タイトル: | 特許公報(B2)_スクロースホスホリラーゼの調製法 |
出願番号: | 2001159753 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C12N 9/10,C12R 1/19,C12R 1/125,C12R 1/46 |
柳瀬 美千代 高田 洋樹 鷹羽 武史 栗木 隆 JP 4656620 特許公報(B2) 20110107 2001159753 20010528 スクロースホスホリラーゼの調製法 江崎グリコ株式会社 000000228 山本 秀策 100078282 柳瀬 美千代 高田 洋樹 鷹羽 武史 栗木 隆 20110323 C12N 9/10 20060101AFI20110303BHJP C12R 1/19 20060101ALN20110303BHJP C12R 1/125 20060101ALN20110303BHJP C12R 1/46 20060101ALN20110303BHJP JPC12N9/10C12N9/10C12R1:19C12N9/10C12R1:125C12N9/10C12R1:46 C12N 9/10 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) PubMed JSTPlus(JDreamII) Biosci.Biotech.Biochem.,1996年,Vol.60,No2.,p.319-321 20 2002345458 20021203 20 20080204 冨永 みどり 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、スクロースホスホリラーゼ調製物を得る方法およびスクロースホスホリラーゼ調製物に関する。【0002】【従来の技術】スクロースホスホリラーゼは、無機リン酸の存在下でスクロースに作用してグルコース−1−リン酸とフルクトースとを生成させる酵素である。スクロースホスホリラーゼを例えばホスホグルコムターゼおよびグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼなどと組み合せて無機リン酸またはスクロースの定量分析に適用することができる。そのため、スクロースホスホリラーゼは、診断用酵素などとして有用である。【0003】また、スクロースホスホリラーゼをホスホリラーゼと組み合せて用いることにより、アミロース、デンプン、グリコーゲンなどのグルカンに、糖単位をα−1,4−グルコシド結合によって連結して糖鎖を伸長させることができる。【0004】スクロースホスホリラーゼを上述の目的に用いるためには、いくつかの夾雑酵素を除去し、スクロースホスホリラーゼの純度をある程度高めることが好ましい。例えば、ホスホグルコムターゼおよびグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼとともにスクロースホスホリラーゼを用いて無機リン酸を定量する場合、ホスファターゼをあらかじめ除去しておくことが好ましい。α−1,4−グルコシド結合によって糖単位をグルカンに付加する伸長反応にスクロースホスホリラーゼを用いる場合、ホスファターゼに加えて、アミラーゼなども除去しておくことが好ましい。【0005】 スクロースホスホリラーゼを持っている微生物としては、例えば、以下が公知である。ロイコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)、シュードモナス種(Pseudomonas sp.)、クロストリジウム種(Clostridium sp.)、プルラリア プルランス(Pullularia pullulans)、アセトバクター キシリヌム(Acetobacter xylinum)、アグロバクテリウム種(Agrobacterium sp.)、シネココッカス種(Synecococcus sp.)、大腸菌(E.coli)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、モニリア シトフィラ(Monilia sitophila)、スクレロチネア エスセロチオルム(Sclerotinea escerotiorum)、クラミドモナス種(Chlamydomonas sp.)。スクロースホスホリラーゼを含むこれらの微生物の菌体の抽出液、あるいはこれらの微生物の培養上清からスクロースホスホリラーゼを調製する場合、従来、通常のイオン交換クロマトグラフィーなどの手法が用いられている。これまで、スクロースホスホリラーゼを調製するために熱処理工程を行ったという報告はない。従来のイオン交換クロマトグラフィーを用いた精製では、夾雑タンパク質を多く含む菌体の抽出物、培養上清などをカラムに流すために、カラムに対する負荷が大きく、それゆえ、大きなカラムで精製を行う必要があった。コストおよび時間がかかるという問題点があった。また、イオン交換クロマトグラフィー以外の簡便な精製方法(例えば、硫酸アンモニウム沈澱法)では、アミラーゼなどの夾雑酵素を除去することが難しい。そのため、スクロースホスホリラーゼを用いて合成されるアミロースの分子量が小さいという問題があった。また、ホスファターゼが混在するとアミロース合成が阻害され、アミロースの収率が低くなるという問題もあった。さらに、スクロースホスホリラーゼ以外のスクロース分解酵素が混在すると、スクロースおよびリン酸の定量分析に使えないことなどがあった。このように、スクロースホスホリラーゼを産業用途に利用するために、その簡便な調製法が求められている。【0006】特開平2−23866(発明の名称:シュクロースホスホリラーゼの安定化法)には、スクロースホスホリラーゼを安定化させる方法が示されている。この方法ではまず、ロイコノストック メセンテロイデス由来のスクロースホスホリラーゼを粗精製する。次いで、粗精製したスクロースホスホリラーゼに、糖類および有機酸を1%(w/v)以上添加するか、あるいはアルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩、またはキレート剤を5mM程度以上添加し、さらにアミノ酸を10mM程度以上含有させる。この溶液を凍結乾燥して、粉末酵素を得る。その粉末酵素を30℃、30日間保存した結果、無添加(残存活性68%)と比較して、残存活性が高い(83〜94%)。さらにこの酵素粉末は4℃で保存した場合、6ヶ月以上安定である。しかし、特開平2−23866は、スクロース溶液中で加熱することによるスクロースホスホリラーゼの調製方法も精製方法も開示していない。【0007】他の酵素調製法としては、熱に安定な酵素の調製に、熱処理工程を加える方法が挙げられる。この方法の例は多数報告されている。また、基質を添加すると、酵素の熱安定性が上がる例がいくつか公開されている。例えば、アミラーゼはデンプンが存在すると、耐熱性が高くなる。ホスホリラーゼは、リン酸、グルコース−1−リン酸などが存在すると、耐熱性が高くなる。これらの場合、一般に基質濃度が上がるにつれて(飽和点はあるものの)、耐熱性が高くなる。【0008】しかし、このような基質による酵素の安定化は決して一般的なものとは言えない。例えば、スクロースホスホリラーゼに基質であるフルクトースまたはリン酸を添加しても、熱安定化効果は見られない。【0009】従って、スクロースホスホリラーゼがスクロースの添加により耐熱化されることは、容易に推測できなかった。まして、スクロースホスホリラーゼの調製において最適なスクロース濃度が存在し、それよりも高濃度でも低濃度でも、調製効率が下がることは全く予想できなかった。