タイトル: | 特許公報(B2)_ヒドロキシ脂肪酸およびγ−ラクトンの製造方法 |
出願番号: | 2001350686 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12P 7/42,C07D 307/33,C12N 1/20,C12R 1/01 |
田中 久志 市榮 健一 JP 4045403 特許公報(B2) 20071130 2001350686 20011115 ヒドロキシ脂肪酸およびγ−ラクトンの製造方法 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 000175283 三枝 英二 100065215 掛樋 悠路 100076510 小原 健志 100086427 中川 博司 100090066 舘 泰光 100094101 斎藤 健治 100099988 藤井 淳 100105821 関 仁士 100099911 中野 睦子 100108084 田中 久志 市榮 健一 20080213 C12P 7/42 20060101AFI20080124BHJP C07D 307/33 20060101ALI20080124BHJP C12N 1/20 20060101ALI20080124BHJP C12R 1/01 20060101ALN20080124BHJP JPC12P7/42C07D307/32 DC12N1/20 AC12P7/42C12R1:01C12N1/20 AC12R1:01 C12P 7/00-7/66 PubMed JSTPlus(JDream2) JMEDPlus(JDream2) BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) 林国権 他,パーム油の有効利用:オレイン酸から水酸化誘導体へのバイオコンバーション,日本農芸化学会誌,2001年 3月 5日,75巻,臨時増刊号,p.372(講演番号:3Y7a11) Journal of the American Oil Chemists' Society. 1995, Vol.72, No.11, p.1265-1270 Journal of Industrial Microbiology. 1995,9 Vol.14, No.1, p.31-34 INSTITUTE FOR FERMENTATION, OSAKA(IFO) LIST OF CULTURES 2000 MICROORGANISMS, ELEVENTH EDITION,財団法人 発酵研究所,2001年 1月31日,p.198 4 FERM P-18559 2003144186 20030520 15 20041007 清水 晋治 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、微生物を利用して不飽和脂肪酸からヒドロキシ脂肪酸を製造する方法、並びにかかる方法で得られたヒドロキシ脂肪酸を原料としてγ−ラクトンを製造する方法に関する。さらに本発明は、不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する能力を有する新規微生物に関する。【0002】【従来の技術】従来より、微生物を利用して不飽和脂肪酸からヒドロキシ脂肪酸を産生する方法が種々試みられている。例えば、ヨーロッパ特許公開公報(No.0 578388 A2)には、シュードモナス属の亜種(Pseudomonas sp. NRRL B-2994)を利用して、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸などといった不飽和脂肪酸から各々10−ヒドロキシ脂肪酸を産生すること;特開平5-140544号公報には、同じくシュードモナス属の亜種(Pseudomonas sp.)NRRL B-3266, B-2994、並びにノカルディアアウランティア(Nocardia aurantia)NRRL B3287、及びロードコッカス ロードクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC12674を利用して不飽和脂肪酸および/またはそのグリセリドからヒドロキシ脂肪酸および/またはケト脂肪酸を産生すること;Advances in Applied Microbiology,41巻,1〜23頁には、シュードモナス アエルギノサ(Pseudomonas aeruginosa) PR3株を利用してオレイン酸から7,10-ジヒドロキシ-8-オクタデセン酸(7,10-dihydoxy-8-octadecenoic acid)を産生すること、並びにフラボバクテリウム属の亜種(Flavobacterium sp.)DS5を利用して不飽和脂肪酸から10-ヒドロキシ脂肪酸を産生することが、記載されている。【0003】ヒドロキシ脂肪酸は、例えばリシノール酸(12−ヒドロキシ−9−オクタデセン酸)のように各種有機化学合成品の原料や潤滑油、乳化剤または廃油処理剤としてさまざまな分野で広く利用される他、ラクトン等の製造原料として有用である。特にγ-ラクトンは、天然界、特に果物などの植物中に広く存在する芳香性の化合物であり、香料原料として大変重要な物質である。【0004】例えば、上記のヨーロッパ特許公開公報(No.0 578388 A2)には、上記の方法で得られたヒドロキシ脂肪酸を原料として更にキャンディダ(Candida)属やヤロウィア(Yarrowia)属の微生物を利用してγ-ラクトンを産生すること;特開昭59−82090号公報には、ひまし油(カスターオイル)を含む培地でアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus orizae)等の微生物を培養してγ−ヒドロキシデカン酸を産生し、さらにこれを酸性条件下で加熱してγ−デカラクトンを製造すること;特開昭63−56295号公報、特開平2−174685号公報にはスポロボロミセス・オドラス(Sporobolomyces odorus)、ロドトルラ・グルチニス(Rhodotoula glutinis)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等の微生物を用いて、リシノール酸やひまし油等のリシノール酸源からγ−ヒドロキシデカン酸を産生し、さらにこれを酸性条件下で加熱することによりγ−デカラクトンを産生する方法が開示されている。