生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_タンナーゼを指標とした大腸癌の診断薬及び検査方法
出願番号:2001328748
年次:2006
IPC分類:G01N 33/574,G01N 33/569,C12Q 1/14,C12Q 1/44


特許情報キャッシュ

笹津 備規 野口 雅久 白鳥 泰正 JP 3822813 特許公報(B2) 20060630 2001328748 20011026 タンナーゼを指標とした大腸癌の診断薬及び検査方法 エーザイ株式会社 000000217 遠山 勉 100089244 松倉 秀実 100090516 川口 嘉之 100100549 笹津 備規 野口 雅久 白鳥 泰正 JP 2000326839 20001026 20060920 G01N 33/574 20060101AFI20060831BHJP G01N 33/569 20060101ALI20060831BHJP C12Q 1/14 20060101ALN20060831BHJP C12Q 1/44 20060101ALN20060831BHJP JPG01N33/574 ZG01N33/569 EC12Q1/14C12Q1/44 G01N 33/48-33/98 特開平10−132822(JP,A) 米国特許第05552292(US,A) 国際公開第98/005960(WO,A1) 特開平04−360684(JP,A) 2 2002202311 20020719 13 20030304 加々美 一恵 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、大腸癌診断薬及び大腸癌の検査方法に関する。【0002】【従来の技術】近年、わが国でば食生活の欧米化に伴って大腸癌の罹患率が増加している。高脂肪食や低繊維食によって、腸内細菌叢が変化し、発癌性物質の生成が増加し、さらに、糞便量の減少により、糞便の腸内滞在時間が延長し、発癌性物質と腸管との接触時間が長くなるため、発癌の危険が高くなると言われている。腸内の細菌は、宿主の健康と疾病に極めて密接に関係しており、食事成分及び生体成分を介して大腸癌に関与していると考えられている。【0003】Streptococcus (St.) bovisは感染性心内膜炎の原因菌として知られているが、欧米では本菌による感染性心内膜炎と大腸癌との併存率が高いことが注目されている(Honberg P.Z. et al., Lancet, i:163-164, 1987)。一方、大澤らによって、タンニン酸のエステル結合を加水分解し没食子酸を放出するタンナーゼ活性を有する細菌が、タンニンを高濃度に含有するユーカリを喫食するコアラの糞便から分離され、St. bovis biotype Iと同定された(Osawa R et al., Appl. Enviorn. Microbiol., 56:829-831, 1990)。本菌は、タンニンを分解し没食子酸を放出するタンナーゼ活性と、さらに没食子酸を脱炭酸しピロガロールに変化させる脱炭酸酵素を有する細菌であり、St. gallolyticusと新たに命名することが提案されている。大澤は、このSt. gallolyticusが感染性心内膜炎を併発している大腸癌患者から分離されるSt. bovisと同一の細菌である可能性を推論している(大澤 朗、理研シンポジウム「乳酸菌の分類と生態」抄録36-45, 1996)。【0004】一般にタンニンと称される物質はポリフェノールに属し、フェノール性化合物の重要な部分を占めている天然物質で、微生物に対して毒性および発育阻害作用を有し収斂性の渋みを有している。タンニンの分類は種々提案されているが、便宜的に加水分解型タンニンと縮合型タンニンに大別される。前者は構造的にはピロガロールタンニンで、五倍子や没食子中に多く含まれているため病理的タンニンともいわれている。一方、後者はカテコールタンニンで、植物の常成分であるので生理的タンニンともいわれている。加水分解型タンニンは中核に糖類を有し、それにフェノール酸(没食子酸,エラグ酸等)がエステル結合した化学構造を有する。この加水分解型タンニンは主に土壌に生息するAspergillusやCandida等の真菌類が産生するタンニン分解酵素、タンナーゼによって加水分解されることが知られているが、動物の腸管内に生息する細菌類によるタンナーゼの産生は、大澤の発表以前には報告されていなかった。