【0010】さらに、従来公知の一般的な調製方法(例えば、クロマトグラフィー、透析、沈澱法など)でスクロースホスホリラーゼの純度を上げることにより比活性を上げようとすると、スクロースホスホリラーゼが変性し易いという欠点がある。あるいは、カラムの前処理または洗浄等に多大な工数を要したり、または極めて高額な設備が工業的量産のために必要であるという欠点がある。このため、従来技術においては、工業的量産規模で実用的なコストでスクロースホスホリラーゼを精製する方法はなかった。【0011】【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、スクロースホスホリラーゼの簡便な調製方法を提供することを目的とする。【0012】【課題を解決するための手段】本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物の調製方法は、スクロースホスホリラーゼおよびスクロースを含む溶液を、スクロースホスホリラーゼによる酵素反応が実質的に起こらない条件下で加熱する工程を包含する。【0013】1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼ調製物は、上記加熱前のスクロースホスホリラーゼと比較して向上した比活性を有し得る。【0014】1つの実施態様では、上記溶液は、無機リン酸を実質的に含まなくともよい。【0015】1つの実施態様では、上記溶液中のスクロースの濃度は、1.5〜50%であり得る。【0016】1つの実施態様では、前記溶液は、スクロースホスホリラーゼを含む微生物抽出液もしくはその粗精製物にスクロースを添加することにより調製され得る。【0017】1つの実施態様では、上記溶液中のスクロースの濃度は、4〜30%であり得る。【0018】1つの実施態様では、上記溶液中のスクロースの濃度は、8〜30%であり得る。【0019】1つの実施態様では、上記溶液中のスクロースの濃度は、8〜25%であり得る。【0020】1つの実施態様では、加熱工程における上記溶液の温度が、該溶液を30分間加熱した場合に、加熱前の該溶液に含まれる上記スクロースホスホリラーゼの活性の50%以上の活性が残る温度であり得る。【0021】1つの実施態様では、上記温度は、40℃〜90℃であり得る。【0022】1つの実施態様では、上記温度は、50℃〜80℃であり得る。【0023】1つの実施態様では、上記温度は、55℃〜70℃であり得る。【0024】1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼは、4%のスクロース存在下で55℃にて30分間加熱した場合に加熱前の該スクロースホスホリラーゼの活性の50%以上の活性を保持し得る。【0025】 1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼは、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌由来である。【0026】 1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼは、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)由来である。【0027】 1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼは、ストレプトコッカス サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)由来であり得る。【0028】 1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼは、ストレプトコッカス ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)由来であり得る。【0029】1つの実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼは、組換えされた中温菌から産生され得る。好ましい実施態様では、上記スクロースホスホリラーゼは、組換えされた大腸菌または組換えされた枯草菌から産生され得る。【0030】本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物は、上記の方法で調製され、比活性が30U/mg以上である。【0031】【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。【0032】<スクロースホスホリラーゼ調製物の材料>本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物は、良好な比活性を有し、好ましい実施態様では、比活性が30単位/mg以上である。本明細書中では、「スクロースホスホリラーゼ調製物」とは、スクロースホスホリラーゼを含有する、液体、半固体および固体をいう。従って、必要に応じてスクロースホスホリラーゼの状態が失われない範囲で、スクロースホスホリラーゼ以外の酵素、溶媒、添加剤などを含んでもよい。スクロースホスホリラーゼ調製物は、調製物の重量を100とした場合に、スクロースホスホリラーゼを代表的には0.0001重量%〜40重量%、好ましくは0.001重量%〜20重量%、さらに好ましくは0.005重量%〜10重量%含有する。【0033】本明細書中で「比活性」とは、スクロースホスホリラーゼ溶液中のタンパク質1mgあたりの酵素活性をいう。従って、比活性を計算する際には、調製物の容器の底に沈澱するタンパク質は考慮されない。このため、例えば、調製物中に不溶性タンパク質が沈澱する場合には、不溶性タンパク質を除いたスクロースホスホリラーゼ調製物中に含まれるタンパク質1mgあたりの酵素活性を比活性という。【0034】スクロースホスホリラーゼの酵素単位は、例えば、以下の方法により求められる。【0035】 25μlの10%スクロースと20μlの500mM リン酸バッファー(pH7.0)とを混合する。この混合液に、不溶性タンパク質を除去した適切に希釈した酵素液を5μl加えて攪拌し、反応系を得る。この反応系を適切な温度(例えば、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)由来のスクロースホスホリラーゼの場合、例えば50℃、ロイコノストック(Leuconostoc)由来のスクロースホスホリラーゼの場合、例えば、37℃)で20分間保持した後、100℃で5分間加熱し反応を停止させる。その後、反応生成物中のグルコース−1−リン酸を定量する。【0036】グルコース−1−リン酸は、例えば、以下の方法により定量される。300μlの測定試薬(200mM Tris−HCl(pH7.0)、3mM NADP、15mM 塩化マグネシウム、3mM EDTA、15μMグルコース−1,6−二リン酸、6μg/ml ホスホグルコムターゼ、6μg/ml グルコース−6−リン酸脱水素酵素)に、適切に希釈したグルコース−1−リン酸を含む溶液600μlを加えて攪拌し、反応系を得る。この反応系を、30℃で30分間保持した後、分光光度計を用いて340nmでの吸光度を測定する。濃度既知のグルコース−1−リン酸ナトリウムを用いて同様に吸光度を測定し、標準曲線を作成する。この標準曲線に試料で得られた吸光度を当てはめ、試料中のグルコース−1−リン酸濃度を求める。通常は、1分間に1μmolのグルコース−1−リン酸を生成する活性を1単位(U)とする。【0037】本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物の主な原料は、例えば、スクロースホスホリラーゼ、スクロース、およびそれを溶かしている溶媒である。