【0005】また、微生物を利用して脂肪酸(飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸)からラクトンを産生する方法として、ひまし油からサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母を利用してγ−デカラクトンを産生する方法(特開昭60−66991号公報、特開昭60-100508号公報、特開昭61-238708号公報)、10−オキシステアリン酸を、β−酸化能を有する微生物で酸化してγ−ドデカラクトンを製造する方法(特開平3−198787号公報)、ヒドロキシ脂肪酸存在下でγ−またはδ−ラクトンを代謝しない微生物を培養することによりγ−またはδ−ラクトンを製造する方法(特開平3−117494号公報、特開平3−219886号公報)、及びリノール酸、リノレン酸、オレイン酸の水酸化物またはヒドロペルオキシドを、β−酸化能を有する微生物で酸化してγ−、δ−ラクトンを製造する方法(特開平3−187387号公報)が知られている。しかし、これらの方法によるヒドロキシ脂肪酸やラクトンの生産性は概して低く、工業的な見地から未だ満足できるものではなかった。【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、かかる従来の問題点を解決することであり、工業的な生産が可能な、微生物を利用したヒドロキシ脂肪酸の製造方法を提供することである。さらに本発明の目的は、かかる方法によって得られたヒドロキシ脂肪酸を原料としてラクトンを製造する方法を提供するものである。【0007】また本発明の目的は、不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に効率よく変換する能力を有する新規な微生物を提供することである。【0008】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題の解決を目指して鋭意努力したところ、エンペドバクター(Empedobacter)に属する微生物に不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する能力があることを見出し、この微生物を用いることによって香料成分として有用なγ−ラクトンの前駆体となるヒドロキシ脂肪酸を効率よく生産することができることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。【0009】すなわち、本発明は下記項1〜4に掲げるヒドロキシ脂肪酸の製造方法である。項1.不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する能力を有するエンペドバクター(Empedobacter)属に属する微生物を用いて不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換することを特徴とする、ヒドロキシ脂肪酸の製造方法。項2.エンペドバクター(Empedobacter)属に属する微生物として、エンペドバクター・ブレビス(Empedobacter brevis)、エンペドバクター(Empedobacter)RD-294菌株およびその変異株よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることを特徴とする項1記載のヒドロキシ脂肪酸の製造方法。項3.不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する能力を有するエンペドバクター(Empedobacter)属に属する微生物を不飽和脂肪酸またはその誘導体を含有する培地中で培養し、培養物中に生成したヒドロキシ脂肪酸を回収することを特徴とする、項1記載のヒドロキシ脂肪酸の製造方法。項4.エンペドバクター(Empedobacter)属に属する微生物として、エンペドバクター・ブレビス(Empedobacter brevis)、エンペドバクター(Empedobacter)RD-294菌株およびその変異株よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることを特徴とする項3記載のヒドロキシ脂肪酸の製造方法。【0010】また、本発明は上記項1〜4のいずれかの製造方法により得られるヒドロキシ脂肪酸をβ酸化して環化する工程を有する、γ-ラクトンの製造方法である。【0011】さらに、本発明は上記ヒドロキシ脂肪酸の製造に有用な新規微生物、すなわち、不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する能力を有するエンペドバクター(Empedobacter)RD-294菌株(受託番号「FERM P−18559」)またはその変異株である。【0012】【発明の実施の形態】(1)ヒドロキシ脂肪酸の製造方法本発明は、不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する能力を有する微生物(ヒドロキシ脂肪酸変換微生物)を利用して、不飽和脂肪酸からヒドロキシ脂肪酸を製造する方法に関する。【0013】本発明で用いられる微生物としては、具体的にはエンペドバクター(Empedobacter)属に属する微生物を挙げることができる。当該微生物は上記能力を有するエンペドバクター(Empedobacter)属に属する菌であれば特に制限されないが、好ましくはエンペドバクター・ブレビス(Empedobacter brevis)、エンペドバクター(Empedobacter)RD-294菌株またはその変異株を例示することができる。