【0005】その後タンナーゼ陽性細菌として、コアラの糞便からSt. gallolyticus以外にもLonepinella koalarumが分離され、また他に主に草食動物から分離されたことが報告されている(Osawa R., Syst. Appl. Microbiol., 15:144-147, 1992)。さらに最近、Lactobacillus (L.) plantarumがヒト糞便より分離されたことが報告された。L. plantarumは主にサイロから分離される乳酸桿菌で、L. plantarumによる感染性心内膜炎も報告されている(Oakey H.J. et al., J. Appl. Bacteriol., 78:142-148, 1995)。【0006】大腸癌が発症するメカニズムについては多くの研究者によって研究されているが、そのひとつに活性酸素の存在が挙げられる(Babbs C.F. et al., Free Rad. Biol & Med., 8:191-200, 1990)。活性酸素は生体内に侵入する微生物に対して殺菌作用を示し、生体を感染から守っている。その一方で活性酸素はラジカル連鎖反応により、生体機能を傷害しうる有害反応産物を増加させ様々な病態を増悪させる危険性を有している。特に老化、動脈硬化、癌などの生活習慣病では活性酸素の産生と消去のパランスがくずれ、これが長い年月をかけて病態を増悪させるのではないかと考えられている。【0007】活性酸素を産生する物質として多くの化学物質が発見されているが、その中に没食子酸とピロガロールも含まれている(Khan N.S., Mutagenesis, 13:271-274, 1998)。【0008】【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、大腸癌の診断薬及び検査方法を提供することである。【0009】【課題を解決するための手段】本発明者らは、タンナーゼ活性を有する細菌と大腸癌との関連について以下のような仮説をたてた。加水分解型タンニンにタンナーゼが作用することで没食子酸が産生され、さらに没食子酸脱炭酸酵素存在下ではピロガロールが産生され、活性酸素を産生する化学物質が遊離されることになる。この経路にタンナーゼ陽性細菌が関与するならば、タンナーゼ陽性細菌存在下で活性酸素が産生され、癌、特に大腸癌を発症させる一因となるのではないかと考えられる。【0010】このような背景の下に発明者らは、大腸内のタンナーゼ活性を有する細菌が大腸癌とどのように関係しているかを解明すべく研究を行い、タンナーゼ陽性細菌であるStaphylococcus (S.) lugdunensisが大腸癌患者にのみ見出され、更にS. lugdunensisが、他のタンナーゼ陽性細菌と比較して、大量のタンナーゼを産生することを見出した。従って、S. lugdunensisが産生する大量のタンナーゼが、大腸癌の原因になると考えられ、タンナーゼ高産生細菌あるいはタンナーゼを検出することにより、一部の大腸癌については診断又は検査が可能であると考えられる。【0011】本発明は、以上の知見に基づき完成されたものであり、以下のものを提供する。(1)大腸内細菌叢試料中のタンナーゼ高産生細菌を検出するための試薬を含む大腸癌診断薬。(2)大腸内細菌叢試料中のStaphylococcus lugdunensisを検出するための試薬を含む大腸癌診断薬。(3)大腸内細菌叢試料中のタンナーゼ高産生細菌を検出する工程を含んで成る、大腸癌を検査する方法。(4)大腸内細菌叢試料中のStaphylococcus lugdunensisを検出する工程を含んで成る、大腸癌を検査する方法。(5)大腸内細菌叢試料中のタンナーゼ量を測定するための試薬を含む大腸癌診断薬。(6)タンナーゼ量を酵素活性により測定する、(5)に記載の診断薬。(7)タンナーゼ量を免疫測定法により測定する、(5)に記載の診断薬。(8)大腸内細菌叢試料中のタンナーゼ量を測定する工程を含んで成る、大腸癌を検査する方法。(9)タンナーゼ量を酵素活性により測定する、(8)に記載の方法。(10)タンナーゼ量を免疫測定法により測定する、(8)に記載の方法。【0012】【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。