タイトル: | 特許公報(B2)_消化管機能異常マウスおよびその利用 |
出願番号: | 2001341072 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | A01K 67/027,G01N 33/15,G01N 33/50 |
船橋 英行 岡部 好男 新保 明 JP 3957489 特許公報(B2) 20070518 2001341072 20011106 消化管機能異常マウスおよびその利用 株式会社ヤクルト本社 000006884 小野 信夫 100086324 船橋 英行 岡部 好男 新保 明 20070815 A01K 67/027 20060101AFI20070726BHJP G01N 33/15 20060101ALI20070726BHJP G01N 33/50 20060101ALI20070726BHJP JPA01K67/027G01N33/15 ZG01N33/50 Z A01K 67/027 JSTPlus(JDream2) Gen.Pharmac., Vol.23,No.4,pp.753-756 (1992) Biochem.Biophys.Res.Commun., Vol.181,No.2,pp.889-893 (1991) 8 2003144006 20030520 15 20040709 田村 明照 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、消化管機能異常マウスに関し、更に詳細には便秘モデル、感染モデル、食物アレルギーモデル等に利用可能な、消化管機能異常マウスおよびこれを利用するスクリーニング方法に関する。【0002】【従来の技術】これまで、病態モデル動物を用いて病気の発生機構や、その病気に対する治療薬の開発等が行われている。病態モデルに用いられる動物としては、マウス、ラット、モルモット、犬、猿等が挙げられるが、取り扱いが容易なためマウスが用いられることが多い。【0003】病態モデルマウスの作出方法としては、病気を自然発症する動物を育種繁殖する方法、外科的処置や薬物投与によって病気を誘発させる方法、何らかの作用を有する遺伝子を導入する方法、特定の遺伝子を破壊する方法などが挙げられ、実際に糖尿病、腸炎、高脂血症等の病態モデルマウスが作出されている。【0004】一方、消化管機能異常という病態を有するモデル動物として、例えば塩酸モルヒネの投与による薬物便秘モデルや植物繊維欠乏食による飼料便秘モデルが知られている。しかしながら、これらのモデル動物は、その作出に手間がかかると共に、消化管機能異常による便秘状態になるまでに長い時間を必要とするものであった。【0005】従って、最初から消化管機能異常を自然発生するモデル動物が見出されれば、モデル動物作出の手間が省略でき、かつ消化管機能異常が関与する病気の発生機構の研究やその病気に対する治療薬の開発等の効率を高めることができると期待されていた。【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記実状に鑑みなされたものであり、薬品等や特殊な飼料を利用することなく、最初から消化管機能異常を自然発生するモデルマウスの提供をその課題とするものである。【0007】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、消化管機能異常を自然発生するマウスの作出に成功した。【0008】すなわち本発明は、以下の特性を有する消化管機能異常マウスを提供するものである。(a)0.3%のピペラジン水溶液の間欠投与によっては盲腸内の蟯虫を駆除できない。(b)摂取した食物が体外へ排出されるまでの時間が、正常マウスと比較して126%以上長い。【0009】また本発明は、更に、下記の特性を有する上記の消化管機能異常自然発生マウスを提供するものである。(c)食物の摂取30分後の、胃幽門部から回盲部における食物の移動率が、正常マウスと比較して35%以上低い。