タイトル: | 特許公報(B2)_膜融合の解析方法 |
出願番号: | 2001272606 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | G01N 21/78,C12Q 1/02,G01N 33/48,C12N 15/02 |
堺 立也 川崎 一則 今井 正樹 黒田 和道 JP 3769607 特許公報(B2) 20060217 2001272606 20010907 膜融合の解析方法 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 堺 立也 川崎 一則 今井 正樹 黒田 和道 20060426 G01N 21/78 20060101AFI20060406BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20060406BHJP G01N 33/48 20060101ALI20060406BHJP C12N 15/02 20060101ALI20060406BHJP JPG01N21/78 CC12Q1/02G01N33/48 MC12N15/00 B G01N 21/78 C12N 15/02 C12Q 1/02 G01N 33/48 米国特許第05604112(US,A) Biochemistry,2001年 6月,vol.40,p.8292-8299 Biochimica et Biophysica Acta,1998年,vol.1375,p.13-22 The Journal of Cell Biology,1989年 7月,vol.109,p.113-122 5 2003075349 20030312 11 20030324 宮澤 浩 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、高感度、迅速、かつ高い信頼性で多様な生体膜・人工膜試料の膜融合を解析する方法およびその試薬に関する。【0002】【従来の技術】膜融合は細胞間に見られる細胞融合や細胞内に見られる細胞内小器官の膜融合など、生きている細胞では頻繁に生じている現象である。細胞内での物質選別、物質輸送や情報伝達などの生理機能に大きな役割を果たしているため、膜融合の解析は細胞機能の理解や各種物質の薬理作用の解明に役立つ。また、膜を有するウイルスが細胞に感染する過程においても、膜融合は決定的に重要なイベントであるので、膜融合の解析はウイルス感染機構の解明や坑ウイルス薬の開発などに貢献するものと期待される。また、遺伝子治療、ドラッグデリバリーにおいては、リポソームやウイルスの膜融合が物質輸送や物質放出の手段として利用されており、膜融合解析はこれらベクターの有効性を検証する方法としても重要である。従来、最も多用されている膜融合の検出・測定法は蛍光の自己消光解消法と呼ばれるもので、膜融合の結果に生じる蛍光強度の変化を1つの波長領域で計測している。これは、膜融合の一方の膜(ドナー膜)に蛍光色素を蛍光自己消光の起こる高濃度で含有させ、他の膜(アクセプター膜)との融合が生じると膜脂質層の成分の相互混合によって色素濃度が減少し自己消光が解消して蛍光強度が増大することを、蛍光分光光度計や蛍光顕微鏡で検出している。【0003】蛍光の自己消光解消を蛍光分光光度計で検出する場合には、試料の形態観察ができないので試料形態の上のどこで膜融合が生じたかを調べられないという欠点がある。また、解析対象の試料(あるいは同等の試料)について膜融合前における蛍光強度を測定しておき対照データとしなければ、膜融合の発生が判別できないという欠点がある。【0004】蛍光の自己消光解消を、1つの波長領域で取得した蛍光顕微鏡画像上の蛍光強度で検出する方法では、同時に形態観察ができるので空間情報の取得が可能である。