【0014】ここで、エンペドバクター・ブレビスは、財団法人発酵研究所にIFO14943として保存されている商業的に入手可能な微生物である。【0015】一方、エンペドバクター(Empedobacter)RD-294菌株は、本発明者らが大阪府豊中市の土壌より新たに分離したエンペドバクター属に属する新規菌株であり、茨城県つくば市東1−1−1中央第6に住所を有する独立行政法人産業技術総合研究所内、特許生物寄託センターに、2001年10月10日付けで微生物の表示、(寄託者が付した識別のための表示)「Empedobacter RD-294」、受託番号「FERM P-18559」として寄託されている。【0016】エンペドバクター RD-294菌株について、バージーズ・マニュアル・オブ・システマチック・バクテリオロジー(Bergey's Manual of Systematic Bacteriology)およびインターナショナル・ジャーナル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(International Journal of Systematic Bacteriology)第44巻827-831頁に記載の方法に準じて検討した菌学的性質は次の通りである。【0017】<エンペドバクター RD-294菌株の菌学的性質>(a)形態学的性質トリプトソイ寒天培地(ペプトン1.5%、大豆ペプトン0.5%、塩化ナトリウム0.5%、寒天1.5%)にて25℃で2日間培養し、観察した結果を以下に示す。【0018】形 状 桿菌大きさ 0.6×2.0-2.5μm、伸長型あり胞子 形成しないグラム染色 陰性運動性 なしコロニー 円形、全縁滑らか、低い凸状、光沢ある黄色。【0019】(b)生理学的性質カタラーゼ +オキシダーゼ +硝酸塩還元 −インドール産生 +アルギニンジヒドロラーゼ −ウレアーゼ −ゼラチン分解 +エスクリン分解 −β-ガラクトシダーゼ −リジンデカルボキシラーゼ −オルニチンデカルボキシダーゼ −硫化水素産生 −。【0020】(c)基質資化能ブドウ糖 +(30℃)ショ糖 −マルトース +(30℃)D−マンニトール −イノシット −D−ソルビトール −L−ラムノース −D−メリビオース −D−アミグダリン −D−アラビノース −N−アセチル−D−グルコサミン −グルコン酸カリウム −n−カプリン酸 −アジピン酸 −dl−リンゴ酸 −酢酸フェニル −本菌株は30℃培養においてブドウ糖とマルトースを分解し、マッコンキー寒天培地ではやや遅い傾向があるが、発育が認められた。【0021】以上の菌学的性質から、Bergey's Manual of Systematic BacteriologyおよびInternational Journal of Systematic Bacteriology第44巻827-831頁を参考にして、本菌株をエンペドバクター(Empedobacter)属に属する菌株、より具体的にはエンペドバクター・ブレビス(Empedobacter brevis)に属する菌株であると同定した。さらに、本菌株について、後述するように、そのヒドロキシ脂肪酸生産能をエンペドバクター ブレビスのタイプカルチャー菌(IFO14943)と比較したところ、本菌株のヒドロキシ脂肪酸生産能はタイプカルチャー菌のそれをはるかに上回っていた。このことから本菌株を新規なものと考え、エンペドバクターRD-294(Empedobacter RD-294)菌株と名付けた。【0022】本発明の製造方法は、上記の微生物(ヒドロキシ脂肪酸変換微生物)を利用して不飽和脂肪酸からヒドロキシ脂肪酸を製造するものである。なお、ここで微生物には、上記のものに加えて、不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する能力を有することを限度として、エンペドバクターRD-294菌株の変異株も含まれる。【0023】ここで微生物の利用とは、不飽和脂肪酸を原料としたヒドロキシ脂肪酸の製造に微生物を直接または間接的に使用することを広く意味するものであり、例えばその具体的態様には、不飽和脂肪酸を含む反応系に、単離された微生物、粗精製の微生物(例えば微生物を培養し増殖させた培養物やその粗精製物)、微生物処理物(微生物の培養物を除菌処理したもの,微生物破砕物,培養物や微生物破砕物から不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する酵素を抽出したもの)などを配合して、該反応系内にヒドロキシ脂肪酸を生成する方法、並びに微生物や微生物処理物をアクリルアミド、グルタルアルデヒド、イオン交換樹脂、光硬化性樹脂、アルギン酸や寒天等のゲル化剤、その他のものを担体として固定化し、固定化微生物や固定化酵素として使用して不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する方法が包含される。【0024】本発明のヒドロキシ脂肪酸の製造方法は、より好ましくは不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する能力を有するエンペドバクター属に属する微生物を不飽和脂肪酸またはその誘導体を含有する培地中で培養し、培養物中に生成したヒドロキシ脂肪酸を回収することによって実施することができる。ここでエンペドバクター属に属する微生物としては、好適にはエンペドバクター・ブレビス、エンペドバクターRD-294菌株若しくはその変異株を例示することができる。なお、この際、不飽和脂肪酸またはその誘導体を添加する時期や方法については特に制限されるものではないが、不飽和脂肪酸またはその誘導体が微生物の増殖を抑制する場合があるので、上記微生物は予め好気的条件下で前培養して増殖させておき、増殖後、不飽和脂肪酸またはその誘導体を添加するほうが、効率的にヒドロキシ脂肪酸を生成する上で望ましい。