生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_糖尿病性末梢神経障害の予防及び治療剤
出願番号:2001278485
年次:2012
IPC分類:A61K 36/28,A61P 3/10,A61P 9/10,A61P 13/12,A61P 25/00,A61P 25/02,A61P 43/00


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吉川 雅之 JP 4913967 特許公報(B2) 20120127 2001278485 20010913 糖尿病性末梢神経障害の予防及び治療剤 株式会社 日本薬用食品研究所 501361600 野河 信太郎 100065248 吉川 雅之 20120411 A61K 36/28 20060101AFI20120322BHJP A61P 3/10 20060101ALI20120322BHJP A61P 9/10 20060101ALI20120322BHJP A61P 13/12 20060101ALI20120322BHJP A61P 25/00 20060101ALI20120322BHJP A61P 25/02 20060101ALI20120322BHJP A61P 43/00 20060101ALI20120322BHJP JPA61K35/78 TA61P3/10A61P9/10A61P13/12A61P25/00A61P25/02A61P43/00 111 A61K 36/00-36/9068 CA/REGISTRY(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開2001−187742(JP,A) Natural Medicines,1997年,51,4,347-357 1 2003081857 20030319 7 20080911 福井 悟 【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は、糖尿病性末梢神経障害の予防及び治療剤に関し、より詳細には、キク科(Compositae)トウヒレン属(Saussurea)植物を利用したアルドース還元酵素(aldose reductase)の活性阻害作用を有する糖尿病に起因する合併症(網膜症、腎症、神経障害など)の予防や治療に有効な薬剤(以下、糖尿病性末梢神経障害の予防及び治療剤と称する)に関する。【0002】【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】我々は日常の飲食において、多くの炭水化物(例えばデンプンやショ糖など)を摂取している。摂取された炭水化物は、体内の酵素(例えばα−グルコシダーゼなど)により代謝されて、単糖に分解された後、消化管から吸収される。炭水化物の摂取量が増加すると、吸収される単糖の量も増加して高血糖となり、肥満や糖尿病さらに糖尿病由来の合併症などの重大な疾病をもたらすことがある。通常、網膜症、腎症および神経障害が三大合併症と呼ばれている。【0003】糖尿病における高血糖状態が合併症をもたらすまでの糖の代謝経路の一つに、ソルビトール代謝経路がある。ソルビトール代謝経路は、炭水化物の摂取量が増加してブドウ糖濃度が高くなると(すなわち高血糖状態)、アルドース還元酵素と呼ばれる酵素が活性化されてブドウ糖をソルビトールに還元し、ついで生成したソルビトールがソルビトール脱水酵素の作用により果糖に転化されるものである。【0004】この代謝経路において、アルドース還元酵素は血糖値が低い間はほとんど活性を示さないが、高血糖状態では急激に活性が亢進されてソルビトールが大量に生成する。他方、ソルビトールを果糖に転化するソルビトール脱水素酵素は、血糖値の値に関係なく常に一定の働きしかしないことが判明している。したがって、高血糖状態となり大量のソルビトールが生成されたとき、その後の果糖への転化率が変化しないために細胞内に代謝されないソルビトールが蓄積されることになる。ソルビトールが細胞内に大量に蓄積されると、浸透圧が高くなり、それを解消するために細胞の周囲から水分を吸い込むこととなり、結果として細胞が水ぶくれの状態となる。これにより、酵素が通過することを水が阻止するため、細胞内の酸素が欠乏して細胞が死ぬことになる。アルドース還元酵素が多く存在している腎臓、目の網膜または神経組織は、高血糖に起因する細胞死滅の影響を特に受け易い。そのため、上記の合併症は、腎臓、目の網膜または神経組織において生じることが多い。