しかし、膜融合の前後で観察対象の膜が画像上で位置や集合状態を変えたり大きく変形した場合には、これら位置、集合状態、形態の変化によって生じる蛍光強度変化と膜融合によって生じる蛍光強度変化を識別することが困難であり、膜融合過程の間でドナー膜が位置を変えたり互いに集合・離散をしないような特殊な場合以外には膜融合の検出ができないという欠点がある。また、そのような特殊な場合においても、解析対象の試料(あるいは同等の試料)について膜融合前における蛍光画像を取得しておき対照データとしなければ、膜融合の発生が判別できないという欠点がある。【0005】従来行われている別の膜融合の検出法では、膜融合に伴うエキシマーの減少を蛍光分光光度計で計測している。この方法は、ドナー膜に蛍光色素を色素分子間の衝突でエキシマーが生じやすいような高濃度に含有させておき、この膜がアクセプター膜と融合すると膜脂質層成分の相互混合によって色素濃度が減少しエキシマーの蛍光波長での発光強度が低下するとともに、単分子状態の色素による蛍光強度が増加することを、蛍光分光光度計によるスペクトル変化の測定で検出している。しかしこの方法にも、試料の形態上のどこで膜融合が生じたのかという空間情報が調べられないという欠点がある。【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来技術の問題点を解消することを課題とし、膜融合がいつどのような速さで生じたのかという時間情報および試料形態上のどこで生じたのかという空間情報をを可視化または数値化して解析する方法を提供しようとするものであって、観察対象の膜が位置や集合状態を変えたり大きく変形した場合にも膜融合の検出および解析を可能とし、また、融合前の対照データがなくても膜融合発生の判別を可能にする、高感度、迅速、かつ高い信頼性を有する膜融合の解析方法を提供しようとするものである。【0007】【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、生体膜や人工膜に生じる膜融合の解析法として、膜融合の一方の膜を蛍光試薬で標識し、他方の膜との融合に伴う膜成分の相互混合で生じる蛍光スペクトル変化を利用し、膜融合前後での蛍光強度差の値が異なる2つの波長領域において試料の蛍光顕微鏡画像を取得し、これら2つの画像を用いた画像処理または画像解析によって膜融合の発生の時空間情報を可視化または数値化すれば、上記従来技術の問題点を解消し、高感度、迅速、かつ高い信頼性をもって、膜融合の解析を行い得ることを見いだし本発明を完成させたものである。【0008】 すなわち、本発明は以下の(1)〜(5)に係るものである。(1)膜融合における一方の膜を蛍光試薬で標識し、他方の膜との融合に伴う膜成分の相互混合で生じる蛍光スペクトル変化を利用する方法であって、蛍光試薬として、膜融合前後での蛍光強度が変化しない波長領域と膜融合後蛍光強度が増大する波長領域の2つの波長領域を有する試薬を使用し、膜融合前後での蛍光強度が変化しない波長領域と膜融合後に蛍光強度が増大する波長領域の2つの波長領域において試料の蛍光顕微鏡画像を取得し、これら2波長の画像を用いた画像処理または画像解析によって膜融合の時空間情報を可視化または数値化することを特徴とする方法。(2)膜融合が生体膜間または人工膜間、もしくは生体膜と人工膜間で生ずるものである(1)に記載の方法。(3)膜融合が、細胞、細胞内小器官、ウイルスおよびリポソームのうち、同種または異種間の膜融合である(1)に記載の方法。(4)膜融合が、遺伝子治療あるいはドラッグデリバリーに使用するベクターにより行われるものである(1)に記載の方法。(5)画像処理が2つの画像間の和、差あるいは比の演算処理を含むものである(1)に記載の方法。【0009】本発明の方法が適用され、解析される膜融合の対象は生体膜あるいは人工膜等により特に限定されない。