【0038】(1)スクロースホスホリラーゼ:本明細書中では、「スクロースホスホリラーゼ」とは、スクロースのα−グルコシル基をリン酸に転移して加リン酸分解を行う任意の酵素をいう。スクロースホスホリラーゼによって触媒される反応は、次式により示される:【0039】【化1】 スクロースホスホリラーゼは、自然界では種々の微生物に含まれる。スクロースホスホリラーゼを産生する微生物の例としては、ロイコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、ストレプトコッカス サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、シュードモナス種(Pseudomonas sp.)、クロストリジウム種(Clostridium sp.)、プルラリア プルランス(Pullularia pullulans)、アセトバクター キシリヌム(Acetobacter xylinum)、アグロバクテリウム種(Agrobacterium sp.)、シネココッカス種(Synecococcus sp.)、大腸菌(E.coli)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、モニリア シトフィラ(Monilia sitophila)、スクレロチネア エスセロチオルム(Sclerotinea escerotiorum)、およびクラミドモナス種(Chlamydomonas sp.)が挙げられるがこれらに限定されない。【0040】 スクロースホスホリラーゼは、スクロースホスホリラーゼを産生する任意の微生物(例えば、スクロースホスホリラーゼを産生する細菌)由来であり得る。スクロースホスホリラーゼは、ある程度の耐熱性を有することが好ましい。スクロースホスホリラーゼは、単独で存在する場合の耐熱性が高ければ高いほど好ましい。例えば、4%のスクロース存在下で55℃にて30分間加熱した場合に加熱前のスクロースホスホリラーゼの活性の50%以上の活性を保持するものであることが好ましい。スクロースホスホリラーゼは、好ましくはストレプトコッカス(Streptococcus)属の細菌由来であり、さらに好ましくはストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)またはストレプトコッカス ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)由来である。【0041】本明細書中では、酵素がある微生物に「由来する」とは、その微生物から直接単離したことのみを意味するのではなく、その微生物を何らかの形で利用することによりその酵素が得られることをいう。例えば、その微生物の酵素遺伝子を大腸菌に導入して、その大腸菌から酵素を単離する場合も、その酵素はその微生物に「由来する」という。【0042】本発明で用いられるスクロースホスホリラーゼは、上記のような自然界に存在する、スクロースホスホリラーゼを産生する微生物から直接単離され得る。本発明で用いられるスクロースホスホリラーゼは、これらの微生物から単離したスクロースホスホリラーゼをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物から単離してもよい。【0043】本発明の方法で用いられるスクロースホスホリラーゼは、例えば、以下のようにして調製され得る。まず、スクロースホスホリラーゼを産生する微生物を培養する。この微生物は、スクロースホスホリラーゼを直接生産する微生物であってもよい。また、スクロースホスホリラーゼをコードする遺伝子をクローン化し、得られた遺伝子でスクロースホスホリラーゼ発現に有利な微生物を遺伝子組換えして組換えされた微生物を得、得られた微生物からスクロースホスホリラーゼを得てもよい。【0044】スクロースホスホリラーゼ遺伝子での遺伝子組換えに用いられる微生物は、スクロースホスホリラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。遺伝子組換えに用いられる微生物は、スクロースホスホリラーゼよりも耐熱性の高い水溶性タンパク質を実質的に産生しないかまたは低レベルでしか産生しない微生物であることが好ましい。このような耐熱性水溶性タンパク質は、本発明の加熱工程で変性しにくく、加熱後に夾雑タンパク質として溶液中に存在する可能性が高いからである。そのため、遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。中温菌とは、中温域で生育する細菌をいい、一般に最適生育温度が約20℃〜約40℃の細菌をいう。スクロースホスホリラーゼは、夾雑物としてアミラーゼおよびホスファターゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼおよびホスファターゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物を遺伝子組換えに用いることがより好ましい。組換えられた大腸菌または枯草菌などの中温菌から産生されるスクロースホスホリラーゼは、耐熱性水溶性タンパク質を実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。【0045】クローン化した遺伝子での微生物の遺伝子組換えは、当業者に周知の方法に従って行われ得る。クローン化した遺伝子を用いる場合、この遺伝子を、構成性プロモーターまたは誘導性プロモーターに作動可能に連結することが好ましい。「作動可能に連結する」とは、プロモーターと遺伝子とが、そのプロモーターによって遺伝子の発現が調節されるように連結されることをいう。誘導性プロモーターを用いる場合、培養を、誘導条件下で行うことが好ましい。種々の誘導性プロモーターは当業者に公知である。【0046】クローン化した遺伝子をまた、生産されるスクロースホスホリラーゼが菌体外に分泌されるように、シグナルペプチドを遺伝子に連結し得る。シグナルペプチドは当業者に公知である。【0047】当業者は、スクロースホスホリラーゼを生産するために、微生物の培養の条件を適切に設定し得る。微生物の培養に適切な培地、各誘導性プロモーターに適切な誘導条件などは当業者に公知である。【0048】適切な時間の培養後、スクロースホスホリラーゼを培養液から回収する。生産されたスクロースホスホリラーゼが菌体外へ分泌される場合、遠心分離によって微生物の菌体を除去すれば、上清中にスクロースホスホリラーゼが得られる。菌体内で生産されたスクロースホスホリラーゼが菌体外へ分泌されない場合、超音波処理、機械的破砕、化学的破砕などの処理によって微生物を破砕し、微生物破砕液を得る。本発明の方法では、微生物破砕液を精製せずに用いてもよい。次いで、微生物破砕液を遠心分離して細菌の破片を除去し、上清を入手し得る。得られたこれらの上清から、本発明の酵素を、硫酸アンモニウム沈澱またはエタノール沈澱、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含む周知の方法によって回収し得る。回収された生成物は、必要に応じて精製され得る。【0049】溶液中に含まれるスクロースホスホリラーゼの濃度は、溶液の重量を基準として、代表的には0.00001重量%〜40重量%、好ましくは0.0001重量%〜20重量%、より好ましくは0.001重量〜10重量%である。スクロースホスホリラーゼの重量が多すぎると、本発明の方法によって比活性を上げにくい場合がある。使用量が少なすぎると、スクロースホスホリラーゼ活性の回収率が低くなる場合がある。