)が施工されている。 蒸留に先立ち、120℃のスチームをトレース配管に供給した。約3時間後、蒸留塔の温度を測定すると、蒸留塔外壁面の温度は118℃、蒸留塔内壁面の温度は110℃、塔内充填物の温度は93℃を示した。次に、粗アクリルモノマーとして、アクリル酸98.5重量%、マレイン酸0.3重量%、アクリル酸ダイマー0.3重量%を含む混合物を90℃で、1300kg/hrで供給した。また、重合防止剤含有液体タンク59よりアクリル酸にメトキノン8重量%、フェノチアジン1重量%を溶解した液をそれぞれ34kg/hrと31kg/hrで供給した。熱源を供給し、塔内圧力などを調整し、約5時間後、塔頂圧力2.9kPa、塔底圧力7.9kPa、塔頂温度53℃、塔底温度75℃で安定運転に入り、塔頂からは純度99.8重量%以上の高純度アクリル酸が得られたところで、運転を中止し、塔内残留液を抜き出した後、内部を点検した。塔内及び充填物の周囲には固形物(重合物)は見当たらなかった。本実施例における塔頂圧力は2.9kPaであるから、アクリル酸を含有したガスの塔頂での凝縮温度は約53℃であり、蒸留開始に先立って予備加熱した蒸留塔内壁面温度110℃は、凝縮温度より塔頂では57℃高め、塔底では35℃高めであった。【0031】<比較例1>実施例1において、蒸留開始前の塔内加熱を省略した以外は実施例1と同様にして蒸留を行った。蒸留開始時点において、蒸留塔外壁面、蒸留塔内壁面、塔内充填物の温度はいずれも25℃であった。運転開始から塔底圧力が上昇し、5時間目に塔底圧力が12kPa、塔底温度が86℃になったため運転を打ち切った。運転停止後塔内を観察したところ、原料供給段より上の内壁面、および内壁面近傍の充填物内にアクリル酸重合物の付着が認められた。【0032】 <参考例> 実施例1でノートン社製不規則充填物(IMTP)を多孔板(デュアルトレイ)21枚に変更した以外は実施例1と同様な操作を行った。すなわち、該トレース配管に120℃のスチームを供給した。蒸留塔の温度を測定すると、蒸留塔外壁面の温度は118℃、蒸留塔内壁面の温度は110℃、塔内多孔板の温度は89℃を示した。次いで、粗アクリルモノマーとして実施例1と同様組成の混合液を蒸留塔へ供給しつつ、塔内の温度、圧力などを調節した。約4時間後、塔頂圧力2.8kPa、塔底圧力9.1kPa、塔頂温度53℃、塔底温度78℃で安定運転に入り、塔頂からは純度99.8重量%以上の高純度アクリル酸が得られたところで、運転を中止し、塔内残留液を抜き出した後、内部を点検した。塔内及び充填物の周囲には固形物(重合物)は見当たらなかった。【0033】 <比較例2> 参考例において、蒸留開始前の塔内加熱を省略した以外は参考例と同様にして蒸留を行った。蒸留開始時点において、蒸留塔外壁面及び蒸留塔内壁面の温度はいずれも25℃であった。運転開始から塔底圧力が上昇し、5時間目に塔底圧力が11kPa、塔底温度が84℃になったため運転を打ち切った。運転停止後塔内を観察したところ、原料供給段より上の内壁面、および多孔板の内壁面周辺にアクリル酸重合物の付着が認められた。【0034】 <実施例2> 図5に示すような、内径1100mm、長さ26000mm、内部にノートン社製不規則充填物(IMTP)を813m充填したステンレス鋼(SUS304)製の蒸留塔を用いて粗アクリル酸エチルの蒸留を行った。該蒸留塔外周部には、スチーム配管がトレースラインとして設置され、その上に保温材(ケイ酸カルシウム)が施工されている。蒸留に先立ち、120℃のスチームをトレース配管に供給した。約3時間後、蒸留塔の温度を測定すると、蒸留塔外壁面の温度は118℃、蒸留塔内壁面の温度は110℃、塔内充填物の温度は92℃を示した。次に粗アクリルモノマーとして、アクリル酸エチル97.4重量%、水1.8重量%、アクリル酸0.4重量%、エタノール0.4重量%、酢酸エチル0.1重量%を含む混合物を6000kg/hrで供給した。また、重合防止剤含有液体タンク59よりエタノールにハイドロキノン5重量%を溶解した液を60kg/hrで供給した。熱源を供給し、塔内圧力などを調整し、約6時間後、塔頂圧力62.7kPa、塔底圧力69.3kPa、塔頂温度76℃、塔底温度84℃で安定運転に入り、塔底からは純度99.1重量%以上の粗アクリル酸エチルが得られたところで運転を中止し、塔内残留液を抜き出した後、内部を点検した。塔内および充填物の周囲には固形物(重合物)は見あたらなかった。