【0013】本発明は、大腸内細菌叢試料中のタンナーゼ高産生細菌を検出するための試薬を含む大腸癌診断薬、及び、大腸内細菌叢試料中のタンナーゼ高産生細菌を検出する工程を含んで成る、大腸癌を検査する方法を提供する。また、大腸内細菌叢試料中のS. lugdunensisを検出するための試薬を含む大腸癌診断薬、及び、大腸内細菌叢試料中のS. lugdunensisを検出する工程を含んで成る、大腸癌を検査する方法を提供する。【0014】本発明において、タンナーゼ高産生細菌とは、後記実施例2に記載の、HPLCを用いたタンナーゼ活性測定法により測定して、没食子酸とピロガロールの量を足し合わせた量で0.3 mM以上、好ましくは0.5 mM以上を産生する細菌である。タンナーゼ高産生細菌は、好ましくは、S. lugdunensisである。【0015】S. lugdunensisは、タンナーゼの生産能が高く、一般に上記タンナーゼ高産生細菌の定義を満たす。以下、説明の便宜のため、S. lugdunensis及びその他のタンナーゼ高産生菌を総称して、タンナーゼ高産生菌という。【0016】大腸内細菌叢試料とは、大腸内細菌叢を含む試料であり、その例としては、糞便、腸管洗浄液などが挙げられる。【0017】大腸内細菌叢試料中のタンナーゼ高産生菌の検出は、大腸内細菌叢試料に存在する細菌を分離培養し、細菌のタンナーゼ産生能を測定するか、又は、大腸内細菌叢試料に存在する細菌の同定によりタンナーゼ高産生細菌であるかどうか判別することにより行うことができる。分離培養は、タンニン処理寒天培地を用いてタンナーゼ陽性細菌を分離するものであることが好ましい。また、細菌の同定は、タンナーゼ陽性細菌を分離した後に行うことが、同定が容易になるため、好ましい。細菌の同定は、生化学的性状などの菌学的性状の検索、及び/又は、細菌の同定に使用できる塩基配列の相同性の検索により行うことができる。細菌の同定に使用できる塩基配列の例としては、16S-rRNA遺伝子の塩基配列が挙げられる。【0018】以下、S. lugdunensisを例として検出法を具体的に説明する。大腸内細菌叢試料よりタンニン処理寒天培地を用いてタンナーゼ陽性菌を分離し、分離したタンナーゼ陽性細菌について、すでに公知となっている各種生化学的性状を検索することにより、または16S-rRNA遺伝子の塩基配列の相同性を検索することによって、S. lugdunensisを検出することが出来る。【0019】各種生化学的性状としては、ブドウ糖、果糖、D-マンノース、マルトース、乳糖、D-トレハロース、D-マンノース、キシリトール、D-メリビオース、D-ラフィノース、D-キシロース、白糖、α-メチル-D-グルコシド及びN-アセチル-D-グルコサミンの分解能、硝酸塩の亜硝酸塩への還元能、アルカリフォスファターゼ産生能、アセチルメチルカルビノール産生能、アルギニンヒドラーゼ産生能、ウレアーゼ産生能を指標として調べることが出来る。【0020】本発明の診断薬に含まれる、タンナーゼ高産生細菌を検出するための試薬は、上述のタンナーゼ高産生菌の検出に使用される試薬の少なくとも1種であり、当業者であれば、検出の方法に応じて適宜選択できる。具体例としては、タンニン処理寒天培地、細菌同定キット、PCRによる塩基配列決定に用いられるプライマーなどが挙げられる。この態様の診断薬は、タンナーゼ高産生細菌を検出するための試薬に応じて、診断薬の製造に通常に用いられる技術を選択して用いることにより製造することができる。タンナーゼ高産生細菌を検出するための試薬が複数の試薬からなる場合には、キットとされていてもよい。タンナーゼ高産生細菌を検出するための試薬を、診断薬に用いるのに許容可能な担体と組み合わせて組成物としてもよい。【0021】この実施態様の診断薬の構成としては、選択培地としてタンニン酸処理したブレインハートインヒュージョンアガー(BHI寒天)、及び、細菌同定キットを含むものが挙げられる。【0022】タンナーゼ高産生細菌の存在は、大腸癌の診断又は検査の有効な指標となる。すなわち、タンナーゼ高産生細菌の検出結果に基づいて、必要により他の検査結果と組み合わせて、大腸癌の有無を判別できる。タンナーゼ高産生細菌の存在が、大腸癌の診断又は検査の有効な指標となる理由は、後述の実施例に示す通り、大量のタンナーゼの存在が大腸癌の原因になるためと考えられる。従って、大腸におけるタンナーゼ量も大腸癌の診断又は検査の有効な指標となると考えられる。すなわち、タンナーゼの測定結果に基づいて、必要により他の検査結果と組み合わせて、大腸癌の有無を判別できる。