解析される対象をより具体的に示すと、図1に示されるように、細胞融合に伴う膜融合、細胞膜と細胞小器官の融合、細胞小器官と細胞小器官の融合に伴う膜融合、ウイルスの細胞侵入に伴う、細胞膜あるいは細胞小器官の膜とウイルス膜との融合、ウイルスとリポソームの融合に伴う膜融合、リポソームと細胞膜あるいは細胞内小器官膜との融合あるいはリポソーム相互の融合等が挙げられる。本発明においては、これら種々の膜融合において、一方の膜をドナー膜(D)として蛍光試薬で標識し、他方のアクセプター膜(A)と融合により生じる蛍光スペクトル変化を利用し、膜融合前後での蛍光強度差の値が異なる2つの波長領域において試料の蛍光顕微鏡画像を取得し、これら2波長の画像を用いた画像処理または画像解析によって膜融合の発生過程の時空間情報を可視化または数値化するものである。【0010】本発明の方法が特に有効なものとして認識されるのは、ウイルス感染、その中でも特にインフルエンザウイルスの細胞内における膜融合の検出と解析に実施した場合である。膜融合は、インフルエンザウイルスが宿主となる細胞へ感染する過程において最も重要なステップのひとつである。したがって、このウイルス膜融合の解析はウイルス感染機構の解明にとって必要であるばかりでなく、坑ウイルス薬の開発を促進する役割も担っている。【0011】以下、インフルエンザウイルスの細胞侵入を例にとり、本発明をさらに詳細に説明する。 図2はインフルエンザウイルスの細胞侵入過程の概略を示す。このウイルスの膜には細胞侵入で中心的な役割を果たす糖タンパク質のヘマグルチニンが存在している。ウイルスはまず最初に細胞表面に吸着するが、それはヘマグルチニン分子の頭部にあるポケット状の部分と細胞膜表面のレセプター糖鎖が結合することに基づいている。細胞は吸着したウイルスをエンドサイトーシスによって細胞内小器官(オルガネラ)の一つであるエンドソームまで輸送する。エンドソーム内部は弱酸性pHに保たれており、この条件にさらされるとヘマグルチニンには大きな立体構造変化が生じて膜融合活性を発現するようになる。その結果、ウイルス膜とエンドソームの膜の間で膜融合が生じ、ウイルスの内部に蓄えられていたウイルス・ゲノムが細胞質中に放出され感染の初期過程が完了する。【0012】図3は、本発明の解析法の原理の概略を示す図である。例えば本発明方法をインフルエンザウイルスとエンドソームの膜融合の解析に適用する場合、インフルエンザウイルスの膜を蛍光試薬で標識してドナー膜(D)とする。なお、他方のエンドソームの膜はアクセプター膜(A)として表示している。標識する蛍光試薬は、膜融合により膜脂質層成分の拡散、希釈が生じるとこれに伴い蛍光スペクトルが変化するような蛍光色素であり、膜融合前後で蛍光強度差の値が異なるような2つの波長領域を有するものである。ドナー膜(D)とアクセプター膜(A)の融合すると、例えば波長aの蛍光強度に変化がみられないのに対し波長bの蛍光強度が増大すると、蛍光の色調は、波長aから波長bの色調にシフトする。【0013】本発明においては、膜融合前後で蛍光強度差の値が異なる2つの波長領域に着目することが特に需要である。例えば波長bのみに着目した場合、ある試料のある領域で波長bの蛍光強度の増大が検出されたとしても、その強度増大が膜融合によるものなのか、ウイルス粒子が他の領域から移動してその領域に集積したためなのかは、従来の蛍光自己解消法等と同様に、識別ができなくなる。なお、波長aのみの場合には膜融合が生じても蛍光強度に変化がないので膜融合をとらえるのは困難である。したがって、本発明においては、膜融合前後で蛍光強度差の値が異なる2つの波長領域に着目し、膜融合前後あるいは膜融合前から膜融合後にかけて、2つの波長領域のそれぞれにおいてウイルスの結合した細胞の蛍光顕微鏡画像を取得し、それぞれ2つの画像を用いた画像処理または画像解析を行うものであり、これにより、膜融合前のウイルスの位置、膜融合の発生の位置、頻度およびこれらの経時的変化等の時空間情報を可視化または数値化することが可能となったものである。