タイトル: | 特許公報(B2)_プルラン含有粉末とその製造方法並びに用途 |
出願番号: | 2001309759 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C08B 37/00,A23L 1/05,A23L 1/238,A61K 8/60,A61K 31/719,A61K 47/26,A61K 47/36,A61P 17/16 |
杉本 利行 三宅 俊雄 JP 4132767 特許公報(B2) 20080606 2001309759 20011005 プルラン含有粉末とその製造方法並びに用途 株式会社林原生物化学研究所 000155908 杉本 利行 三宅 俊雄 JP 2001220683 20010719 20080813 C08B 37/00 20060101AFI20080724BHJP A23L 1/05 20060101ALI20080724BHJP A23L 1/238 20060101ALI20080724BHJP A61K 8/60 20060101ALI20080724BHJP A61K 31/719 20060101ALI20080724BHJP A61K 47/26 20060101ALI20080724BHJP A61K 47/36 20060101ALI20080724BHJP A61P 17/16 20060101ALI20080724BHJP JPC08B37/00 DA23L1/04A23L1/238 ZA61K8/60A61K31/719A61K47/26A61K47/36A61P17/16 C08B 37/00 A23L 1/05 A23L 1/238 A61K 8/00-8/99 A61K 31/719 A61K 47/26 A61K 47/36 A61P 17/16 特開平05−306350(JP,A) 特開平03−014519(JP,A) 特開平11−263795(JP,A) 特開昭62−236860(JP,A) Gail M. Bradbook et al,Carbohydrate Research,2000年,329,p.655-665 9 2003096103 20030403 18 20040701 原田 隆興 【0001】【発明の属する技術分野】プルランとともにグルコースを構成糖とする非還元性糖質を均質に含み、耐湿性を損なうことなく、水に対する溶解速度の改善されたプルラン含有粉末、その製造方法ならびに用途に関する。【0002】【従来の技術】プルラン製品としては、現在、(株)林原商事より、平均分子量10万のプルラン粉末(商品名『プルランPF−10』)と平均分子量20万のプルラン粉末(商品名『プルランPF−20』『プルランPI−20』)が販売されている。プルランは、酸性、アルカリ性に対して比較的安定であり、水に可溶性の無色、無臭な多糖類で、粘着性、接着性、付着性、固着性、造膜性などを有していることから、食品、医薬品、化粧品など多くの分野で使用されている。更に、成形性、紡糸性を有していることから、例えば、水可溶性のフィラメントなどに成形したり、無色透明な可食性フィルムやカプセル、チューブなどの各種形状の成形物に加工することも容易である。【0003】プルラン成形物、例えば、フィルムなどを作る場合には、当該成形物の性質を改善する目的で、プルランを含む原料水溶液にいろいろな物質を溶解し、含有させることが行われている。湿度変化に対する安定性(特に、成形時の乾燥に対する耐性)を付与する例としては、グリセリンや糖アルコールを加えることが採用されている。本発明者等は、先に、いろいろ検討を加えた結果、グルコースを構成糖とする非還元性糖質を含有させることにより、成形物に対して湿度変化に対する安定性を付与する効果が、グリセリンや糖アルコールよりも大きいことを見出した。(特願2001−129118号明細書)【0004】例えば、成形物を製造するに際し、グルコースを構成糖とする非還元性糖質としてα,α−トレハロースを用いる場合、プルラン製品(粉末)とα,α−トレハロース製品(粉末)とは共に粉末であることから、予め、これらを混合し、この粉末混合物を溶解して用いることができれば、現場での作業性を格段に向上させることができる。しかしながら、プルラン製品とα,αトレハロース製品とは互いに粉末の形状を保っているものの、嵩比重が違い過ぎ、プルラン製品とα,α−トレハロース製品とをいかにうまく分散、混合したとしても、計量・包装、移送・運搬、使用時などで振動が加わると、お互いに分離を生じて粉末混合物の均質性が保てなくなり、成形物を製造するための原材料としては適さないことが判明した。この様な理由から、現状では、やむを得ずに使用直前に別々に原料を計量し、溶解する方法しかなく、作業性の悪い要因となっている。【0005】一方、プルラン製品自体の水に対する溶解速度は必ずしも大きくなく、耐湿性を損なうことなく、水に対してより大きな溶解速度が得られれば、溶解時の作業性を更に改善できることが期待される。【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は、常に均質性を保持でき、且つ、耐湿性を損なうことなく、水に対する溶解速度の改善されたプルラン含有粉末を確立することを第一の課題とし、当該プルラン含有粉末の製造方法を確立することを第二の課題とし、当該製造方法を用いて調製したプルラン含有粉末の用途を提供することを第三の課題とするものである。【0007】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決することを目的に、鋭意研究を行った。その結果、プルランとグルコースを構成糖とする非還元性糖質とを均質な溶液とし、これを乾燥、粉末化することで、プルランとグルコースを構成糖とする非還元性糖質とを均質に含むプルラン含有粉末が得られ、このプルラン含有粉末は成分の分離を起こす懸念がなく、更に、意外にも、耐湿性を損なうことなく、水に対する溶解速度が大きくなった全く新規なプルラン含有粉末製品を得ることができることが判明した。【0008】詳細には、本発明のプルラン含有粉末を用いることで、例えば、成形物を製造するに際し、本発明の粉末を計量、溶解することにより、これまでのようなプルラン粉末とグルコースを構成糖とする非還元性糖質粉末とを別々に計量し、溶解液を調製するのに比べて、作業時間の短縮および作業性の改善が図れるとともに、更に、耐湿性を損なうことなく、本発明のプルラン含有粉末の水に対する溶解速度を高められることから、溶解に要する時間の短縮を図れる。