タイトル: | 特許公報(B2)_ステロイド類化合物のLC−MSによる高感度検出法 |
出願番号: | 2001362158 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | G01N 30/88,G01N 27/62,G01N 30/06,G01N 30/26,G01N 30/72 |
橋本 豊 中川 由美子 JP 3774888 特許公報(B2) 20060303 2001362158 20011128 ステロイド類化合物のLC−MSによる高感度検出法 日本化薬株式会社 000004086 橋本 豊 中川 由美子 20060517 G01N 30/88 20060101AFI20060420BHJP G01N 27/62 20060101ALI20060420BHJP G01N 30/06 20060101ALI20060420BHJP G01N 30/26 20060101ALI20060420BHJP G01N 30/72 20060101ALI20060420BHJP JPG01N30/88 EG01N27/62 VG01N27/62 XG01N30/06 EG01N30/26 AG01N30/72 C G01N 30/88 G01N 27/62 G01N 30/06 G01N 30/26 G01N 30/72 特開平03−252559(JP,A) 特開平11−100344(JP,A) 特開平06−340707(JP,A) 特開2000−088834(JP,A) 特表平07−502511(JP,A) 特表2002−518514(JP,A) 特開平 1−169355(JP,A) Rapid Commun Mass Spectrom,2001年10月22日,vol.15, no.22,2145-2151 8 2003161726 20030606 10 20040423 特許法第30条第1項適用 2001年6月1日 日本質量分析学会発行の「第49回質量分析総合討論会(2001)講演要旨集」に発表 宮澤 浩 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は生体試料中に微量に含まれる1個の水酸基を有するステロイド類化合物を検出するためのLC/MS(液体クロマトグラフィー−マススペクトロメトリー)により測定する検出法に関する。本発明は、極めて少量の生体試料を用いて、薬物による疾病の治療効果や病態の評価、更にはタンパク質同化ステロイドなどの不正使用の検査を行うために有効な手法である。【0002】【従来の技術】ステロイド類化合物は広く植物や動物に分布して存在しており、生物を構成している重要な物質として生体内各臓器に分布している。また、ほとんどの生物はステロイドを生合成する機能を有し、そのため中間体や代謝物が多く存在する。ステロイドは生体にとって重要な生体膜の構成成分としての機能の他、特にホルモンとして微量で特殊な生理作用を示し、生体内の調節をつかさどり、その生理機能は多岐にわたっている(津田恭介編:ステロイド、1971年、朝倉書店;玉舎輝彦:性ステロイドホルモンがわかる、1999年、金芳堂)。【0003】例えば、アンドロゲンは生殖器の発育、血管の新生、体毛の発育、筋肉と骨格による身体の体積増加などの生理的作用があり、更には女性ホルモンであるエストロゲン作用の抑制作用などがある。またアンドロゲンはエストロゲン作用を発揮するエストラジオールなどに変換され、エストロゲン作用にも関与している。アンドロゲンの中でも代表的なテストステロンは、活性型のジヒドロテストステロンに変換され生理作用を示す。アンドロゲン、特にジヒドロテストステロン(androstan-17β-ol-3-one)は前立腺肥大や前立腺腫瘍と密接に関係するといわれ、その濃度測定は疾病の治療効果や病態の評価に利用されている。また、スポーツ競技会におけるタンパク質同化ステロイドの不正使用の検査において、ジヒドロテストステロンは禁止物質の一つにもあげられている。【0004】従来、生体中に多くの類似構造をもつステロイド類化合物の測定法には高分離、高感度が要求されてきた。