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タイトル:特許公報(B2)_イリジウム合金の分析方法
出願番号:2001311065
年次:2004
IPC分類:7,G01N1/28


特許情報キャッシュ

山本 吉信 御手洗 容子 廣崎 尚登 原田 広史 JP 3550666 特許公報(B2) 20040514 2001311065 20011009 イリジウム合金の分析方法 独立行政法人物質・材料研究機構 301023238 山本 吉信 御手洗 容子 廣崎 尚登 原田 広史 20040804 7 G01N1/28 JP G01N1/28 X 7 G01N 1/28 JICSTファイル(JOIS) 特開平08−217460(JP,A) 特開平11−217221(JP,A) 特開昭64−083527(JP,A) 特開平02−116634(JP,A) 特開2002−030357(JP,A) 特開2002−372518(JP,A) 特開平5−310433(JP,A) 12 2003121320 20030423 11 20020521 山村 祥子 【0001】【発明の属する技術分野】この出願の発明は、イリジウム合金の分析方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、金属結合により化学的に安定で溶解が困難なイリジウム合金の融解および化学分析を可能とする、精度が良く簡便なイリジウム合金の分析方法に関するものである。【0002】【従来の技術とその課題】金属材料の化学分析による組成分析については、操作が簡単で、かつ周期表の約70元素の定量を高い感度かつ高精度で行うことができること等から、溶液試料を使用する誘導結合プラズマ発光分析(ICP−AES)や原子吸光分析(AAS)が一般的に採用されている。【0003】このような溶液試料による定量分析において、試料溶液の調整方法としては、ほとんどの試料について最初から水、酸溶液またはアルカリ溶液で分解させる湿式法が適用されているが、酸やアルカリで分解できない試料については適当な融剤を用いて融解し、その融成物を水または酸で処理して溶液化する乾式法が適用されている。たとえば、難溶性のクロム鉱石、スズ鉱石、フェロクロム、フェロシリコン等の融解には、融剤として過酸化ナトリウムを使用するようにしている。【0004】そしてイリジウムの定量分析についても、1981〜2001年までに324件報告されている。しかしながら、これらの報告では、いずれも試料としてのイリジウムが塩化イリジウム、酸化イリジウムあるいは錯体イリジウム等のようにイオン結合あるいは共有結合により価数を持って存在しているものを対象としており、同じイリジウムであっても金属イリジウムやイリジウム合金のように強固な金属結合の状態にあるイリジウムについての分析報告は皆無であった。というのは、金属イリジウムあるいはイリジウム合金は強酸やアルカリでは溶けないことが知られており、その分析については、イリジウムが含有量として10wt%以下であり細粉状あるいは箔状の試料であれば一部が溶解すると報告されている程度であって、その詳細や、金属イリジウムあるいはイリジウム合金の試料の融解方法は全く知られていないためである。【0005】すなわち、金属イリジウムおよびイリジウム合金については、その融解はもとより、定量分析方法およびその可能性については全くの未知の状態であるのが現状である。【0006】一方で、この出願の発明者らは、これまでの研究において、全く新しいイリジウム合金を開発してきた。このイリジウム合金には、金属イリジウム(Ir)に対して、Nb,Zr,Ti,Hf,Ta等の遷移元素を添加したもの、さらにはNi、Alを添加したもの、またさらに多くの金属が添加されたものなどがある。これら金属イリジウムおよびイリジウム合金は、融点が高く、化学的にも安定な金属であることから、耐熱材料としての利用が期待されるものである。【0007】金属材料の分野では、材料の機械的特性を支配する組織を制御するために状態図の利用が欠かせないことから、これらのイリジウム合金への知見を深め、更なる改良を成し遂げるためにも状態図が必要な状態にある。そして、発明者らのように全く新しく合金を開発した場合などには、標準試料がないために物理的な機器分析は行えず、化学分析によるイリジウム合金系の組成分析により状態図を作成しなければならない。【0008】そこで、この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、金属結合により化学的に安定で溶解が困難なイリジウム合金の融解および化学分析を可能とし、かつ容易に行うことのできるイリジウム合金の分析方法を提供することを課題としている。