生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_アスタキサンチンのための方法
出願番号:2001155428
年次:2012
IPC分類:C12N 15/09,C12N 1/19,C12P 23/00,C12R 1/645


特許情報キャッシュ

星野 達雄 尾島 和行 瀬戸口 豊 JP 4861569 特許公報(B2) 20111111 2001155428 20010524 アスタキサンチンのための方法 ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. 503220392 山田 行一 100094318 野田 雅一 100123995 清水 義憲 100128381 星野 達雄 尾島 和行 瀬戸口 豊 EP 00111148.3 20000524 20120125 C12N 15/09 20060101AFI20120105BHJP C12N 1/19 20060101ALI20120105BHJP C12P 23/00 20060101ALI20120105BHJP C12R 1/645 20060101ALN20120105BHJP JPC12N15/00 AC12N1/19C12P23/00C12N1/19C12R1:645C12P23/00C12R1:645 C12N 15/09 C12N 1/19 C12P 23/00 PubMed Antonie van Leeuwenhoek, vol.57, p.191-203 (1990) Genetics, vol.142, p.129-140 (1996) The Plant Cell, vol.11, p.57-68 (1999) 7 DSMZ DSM 13429 DSMZ DSM 13430 DSMZ DSM 13431 2002253266 20020910 45 20080520 光本 美奈子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、カロテノイドの製造のための分子生物学およびそのために有用な生物材料に関する。【0002】【従来の技術】アスタキサンチンは、動物(例えば、フラミンゴおよびショウジョウトキなどの鳥類、ならびにニジマスおよびサケなどの魚類)、藻類および微生物などの非常にさまざまな生物に分布することが知られている。また、アスタキサンチンが反応性酸素種に対する強い抗酸化作用をもつことも認知されており、癌などのいくつかの疾患から生細胞を防御するための薬学的用途への適用が期待されている。さらに、工業的応用の観点からは、アスタキサンチンは動物に特徴的な橙赤色を付与し、市場における消費者への魅力に貢献するため、特にサケなどの養殖魚の業界ではアスタキサンチンの着色剤としての需要が高まりつつある。【0003】ファフィア・ロドザイマ(Phaffia rhodozyma)は、特にアスタキサンチンを生産するカロテノイド生産性酵母菌株として知られている。他のカロテノイド生産酵母であるロドトルラ(Rhodotorula)属とは異なり、ファフィア・ロドザイマ(P. rhodozyma)はD-グルコースなどのいくつかの糖を発酵できる。これは工業的応用の観点からは重要な特徴である。最近の分類学的研究でファフィア・ロドザイマ(P. rhodozyma)の性周期が明らかになり、その有性状態(telemorphic state) はキサントフィロマイセス・デンドロホス(Xanthophyllomyces dendrorhous)と命名された(W.I. Golubev;Yeast 11、101〜 110、1995)。ファフィア・ロドザイマからアスタキサンチン高生産株を得るためにいくつかの菌株改良試験が行われてきたが、この10年間、このような試みは従来の変異誘発法およびプロトプラスト融合法を用いることに限られてきた。最近、ウェリー(Wery)らは、ファフィア・ロドザイマゲノムのリボソームDNA遺伝子座に多コピーで組み込ませるために非複製プラスミドを用いる、ファフィア・ロドザイマを用いた宿主ベクター系を開発した(Weryら、Gene、184、89〜97、1997)。また、ベルドーズ(Verdoes)らは、ゲラニルゲラニルピロリン酸からβ-カロテンへの反応を触媒する酵素をコードする3種類のカロテノイド生産遺伝子と同様に、ファフィア・ロドザイマの形質転換株を得るためのさらに改良されたベクターを報告した(国際公開公報第97/23633号)。従来の方法が到達した生産性を上回るためにファフィア・ロドザイマの菌株改良研究における遺伝子工学の重要性は近い将来さらに高まると考えられる。【0004】多くの研究者らは、アスタキサンチンの生産が発酵期よりも増殖における呼吸期において刺激されるため、アスタキサンチンがファフィア・ロドザイマ中で抗酸化剤としての役割を果たすのではないかと推測している。一般に、活性酸素種は、ユビキノン・プールの還元速度と呼吸鎖の下流における電子伝達の減少速度との間に不均衡が生じたために、呼吸鎖で電子がオーバーフローした結果として、呼吸期に生産される傾向がある。このような推測において、アスタキサンチンは、スーパーオキシドジスムターゼが生きた生物中で働くように、このような活性酸素種を消去させている可能性がある。【0005】シュレーダー(Shroeder)らは、ファフィア・ロドザイマの呼吸鎖は、アスタキサンチンの生産が刺激される増殖後期にKCN感受性の呼吸からKCN耐性の呼吸に移行することを報告した(J. Biol. Chem.、270、18374〜18379、1995)。KCN感受性の呼吸鎖は、広くさまざまな生物に分布している通常の電子伝達鎖であって、そこではユビキノン・プール内の電子が、複合体IIIを介して複合体IVに伝達される。この呼吸鎖は、KCNまたはアンチマイシンAによって阻害されることが知られている。一方で、KCN耐性の呼吸鎖は、植物および菌類に分布している。この呼吸鎖においては、オルタナティブオキシダーゼ(AOX)と呼ばれるミトコンドリア膜タンパク質が、酸素分子をレセプターとして用いることにより、ユビキノン・プール中の電子を水(H2O)分子に伝達する実質的な役割を果たしている。AOX活性は、n-没食子酸プロピル(n-PG)またはサリチルヒドロキサム酸(SHAM)によって阻害されることが知られている。【0006】ファフィア・ロドザイマに由来するアンチマイシン感受性のアスタキサンチン高生産株の特徴付けの研究において、アン(An)らは、このような変異体は、電子伝達鎖からオーバーフローした電子によって生産される活性酸素種の反応を消去するために、より多くのアスタキサンチンを生産するのではないかと推測した(Appl. Env. Microbiol.、55、116〜124、1989)。【0007】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、カロテノイドを生産する方法を提供することである。【0008】【課題を解決するための手段】本発明は、電子伝達鎖が還元状態である条件下において、アスタキサンチンの生合成がアップレギュレートされるのではないかという仮定に基づいて考案された。このような還元状態は、アンチマイシンA、KCN、n-PGまたはSHAMなどの特異的阻害剤を添加することによって誘導されると考えられる。このような状態はまた、電子伝達の不均衡をもたらす何らかの変異によっても誘導されると考えられる。【0009】本発明に従って、SHAMに対する耐性を付与された変異体が得られた。このような変異体は、親株よりも50%高いアスタキサンチン生産性を獲得していた。【0010】本発明は、ファフィア・ロドザイマ由来のオルタナティブオキシダーゼをコードする遺伝子のクローニングを含む。また、本発明には、大腸菌やサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などの適切な宿主生物内でこのような遺伝子を発現させる結果として、酵素的特徴づけも含まれる。したがって、クローニングされた遺伝子を、プロモーター配列の部位特異的変異誘発またはアンチセンス法を用いることにより、ファフィア・ロドザイマなどの適切な宿主においてAOX活性を減少させるために使用してもよい。また、これらのカロテノイド生産における効果は、このような形質転換体を適切な培地において適切な培養条件下で培養することによって確認されうる。【0011】本発明は、オルタナティブオキシダーゼ活性の減少を誘導する条件下で、カロテノイド生産が可能な親生物を処理する段階、およびカロテノイド生産性が増強された生物を選択する段階によって得られる生物の培養を含む、カロテノイドを生産するための新規の方法を提供する。本発明の方法において使用される生物は、オルタナティブオキシダーゼ阻害剤に対する耐性の変化を利用して、カロテノイド生産性が増強された変異株であってもよい。前記生物は、オルタナティブオキシダーゼ阻害剤に対して耐性の変異体であってもよい。本発明に係る方法は、原生生物界または菌界に属する生物、より好ましくはシネココッカス(Synechococcus)属、シネコシスティス(Synechocystis)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属、ドナリエラ(Dunaliella)属、ファフィア(Phaffia)属、キサントフィロマイセス(Xanthophyllomyces)属、アカパンカビ(Neurospora)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ブラケスレア(Blakeslea)属、またはフィコマイセス(Phycomyces)属に属する生物を用いることによって実施することができ、中でも最も好ましい生物は、ファフィア・ロドザイマ株およびキサントフィロマイセス・デンドロラス株である。