【0014】本発明において使用する蛍光試薬は、膜融合前後で蛍光強度差の値が異なる2つの波長領域を有するものであればいずれのものであっても使用できる。具体的には図4に示される3,3’‐ジオクタデシルオキサカルボシアニン過塩素酸塩(3,3'-dioctadecyloxacarbocyanine perchlorate)(以下DiOと略す)とオクタデシルローダミンB塩化物(octadecyl rhodamine B chloride)(以下R18と略す)の混合物あるいは4,4‐ジフルオロ‐5‐オクチル‐4‐ボラ‐3a,4a‐ジアザ‐s‐インダセン‐3‐ペンタン酸(4,4-difluoro-5-octyl-4-bora- 3a,4a-diaza-s-indacene-3-pentanoic acid)(以下C8‐BODIPY(R)500/510C5と略す)とR18の混合物等が挙げられる。これら蛍光試薬は、膜融合前後において、比較的蛍光強度変化が少ない波長域と蛍光強度が増大する波長域を有しており、膜融合が発生すると膜に標識された蛍光分子が拡散、希釈され、これに伴い蛍光の色調が変化する。この現象は以下の実験例からも確かめられている。【0015】【実験例1】蛍光試薬として、図4に示す2つの化合物、3,3’‐ジオクタデシルオキサカルボシアニン過塩素酸塩(3,3'-dioctadecyloxacarbocyanine perchlorate)(以下DiOと略す)とオクタデシルローダミンB塩化物(octadecyl rhodamine B chloride)(以下R18と略す)を用いた(これらはモレキュラープローブス社から入手可能)。DiO(33μM)とR18(67μM)の両者をメチルアルコールに溶解し、蛍光色素混合溶液を調製した。PBS液1mlに懸濁したインフルエンザウイルスA/PR8/34(H1N1)株(タンパク質濃度0.1mg/ml)に、上記の蛍光色素混合溶液6μlを加え素早く混合し、25℃で60分間の静置をすることによってウイルス膜を蛍光標識した。DiOもR18も疎水性の高い分子であり水中での溶解状態より膜脂質層中に挿入された状態の方が安定であり、単にウイルス懸濁液と混合するだけでほとんど全ての蛍光色素分子が自動的にウイルス膜に取り込まれた。この試料を濾過膜であるマイレクスGV25mm(ミリポア社から入手可能)に通すことによって、試料中に存在するウイルス粒子の大きな凝集塊を除去し、分散状態の良い蛍光標識ウイルスとして用いた。【0016】蛍光標識ウイルスがアクセプター膜と膜融合を生じた際に両者の膜脂質層成分の混合希釈で生じる蛍光スペクトル変化を実証するためのモデル実験として、蛍光標識ウイルスを界面活性剤であるSDSで可溶化することによって蛍光色素分子を水溶液中に希釈しその前後における蛍光スペクトル変化を調べた。図5に示した結果は、蛍光標識ウイルスを488nmで励起して得られたSDS添加前と添加後(最終濃度0.4%(w/v))の蛍光スペクトルである。580nm付近の波長領域においてはSDS添加前後で蛍光強度はわずかしか変化しなかったのに対して、510nm付近における蛍光強度はSDS添加によって大きく増大した。すなわち、蛍光標識ウイルスの膜にある蛍光色素分子が希釈されると蛍光スペクトルが変化し、赤色の蛍光強度には大きな変化はないが緑色の蛍光強度は増大することが実証された。【0017】【実験例2】蛍光試薬として、図4に示す2つの化合物、4,4‐ジフルオロ‐5‐オクチル‐4‐ボラ‐3a,4a‐ジアザ‐s‐インダセン‐3‐ペンタン酸(4,4-difluoro-5-octyl-4-bora- 3a,4a-diaza-s-indacene-3-pentanoic acid)(以下C8‐BODIPY(R)500/510C5と略す、モレキュラープローブス社から入手可能)とR18を用いた。