例えば、ジヒドロテストステロン測定には以下の3法が用いられていた。GC/MS(ガスクロマトグラフィー−マススペクトロメトリー)法ではジヒドロテストステロンに揮発性を付与するためにオキシム誘導体として測定したところ、その時の定量限界は50pg/mlである。この誘導体化反応には加熱が必要であり、また誘導体化により、異性体が生成する欠点を有する。LC/MS(液体クロマトグラフィー−マススペクトロメトリー)法では、感度を上げるためにカルボキシメチルオキシム誘導体にして測定している。その時の定量限界は62.5pgであった(五反田浩太郎、新保淳、中野洋一、佐々木享子、本間誠次郎、宮坂克彦:診療と新薬、36、277(1999))。ラジオイムノアッセイ法では定量限界が12.5pgと高感度であるが、抗体の作製に時間と労力が必要であり、またテストステロンとの交叉反応性を回避するため、HPLCによりテストステロンを除く前処理が必要である(V.Puri et al: J. Steroid Biochem., 14, 877-881 (1981)、 M.Hill,R.Hampl,R.Petrik and L.Starka: Prostate, 28,347(1996))。【0005】【発明が解決しようとする課題】少量の生体試料で検査することは、被検者の負担を軽減できる。特に医療現場ではターゲット部の病態を知ることができ治療方法や方針に役立てるため、少量の生検試料や血液で検出できることが必要である。例えば、アンドロゲンの一つであるジヒドロテストステロンは5-αリダクターゼによりテストステロンから活性型に変換される。そしてジヒドロテストステロンはアンドロゲンリセプターに結合してアンドロゲン作用を発現する。微量でより強いアンドロゲン作用を示すジヒドロテストステロンの標的組織中における存在量を知ることは、より正確なアンドロゲン作用を考察することができる。ジヒドロテストステロンは前立腺では組織1gあたり数ngしか存在しない。そして血漿中濃度は、健康成人男性で0.3〜0.6ng/ml、女性では0.08〜0.2 ng/mlと極めて低濃度である(穂坂正彦:日本不妊学会、21、135、(1976))。また、タンパク質同化ステロイドとして、不正使用の有無を検査するためには、血液や尿中に残存する痕跡量を検出する必要がある。このように生体中に微量しか存在しないジヒドロテストステロンを検出するためには高感度な方法が必要である。【0006】【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意検討の結果、生体試料中の1個の水酸基を有するステロイド類化合物を検出するために、水酸基にN-低級アルキルピリジニウム基を導入して誘導体をLC/ESI-MS(液体クロマトグラフィー/エレクトロスプレーイオン化−マススペクロロメトリー)法で測定することで高感度検出が期待されることを見出した。更に、少量の生体試料から、微量のステロイド類化合物を抽出精製する方法を考案した。すなわち、過剰の誘導体試薬と生体由来の夾雑物を除去するために固相抽出法を採用した。具体的には、N-低級アルキルピリジニウム誘導体を固相に負荷後、メタノールを用いて夾雑物の完全除去を図り、次いで固相からN-メチルピリジニウム誘導体を溶出した。固相による前処理後、ステロイド類化合物をLC/ESI-MS 法で検出する。また、特にMS/MS(エムエス/エムエス)法を用いることにより、選択性を高めHPLC移動相やMS装置からのバックグラウンドノイズを除き、SN比(シグナルノイズ比)を向上させ、結果として一層の高感度検出が可能となった。【0007】即ち、本発明は次の(1)〜(8)に関する。(1)生体試料中の1個の水酸基を有するステロイド類化合物を検出するうえにおいて、該ステロイド化合物の水酸基にN-低級アルキルピリジニウム基を導入した誘導体をLC/MSにより測定する検出法。(2)N-低級アルキルピリジニウム基がN-メチルピリジニウム基である1項に記載の検出法。