【0010】更に本発明は、上記消化管機能異常マウスを用い、このマウスの消化管内容物の排出状態、腸管内部粘膜の状態またはアレルギー状態を評価する抗便秘作用物質、毒素原性物質または食物アレルギー性物質のスクリーニング方法を提供するものである。【0011】【発明の実施の形態】本発明の消化管機能異常マウスの一例としては、本発明者らがCFP/Yitと命名したマウスが挙げられる。このマウスの由来は、本発明者らが1972年に入手した兄妹交配されていないCF#1系マウスである。なお、CF#1系マウスと同系統のマウスであるCF1およびCrl:CF−1RBRについては生化学的データ(Charles River Laboratories, CHARLES RIVER LABORATORIES TECHNICAL BULLETIN, (1986))および一般特性(The Charles River Breeding Laboratories, Inc., CHARLES RIVER DIGEST, vol.XX, No.2, (1981))が知られている。【0012】このCF#1系マウスは、マウス腸粘膜肥厚症(megaenteron of mouse)の起因菌である病原大腸菌(Escherichia coli O115a,c:K(B))に対する感受性の高い系統である。大腸菌がマウスの腸管内に進入し、腸管粘膜上皮に付着して病原大腸菌となった場合、通常のマウスでは、粘膜上皮細胞の過形成(新しい細胞の過度な増生)あるいは菌の付着に関連するレセプターがないために粘膜上皮から排除される。しかし腸粘膜肥厚症のCF#1系マウスは粘膜上皮細胞の増生が遅く、病原大腸菌に対するレセプターが存在しているため菌が粘膜上皮に付着し、強く傷害を受けることになることが知られている。【0013】上記CFP/Yitを得た経緯は、1974年に上記CF#1系マウスを兄妹交配させて系統維持を開始したことに始まる。この近交系作出されたマウスは、遺伝的モニタリングの成績からすでに近交系として育成・維持されているCF#1/Jmsと、表1に示すように毛色遺伝子および生化学的標識遺伝子の一部が異なることが判明した。そこでF16世代(1980年4月)から系統名をCF#1からCFP/Yitに改称したのである。なお、F65世代において子宮切断法と里親哺育によってマウスのクリーニングを実施した。現在では近交系F65+15世代に達している。ただし、上記遺伝子が異なることと、消化管機能異常が自然発生することとの間には直接の関連性はない。【0014】【表1】【0015】本発明の消化管機能異常マウス(CFP/Yitマウス:以下、「CFPマウス」ということもある)は、特殊な飼料や薬剤を用いることなく、消化管運動異常を自然に発生するものである。このマウスは、まず、0.3%ピペラジン水溶液を間欠投与しても内部寄生虫(Syphacia obvelata;ネズミ盲腸蟯虫)を駆除できないという特性を有する。一般にピペラジンによるネズミ盲腸蟯虫(以下、単に「蟯虫」という)駆除の機序は、経口投与されたピペラジンが腸管を経て蟯虫(成虫)の寄生する盲腸に到達し、直接蟯虫に作用して運動機能が麻痺させ、その状態の虫体を消化管運動(蠕動運動)によって体外に排出するというものである。具体的な駆除方法としては、0.3%ピペラジン水溶液の間欠投与(ピペラジンを1週間投与→水道水を1週間投与→ピペラジンを1週間投与)を幾度か繰り返すことにより蟯虫の駆除が可能である。しかしながら、このCFPマウスにおいては投与量を変更してもその駆除が不可能であった。また、この現象は特に雄のマウスで顕著に認められた。【0016】また本発明のCFPマウスは、摂取した食物が体外へ排出されるまでの時間が、正常マウスと比較して126%以上長いという特性を有する。ここで本発明のCFPマウスの対照として用いられる正常マウスとしては、近交系マウスであるC57BL/6系マウス、例えばC57BL/6JJcl(日本クレア株式会社製)あるいはBALB/c系マウス、例えばBALB/cAnCrj(日本チャールスリバー株式会社製)が挙げられる。