糖尿病に由来する合併症が、ソルビトール代謝経路によって引き起こされるとすると、その要因であるソルビトールの生成を抑制すればよいと考えられる。すなわち、ソルビトールを生成するアルドース還元酵素の活性を阻害することにより、高血糖状態においてもソルビトールを大量に生成することがないので、合併症の誘発を抑制することができる。【0005】アルドース還元酵素の活性阻害剤として、エパルレスタット〔Epalrestat、商品名Kinedak(キネダック):糖尿病性神経障害治療薬〕等が市販されているが、いずれも化学合成薬剤であり、副作用の問題が存在する。天然物系のものとしては、フラボノイドに属する成分を利用するものが知られているが、ヒトでの有効性など不明な点も多く、より有効な薬物で、安全、かつ安価なアルドース還元酵素の活性阻害剤が強く望まれている。【0006】一方、キク科トウヒレン属植物の雪蓮花は、中国のチベット、雲南、四川、青海省などの高山岩石地帯において生育するものが薬用として伝承されており、中国伝統医薬ではその用途として、陽痿(インポテンツ)、婦人崩帯(こしけ)、月経不順の治療に内服し、また外傷出血に外用することが知られている。日本国内に生育するヒメヒゴタイ(Saussurea pulchella)やクロトウヒレン(Saussurea nikoensis)などは、薬用とされることはない。また、これらの植物に、アルドース還元酵素に関する作用が認められたとの報告はない。【0007】【課題を解決しようとするための手段】 本発明者は、糖尿病合併症という病気の性質上、その治療薬の服用が長期におよぶこと及び従来の合成医薬品に代えて天然薬物を重視するという理由から、長い間の使用経験から有効性とともに安全性が実証されている中国伝統医学やアーユルヴェーダインド伝統医学などの東洋医学において用いられる天然薬物や薬用食物について、眼レンズ水晶体のアルドース還元酵素に対する阻害作用を指標に探索を進めた。具体的には、ラットの水晶体からアルドース還元酵素を分離し、本酵素反応の抑制効果が認められる天然薬物をスクリーニングした。その結果、雪蓮花(Saussurea lanicepsなど)がアルドース還元酵素の活性を顕著に阻害するという知見を見出し、本発明の完成に至った。 すなわち、本発明によれば、キク科トウヒレン属植物の雪蓮花の粉末及び/又は抽出物を有効成分とするアルドース還元酵素の活性阻害作用を有する糖尿病性末梢神経障害の予防及び治療剤が提供される。【0008】【発明の実施の形態】本発明の糖尿病性末梢神経障害治療剤に利用することができる植物は、キク科(Compositae)トウヒレン属(Saussurea)に属するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、雪蓮花等が挙げられる。具体的には、綿頭雪蓮花(学名:Saussurea laniceps HAND-MAZZ., 産地:四川、雲南、チベットなど)、水雲雪蓮花(Saussurea medusa MAXIM.,青海、甘粛、四川、雲南、チベットなど)、西蔵雪蓮花(Saussurea tridactyla SCH.-BIP.,別名 三指雪蓮花、チベット)、毛頭雪蓮花(Saussurea eriocephala FRANCH.,雲南など)、包被雪蓮花(Saussurea involucrata KAR.et KIN.,別名 大苞雪蓮花、新彊など)などを例示することができる。これらの植物は、種類や産地等によって、その中に含有される成分の量や種類に若干の差異があると考えられるが、中国、朝鮮、日本、サハリン、シベリアなどの産地のほか、いずれの地域に生育しているものでも使用することができる。【0009】このような植物は、根茎など地下部のみならず、葉、花等のトウヒレン属植物の全ての部位を利用することができる。粉末として用いる場合、採取した植物を、そのまま又は乾燥して粉砕機等で粉砕することにより、100〜1000メッシュ、好ましくは100〜200メッシュの粉末として調製することができる。また、抽出物として用いる場合には、このような植物をそのまま、乾燥した後又は粉砕して、水、低級アルコール(メタノール、エタノール、ブタノール等、好ましくはエタノール)又はこれらの混合物などの溶媒により加熱又は冷浸して得ることができる。溶媒は、植物に対して2〜10重量倍程度、好ましくは3〜5重量倍程度で使用することが適当である。また、80〜90℃程度に1〜10時間程度加熱するか、10〜35℃程度の冷浸温度にて、振盪下又は非振盪下に、1〜10日間程度植物を浸漬することによって抽出物を調製することができる。