【0012】本発明に用いられるオルタナティブオキシダーゼ阻害剤は、n-没食子酸プロピルおよびサリチルヒドロキサム酸からなる群より選択されうる。【0013】本発明はまた、親生物に比べて増強されたレベルでカロテノイド生産が可能な変異株を確立する方法を提供し、これにはオルタナティブオキシダーゼ活性を減少させた条件下でカロテノイド生産が可能な生物を培養する段階、および前記の親生物よりも高いレベルでカロテノイド生産が可能な生物を選択する段階も含まれる。オルタナティブオキシダーゼ活性を減少させるための前記の条件には、オルタナティブオキシダーゼ阻害剤を存在させることが含まれる。この目的のためのオルタナティブオキシダーゼ阻害剤は、n-没食子酸プロピルおよびサリチルヒドロキサム酸からなる群より選択してよい。本発明の変異株のための生物は、原生生物界または菌界に属する生物、より好ましくはシネココッカス(Synechococcus)属、シネコシスティス(Synechocystis)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属、ドナリエラ(Dunaliella)属、ファフィア(Phaffia)属、キサントフィロマイセス(Xanthophyllomyces)属、アカパンカビ(Neurospora)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ブラケスレア(Blakeslea)属、またはフィコマイセス(Phycomyces)属に属する生物であってもよく、中でも最も好ましい生物はファフィア・ロドザイマ株およびキサントフィロマイセス・デンドロラス株である。【0014】別の局面においては、本発明はまた、上記の方法で得られる親生物に比べて増強されたレベルでカロテノイド生産が可能な生物の変異株にも関する。前記の変異体は、0.3〜0.45mg / mlのSHAMを含む培地中でさえも、SHAMを含まない培地中と類似した増殖速度で増殖することができるという点で、より具体的に特徴づけられる。【0015】本発明の一つの態様として、ファフィア・ロドザイマATCC96594株に由来するSHAM耐性変異体が提供されている。このようなSHAM耐性変異株は、2000年4月3日に、それぞれDSM13429、DSM13430、DSM13431としてDSMZ(Deutsche Sammlung der Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH、Mascheroder Weg 1b、D-38124 Braunschweig、Germany)に寄託された。【0016】本発明の方法で用いられる生物は、オルタナティブオキシダーゼの遺伝子発現が変化して、親生物に比べて効率が減少している組換え生物であってもよい。本発明はさらに、オルタナティブオキシダーゼの遺伝子発現が変化して、宿主生物に比べて効率が減少していることを特徴とする、宿主生物に比べて増強されたレベルでカロテノイド生産が可能な組換え生物を提供する。このような生物は、アンチセンス技術、部位特異的変異誘発、化学的変異誘発などから選択される技術を利用してオルタナティブオキシダーゼの遺伝子発現を変化させたものであってもよい。この目的のための生物は、原生生物界または菌界に属する生物、より好ましくはシネココッカス(Synechococcus)属、シネコシスティス(Synechocystis)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属、ドナリエラ(Dunaliella)属、ファフィア(Phaffia)属、キサントフィロマイセス(Xanthophyllomyces)属、アカパンカビ(Neurospora)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ブラケスレア(Blakeslea)属、またはフィコマイセス(Phycomyces)属に属する生物であってもよく、中でも最も好ましい生物は、特に上記の寄託物であるファフィア・ロドザイマ株およびキサントフィロマイセス・デンドロラス株である。【0017】本発明はまた、カロテノイド生産が可能な生物に由来するオルタナティブオキシダーゼをコードする組換えDNA配列を提供する。組換えDNAは、原生生物界または菌界に属する生物、より好ましくはシネココッカス(Synechococcus)属、シネコシスティス(Synechocystis)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属、ドナリエラ(Dunaliella)属、ファフィア(Phaffia)属、キサントフィロマイセス(Xanthophyllomyces)属、アカパンカビ(Neurospora)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ブラケスレア(Blakeslea)属、またはフィコマイセス(Phycomyces)属に属する生物から得られ、中でも最も好ましい生物は、特に上記の寄託物であるファフィア・ロドザイマ株およびキサントフィロマイセス・デンドロラス株である。本発明に係る組換えDNA配列は、配列番号:2によって同定されるものか、または配列番号:2と55%以上、より好ましくは75%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有するものであってもよい。【0018】該組換えDNA配列は、(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有する前記の酵素をコードするもの、または(b)(i)対立遺伝子変異体と、(ii)1つもしくは複数のアミノ酸の付加、挿入、欠失および/もしくは置換を持ち、かつ定まった酵素活性を有する酵素とから選択される前記の酵素の変異体をコードするものとして、特に特徴づけられてもよい。特に特定される上記の単離DNA配列は、ファフィア・ロドザイマ遺伝子に由来する配列であってもよく、(i)配列番号:2に示されたDNA配列、(ii)配列番号:2に示されたDNA配列の同義コード(isocoding)または対立遺伝子変異体、ならびに(iii)1つまたは複数のヌクレオチドの付加、挿入、欠失および/または置換を有し、且つ前記酵素活性を有するポリペプチドをコードする、配列番号:2に示されたDNA配列の誘導体から選択される。【0019】本発明はまた、宿主生物の形質転換のための該組換えDNAの使用も提供する。組換えDNAの簡便な形態はベクターであると思われる。組換えDNAの使用によって得られる組換え生物は、オルタナティブオキシダーゼの酵素活性を減少させることができる。組換えDNAにより形質転換された宿主生物は、カロテノイド、特にアスタキサンチンの生産方法の改良に有用であると考えられる。したがって、本発明はこのような組換え生物も提供する。【0020】さらに、本発明は、上記の組換えDNAを適当な宿主生物に導入する段階、およびこのように得られた組換え生物を培養する段階を含む、カロテノイドの生物学的生産方法を提供する。したがって、カロテノイドの生産を実施する条件下で上記の組換え生物を培養することを特徴とする、カロテノイドを生産するための方法は、本発明の一つの局面である。この方法をアスタキサンチンの生物学的生産に適用することも可能である。【0021】本発明の係る方法においては、(1)オルタナティブオキシダーゼ活性の減少を誘導するためにカロテノイド生産が可能な親生物を処理すること、およびカロテノイド生産性が促進された生物を選択することにより得られる、生物を培養する段階を含む、カロテノイドを生産する方法であることを特徴とする。【0022】また、本発明の係る方法においては、(2)生物が、オルタナティブオキシダーゼ阻害剤に対する耐性の変化を利用して、カロテノイド生産性を促進させた変異株である、上記(1)記載の方法であることを特徴とする。【0023】また、本発明の係る方法においては、(3)生物がオルタナティブオキシダーゼ阻害剤に対して耐性の変異株である、上記(1)または(2)記載の方法であることを特徴とする。【0024】また、本発明の係る方法においては、(4)生物が原生生物界もしくは菌界に属し、より好ましくはシネココッカス(Synechococcus)属、シネコシスティス(Synechocystis)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属、ドナリエラ(Dunaliella)属、ファフィア(Phaffia)属、キサントフィロマイセス(Xanthophyllomyces)属、アカパンカビ(Neurospora)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ブラケスレア(Blakeslea)属、またはフィコマイセス(Phycomyces)属に属する、上記(2)または(3)記載の方法であることを特徴とする。【0025】また、本発明の係る方法においては、(5)生物がファフィア・ロドザイマ株である、上記(2)から(4)のいずれか一項記載の方法であることを特徴とする。【0026】また、本発明の係る方法においては、(6)生物が、DSM13429、DSM13430、およびDSM13431からなる群より選択される株である、上記(2)から(5)のいずれか一項記載の方法であることを特徴とする。【0027】また、本発明の係る方法においては、(7)オルタナティブオキシダーゼ阻害剤が、n-没食子酸プロピルおよびサリチルヒドロキサム酸からなる群より選択される、上記(2)から(6)のいずれか一項記載の方法であることを特徴とする。【0028】また、本発明の係る方法においては、(8)親生物に比べて促進されたレベルでカロテノイド生産が可能な変異株を確立する方法であって、オルタナティブオキシダーゼ活性を減少させるような条件下でカロテノイド生産が可能な生物を培養し、該親生物よりも高いレベルでカロテノイド生産が可能な生物を選択する段階を含む方法であることを特徴とする。