【0009】【課題を解決するための手段】そこで、この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、以下の通りの発明を提供する。【0010】すなわち、まず第1には、この出願の発明は、イリジウム合金の粉末試料に過酸化アルカリを加えて加熱することによりイリジウム合金を融解し、このイリジウム合金の融解物を王水で溶液化して得た溶液試料を用いて、このイリジウム合金に含まれる元素を定量することを特徴とするイリジウム合金の分析方法を提供する。【0011】そして、この出願の発明は、上記第1の発明のイリジウム合金の分析方法において、第2には、試料としてのイリジウム合金が、イリジウムの含有量10重量%以上であることを特徴とする分析方法を、第3には、イリジウム合金がIr−Al系、Ir−Mg系あるいはIr−Zn系である場合、粉末試料の粒径を149μm以下とすることを特徴とする分析方法を、第4には、イリジウム合金に対する過酸化アルカリの混合比を、1:10とすることを特徴とする分析方法を、第5には、イリジウム合金がNb,Zr,Ti,Hf,Ta,Moのいずれか1種以上の元素を含有している場合、粉末試料の粒径を74μm以下とすることを特徴とする分析方法を、第6には、イリジウム合金に対する過酸化アルカリの混合比を、1:25とすることを特徴とする分析方法を、第7には、過酸化アルカリが過酸化ナトリウムであることを特徴とする分析方法を、第8には、加熱融解は、800℃で30分間保持することを特徴とする分析方法を、第9には、イリジウム合金がNb,Zr,Ti,Hf,Ta,W,Mo、Hoのいずれか1種以上の元素を含有している場合、王水での溶液化のあと、この溶液にクエン酸を加えて加熱溶解し、さらにフッ酸およびホウ酸を加えて加熱溶解して溶液試料とすることを特徴とする分析方法を、第10には、イリジウム合金の融解には、Niるつぼまたは鉄るつぼを用いることを特徴とする分析方法を、第11には、イリジウム合金に含まれる元素の定量には、誘導結合プラズマ発光分析装置を用いることを特徴とする分析方法を、第12には、イリジウム合金の代わりに、イリジウムのイオウ化合物、ホウ素化合物あるいはリン化合物を用い、このイリジウムの化合物に含まれる元素を定量することを特徴とする分析方法を提供する。【0012】以上のこの出願の発明は、従来全く知られていなかったイリジウム合金の融解方法を明示するだけでなく、定量を可能とする高精度な分析の方法を、明確なものとして提示するものである。すなわち、この出願の発明者らによる膨大な実験と詳細な検討の結果から、分析対象とする試料、その粒径、融剤配合量、融解温度、詳細な処理などを見出して最適なものとし、特殊な装置および熟練した技術を必要とすることなく、全てのイリジウム合金について、初心者でも簡便に分析できるような、分析の条件が初めて提示されることになる。【0013】【発明の実施の形態】この出願の発明は、上記の通りの特徴を持つものであるが、以下にその実施の形態について説明する。【0014】まず、この出願の発明が提供するイリジウム合金の分析方法は、イリジウム合金の粉末試料に過酸化アルカリを加えて加熱することによりイリジウム合金を融解し、このイリジウム合金の融解物を王水で溶液化して得た溶液試料を用いて、イリジウム合金に含まれる元素を定量することを特徴としている。【0015】この出願の発明において、イリジウム合金としては各種のものを分析の対象とすることができる。たとえば、イリジウムの含有量は、分析誤差約±1%以内としたとき、1〜100%とすることができる。すなわちイリジウムの含有量が10%以上のものや、金属イリジウムまでをも分析の対象とすることができるのである。また、このイリジウム合金に添加される元素としては、たとえば、具体的には、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Tc,Re,Fe,Ru,Os,Co,Rh,Ni,Pd,Pt,Cu,Ag,Au,Si,Sc,Yおよびランタノイド系元素等の合金元素などを考慮することができる。これらの金属元素は、単体、弱い結合あるいは比較的弱い金属結合で結ばれている場合には強力な混酸かアルカリ溶液で溶解するものであるが、イリジウムと合金化したものはその強い金属結合によって、従来の融解法では溶解しないとされていたものである。しかしながら、この出願の発明の方法においては、このような強固な金属結合を有するイリジウム合金をも分析の対象として考慮することができるのである。