C8‐BODIPY(R)500/510C5(2mM)とR18(2mM)の両者をエチルアルコールに溶解し、蛍光色素混合溶液を調製した。PBS液1mlに懸濁したインフルエンザウイルスA/PR8/34(H1N1)株(タンパク質濃度1mg/ml)に、上記の蛍光色素混合溶液10μlを加え素早く混合した後、25℃で30分間の静置をすることによってウイルス膜を蛍光標識し、蛍光標識ウイルスとして用いた。【0018】この蛍光標識ウイルスがアクセプター膜と膜融合を生じた際に両者の膜脂質層成分の混合希釈で生じる蛍光スペクトル変化を実証するためのモデル実験として、蛍光標識ウイルスに界面活性剤であるTriton X‐100を0.1%(w/v)添加し可溶化することによって蛍光色素分子を水溶液中に希釈しその前後における蛍光スペクトル変化を調べた。図6に示した結果は、Triton X‐100の添加前と添加後における蛍光標識ウイルスの蛍光スペクトルである。488nmの光で励起した際の517nm付近のC8‐BODIPY(R)500/510C5の蛍光強度は、界面活性剤の添加前後でほとんど変化しなかった。一方、560nmの光で励起した際の590nm付近のR18の蛍光強度は、界面活性剤の添加で大きく増大した。すなわち、この蛍光標識ウイルスの膜にある蛍光色素分子が希釈されると蛍光スペクトルが変化し、緑色の蛍光強度には大きな変化はないが赤色の蛍光強度は増大することが実証された。【0019】上記実験例1および2の結果は、蛍光標識ウイルスの膜にある蛍光色素分子が希釈されると蛍光スペクトルが変化することを示しており、上記したように、このような蛍光色素分子の希釈は膜融合による膜脂質層成分の希釈でも同様に生起するから、膜融合の発生により蛍光スペクトル変化が生ずる。したがって、これらの結果は本発明の原理が広く膜融合全般に適用可能であることを示している。【0020】また、遺伝子治療あるいはドラッグデリバリーにおいては、遺伝子あるいは薬剤の導入ベクターとして、リポソームあるいはウイルスがよく用いられており、本発明はこれら遺伝子あるいは薬剤担持ベクターと生体細胞の膜融合の解析にも使用でき、遺伝子治療あるいはドラッグデリバリーの有効性あるいはその機構の解明等を通じて、より有効な抗癌剤等有用薬剤の探索、開発にも利用可能なものである。【0021】さらに、本発明においては、膜融合前後での蛍光強度差の異なる2つの波長領域のそれぞれにおいて蛍光顕微鏡画像を取得し、これら2波長の画像を用いた画像処理・画像解析を行うが、この画像処理においては画像間の和、差、比等の演算を行うことにより、例えば膜融合に伴う蛍光の経持的変化を色の変化として表示してその変化を見やすくしたり、細胞内において膜融合の生じた領域を周囲と異なった色でわかりやすく可視化して表現する等の様々な加工を行うことができる。また、本発明においては、上記蛍光顕微鏡画像を基に、色調を数値化して、膜融合進行の経時変化をみることもできる。例えば、細胞内の蛍光画像上で観察された各蛍光スポットにおける上記2つの波長における蛍光強度の比を経時的にとれば、膜融合の進行を数値化してとらえることができる。以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は特にこれに限定されるものではない。【0022】【実施例1】実験例1と同様にして、DiO(33μM)とR18(67μM)の両者をメチルアルコールに溶解し、蛍光色素混合溶液を調製し、PBS液に懸濁したインフルエンザウイルスA/PR8/34(H1N1)株に、上記の蛍光色素混合溶液加え、25℃で60分間の静置をすることによってウイルス膜を蛍光標識した。一方、蛍光標識ウイルスを感染させるための細胞として、ヒト由来の培養細胞であるHELA細胞を丸形(直径25mm)の無蛍光カバーガラス(マツナミガラス社などから入手可能)の上に、10%ウシ胎児血清を含むイーグルMEM培養液を用いて培養した。