【0029】また、本発明の係る方法においては、(9)オルタナティブオキシダーゼ活性を減少させる条件に、オルタナティブオキシダーゼ阻害剤が存在することが含まれる、上記(8)記載の方法であることを特徴とする。【0030】また、本発明の係る方法においては、(10)オルタナティブオキシダーゼ阻害剤が、n-没食子酸プロピルおよびサリチルヒドロキサム酸からなる群より選択される、上記(9)記載の方法であることを特徴とする。【0031】また、本発明の係る方法においては、(11)生物が原生生物界もしくは菌界に属し、より好ましくはシネココッカス属、シネコシスティス属、ヘマトコッカス属、ドナリエラ属、ファフィア属、キサントフィロマイセス属、アカパンカビ属、ロドトルラ属、ブラケスレア属、またはフィコマイセス属に属する、上記(8)から(10)のいずれか一項記載の方法であることを特徴とする。【0032】また、本発明の係る方法においては、(12)生物がファフィア・ロドザイマ株である、上記(8)から(11)のいずれか一項記載の方法であることを特徴とする。【0033】また、本発明の係る方法においては、(13)生物が、DSM13429、DSM13430、およびDSM13431からなる群より得られる株である、上記(8)から(12)のいずれか一項記載の方法であることを特徴とする。【0034】また、本発明の係る変異株においては、(14)上記(8)から(13)のいずれか一項において定義された方法により得られる、親生物に比べて促進されたレベルでカロテノイド生産が可能な生物の変異株であることを特徴とする。【0035】また、本発明の係る変異株においては、(15)生物が原生生物界もしくは菌界に属し、より好ましくはシネココッカス属、シネコシスティス属、ヘマトコッカス属、ドナリエラ属、ファフィア属、キサントフィロマイセス属、アカパンカビ属、ロドトルラ属、ブラケスレア属、またはフィコマイセス属に属する、上記(14)記載の変異株であることを特徴とする。【0036】また、本発明の係る変異株においては、(16)生物がファフィア・ロドザイマ株である、上記(14)または(15)記載の変異株であることを特徴とする。【0037】また、本発明の係る方法においては、(17)生物が、オルタナティブオキシダーゼの遺伝子発現を変化させて、宿主生物に比べて効率が減少している組換え生物である、上記(1)記載の方法であることを特徴とする。【0038】また、本発明の係る方法においては、(18)アンチセンス技術、部位特異的変異誘発、化学的変異誘発などより選択される技術を利用してオルタナティブオキシダーゼの遺伝子発現を変化させた、上記(17)記載の方法であることを特徴とする。【0039】また、本発明の係る方法においては、(19)生物が原生生物界もしくは菌界に属し、より好ましくはシネココッカス属、シネコシスティス属、ヘマトコッカス属、ドナリエラ属、ファフィア属、キサントフィロマイセス属、アカパンカビ属、ロドトルラ属、ブラケスレア属、またはフィコマイセス属に属する、上記(17)または(18)記載の方法であることを特徴とする。【0040】また、本発明の係る方法においては、(20)生物がファフィア・ロドザイマ株である、上記(17)から(19)のいずれか一項記載の方法であることを特徴とする。【0041】また、本発明の係る方法においては、(21)生物が、DSM13429、DSM13430、およびDSM13431からなる群より選択される株である、上記(17)から(20)のいずれか一項記載の方法であることを特徴とする。【0042】また、本発明の係る組換え生物においては、(22)オルタナティブオキシダーゼの遺伝子発現が変化して、宿主生物に比べて効率が減少していることにより特徴づけられる、宿主生物に比べて促進されたレベルでカロテノイド生産が可能な組換え生物であることを特徴とする。【0043】また、本発明の係る組換え生物においては、(23)アンチセンス技術、部位特異的変異誘発、化学的変異誘発などより選択される技術を利用してオルタナティブオキシダーゼの遺伝子発現を変化させた、上記(22)記載の組換え生物であることを特徴とする。【0044】また、本発明の係る組換え生物においては、(24)生物が原生生物界もしくは菌界に属し、より好ましくはシネココッカス属、シネコシスティス属、ヘマトコッカス属、ドナリエラ属、ファフィア属、キサントフィロマイセス属、アカパンカビ属、ロドトルラ属、ブラケスレア属、またはフィコマイセス属に属する、上記(22)または(23)記載の組換え生物であることを特徴とする。【0045】また、本発明の係る組換え生物においては、(25)生物がファフィア・ロドザイマ株である、上記(22)から(24)のいずれか一項記載の組換え生物であることを特徴とする。【0046】また、本発明の係る組換え生物においては、(26)生物が、DSM13429、DSM13430、およびDSM13431からなる群より選択される株である、上記(22)から(25)のいずれか一項記載の組換え生物であることを特徴とする。【0047】また、本発明の係る組換えDNAにおいては、(27)カロテノイド生産が可能な生物に由来するオルタナティブオキシダーゼをコードする組換えDNAであることを特徴とする。【0048】また、本発明の係る組換えDNAにおいては、(28)生物が原生生物界もしくは菌界に属し、より好ましくはシネココッカス属、シネコシスティス属、ヘマトコッカス属、ドナリエラ属、ファフィア属、キサントフィロマイセス属、アカパンカビ属、ロドトルラ属、ブラケスレア属、またはフィコマイセス属に属する、上記(27)記載の組換えDNAであることを特徴とする。【0049】また、本発明の係る組換えDNAにおいては、(29)生物がファフィア・ロドザイマ株である、上記(27)または(28)記載の組換えDNAであることを特徴とする。【0050】また、本発明の係る組換えDNAにおいては、(30)配列が配列番号:2と同一であるか、または配列番号:2と55%以上の同一性を有する、上記(27)から(29)のいずれか一項記載の組換えDNAであることを特徴とする。【0051】また、本発明の係る組換えDNAにおいては、(31)推定アミノ酸配列が配列番号:1と同一であるか、または配列番号:1と51.5%以上の同一性を有する、上記(27)から(29)のいずれか一項記載の組換えDNAであることを特徴とする。【0052】【発明の実施の形態】多くの研究者らは、アスタキサンチンの生産が発酵期よりも増殖における呼吸期において刺激されるため、アスタキサンチンがファフィア・ロドザイマ中で抗酸化剤としての役割を果たすのではないかと推測している。一般に、反応性酸素種は、呼吸鎖の下流におけるユビキノン・プールの還元速度と電子伝達の速度減少との間に電子伝達の不均衡が生じたために、呼吸鎖で電子がオーバーフローした結果として、呼吸期に生産される傾向がある(図1)。このような推測において、アスタキサンチンは、スーパーオキシドジスムターゼが働くように、活性酸素種の反応を消去している可能性がある。【0053】この推測に基づき、アスタキサンチンの過剰生産は、ファフィア・ロドザイマの呼吸鎖の阻害として認識された。実際に、アン(An)らは、KCN感受性の呼吸が遮断され、より多くのアスタキサンチンを生産する変異体をファフィア・ロドザイマから単離した(Appl. Env. Microbiol.、55、116〜124、1989)。【0054】一方、シュレーダー(Shroeder)らはアスタキサンチンの生産が刺激される増殖後期にファフィア・ロドザイマの呼吸鎖がKCN感受性の呼吸からKCN耐性の呼吸に移行した(J. Biol. Chem.、270、18374〜18379、1995)と報告した。こうした状況では、オルタナティブオキシダーゼによって媒介されるKCN耐性の呼吸は、アスタキサンチンの生産期の呼吸に対してより影響を与えると考えられる。オルタナティブオキシダーゼの阻害は、アスタキサンチンの過剰生産をもたらすと思われる。【0055】ファフィア・ロドザイマにおけるアスタキサンチンの生産に対する、呼吸活性の特異的阻害の効果を調べるために、オルタナティブオキシダーゼを阻害することが知られているSHAMを、寒天増殖培地に段階的に希釈した濃度で加えた。こうした研究において、0.3〜0.45mg / mlのSHAMの存在下においてさえも、SHAMを含まない培地中と同様の増殖活性を示すいくつかの自然突然変異体が現れた。驚いたことに、このような変異体は、それらの親株よりも50%多くアスタキサンチンを生産することが見出された。このことによって、アスタキサンチンの過剰生産を招く何らかの変異が、オルタナティブオキシダーゼ活性の減少により引き起こされた、呼吸鎖の還元状態による増殖阻害を補償しうることを示している。【0056】したがって、本発明は、オルタナティブオキシダーゼの特異的な阻害剤である0.3〜0.45mg / mlのSHAMに対して耐性の単離変異体を提供する。上記と同様に、当業者には容易に理解されるように、より高い生産性でアスタキサンチン生産が可能な変異株は、オルタナティブオキシダーゼに対する1つまたは複数の任意の阻害剤の存在下で適当な生物を培養する段階、および前記阻害剤の存在下における増殖活性および親生物よりも高いアスタキサンチンの生産性を示す生物をスクリーニングする段階によって確立されうる。アスタキサンチンの生産性は、ファフィア・ロドザイマ細胞からカロテノイドを抽出する段階、および実施例2に例示されているようにアスタキサンチンのレベルを測定する段階によって決定されうる。約10%の生産性の増加が、親株よりも高いレベルでアスタキサンチン生産が可能な変異株を選択するための可能な判断基準となる。こうして得られた変異株をオルタナティブオキシダーゼ阻害剤のプレッシャーの下で再培養およびスクリーニングすることで、生産性を改善させることができる。こうして得られた変異株を、適切な培地中でアスタキサンチン生産に適用することができる。