しかも、得られる成形物に対しては、湿度変化に対する安定性を付与することもできる。【0009】以上のことから、プルランとともにグルコースを構成糖とする非還元性糖質を均質に含む溶液を粉末化し、これを採取することにより、本発明のプルラン含有粉末およびその製造方法の確立、更に、本プルラン含有粉末を用いた食品、化粧品、医薬品、成形物などへの用途を提供する事により、本発明の課題が解決できることを新たに見出し、本発明を完成するに至った。【0010】【発明の実施の形態】本発明のプルラン含有粉末は、プルランとグルコースを構成糖とする非還元性糖質(以下、本明細書では、グルコースを構成糖とする非還元性糖質を単に非還元性糖質と略記することもある。)とを均質に含む粉末であればよく、望ましくは、非晶質の状態で粉末粒子内を含めて均質に含む粉末で、具体的には粉末化する前のプルランと非還元性糖質を均質に含む溶液を調製する方法としては、次ぎのような方法がある。例えば、現在市販されているプルラン粉末と市販の非還元性糖質とを均質に含む溶液を調製した後、公知の方法で粉末化して本発明のプルラン含有粉末とすることができる。【0011】あるいは、非還元性糖質とともに還元性糖質を含む糖質を炭素源として、この炭素源を含む栄養培地を用いて、プルラン産生能を有する微生物であるオーレオバシディウム プルランスを培養し、産生されたプルランと消費されなかった非還元性糖質を含む培養液を、除菌、精製、濃縮、粉末化して本発明のプルラン含有粉末を調製することもできる。又は、プルラン産生能を有する微生物を公知の栄養培地で培養した後、産生されたプルランを含む培養液を精製、濃縮し、粉末化するまでのプルランを含む溶液に非還元性糖質を溶解し、均質に含む溶液とした後、公知の方法で粉末化することで本発明のプルラン含有粉末を調製することもできる。【0012】粉末化する方法としては、公知の方法が適宜選択でき、例えば、ドラムドライヤーで乾燥したのち粉砕する方法や噴霧乾燥する方法などがある。【0013】グルコースを構成糖とする非還元性糖質とは、グルコースを唯一の構成糖とするホモオリゴ糖であるα,α−トレハロース、環状四糖、シクロデキストリンなどをいう。【0014】α,α−トレハロースとは、グルコースが2個、α,α−1,1で結合した非還元性の糖質である。本発明に使用するα,α−トレハロースの由来は問わない。例えば、特開平7−246097号公報に記載されている酵母から抽出して得られるα,α−トレハロース、特開昭58−216695号公報に記載されているマルトースからホスホリラーゼ法を用いて得られるα,α−トレハロース、特開平7−170977号公報、特開平7−213283号公報等に記載されている澱粉から酵素糖化法を用いて得られるα,α−トレハロースなどがある。市販されているものには、高純度含水結晶トレハロース((株)林原商事販売、登録商標『トレハ』)がある。【0015】環状四糖とは、ゲイル・エム・ブラッドブルク等によって『カーボハイドレート リサーチ』、第329巻、655乃至665頁(2000年)に構造が示されているように、グルコースが4個、α−1,3とα−1,6結合で交互に環状に結合した非還元性の糖質である。本糖質は、本出願人が特願2000−234937号明細書で示した方法によれば、澱粉から酵素糖化法を用いて容易に製造することができる。【0016】シクロデキストリンとは、グルコースがα−1,4結合で環状に繋がった非還元性の糖質である。本糖質はシクロデキストリン グルカノトランスフェラーゼを作用させることにより、澱粉から酵素糖化法を用いて容易に製造することができる。市販されているものにはグルコースがそれぞれ6個、7個、8個環状に繋がったα、β、γ−シクロデキストリンがある。【0017】本発明のプルラン含有粉末に含まれる非還元性糖質の量は、プルランを製造する際に使用する栄養培地に含まれる非還元性糖質の量とプルラン産生菌が消費する量との関係、及び/又は、産生されたプルラン含有培養液を精製、濃縮し、粉末化するまでのプルラン含有溶液中に共存させる非還元性糖質の量により左右される。【0018】本発明のプルラン含有粉末中の非還元性糖質含有量が多くなり過ぎると、プルラン本来が持つ粘着性、接着性、付着性などに悪影響を与えたり、プルランを主成分とする各種成形物、例えば、フィルムやカプセルを製造する場合など用途によっては、出来た成形物が脆くなるなどの欠点が発現することになる。また、非還元性糖質の含有量が少な過ぎると本発明の効果が期待できない。そこで、本発明のプルラン含有粉末、及び、これを利用した成形物の性質の両面から考えて、当該粉末製品中のプルラン含有率は、無水物換算で、50w/w%(以下,本明細書では特にことわらない限り、w/w%を単に%と略記する。)以上であり、且つ、プルランに対する非還元性糖質の含有量は、無水物換算で0.1%以上、100%未満、望ましくは、0.5%乃至60%の範囲になるようにするのが好適である。【0019】均質に含むとは、本発明のプルラン含有粉末のどの部分をサンプリングしても、常にプルランと非還元性糖質の含量比が実質的に一定の値を示すことをいう。【0020】溶解速度が大きくなるとは、これまでのプルラン粉末はうまく分散してもなかなか溶けず、完全に溶解するまでには比較的長い時間を要した。しかし、非還元性糖質を含有することにより、完全に溶解するまでに要する時間がこれまでのプルラン粉末に比べて短縮されることをいう。【0021】澱粉から調製される非還元性糖質と還元性糖質との混合糖質としては、澱粉を液化した後、例えば、特開平5−156338号公報に記載の非還元性糖質生成酵素とトレハロース遊離酵素、同じ出願人による特願2000−234937号明細書に記載のα−イソマルトシルグルコ糖質生成酵素とα−イソマルトシル転移酵素、又は、シクロデキストリン グルカノトランスフェラーゼなどの各種酵素を作用させ、それぞれ、トレハロース、環状四糖、シクロデキストリンなどのグルコースを構成糖とする非還元性糖質とともにグルコースやマルトースなどの還元性オリゴ糖を含む糖化液を得るか、又は、得られた糖化液中に共存する還元性マルトオリゴ糖をグルコアミラーゼなどの酵素を用いてグルコースにまで分解したものを使用することができる。【0022】更に、非還元性糖質を生成する酵素を作用させて得られた非還元性糖質を含む糖化液を常法に従って脱塩、脱色精製し、一定の濃度に濃縮したのちに種晶を加えて結晶を析出させて得られる結晶を含む糖質溶液、又は、脱塩、脱色精製した非還元性糖質を含む糖化液を強酸性カチオン交換樹脂などを使用したクロマト分離を行なって非還元性糖質の含有率を高めた後、同様にして種晶を加えて結晶を析出させて得られる結晶を含む糖質溶液を、遠心分離機などを使用して結晶を回収した後の糖溶液(母液)も使用することができる。