【0050】(2)スクロース:スクロースは、C12H22O11で示される、分子量約342の二糖である。スクロースは、光合成能を有するあらゆる植物中に存在する。スクロースは、植物から単離されてもよいし、化学的に合成されてもよい。コストの面からみて、スクロースを植物から単離することが好ましい。スクロースを多量に含む植物の例としては、サトウキビ、サトウダイコンなどが挙げられる。サトウキビは、汁液中に約20%のスクロースを含む。サトウダイコンは、汁液中に約10〜15%のスクロースを含む。【0051】本発明の方法で使用されるスクロースは、純粋なものであることが好ましい。しかし、本発明のスクロースの効果を阻害しない限り、任意の他の夾雑物を含んでいてもよい。例えば、本発明では、原糖が用いられ得る。【0052】溶液中に含まれるスクロースの濃度は、特に大量のスクロースホスホリラーゼ溶液を処理することを考慮して、代表的には4〜30%、好ましくは8〜30%、より好ましくは8〜25%である。なお、本明細書中でスクロースの濃度は、Weight/Volumeで、すなわち、(スクロースの重量(g))×100/(溶液の容量(ml))で計算する。スクロースの重量が多すぎると、本発明の方法によって比活性を上げにくい場合がある。使用量が少なすぎると、スクロースホスホリラーゼ活性の回収率が低くなる場合、および比活性を上げにくい場合がある。【0053】(3)溶媒:スクロースホスホリラーゼおよびスクロースを溶解する溶媒は、スクロースホスホリラーゼの酵素活性を損なわない溶媒であれば任意の溶媒であり得る。代表的な溶媒としては、水が挙げられる。溶媒は、上記スクロースホスホリラーゼを調製する際にスクロースホスホリラーゼに付随して得られる微生物破砕液のうちの水分であってもよい。【0054】水は、軟水、中間水および硬水のいずれであってもよい。軟水とは、硬度20°以上の水をいい、中間水とは、硬度10°以上20°未満の水をいい、硬水とは、硬度10°未満の水をいう。水は、好ましくは軟水または中間水であり、より好ましくは軟水である。【0055】(4)他の成分:スクロースホスホリラーゼおよびスクロースを含む溶液中には、スクロースホスホリラーゼとスクロースとの間の相互作用を妨害しない限り、任意の物質を含み得る。このような物質の例としては、緩衝剤、スクロースホスホリラーゼを産生する微生物の成分、塩類(NaClなど)および培地成分が挙げられる。【0056】<スクロースホスホリラーゼ調製物の調製>スクロースホスホリラーゼ調製物は、スクロースホスホリラーゼおよびスクロースを含む溶液を、スクロースホスホリラーゼによる酵素反応が実質的に起こらない条件下で加熱する工程を包含する方法により調製される。【0057】溶液は、例えば、スクロースホスホリラーゼを含む溶液(例えば、スクロースホスホリラーゼを含む上清)に純粋なスクロースを溶解することによって得ることができる。あるいは、スクロースホスホリラーゼを含む溶液と、スクロースを含む溶液(例えば、砂糖水、サトウキビの汁液濃縮物など)とを混合することによって得ることができる。1つの好ましい実施態様では、微生物抽出液もしくはその粗精製物にスクロースを添加する。ここで、微生物抽出液とは、スクロースホスホリラーゼ生産能を有する微生物から抽出された液であって、スクロースホスホリラーゼを含む液をいう。前述した破砕液および培養上清は、ここでいう微生物抽出液に含まれる。抽出方法としては公知の任意の方法が可能である。ここで、微生物抽出液の粗精製物とは、微生物抽出液から、スクロースホスホリラーゼ以外の任意の物質を部分的または実質的に除去することにより得られる産物をいう。微生物の粗精製は、当該分野で周知の方法によって行われ得る。粗精製の方法の例としては、濃縮、膜分画による不溶物除去、硫安分画などが挙げられる。【0058】粗精製物は、スクロースホスホリラーゼの純度が、代表的には約0.00001%〜約40%、好ましくは約0.0001%〜約20%、さらに好ましくは約0.001%〜約10%である。【0059】粗精製によって除去される物質は、例えば、濃縮によって粗精製される場合は、例えば水であり、膜画分によって不溶物が除去される場合は、例えば、細胞壁、細胞膜などの細胞破片、核酸、スクロースホスホリラーゼ以外のタンパク質などであり、そして硫安分画によって粗精製される場合は、例えば、細胞壁、細胞膜などの細胞破片、核酸、スクロースホスホリラーゼ以外のタンパク質などである。【0060】「スクロースホスホリラーゼによる酵素反応が実質的に起こらない条件」とは、スクロースホスホリラーゼによって触媒される加リン酸反応が実質的に起こらない条件である。例えば、加リン酸反応が全く起こらない条件または起こっても極めて少ないことをいう。例えば、リン酸の濃度がスクロースホスホリラーゼのリン酸に対するKm値を超えない条件である。このような条件の例としては、無機リン酸が少量しか存在しない条件、反応の平衡が加リン酸反応とは逆の方向に大きく傾いた条件(例えば、グルコース−1−リン酸またはフルクトースのいずれかがスクロースと比較して多量に存在する条件)などが挙げられる。従って、本発明の方法は、リン酸を加えずに行うことが好ましい。【0061】 得られた溶液は、加熱される。この加熱工程における溶液の温度は、この溶液を30分間加熱した場合に、加熱前のこの溶液に含まれるスクロースホスホリラーゼの活性の50%以上、より好ましくは80%以上の活性が残る温度であることが好ましい。この温度は用いられるスクロースホスホリラーゼの種に応じて選択され、一般的に好ましくは50℃〜80℃であり、より好ましくは55℃〜70℃である。例えば、ストレプトコッカス ミュータンス(S.mutans)スクロースホスホリラーゼの場合、この温度は50℃〜60℃であることが好ましい。【0062】加熱時間は、加熱温度を考慮して、スクロースホスホリラーゼの活性を大きく損なうことがない限り、任意の時間で設定され得る。加熱時間は、代表的には10分間〜90分間、より好ましくは30分間〜60分間である。【0063】加熱は、どのような手段を用いて行ってもよいが、溶液全体に均質に熱が伝わるように、攪拌を行いながら加熱することが好ましい。溶液は、例えば、ビーカーの中に入れられて攪拌される。加熱に用いられる装置としては、ウォーターバスが挙げられる。【0064】上記溶液中に存在する、スクロースホスホリラーゼ以外の夾雑タンパク質の多くが加熱の間に変性して沈澱し得る。スクロースホスホリラーゼは、スクロースと共存することにより、熱安定性が増す。この機構は不明である。しかし、例えば、共存したスクロースがスクロースホスホリラーゼと複合体を形成して、単独のスクロースホスホリラーゼおよび夾雑タンパク質よりも安定した構造をとっているなどの何らかの様式でスクロースがスクロースホスホリラーゼに対して何らかの作用を及ぼすことによりスクロースホスホリラーゼが安定化されると考えられる。それゆえ、単独のスクロースホスホリラーゼおよび夾雑タンパク質が変性する温度に加熱しても、スクロース存在下のスクロースホスホリラーゼは依然として未変性のままであると考えられる。もちろん、熱安定性の増加は、このような機構によるとは限らず、他の機構によることも考えられ得る。本願請求の範囲に記載された方法により、安定化効果が得られる限り、その安定化のメカニズムのいかんを問わず、その方法は本発明に包含される。【0065】沈澱した夾雑タンパク質は、必要に応じて、当該分野で公知の方法によって除去され得る。例えば、沈澱した夾雑タンパク質は、溶液を遠心分離して沈澱を除去することにより、または溶液を適切な膜で濾過することにより、除去され得る。