細胞の付着したカバーガラスをPBSで洗浄し、氷上で4℃の0.2mlの蛍光標識ウイルス液(タンパク質濃度約5μg/ml)をカバーガラス上に載せ15分間静置することにより、ウイルス粒子を細胞膜に吸着させた。未吸着のウイルス粒子をPBSによる洗浄で除いた後、試料を37℃で0〜60分間処理することにより細胞のエンドサイトーシスで細胞内にウイルス粒子を取り込ませた。【0023】37℃処理時間の異なる試料について、それぞれレーザー走査共焦点蛍光顕微鏡によって蛍光画像の取得を行った。励起光は488nm、蛍光波長領域は510〜525nmと575〜640nmの2つの条件を用いた。膜融合の発生を可視化するための画像処理方法として、510〜525nmの蛍光画像と575〜640nmの蛍光画像をそれぞれ緑色と赤色で表示し、両画像の重ね合わせ画像を作成した(画像間の和)。上記の画像処理を行った結果を図7に示す。蛍光顕微鏡画像上で蛍光標識ウイルス粒子もそのウイルス粒子を取り込んだエンドソームもスポット状の像として観察されるので、白黒の画像表示のもとでは、どのスポットが膜融合をしていないウイルス粒子からの蛍光でどのスポットがウイルスとエンドソームが膜融合したところからの蛍光であるのかの判別はできない。この問題は、1波長の蛍光画像で観察を行ったときの状況と全く同じである。【0024】これに対して、上記の2波長の画像間の画像処理を施した後の画像では、膜融合前のウイルスにおいては緑色の蛍光強度が抑えられているので赤色の蛍光が目立ちそのスポットは赤い色調で表示され、一方膜融合したウイルスでは緑色の蛍光強度が増大するのでそのスポットは黄色ないしは緑色の色調で表示される。なお、本図面では色調の表示ができないため、図7では赤の色調のスポットを丸で、黄の色調のスポットを三角で、緑の色調のスポットを四角で表示した。エンドサイトーシスがほとんど始まっておらずウイルスの膜融合も生じていない時間0分の条件では、スポットのほとんどが赤の色調で表されたのに対して、その後の時間経過でエンドサイトーシスが進むに従って黄と緑の色調のスポットが増加し、30〜60分後にはほとんどのスポットが緑の色調に変わった。【0025】このような図7の10分、20分、30分、60分の画像における細胞内蛍光スポットの黄や緑の色調への変化は、蛍光標識ウイルスとエンドソームの膜融合の結果を表すものであることは図7中の「NH4CL、30分」と表記した対照実験により確認された。塩化アンモニウムを培養液中に加えると、細胞によるインフルエンザウイルスのエンドサイトーシスとエンドソームへの輸送には影響を与えないが、エンドソーム内のpHを上昇させるためにウイルスの低pH依存的な膜融合タンパク質の活性が誘導されなくなりウイルスとエンドソームの膜融合が阻害されることが知られている。図7で「NH4CL、30分」と表記した画像は、40μM塩化アンモニウムを培地中に添加した条件で蛍光標識ウイルスを4℃で細胞に吸着させた後、塩化アンモニウムを維持したまま37℃で30分間静置した際の結果である。細胞内に観察される蛍光スポットのほとんどが赤色の色調であり、上述した反応0分後の結果との間で差が認められなかった。すなわち、本実施例で用いた蛍光標識ウイルスの発する蛍光の色調は細胞によるエンドサイトーシスだけでは変化することなく、エンドソームとの膜融合が生じた際に赤色から黄色や緑色に変化することが示された。【0026】以上の点から明らかなように、図7に示した結果は、膜融合の時間経過・時間情報を蛍光画像上の色調の変化として可視化する方法を実証しただけでなく、細胞内で膜融合の生じた位置に関する空間情報も可視化できることを示している。【0027】【実施例2】実施例1と同様にして ウイルス膜を蛍光標識して、蛍光標識ウイルスを37℃で0〜60分間に渡って細胞にエンドサイトーシスさせ、細胞内の蛍光画像上で観察された各々約200カ所の蛍光スポットにおける色調を数値化した。