【0023】還元性糖質と非還元性糖質を含む混合糖質としては、澱粉を種々の方法を用いて加水分解したのち脱塩、脱色精製した単糖であるグルコースやマルトース、イソマルトース、マルトトリオースなどのマルトオリゴ糖を1種及び/又は2種以上を含む還元性糖質、又は、市販のぶどう糖や水飴などの澱粉分解物、フラクトース、砂糖や廃糖蜜などの糖質と、α,α−トレハロース、環状四糖、シクロデキストリンなどのグルコースを構成糖とする非還元性糖質とを含む混合糖質を使用することができる。なお、これらの糖質を栄養培地に使用する方法は、プルラン産生菌の培養を開始する前の液体培地又は培養途中のフィーディング培地などの炭素源として有利に利用できる。【0024】培養液を精製、濃縮し、粉末化するまでの工程とは、プルラン製造工程において、プルランを産生するための培養工程を終了した時点から、プルランを粉末化する為の操作を開始するまでの溶液工程である。【0025】上記のように、プルランと非還元性糖質を均質に含む溶液とした後、公知の方法で粉末化して得られる本発明のプルラン含有粉末は、プルランと非還元性糖質が一定の割合で含有しており、しかも、それぞれの成分が分離する心配は全くない。また、従来の非還元性糖質を含まないプルラン粉末と比較して、耐湿性を損なうことなく、水に対する溶解速度が大きくなり、成形物などを作成するための原料水溶液の調製作業を従来に比べて格段に向上させることができる。更に、非還元性糖質を含んでいることから、本発明のプルラン含有粉末を原材料として使用して得られる成形物に対して、湿度変化に対する安定性を付与することもできる。【0026】また、本発明のプルラン含有粉末は、プルランに加えて、α,α−トレハロース、環状四糖、シクロデキストリンなどの非還元性糖質が、酸化を受けやすい物質や揮発を受けやすい物質を保護、安定化する働きを発揮する特徴も持っている。とりわけ、環状四糖、シクロデキストリンなどの環状糖質は、分子内に疎水性の空洞部分を持っており、いろいろな物質を取り込み安定化する働き(包接現象)を有しており、例えば、酸化、熱分解、光分解を受けやすい物質、又は揮発しやすい物質などを包接させることにより安定化が図れ、且つ、異臭のマスキング、難溶性、不溶性物質を可溶化することもできることから、食品、医薬品、化粧品やその他の分野でも、この特徴が有利に利用できる。これらの特徴は、成形物でも発揮されることから、本発明の環状糖質を含むプルラン含有粉末は、フィルム、カプセル等の原材料として有利に利用できる。【0027】プルラン含有粉末を他の素材とともに含む組成物とは、プルラン含有粉末中のプルランが持つ粘着性、接着性、付着性、固着性、造膜性、成形性、紡糸性などの性質とともに、各種の非還元性糖質が持つ湿度変化に対する安定化、他の構成成分の安定化や揮発抑制などの性質を組成物に対して付与する目的で、本発明のプルラン含有粉末を構成成分として含んだ組成物である。【0028】組成物中の他の素材に対する本発明のプルラン含有粉末の量は、少ないと上記のような効果が期待できなくなり、逆に多くなるとプルラン量が多くなることにより組成物やその原材料または中間製品を液状としたときに粘性が高くなり、作業性が悪くなったり、組成物の物性を損なうなどの悪影響が現れるようになる。そこで、他の素材に対する本発明のプルラン含有粉末の量としては、無水物換算で0.5%以上、90%未満、望ましくは、1%乃至80%の範囲で含む組成物が好適である。【0029】組成物の例としては、パンなどの小麦粉または餅などの白玉粉を主原料とする菓子、乳酸飲料、ゼリー、流動食、粘性を持つ飲料や調味料、海苔や珍味などの再加工食品などの食品類やこれらの原材料または中間製品として、乳液、クリーム、シャンプー、リンス、トリートメント、口紅などの化粧品類やこれらの原材料または中間製品として、練歯磨、糖衣錠、軟膏、ハップ剤などの医薬品やこれらの原材料または中間製品として、更には、フィルム、カプセル、シート、糸などの本発明のプルラン含有粉末が主成分である成形物などがある。【0030】以上のような性質を有することから、本発明のプルラン含有粉末は、例えば、食品、医薬品、化粧品の用途として、プルランフィルム、カプセルなど各種成形物、錠剤などの賦形剤、コーティング剤、構成成分の安定化剤、液状品の増粘剤、更には、固形物を成形するための固着、接着剤などとして有利に利用できる。【0031】また、成形物の一種であるプルランフィルムは、そのままで、又は、フィルム表面を調湿した後にヒートシールを行うことで、シールすることも可能である。更に、必要に応じて、プルランフィルムを製造するに際し、本発明のプルラン含有粉末とともに適量のグリセリン、糖アルコールなどの可塑剤を用いて製造することにより、更にヒートシール性を向上させることも出来る。【0032】以下に、本発明の成形物の一例としてプルランフィルムおよびそれの原材料であるプルラン含有粉末の特性に関して、具体的な実験を用いて詳しく説明する。【0033】【実験1】〈プルランフィルムの保湿性および吸湿性〉プルランフィルムの保湿性および吸湿性試験は次のようにして行った。プルランフィルムの調製には、原料水溶液として、次の組成を含む溶液を用いた。プルラン粉末を無水物換算で10g、剥離剤としてのショ糖モノラウレート0.01g、各種添加物(糖質添加無しではイオン交換水)を無水物換算で1g、のそれぞれをイオン交換水34gに完全に溶解したものである。使用した糖質のうち、グリセリン、グルコース及びスクロースは和光純薬(株)販売の試薬、マルトース、マルチトール、α−シクロデキストリン(以下、本明細書では特にことわらない限り、α−シクロデキストリンを単にα−CDと略記することもある。)は(株)林原生物化学研究所製造の試薬、α,α−トレハロースは(株)林原商事販売の登録商標『トレハ』、プルランは(株)林原商事販売の商品名『プルランPI−20』を使用した。環状四糖は、同じ出願人による特願2000−234937号明細書に記載した実施例A−3およびA−5の方法に準じて澱粉から調製したもの(純度99.5%)を使用した。【0034】調製したプルランフィルムの原料水溶液は減圧脱泡した後、60℃の温水中で保存した。原料水溶液は、ヨシミツ精機(株)製YBA型ベーカーアプリケーターを使用し、合成プラスチックフィルム上に、幅150mm、長さ500mm、厚さ175μmで流延した。エアードライヤーを用いて均一に乾燥し、含水率が一定の値に達した時点で乾燥を止めた。