(3)1個の水酸基を有するステロイド類化合物がアンドロゲン系化合物、エストロゲン系化合物、プロゲステロン系化合物及びステロール系化合物のいずれから選択される化合物である前記1又は2項に記載の検出法。(4)1個の水酸基を有するステロイド類化合物がアンドロゲン系化合物である前記1又は2項に記載の検出法。(5)アンドロゲン系化合物がジヒドロテストステロンである4項に記載の検出法。(6)ステロイド化合物の水酸基に誘導体を生成した後、固相抽出法によるメタノール洗浄により前処理し、次いで酸を含むメタノールで溶出してLC/MS測定用試料とする、前記1〜5のいずれかに記載の検出法。(7)LC/MS測定において、マススペクトロメトリーのイオン化がエレクトロスプレーイオン化によって行われる前記1〜6のいずれかに記載の検出法。(8)LC/MS測定において、イオンをMS/MS手法によりおこなう前記1〜7のいずれかに記載の検出法。【0008】【発明の実施の形態】本発明につき更に詳細に説明する。本発明において、対象とする生体試料はヒトから得られる組織、血液、尿、胆汁等が挙げられ、これらは健常人もしくは患者から採取可能である。また、本発明において、1個の水酸基を有するステロイド類化合物とはステロイド骨格を有する化合物に1個の水酸基が置換した化合物を示す。特に本発明においては、生体由来の物質が好ましく、ステロール系化合物、プロゲステロン系化合物、アンドロゲン系化合物、エストロゲン系化合物等が挙げられる。なお本発明は2個以上の水酸基を有するステロイド類に適用した場合、生成する誘導体は四級アンモニウムイオンを複数個有する多価イオンとなる。マススペクトル上で出現する分子イオン(m/z値)は低質量側にシフトした値となり、そこでは夾雑物由来のイオンが多量に存在するので、高感度分析には不利となる。そのため本発明は1個の水酸基を有するステロイド類に適用するのが好ましい。【0009】ステロール系化合物としては、例えばラノステロール、ジヒドロラノステロール、チモステロール、4α−メチルコレステロール、デスモステロール、7-デヒドロコレステロール、ラトステロール、メトステノール、コレステロール等が挙げられる。プロゲステロン系化合物としては、例えばプレグネノロン、11-デオキシコルチコステロン、17α-ヒドロキシプレグネネジオン、17α-ヒドロキシプロゲステロン、20α-ヒドロキシプロゲステロン等が挙げられる。【0010】アンドロゲン系化合物としては、例えば11-ケトアンドロステロン、11-ケトエチオコラノロン、テストステロン、アンドロステロン、エピアンドロステロン、エチオコラノロン、デヒドロエピアンドロステロン、11-ヒドロキシアンドロステンジオン、7-ケトデヒドロエピアンドロステロン、アンドロステン-3α-オール、ジヒドロテストステロン等が挙げられる。エストロゲン系化合物としてはエストロン等が挙げられる。本発明において、1個の水酸基を有するステロイド類化合物としては、アンドロゲン系化合物が好ましく、特に好ましくはジヒドロテストステロンである。これら、本発明で用いる1個の水酸基を有するステロイド類化合物は良く知られた物質であり、適宜公知の方法で合成して得るか若しくは試薬として入手可能である。【0011】本発明において、N-低級アルキルピリジニウム基とはピリジンのN位にC1〜C4アルキルが置換した基を示す。C1〜C4のアルキル基としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル等が挙げられる。本発明ではメチルで置換されたN-メチルピリジニウム基が好ましい。水酸基へのN-低級アルキルピリジニウム基の導入には、例えば、2-フロロ-1-メチルピリジニウム試薬(アルドリッチ社製)等によって調製される。【0012】また、前処理法として用いた固相抽出法は、例えばBond Elut C18(バリアン社製)等のODSタイプの固相に吸着させた後、メタノールで洗浄して酸を含むメタノールで溶出することにより生体由来の夾雑物を効果的に除くことができる。更に、LC/MS測定において、マススペクトロメトリーのイオン化は、適宜大気圧化学イオン化(APCI)、高速原子衝撃(FAB)、サーモスプレーイオン化(TSP)、エレクトロスプレーイオン化(ESI)を選択することによって行われる。