【0023】従って、本発明は、大腸内細菌叢試料中のタンナーゼ量を測定するための試薬を含む大腸癌診断薬、及び、大腸内細菌叢試料中のタンナーゼ量を測定する工程を含んで成る、大腸癌を検査する方法も提供する。【0024】タンナーゼ量の測定は、タンナーゼの酵素活性の測定により行ってもよいし、タンナーゼ自体の免疫測定法による測定により行ってもよい。【0025】タンナーゼ量の酵素活性による測定は、タンナーゼの基質である没食子酸メチルを試料と反応させ、酵素反応産物の量をHPLCや発色法により測定することにより行うことができる。例えば没食子酸メチルを基質としてその分解産物の没食子酸をHPLCを用いて定量することにより、あるいは没食子酸メチルと被検検体を混合し440 nmにおける吸光度を測定することにより、あるいは没食子酸メチルと被検検体を混合し溶液が緑色を経て褐色に変化するか否かを観察することにより行う。好ましくは吸光度により定量する。【0026】タンナーゼ量の免疫測定法による測定は、タンナーゼに対する抗体を用いて通常の免疫測定法により行うことができる。【0027】以下、タンナーゼに対する抗体の作製法及びタンナーゼ測定法の例について説明する。【0028】1).タンナーゼの精製タンナーゼは、タンナーゼ陽性細菌を培養し、培養菌体を例えば超音波で破砕した遠心上清より精製することができる。精製は、タンナーゼ活性を指標として、電気泳動法、種々のクロマトグラフィー(イオン交換クロマト・疎水クロマト・ゲルろ過等)を適宜組み合わせて行うことができる。タンナーゼの活性測定は、上述のようにして行うことができる。【0029】2).抗体の作製精製したタンナーゼを、例えば家兎等に免疫することにより、タンナーゼに対するポリクローナル抗体を得ることができる。またマウス等に免疫し、その脾臓細胞をミエローマ細胞と融合させて、モノクローナル抗体を得ることができる。【0030】3).ヒト糞便中のタンナーゼ測定法作製したタンナーゼに対する抗体(抗タンナーゼ抗体)を用いた免疫学的手法により、大腸内細菌叢試料、例えば糞便中のタンナーゼを測定することによって大腸癌の診断又は検査が可能である。免疫測定法としては公知の方法が適用でき、例えば酵素免疫測定法、放射免疫測定法、化学発光免疫測定法、電気化学発光免疫測定法、イムノクロマトグラフィー法、ウエスタンブロット法、受け身粒子凝集法、受け身血球凝集法、ラテックス粒子凝集法などが挙げられる。【0031】免疫測定法の手順の例は以下の通りである、抗タンナーゼ抗体を固相化したマイクロタイタープレートなどの担体と検体試料とを反応させ、洗浄後、第二抗体として標識物質で標識した抗タンナーゼ抗体を反応させる。洗浄後、標識物質を定量する。【0032】抗タンナーゼ抗体の固相化担体としては、マイクロタイタープレートの他に、磁気感応性ビーズ、プラスチックビーズ、ニトロセルロース膜、ナイロン膜、赤血球、ゼラチン粒子、ポリアミノ酸粒子、ラテックス粒子などいずれの担体も使用することができる。【0033】酵素免疫測定法の場合には、第二抗体の標識物質としてペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ベータガラクトシダーゼなどの酵素を用い、標識物質の定量を、酵素基質を加え、基質の発色量を分光光度計によって測定することにより行う。【0034】第二抗体の標識物質としては、酵素の他に、蛍光物質、放射性物質、生物または化学発光物質、電気化学発光物質、色素、金属など定量可能な物質であればいずれも使用できる。【0035】本発明におけるタンナーゼ量の測定は、必ずしも絶対値を求める必要はなく、所定値を超えるか否かを判別できるものであればよい。所定値とは、大腸癌が有意に認められる値である。【0036】本発明の診断薬に含まれる、タンナーゼ量を測定するための試薬は、上述のタンナーゼ量の測定に使用される試薬の少なくとも1種であり、当業者であれば、測定の方法に応じて適宜選択できる。具体例としては、タンナーゼ基質、抗タンナーゼ抗体などが挙げられる。この態様の診断薬は、タンナーゼ量を測定するための試薬に応じて、診断薬の製造に通常に用いられる技術を選択して用いることにより製造することができる。タンナーゼ量を測定するための試薬が複数の試薬からなる場合には、キットとされていてもよい。タンナーゼ量を測定するための試薬を、診断薬に用いるのに許容可能な担体と組み合わせて組成物としてもよい。