乾燥終了後、合成プラスチックフィルムから剥がし、得られた各種のプルランフィルムはビニール袋に入れ、封をして保存した。プルランフィルムの厚さは29±2μmであった。【0035】なお、成形物の湿度変化に対する安定性および溶解性の評価は、次のようにして行った。保湿性および吸湿性試験は、25℃にコントロールした恒温室内で行なった。保湿性および吸湿性試験は、RH52.8%で放置し、平衡化したプルランフィルムの重量を基準重量とし、これを低湿度条件下または高湿度条件下に移して放置し、基準重量からの増減重量を測定し、放湿量(%)、吸湿量(%)を算出した。計算式は、下記に示すとおりで、その計算式の値がプラスの場合は放湿を表し、値がマイナスの場合は吸湿を表す。計算式:{(基準重量−放置後重量)/(基準重量)}×100【0036】試験には、塩化マグネシウム飽和水溶液で平衡化したRH33.0%、硝酸マグネシウム飽和水溶液で平衡化したRH52.8%、臭化カリウム飽和水溶液で平衡化したRH80.7%の調湿デシケーターを用いた。デシケーター内の試験中の試料は、蓋なしのアルミ容器に入れて放置した。【0037】プルランフィルムの保湿性とは、低湿度条件下で放置しても水分の放出(放湿量)が比較的少なく、プルランフィルムの外観形状の変化や乾燥によるひび割れなどの変化がなく、かつ、脆くならないことと定義した。保湿性を調べる方法は、予め、RH52.8%の調湿デシケーター内で水分を平衡化したプルランフィルムを、RH33.0%の調湿デシケーター内に移して48時間放置し、プルランフィルムが保有する水分を放出した量を、重量変化で経時的に測定するとともに、外観形状の変化などについても観察した。保湿性が良とは、RH33.0%の低湿度の調湿デシケーター内に48時間放置後、外観形状の変化、脆弱化に伴う弾性の変化が全く生じないか、又はほとんどない状態のものをいい、形状の変化、脆弱化に伴う弾性の低下が発生した場合は否とした。【0038】弾性とは、プルランフィルムを同じ方向に、180度曲げ伸ばしすることにより、ひび割れや破損が起きるかどうかで判断した。弾性ありとは、5回の折り曲げでもひび割れが起きないこととし、壊れるとは1回折り曲げでも破損することとし、中間を壊れやすいとした。【0039】プルランフィルムの耐湿性とは、高湿度条件下で放置しても水分の吸収(吸湿量)が比較的少なく、又は多少はあっても、プルランフィルムの外観形状の変化や表面の性状、更には、吸湿による付着、溶融などの変化が少ないことと定義した。吸湿性を調べる方法は、予め、RH52.8%の調湿デシケーター内で水分を平衡化したプルランフィルムを、RH80.7%の高湿度の調湿デシケーター内に移して48時間放置し、プルランフィルムが水分を吸収した量を、重量変化で経時的に測定するとともに、外観形状の変化などについても観察した。耐湿性が良とは、RH80.7%の調湿デシケーター内に48時間放置後、多少の吸湿はあっても、外観形状の変化やプルランフィルム表面の変化、付着性が全く生じないか、又はほとんどない状態のものをいい、形状やプルランフィルム表面に変化が生じ、付着性が発生した場合は否とした。【0040】付着性とは、アルミ容器に試験用のサンプルを数枚重ねて入れ、48時間放置した後、アルミ容器を取り出して、プルランフィルムの性状などを観察するとき、A.プルランフィルムが溶融して型が残っておらず、アルミ容器に強固に付着している状態B.プルランフィルム同士が強く付着するとともに、容器にも強く付着している状態C.プルランフィルム同士、およびアルミ容器にも付着はあるがすぐ取れる状態D.アルミ容器に付着はなくプルランフィルム同士が少し付着している状態E.付着が見られない状態の5段階に分けて判定した。実験により得られたプルランフィルムの保湿性および吸湿性試験結果を表1に示した。【0041】【表1】【0042】保湿性試験(低湿度で保持した場合)では、糖質添加なしで調製したプルランフィルムは放湿が激しく、保有する水分が減少して乾燥し、脆くなり、壊れるようになった。一方、各種糖質を添加して調製したプルランフィルムは、いずれも水分の蒸発は少なく、特に、マルトース、α,α−トレハロース、マルチトール、環状四糖またはα−CDを添加したものは少なかった。プルランフィルムの弾性でみると、α,α−トレハロース、マルチトール、環状四糖またはα−CDを添加して調製したプルランフィルムは弾性が保たれていたが、グリセリン、グルコース、マルトースまたはスクロースを添加して調製したものは壊れ易かった。【0043】吸湿性試験(高湿度で保持した場合)では、糖質添加なしで調製したプルランフィルムは吸湿が最も少なく、安定であった。一方、糖質を添加して調製したプルランフィルムは、いずれも水分の吸収が認められ、特に、グリセリンまたはマルチトールを添加して調製したプルランフィルムの場合は多かった。プルランフィルムの付着性から見ると、α,α−トレハロース、環状四糖、α−CDまたは糖質添加無しで調製したプルランフィルムは付着が見られず、良好であったが、グリセリンを添加して調製したものは激しく付着が見られた。【0044】以上の結果から総合的に判断すると、湿度変化(保湿性および吸湿性)に対する安定性を付与するための添加物として、従来のグリセリンやマルチトールよりもグルコースを構成糖とするα,α−トレハロース、環状四糖またはα−CDから選ばれる非還元性糖質がより有効であることが明らかである。【0045】【実験2】〈非還元性糖質を含むプルラン含有粉末の調製、粉末の物性、及びそれらを用いたフィルムの調製〉【実験2−1】〈α,α−トレハロース、環状四糖またはα−CDを含むプルラン含有粉末の調製〉α,α−トレハロース、環状四糖またはα−CDを含む本発明のプルラン含有粉末の調製は、プルラン『プルランPI−20』((株)林原商事販売)、α,α−トレハロース((株)林原商事販売 登録商標『トレハ』)、環状四糖(実験1で調製、純度99.5%)またはα−CD((株)林原生物化学研究所製造)を用いて行った。即ち、『プルランPI−20』に含まれるプルラン含有量を、後で述べるプルラナーゼを用いる方法で求めた後、所定量のプルラン水溶液を調製し、これに含まれるプルラン含有量に対して、非還元性糖質を、それぞれ無水物換算で10.0%となるように加え、溶解し、プルランと非還元性糖質とを均質に含有する溶液を調製した。これらの溶液は、エバポレーターを使用して約35%まで濃縮した後、合成プラスチックを拡げたステンレス製バットの中に移し、30℃で2日間、真空乾燥を行い、乾燥品を得た。乾燥品は粉砕器(パワーミル、スクリーン丸穴1.5mm)を用いて粉砕し、各種非還元性糖質を含む本発明のプルラン含有粉末を得た。