【0057】オルタナティブオキシダーゼの活性を減少させるためには、遺伝子工学の方法を用いたほうが、培養培地にSHAMなどの特異的な阻害剤を添加するといった方法よりも多くの利点がある。このような利点の1つは経済的な理由である。このような阻害剤を添加すると、生産コストが増大すると考えられる。そして、このような阻害剤を培養培地に添加すると、精製過程において添加した阻害剤を最終産物から除去するという別の不利益が生じる。【0058】さらに、本発明は、ファフィア・ロドザイマに由来するオルタナティブオキシダーゼをコードする単離された組換えDNA配列を提供する。【0059】本発明の該DNAは、その5'非翻訳領域および3'非翻訳領域の中にある短い断片間に隣接するオープンリーディングフレームのみを含むcDNAを意味しうると共に、イントロンと関心対象の遺伝子の発現に伴うプロモーターおよびターミネーターなどの調節配列とを含むゲノムDNAも意味しうる。【0060】本発明者らはまず、縮重PCR法を用いて、AOX遺伝子の一部を含む部分遺伝子断片をクローニングした。この縮重PCRとは、他種から得られ、同一または同様の機能を有する既知の酵素とアミノ酸配列の相同性が高い、関心対象の遺伝子をクローニングするための方法である。縮重PCRにおいてプライマーとして用いられる縮重プライマーは、アミノ酸配列を対応するヌクレオチドへと逆翻訳することによって設計された(「縮重された」)。このような縮重プライマーにおいては、A、C、GもしくはTの任意のものからなる混合プライマー、またはアンビギュイティーコードの箇所にイノシンを含むプライマーが一般に用いられる。本発明では、上記の遺伝子をクローニングするための縮重プライマーとして混合プライマーを用いた。用いるPCR条件は、プライマーおよび遺伝子に応じて、本明細書において後述のように変更した。【0061】上記の縮重PCRによって得られた部分DNA断片を標識した後にプローブとして用いて、適切な宿主中でファージベクターまたはプラスミドベクター中に構築されたゲノムライブラリーをスクリーニングすることにより、コード領域のほかにイントロンならびにプロモーターまたはターミネーターなどの調節領域も含む全遺伝子を染色体からクローニングすることができる。一般に、ライブラリーの構築およびそれに続くシークエンシング、制限酵素消化、ライゲーションなどの遺伝子操作には、宿主株として大腸菌、そしてλファージベクターなどのファージベクター、またはpUCベクターなどのプラスミドベクターの大腸菌ベクターがしばしば用いられる。本発明においては、ファフィア・ロドザイマのEcoRIゲノムライブラリーが、λベクターの誘導体であるλgt11において構築された。クローニングする必要のあるインサートの長さである挿入サイズは、ライブラリーを構築する前にサザンブロットハイブリダイゼーションによって決定した。本発明では、プローブとして用いるDNAが、供給者(Boehringer-Mannheim、Mannheim、Germany)が作成した手順書に従い、通常の32P標識の代わりにステロイドハプテンであるジゴキシゲニン(DIG)で標識された。関心対象の遺伝子の一部を有するDIG標識DNA断片をプローブとして用いることにより、ファフィア・ロドザイマの染色体から構築したゲノムライブラリーのスクリーニングが行われた。ハイブリダイズしたプラークが採取され、以降の検討に用いた。陽性プラークを単離した後、配列決定に簡便に用いることのできる適当なプラスミドベクター中に、インサート断片を導入した。本発明において、陽性ファージベクター中のインサート断片を、トランスポゾンが挿入されたシークエンシングのための誘導体を構築するために用いたpOCUS-2ベクター中にサブクローニングした(Locus Pocus System, Novagen, Madison, U.S.A.)。【0062】本発明において、ほとんどのシークエンシングの場合にTaq DNAポリメラーゼを用いるオートサイクルシークエンシングプロトコールを使用して、自動蛍光DNAシークエンサーであるアルフレッドシステム(ALFred system)(Pharmacia、Uppsala、Sweden)を用いた。【0063】ゲノム配列を決定した後、対応する遺伝子のcDNAをクローニングするためにコード領域の配列を用いた。cDNA断片をクローニングするためにPCR法も利用した。オープンリーディングフレーム(ORF)の5'末端および3'末端の配列と同一な配列に適当な制限酵素部位を付加してPCRプライマーを合成し、これらのPCRプライマーを用いてPCRを行った。本発明では、このcDNAのPCRクローニングにおいて、cDNAプールを鋳型として用いた。このcDNAプールは、ウイルス逆転写酵素およびTaqポリメラーゼ(Clontech、Palo Alto、U.S.A.)によって製造されたキャップファインダーキット(CapFinder Kit)を用いて、ファフィア・ロドザイマから得られたmRNAを鋳型として、インビトロで合成されたさまざまなcDNA種よりなる。このように得られた関心対象のcDNAを、その配列により確認することができる。さらに、このように得られたcDNAは、大腸菌またはサッカロマイセス・セレビシエにおいて適当なプロモーターの下で機能する発現ベクターにcDNA断片をクローニングした後で、その酵素活性を確認するのに用いることができる。【0064】真核生物由来の遺伝子を発現させるためには、大腸菌またはサッカロマイセス・セレビシエの発現ベクターにcDNAをクローニングする方法がしばしば用いられる。これは、イントロン構造の特異性が生物間で多様であるという事実と、他種のイントロン配列を認識できないという事実に起因している。事実、原核生物はそれ自身の遺伝的背景にイントロン構造を有さない。酵母においてさえも、サッカロマイセス・セレビシエの属する子嚢菌類とファフィア・ロドザイマの属する担子菌類では遺伝的背景が異なっている。ウェリー(Wery)らは、ファフィア・ロドザイマに由来するアクチン遺伝子のイントロン構造は、子嚢菌類の酵母サッカロマイセス・セレビシエによって認識されず、スプライシングも受けないことを示した(Yeast、12、641〜651、1996)。【0065】何人かの他の研究者らは、何種類かの遺伝子のイントロン構造が、その遺伝子発現の調節に関わることを報告した(Dabeva, M. D.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、83、5854、1986)。イントロン構造がこのような自身の遺伝子発現の調節に関わっている、関心対象の遺伝子をセルフクローニングする場合には、イントロンを有するゲノム断片を用いることが重要である可能性がある。【0066】菌株改良研究に遺伝子工学の方法を適用するためには、転写および翻訳などの事象における遺伝的機構を研究することが必要である。遺伝的機構を研究するためには、そのエキソンだけでなく、その上流活性化配列(UAS)、プロモーター、イントロン構造およびターミネーターの遺伝子配列も決定することが重要である。【0067】本発明に従って、オルタナティブオキシダーゼをコードする遺伝子をファフィア・ロドザイマのゲノムDNAからクローニングし、そのイントロン構造、ならびに5'隣接領域および3'隣接領域を含めたオルタナティブオキシダーゼ(AOX)遺伝子を含むゲノム配列を決定した。【0068】酵素活性の確認に続いて、オルタナティブオキシダーゼ活性を減少させるための遺伝子改変の研究も行うことができる。【0069】本発明においては、ポリペプチド配列は、配列番号:2およびAOX活性を有するその断片、ならびに配列番号:2への特異的結合を同定するのに十分なストリンジェント条件下で配列番号:2にハイブリダイズし、且つそのハイブリッドがオルタナティブオキシダーゼの機能を有するポリペプチドをコードするポリペプチド配列を含む。例えば、以下に記載のハイブリダイゼーション条件および洗浄条件の任意の組み合わせを使用して、必要とされる特異的結合が達成され得る。【0070】高ストリンジェントなハイブリダイゼーション6×SSC0.5% SDS100μg/mlの変性されたサケ精子DNA50% ホルムアミド42℃で穏やかに振盪させることによって一晩インキュベーションする。【0071】高ストリンジェントな洗浄2×SSC、0.5% SDS中で室温にて15分間、1回洗浄した後、0.1×SSC、0.5% SDS中で室温にて15分間洗浄する。【0072】低ストリンジェントなハイブリダイゼーション6×SSC0.5% SDS100μg/mlの変性されたサケ精子DNA50% ホルムアミド37℃で穏やかに振盪させることによって一晩インキュベーションする。【0073】低ストリンジェントな洗浄0.1×SSC、0.5% SDS中で室温にて15分間、1回洗浄する。【0074】中度にストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション反応が起こる温度および/または上記の洗浄条件を変化させることによって得られる。本発明においては、高ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件および洗浄条件を使用することが好ましい。【0075】遺伝的な方法を用いて遺伝子発現を減少させるためには、いくつかの方法が利用できる。このような方法の1つはアンチセンス法である。アンチセンス法は、関心対象の遺伝子配列と相補的な配列を有する人工遺伝子断片を導入することにより、関心対象の遺伝子の発現を減少させる方法である。そして、このようなアンチセンス遺伝子断片は、インビボで目的遺伝子の成熟mRNA断片と複合体を形成し、結果としてmRNAからの効率的な翻訳を阻害すると考えられる。AOX遺伝子のアンチセンスRNAを構築するためには、AOX遺伝子に対して相補的なcDNA鎖をクローニングするPCR法を用いることができる。【0076】もう一つの方法は、プロモーター領域の突然変異誘発である。