そして、たとえば、この出願の発明者らが開発したイリジウム合金などのように、イリジウムの含有量が10wt%よりもはるかに多く、Nb,Zr,Ti,Hf,Ta等の遷移金属やNi,Al等の金属が添加された、高融点で、化学的にも安定な、耐熱材料としての利用が期待されるイリジウム合金もその対象とすることができるのである。さらに、この発明の分析方法においては、後で説明する試料の融解を800℃で行うようにしているが、イオウ化合物、ホウ素化合物、リン化合物等の揮発性を有するイリジウム化合物をも融解温度を下げることにより分析の対象とすることなども可能とされている。以下では、分析の対象をイリジウム合金と称してこの出願の発明を説明するが、もちろんこれに限定されるものではない。【0016】このようなイリジウム合金は、微細化した粉末状のものを分析試料とするようにしている。粉末試料の粒径は、融剤としての過酸化アルカリとの反応表面積を大きくし、融解に要する時間を短縮するために、できるだけ細かいものであることが好ましい。その粒径については、対象とするイリジウム合金の組成によっても異なるため一概には言えないが、目安としては、Ir−Al系、Ir−Mg系あるいはIr−Zn系イリジウム合金等のように、比較的延性を有していて、含有される元素が比較的低融点である場合には、一般的には、約149μm以下(100メッシュアンダー)にすることが適切な例として示される。より好適には、約74μm以下(200メッシュアンダー)であり、たとえば、Nb,Zr,Ti,Hf,Ta,Mo等のイリジウムとより強い金属結合を形成し、高融点の元素が含まれる場合等には、約74μm以下にすることが望ましい。より具体的には、たとえば、Ir−29Nb系、Ir−Nb−Ni−Al系、Ir−25Zn系、Ir−25Ta系、Ir−25Hf系、Ir−Nb−W系、Ir−25Ti系、85Ir−10Nb−5Ta系、87Ir−10Nb−3Mo系等の場合には、約74μm以下にするようにする。【0017】次いで、このイリジウム合金の粉末試料を精秤する。たとえば、融解に50ccのるつぼを使用する場合には、粉末試料量を約0.2g程度とするのが適当である。このとき、より高精度な分析を行うためには、従来の化学分析の手法のとおり、105〜110℃の乾燥機で乾燥させて恒量とした粉末試料について、はかりの目はたとえば下4桁まで読むようにすることなどが考慮される。秤量した粉末試料は、たとえば50ccのるつぼに入れ、その表面を覆うようにして、過酸化アルカリを加える。【0018】この出願の発明においては、融剤として過酸化アルカリを用いるようにしている。この過酸化アルカリとしては、反応性や酸化力の点からは過酸化ナトリウム(Na2O2)あるいは過酸化カリウム(K2O2)を用いることが好ましい。これらの過酸化アルカリについても、イリジウム合金の粉末試料との反応性を高めるために、できるだけ微細なものであることが好ましい。より実際的には、市販されているため入手が容易な過酸化ナトリウム(Na2O2)を用いることが簡便である。【0019】イリジウム合金に加える過酸化アルカリの量は、たとえば過酸化ナトリウムあるいは過酸化カリウムを用いる場合、イリジウム合金:過酸化アルカリとして、重量比で、およそ1:10〜1:30程度の範囲で調整することができる。過酸化アルカリの量が多いほどイリジウム合金との反応量が多くなり、イリジウム合金を融解しやすくなるため好適であるが、多すぎる場合にはイリジウム合金中の含有量が少ない元素についての分析誤差が大きくなってしまうために好ましくない。また何よりも、過酸化ナトリウムはイリジウム合金の融解に際して非常に激しく反応するため、これ以上の添加は融解に用いるるつぼの腐食を顕著なものとしてしまう。したがって、イリジウム合金中にNb,Zr,Ti,Hf,Ta,Mo等の比較的高融点で、イリジウムとより強い金属結合を形成する元素が含まれる場合には過酸化アルカリの量を1:25程度とし、上記の元素が含まれない場合には1:10程度とすることが適当な例として示される。【0020】なお、この出願の発明において、イリジウム合金の融解に用いるるつぼの選択は極めて重要な要素である。このイリジウムの分析では、イリジウム合金の融解のための温度および時間と過酸化アルカリによる腐食等の化学的性質とを考慮して、Niるつぼかあるいは鉄るつぼを用いるようにしている。【0021】このるつぼにイリジウム合金の粉末試料および過酸化アルカリを入れ、次いでるつぼのふたをし、電気炉等の加熱手段を利用してイリジウム合金を融解する。加熱融解中にはガスが発生するため、るつぼのふたは完全に密閉せずに、斜めにずらせて乗せるようにする。