また不飽和脂肪酸またはその誘導体を添加する方法についても特に制限されず、全量を一気に添加してもよいし、培養中徐々に連続的もしくは間欠的に添加することによって行っても良い。【0025】本発明で用いられる不飽和脂肪酸は、分子中にカルボキシル基を1個、炭素の二重結合を1個以上、具体的には通常1〜6個、好ましくは1〜3個有する、炭素数4〜30までの鎖式化合物である。例えばデセン酸(C10)、ウンデセン酸(C11)、ドデセン酸(C12)、テトラデセン酸(ミリストレイン酸等)(C14)、ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸等)(C16)、オクタデセン酸(オレイン酸、エライジン酸、リシノール酸等)(C18)、エイコセン酸(C20)、ドコセン酸(エルカ酸等)(C22)、テトラコセン酸(C24)、ヘキサコセン酸(C26)、トリアコンテン酸(C30)、及びその他のモノエン不飽和脂肪酸;デカジエン酸(C10)、オクタデカジエン酸(リノール酸、共役リノール酸等)(C18)、エイコサジエン酸(C20)、及びその他のジエン不飽和脂肪酸;ヘキサデカトリエン酸(ヒラゴ酸等)(C16)、オクタデカトリエン酸(エレオステアリン酸、プニカ酸、リノレン酸、γ−リノレン酸等)(C18)、エイコサトリエン酸(C20)、ドコサトリエン酸(C22)、及びその他のトリエン不飽和脂肪酸;ヘキサデカテトラエン酸(C16)、オクタデカテトラエン酸(C18)、エイコサテトラエン酸(アラキドン酸等)(C20)、ドコサテトラエン酸(C22)、及びその他のテトラエン不飽和脂肪酸;エイコサペンタエン酸(EPA)(C20)、ドコサペンタエン酸(イワシ酸等)(C22)、及びその他のペンタエン不飽和脂肪酸;ドコサヘキサエン酸(DHA)(C22)、テトラコヘキサエン酸(ニシン酸等)(C24)、及びその他のヘキサエン不飽和脂肪酸;並びにその他のポリエン不飽和脂肪酸等を挙げることができる。【0026】これらの不飽和脂肪酸は、遊離の形態であってもまたその塩の形態であってもよい。また、本発明の方法は上記不飽和脂肪酸に代えて(若しくは上記不飽和脂肪酸とともに)、その誘導体を用いることもできる。かかる誘導体は、エンペドバクター属に属する微生物、好ましくはエンペドバクターRD-294もしくはその変異株、またはエンペドバクター・ブレビスを介してヒドロキシ脂肪酸を生成するものであれば、その構造には特に制限されないが、例えば脂肪酸アミド等のような含窒素誘導体や、油脂のようにグリセリン等のアルコールと上記脂肪酸とのエステルが包含される。かかる油脂としては、例えば大豆油、菜種油、綿実油、ひまわり油、ごま油、コーン油、米油、落花生油、紅花油、椿油、オリーブ油、亜麻仁油、桐油、ひまし油、パーム油、パーム核油、やし油、シソ油、ブドウ種子油、ホホバ油、及びその他の植物性油脂;及び鯨油、魚油、豚脂、牛脂、チキンオイル、乳脂、及びその他の動物性油脂が含まれるが、さらにこれらの油脂を例えばリパーゼ等の酵素を用いて加水分解し、遊離の脂肪酸給源として用いることもできる。【0027】前述するヒドロキシ脂肪酸変換微生物の培養は、上記不飽和脂肪酸またはその誘導体を含む培地を用いて実施される。培養に使用される培地並びに培養条件は、特に制限されず、使用する微生物の種類やその性質に応じて適宜選択することができる。具体的には、培地は、上記不飽和脂肪酸またはその誘導体以外に、エンペドバクター属に属する微生物、好ましくはエンペドバクターRD-294若しくはその変異株、またはエンペドバクター・ブレビスが利用できる栄養源を含有する培地であればよく、各種の合成培地、天然培地のいずれも用いることができる。通常、一般に使用される炭素源、窒素源又は/及び無機塩類、ビタミン類を適宜に組み合わせたものを用いることができ、例えば炭素源としてはグルコース、シュクロース、フラクトース、マルトース、グリセリン、デキストリン、オリゴ糖、デンプン、糖蜜、コーンスティープリカー、麦芽エキス、有機酸等の単独または二種以上の組合せ;窒素源としてはファーマメディア、ペプトン、大豆粉、酵母エキス、肉エキス、ふすまエキス、コーンスティープリカー、カゼイン、アミノ酸、尿素等の有機窒素源、硝酸塩、アンモニウム塩などの無機窒素源等の単独または二種以上の組合せ;また無機塩類としてはリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、カリウム塩、その他の金属塩類の単独または二種以上の組合せ;またビタミン類としてはリボフラビン、ニコチンアミド、塩酸ピリドキシン、塩酸チアミン,ビオチン等の単独または二種以上の組合せを挙げることができる。【0028】培養は、固体培養または液体培養のいずれでもよく、一般の微生物の培養に準じて行うことができる。通常液体培養を用いることが好ましい。この場合、振盪培養、通気攪拌培養、若しくは好気的表面培養などの好気条件下での培養、または深部静置培養などの嫌気条件下での培養のいずれでもよいが、菌数増殖期には好気的な条件での培養が好ましく、また不飽和脂肪酸からヒドロキシ脂肪酸への変換時には微生物や微生物処理物と不飽和脂肪酸をよく接触させるよう攪拌等を行うことが必要であるが、嫌気的な条件での培養が望ましい。また培養方式としては回分培養、半回分培養(流加培養)、連続培養のいずれの方式でも行うことができる。培養温度は、エンペドバクター属に属する微生物、好ましくはエンペドバクターRD-294若しくはその変異株、またはエンペドバクター・ブレビスが良好に生育または増殖する温度であれば特に制限されないが、通常20〜45℃、好ましくは25〜35℃付近の温度で培養するのが望ましい。培地の液性も上記限度において特に制限されないが、通常中性から弱アルカリ性、具体的にはpH5〜10、好ましくはpH6〜9の範囲を例示することができる。また、培養時間も制限されないが、通常2日〜15日の範囲を挙げることができる。なお、これらの培養条件は、使用する微生物の種類や特性及び外部条件などに応じて適宜変更することができ、これにより最適条件を選択調節して採用することができる。