ESIでは極性を付与した誘導体にすることによりイオン化効率が向上し、APCIやTSPなどの他のイオン化に比べて高熱を必要としないため熱分解も少ない。また、FABではイオン化効率が悪く高感度が得られない。従って本発明において、エレクトロスプレーイオン化(ESI)を用いることが好ましい。本発明において、MS/MS手法とはMS1で得られたプレカーサーイオン(ここではインタクトモレキュラーカチオン)を選択し、MS2でプレカーサーイオンをアルゴンガスにより分解させ、生じるプロダクトイオンを検出する方法であり、高選択性によりSN比が向上し高感度になる。【0013】次に、実際の生体試料中のステロイド類化合物の検出法について説明する。なお、各生体試料の性質・採取量、各ステロイド類化合物の理化学的性質により各々調製、抽出、測定の条件を適宜変更しても差し支えない。A.生体試料の採取と保存対象とする生体試料は健常人もしくは患者から組織、血液、尿、胆汁等を採取して用いる。血液は採血後直ちにヘパリン処理を行って高速遠心分離で血球と血漿画分に分離し、血漿を得る。血漿は直ちに-80℃程度で保存する。他の試料は、手術時の生検あるいは直接採取した後サンプル管に入れ、直ちに-80℃程度で保存する。【0014】B.生体組織からのステロイド類化合物の抽出約5〜10mgという極めて少量の生体組織中のステロイド類化合物を効率良く抽出するために、メタノールを含むアルカリ溶液中に1時間70〜80℃で加温溶解させて調製する。溶解液を水で希釈後Bond Elut C18およびアブセルートネクサス(バリアン社製)、オアシス(ウォーターズ社製)、スペルクリン(スペルコ社製)、エムポアディスク(3M社製)、アイソルート(インターナショナルソーベントテクノロジー社)等に負荷し、水で洗浄したのち、酢酸エチルでステロイド類化合物を溶出する。溶媒を留去し、誘導体用試料とする。【0015】C.血漿からのステロイド類化合物の抽出血漿0.05〜0.5mlに10倍量程度の水を加えて希釈し、少量のメタノールとアルカリを加えて混合して調製する。これをBond Elut C18等に負荷し、水で洗浄したのち、ステロイド類化合物を酢酸エチルで溶出する。溶媒を留去し、ヘキサン/酢酸エチル(10:1)程度に溶解し、Bond Elut Silicaに負荷する。ヘキサン/酢酸エチル(10:1)程度で洗浄後、ステロイド類化合物を適宜ヘキサン/酢酸エチル混合液で溶出する。溶媒を留去後、誘導体用試料とする。【0016】D.誘導体生成および精製法組織及び血漿から抽出精製した誘導体用試料は少量のジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフランまたはアセトニトリル等に溶解したのち、アセトニトリルに溶解した誘導体化試薬(2-フロロ-1-メチルピリジニウム試薬(アルドリッチ社製)等)を加え、さらにトリエチルアミンを加えて、室温1時間撹拌する。その後、溶媒を留去したのち、水を加えて反応物を溶解する。Bond Elut C18に負荷した後、水、メタノールで順次洗浄する。N-メチルピリジニウム化ステロイド類化合物は2〜10%の酸たとえばギ酸、酢酸、TFA(トリフルオロ酢酸)を含むメタノール溶液で溶出する。【0017】E.LC/ESI-MS/MS法による分析検出にはN-低級アルキルピリジニウム誘導体を高感度に測定できるエレクトロスプレーイオン化(ESI)又はFAB、APCI、TSPのイオン化による質量分析計を用いるが、ESI法が好ましい。HPLC(高速液体クロマトグラフィー)にはオンライン濃縮セミミクロHPLCシステムを用いる。試料はほぼ全量を注入後、濃縮カラムで試料の濃縮を行い、カラムスイッチングにより分析カラムで夾雑物との分離を行うことでよい。【0018】質量分析計で測定するには、各誘導体のマススペクトルからインタクトモレキュラーカチオンを検出して測定することができる。