より具体的には、C57BL/6系マウスに比較して排出所要時間が126%以上長く、BALB/c系マウスと比較した場合は246%以上長い。なお、対象(正常)マウスの排出所要時間に対する本マウスの排出所要時間の割合(排出率)は下記の式1により算出した。【0017】【式1】【0018】更に本発明のCFPマウスは、食物の摂取30分後の、胃幽門部から回盲部における食物の移動率が、正常マウスと比較して35%以上低いという特性を有する。より具体的には、C57BL/6系マウスと比較した場合の移動率は、35%以上低く、BALB/c系マウスと比較した場合は41%以上低い。なお、食物摂取30分後における対象(正常)マウスの移動率に対する本マウスの移動率の割合(移動度)は、下記の式2により算出した。【0019】【式2】【0020】また更に本発明のCFPマウスは、C57BL/6系マウス(例えばC57BL/6Yit)と比べ、相対小腸筋層重量および小腸1gあたりの筋層重量の割合が軽く、しかも相対小腸重量に差がないという特性を有する。従って本発明のCFPマウスは小腸の筋層以外の成分が10%程度重いことになる。【0021】更にまた、本発明のCFPマウスは、C57BL/6系マウスと比べて腸管粘膜固有層の厚さが薄い傾向を有する。【0022】上記特性を有する本発明のCFPマウスは寄託機関への寄託を行っていないが、特許法施行規則第27条の3の条件を満足する分譲の請求があった場合は、出願人株式会社ヤクルト本社において、同条の条件に従って分譲することを保証する。【0023】以上説明した本発明のCFPマウスは、一般の実験用マウスと同様の方法により飼育、繁殖を行うことができ、また、継代維持を行うことができる。【0024】具体的に本発明のCFPマウスは、消化管内容物の通過・滞留時間が長く、摘出腸管の弛緩も早いことが認められていることから、弛緩性便秘モデルとしての利用が可能である。【0025】すなわち、抗便秘作用を有することが期待される被検物質を本発明のCFPマウスに投与し、このマウスの消化管内容物の排出状態を評価することにより、当該被検物質が抗便秘作用を有するかどうかや、その強度をスクリーニングすることができる。【0026】評価方法の具体例としては、マウスに被験物質(0.3%のカルミンレッド水溶液に懸濁)を投与し、被験物質投与からカルミンレッドが糞中に排泄されるまでの時間を測定する方法が挙げられる。また、通常の薬物モデル、例えば塩酸モルヒネによる便秘モデル、食物繊維欠乏食による便秘モデルに、本発明のマウスを用いれば、被験物質や薬剤の投与量等をより少なくすることができ、コストや動物への負荷等を軽減することができる。【0027】また、本発明のCFPマウスは、毒素原性大腸菌(ETEC)に感染しやすいというCF#1系と同様の性質を保持し、消化管内容物の通過時間が遅いため腸管粘膜上皮と菌の接触時間が長く、より定着しやすい条件を備えていること等を考慮すると、毒素原性大腸菌などの感染モデルとしての利用が可能である。【0028】すなわち、毒素を発生していると疑われる微生物あるいは、毒素として作用していると疑われる物質を被検物質として本発明のCFPマウスに投与し、このマウスの腸管内部粘膜の状態を評価することにより毒素原性物質のスクリーニングが可能となる。【0029】更に、現在食物アレルギーを自然発生させるような実験動物はなく、抗原物質を経口投与して免疫応答を惹起させた動物を実験モデル動物として利用している。しかしながら、本発明のCFPマウスは、他の系統のマウスと比較して食物が腸管と接触する時間が長く、食物中の抗原吸収量が多い。従って、食物アレルゲンと考えられる被検物質を本発明のCFPマウスに投与し、これによるアレルギー状態、例えば抗体応答の上昇を検出することにより食物アレルゲンをスクリーニングすることができる。【0030】また、公知のモデル、例えばアレルギー性下痢の誘導モデルなどに本発明のマウスを適用してもよい。