一般に遺伝子は互いに異なる機能を有するいくつかの部分からなる。真核生物において、対応する蛋白質をコードする遺伝子は、リボソームRNA(rRNA)、核内低分子RNA(snRNA)および転移RNA(tRNA)に関する遺伝子とは異なり、未成熟メッセンジャーRNA(pre-mRNA)へと転写される。この転写事象にはRNAポリメラーゼII(PolII)が中心的な役割を果たすが、PolIIは、プロモーターおよびUASを含む上流領域を含むシスエレメントならびにトランス作用蛋白質因子なしで、それ単独では転写を開始することはできない。まず、いくつかの基本的な蛋白質構成要素からなる転写開始複合体が、発現されようとする遺伝子の5'隣接領域にあるプロモーター配列を認識する。この事象においては、熱ショック応答または栄養飢餓状態に対する適応などのようにある種の特殊な調節を受けて発現される遺伝子の場合には、いくつかの別の因子が必要である。このような場合には、UASがプロモーター配列周辺の5'非翻訳上流領域に存在することが必要で、いくつかの正または負の調節蛋白質がUASを認識してそれと結合する。転写開始複合体のプロモーター配列に対する結合強度はプロモーター周囲のトランス作用因子の結合による影響を受け、これによって転写活性の調節が可能となる。【0077】転写開始複合体がリン酸化によって活性化されると、転写開始複合体は転写開始部位からの転写を開始する。転写開始複合体のいくつかの部分は伸長複合体がプロモーター領域から遺伝子の3'側に向かって解離し(この段階はプロモータークリアランス事象(clearance event)と呼ばれる)、伸長複合体は遺伝子の3'隣接下流領域に位置する終結配列に達するまで転写を続ける。【0078】関心対象の遺伝子の発現を低下させるためには、上記のUAS配列を含む目的遺伝子のプロモーター領域における従来の化学的突然変異誘発法または遺伝的部位特異的突然変異誘発法による変異誘発がしばしば用いられる。この方法においては、関心対象の遺伝子の5'末端に由来するプロモーター領域および関心対象の遺伝子の3'末端に由来するターミネーター領域と融合させたレポーター遺伝子を含む遺伝子カセットに変異を誘発し、ファフィア・ロドザイマに導入する。レポーター遺伝子の活性の差を検出することで、効率的な変異をスクリーニングすることができる。関心対象の酵素の発現が低下すると思われる変異株は、このような変異型プロモーター領域を有する組換えDNAによる宿主株の形質転換を行うことによって入手しうる。【0079】アンチセンスAOX遺伝子またはAOX遺伝子の変異プロモーターを含むベクターのような構築物は、適当な宿主株の中に移行させることができる。宿主株としてファフィア・ロドザイマを使用する場合は、ファフィア・ロドザイマ内で機能する選択マーカーを有する適切なベクターに、このような構築物をクローニングすることによって実施する。選択マーカーには、有毒な抗生物質の存在下でも宿主の生存を可能にする酵素をコードする薬剤耐性遺伝子がしばしば用いられる。pGB-Ph9に含まれるG418耐性遺伝子は、薬剤耐性遺伝子の一例である(Weryら、Gene, 184, 89-97, 1997。このようなプラスミドは、染色体とプラスミド間の相同組換えにより、ファフィア・ロドザイマの染色体に取り込まれることが可能である。【0080】形質転換の方法としては、酢酸リチウム法およびエレクトロポレーション法(Weryら、Gene、184、89〜97、1997)がファフィア・ロドザイマの形質転換に用いられる。【0081】このような遺伝子組換えファフィア・ロドザイマを、適切な培地中で培養し、そのアスタキサンチン生産性を評価することが可能と思われる。【0082】以下の実施例により、添付の図面を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明する。【0083】後述する実施例には、以下の材料および方法を用いた。【0084】菌株ファフィア・ロドザイマ(P. rhodozyma)ATCC 96594株(ブダペスト条約に準拠して1998年4月8日に寄託番号ATCC 74438として再寄託された)大腸菌Y1090r-:araD139、hsdR(rK-、mK+)、mcrB+、rpsL、supF、trpC12::Tn10、ΔlacU169、Δlon、F-、λ-、(pMC9)(Clontech)大腸菌DH5α株:F-、φ80d、lacZΔM15、Δ(lacZYA-argF)U169、hsd(rK-、mK+)、recA1、endA1、deoR、thi-1、gyrA96、relA1(東洋紡、大阪、日本)大腸菌γΔドナー:Δ(gpt-proA)62、leu、44、ara14、galK2、lacY1、Δ(mcrC-mrr)、(rB-、mB-)、xyl-5、mtl-1、recA13、[F+::Tn1000(tets)](Novagene)大腸菌γΔレシピエント:F-、araD139、γ(ara-leu)7696、galE15、galK16、Δ(lac)X74、(Strr)、hedR2(rK12-、mK12+)、mcrA、mcrB1::Tn5(kanr)(Novagene)大腸菌TOP10株:F-、mcrA、Δ(mrr-hsdRMS-mcrBC)、φ80、M15、ΔlacX74、recA1、deoR、araD139,(ara-leu)7697、galU、galK、rpsL(Strr)、endA1、nupG(Invitrogen、NV Leek, the Netherlands)大腸菌KB822株:pcnB80、zad::Tn10、ΔlacU169、hsdR17、endA1、thi-1、supE44【0085】ベクターλgt11(Clontech)pCR2.1-TOPO(Invitrogen)pOCUS-2pBluescriptII SK-(Stratagene)pGBPh9(Weryら、Yeast、12、641〜651、1996)【0086】培地ファフィア・ロドザイマ株は通常、YPD培地(DIFCO、Detroit、USA)中で維持する。大腸菌株はLB培地(1リットル当たり10gのバクトトリプトン(DIFCO、5gの酵母抽出物(DIFCO)および5gのNaCl)中で維持する。軟寒天(0.7%寒天;WAKO)中でのλファージの増殖にはNZY培地(1リットル当たり5gのNaCl、2gのMgSO4-7H2O、5gの酵母抽出物(DIFCO)、10gのNZアミンA型(WAKO、大阪、日本))を用いる。寒天培地を調製する場合には、1.5%寒天(WAKO)を添加した。サリチルヒドロキサム酸(SHAM)は、アルドリッチ(Aldrich)(Milwaukee、U.S.A.)より購入した。【0087】方法分子遺伝学技術の一般的な方法については、分子クローニング:実験マニュアル(Molecular cloning:a Laboratory Manual)、第2版(Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989)の方法に従った。制限酵素およびT4 DNAリガーゼは、宝酒造(大津、日本)から購入した。【0088】ファフィア・ロドザイマからの染色体DNAの単離は、QIAGENゲノムキット(QIAGEN Genomic キット)(QIAGEN、Hilden、Germany)を、製造者から提供された手順に従って用いることによって行った。形質転換された大腸菌からのプラスミドDNAのミニプレップは、DNA自動分離装置(PI-50、クラボウ、大阪、日本)を用いて行った。大腸菌形質転換株からのプラスミドDNAのミディプレップ(midi-prep)はQIAGENカラム(QIAGEN)を用いて行った。DNA断片はQIAクイック(QIAquick)またはQIAEX II(QIAGEN)を用いてアガロースから単離および精製した。【0089】ファフィア・ロドザイマからの全RNAの単離は、アイソゲン(Isogen)(ニッポンジーン、富山、日本)を用いるフェノール法によって行った。mRNAは、このようにして得た全RNAからmRNA分離キット(Clontech)を用いて精製した。cDNAはキャップファインダー(CapFinder)cDNA作製キット(Clontech)を用いて合成した。【0090】インビトロパッケージングは、ギガパックIIIゴールド(Gigapack III gold)パッケージング抽出物(Stratagene、La Jolla, U.S.A.)を用いて行った。λDNAの単離は、ウイザードλプレップスDNA精製システム(Wizard lambda preps DNA purification system)(Promega, Madison, U.S.A.)により、製造業者のプロトコールに従って調製した。【0091】ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、パーキンエルマー(Perkin Elmer)社のサーマルサイクラー、モデル2400を用いて行った。それぞれのPCR条件は各実施例で述べる。PCRプライマーは供給販売会社から購入した。DNAシークエンシングは自動蛍光DNAシークエンサー(ALFred、Pharmacia)を用いて行った。【0092】DH5αのコンピテント細胞は、東洋紡から購入した。全ての化学物質は、記載されていない場合にはWAKOから購入した。【0093】【実施例】実施例1:ファフィア・ロドザイマATCC96594株からのSHAM耐性変異体、SHAM1、SHAM2およびSHAM3の単離ファフィア・ロドザイマの増殖に対する、オルタナティブオキシダーゼによって媒介されるKCN耐性の呼吸の阻害効果を調べるために、YPD寒天培地上のファフィア・ロドザイマの培養物にSHAMを添加した。SHAMはエタノールに溶解し、終濃度がそれぞれ0.05、0.15、0.30、0.45および0.90mg / mlになるようにYPD寒天培地に加えた。