【0037】この実施態様の診断薬の構成としては、酵素免疫測定キットの場合、抗タンナーゼモノクローナル抗体固相化プレート、酵素標識抗タンナーゼモノクローナル抗体、タンナーゼ標準物、検体希釈用緩衝液、洗浄液、及び、反応停止液を含むものが挙げられる。【0038】【実施例】以下に、具体的な例をもって本発明を示すが、本発明はこれに限られるものではない。【0039】【実施例1】ヒト糞便からのタンナーゼ陽性細菌の分離1).臨床検体の収集平成11年4月より東京医科大学八王子医療センターにて大腸内視鏡検査を行った患者および健常者計167名から採取した糞便を検体として使用した。大腸内視鏡検査で下部消化管に大腸癌及び大腸ポリープ以外の疾患が認められた患者は対象からはずした。タンナーゼ陽性菌が検出された大腸癌患者に関しては大腸癌の手術前と後で2回検体を採取した。なお、術後の検体の採取は、手術時および手術後に使用される抗生物質の影響を考慮し、手術日より2週間後に行った。【0040】採取した臨床検体(糞便)は、ストレプトコッカスセレクティプサプリメント(オキソイド)を添加したブレインハートインフュージョン(BHI)液体培地(ディフコ)に接種し、37℃で1晩嫌気培養した。なお、BHI液体培地100 mlにつきストレプトコッカスセレクティプサプリメントは0.4 mlを添加した。【0041】2).タンナーゼ活性を有する細菌の分離タンナーゼ活性を有する細菌の分離培養は下記の様に大澤らの方法(Osawa R. et al., Appl. Environ. Microbiol., 56:829-830, 1990)に従って行った。ストレプトコッカスセレクティブサプリメント加タンニン処理BHI寒天培地を、以下の方法により作製した。【0042】BHI寒天培地(オキソイド社製)を121℃、15分間の高圧蒸気減菌後、ストレプトコッカスセレクティプサプリメントを加え、平板寒天培地を作成し、37℃で1晩放置する。次いで、PBS緩衝液にタンニン酸(関東化学社製)を2%(w/v)となるように加えてろ過減菌し、37℃で1晩放置した平板寒天培地の表面にごく薄く均等に広がるように流し込み20分間静置する。タンニン酸と培地中のタンパク質が水に不溶性の複合体を形成し平板寒天培地の表面が白色になった後、表面のタンニン酸溶液を取り除き、PBS緩衝液で平板寒天培地表面の余分なタンニン酸を洗い流す。3回洗浄作業を繰り返し、表面の液体を取り除いた後、平板寒天培地をほぼ垂直状態にして1時間放置し、下側に溜まった液体を取り除く。【0043】作製したストプトコッカスセレクティプサプリメント加タンニン処理BHI寒天培地に1)で培養した臨床検体100μlを塗沫し、37℃で3日間嫌気培養した。コロニーの周りにクリアゾーンが確認されたものをタンナーゼ陽性細菌として分離した。【0044】3).分離されたタンナーゼ陽性菌の同定顕微鏡で、分離されたタンナーゼ陽性細菌が球菌であることが確認されたものにはブドウ球菌およびミクロコッカス同定キットAPI STAPH(日本ビュオメリュー社製)、連鎖球菌であることが確認されたものには連鎖球菌同定キットAP120 STREP(日本ビュオメリュー社製)、桿菌であることが確認されたものには乳酸菌同定キットAPI 50CHL(日本ビュオメリュー社製)を用いて同定を行った。また、S. lugdunensisに関しては江崎らの方法(Ezaki T. et al., Int. J. Syst. Bacteriol., 44:130-136, 1994)に従って16S-rRNA遺伝子の塩基配列を決定し、相同性の確認を行った。【0045】4).結果167名から採取した糞便検体中、30名からタンナーゼ陽性細菌が見出された。その内訳は、大腸癌患者51名中11名(21.6%)、大腸ポリープ患者54名中11名(20.4%)、健常者62名中8名(12.9%)であった(表1)。L. plantarumは全ての群より検出されたが、S. lugdunensisは大半が大腸癌患者からであり、1例のみ大腸ポリープ患者からも検出された。大腸癌患者では、大腸癌の手術前と後で2回検体が採取されたが、術前と術後との間で検出結果に差は認められなかった。【0046】【表1】【0047】なお、分離したS. lugdunensisの16S-rRNA遺伝子につき、塩基配列を決定した(配列番号1)。