【0029】培養後、生成したヒドロキシ脂肪酸を培養物から抽出、分離、精製する方法としても特別な方法に限定されるものではなく、発酵生産物を採取回収する一般的な方法に準じて行うことができる。具体的には、例えば、得られた培養物をデカンテーション、遠心分離またはろ過することによってヒドロキシ脂肪酸含有培養液を回収し、該培養液を溶媒抽出、各種の樹脂(例えば、イオン交換、吸着、分子篩等)処理や、膜(例えばメンブレンフィルター、限外ろ過、精密ろ過、逆浸透等)処理、活性炭処理、超臨界流体抽出処理、蒸留処理、晶析、またはその他の処理を単独または二種以上任意の順序で適宜組み合わせて行う方法を例示することができる。より具体的には、得られた培養液は一旦pHを2前後まで下げ、静置後浮遊してくる油層部を分液ロートや遠心分離等を用いて回収することによって、ヒドロキシ脂肪酸を含む粗精製物を得ることができる。【0030】さらにこの粗精製物は必要に応じて精製されてもよい。具体的には該粗精製物をアセトニトリル、アセトン、エタノール、メタノール、酢酸エチル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ヘキサン等の有機溶媒を単独または二種以上組合せて使用して抽出、精製、分画を行なったり、合成吸着剤(三菱化学株式会社製商品名ダイアイオンHP20等)に吸着させ、アルコール等によりヒドロキシ脂肪酸含有画分を溶離させて精製することもでき、さらにシリカゲルクロマトグラフィーを利用することによりヒドロキシ脂肪酸をより高純度まで精製することもできる。【0031】なお、精製工程中並びに最終的に得られたヒドロキシ脂肪酸の確認(定性、定量)は、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析計(MS)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)等を用いて、例えば既知のヒドロキシ脂肪酸(標準品)と対比することによって行うことができる。【0032】斯くして得られるヒドロキシ脂肪酸は、それ自体界面活性剤や油脂固化剤等として有用であるだけでなく、ヒドロキシ脂肪酸が保有するヒドロキシル基、カルボキシル基、二重結合を利用して多くの化学反応を行わせることができるため、各種化成品原料としても有用である。またラクトンの製造原料として有効に用いることができる。特に10位にヒドロキシル基をもち、不飽和結合を10位よりω側(例えば12位や15位等)にもつヒドロキシ脂肪酸は、不飽和のラクトン製造の良い前駆体となり工業的に大変有用である。【0033】(2)γ−ラクトンの製造方法本発明はまた、上記方法で得られたヒドロキシ脂肪酸を用いてγ−ラクトンを製造する方法を提供する。【0034】本発明のγ−ラクトンの製造方法は、上記方法で得られたヒドロキシ脂肪酸を原料として用いることを特徴とするものであり、その限りにおいて、ヒドロキシ脂肪酸からγ−ラクトンを生成する従来公知または将来開発される化学合成法や生物学的合成法のいずれをも採用することができる。好ましくは生物学的合成法である。【0035】ヒドロキシ脂肪酸からγ−ラクトンを合成する従来公知の生物学的合成法としては、ヒドロキシ脂肪酸をγ−ラクトンに変換する能力を有する微生物(ラクトン変換微生物)を用いた発酵法または微生物変換法を例示することができる。【0036】ここで用いられるラクトン変換微生物は、1種単独でヒドロキシ脂肪酸をβ酸化、環化してγ−ラクトンに変換する能力を有するものであっても、また2種以上を組み合わせることによってヒドロキシ脂肪酸をβ酸化、環化してγ−ラクトンに変換することのできる微生物群であってもよい。【0037】具体的には、キャンディダ(Candida)属やヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)等の微生物を用いる方法(ヨーロッパ特許公開公報No.0 578388 A2)、スポロボロミセス・オドラス(Sporobolomyces odorus)やロドトルラ・グルチニス(Rhodotoula glutinis)等の微生物を用いる方法(特開昭63−56295号公報)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等の微生物を用いる方法(特開平2−174685号公報)、10−オキシステアリン酸をサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等のβ−酸化能を有する微生物で酸化してγ−ドデカラクトンを製造する方法(特開平3−198787号公報)、ひまし油(カスターオイル)を含む培地でアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus orizae)等の微生物を培養してγ−ヒドロキシデカン酸を産生し、さらにこれを酸性条件下で加熱してγ−デカラクトンを製造する方法(特開昭59−82090号公報)、ヒドロキシ脂肪酸存在下でγ−またはδ−ラクトンを代謝しない微生物を培養することによりγ−またはδ−ラクトンを製造する方法(特開平3−117494号公報、特開平3−219886号公報)、及びリノール酸、リノレン酸、オレイン酸の水酸化物またはヒドロペルオキシドを、β−酸化能を有する微生物で酸化してγ−、δ−ラクトンを製造する方法(特開平3−187387号公報)等を例示することができる。【0038】これらの方法によれば、ヒドロキシ脂肪酸をβ酸化し環化することによってγ−ラクトンを生成することができる。この場合、原料として用いるヒドロキシ脂肪酸は、精製・粗精製の別を問わず、前述する方法で得られたヒドロキシ脂肪酸を含む培養液またはその抽出物をそのまま使用することもできる。【0039】また、γ−ラクトン変換能を有する微生物の生育、増殖またはそのγ−ラクトン変換能が妨げられないことを限度として、前述のヒドロキシ脂肪酸の製造に用いられる微生物の培養系(培地や培養条件など)がそのまま使用できる。