希釈後に、これらの培地上に2×107細胞 / mlのファフィア・ロドザイマATCC96594株を広げた。20℃で3日間培養した後、得られたコロニーを数えた。その結果、SHAM含有YPD寒天上で増殖したコロニーの数は、SHAMを含まない対照培地上で増殖したコロニーの数とほぼ同じであった。しかし、SHAM含有培地上で増殖したコロニーの大きさは、対照培養物に比べて小さかった。表1に、対照のコロニーに対する相対的なコロニーの直径を示す。【0094】【表1】SHAM含有YPD寒天上で増殖したコロニーの相対的な大きさ【0095】興味深いことに、SHAMを0.3mg / mlおよび0.45mg / ml含む培地上で増殖したコロニーの中で、いくつかのコロニーは対照のコロニーと似た大きさを示した。このようなコロニーはまた、対照のコロニーよりも濃色の色素沈着を呈した。対照のコロニーと似た大きさを示した4個のコロニーを採取し、YPD寒天培地上に線条接種した。SHAMを含まないYPD寒天培地上でさえも、すべてのコロニーは対照のコロニーよりも濃色の色素沈着を呈した。この結果より、これらの菌株は自然突然変異体である可能性が示唆され、SHAM1、SHAM2、SHAM3およびSHAM4と名付けられた。【0096】実施例2:耐性変異体、SHAM1、SHAM2およびSHAM3のフラスコ発酵SHAM耐性変異体、SHAM1、SHAM2およびSHAM3のアスタキサンチン生産性を評価するために、振盪フラスコの中で発酵させた。これらの変異体およびその親株ATCC96594株を、新しく調製された寒天培養物から500mlの大きさのバッフルフラスコに入った50mlのYPD培地に、660nmにおける最終的な吸光度が0.05になるように接種した。発酵は、20℃、200r.p.m.にて行われた。適当な間隔をおいて3mlの培地を採取し、細胞の収量およびアスタキサンチン含量を解析した。【0097】細胞の収量は、660nmにおける吸光度として測定した。乾燥細胞重量については、1.5mlの微量遠心管中の1.0mlの培地を120℃で一晩加熱した後に細胞重量を測定した。後述のようにガラスビーズで破砕することにより、細胞からカロテノイドを抽出した後に、ファフィア・ロドザイマのアスタキサンチン含量をHPLC法で測定した。1mlの培地を遠心した後に得られた細胞を蒸留水で2倍に濃縮し、茶色の遮光試験管(13.5mm、11cm)に入れたこの細胞懸濁液(0.5ml)に10.0gのガラスビーズを加えた。次に、1.5mlのアセトン/ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)/水(450mlのアセトンと50mlの水に45mgのBHTを入れる)を加え、その後、水平卓上振盪機を用いて試験管を1時間振盪した。抽出の後、適当な濃度のビキシン(nacalai tesque、京都、日本)を内部標準として含む5mlのアセトン/BHT/水を加えた。後述のHPLCシステムを用いて、上清のアスタキサンチン含量を解析した。(HPLCシステムのハードウェアは、Tosoh(東京、日本)より購入した。)【0098】HPLCカラム:YMC-Pak ODS-A(6mm、150mm(YMC社、Milford、U.S.A.))温度:室温溶出液:アセトニトリル/メタノール/イソプロパノール(85/10/5)注入量:10μl流速:2.0ml / 分検出:471nmの紫外光【0099】表2に結果をまとめた。すべての変異体は、親株であるATCC96594株よりも50%高いアスタキサンチン生産性を示した。この結果より、これらの変異体で生じた何らかの変異は、アスタキサンチン生産量を増加させることにより、オルタナティブオキシダーゼ活性の阻害を補償するために起こっている可能性がある。【0100】【表2】SHAM耐性変異体のアスタキサンチン生産性【0101】実施例3:ファフィア・ロドザイマからのmRNAの単離およびcDNAライブラリーの構築ファフィア・ロドザイマのcDNAライブラリーを構築するために、細胞を破砕した直後にフェノール抽出法で全RNAを単離し、mRNA分離キット(mRNA separation kit)(Clontech)を用いて、ファフィア・ロドザイマATCC96594株からのmRNAを精製した。【0102】まず、YPD培地で2日間培養した10mlの培養液を遠心して(1500×g、10分間)、ATCC96594株の細胞を収集し、抽出緩衝液(0.7M 塩化カリウムを含む10mM クエン酸ナトリウム/塩酸(pH 6.2))で1回洗浄した。細胞を2.5mlの抽出緩衝液に懸濁した後、フレンチプレスホモジナイザー(Ohtake Works社、東京、日本)を用いて1500kgf / cm2で破砕し、製造者に指定された方法に従って、速やかに2倍容量のイソゲン(Nippon gene)と混合した。この段階で、400μgの全RNAが回収された。【0103】次に、mRNA分離キット(Clontech)を用いて、製造者に指定された方法に従って、この全RNAを精製した。最終的に、ファフィア・ロドザイマATCC96594株より16μgのmRNAが得られた。【0104】cDNAライブラリーを構築するために、製造者に指定された方法に従って、キャップファインダーPCR cDNA構築キット(Clontech)を用いた。1μgの精製mRNAを用いて第1鎖の合成を行い、次にPCRで増幅した。PCRによる増幅の後、1mgのcDNAプールを得た。【0105】実施例4:ファフィア・ロドザイマ由来の部分的AOX(オルタナティブオキシダーゼ)遺伝子のクローニングファフィア・ロドザイマから得られた部分的なAOX遺伝子をクローニングするために、縮重PCR法を行った。オルタナティブオキシダーゼの配列を多重アラインメント解析(ClustalW, Thompson, J. D.ら、Nucleic Acids Research, 22, 4673-4680, 1994)に使用した種およびデータベースへのアクセッション番号は以下の通りである。【0106】他種由来の既知のオルタナティブオキシダーゼ遺伝子の共通配列に基づいて、表3に示したように、2つの混合プライマーのヌクレオチド配列を設計し、合成した。【0107】【表3】AOX遺伝子のクローニングに用いられたプライマーの配列【0108】ExTaq(宝酒造)をDNAポリメラーゼとして用い、実施例1で得たcDNAプールをテンプレートとして用いる、95℃ 30秒間、50℃ 30秒間および72℃ 15秒間の25サイクルからなるPCR反応の後に、反応混合物をアガロースゲル電気泳動にかけた。望ましい長さのPCRバンドを回収し、QIAクイック(QIAquick)(QIAGEN)を製造者による方法に従って用いて精製した後にpCR2.1-TOPO(Invitrogen)と連結した。コンビテント大腸菌TOP10株の形質転換後に6つの白色コロニーを選択し、DNA自動分離装置を用いてプラスミドを単離した。シークエンシングの結果、3つのクローンが、推定アミノ酸配列が既知の選択的オキシダーゼ遺伝子と類似する配列を有することが明らかになった。単離したcDNAクローンをpAOX514と命名し、以降の検討に用いた。【0109】実施例5:ファフィア・ロドザイマからのゲノムDNAの単離ファフィア・ロドザイマからゲノムDNAを単離するために、QIAGENゲノムキットを製造者が指定した方法に従って用いた。【0110】まず、YPD培地中で一晩培養した培養液100mlから遠心処理(1500×g、10分間)によってファフィア・ロドザイマATCC 96594株を回収し、TE緩衝液(1mM EDTAを含む10mM Tris/HCl(pH 8.0))で1回洗浄した。QIAGENゲノムキットのY1緩衝液8ml中に懸濁した後、酵素消化によって細胞を破壊するためにリティカーゼ(SIGMA, St. Louis, U.S.A.)を濃度2mg/mlとなるように添加して反応混合物を30℃で90分間インキュベートし、続いて次の抽出段階へと進めた。最終的に、20μgのゲノムDNAを得た。【0111】実施例6:pAOX514をプローブとして用いるサザンブロットハイブリダイゼーションファフィア・ロドザイマ由来のAOX遺伝子を含むゲノム断片のクローニングのために、サザンブロットハイブリダイゼーションを行った。2μgのゲノムDNAをEcoRIで消化してアガロースゲル電気泳動にかけた後、酸およびアルカリ処理を行った。トランスブロット(transblot)(城東理化、東京、日本)を1時間用いることにより、変性DNAをナイロン膜(Hybond N+、Amersham、Buckinghamshire, U.K.)に転写した。DNAをナイロン膜に転写し、熱処理(80℃、90分間)によって固定した。プローブは、DIGマルチプライミング法(Boehringer Mannheim)を用いてテンプレートDNA(EcoRIで消化したpAOX514)を標識することによって調製した。ハイブリダイゼーションは製造者が指定した方法を用いて行った。その結果、ハイブリダイズしたバンドは、5.5〜7.0キロベース(kb)の位置に認められた。【0112】実施例7:AOX遺伝子を含むゲノム断片のクローニング4μgのゲノムDNAをEcoRIで消化し、アガロースゲル電気泳動にかけた。続いて、長さが5.0〜7.0kbの範囲にあるDNAを、QIAEX IIゲル抽出キット(QIAEX II gel extraction kit)(QIAGEN)によって製造業者の指示に従って回収した。精製したDNAを、EcoRIで消化してCIAP(仔ウシ腸アルカリホスファターゼ)で処理したλgt11(Clontech)0.5μgと16℃で一晩連結させ、ギガパックIIIゴールド(Gigapack III gold)パッケージング抽出物(Stratagene)を用いてパッケージングを行った。パッケージングがなされた抽出物を大腸菌Y1090株に感染させ、NZY培地とともにLB寒天培地の上に重層化した。EcoRIで消化したpAOX514をプローブとして用いることにより、約6000個のプラークをスクリーニングした。