同モデルにおいては、マウスに卵白タンパク質の主要アレルゲンであるオボアルブミン(以下、「OVA」という)とシュプレーンアジュバンドを7日間連続して皮下投与して感作し、感作1週間後からOVAを3回/週で経口投与し、それを3週間連続して行う。そして、これにより誘導された下痢の有無を判定する。正常なBALB/c系マウスでは誘発8回目で50%のマウスに、9回目で100%のマウスにアレルゲン特異的な下痢が出現するが、本発明のマウスを用いた場合であれば、感作を少ない量、少ない回数で行うことが可能であり、作業性を向上させ、動物の負担を軽減することができる。【0031】また更に、食物アレルギー誘導モデルとして、以下の方法に本発明のマウスを用いれば、感作(抗体上昇に要する)期間や実験期間の短縮が可能となる。すなわちまず、マウスにOVA(乾燥卵白20%)含有飼料を4〜6週間自由摂取させ、その間に被験物質を2ないし3回経口投与して感作する。この間、2週間間隔で採血し血清中の抗体上昇の程度を確認する。そして感作後、1mg/0.2mLのOVAを尾静脈投与して全身性アナフラキシーを誘導する。アナフラキシーはOVA静脈投与後15分および30分にマウスの直腸温を測定するとともに、15分後のアナフラキシー反応の程度をマウスの動きを元に下記の基準でスコア化して評価する。アナフラキシーが惹起されている場合は体温低下や行動量の低下が観察される。【0032】【0033】更にまた、消化管運動は種々免疫システムとも関連性があることから、腸管運動機能と腸管免疫との関係を解析するためのモデルとしても利用も可能である。【0034】【作用】本発明のCFPマウスを便秘モデルとして利用する場合、消化管内容物の通過・滞留時間が長いことから、通常のマウスを便秘モデルにするための薬物投与および飼料調整等の便秘処置を施す必要がなく、そのまま利用することができる。また、本発明のCFPマウスを感染モデルまたはアレルギーモデルとする場合にも、従来のマウスをそれらのモデルとして利用する場合と比べて、消化管内において大腸菌等の感染源およびアレルゲン等との接触時間が長くなるため、少ない投与量や投与回数で感染および感作させることができ、感作期間や実験期間の短縮を可能とする。【0035】【実施例】以下、本発明を実施例を挙げて説明するが本発明はこれらに何ら限定されるものではない。【0036】実 施 例 1小腸内容物移動率(消化管輸送能)の測定:(1)実験動物3〜4カ月齢のCFP/Yit、C57BL/6YitおよびBALB/cAnNCrjの雄マウスを実験に供した。なお、CFP/YitおよびC57BL/6Yitマウスについてはコンベンショナルの飼育環境下で自家繁殖・育成されたものを使用し、蟯虫フリーのCFP/Yitマウスについては上記CFP/Yitをクリーン化して繁殖・育成された動物を使用した。BALB/cAnNCrjおよびC57BL/6JJclは動物業者(日本チャールスリバー株式会社、日本クレア株式会社)から入手し、コンベンショナルの環境下で飼育された蟯虫フリーのものを使用した。以下の実施例において、C57BL/6YitおよびC57BL/6JJclをC57BL/6系マウス、BALB/cAnNCrjをBALB/c系マウスという。【0037】(2)飼育方法各マウスは温度24±2℃、相対湿度55±10%、12時間人工照明(明期;08:30〜20:30)、換気15回/時に調整されたオープン・システムの飼育室で飼育した。飼料はF−1固型飼料(船橋農場社製)を給餌し、飲料水は水道水を自由摂取させた。なお、各マウスは実施の1週間前から金網を敷いたケージに個別飼育し、図1のスケジュールに従って明期(制限)給餌を馴化させた。【0038】(3)統計処理統計処理はt−検定を行った。【0039】(4)実験方法移動率を測定するための液体マーカーには市販墨汁を使用した。このマーカーを0.2ml/マウスで経口投与した。移動率の測定時間はマーカー投与後10分、投与後20分、投与後30分とした。移動率は頸椎脱臼にて屠殺したマウスから腸管を取り出してマーカーの移動距離を測定し、小腸全長に対する移動の割合を下記の式3によって算出した。