この場合、ヒドロキシ脂肪酸を生成した培養物に上記γ−ラクトン変換能を有する微生物(ラクトン変換微生物)を添加し、必要に応じて培地に栄養源を補充して、培養を継続してもよいし、また前記ヒドロキシ脂肪酸の製造に際して、培地にヒドロキシ脂肪酸変換微生物であるエンペドバクター属に属する微生物(例えば、エンペドバクターRD-294若しくはその変異株、エンペドバクター・ブレビス)に加えて、予め上記ラクトン変換微生物を配合しておいてもよい。【0040】ラクトン変換能を有する微生物を用いたγ−ラクトンの製造は、前述するヒドロキシ脂肪酸の製造と同様に、基本的には一般の微生物の培養方法に準じて行うことができるが、使用する微生物の種類やその特性に応じて、当業者の日常的な設計変更の下で調節設定されるγ−ラクトン生成の最適条件を用いることができる。また、培養後、生成したγ−ラクトンを培養物から抽出、分離、精製する方法としても特別な方法に限定されるものではなく、発酵生産物を採取回収する一般的な方法に準じて行うことができる。なお、精製工程中並びに最終的に得られたγ−ラクトンの確認(定性、定量)は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC−MS)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)等を用いて、例えば既知のγ−ラクトンと対比することによって、好適に行うことができる。【0041】斯くして得られるγ−ラクトンは、例えば香料原料として有用である。【0042】(3)新規微生物本発明はまた、新規微生物、エンペドバクター RD-294菌株を提供する。かかる微生物はエンペドバクター属に属する新規菌株であり、不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する能力を有することを特徴とするものである。より詳細には、当該微生物は、分子中にカルボキシル基を1個、炭素の二重結合を1個以上、具体的には通常1〜6個、好ましくは1〜3個有する、炭素数4〜30の不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する能力を有するものである。また、本発明の微生物は、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の、炭素数10〜30の不飽和脂肪酸の10位に選択的にヒドロキシル基を導入する特性を備えており、かかる特性は、工業的に、10位以外に不飽和結合を有する不飽和脂肪酸から該不飽和結合をそのまま温存した状態でヒドロキシ脂肪酸を製造するのに有利に用いることができ、またこのヒドロキシ脂肪酸を原料とすることによってγ-ラクトンの製造を工業的に実施することが可能である。【0043】なお、当該微生物の取得方法、その菌学的性質、並びに入手方法については前述の通りである。【0044】【実施例】以下に、実施例を挙げて本発明及びその効果を説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等制限されるものではない。なお、下記の実施例において、特に言及しないかぎり、%は重量%を意味するものとする。【0045】実施例1 微生物を用いたヒドロキシ脂肪酸の製造(1)微生物の前培養1000ml容坂口フラスコに下記処方からなる液体培地を400ml入れ、121℃で15分間殺菌し、冷却後、エンペドバクター RD-294(受託番号:FERM P-18559)を植菌し、25℃にて120rpmで往復振盪培養を48時間行った。【0046】【0047】(2)ヒドロキシ脂肪酸の製造培養48時間後、微生物がよく増殖した培養物中(菌数4×106/ml)に、無菌的に混合不飽和脂肪酸(オレイン酸とリノール酸の等量混合物:いずれも和光純薬工業製)4gを添加して、さらに往復振盪培養を7日間つづけた。培養終了後、培養物を遠心分離して菌体を除去し、得られた培養液を等量のエチルエーテルにて抽出処理し、エーテル層を無水硫酸ナトリウムにて脱水した後、減圧下エバポレーターにてエーテルを除去し、ヒドロキシ脂肪酸含有画分3.5gを得た。【0048】(3)ヒドロキシ脂肪酸含有画分の分析上記で得られたヒドロキシ脂肪酸含有画分をジアゾメタンにて定法に従ってメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィー・質量分析計(GC/MS)を用いて、下記の条件で定性・定量分析を行った。<GC/MS分析条件>装置GC :HP 5890 MSD: HP5973カラム :J&W DB-WAX(60m×0.25mm)温度条件 :50(2分)-220℃(3℃/分)。【0049】(4)結果ガスクロマトグラフィー・質量(GC/MS)分析の結果、培養物に添加した不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸)のメチルエステル化物(オレイン酸メチル、リノール酸メチル)のピークより、保持時間の長いピークが2つ検出され、その他の夾雑物の混在はほとんどなかった。この保持時間の長い成分はそのマススペクトルにおいて169と201に大きなピークを持つことから、それぞれの不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸)の10位がヒドロキシル化された10-ヒドロキシ脂肪酸と同定された。すなわち、オレイン酸を基質とした場合の主要変換物は10−ヒドロキシステアリン酸(10-hydroxy stearic acid)〔10-ヒドロキシオクタデカン酸(10-hydoroxy octadecanoic acid)〕であり、リノール酸を基質とした主要変換物は、10−ヒドロキシ−12−オクタデセン酸 (10-hydroxy-12-octadecenoic acid)であった。【0050】このときの各不飽和脂肪酸からヒドロキシ脂肪酸への変換率を、ガスクロマトグラフィー(GC)のピーク面積より下式(1)及び(2)に従って求めた。【0051】【数1】【0052】【数2】【0053】その結果、オレイン酸からヒドロキシ脂肪酸(10−ヒドロキシステアリン酸)への変換率は43.5%、リノール酸からヒドロキシ脂肪酸(10−ヒドロキシ−12−オクタデセン酸)への変換率は39.0%であった。