1つのプラークが標識化プローブとハイブリダイズした。【0113】ファフィア・ロドザイマ由来の推定されるAOX遺伝子を含むこのλgt11誘導体は、ウィザードラムダプレップスDNA精製システム(Wizard lambda preps DNA purification system)(Promega)を用いて調製された。EcoRIによる消化の結果、このλgt11誘導体は6kbのEcoRIインサートを含んでいることがわかった。次に、このλgt11誘導体を鋳型として、2つのプライマーaox3およびaox5をプライマーとして用いてPCRを行った。実施例4に記載したと同じPCR条件下でPCRを行ったところ、予想された0.3kbのバンドが得られた。このλgt11誘導体が、ファフィア・ロドザイマの推定されるAOX遺伝子を含んでいる可能性が示唆された。このλgt11誘導体中の6.0kbのインサートEcoRI断片をQIAquick(QIAGEN)で精製し、DH5α株を宿主株としてpOCUS-2ベクター(Novagen)にサブクローニングして、pOCUSAOX607を得た。【0114】実施例8:AOX遺伝子を含むゲノム断片のシークエンシングpOCUSAOX607をγδ供与コンピテント細胞に移行させ、Locus Pocus system(Novagen)で用いるシークエンシング誘導体の調製に使用した。シークエンシング誘導体の調製法は、製造者に供給されたプロトコールに従った。シークエンシングのプライマーとして、表4に記載された配列を持つCy5標識プライマーを合成し、AutoCycle sequencing kit(Pharmacia)を用いたシークエンシングに使用した。【0115】【表4】AOX遺伝子のシークエンシングに用いたプライマーの配列【0116】シークエンスの結果、ファフィア・ロドザイマに由来するAOX遺伝子を含むゲノム断片の2561塩基対を含むヌクレオチド配列を決定した。【0117】コード領域は、1206塩基対の中に、10個のエキソンと9個のイントロンを含んでいる。イントロンは、5'または3'に偏りなくコード領域全体を通して分散していた。遺伝子解析ソフトウェアGENETYX-SV/RC(Software Development社、東京、日本)バージョン4.0.1を用いることにより、オープンリーディングフレームは402アミノ酸(配列番号:1)よりなり、その配列は他種由来のオルタナティブオキシダーゼの既知のアミノ酸配列と著しく類似していることがわかった(黒色アスペルギルス(Aspergillus niger)由来のオルタナティブオキシダーゼと51.5%の同一性を有する)。αヘリックス構造を形成すると推定アミノ末端における疎水性アミノ酸残基の伸張は、このアミノ酸末端領域が膜貫通領域またはミトコンドリアの輸送ペプチドである可能性を示していた。PSORTIIプログラム(http://psort.nibb.ac.jp:8800/)は、このタンパク質は82.6%の予測値でミトコンドリアタンパク質の可能性があることを予測した。【0118】実施例9:AOX遺伝子の上流領域のクローニングpAOX514は、AOX遺伝子のプロモーターを含むに十分な長さを持たないように思われたので、Genome Walker Kit(Clontech)を用いてAOX遺伝子の5'隣接領域のクローニングを行った。まず、表5に示した配列を有するPCRプライマーを合成した。【0119】【表5】AOX遺伝子の5'隣接領域のクローニングに用いたプライマーの配列【0120】ライブラリー構築の方法およびPCR条件は、製造者に指定されたのと同じものを用いた。実施例5で得られたゲノムDNA調製物をPCRの鋳型として使用した。5'末端にSca I部位を持つPCR断片(1.2kb)と、5'末端にDra I部位を持つPCR断片(3.0kb)が回収され、大腸菌TOP10を宿主株として用いて、pCR2.1-TOPOにクローニングした。上記の2つのそれぞれ独立した実験によるシークエンシングの結果として、pAOXSc702と名付け、さらなる研究に用いた。pAOXSc702中のインサート断片の配列に基づいて、表6に記載した配列を持つ4個のPCRプライマーを合成した。【0121】【表6】AOXプロモーター領域のクローニングに用いたプライマーの配列【0122】PCR条件は、DNAポリメラーゼとしてHFポリメラーゼ(Clontech)を用いた以外は、実施例4に示したものと同じである。aox15およびaox16の組み合わせでは、長さが0.7kbの断片が増幅された。aox17およびaox18の組み合わせでは、長さが0.5kbの断片が増幅された。これらの断片をpCR2.1-TOPOにクローニングし、大腸菌TOP10株を形質転換した。6個の独立した白いコロニーからそれぞれプラスミドを調製し、シークエンシングに用いた。結果として、インサート断片の配列が互いに同一な、予想されたクローンが得られた。aox15およびaox16の組み合わせにおいて、得られたクローンはpAOX714#1516と名付けられた。aox17およびaox18の組み合わせにおいて、得られたクローンはpAOX714#1718と名付けられた。シークエンシングの結果、ファフィア・ロドザイマのAOX遺伝子のプロモーター領域を含むpAOX714#1516およびpAOX714#1718の配列が決定された。AOXプロモーターを含む決定された配列は、その長さが1406塩基対であった。【0123】実施例8および実施例9で得られた配列を組み合わせて、AOX遺伝子およびそのプロモーターおよびターミネーターを含むヌクレオチド配列(3.7kb)(配列番号:2)を決定した。【0124】実施例10:AOX遺伝子のアンチセンスプラスミドの構築AOX遺伝子の構造遺伝子全体に及ぶアンチセンス遺伝子断片をPCR法により増幅し、その後、ファフィア・ロドザイマのASTプロモーターによってAOXアンチセンス遺伝子が転写される、組込みベクターにクローニングした。【0125】【表7】AOX遺伝子のアンチセンスの構築に用いたプライマーの配列【0126】aox101およびaox102の両プライマーは、制限酵素SfiI(GGCCNNNNNGGCC)に対する非対称的な認識配列を有するが、それらの非対称的な張り出し(hang-over)配列は異なるように設計された。こうすることで、同じ非対称的な配列をライゲーション配列に持つ発現ベクター内での方向性を持った(directional)クローニングが可能になると思われる。【0127】TaqポリメラーゼとしてHFポリメラーゼ(Clontech)、および鋳型として実施例3で調製したcDNAを用いたPCRを以下の条件下で行った。94℃で15秒間、55℃で30秒間、72℃で45秒間を30回繰り返す。増幅されたPCR断片を精製し、pCR2.1-TOPOベクターにクローニングした。シークエンシングにより、1つのクローンが正確な断片を有していることが判明し、このクローンはpAOX1007#0102と名付けられた。AOX遺伝子のアンチセンス断片の配列は、配列番号:15に記載されている。【0128】AOXアンチセンス遺伝子の翻訳を制御するプロモーターおよびターミネーター断片として、実施例5で調製した染色体からASTプロモーターおよびASTターミネーターをクローニングした。【0129】【表8】ASTプロモーターおよびASTターミネーターのクローニングに用いたプライマーの配列【0130】PCR条件は以下の通りである。94℃で15秒間、55℃で30秒間、72℃で90秒間を25回繰り返す。ast49およびast50の組み合わせでは、長さが1.25kbの断片が増幅された。ast36およびast37の組み合わせでは、長さが0.3kbの断片が増幅された。これらの断片をpCR2.1-TOPOにクローニングし、大腸菌TOP10を形質転換した。6個の独立した白いコロニーからそれぞれプラスミドを調製し、シークエンスに用いた。その結果、ASTプロモーターおよびASTターミネーターの正確な配列(欧州特許第1035206A1号)を有したクローンが選択され、さらなる研究に用いられた(ASTプロモーターにはpUAST407、およびASTターミネーターにはpAST526#3637)。【0131】次に、NotIとKpnIで消化したpAST526#3637およびKpnIとSacIで消化したpG418Sa330(欧州特許第1 035 206 A1号)をNotIとSacIで消化したpBluescriptII SK-(Stratagene)にライゲーションすることにより、ASTターミネーター配列をG418耐性カセットに融合させた。ライゲーション混合液でKB822コンピテント細胞を形質転換した。制限酵素解析の結果、正確な構造を有する1つのクローン(pUAST418)を、さらなる研究のために選択した。【0132】その後、リボソームDNA(rDNA)の遺伝子座(Weryら、Gene、184、89〜97、1997)を含む3.1kbのSacI断片を、pUAST418のG418カセットの下流に挿入した。rDNA断片は、真核生物の染色体に多コピー存在している。rDNA断片を介して組み込むことで、使用した宿主の染色体上に多コピーで組み込まれることになり、これにより発現ベクターに含まれる外因性遺伝子を過剰発現させることができる。この目的のために、rDNA遺伝子を含むpGBPh9由来のSacI断片を、SacIで消化して細菌性アルカリホスファターゼで処理したpUAST418にライゲーションした。ライゲーション混合液でKB822コンピテント細胞を形質転換した。制限酵素解析の結果、rDNA断片が互いに異なった向きに挿入された2つのクローン(pURDNA421およびpURDNAR421)を、さらなる研究のために選択した。【0133】次に、ファフィア・ロドザイマ中で機能する発現ベクターを構築するために、ASTターミネーターの上流にASTプロモーターを挿入した。