【0022】このようなイリジウム合金の粉末試料の完全な加熱融解には、800〜900℃程度の高温が必要であることが見出されたが、高温で長時間の融解はるつぼを激しく腐食する。したがって、あらゆる条件を勘案した結果、800℃で30分間以上の加熱を施すことが効率の良い融解の条件として例示される。なお、用いるるつぼの厚みによって融解温度をより高くすることや融解時間を長くすることは試料の完全な融解のために有効となるが、たとえば、るつぼとして一般適な厚みのNiるつぼを、融剤として過酸化アルカリを用いた場合には、900℃で1時間の加熱はるつぼの腐食により不可能となるので注意する必要がある。【0023】また、このイリジウム合金と過酸化アルカリの反応は、加熱により爆発的に進行するため、加熱融解は、たとえば、まず300〜400℃程度にまで昇温して予備加熱したのち、500℃、600℃、700℃と100℃毎にそれぞれの温度で10分間ずつ保持して800℃程度まで昇温し、800℃で30分間保持するなど、温度を徐々に上げながら溶融するようにすることが好ましい。800℃で10分間程度融解した後は、るつぼ挟み等でイリジウム合金と過酸化アルカリをよく攪拌し、反応を促すことが効果的である。ここで、完全なイリジウム合金粉末試料の融解は、元の灰色が赤紫色に変化し、イリジウム(Ir)が3〜4価で安定していることで確認することができる。完全な融解を確認してから、放冷するようにする。【0024】この出願の発明では、以上のようなイリジウムの融解後、このイリジウム合金の融解物を王水で溶液化するようにしている。すなわち、イリジウム合金を過酸化アルカリ、たとえば過酸化ナトリウム(Na2O2)で融解し、次いでこの融解物に王水を加えることで、王水による塩化ニトロシル(NOCl)の溶解力を利用し、イリジウムを塩化第二イリジウムナトリウム(Na2IrCl6)として溶液化するようにしている。【0025】ここで、実際的な操作としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製ビーカーに王水を用意しておき、Niるつぼ内の融解物を蒸留水で溶解させてからこのPTFE製ビーカー内に加えて溶液化することができる。もちろん、一般的な化学分析と同様に、るつぼに付着した融解物およびるつぼのふたに飛散した溶融物は、PTFE製の攪拌棒等で擦りながら蒸留水および塩酸で洗浄し、溶液に加えることができる。また、この溶液をサンドバスやヒーター等を利用して沸騰前の200℃前後に加熱することが、塩化ニトロシルやNO2の発生および反応状態に有効に作用する。【0026】なお、PTFE製器具の使用は、融解物が呈する強アルカリ性に依るものである。したがって、溶融物が王水により酸性に変化されたあとや、王水による融解の手順を変えればガラス器具を用いることができる。ここで用いる王水は、塩酸と硝酸を体積比で3:1の割合で混合した一般的な王水であってよく、たとえば、上述のとおりイリジウム合金粉末試料を約0.2gと融剤(Na2O2)5gを使用する場合には、王水を120mlとすることが適当な例として示される。また、塩酸については、50ml程度とすることが例示される。【0027】この溶液を定溶化することで、分析に供することができる。たとえば、含有量が少ない元素の測定については500mlのメスフラスコでメスアップすることや、比較的含有量が多い元素の測定については1000mlのメスフラスコでメスアップすること等が例示される。【0028】しかしながら、一方で、試料のイリジウム合金がNb,Zr,Ti,Hf,Ta,W,Mo、Ho等の元素(以下沈殿発生元素という)を含有している場合には、王水での溶液化により加水分解が生じ、溶液内にこれら元素による微細な沈殿が発生する。たとえばNbが含有されている場合には微細な白色の沈殿が発生する。そこで、この出願の発明においては、イリジウム合金が沈殿発生元素を含有する場合には、これらの沈殿発生元素の分析にあたり、王水での溶液化のあと溶液にクエン酸を加えて加熱溶解し、さらにフッ酸およびホウ酸を加えて加熱溶解して溶液試料とするようにしている。【0029】この発明において、クエン酸はニオブの加水分解を抑制する働きを担うものである。フッ酸は微細な沈殿を溶解する働きを担うものである。そして、ホウ酸は、過剰なフッ酸のマスキングする役目を担うものであり、分析機器たとえばプラズマトーチの腐食を防ぐことができる。これらのクエン酸、フッ酸、ホウ酸の添加量としては、たとえば上述のとおりのイリジウム合金粉末試料を約0.2gと融剤(Na2O2)5gを使用する場合には、それぞれ、10g、20ml、10g程度とするのが適当な例として示される。