更には、例えばインタクトモレキュラーカチオンをプレカーサーイオンとしてMS/MS測定を行うと、プロダクトイオンが検出されるので、このイオンを測定すれば一層特異性を増した測定法となり、生体由来の夾雑物による妨害から逃れることが出来る。また、定量に際しては内部標準物質の添加が必要であり、この場合、測定対象のステロイド類化合物と近似する化合物でも差し支えないが、望ましくは測定対象のステロイド類化合物の重水標識体などの安定同位体標識化合物を用いることが好ましい。これら内部標準物質は生体試料を調製する際に添加される。【0019】【実施例】次に、実施例として、本発明の生体組織中のジヒドロテストステロン(androstan-17β-ol-3-one)の検出法について詳細に説明する。なお、本発明においては、これらの実施例に限定されるものではない。▲1▼生体試料の採取と保存前立腺試料は生検後速やかにサンプル管に入れ、測定まで-80℃で保存した。血液は採血後直ちにヘパリン処理を行って高速遠心分離で血球と血漿画分に分離し、血漿を得た。血漿は速やかに-80℃で保存した。【0020】▲2▼生体組織からのジヒドロテストステロンの抽出生体組織約10mgを秤量し、アセトニトリルに溶解した内部標準物質の一定量50μlを添加し、メタノールを含むアルカリ溶液中に1時間70〜80℃で加温溶解させる。溶解液を水で希釈後Bond Elut C18に負荷し、水で洗浄して、ジヒドロテストステロンを酢酸エチルで溶出する。溶媒を留去し、誘導体用試料とする。【0021】▲3▼ 血漿からのジヒドロテストステロンの抽出血漿0.1〜0.25mlに一定量の内部標準物質を加え、10倍量の水を加えて、少量のメタノールとアルカリを加えて混合する。これをBond Elut C18に負荷し、水で洗浄したのち、ジヒドロテストステロンを酢酸エチルで溶出する。溶媒を留去し、ヘキサン/酢酸エチル(10:1)に溶解し、Bond Elut Silicaに負荷する。ヘキサン/酢酸エチル(10:1)で洗浄後、ジヒドロテストステロンをヘキサン/酢酸エチル(6:1)で溶出する。溶媒を留去後、誘導体用試料とする。【0022】▲4▼ 誘導体生成および精製法組織及び血漿から抽出精製した誘導体用試料は少量のジクロロメタンに溶解したのち、アセトニトリルに溶解した2-フロロ-1-メチルピリジニウム試薬(アルドリッチ社製)を加え、さらにトリエチルアミンを加えて、室温1時間撹拌して誘導体生成を行う。その後、溶媒を留去したのち、水を加えて反応物を溶解する。Bond Elut C18に負荷した後、0.3%アンモニア水、水、メタノール、そして0.1%ギ酸を含む50%メタノール溶液で順次洗浄する。N-メチルピリジニウム化ジヒドロテストステロンは10%ギ酸を含むメタノール溶液で溶出する。【0023】▲5▼ LC/ESI-MS/MS法による分析溶媒を留去した試料は濃縮用HPLCの移動相0.1mlに再溶解し、ほぼ全量を注入した。試料は4分間濃縮カラムに流した後、カラムスイッチを行い、分析カラムへ流路を切り替え質量分析計に導入した。イオン化はエレクトロスプレーイオン化(ESI)法を用いた。分析条件は表1に示した。【0024】【表1】【0025】質量分析計で測定したときのN-メチルピリジニウム誘導体のESIマススペクトルは、m/z382がインタクトモレキュラカチオンとして検出された(図1)。またm/z382をプレカーサーイオンとしたときのMS/MS測定を行うと、m/z255にプロダクトイオンが強い強度で検出される。MS/MS手法により測定することで一層特異性を増し、生体由来の夾雑物による妨害から逃れることが出来る。そこでm/z382をプレカーサーイオンとしたときのプロダクトイオンm/z255をモニターするselected reaction monitoring(SRM)法で測定したところ、5pgのジヒドロテストステロンが検出できた(図2)。内部標準物質には安定同位体で標識した17-18O,17-d1,19-d3ジヒドロテストステロンを用いた(N.Watanabeら: J.Mass Spectrom.Soc.Jpn.,45,367(1997))。