pUAST407の1.0kbのNotIおよびBglII断片、ならびにpUAST407の0.25kbのBglIIおよびPstI断片を、NotIおよびSse8387 Iで消化したpURDNA421またはpURDNAR421にライゲーションした。ライゲーション混合液によりKB822コンピテント細胞を形質転換し、得られた各6つのコロニーに対して制限酵素解析を行った。ASTプロモーターが正しい向きに挿入されたクローンを(rDNA断片の向きが逆向きなpF718およびpR718)、さらなる研究のためにそれぞれ選択した。【0134】最後に、pAOX1007#0102の1.2kbのSfiI断片を、SfiIで消化したpF718またはpR718に挿入することにより、AOXアンチセンス構築物が完成した。得られたプラスミドは、pFAOX828およびpRAOX828と名付けられた。【0135】実施例11:AOXアンチセンスベクターによるファフィア・ロドザイマの形質転換AOXアンチセンスベクターpFAOX828およびpRAOX828で、ファフィア・ロドザイマ野生株であるATCC96594株を形質転換した。微粒子銃を用いた形質転換は、「分子生物学(Molecular Biology)」(Johnsonら、53、147〜153、1996)中の方法の項に述べられている方法に従って行った。ファフィア・ロドザイマATCC96594株を、YPD培地中で定常期に達するまで培養した。培地を遠心した後、滅菌水を用いて細胞を10倍に濃縮し、100μg / mlのジェネティシンならびに0.75MのD-マンニトールおよびD-ソルビトールを含むYPD培地上に200μlの細胞懸濁液を広げた。粒径0.9μmの金粒子1.5mgを5μgのプラスミドでコーティングし、微粒子銃を用いた形質転換において供与DNAとして使用した。pFAOX828によって形質転換され、増強された色素沈着を呈したジェネティシン耐性コロニーの一つを、そのアスタキサンチン生産性およびAOX遺伝子によってコードされるオルタナティブオキシダーゼ活性の減少を鑑み、さらなる特徴付けのために選択した。【0136】実施例12:ファフィア・ロドザイマ、ATCC96594株由来のpFAOX828組込み体の特徴づけ試験管(直径21mm)に入れた10mlのYPD培地中で、20℃で3日間成育させた種培養を用いて、500mlのエルレンマイヤーフラスコに入れた50mlのYPD培地中で、ファフィア・ロドザイマの形質転換体ATCC96594::pFAOX828を親株であるATCC96594株と一緒に20℃で3日間培養した。異なる時点、例えば接種の24時間、43時間、および65時間後に適切な容量の培養液を採取し、KCNの存在下または非存在下において、その増殖、アスタキサンチン生産性、および酸素摂取活性を解析した。この24、43および65時間の時点というのは、それぞれ対数期後期の増殖期、定常期中期および定常期後期に相当する。【0137】増殖を解析するために、1mlの培地を微量遠心した後に得られた細胞を100℃で1日間乾燥させて乾燥細胞重量を測定したほか、UV-1200光度計(Shimadzu社、京都、日本)を用いて660nmでの吸光度を測定した。【0138】アスタキサンチン含量およびカロテノイドの総量を解析するために、1.0mlの培地を微量遠心して細胞を収集し、ガラスビーズによって破砕し、ファフィア・ロドザイマ細胞からカロテノイドを抽出するために用いた。抽出の後、破砕された細胞を遠心によって除去し、残渣をHPLCにかけてカロテノイド含量を解析した。使用したHPLC条件は以下の通りである。【0139】HPLCカラム:Chrompack Lichrosorb si-60(4.6mm、250mm)温度:室温溶出液:アセトン/ヘキサン(18/82)に対して、1ml / lの水を加える注入量:10μl流速:2.0ml / 分検出:450nmの紫外光【0140】アスタキサンチンの参考文献を、エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー(F. Hoffman-La Roche AG)(バーゼル、スイス)より得た。【0141】KCNの存在下または非存在下において、酸素摂取活性を測定することで呼吸活性を決定するために、Iijima Electronics Corporation(愛知、日本)によって製造されたDOメーターモデルB-505およびDOプローブGU-BMを用いた。収集した細胞を0.5M KPB(pH 7.4)に再懸濁した。そして、DO解析用チャンバー内で、この細胞懸濁液のうち200μlを2.3mlの水で希釈した。測定は、0.48mM KCNの存在下または非存在下において、0.2mlの1M グルコースを添加することによって測定を開始した。【0142】表9に結果をまとめた。【0143】【表9】(呼吸活性は、酸素摂取 nmol / 分×乾燥細胞 mgで表した。)【0144】表9に示したように、培養の24時間後には、AOXアンチセンス形質転換体であるATCC96594::pFAOX828の増殖は親株であるATCC96594に比べて遅かったが、43時間後には親株と同様な細胞収量を示した。形質転換株のアスタキサンチンおよびカロテノイド含量は15%増加した。その呼吸活性から、形質転換株は親株と同様なKCN感受性の呼吸活性(95%)を有するが、オルタナティブオキシダーゼを介するKCN耐性の呼吸は、培養24時間後には宿主株に比べて20%のレベルまで減少しており、培養43時間後には完全に減退した。【0145】この結果より、KCN耐性の呼吸を媒介するオルタナティブオキシダーゼ活性の減少は、ファフィア・ロドザイマにおけるアスタキサンチンおよびカロテノイドの過剰生産につながることが示された。【0146】【発明の効果】本発明により、カロテノイド生産が可能な親生物を、オルタナティブオキシダーゼ活性の減少を誘導するような条件下で処理し、カロテノイド生産性が促進された生物を選択することにより得られる生物の培養を含む、カロチノイドを生産する方法が提供された。【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】 ファフィア・ロドザイマの呼吸鎖に関する作業モデルを示す図である。 増進されたカロテノイド生産を有する微生物を作出する方法であって、 (1)カロテノイドを生産し、かつ、オルタナティブオキシダーゼ(AOX)活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含む、親微生物を選択する工程と、 (2)前記親微生物に比べて減少したレベルのオルタナティブオキシダーゼ酵素活性を有する変異微生物を形成するために、親微生物において前記ポリヌクレオチド配列を変化させる工程と、 (3)前記親微生物に比べて少なくとも10%多くカロテノイドを生産する変異微生物を選択する工程とを含み、 前記ポリヌクレオチド配列は、配列番号2、配列番号2の断片、及び、所定条件において配列番号:2の相補体とハイブリダイズするポリヌクレオチド配列からなる群より選択され、 前記所定条件は、6×SSC、0.5%SDS、100μg/mlの変性されたサケ精子DNA、及び50%ホルムアミドの中で、42℃で一晩インキュベーションすることによるハイブリダイゼーション、続いて、2×SSC、及び0.5%SDS中で、室温にて15分間の洗浄、続いて、0.1×SSC、及び0.5%SDS中で室温にて15分間の洗浄である、方法。 前記変化させる工程は、前記微生物へのプラスミドの導入、及び部位特異的変異誘発からなる群より選択される技術を含み、前記プラスミドは前記微生物において前記ポリヌクレオチドに相補的なアンチセンス鎖を産生する、請求項1記載の方法。 前記親微生物は原生生物界または菌界に属する、請求項1記載の方法。 前記親微生物はシネココッカス(Synechococcus)属、シネコシスティス(Synechocystis)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属、ドナリエラ(Dunaliella)属、ファフィア(Phaffia)属、キサントフィロマイセス(Xanthophyllomyces)属、アカパンカビ(Neurospora)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ブラケスレア(Blakeslea)属、またはフィコマイセス(Phycomyces)属に属する、請求項3記載の方法。 前記親微生物がファフィア・ロドザイマ株である、請求項4記載の方法。 前記親微生物が、DSM13429、DSM13430、およびDSM13431からなる群より選択される株である、請求項5記載の方法。 増進されたカロテノイド生産を有する変異微生物であって、 前記変異微生物は、オルタナティブオキシダーゼ(AOX)活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含み、かつ、カロテノイドを生産する親微生物から前記親微生物において前記ポリヌクレオチド配列を変化させることによって作り出したものであり、 前記ポリヌクレオチド配列は、配列番号2、配列番号2の断片、及び、所定条件において配列番号:2の相補体とハイブリダイズするポリヌクレオチド配列からなる群より選択され、 前記所定条件は、6×SSC、0.5%SDS、100μg/mlの変性されたサケ精子DNA、及び50%ホルムアミドの中で、42℃で一晩インキュベーションすることよるハイブリダイゼーション、続いて、2×SSC、及び0.5%SDS中で、室温にて15分間の洗浄、続いて、0.1×SSC、及び0.5%SDS中で室温にて15分間の洗浄であり、 前記変異微生物は、前記親微生物に比べて減少したレベルのオルタナティブオキシダーゼ酵素活性を有し、かつ、前記親微生物に比べて少なくとも10%多くカロテノイドを生産する、変異微生物。


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る