また、これらの試薬を添加した際の加熱溶解は、試薬が溶液中に均一に溶解すればよく、たとえば、サンドバスやヒーター等を利用して200℃前後とすることが簡便な例として示される。【0030】このように沈殿物を溶解させた溶液については、沈殿が生じない場合と同様に定溶化することで分析に供することができる。【0031】この出願の発明のイリジウム合金の分析方法においては、以上の手順で得られた溶液試料を、各種の分析手法あるいは分析機器に供することができる。たとえば、フレームおよびフレームレスの原子吸光分析(AAS)、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−AES)、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)等による分析を採用することができる。これらの分析法は汎用法であり、多元素測定が可能でもある。また、分析に際して特殊な器具を取り付ける必要もない。もちろん、溶液試料についてのバックグラウンドの調整や濃度の調整などの詳細は、各分析手段や使用する分析装置などに応じて適宜調整することができる。【0032】これによって、イリジウム合金に含まれる元素を、他の材料の分析と同様に、簡便に定量することができる。また、分析の操作も簡便で不純物の混入も少なく、低融点〜高融点のあらゆるイリジウム合金を、初心者でも定量分析することができる。【0033】以下に実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。【0034】【実施例】(実施例1)図1のフローチャートに沿って、以下の手順でイリジウム合金の組成分析を行った。<試料作製>試料1および2として、下記の組成および組織を有するイリジウム合金粉末を作製した。組成は重量%で示した。【0035】試料1:Ir−2.6Al(fcc+B2)試料2:Ir−15.24Nb−1.92Ni−0.28Al(L12)試料1および試料2は下記の純金属を原料とし、アーク溶解にて溶製したインゴット10gをas−castのまま鉄製容器に入れて細粉末に粉砕し、ふるいにより、A:100メッシュアンダー(149μm以下)とB:200メッシュアンダー(74μm以下)の2種類に選別したものをそれぞれ用いた。【0036】純イリジウム :(株)フルヤ金属純ニオブ :フルウチ化学(株)純ニッケル :ヤマト化学純アルミニウム:(株)フルヤ金属<試料の融解および試料溶液の調整>それぞれの試料を105〜110℃の乾燥機で2時間乾燥させて恒量とし、約0.2gを正確に秤量してNiるつぼ(50cc)に移した。融剤としては過酸化ナトリウムを用い、試料を覆うようにNiるつぼ内に投入し、ふたを斜めにしたのち、電気炉にて試料を加熱融解した。各試料ともn=2とした。【0037】なお、融剤の量を2gとしたところ、試料1についてはA:100メッシュアンダーおよびB:200メッシュアンダー共に完全に融解することができた。一方のNbを含む試料2については、融剤の量が2gでは融解できず、B:200メッシュアンダーの試料に対して融剤を5g加えることで均一に完全融解することができた。【0038】また、加熱融解は、試料の爆発的な反応を避けるため、まずNiるつぼを400℃の炉内に入れて予備加熱を行い、その後100℃ごと10分間づつ保持しながら800℃まで昇温し、800℃で30分間保持して均一に融解させた。このとき、溶融物は元の灰色から赤紫色へと変化しており、イリジウムが3〜4価に変化したことを確認した。【0039】融解物を放冷後にPTFE製ビーカーに移し、王水(塩酸3:硝酸1)120mlを加えて酸性溶液とした。また、Niるつぼおよびふたは蒸留水および塩酸50mlにて洗浄して、融解物を溶解してPTFE製ビーカーに加えた。【0040】PTFE製ビーカーの溶解液を全てコニカルビーカーに移したところ、試料1については沈殿も不溶解物も認められなかったため、メスフラスコにて定容した。試料2については、微細な白色沈殿が発生していた。この沈殿は、ニオブが加水分解したときに生ずる白色沈殿であったため、溶解液を全てPTFE製ビーカーに移してクエン酸10gおよびフッ酸20mlを加え、サンドバス上で200℃で加熱することにより溶解して透明な溶液とした。過剰なフッ酸については、ホウ酸を加えることでホウフッ化物とし、分析時のプラズマトーチの腐食を防止するようにした。このように処理した溶解液をメスフラスコにて定容した。【0041】以上の手順で得られた試料溶液を、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)装置を用いて、検量線法により分析した。