ただし、沈澱した夾雑タンパク質が存在していてもその後の工程を行うのに支障がない場合には、沈澱を除去することなくその後の工程を進めてもよい。【0066】このようにして、本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物が得られる。本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物は好ましくは、加熱前のスクロースホスホリラーゼ溶液と比較して向上した比活性を有する。本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物の比活性は、代表的には30U/mg以上、好ましくは40U/mg〜200U/mg、より好ましくは40U/mg〜100U/mgである。【0067】本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物が、加熱前のスクロースホスホリラーゼ溶液と比較して向上した比活性を有する機構はわかっていない。しかし、この比活性の上昇は、主に夾雑タンパク質が沈澱することに起因し得ると考えられる。また、比活性の上昇は、スクロースホスホリラーゼによる加リン酸化反応を阻害するタンパク質の変性に起因し得ると考えられる。すなわち、スクロースホスホリラーゼの基質であるスクロースおよびリン酸の少なくとも一方をスクロースホスホリラーゼから奪う作用を有するタンパク質の変性に起因し得ると考えられる。さらに、スクロースホスホリラーゼに対してスクロースが何らかの様式で作用することによりスクロースホスホリラーゼの活性が向上することも考えられる。【0068】本発明の方法によって得られたスクロースホスホリラーゼ調製物は、従来公知のスクロースホスホリラーゼの用途に用いることができる。例えば、無機リン酸またはスクロースの定量分析に用いることもできる。診断用酵素とすることもできる。【0069】本発明の方法によって得られたスクロースホスホリラーゼ調製物は、無処理の状態のスクロースホスホリラーゼと比較して、より高温での反応に用いることができる。本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物は、加熱処理後、そのまま何の操作も行わずに酵素液として用いてもよいし、沈澱した夾雑タンパク質を除去した後に用いてもよい。また、さらに高純度のスクロースホスホリラーゼ調製物が必要な場合は、本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物を、カラムクロマトグラフィーなどの精製工程に供することができる。この場合には、本発明の方法によるスクロースホスホリラーゼ調製物は、カラムクロマトグラフィーなどの精製工程への負荷が少ないので、本発明は有利である。本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物は、沈澱または凍結乾燥などの処理により粉末状態にされた後に保存されてもよい。本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物を工業的に利用する場合、何の操作も行わずに用いることがコストの面から好ましい。【0070】本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物は、無処理の状態と比較して夾雑物が少ないので、本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物をアミロース合成に用いた場合に、得られるアミロースの最大分子量が大きくなるという効果が得られる。【0071】1つの好ましい実施態様では、スクロースホスホリラーゼをスクロース存在下で加熱してスクロースホスホリラーゼ調製物を調製した後、スクロース、リン酸、オリゴ糖およびグルカンホスホリラーゼを添加してアミロース合成反応を開始する。ここで、アミロース合成反応開始前には必要に応じて、沈澱した夾雑タンパク質を除去してもよいが、沈澱を除去せずにアミロース合成を行うことが、プロセス全体の簡略化およびコストの低減の点において好ましい。【0072】本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物の調製方法は、一般的な他の精製方法と比較して、スクロースホスホリラーゼを変性させる割合が少ない。また、必要な処理手順が極めて簡便であり、高価な設備も必要としないので、低コストで効率良くスクロースホスホリラーゼを得ることができる。従って、一般的な他の精製方法と比較して低いコストでスクロースホスホリラーゼを得ることができるという利点を有する。【0073】【実施例】以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されない。【0074】(製造例1 馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼの調製方法)市販されている馬鈴薯塊茎1.4kgの皮をむく。皮をむいた塊茎をジューサーですりつぶしてすりつぶし液を得る。次いで、このすりつぶし液をガーゼで濾過して濾液を得る。濾液に、Tris緩衝液(pH7.0)を最終濃度100mMになるように加えて、酵素液を得る。この酵素液を、55℃の水浴中で、液温が50℃に達してからさらに10分間加熱する。加熱後、この酵素液を、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−25I)を用いて、8,500rpmにて、20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得る。【0075】得られた遠心上清に、硫酸アンモニウムを100g/Lになるように加えてから、4℃にて2時間放置し、タンパク質を沈澱させる。次いで、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−25I)を用いて、8,500rpmにて20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得る。さらに、得られた上清に硫酸アンモニウムを最終濃度250g/Lになるように加えてから、4℃にて2時間放置し、タンパク質を沈澱させる。次いで、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−25I)を用いて、8,500rpm、20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質を回収する。【0076】回収された不溶性のタンパク質を25mM Tris緩衝液(pH7.0)150mlで懸濁する。懸濁した酵素液を同じ緩衝液に対して一晩透析する。透析後のサンプルを、あらかじめ平衡化しておいた陰イオン交換交換樹脂Q−Sepharose(ファルマシア社製)に吸着させ、200mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で洗浄する。続いて、400mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で溶出させ、溶出液を回収し、部分精製馬鈴薯塊茎由来グルカンホスホリラーゼ含有溶液とする。【0077】購入した馬鈴薯によっては、この段階で本発明に使用し得るグルカンホスホリラーゼ含有溶液になるが、さらなる精製を必要とすることが多い。必要に応じて、Sephacryl S−200HR(ファルマシア社製)などを用いたゲルフィルトレーションクロマトグラフィーによる分画、Phenyl−TOYOPEARL 650M(東ソー社製)などを用いた疎水クロマトグラフィーによる分画を組み合わせることにより、精製馬鈴薯グルカンホスホリラーゼ含有溶液を得ることができる。