その結果を表2に示す。【0040】【式3】【0041】(5)結果本発明のCFP/Yitマウスは、蟯虫の有無にかかわらず、C57BL/6系マウスおよびBALB/c系マウスと比べて、小腸内容物移動率が低かった。また、蟯虫の有無は小腸内容物移動率に影響を与えるものではないことが分かった。【0042】【表2】【0043】実 施 例 2消化管内容物通過・滞留時間の測定(1):(1)実験動物3〜4カ月齢のCFP/Yit、C57BL/6Yitおよび5〜7カ月齢のC57BL/6JJcl、BALB/cAnNCrj雄マウスを実験に供した。なお、各マウスの入手先、飼育方法は実施例1と同様である。【0044】(2)実験方法消化管内容物通過・滞留時間を測定するための固体マーカーとして、酸化第二クロムで着色したF−1固型飼料(酸化第二クロム3%含有)を使用した。このマーカー(約1g)を30分間給餌し、90分間絶食させた後に着色されていない通常のF−1固型飼料を自由摂取させた(飲水は自由摂取)。糞は小動物自動採糞装置(柴田科学機械工業株式会社製)に代謝ケージごとセットして経時的(1時間間隔)に採集した。糞の観察は30時間まで行い、肉眼的に酸化第二クロムにより着色された糞が最初に確認された時間を通過時間とし、出終わるまでに要した時間を滞留時間とした。その結果を表3に示す。【0045】(3)結果本発明のCFP/Yitマウスは、C57BL/6系マウスおよびBALB/c系マウスと比べて、消化管内容物通過時間および滞留時間が共に長かった。特に消化管内容物通過時間は、C57BL/6系およびBALB/c系マウスと比べて2倍以上であった。【0046】【表3】【0047】実 施 例 3消化管内容物通過・滞留時間の測定(2):(1)実験動物3〜4カ月齢のCFP/Yit、C57BL/6Yitおよび5〜7カ月齢のC57BL/6JJcl、BALB/cAnNCrj雄マウスを実験に供した。また、各マウスは実施の1週間前から代謝ケージで個別飼育し、飼料を自由摂取させた(飽食条件)。なお、各マウスの入手先は実施例1と同様である。【0048】(2)実験方法消化管内容物通過・滞留時間を測定するための液体マーカーには市販墨汁を使用した。このマーカーを0.2ml/マウスで経口投与した。糞は小動物自動採糞装置に代謝ケージごとセットして経時的(1時間間隔)に採集した。糞の観察は48時間まで行い、肉眼的に墨汁により着色された糞が最初に確認された時間を通過時間とし、出終わるまでに要した時間を滞留時間とした。その結果を表4に示す。【0049】(3)結果本発明のCFP/Yitマウスは、C57BL/6系マウスおよびBALB/c系マウスと比べて、消化管内容物通過時間および滞留時間が共に長く。特に消化管内容物通過時間は、C57BL/6系およびBALB/c系マウスと比べて3倍以上であった。【0050】【表4】【0051】実 施 例 4消化管内容物通過・滞留時間の測定(3):(1)実験動物3〜4カ月齢のCFP/YitおよびC57BL/6Yit雄マウスを実験に供した。なお、各マウスの入手先、飼育方法は実施例1と同様である。【0052】(2)実験方法消化管内容物通過・滞留時間の測定は実施例3と同様に液体マーカーを用いて行った。その結果を表5に示す。【0053】(3)結果本発明のCFP/Yitマウスは、明期制限給餌条件でも、消化管内容物通過時間および滞留時間が共に長く、C57BL/6系マウスの2倍以上であった。【0054】【表5】【0055】実 施 例 5消化管平滑筋(摘出腸管)の自発性運動測定:(1)実験動物3〜4カ月齢のCFP/YitおよびC57BL/6Yit雄マウスを実験に供した。【0056】(2)実験方法非絶食下の動物を頸椎脱臼にて屠殺し、表6に示す切り出し部位から小腸各部位を切り出し、混合ガス(O2:CO2=95:5 )を通気した下記組成のタイロード(Tyrode)液を入れた容量10mlのマグナス(Magnus)管中に固定した。液温を37℃に保ち、標本の運動を1gの負荷をかけて等張性に測定し、直記式記録計R−21(理化電機製)上に記録した。