【0010】得られた抽出物は、濃縮して用いてもよい。濃縮は、低温低圧下で行うことが好ましい。また、この濃縮は乾固するまで行ってもよい。なお、濃縮する前にろ過し、ろ液を濃縮してもよい。また、得られた抽出物は、精製処理に付してもよい。精製処理方法としては、クロマトグラフ法、イオン交換樹脂を使用する溶離法等を単独又は組み合わせて使用する方法が挙げられる。【0011】例えば、クロマトグラフ法としては、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、遠心液体クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー等のいずれか又はそれらを組み合わせて使用する方法が挙げられる。この際の担体、溶出溶媒等の精製条件は、各種クロマトグラフィーに対応して適宜選択することができる。例えば、順相クロマトグラフィーの場合にはクロロホルムーメタノール系の溶媒、逆相クロマトグラフィーの場合には、水ーメタノール系の溶媒を使用することができる。【0012】また、イオン交換樹脂を使用する溶離法としては、得られた抽出液を、水又は低級アルコールに希釈/溶解させ、この溶液をイオン交換樹脂に接触させて吸着させた後、低級アルコール又は水で溶離する方法が挙げられる。この際に使用される低級アルコールは、上述した通りであり、なかでもメタノールが好ましい。イオン交換樹脂としては、通常、当該分野の精製処理に使用されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、巨大網状構造で多孔性の架橋されたポリスチレン系樹脂、アーバンライト、セルローズ等が挙げられる。キク科トウヒレン属植物の粉末及び/又は抽出物は、医薬的に受容な塩、賦形剤、保存剤、着色剤、矯味剤等とともに、医薬品又は食品の製造分野において公知の方法によって、顆粒、錠剤、カプセル剤等の種々の形態で使用することができる。【0013】また、キク科トウヒレン属植物の粉末及び/又は抽出物は、健康食品に利用することができる。健康食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で、保健、健康維持・増進等の目的とした食品を意味し、例えば、液体又は半固形、固形の製品、例えばクッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、栄養飲料、スープ等が挙げられる。また、そのまま煎じて、茶剤としてもよい。これらの食品の製造工程において、あるいは最終製品に、上記粉末、抽出物等を混合又は塗布、噴霧などして添加して、健康食品とすることができる。【0014】キク科トウヒレン属植物の粉末及び/又は抽出物の使用量は、年齢、症状等によって異なるが、予防に用いる場合には、成人1回につき粉末では1〜10g程度、好ましくは2〜3g程度、抽出物では100〜3000mg程度、好ましくは800〜1500mg程度が挙げられ、食前30分位に1日3回服用するのが望ましい。また、健康食品としての使用時には、食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1kgに対し粉末又は抽出物の形態で、100〜10000mg程度の範囲で用いることが適当である。【0015】以下に、本発明の糖尿病性末梢神経障害の予防及び治療剤の実施例を以下に詳しく説明する。キク科トウヒレン属植物の抽出中華人民共和国の雲南省昆明市および北京市安国生薬市場において入手し、植物の形態などを文献上確認して同定した綿頭雪蓮花、水母雪蓮花、西蔵雪蓮花、毛頭雪蓮花、包被雪蓮花の全草を粗切または粉砕機で100〜400メッシュの粉末とし、この粉末1kgに対して5リットルの溶媒(水又はエタノール(含水量5%))を加え、90℃程度で3時間加熱、抽出し、ろ過した。そのろ液を45℃以下で減圧濃縮し、水エキス、エタノールエキスを得た。水エキス及びエタノールエキスの収率は、いずれも約10〜15%程度であった。得られた綿頭雪蓮花、水母雪蓮花の水抽出物は、いずれも、褐色〜緑褐色粉末で吸湿性を示した。【0016】また、以下の条件下での薄層クロマトグラフィでは、いずれも昇天部分に褐色スポット、Rf値0.6〜0.8付近に数個の赤紫〜褐色スポット、0.3付近に褐色バンドが得られた。担体:Silica Gel 60F254 pre-coated TLC plate(Merck社製)展開溶媒:クロロホルム:メタノール:水(10:3:1、下層)発色:1%硫酸セリウムを含む10%硫酸水溶液を噴霧後の加熱時の呈色による。