内部標準物質は5(10)-エストレン-3,17-ジオンを原料とし馬場らの方法に従い(S.Baba,ら:J.Labelled Com. Radiopharmaceuticals,14,783(1978))、6工程でまず19位のメチル基に重水素標識した4-アンドロステン-3,17-ジオンを合成した。さらに17α位に重水素、17位に重酸素を標識したテストステロンに導き、接触還元でテストステロンからジヒドロテストステロンを合成した。このときに還元された5位の水素はαとβの異性体が生成した。生体中のジヒドロテストステロンはα体であるためHPLCで分離し、α体のピーク面積比を求めて、ジヒドロテストステロンの濃度を算出した。【0026】この分析条件下で得られたジヒドロテストステロンの検量線を図3に示した。検量線はジヒドロテストステロン5〜100pgの濃度範囲で相関係数0.9997の良好な直線を得た。試料中のN-メチルピリジニウム誘導体のピーク面積と内部標準物質とのピーク面積比を求めてジヒドロテストステロンの濃度を算出した。患者Aの前立腺9.3mg中のジヒドロテストステロン量は36.4pgであった。患者Bの前立腺10.1mg中には50.8pg存在した。さらに血漿では、患者Cの血漿0.25ml中には80.7pg、患者Dの血漿0.25ml中には68.3pgのジヒドロテストステロンが検出された。健常人男性の0.1mlの血漿E、Fではそれぞれ42.7、41.3pgであった。これらの前立腺と血漿中ジヒドロテストステロンを定量した結果を表2に示した。【0027】表2 前立腺及び血漿中ジヒドロテストステロン【0028】誘導体化の反応は室温で1時間以内と簡便で迅速である。生成した誘導体は極めて安定である。この方法の定量限界は5pgであり、極少量の生体試料中の微量のジヒドロテストステロン量を定量できることから、数mgの生体試料があれば、ジヒドロテストステロン量を高感度に定量することが可能となった。【0029】【発明の効果】極少量の生体試料中ジヒドロテストステロンを高感度に測定するために、N-メチルピリジニウム誘導体化を行い、LC/MS法で測定する方法を発明した。本法を用いてヒト前立腺及び血漿中のジヒドロテストステロンを高感度に測定することができた。また、本発明は、極めて少量の生体試料を用いて、薬物による疾病の治療効果や病態の評価、更にはタンパク質同化ステロイドなどの不正使用の検査を行うために有効な手法である。本発明により、生体試料中の1個の水酸基を有するステロイド類化合物を検出するうえで高感度に測定できる有用な方法を提供できる。【図面の簡単な説明】【図1】ジヒドロテストステロンをN-メチルピリジニウム誘導体としたときのマススペクトルを図1に示す。【図2】ジヒドロテストステロン5pgをN-メチルピリジニウム誘導体にしたときのSRMを図2に示す。【図3】ジヒドロテストステロンの検量線を図3に示す。 生体試料中の1個の水酸基を有するステロイド類化合物を検出するうえにおいて、該ステロイド化合物の水酸基にN-低級アルキルピリジニウム基を導入した誘導体をLC/MSにより測定する検出法。 N-低級アルキルピリジニウム基がN-メチルピリジニウム基である請求項1に記載の検出法。 1個の水酸基を有するステロイド類化合物が、アンドロゲン系化合物、エストロゲン系化合物、プロゲステロン系化合物及びステロール系化合物のいずれから選択される化合物である請求項1又は2に記載の検出法。 1個の水酸基を有するステロイド類化合物がアンドロゲン系化合物である請求項1又は2に記載の検出法。 アンドロゲン系化合物がジヒドロテストステロンである請求項4に記載の検出法。 ステロイド化合物の水酸基に誘導体を生成した後、固相抽出法によるメタノール洗浄により前処理し、次いで酸を含むメタノールで溶出してLC/MS測定用試料とする、請求項1〜5のいずれかに記載の検出法。 LC/MS測定において、マススペクトロメトリーのイオン化がエレクトロスプレーイオン化(ESI)によって行われる請求項1〜6のいずれかに記載の検出法。 LC/MS測定において、イオンをMS/MS手法によりおこなう請求項1〜7のいずれかに記載の検出法。