<標準溶液>ICP−AES分析に際し、イリジウム、ニオブ、アルミニウム、ニッケルの各標準溶液には、原子吸光分析用標準液(1000μg/ml、和光純薬工業(株)社製)を、適宜検量線濃度に調整して用いた。イリジウム、アルミニウム、ニッケルについては王水および塩酸で希釈し、ニオブについては、硫酸およびフッ酸溶液で希釈して用いた。<試薬および装置>以上の試料溶液および標準液の調整には以下の試薬を使用した。【0042】過酸化ナトリウム :メルク・ジャパン(株)製塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸:和光純薬工業(株)製またICP−AES装置には、セイコーインスツルメンツ(株)製、SPS−1500VRを使用した。<分析結果>試料1および2の定量分析の結果を表1および表2にそれぞれ示した。【0043】【表1】【0044】【表2】【0045】試料1および試料2のいずれの合金についても、公称組成と近い値を得ることができ、この出願の発明の分析方法が有効であることが確認された。(実施例2)実施例1に記載した純イリジウム金属(純度99.9%)粉末を粉砕し、実施例1と同様に分析を行った。149μm以下の試料について、融剤としての過酸化ナトリウムを1:10の割合で添加したところ、完全に融解できることが確認された。調整された溶液試料についてICP−AES分析を行った結果を表3に示した。【0046】【表3】【0047】純イリジウム金属についても、この出願の発明の方法で分析できることが示された。【0048】もちろん、この発明は以上の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。【0049】【発明の効果】以上詳しく説明した通り、この発明によって、金属結合により化学的に安定で溶解が困難なイリジウム合金の融解および化学分析を可能とする、精度が良く簡便なイリジウム合金の分析方法が提供される。【図面の簡単な説明】【図1】この出願の発明のイリジウム合金の分析のフローチャートを例示した図である。 イリジウム合金の粉末試料に過酸化アルカリを加えて加熱することによりイリジウム合金を融解し、このイリジウム合金の融解物を王水で溶液化して得た溶液試料を用いて、このイリジウム合金に含まれる元素を定量することを特徴とするイリジウム合金の分析方法。 試料としてのイリジウム合金が、イリジウムの含有量10重量%以上であることを特徴とする請求項1または2記載のイリジウム合金の分析方法。 イリジウム合金がIr−Al系、Ir−Mg系あるいはIr−Zn系である場合、粉末試料の粒径を149μm以下とすることを特徴とする請求項1記載のイリジウム合金の分析方法。 イリジウム合金に対する過酸化アルカリの混合比を、1:10とすることを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載のイリジウム合金の分析方法。 イリジウム合金がNb,Zr,Ti,Hf,Ta,Moのいずれか1種以上の元素を含有している場合、粉末試料の粒径を74μm以下とすることを特徴とする請求項1ないし4いずれかに記載のイリジウム合金の分析方法。 イリジウム合金に対する過酸化アルカリの混合比を、1:25とすることを特徴とする請求項5記載のイリジウム合金の分析方法。 過酸化アルカリが過酸化ナトリウムであることを特徴とする請求項1ないし6いずれかに記載のイリジウム合金の分析方法。 加熱融解は、800℃で30分間保持することを特徴とする請求項1ないし7いずれかに記載のイリジウム合金の分析方法。 イリジウム合金がNb,Zr,Ti,Hf,Ta,W,Mo、Hoのいずれか1種以上の元素を含有している場合、王水での溶液化のあと、この溶液にクエン酸を加えて加熱溶解し、さらにフッ酸およびホウ酸を加えて加熱溶解して溶液試料とすることを特徴とする請求項1ないし8いずれかに記載のイリジウム合金の分析方法。 イリジウム合金の融解には、Niるつぼまたは鉄るつぼを用いることを特徴とする請求項1ないし9いずれかに記載のイリジウム合金の分析方法。 イリジウム合金に含まれる元素の定量には、誘導結合プラズマ発光分析装置を用いることを特徴とする請求項1ないし10いずれかに記載のイリジウム合金の分析方法。 イリジウム合金の代わりに、イリジウムのイオウ化合物、ホウ素化合物あるいはリン化合物を用い、このイリジウムの化合物に含まれる元素を定量することを特徴とする請求項1ないし11いずれかに記載の分析方法。


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