【0078】 (実施例1:ストレプトコッカス ミュータンス(S.mutans)スクロースホスホリラーゼを含む組換え大腸菌の菌体破砕液の調製、およびその菌体破砕液からのスクロースホスホリラーゼ酵素液の調製) (1.1 組換えストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)スクロースホスホリラーゼを含む菌体破砕液の調製方法) ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)スクロースホスホリラーゼ遺伝子(Ferretti,J.Jら、Ingbritt.Infect.Immun.56:1585−88)を、選択マーカー遺伝子Ampr、TetrとともにpKK388−1に組み込み、プラスミドpKK388−SMSPを得た。このプラスミドでは、スクロースホスホリラーゼ遺伝子を、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導性プロモーターの制御下に作動可能に連結した。このプラスミドを、大腸菌TG−1(STRATAGENE社製)に、コンピテントセル法により導入した。この大腸菌を、抗生物質アンピシリンおよびIPTGを含むLB培地を含むプレートにプレーティングして、37℃で一晩培養した。このプレート上で増殖した大腸菌を選択することにより、スクロースホスホリラーゼ遺伝子が導入された大腸菌を得た。得られた大腸菌がスクロースホスホリラーゼ遺伝子を含むことを、導入された遺伝子の配列を解析することによって確認した。また、得られた大腸菌がスクロースホスホリラーゼを発現していることを、活性測定によって確認した。【0079】この大腸菌を、抗生物質アンピシリン、テトラサイクリンを含むLB培地1リットルに接種し、120rpmで振盪させながら37℃で6〜7時間振盪培養した。その後、IPTGを0.04mMになるようにこの培地に添加し、30℃でさらに18時間振盪培養した。次いで、この培養液を5,000rpmにて5分間遠心分離して、大腸菌の菌体を収集した。得られた菌体を、50mlの20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁し、次いで超音波処理により破砕し、菌体破砕液50mlを得た。この破砕液中には、約15U/mgの比活性のスクロースホスホリラーゼが含まれていた。【0080】(1.2 スクロース存在下での55℃での加熱によるスクロースホスホリラーゼの調製)上記1.1で得られた菌体破砕液に、スクロースを加えて溶解し、スクロースの最終濃度がそれぞれ、溶解後の溶液を基準として4%、8%、12%、16%、20%、25%または30%の溶液を得た。スクロースを加えない菌体破砕液をコントロール(0%スクロース)とした。これらの溶液を、55℃の水浴中で加熱した。加熱開始時(0分)、加熱開始後30分、60分および90分の時点でサンプリングし、スクロースホスホリラーゼの活性を本明細書中に記載の方法に従って測定した。【0081】測定された活性に基づいて、残存活性を算出した。【0082】残存活性を、以下の通りに算出した:【0083】【数1】また、上記の各サンプルを、12000rpmにて5分間遠心分離して上清を得た。この上清中に含まれるタンパク質量を、ブラッドフォード法(Bradford,M.,Anal.Biochem.,72,248〜254頁(1976))を用いて測定した。ブラッドフォード法は、溶液中に含まれる全てのタンパク質に発色性基質を結合させる、比色検定法である。ここでは、日本バイオ・ラッドラボラトリーズ(株)より購入したプロテインアッセイキットを用い、そのプロトコルに従って、ウシγグロブリンを標準として測定した。【0084】比活性を、以下の通りに算出した:【0085】【数2】残存活性についての結果を図1に、そして比活性についての結果を図2に示す。この結果、以下のことがわかった。スクロースを含まない場合(0%)は、55℃にて30分の加熱後、活性は10%程度にまで低下した。【0086】4%以上のスクロースを含む場合には、30分の加熱後も50%以上の活性が残存していた。特に8%以上のスクロースを含む場合には、30分の加熱後も80%以上の活性が残存していた。【0087】加熱前の抽出液のスクロースホスホリラーゼ比活性は、15U/mgタンパク程度であったが、4〜20%のスクロースを添加して、55℃にて30分間の加熱したところ、40U/mgタンパク質以上に向上し、精製度が上昇したことが示された。一方、スクロースが25%以上の場合には、同様の処理後の比活性は20U/mgタンパク質程度にとどまった(図2)。【0088】55℃にて60分の加熱の場合には、8〜25%のスクロースを添加した抽出液の場合に比活性が顕著に向上し、60U/mgタンパク質程度となった。一方、スクロースが4%以下の場合には、活性の顕著な減少が見られたことから結果的に比活性が低下した。また、スクロースが30%以上の場合には、顕著な比活性向上は見られなかった(図2)。【0089】55℃にて90分間の加熱の場合には、12〜25%のスクロースを添加した抽出液の場合に比活性が顕著に向上し、70U/mgタンパク質程度となった(図2)。【0090】(1.3 スクロース存在下での55℃での加熱後に得られたスクロースホスホリラーゼ酵素液を用いたアミロース製造(分子量および収率))上記(1.1)で得られた菌体破砕液を、上記(1.2)と同様に、4%、8%、16%、20%、25%、または30%のスクロースの存在下で、55℃にて30分間または60分間加熱した。加熱後に得られたスクロースホスホリラーゼ酵素液に対して、スクロース、無機リン酸、マルトテトラオース、スクロースホスホリラーゼおよび上記製造例1で製造した馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼを混合して、最終濃度がスクロース2%、無機リン酸10mM、マルトテトラオース10μM、スクロースホスホリラーゼ1U/ml、馬鈴薯由来のグルカンホスホリラーゼ1U/mlの混合液を得た。この混合液を37℃にて一晩インキュベートし、アミロースを合成した。加熱処理により、反応を停止させた。コントロールとして非加熱の菌体破砕液を用いて同様にアミロースを製造した。【0091】次いで、反応生成物中のグルコース、フルクトースおよびグルコース−1−リン酸の量を測定した。グルコースの定量を、和光純薬社から市販されている測定試薬(グルコースAR−II)を用いて行なった。フルクトースの定量を、ロシュ社から市販されている測定キット(F−キット D−グルコース/D−フルクトース)を用いて行なった。グルコース−1−リン酸の定量を、以下の方法により行った。まず、300μlの測定試薬(200mM Tris‐HCl(pH7.0)、3mM NADP、15mM 塩化マグネシウム、3mM EDTA、15μMグルコース−1,6−二リン酸、6μg/ml ホスホグルコムターゼ、6μg/ml グルコース−6−リン酸脱水素酵素)に、適切に希釈したグルコース−1−リン酸を含む溶液600μlを加えて攪拌し、反応系を得た。この反応系を、30℃で30分間保持した後、分光光度計を用いて340nmでの吸光度を測定した。濃度既知のグルコース−1−リン酸ナトリウムを用いて同様に吸光度を測定し、標準曲線を作成した。この標準曲線に試料で得られた吸光度を当てはめ、試料中のグルコース−1−リン酸濃度を求めた。1分間に1μmolのグルコース−1−リン酸を生成する活性を1単位とした。