対照として、非還元性糖質を加えないものも同様に操作して調製し、非還元性糖質を含まないプルラン含有粉末とした。【0046】プルランおよび非還元性糖質の含有量は次の様にして測定した。試料200mgを0.05M酢酸緩衝液(pH6.0)に溶解した後、市販のプルラナーゼ((株)林原生物化学研究所製造)を200単位添加し、プルランをマルトトリオースに完全に分解した。反応液は約1.5%糖濃度となるまで減圧濃縮した後、カートリッジフィルター マイレックス−HV(0.45μ,φ13mm)(ミリポア(株)製)を使用して濾過した。次いで、旭化成工業(株)製の電気透析機マイクロアシライザーGO(AC−110−04)を用いて脱塩処理を行った。この液をMCI(株)製のCK04SSカラムまたは昭和電工(株)製のShodex KS−801カラムを用いた液体クロマトグラフィーを行い、反応液中に含まれる各糖質の含量比は、クロマトグラムにより得られた各糖質に相当するピーク面積比から算出した。プルラン含有量は、プルラナーゼを作用させることにより増加したマルトトリオース量とした。プルラン含有粉末中の全糖質に対するプルラン含有率(%)={(プルラナーゼ反応により増加したマルトトリオースのピーク面積)/(全糖質のピーク面積の総和)}×100プルラン含有粉末中のプルランに対するα,α−トレハロース、環状四糖またはα−CDの含有率(%)={(α,α−トレハロース、環状四糖またはα−CDに相当するピーク面積)/(プルラナーゼ反応により増加したマルトトリオースのピーク面積)}×100プルラン含有粉末の成分分析結果を表2に示した。【0047】【表2】【0048】本発明のプルラン含有粉末を製造するために使用した市販のプルラン『プルランPI−20』には、プルラン以外に、2.3%のわずかな還元性糖質が含まれていた。得られた本発明のプルラン含有粉末は、プルラン量に対して非還元性糖質の割合が、無水物換算で、10.0%を維持されており、調製時の値と同じであった。【0049】【実験2−2】〈プルラン含有粉末の均質性試験〉プルラン含有粉末の均質性試験の為に、対照として、従来法の粉末同士の混合法に従って、非還元性糖質を含まないプルラン含有粉末と非還元性糖質粉末とを均一に混合した粉末混合物を調製した。即ち、粉末混合物は、実験2−1で調製した非還元性糖質を含まないプルラン含有粉末に対して、α,α−トレハロース結晶粉末、環状四糖結晶粉末またはα−CD結晶粉末を、無水物換算で、プルラン量に対して10.0%となるように加え、均一に混合して調製した。このときに用いたα,α−トレハロース結晶粉末、環状四糖結晶粉末またはα−CD結晶粉末の粒度は、実験2−1で調製した非還元性糖質を含まないプルラン含有粉末の粒度に合わすような、調整は特にしなかった。【0050】均質性試験は、本発明のプルラン含有粉末または従来法に従って調製した粉末混合物3gを10ml容の蓋付きプラスチック試験管に入れたものを用意し、約20cmの高さから、机の上に軽く10回または20回落下させて振動(タッピング処理)を加えた後、プラスチック試験管の上部1cmまたは底部1cmにある粉末を各200mgサンプリングし、これに含まれるプルランに対する非還元性糖質含量比を求め、均質性を調べた。即ち、実験2−1に記したと同様の操作を行い、クロマトグラムにより得られた各糖質に相当するピーク面積比から、プルランに対する非還元性糖質の含量比を求めた。プルラン含有粉末および粉末混合物の均質性試験結果を表3に示した。【0051】【表3】【0052】非還元性糖質を含まないプルラン含有粉末とα,α−トレハロース結晶粉末、環状四糖結晶粉末またはα−CD結晶粉末との粉末同士を混合した粉末混合物は、調製時にはほぼ均質であったにもかかわらず、タッピング処理の回数が多くなるに従って、プルランとα,α−トレハロース、環状四糖またはα−CDとの含量比は、大きな差が生じ、その均質性を保持することは出来なかった。一方、プルランとα,α−トレハロース、環状四糖またはα−CDとを共に溶解し、均質な溶液とした後、粉末化した本発明のプルラン含有粉末は、常にプルランとα,α−トレハロース、環状四糖またはα−CDとの含量比が一定であり、均質性が保持された。【0053】【実験2−3】〈溶解性試験〉試料の溶解性試験は、次の2つの方法を用いて実施した。▲1▼、スターラーの上に置いた500ml容のビーカーに本発明のプルラン含有粉末3gを入れ、50℃のイオン交換水300mlを上から投入すると同時にスターラーを一定回転数(250rpm)で回転させ、撹拌しながら粉末が完全に溶解するまでに要する時間を測定した。▲2▼、500ml容のビーカーに50℃のイオン交換水500mlを入れ、本発明のプルラン含有粉末100mgを温水面上に均一に分散して蒔き、粉末が完全に溶解するまでに要する時間を測定した。プルラン含有粉末の溶解性試験結果を表4に示した。【0054】【表4】【0055】溶解性試験の結果から、α,α−トレハロース、環状四糖またはα−CDを含む本発明のプルラン含有粉末は、いずれの方法においても、水に対する溶解速度は非還元性糖質を含まないプルラン含有粉末に比べて大きくなり、完全に溶解するまでに要する時間が短縮された。【0056】【実験2−4】〈試料の吸湿性試験〉プルラン含有粉末試料の吸湿性試験は次のようにして行った。各試料を室温で12時間真空乾燥させた後、アルミ容器に約3gを精秤した。次いで、これを塩化マグネシウム飽和水溶液で平衡化したRH33.0%、臭化ナトリウム飽和水溶液で平衡化した57.7%、臭化カリウム飽和水溶液で平衡化したRH80.7%の各調湿デシケーター内に、蓋をせずに2日間放置し、試料の含有水分を平衡化させた。次いで、アルミ容器を取り出して秤量するとともに、容器内の試料の放置期間中での性状変化(アルミ容器への付着、粉末同士の固着、体積減少)を観察した。吸湿量は、保存期間中に粉末が吸湿して増加した重量を求め、実験2−1に記載の計算式を用いて算出した。プルラン含有粉末の吸湿性試験結果を図1に示した。【0057】図1から明らかなように、α,α−トレハロース、環状四糖またはα−CDを含む本発明のプルラン含有粉末は、非還元性糖質を含まないプルラン含有粉末と比較して、いずれも同じ吸湿量の増加経過を示した。一方、吸湿性試験での保存期間中のプルラン含有粉末の性状に関して、アルミ容器への付着、粉末同士の固着、体積減少などを非還元性糖質を含まないプルラン含有粉末と比較しても、変化に違いは認められなかった。以上のことから、本発明のプルラン含有粉末は、対照の非還元性糖質を含まないプルラン含有粉末と比較して、耐湿性を損なうことはなかったと判断した。