その結果を図8に示す。なお、横軸は個々の蛍光スポットでの510〜525nmでの蛍光強度と575〜640nmでの蛍光強度の比を表しており、左に行くほど赤色の色調が強く右に行くほど緑色の色調が強い。縦軸はそれぞれの緑/赤の強度比を示した蛍光スポットの頻度を表している。この結果は、反応0分後には赤色の色調の蛍光スポットが多い状態から次第に緑色の色調の強い蛍光スポットに移行していく過程、すなわち細胞内でウイルスとエンドソームの膜融合が進行していく過程を示している。このように、図8の結果は、2波長で取得した蛍光画像の画像処理・画像解析によって膜融合の進行過程という時間情報と個々の蛍光スポットにおける膜融合の発生という空間情報を数値化し得たことを示している。【0028】【発明の効果】)上記図7および図8の結果では、ウイルス粒子は時間とともに細胞内での位置を移動し粒子の局所濃度も変化しエンドソームとの膜融合によって膜の形態も変化させている。それにもかかわらず、上述したように本実施例1ではウイルスとエンドソームの膜融合の検出と解析が示されており、本発明によれば、観察対象の膜が位置や集合状態を変えたり大きく変形した場合にも膜融合の検出と解析が可能になる。また、図7および図8の結果では、反応0分後のデータをマスクした上で10〜60分後のデータを検討しても、それぞれ図7の場合は画像上の蛍光スポットの色調が黄色ないし緑色であれば膜融合発生の判別が可能であり、また図8の場合は緑/赤の強度比の分布が右側(緑側)にあれば膜融合発生の判別が可能である。このように、本発明によれば、膜融合前の対照データがなくても膜融合発生の判別が可能となる。以上説明したことから明らかなように、本発明は、細胞融合、細胞内小器官の膜融合、ウイルス膜融合、リポソームの膜融合、遺伝子治療・ドラッグデリバリーのベクターの膜融合など多様な膜融合現象の解析に有効であり、しかも、高感度、迅速、かつ高い信頼性を有するという極めて有用な効果を有するものである。【図面の簡単な説明】【図1】本発明で解析される対象を示した図である。【図2】インフルエンザウィルスの細胞侵入過程の概略を示した図である。【図3】本発明の膜融合解析法の原理を示した図である。【図4】実験例および実施例で使用した蛍光色素の分子構造を示した図である。【図5】実験例1で使用した蛍光標識ウイルスの、界面活性剤SDSの添加前(−SDS)とSDS添加による可溶化後(+SDS)の蛍光スペクトルを示した図である。【図6】実験例2で使用した蛍光標識ウイルスの、界面活性剤Triton X‐100の添加前(−Triton)と添加後(+Triton)の蛍光スペクト ルを示した図である。【図7】実施例1の画像処理の結果を示す画像である。【図8】実施例2の数値化処理の結果を示す図である。 膜融合における一方の膜を蛍光試薬で標識し、他方の膜との融合に伴う膜成分の相互混合で生じる蛍光スペクトル変化を利用する方法であって、蛍光試薬として、膜融合前後での蛍光強度が変化しない波長領域と膜融合後蛍光強度が増大する波長領域の2つの波長領域を有する試薬を使用し、膜融合前後での蛍光強度が変化しない波長領域と膜融合後に蛍光強度が増大する波長領域の2つの波長領域において試料の蛍光顕微鏡画像を取得し、これら2波長の画像を用いた画像処理または画像解析によって膜融合の時空間情報を可視化または数値化することを特徴とする方法。 膜融合が生体膜間または人工膜間、もしくは生体膜と人工膜間で生ずるものである請求項1記載の方法。 膜融合が、細胞、細胞内小器官、ウイルスおよびリポソームのうち、同種または異種間の膜融合である請求項1記載の方法。 膜融合が、遺伝子治療あるいはドラッグデリバリーに使用するベクターにより行われるものである請求項1記載の方法。 画像処理が2つの画像間の和、差あるいは比の演算処理を含むものである請求項1記載の方法。