【0054】実施例2 ヒドロキシ脂肪酸からのγ−ラクトンの製造実施例1で調製されたヒドロキシ脂肪酸を利用して、生物学的合成法によりγ−ラクトンを製造した。【0055】具体的には、下記の処方からなる液体培地150mlを500ml容の坂口フラスコに入れ、121℃で15分間殺菌し冷却した後、実施例1で得られたヒドロキシ脂肪酸含有画分1.5gを無菌的に添加し、次いでこれに予め前培養して調製しておいたスポリディオボラス・サーモニカラー(Sporidiobolus salmonicolor)(IFO 1035)菌株の培養液(菌数5.2×108/ml)を接種した。なお、スポリディオボラス・サーモニカラー(旧名スポロボロミセス・オドラス:Sporobolomyces odorus)は、ヒドロキシ脂肪酸からγ−ラクトンに変換する能力を有する公知の菌である。当該菌は、特に本発明の製造系において、γ−ラクトン変換能力が高く、不要な副生成物をほとんど生産しないため、ラクトン変換微生物として好適に使用することができる。【0056】【0057】これを25℃で往復振盪にて7日間培養し、培養終了後、希硫酸にてpHを2にした後、菌体を遠心分離にて除去して培養液を回収した。これを等量のエチルエーテルにて抽出処理して、得られたエーテル層を無水硫酸ナトリウムにて脱水後、減圧下エバポレーターにてエーテルを除去して、γ−ラクトン含有画分を1.2g得た。【0058】このγ−ラクトン含有画分についてガスクロマトグラフィー・質量分析計(GC-MS)にて定性・定量分析を行ったところ、10−ヒドロキシステアリン酸のγ-ラクトン変換物であるγ-Dodecalactoneが6.3%、10−ヒドロキシ−12−オクタデセン酸のγ-ラクトン変換物である6-Dodecen-4-olide(4-Hydroxy-6-dodecenoic acid lactone)が4.9%の割合で生成されていることが確認された。【0059】実施例3 微生物を用いたヒドロキシ脂肪酸の製造実施例1と同じ組成からなる培地を100ml入れた500ml容の三角フラスコを20本用意し、これを121℃で15分間殺菌し、冷却した後、エンペドバクターRD-294(受託番号:FERM P-18559)またはエンペドバクター・ブレビス(IFO 14943)の前培養冷凍保存種菌液の解凍物を10本ずつ植菌し、往復振盪培養(180rpm、25℃)を行った。24時間後、予め滅菌済みの1000ml容の三角フラスコ2本にそれぞれの微生物の培養液を無菌的に集め、さらに各フラスコに不飽和脂肪酸(商品名:エクストラ リノレイック 90(日本油脂株式会社製)、成分:リノール酸92.2%、オレイン酸7.7%)を無菌的に30mlずつ添加し、密栓し、マグネティックスターラにて7日間攪拌した。7日後、得られた培養液を実施例1と同様にしてエチルエーテルで抽出処理を行って、ヒドロキシ脂肪酸含有画分を取得した。【0060】このヒドロキシ脂肪酸含有画分を、実施例1と同様にメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィー・質量分析計(GC/MS)にかけ、その結果に基づいて上記式(1)及び(2)からそれぞれオレイン酸から10−ヒドロキシステアリン酸への変換率(%)およびリノール酸からの10−ヒドロキシ−12−オクタデセン酸への変換率(%)を求めると、表1に示す結果が得られた。【0061】【表1】【0062】また、エンペドバクターRD-294菌株の培養で得られたヒドロキシ脂肪酸含有画分を3gとり、シリカゲルクロマトグラフィーに供し、ジクロロメタン:メタノールの97:3の溶媒により展開し分画した。得られた各分画液について10−ヒドロキシ−12−オクタデセン酸の含有量を調べるために、該分画液を示差屈折率検出器を装着した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にかけた。HPLCの結果から10−ヒドロキシ−12−オクタデセン酸を高い割合で含む画分を混合して、再度シリカゲルクロマトグラフィーを行って、純度95%以上の10−ヒドロキシ−12−オクタデセン酸を1.5g得た。【0063】実施例4 ファーメンターを用いたヒドロキシ脂肪酸の製造10L容ジャーファーメンターに、実施例1と同じ組成からなる培地を7L用意し、これを121℃で15分間殺菌し、冷却した後、これにエンペドバクター RD-294(受託番号:FERM P-18559)の前培養菌液を2%量の割合となるように植菌し、350rpm、3L/分の通気条件下、27℃にて培養を行った。24時間後、予め滅菌した不飽和脂肪酸(商品名:エクストラ リノレイック 90(日本油脂株式会社製)、成分:リノール酸92.2%、オレイン酸7.7%)を無菌的に210ml添加し、通気をストップして4日間攪拌した。4日後、得られた培養液を実施例1と同様にしてエチルエーテル抽出処理して、ヒドロキシ脂肪酸含有画分を172g得た。このヒドロキシ脂肪酸含有画分を、実施例1と同様にメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィー・質量分析計(GC/MS)にかけ、その結果に基づいて上記式(1)及び(2)からそれぞれオレイン酸から10−ヒドロキシステアリン酸への変換率(%)およびリノール酸からの10−ヒドロキシ−12−オクタデセン酸への変換率(%)を求めると、オレイン酸からの変換率は67.5%、リノール酸からの変換率は82.7%であった。【0064】実施例5 ファーメンターを用いたヒドロキシ脂肪酸の製造実施例4と同様にしてエンペドバクターRD-294(受託番号:FERM P-18559)を10L容ジャーファーメンターにて培養した後、該培養物に不飽和脂肪酸含有物(商品名:エクストラ・リノレニック・70(日本油脂株式会社製)、成分:α-リノレン酸73.9%、リノール酸20.3%、オレイン酸5.7%)を無菌的に210ml添加し、通気をストップして4日間攪拌した。