本実施例において、アクリル酸エチルを含有したガスの塔頂での凝縮温度は76℃、塔底での凝縮温度は84℃であり、蒸留開始に先だって予備加熱した蒸留塔内壁面温度110℃は、凝縮温度より塔頂では34℃高め、塔底では26℃高めであった。【0035】 <比較例3> 実施例2において、蒸留開始前の塔内加熱を省略した以外は実施例2と同様にして蒸留を行った。蒸留開始時点において、蒸留塔外壁面、蒸留塔内壁面、塔内充填物の温度はいずれも25℃であった。運転開始から塔底圧力が上昇し、6時間目には塔底圧力が73kPa、塔底温度が89℃になったため、運転を打ち切った。運転停止後塔内を観察したところ、原料供給段より上の内壁面、および内壁面近傍の充填物内にアクリル酸重合物とアクリル酸エチル重合物の付着が認められた。【0036】【発明の効果】本発明によれば、(メタ)アクリル酸類の蒸留において、蒸留塔の運転開始前に、該蒸留塔内壁面を、予め、(メタ)アクリル酸類の凝縮温度より高い温度に加熱し、該加熱された状態で蒸留塔の運転を開始するので、蒸発したアクリルモノマーが蒸留塔内壁面に凝縮することがなく、重合体生成の心配もない。蒸留塔の運転開始後は、(メタ)アクリル酸類は重合防止剤の存在下に蒸留されるので同様に重合体の生成はない。【図面の簡単な説明】【図1】プロピレンを原料としてアクリル酸を製造するプロセスフロー図の一例である。【図2】プロピレンを原料としてアクリル酸を製造するプロセスフロー図の他の一例である。【図3】プロピレンを原料としてアクリル酸を製造するプロセスフロー図の他の一例である。【図4】アクリル酸エステルを製造するプロセスフロー図の一例である。【図5】粗アクリルモノマーの蒸留塔及びその付帯設備の一例である。【符号の説明】A:アクリル酸捕集塔B:脱水塔C:軽沸分離塔(酢酸分離塔)D:高沸分離塔(アクリル酸精製塔)E:高沸分解反応器F:脱水塔Bと軽沸分離塔(酢酸分離塔)Cを1塔にまとめた蒸留塔G:放散塔H:高沸除去塔K:溶剤回収塔L:エステル化反応器M:アクリル酸分離塔N:高沸分解反応器Q:アルコール抽出塔P:アルコール回収塔R:軽沸分離塔S:エステル精製塔 アクリル酸、メタクリル酸又はそれらのエステルを蒸留塔で蒸留する方法において、該蒸留塔が充填塔又は充填塔と多孔板塔との結合塔であって、かつ該蒸留塔本体に設置された外部加熱装置を用いて、又は該蒸留塔に加熱媒体を供給することにより、該蒸留塔内壁面を、予め、アクリル酸、メタクリル酸又はそれらのエステルの凝縮温度より1〜60℃高い温度に加熱し、該加熱された状態で蒸留塔の運転を開始し、以後、アクリル酸、メタクリル酸又はそれらのエステルを重合防止剤と共に蒸留塔に供給することを特徴とするアクリル酸、メタクリル酸又はそれらのエステルの蒸留方法。 プロピレン又はイソブチレンを気相接触酸化し、該酸化反応混合物を水吸収して得られたアクリル酸又はメタクリル酸の水溶液を共沸剤の存在下濃縮し、得られたアクリル酸又はメタクリル酸を蒸留塔で精製して高純度のアクリル酸又はメタクリル酸を製造する方法における該蒸留塔の運転停止及び運転開始を含む操作において、該蒸留塔が充填塔又は充填塔と多孔板塔との結合塔であって、かつ該蒸留塔本体に設置された外部加熱装置を用いて、又は該蒸留塔に加熱媒体を供給することにより、該蒸留塔内壁面を、予め、アクリル酸又はメタクリル酸の凝縮温度より1〜60℃高い温度に加熱し、該加熱された状態で蒸留塔の運転を開始し、以後、アクリル酸又はメタクリル酸を重合防止剤と共に蒸留塔に供給することを特徴とするアクリル酸又はメタクリル酸の蒸留方法。 プロピレン又はイソブチレンを気相接触酸化し、該酸化反応混合物を水吸収して得られたアクリル酸又はメタクリル酸の水溶液を共沸剤の存在下濃縮し、得られたアクリル酸又はメタクリル酸を蒸留塔で精製した後にアルコールと反応させ、得られる反応物を蒸留塔で精製してアクリル酸又はメタクリル酸のエステルを製造する方法における該蒸留塔の運転停止及び運転開始を含む操作において、該蒸留塔が充填塔又は充填塔と多孔板塔との結合塔であって、かつ該蒸留塔本体に設置された外部加熱装置を用いて、又は該蒸留塔に加熱媒体を供給することにより、該蒸留塔内壁面を、予め、アクリル酸又はメタクリル酸のエステルの凝縮温度より1〜60℃高い温度に加熱し、該加熱された状態で蒸留塔の運転を開始し、以後、アクリル酸又はメタクリル酸のエステルを重合防止剤と共に蒸留塔に供給することを特徴とするアクリル酸又はメタクリル酸のエステルの蒸留方法。