DNA Data Bank of JAPAN (DDBJ)のデータベースを利用して相同性検索を行った結果、登録されたS. lugdunensisの16S-rRNA遺伝子配列と99%の相同性を示した。【0048】【実施例2】タンナーゼの活性測定1).HPLCを用いたタンナーゼ活性測定タンナーゼの基質として、タンニン酸の基本骨格を持つ没食子酸メチル(シグマ社製)を用いた。また、没食子酸メチルがタンナーゼによって分解され生じる分解産物の標準品として、没食子酸(シグマ社製)、ピロガロール(シグマ社製)、フロログルシノール(シグマ社製)を用いた。これらは全て33 mM NaH2PO4に、5 mMの濃度に調製した。【0049】図2に示したタンナーゼ陽性細菌をタンニン処理BHI寒天培地で嫌気条件下、37℃で72時間培養した。その後、綿棒で菌をかきとり2.5 mlの基質溶液にマックファーランド濁度4の懸濁液を調製し、懸濁液を、37℃で24時間インキュベーションする。インキュベートした懸濁液1 mlを3,000×gで1分間遠心し、その上清400μlに等量の0.1 M塩酸を加え、更にメンプランフィルターで遠心ろ過して、試料溶液とした。またコントロールとして、Escherichia (E.) coliを用い、同様の前処理を行った。【0050】没食子酸メチルがタンナーゼによって分解され生じる分解産物をHPLCにより分離定量した。今回用いた条件では、没食子酸、ピロガロール、フロログルシノールの保持時間はそれぞれ5.54分、6.53分、7.20分であった(図1)。また没食子酸メチルのピークは検出されなかった。【0051】今回使用した菌によって基質である没食子酸メチルより生成された代謝産物である没食子酸とピロガロールを足し合わせた量を図2に示した。タンナーゼ陽性細菌の臨床分離株St. bovis biotype I、L. plantrum、S. lugdunensisのうち、代謝産物の生成量が多かったのはS. lugdunensisであった。E. coli NIHJ JC-2については没食子酸とピロガロールのピークは検出されなかった。なお、今回使用した菌ではフロログルシノールのピークを示した菌は存在しなかった。【0052】S. lugdunensisは、タンナーゼ陽性細菌の中で最も代謝産物の生成量が多く、大腸癌患者から主に検出されたことは、タンナーゼ活性と大腸癌の関連を示唆している。従って、タンナーゼ高産生細菌の存在が大腸癌の検査及び診断の指標となると考えられる。【0053】2).発色法によるタンナーゼ活性測定HPLCによる測定に代えて、発色法でもタンナーゼ活性の測定を行った。(大澤らの方法(Osawa R. et al., Appl. Enviton. Microbiol. 59:1251-1252, 1993)に準じて行った。)リン酸緩衝液(33 mM NaH2P04)で溶解した10 mM没食子酸メチルと、被検検体を2:1の割合で混合し、37℃、60分間好気条件下で反応させた。反応後、飽和NaHC03液を等量加え20分間室温で静置させた後、吸光光度計(DOUBLE-BEAM SPECTROPHOTOMETER UV-190;島津製作所)を用いて440 nmにおける吸光度を測定した。同時に肉眼的観察を行い、タンナーゼ活性が高いことを示す、溶液が緑色を経て褐色を示した場合を陽性、無色または薄黄色を示した場合を陰性とした。【0054】【実施例3】タンニン分解産物によるDNA損傷LB培地にpBR322を保有するE. coli JM109を振とう培養後、アルカリ法にてプラスミドDNAを抽出し、CsCl-エチジウムブロミド密度勾配遠心法にて下層に来るスーパーコイルプラスミドDNAを調製した。【0055】1μlのスーパーコイルプラスミドDNA及び1μlの1 M リン酸緩衝液pH 7.4に被検検体(没食子酸メチル、没食子酸、ピロガロール)を0, 0.5, 1, 2.5, 5, 10, 20 mMとなる様に加え、総量が10μlになるように精製水を足して反応溶液を調製した。反応溶液は、37℃で4時間インキュベーションした後、アガロースゲル電気泳動にて、スーパーコイル形(supercoiled form)とニック開環状形(nicked open circular form)を分離し、被検検体がDNAを損傷する活性を調べた。【0056】タンナーゼの基質である没食子酸メチルには、DNAの損傷能はほとんど認められなかったが、没食子酸及びピロガロールは濃度依存的にDNAを損傷し、ピロガロールの方がより強い損傷能を有していた。