次いで培地のpHを2に下げて静置し、浮遊してきた油層画分300mlを集めた。この油層画分のうち30mlを実施例1と同様にエチルエーテルで抽出処理しヒドロキシ脂肪酸含有画分16.3gを得た。【0065】このヒドロキシ脂肪酸含有画分を、実施例1と同様にメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィー・質量分析計(GC/MS)にかけ、その結果に基づいて上記式(1)及び(2)からそれぞれオレイン酸から10−ヒドロキシステアリン酸への変換率(%)およびリノール酸からの10−ヒドロキシ−12−オクタデセン酸への変換率(%)を求めると、オレイン酸からの変換率は55.2%、リノール酸からの変換率は81.1%であった。また、α-リノレン酸から変換される10−ヒドロキシ−12,15−オクタデカジエン酸についても同様にして変換率を求めたところ、48.4%であった。【0066】実施例6 ファーメンターを用いたラクトンの製造10L容ジャーファーメンター中で、ポテトデキストロ−スブロス(Difco)培地168gを7Lの水に溶解し、121℃で15分間殺菌し冷却した後、実施例4で得られたヒドロキシ脂肪酸含有画分70gを無菌的に添加し、これに予め前培養して調製しておいたラクトン変換微生物であるスポリディオボラス・サーモニカラー(Sporidiobolus salmonicolor)(IFO 1035)菌株の前培養菌液を2%量の割合で植菌し、250rpm、1.5L/分の通気条件下、27℃にて7日間培養を行った。この培養液50mlをサンプリングし、エーテル抽出し、γ−ドデカラクトン(東京化成製)を標準品として、培養液中に生成したラクトンを定量したところ、培養液1Lあたり、γ-Dodecalactoneを0.15g、6-Dodecen-4-olideを1.79gの割合で含んでいることがわかった。【0067】該培養液を実施例2と同様の操作でエチルエーテル抽出処理して、ラクトン含有画分51gを得た。このラクトン含有画分を減圧蒸留し、真空度67Paで沸点120〜130℃の留分を集め純度97.0%(GCによる)のラクトン精製物10.1gを得た。当該ラクトン精製物のラクトン組成及びその割合は以下の通りであった:γ-Dodecalactone : 7.6%6-Dodecen-4-olide: 89.4%。【0068】実施例7 ファーメンターを用いたラクトンの製造10L容ジャーファーメンターに実施例2と同じ組成からなる培地6Lと実施例5で得られた油層画分160ml(ヒドロキシ脂肪酸含有画分87g相当)を入れ、121℃で15分間殺菌し、冷却した後、予め前培養して調製しておいたラクトン変換微生物:スポリディオボラス・サーモニカラー(Sporidiobolus salmonicolor)(IFO 1035)菌株の前培養菌液を2%量の割合で植菌し、350rpm、2L/分の通気条件下、27℃にて7日間培養を行った。この培養液50mlを用い、ラクトン含量を実施例6と同様にして測定したところ、培養液1Lあたり、γ-Dodecalactone 0.02g、6-Dodecen-4-olide 0.22g、及び6,9-Dodecadien-4-olide 0.67gの割合で含んでいることがわかった。【0069】次いで、該培養液を実施例2と同様の操作でエチルエーテル抽出処理してラクトン含有画分65gを得た。このラクトン含有画分を減圧蒸留し、真空度67Paで沸点120〜130℃の留分を集め、純度81.8 %(GCによる)のラクトン精製物4.2gを得た。当該ラクトン精製物のラクトン組成及びその割合は以下の通りであった:γ-Dodecalactone : 1.7%6-Dodecen-4-olide :19.7%6,9-Dodecadien-4-olide :60.4%。【0070】【発明の効果】本発明によれば、ヒドロキシ脂肪酸及びγ-ラクトンの工業的生産に有用な、微生物、特にエンペドバクター(Empedobacter)属に属する微生物を用いることによるヒドロキシ脂肪酸の製造方法を提供することができる。さらに本発明によれば不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する能力を持つ新規微生物、具体的にはエンペドバクター(Empedobacter)属に属する新規微生物を提供することができる。 不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する能力を有するエンペドバクター(Empedobacter)RD-294菌株(受託番号「FERM P−18559」)またはその変異株を用いて不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換することを特徴とする、ヒドロキシ脂肪酸の製造方法。 不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する能力を有するエンペドバクター(Empedobacter)RD-294菌株(受託番号「FERM P−18559」)またはその変異株を不飽和脂肪酸を含有する培地中で培養し、培養物中に生成したヒドロキシ脂肪酸を回収することを特徴とする、請求項1記載のヒドロキシ脂肪酸の製造方法。 不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する能力を有するエンペドバクター(Empedobacter)RD-294菌株(受託番号「FERM P−18559」)またはその変異株を用いて不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換し、次いで当該ヒドロキシ脂肪酸をβ酸化し環化することを特徴とする、γ-ラクトンの製造方法。 不飽和脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸に変換する能力を有するエンペドバクター(Empedobacter)RD-294菌株(受託番号「FERM P−18559」)またはその変異株。