【0092】生成されたアミロースの量を以下の数式に基づいて算出した:【0093】【数3】さらに、アミロースの収率を以下の式に基づいて算出した:【0094】【数4】加熱時間30分間では、スクロースが8〜30%含まれている場合、非加熱の場合に比較して、アミロースの収率が高かった。【0095】同じ反応液を用いてアミロースの分子量を測定した。本発明で合成したグルカンの分子量を以下の方法により測定した。まず、本発明で合成したグルカンを1N水酸化ナトリウムで完全に溶解し、適切な量の塩酸で中和した後、グルカン約300μg分を、示差屈折計と多角度光散乱検出器を併用したゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより重量平均分子量を求めた。【0096】詳しくは、カラムとしてShodex SB806M−HQ(昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−DSP、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(Shodex RI−71、昭和電工製)をこの順序で連結して用いた。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いた。得られたシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technology社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、重量平均分子量を求めた。【0097】55℃にて30分間加熱した菌体破砕液についての生成物アミロースの分子量の結果を図3に、そして収率の結果を図5に、そして55℃にて60分間加熱した菌体破砕液についての生成物アミロースの分子量の結果を図4に示す。この結果、以下のことがわかった。【0098】加熱時間30分間では、スクロースが4〜25%含まれている場合、非加熱の場合に比較して高分子量のアミロースを合成できた。スクロースが8〜25%含まれている場合、特に高分子量のアミロースを合成できた。アミロース収率は、スクロースが8〜30%含まれている場合に高かった。【0099】加熱時間60分間では、スクロースが8〜30%含まれている場合、非加熱の場合に比較して高分子量のアミロースを合成できた。スクロースが16〜25%含まれている場合、特に高分子量のアミロースを合成できた。【0100】生成物であるアミロースの分子量および収率はスクロースホスホリラーゼ中の不純物、特にアミラーゼ活性により小さくなる傾向がある。従って、この結果はスクロース4〜30%、より好ましくは8〜30%、さらに好ましくは8〜25%のスクロース存在下における熱処理により、それら不純物が減少したスクロースホスホリラーゼ酵素液を得ることができたことを示している。【0101】(1.4 スクロース存在下での60℃での加熱による比活性向上効果)上記(1.1)で得られた菌体破砕液を、上記(1.2)と同様に、20%または30%のスクロースの存在下で、60℃にて30分間または60分間加熱した。加熱後に得られたスクロースホスホリラーゼ酵素液を用いて、上記(1.3)と同様にアミロースを製造した。その結果、非加熱の菌体破砕液を用いた場合と比較して1.5倍程度高分子のアミロースが得られた。【0102】 (実施例2:ストレプトコッカス ミュータンス(S.mutans)スクロースホスホリラーゼを含む組換え枯草菌の菌体破砕液の調製、およびその菌体破砕液からのスクロースホスホリラーゼ調製) 実施例1で用いた大腸菌の代わりに枯草菌を用い、プラスミドとして、枯草菌中でも大腸菌中でも複製できるpWH1520(MoBiTec GmbH社、ドイツ)を用い、そして枯草菌中での選択マーカーとしてテトラサイクリン耐性遺伝子を用い、そして誘導物質としてキシロースを最終濃度0.5重量%で用いる以外は実施例1と同様にして、ストレプトコッカス ミュータンス(S.mutans)由来スクロースホスホリラーゼを含む組換え枯草菌の菌体破砕液を調製した。【0103】得られた菌体破砕液を、上記の(1.2)と同様に、4〜30%のスクロース存在下、55℃で30分間または60分間加熱し、調製物を得た。得られた調製物をアミロース製造について上記(1.3)および(1.4)に従って試験した。その結果、アミロース合成に適するスクロースホスホリラーゼ酵素液が得られたことがわかった。【0104】一方、スクロースを未添加で、枯草菌の菌体破砕液を55℃で30分間または60分間加熱した結果、得られた溶液の活性は低下してしまっていた。つまり、アミロース合成に適するスクロースホスホリラーゼ酵素液が得られなかった。【0105】 (ロイコノストック メセンテロイデス(L.mesenteroides)スクロースホスホリラーゼを含む菌体破砕液からのスクロースホスホリラーゼ調製) ロイコノストック メセンテロイデス(L.mesenteroides)NCIMB8699株を、1リットルのLM培地(2% スクロース、2% 酵母エキス、1% ペプトン、2% リン酸一水素二カリウム、0.02% NaCl)で25℃にて24時間培養した。次いで、8000rpmにて遠心分離を行い、菌体を回収した。得られた菌体に、リゾチーム処理を行い、さらに超音波で処理することにより、スクロースホスホリラーゼを含む菌体破砕液を得た。【0106】この菌体破砕液に、最終濃度がそれぞれ、溶解後の溶液を基準として4%、8%、12%、16%、20%、25%または30%になるようにスクロースを加えて溶解し、溶液を得た。スクロースを加えない菌体破砕液をコントロール(0%スクロース)とした。これらの溶液を、50℃の水浴中で30分間または60分間加熱した。スクロースホスホリラーゼの活性を本明細書中に記載の方法に従って測定した。その結果、4〜30%のスクロースの存在下で加熱した場合に、アミロース合成に適するスクロースホスホリラーゼ酵素液が得られた。【0107】一方、スクロースを未添加の場合、得られた溶液には充分な活性がなかった。つまりアミロース合成に適するスクロースホスホリラーゼ酵素液が得られなかった。【0108】 (ロイコノストック メセンテロイデス(L.mesenteroides)スクロースホスホリラーゼを含む菌体抽出液(大腸菌抽出液モデル)からのスクロースホスホリラーゼ調製) 組換え大腸菌からロイコノストック メセンテロイデス(L.mesenteroides)スクロースホスホリラーゼを調製した場合を想定して、オリエンタル酵母社製の高純度スクロースホスホリラーゼに大腸菌TG−1株の菌体破砕液を添加した、モデル菌体破砕液を作製した。【0109】このモデル菌体破砕液に最終濃度がそれぞれ、溶解後の溶液を基準として4%、8%、12%、16%、20%、25%または30%になるようにスクロースを加えて溶解し、溶液を得た。スクロースを加えない菌体破砕液をコントロール(0%スクロース)とした。これらの溶液を、50℃の水浴中で30分間または60分間加熱した。スクロースホスホリラーゼの活性を本明細書中に記載の方法に従って測定した。その結果、4〜30%のスクロースの存在下で加熱した場合に、アミロース合成に適するスクロースホスホリラーゼ酵素液が得られた。【0110】一方、スクロースを未添加の場合、得られた溶液には充分な活性がなかった。つまりアミロース合成に適するスクロースホスホリラーゼ酵素液が得られなかった。【0111】(比較例1:スクロースホスホリラーゼの安定性に対するフルクトースの効果)スクロースホスホリラーゼの基質には、スクロース以外にフルクトース、リン酸、およびグルコース−1−リン酸がある。フルクトースのスクロースホスホリラーゼ安定性への効果を以下のように調べた。