【0058】【実験2−5】〈プルランフィルムの調製およびプルランフィルムの物性試験〉プルランフィルムの調製およびプルランフィルムの物性試験は次のようにして行った。プルランフィルムの調製には、原料水溶液として、次の組成を含む溶液を用いた。実験2−1で調製したトレハロースを含まないプルラン含有粉末を、無水物換算で10g、剥離剤としてのショ糖モノラウレート0.01gを加えたものに、更に、グリセリン0.5g、1.0g、1.5g、又は2.0gをそれぞれ加え、イオン交換水34gに完全に溶解したもの、又は、実験2−1で調製したα,α−トレハロースを無水物換算で10%含むプルラン含有粉末を、無水物換算で11g、剥離剤としてのショ糖モノラウレート0.01gを加えたものに、更に、グリセリン0.5g、1.0g、1.5g、又は2.0gをそれぞれ加え、イオン交換水33gに完全に溶解したものである。調製した原料水溶液は減圧脱泡した後、60℃の温水中で保存した。【0059】原料水溶液は、ヨシミツ精機(株)製YBA型ベーカーアプリケーターを使用し、合成プラスチックフィルム上に、幅150mm、長さ500mm、厚さ175μmで流延した。エアードライヤーを用いて均一に乾燥し、含水率が7.5%に達した時点で乾燥を止めた。乾燥終了後、合成プラスチックフィルムから剥がし、得られた各種のプルランフィルムはビニール袋に入れ、封をして保存した。プルランフィルムの厚さは28±2μmであった。【0060】保湿性試験および吸湿性試験は実験1の方法で行い、その結果を同様に評価した。ヒートシール性試験は次のようにして行った。各種のプルランフィルムを、富士インパルス(株)製FA−300型を用いて、圧着圧1.5kg/cm2 でヒートシールを行った後、ビニール袋に入れ室温で2日間保存した後、接着状態を観察した。尚、ヒートシールを行うとき、プルランフィルムのシール部に対して水蒸気を用いて加湿(以下、本明細書では、シール部に対して水蒸気を用いて加湿することを調湿と略記する。)した。シール性の評価は、シール部の両端を手で持って少し強めに引いたとき、シール部が剥がれやすい場合を否とし、剥がれなかった場合を良とした。プルランフィルムの保湿性、吸湿性ならびにヒートシール性試験結果を表5に示した。【0061】【表5】【0062】プルランにグリセリンを含有させた水溶液を用いて調製した各プルランフィルムは、保湿性試験において、グリセリン含有量が少ないと放湿が激しく、保有する水分が減少して乾燥し、脆くなり、壊れやすかった。一方、吸湿性試験においては、グリセリンの含有量が多くなる程吸湿性が増し、著しく付着性を示すようになった。【0063】プルランにα,α−トレハロースとともにグリセリンを含有させた水溶液を用いて調製した各プルランフィルムは、保湿性試験において、α,α−トレハロースを含有することにより放湿が抑えられ、保有する水分の減少は少なく、グリセリン含有量が少なくても弾性があった。一方、吸湿性試験においては、α,α−トレハロースを含有することにより吸湿性が抑制され、グリセリンの含有量が多くなっても付着性はほとんど示さなかった。【0064】ヒートシール性試験において、プルランフィルム表面の調湿を行わなかった場合、グリセリン含有がないと接着が不完全であった。一方、プルランフィルム表面を調湿するか、及び/又は、適量のグリセリンを含有する場合には、α,α−トレハロース含有の有無に関わらず、きちんとシールされていた。【0065】この試験結果から、α,α−トレハロースを含むプルラン含有粉末を使用してフィルム成形物を製造することが可能であり、しかも、出来たフィルム成形物に対して湿度変化に対する安定性を付与できることが明らかとなった。また、グリセリンが共存してもα,α−トレハロースの性質が反映され、グリセリンが持つ望ましくない性質を抑制できることも明らかとなった。【0066】以上の結果から、非還元性糖質を含む本発明のプルラン含有粉末は、プルランと非還元性糖質が一定の割合で、均質に含まれており、しかも、それぞれの成分が分離する心配は全くなく、更には、従来の非還元性糖質を含まないプルラン粉末と比較して、耐湿性を損なうことなく、水に対する溶解速度が大きくなり、しかも、成形物などを製造するに際し、原料水溶液の調製作業を従来に比べて格段に向上させることができる。また、非還元性糖質を含んでいることから、本発明のプルラン含有粉末を原材料として得られる成形物に対して、湿度変化に対する安定性を付与することもできる。【0067】以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。【0068】【実施例A−1】〈α,α−トレハロースを含むプルラン含有粉末〉液化した澱粉に,特開平5−156338号公報の実施例A−6記載の方法に準じて、非還元性糖質生成酵素、トレハロース遊離酵素、澱粉枝切り酵素などを作用させて、α,α−トレハロースを、無水物換算で、80%含む糖化液を調製した。この糖化液を炭素源として10%含む栄養培地を用いて、特公昭−863550号公報記載の方法に準じて、プルラン産生菌(オーレオバシディウム プルランス)を液体培養した。培養終了後、培養液は常法に従って、除菌濾過、活性炭による脱色精製、イオン交換樹脂による脱塩精製、濃縮、乾燥、粉砕を行い、α,α−トレハロースを非還元性糖質として含むプルラン含有粉末を得た。プルラン含有粉末の組成比は、プルラン69.2%、α,α−トレハロース21.3%、グルコース6.2、その他のオリゴ糖3.3%であった。プルランに対するα,α−トレハロースの含量比は、無水物換算で、30.8%であった。【0069】本品は、プルランとトレハロースが均質に存在し、しかも、成分分離の心配もなく、また、耐湿性を損なうことなく、水に対する溶解速度も良好である。以上のことから、本品は、食品、化粧品、医薬品の原材料として、特に、成形物に対して湿度変化に対する安定性を付与できることから、フィルム、カプセルなどになどに好適である。【0070】【実施例A−2】〈α,α−トレハロースを含むプルラン含有粉末〉実施例A−1に記した方法に準じて、液化した澱粉に非還元性糖質生成酵素、トレハロース遊離酵素、澱粉枝切り酵素などを作用させて調製したα,α−トレハロースを、無水物換算で、85%含む糖化液を精製、濃縮した後、種晶を加えて結晶を晶出させ、α,α−トレハロース結晶を含む糖溶液を得た。遠心分離を行って、生成したα,α−トレハロース含水結晶を回収するとともに、α,α−トレハロースを無水物換算で15%含む糖溶液(母液)を得た。