その結果を図2に示す。【0057】【表6】【0058】【0059】(3)結果本発明のCFP/Yitマウスは、C57BL/6系マウスと比べて何れの消化管部位でも、自発性運動の力が劣っていることが分かった。【0060】実 施 例 6消化管運動機能改善剤投与による小腸内容物移動率への影響:(1)実験動物3カ月齢前後のCFP/YitおよびC57BL/6Yit雄マウスを実験に供した。なお、各マウスの入手先、飼育方法は実施例1と同様である。【0061】(2)実験方法消化管運動機能改善剤投与による小腸内容物移動率の影響を検討するために、市販の薬剤である、プリンペラン(シロップ、藤沢薬品)、アセナリン(細粒、ヤンセン協和)、セレキノン(細粒、田辺製薬)およびナウゼリン(ドライシロップ、協和発酵工業)をマーカー投与の40〜50分前に表7に示す量で経口投与した。これらの薬剤のうちアセナリン、セレキノン、ナウゼリンについては0.5%のカルボキシメチルセルロース溶液に懸濁させて投与した。移動率を測定するためのマーカーには市販墨汁を使用し、0.2ml/マウスで経口投与した。移動率はマーカー投与後20分後の移動距離を測定し、小腸全長に対する移動の割合を上記した式3によって算出した。その結果を表7に示す。【0062】(3)結果本発明のCFP/Yitマウスに消化管運動機能改善薬を投与すると、消化管運動機能の亢進または抑制が認められたが、その程度はC57BL/6系マウスよりも低いものであった。従って、本発明のCFP/Yitマウスは薬剤に対する反応性がC57BL/6系マウスより劣っていることが分かった。【0063】【表7】【0064】実 施 例 7消化管運動機能改善剤投与による摘出腸管の自発性運動への影響:(1)実験動物3カ月齢前後のCFP/YitおよびC57BL/6Yit雄マウスを実験に供した。なお、各マウスの入手先、飼育方法は実施例1と同様である。【0065】(2)実験方法薬剤はプリンペランを使用し、腸管摘出の1時間前に0.6mg/kg(主成分量換算)を経口投与した。実施例5と同様に十二指腸と回腸を切り出し、測定を行った。その結果を図3に示す。【0066】(3)結果本発明のCFP/YitマウスおよびC57BL/6系マウスは回腸では自発性運動の抑制傾向が認められたが、十二指腸では亢進傾向が認められた。【0067】実 施 例 8アセチルコリン投与による摘出腸管への影響:(1)実験動物5カ月齢前後のCFP/YitおよびC57BL/6Yit雄マウスを実験に使用した。【0068】(2)実験方法非絶食下の動物を使用し、自発性運動測定については実施例7に準じた。標本は回腸部(回盲腸部の上方2cmの所から上方へ1.5cm)を使用し、収縮反応は10−7、10−6、10−5、10−4、3×10−4モルのアセチルコリンを単回適用法(反応させて観察したら組織を洗浄して次の濃度を与える)によって収縮高の観察を行なった。【0069】(3)結果本発明のCFP/Yitマウスは、腸管平滑筋のアセチルコリン感受性が3×10−4モルで100%になったのに対して、C57BL/6系マウスは10−5で100%になった。従って本発明のCFP/Yitマウスは、腸管平滑筋のアセチルコリン感受性がC57BL/6系マウスよりも低いことが明らかとなった。【0070】【表8】【0071】実 施 例 9消化管(小腸)重量の測定:(1)実験動物3カ月齢前後のCFP/YitおよびC57BL/6Yit雄マウスを実験に使用した。【0072】(2)実験方法約18時間絶食したマウスを体重測定後、頸椎脱臼にて屠殺して小腸(胃幽門部〜回盲部)を摘出した。摘出した小腸を生理食塩水で濡らしたガラス板上で腸管に付着する脂肪や腸間膜などを注意深く除去し、胃幽門部〜回盲部間の長さを測定した。また小腸重量を消化管内容物を生理食塩水で洗い出し(注射筒の先に胃ゾンデをセットして水圧を利用して洗浄)、さらに切開して十分に生理食塩水中で洗浄後、濾紙で余分な水分を除き重量を測定した。