【0057】上記の結果、及び、タンナーゼ高産生細菌と大腸癌との関連は、大量のタンナーゼが大腸癌の原因であることを支持する。従って、タンナーゼの検出結果も大腸癌の検査及び診断に有用な指標になると考えられる。【0058】【実施例4】タンナーゼの精製1).粗酵素液の調製L. plantarum No.67をタンニン処理BHI寒天培地にて37℃で3日間嫌気条件下(ANAEROBOX AZ series;平沢製作所)で培養した。1コロニーをBHI 70 mlに接種して37℃で18時間嫌気条件下で攪拌培養した。培養後、菌液20 mlをBHI 1,500 mlに加えて37℃で24時間嫌気条件下で攪拌培養した。培養液を遠心(6,000 rpm、10分間、4℃)集菌し、10 mM Tris-HCl pH 7.5, 10 mM MgCl2, 50 mM NaCl(以下M bufferと称す)2.5 mlで懸濁した。M bufferを用いて10 mg/mlに調製したN-アセチルムラミダーゼSG(生化学工業)を菌懸濁液1 mlに対し2.5μl加え、37℃で30分間好気条件下で反応させた。さらに菌懸濁液を超音波破砕後、遠心(6,000 rpm、10分間、4℃)し、遠心上清を回収し粗酵素液とした。【0059】2).イオン交換クロマトグラフィーによる分画粗酵素液25 mlをDEAE-Sepharose Fast Flow(Pharmacia)を充填したColumn XK 26/20(2.6 x 20 cm:Pharmacia社製)に吸着させ、流速を5 ml/minとして0.05 M Tris-HCl(pH 7.0)300 mlで非吸着物を溶出させた。その後、0 Mから0.4 M NaClの濃度勾配でタンパク質を溶出させた。さらに20分間0.4 M NaClで、残存するタンパク質を完全に溶出させた。サンプルは非吸着物を溶出させた後5 mlずつ分画した。それぞれの分画についてタンパク質含量の測定、タンナーゼ活性の測定、及び、活性酸素の測定を行った。活性の認められた分画を真空凍結乾燥機(FREEZVAC-1;東西通商)を用いて凍結乾燥に付し、0.05 M Tris-HCl pH 7.0で溶解し、0.05 M Tris-HCl pH 7.0に対して透析を行った。【0060】3).ゲルろ過クロマトグラフィーによる分画イオン交換クロマトグラフィーより得られたタンナーゼ活性を有する分画2 mlをSuperose 12(Pharmacia社製)を充填したColumn HR 16/50(1.6 x 50 cm:Pharmacia社製)に重層した。溶出液として0.05 M NaCl, 0.05 M Tris-HCl pH 7.0を使用した。流速を2 ml/minとし、2 mlずつ分画した。サンプルをカラムに重層して13分後からフラクションコレクターを作動させた。それぞれの分画についてタンパク質含量の測定、タンナーゼ活性の測定、及び、活性酸素の測定を行った。活性の認められた分画を集めた。【0061】各精製段階における試料をSDS-PAGEで分析した結果を図3に示す。タンナーゼはSuperose 12までの精製で、ほぼ単一のバンド(45 kDa)として精製された。【0062】【発明の効果】本発明により、S. lugdunensisなどのタンナーゼ高産生細菌の検出、及び/又は、タンナーゼの検出による、大腸癌の診断が可能となる。【0063】【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】 HPLCによる没食子酸、ピロガロール及びフロログルシノールの定量を示す。【図2】 St. bovis biotype I、L. plantrum及びS. lugdunensisの産生するタンナーゼの量の比較を示す。【図3】 タンナーゼの精製の各段階における試料をSDS-PAGEで分析した結果(電気泳動写真)を示す。M:分子量マーカー、1:粗抽出画分、2:イオン交換クロマトグラフィー精製画分、3:ゲル濾過クロマトグラフィー精製画分。 大腸内細菌叢試料中のStaphylococcus lugdunensisを検出するための試薬を含む大腸癌診断薬。 大腸内細菌叢試料中のStaphylococcus lugdunensisを検出する工程を含んで成る、大腸癌を検査する方法。


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る