この糖溶液を炭素源として10%含む栄養培地を用いて、実施例A−1と同様に、プルラン産生菌(オーレオバシディウム プルランス)を液体培養した。培養終了後、培養液は常法に従って、除菌濾過、活性炭による脱色精製、濃縮、乾燥、粉砕を行い、α,α−トレハロースを非還元性糖質として含むプルラン含有粉末を得た。プルラン含有粉末の組成比は、プルラン90.5%、α,α−トレハロース2.7%、グルコース2.3%、その他のオリゴ糖4.5%であった。プルランに対するα,α−トレハロースの含量比は、無水物換算で、3.0%であった。【0071】本品は、プルランとトレハロースが均質に存在し、しかも、成分分離の心配もなく、また、耐湿性を損なうことなく、水に対する溶解速度も良好である。以上のことから、本品は、食品、化粧品、医薬品の原材料として、特に、成形物に対して湿度変化に対する安定性を付与できることから、フィルム、カプセルなどになどに好適である。【0072】【実施例A−3】〈α,α−トレハロースを含むプルラン含有粉末〉市販の水飴を炭素源として10%含む栄養培地を用いて、実施例A−1と同様に、プルラン産生菌(オーレオバシディウム プルランス)を液体培養した。培養終了後、培養液は常法に従って、除菌濾過、活性炭による脱色精製、イオン交換樹脂による脱塩精製を行った。このプルラン含有溶液に、無水物換算で、液中の全糖質量に対して、(株)林原商事販売 登録商標『トレハ』を14.5%添加し、完全に溶解、均質に混合した後、濃縮、乾燥、粉砕を行って、α,α−トレハロースを非還元性糖質として含むプルラン含有粉末を得た。プルラン含有粉末の組成比は、プルラン84.7%、α,α−トレハロース12.6%、グルコース1.3%、その他のオリゴ糖1.4であった。プルランに対するα,α−トレハロースの含量比は、無水物換算で、14.9%であった。【0073】本品は、プルランとトレハロースが均質に存在し、しかも、成分分離の心配もなく、また、耐湿性を損なうことなく、水に対する溶解速度も良好である。以上のことから、本品は、食品、化粧品、医薬品の原材料として、特に、成形物に対して湿度変化に対する安定性を付与できることから、フィルム、カプセルなどになどに好適である。【0074】【実施例A−4】〈α−シクロデキストリンを含むプルラン含有粉末〉市販の水飴を炭素源として10%含む栄養培地を用いて、実施例A−1と同様に、プルラン産生菌(オーレオバシディウム プルランス)を液体培養した。培養終了後、培養液は常法に従って、除菌濾過、活性炭による脱色精製を行った。このプルラン含有溶液に、無水物換算で、液中の全糖質量に対して、α−シクロデキストリン((株)林原生物化学研究所製造)を14.5%添加し、完全に溶解、均質に混合した後、濃縮、乾燥、粉砕を行って、α−シクロデキストリンを非還元性糖質として含むプルラン含有粉末を得た。プルラン含有粉末の組成比は、プルラン85.1%、α−シクロデキストリン12.8%、グリコース1.1%、その他のオリゴ糖1.0%であった。プルランに対するα−シクロデキストリンの含量比は、無水物換算で、15.0%であった。【0075】本品は、プルランとα−シクロデキストリンが均質に存在し、しかも、成分分離の心配もなく、また、耐湿性を損なうことなく、水に対する溶解速度も良好である。以上のことから、本品は、食品、化粧品、医薬品の原材料として、特に、シクロデキストリンを含むことから酸化、熱分解、光分解などを受けやすいものを含むものや揮発性を含むものを安定化させる用途に好適である。【0076】【実施例A−5】〈β−シクロデキストリンを含むプルラン含有粉末〉市販の水飴を炭素源として10%含む栄養培地を用いて、実施例A−1と同様に、プルラン産生菌(オーレオバシディウム プルランス)を液体培養した。培養終了後、培養液は常法に従って、除菌濾過、活性炭による脱色精製を行った。このプルラン含有溶液に、無水物換算で、液中の全糖質量に対して、β−シクロデキストリン((株)林原生物化学研究所製造)を14.5%添加し、完全に溶解、均質に混合した後、濃縮、乾燥、粉砕を行って、β−シクロデキストリンを非還元性糖質として含むプルラン含有粉末を得た。プルラン含有粉末の組成比は、プルラン85.1%、β−シクロデキストリン12.8%、グルコース1.1%、その他のオリゴ糖1.0であった。プルランに対するβ−シクロデキストリンの含量比は、無水物換算で、15.0%であった。【0077】本品は、プルランとβ−シクロデキストリンが均質に存在し、しかも、成分分離の心配もなく、また、耐湿性を損なうことなく、水に対する溶解速度も良好である。以上のことから、本品は、食品、化粧品、医薬品の原材料として、特に、シクロデキストリンを含むことから酸化、熱分解、光分解などを受けやすいものを含むものや揮発性を含むものを安定化させる用途に好適である。【0078】【実施例B−1】〈フィルムの調製〉実施例A−5で調製したプルラン含有粉末を250重量部、剥離性改良材として界面活性剤(ショ糖モノラウレート)を0.5重量部の合計250.5重量部をイオン交換水750重量部に溶解したプルランフィルム原料水溶液を作製し、減圧脱泡した。この原料水溶液を合成プラスチックフィルム上に連続して流延し、70℃の熱風中を通して乾燥し、厚さ30μmのプルランフィルムを得た。【0079】本プルランフィルムは湿度変化に対する安定性に優れ、透明で光沢があり、水溶解性を持っていることから、可食性、水溶性の食品包材として、また、二次加工用の原材料として利用できる。【0080】【実施例B−2】〈シートの調製〉実施例A−3で調製したプルラン含有粉末を250重量部、カルボキシメチールセルロースを25重量部、L-アスコルビン酸2−グルコシドを7重量部、感光素401号を0.1重量部、α−グルコシルルチンを2重量部、1,2−ペンタンジオールを4重量部、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸ナトリウムを1.5重量部、水酸化カリウムを1重量部、エデト酸三ナトリウムを0.2重量部、クエン酸三ナトリウムを0.2重量部、クエン酸を0.1重量部、イオン交換水750重量部を含むプルランシート原料水溶液を調製し、起泡した。この原料水溶液を合成プラスチックフィルム上に連続して流延し、50℃の熱風中を通して乾燥し、厚さ100μmのプルランシートを調製した。【0081】本プルランシートは湿度変化に対する安定性に優れ、不透明で水可溶性を保持していた。このシートは化粧用パックの加工原材料などとして利用できる。