【0112】 上記(1.1)で調製したストレプトコッカス ミュータンス(S.mutans)由来スクロースホスホリラーゼを含む菌体破砕液に、最終濃度がそれぞれ、5%または10%になるようにフルクトースを加えて溶解し、溶液を得た。フルクトースを加えない菌体破砕液をコントロール(0%スクロース)とした。対照として、同濃度のスクロースを添加した場合についても同時に調べた。これらの溶液を、55℃の水浴中で加熱した。加熱開始時(0分)、加熱開始後30分、60分および90分の時点でサンプリングし、スクロースホスホリラーゼの活性を本明細書中に記載の方法に従って測定した。【0113】測定された活性に基づいて、残存活性および比活性を算出した。【0114】残存活性についての結果を図6に示す。この結果、フルクトースにはスクロースの場合のようなスクロースホスホリラーゼ安定化効果は認められないことがわかった。【0115】(比較例2:スクロースホスホリラーゼの安定性に対するリン酸の効果)リン酸のスクロースホスホリラーゼ安定性への効果を以下のように調べた。【0116】 上記(1.1)で調製したストレプトコッカス ミュータンス(S.mutans)由来スクロースホスホリラーゼを含む菌体破砕液に、最終濃度がそれぞれ、溶解後の溶液を基準として40mM、100mMおよび400mMになるようにリン酸ナトリウムを加えて溶解し、溶液を得た。リン酸ナトリウムを加えない菌体破砕液をコントロール(添加なし)とした。対照として、10%の濃度のスクロースを添加した場合についても同時に調べた。これらの溶液を、55℃の水浴中で加熱した。加熱開始時(0分)、加熱開始後30分、60分および90分の時点でサンプリングし、スクロースホスホリラーゼの活性を本明細書中に記載の方法に従って測定した。【0117】測定された活性に基づいて、残存活性および比活性を算出した。【0118】残存活性についての結果を図7に示す。この結果、リン酸にはスクロースの場合のようなスクロースホスホリラーゼ安定化効果は認められないことがわかった。【0119】【発明の効果】本発明によれば、スクロースホスホリラーゼ調製物およびそれを調製するための方法が提供される。本発明の方法によれば、夾雑タンパク質の除去および比活性を上げることにより、精製度の高いスクロースホスホリラーゼ調製物が容易に得られる。本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物は、アミロース合成、リン酸の定量、フルクトースの定量などの用途に適している。本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物は夾雑タンパク質含有量が比較的少ないので、スクロースホスホリラーゼを利用した反応が妨害されにくい。特にアミロース合成に用いる場合には、アミロースの収率を上げることができるという利点、および/または得られるアミロースの最大分子量が大きくなるという利点がある。さらに、本発明のスクロースホスホリラーゼ調製物は、比活性が高いためカラムクロマトグラフィーへの負荷を下げることができ、比活性が低い場合よりも小さなカラムで精製できるので、スクロースホスホリラーゼをさらに精製する目的にも適している。【図面の簡単な説明】【図1】スクロース存在下でのスクロースホスホリラーゼの安定性を示すグラフである。【図2】スクロース存在下でのスクロースホスホリラーゼの安定性を示すグラフである。【図3】スクロース存在下で加熱されたスクロースホスホリラーゼを用いたアミロース合成を示すグラフである。【図4】スクロース存在下で加熱されたスクロースホスホリラーゼを用いたアミロース合成を示すグラフである。【図5】スクロース存在下で加熱されたスクロースホスホリラーゼを用いたアミロース合成を示すグラフである。【図6】スクロースホスホリラーゼ安定性へのスクロースまたはフルクトースの効果を示すグラフである。【図7】スクロースホスホリラーゼ安定性へのリン酸の効果を示すグラフである。 スクロースホスホリラーゼ調製物の調製方法であって、 スクロースホスホリラーゼおよびスクロースを含む溶液を、該溶液のリン酸濃度が該スクロースホスホリラーゼのリン酸に対するKm値を超えない条件下で加熱する工程を包含する、方法。 前記スクロースホスホリラーゼ調製物が、前記加熱前のスクロースホスホリラーゼと比較して向上した比活性を有する、請求項1に記載の方法。 前記溶液が、無機リン酸を含まない、請求項1に記載の方法。 前記溶液が、スクロースホスホリラーゼを含む微生物抽出液もしくはその粗精製物にスクロースを添加することにより調製される、請求項1に記載の方法。 前記溶液中のスクロースの濃度が、1.5〜50%である、請求項1に記載の方法。 前記溶液中のスクロースの濃度が、4〜30%である、請求項1に記載の方法。 前記溶液中のスクロースの濃度が、8〜30%である、請求項1に記載の方法。 前記溶液中のスクロースの濃度が、8〜25%である、請求項1に記載の方法。 前記加熱工程における前記溶液の温度が、該溶液を30分間加熱した場合に、加熱前の該溶液に含まれる前記スクロースホスホリラーゼの活性の50%以上の活性が残る温度である、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。 前記温度が、50℃〜80℃である、請求項9に記載の方法。 前記温度が、55℃〜70℃である、請求項9に記載の方法。 前記スクロースホスホリラーゼが、4%のスクロース存在下で55℃にて30分間加熱した場合に加熱前の該スクロースホスホリラーゼの活性の50%以上の活性を保持する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。 前記スクロースホスホリラーゼが、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌由来である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。 前記スクロースホスホリラーゼが、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)由来である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。 前記スクロースホスホリラーゼが、ストレプトコッカス サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)由来である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。 前記スクロースホスホリラーゼが、ストレプトコッカス ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)由来である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。 前記スクロースホスホリラーゼが、遺伝子組換えされた中温菌から産生される、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。 前記スクロースホスホリラーゼが、遺伝子組換えされた大腸菌から産生される、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。 前記スクロースホスホリラーゼが、遺伝子組換えされた枯草菌から産生される、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。 請求項1に記載の方法で調製される、比活性40U/mg以上のスクロースホスホリラーゼ調製物。