【0017】さらに、以下の条件下での薄層クロマトグラフィでは、いずれも、Rf値0.8付近に赤紫スポット、0.5〜0.7付近に複数の褐色スポットが得られた。担体:Silica Gel 60F254 pre-coated TLC plate(Merck社製)展開溶媒:ヘキサン:酢酸エチル(2:1)発色:1%硫酸セリウムを含む10%硫酸水溶液を噴霧後の加熱時の呈色による。紫外線吸収スペクトル(島津UV−1600、溶媒:メタノール)では、いずれも、270nm付近、328nm付近に極大吸収を示した。IRスペクトル(島津FTIR-8100(KBr))では、いずれも、3130cm-1付近に水酸基、2940cm-1付近にメチレン、1070〜1080cm-1付近にエーテル結合に由来すると思われる吸収が認められた。【0018】アルドース還元酵素の活性阻害試験ラットの水晶体からアルドース還元酵素の分離と反応は、S.P.Dufraneらの著したBiochem. Med.誌、32巻、99〜105頁(1984年)に記載された方法の改良法を用いて行った。すなわち、ラットの水晶体を、2−メルカプトエタノール10mMを含有する135mMのNa,K-リン酸緩衝液(PH=7.0)を用いてホモジェナイズし、100000gで30分間遠心分離した後、上澄み液を酵素フラクションとして使用した。180mMのNa,K-リン酸緩衝液(PH=7.0)225μLに、1.0M Li2SO4および10mM DL-グリセルアルデヒドをそれぞれ50μL、酵素フラクションを100μL、さらにジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した試料(対照試料はDMSO)25μLを混合し、37℃で3分間プレインキュベートした。これに基質として0.3mMのNADPHを50μL添加し、反応を開始した。30分後に5N塩酸を150μL添加して反応を停止した。【0019】その後、イミダゾール10mMを含有する6N NaOH0.5mLを添加し、溶液を60℃で10分間、加熱することでニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を蛍光生成物に変換した。この蛍光生成物について、蛍光光度計(日立製作所製650−10型)を用いて、室温で励起波長360nmおよび発光波長460nmにおける蛍光強度を測定した。得られた測定値から、アルドース還元酵素による糖の還元を50%阻害するのに要する各種試料濃度(IC50)を算出した。なお、比較例として、エパルレスタット(小野製薬工業社製)を用いた。その結果を表1に示す。【0020】【表1】【0021】表1から明らかなように、綿頭雪蓮花、水母雪蓮花、西蔵雪蓮花、毛頭雪蓮花、包被雪蓮花の水およびエタノールエキスのいずれにおいてもアルドース還元酵素の活性阻害作用が認められた。【0022】キク科トウヒレン属植物の抽出物が含有された健康食品実施例1小麦粉50重量部、砂糖35重量部、全卵10重量部、上記で得られた水エキス又はエタノールエキス5重量部を秤量した。全卵に砂糖を混合した後、予め篩に通し小麦粉を加えて軽く混ぜ合わせて生地を作り、これを適当な形に成形し、オーブンで焼き上げて、せんべいを作った。【0023】実施例2当該分野で公知の方法にしたがって、上記で得られた水エキス又はエタノールエキスを、カプセルに充填し、1カプセル中に50mg含有されるゼラチンカプセルを得た。【0024】【発明の効果】本発明によれば、今日まで糖尿病および糖尿病合併症の治療剤として使用されたことがないキク科トウヒレン属植物を基源とする天然薬物である雪蓮花を使用することにより、アルドース還元酵素によりブドウ糖が還元されてソルビドールが蓄積されることによって生じる網膜症、腎症、神経障害など糖尿病に起因する合併症に対して有効、かつ長期間の連用によっても安全な糖尿病性末梢神経障害治療剤を提供することができる。また、長い間の使用経験に基づく植物を基源とする天然薬物であることから、副作用等の心配がなく、安価に利用できるためダイエットや糖尿病予防にも有効である。しかも、本発明のユリ科ツクバネソウ属植物の粉末及び/又は抽出物は、健康食品として摂取しやすい形態、例えば、菓子や飲料等の形態とすることができるため、容易に服用することができ、長期間に渡って、連続的に服用し続けることができる。 キク科トウヒレン属植物の雪蓮花の粉末及び/又は抽出物を有効成分とするアルドース還元酵素の活性阻害作用を有する糖尿病性末梢神経障害の予防及び治療剤。


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