【0082】【実施例B−3】 〈カプセルの調製〉 実施例A−1で調製したプルラン含有粉末を150重量部、カラギーナンを1重量部、塩化アンモニウムを3重量部、イオン交換水850重量部を含む原料水溶液を調製し、減圧脱泡した。この原料水溶液を50℃に保温し、カプセル形成用ピンの先端を原料水溶液中に入れた後、取り出し、乾燥させてプルランカプセルを調製した。【0083】本プルランカプセルは、α,α−トレハロースまたはα−サイクロデキストリンを含んでいることから、湿度変化に対する安定性に優れ、透明で光沢があり、水溶解性を持っていることから、食品、医薬品の充填容器として利用できる。【0084】【実施例B−4】〈プルラン繊維の調製〉実施例A−2で調製したプルラン含有粉末40重量部、ローカストビーンガム0.05重量部、イオン交換水60重量部を含む紡糸用原料水溶液を調製し、直径0.3mm、長さ1mmの円筒状ノズルより圧力を2kg/cm2かけて30℃の室温の空気中に押し出した。ノズル口から放出されたものは、巻き取るときに空気中に水分が蒸発して糸状の成形物が得られた。【0085】本プルラン糸は、太さが約25μmであり、非還元性糖質を含有しないプルランを用いて調製したプルラン糸に比べて、25℃の温水中に入れた時の溶解時間はほぼ同じであるが、低湿度における乾燥安定性に優れており、水可溶性を持つ糸として利用できる。【0086】【実施例B−5】〈シャンプーの調製〉実施例A−3で調製したプルラン含有粉末20重量部、エチルアルコール15重量部、グリセリン2重量部、イオン交換水85重量部、香料0.3重量部、ポリオキシエチレン・ソルビタン・モノラウレート1.5重量部、防腐剤、酸化防止剤および着色料を適量含む溶液を調製した。【0087】本溶液は、プルランが持つ起泡促進効果と使用後にα,α−トレハロースが持つ保水効果が発現し、品質の優れたシャンプーとして利用できる。【0088】【実施例B−6】〈化粧用クリーム〉実施例A−4で調製したプルラン含有粉末15重量部、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール2重量部、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン5重量部、α−グルコシルルチン1重量部、流動パラフィン1重量部、トリオクタン酸グリセリン10重量部、アスコルビン酸2−グルコシド5重量部を常法に従って加熱溶解し、これにL−乳酸2重量部、1,3−ブチレングリコール5重量部、防腐剤およびイオン交換水60重量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、更に、香料および着色料を適量加えて撹拌混合し、クリームを調製した。【0089】本クリームは、プルランとα−CDを含み、滑らかで、成分の安定性が高く、高品質の日焼け止め、色白クリームなどとして利用できる。【0090】【実施例B−7】〈増粘醤油の製造〉市販の醤油に実施例A−1で調製したプルラン含有粉末を加熱溶解し、80cpsの粘度とした。この増粘醤油はプルランの分離もなく、粘性も長期に渡って安定であった。【0091】本増粘醤油は、素焼きのおかきに塗布し、乾燥した後、おかきを観察したところ、プルランとα,α−トレハロースの効果により、おかきの表面は滑らかであり、光沢も優れていた。更に、おかきを保存した時の吸湿は、無添加の醤油を塗布したおかきに比べて、抑制された。【0092】【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、プルラン含有粉末を製造するとき、プルランとともにグルコースを構成糖とする非還元性糖質を均質に含む溶液を調製し、粉末化することにより、耐湿性を損なうことなく、溶解速度が改善されたプルラン含有粉末を容易に、安価に製造できる。【0093】従って、本発明は、プルラン含有粉末とその製造方法を確立し、その用途を提供するものであり、この方法を利用して作られるプルラン含有粉末は、プルランとグルコースを構成糖とする非還元性糖質が分離を起こす懸念がなく、しかも、耐湿性を損なうことなく、水に対する溶解速度が改善された粉末を製造することができることから、プルラン含有粉末の利用面において、各種成形物の原料調製の作業改善が期待できる。更に、本プルラン含有粉末を使用して作られるグルコースを構成糖とする非還元性糖質を含む成形物は、湿度変化に対する安定性に優れていることから、食品、化粧品、医薬品などの分野において、これまでのグルコースを構成糖とする非還元性糖質を含まないプルランの用途に加えて、付加された性質により、更に用途拡大が期待されることから、該当する業界を初めとする産業界に与える工業的意義は極めて大きい。【0094】【図面の簡単な説明】【図1】プルラン含有粉末の吸湿試験結果を示す図である。【符号の説明】..◆.. 非還元性糖質を含まないプルラン含有粉末− ■ − トレハロース添加− ▲ − 環状四糖添加..×.. α−CD添加 プルランを主成分とし、環状四糖とプルランとを均質に含むことを特徴とするプルラン含有粉末。 プルランを、無水物換算で、50w/w%以上含み、且つ、プルラン量に対して環状四糖の量が0.1w/w%以上、100w/w%未満であることを特徴とする請求項1記載のプルラン含有粉末。 プルラン含有粉末の製造に際し、環状四糖とともに還元性糖質を含む糖質を栄養培地に用いてオーレオバシディウム プルランスに属するプルラン産生菌を培養し、産生されたプルランを含む培養液を精製、濃縮、粉末化し、これを採取することを特徴とする請求項1又は2記載のプルラン含有粉末の製造方法。 環状四糖とともに還元性糖質を含む糖質が、澱粉から調製される環状四糖と還元性糖質との混合糖質であるか、又は還元性糖質と環状四糖を含む混合糖質であることを特徴とする請求項3記載のプルラン含有粉末の製造方法。 オーレオバシディウム プルランスに属するプルラン産生菌を栄養培地で培養したのちに産生されたプルランを含む培養液を精製、濃縮し、粉末化するまでのプルランを含む溶液、又はプルラン含有物を溶解したプルランを含む溶液に環状四糖を溶解し、均質な溶液とした後、粉末化し、これを採取することを特徴とする請求項1又は2記載のプルラン含有粉末の製造方法。 請求項1又は2記載のプルラン含有粉末、又は請求項3乃至5のいずれかに記載の製造方法で得られたプルラン含有粉末を他の素材とともに含む組成物。 組成物の用途が食品、化粧品、医薬品、これらの原材料又は中間製品である請求項6記載の組成物。 組成物が成形物である請求項6又は7に記載の組成物。 成形物が湿度変化に対する安定性に優れていることを特徴とする請求項8に記載の組成物。