更に腸管筋層重量をスライドガラスの断端を用いてしごくことによって腸管から腸管粘膜部を剥離除去し、生理食塩水中で十分に洗浄後、濾紙で余分な水分を除き重量を測定した。その結果を表9に示す。【0073】(3)結果本発明のCFP/YitマウスとC57BL/6Yitとを比べると相対小腸筋層重量および小腸1gあたりの筋層重量の割合がCFP/Yitマウスの方が軽かった。また、CFP/YitマウスとC57BL/6系マウスとで相対小腸重量の差がなかったことから、CFP/Yitマウスは筋層以外の成分が重いことが推測された。【0074】【表9】【0075】実 施 例 10消化管筋層の形態学的検索:(1)実験動物3カ月齢前後のCFP/YitおよびC57BL/6Yit雄マウスを実験に使用した。【0076】(2)実験方法小腸の摘出までは実施例9と同様に行った。消化管内容物は胃ゾンデを用いて生理食塩水で洗浄後、回腸部(回盲腸部の上方1cmの所から上方へ3cm)を切り出した。切り出した標本は1/2(1.5cm)に切断して濾紙(腸管と濾紙の接着面が波打たぬように注意しながら)に貼りつけて10%緩衝ホルマリン溶液にて固定した。固定したサンプルは、常法に従ってパラフィン包理した。そしてパラフィンブロックを約3〜5μmの厚さに薄切りした後、ヘマトキシリン・エオジン(H−E)染色を施して光学顕微鏡下で写真撮影したものを図4に示す。【0077】(3)結果回腸部の筋層の厚さには系統差は認められなかった。また、標本によっては腸管粘膜固有層の厚さに系統差が認められ、C57BL/6系マウスに比べてCFP/Yitマウスのほうが薄い傾向が観察された。【0078】【発明の効果】本発明のCFPマウスは、小腸内容物移動率が低く、消化管内容物通過・滞留時間が長い等の消化管機能異常を自然発生するマウスである。【0079】従って、本発明のCFPマウスは上記特徴を利用した便秘モデル、感染モデル、食物アレルギー等の様々なモデルマウスとしてスクリーニング等の目的に利用が可能である。【図面の簡単な説明】【図1】 明期(制限)給餌を馴化するためのスケジュールを示す図面である。【図2】 CFP/YitマウスおよびC57BL/6Yitマウスの消化管平滑筋(摘出腸管)の自発性運動測定パターンを示す図面である。【図3−a】 CFP/Yitマウスの消化管運動機能改善剤投与前後における摘出腸管の自発性運動パターンを示す図面である。【図3−b】 C57BL/6Yitマウスの消化管運動機能改善剤投与前後における摘出腸管の自発性運動パターンを示す図面である。【図4】 CFP/YitマウスおよびC57BL/6Yitマウスの回腸病理組織写真である。以 上 CFP/Yitマウスと名付けられた以下の特性を有する消化管機能異常マウス。 (a)0.3%のピペラジン水溶液の間欠投与によっては盲腸内の蟯虫を駆除 できない。 (b)摂取した食物が体外へ排出されるまでの時間が、正常マウスと比較して 126%以上長い。 更に、下記特性を有する請求項第1項記載の消化管機能異常マウス。 (c)食物の摂取30分後の、胃幽門部から回盲部における食物の移動率が、 正常マウスと比較して35%以上低い。 便秘モデル、感染モデルまたはアレルギーモデルである請求項第1項または第2項記載の消化管機能異常マウス。 消化管運動異常を自然発生するものである請求項第1項ないし第3項の何れかの項記載の消化管機能異常マウス。 請求項第1項ないし第4項の何れかの項記載の消化管機能異常マウスの子孫。 被検物質を請求項第1項ないし第4項の何れかの項記載の消化管機能異常マウスに投与し、当該マウスの消化管内容物の排出状態を評価することを特徴とする抗便秘作用物質のスクリーニング方法。 被検物質を請求項第1項ないし第4項の何れかの項記載の消化管機能異常マウスに投与し、当該マウスの腸管内部粘膜の状態を評価することを特徴とする毒素原性物質のスクリーニング方法。 被検物質を請求項第1項ないし第4項の何れかの項記載の消化管機能異常マウスに投与し、当該マウスのアレルギー状態を評価することを特徴とする食物アレルギー性物質のスクリーニング方法。