タイトル: | 特許公報(B2)_圧延ロールのサーマルクラウン予測方法,その予測プログラム,その予測システム |
出願番号: | 2001153925 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | B21B 37/32,G01N 33/20 |
柳 修介 池田 昌則 國井 弘 JP 3821664 特許公報(B2) 20060630 2001153925 20010523 圧延ロールのサーマルクラウン予測方法,その予測プログラム,その予測システム 株式会社神戸製鋼所 000001199 本庄 武男 100084135 柳 修介 池田 昌則 國井 弘 20060913 B21B 37/32 20060101AFI20060824BHJP G01N 33/20 20060101ALI20060824BHJP JPB21B37/00 116DG01N33/20 Z B21B 37/00-37/78 G01N 33/20 特開2000−158027(JP,A) 特開平07−032041(JP,A) 特開昭55−094715(JP,A) 特開平11−104726(JP,A) 6 2002346620 20021203 7 20041022 國方 康伸 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,鉄鋼,アルミ,アルミ合金等の被圧延材の熱間圧延において,クラウン制御用アクチュエータの制御に用いられる圧延ロールのサーマルクラウン予測方法及びその予測プログラム並びにその予測システムに関するものである。【0002】【従来の技術】これまでも,鉄鋼,アルミ,アルミ合金等の被圧延材の熱間圧延において,クラウン品質向上のため,計算機を用いて圧延ロールのサーマルクラウンを予測し前記被圧延材のクラウンを制御する,クラウン制御用アクチュエータ等の制御が行われている。特に,圧延ロールのサーマルクラウンは,被圧延材のクラウン品質に直接影響を与えるため高精度で予測する必要がある。このサーマルクラウン予測の精度向上のためには,圧延ロールの温度予測を高精度で行う必要があり,該温度予測の際の熱の移動計算に用いる主要なパラメータの1つである,圧延ロールと被圧延材との接触部の熱伝達率α1を適正に設定することが重要である。しかし,前記熱伝達率α1は,圧延ロールと被圧延材の材質の組み合わせが同じであっても,例えば圧延ロールの径や被圧延材の厚みの違い,さらには圧延前後の被圧延材の厚みの差である圧下量の違い等により異なることが知られている。このように熱伝達率α1が一定しないことが,圧延ロールのサーマルクラウン予測にどのような影響を与えるかについて以下に説明する。圧延ロールのサーマルクラウンを計算機により予測計算を行う場合,通常,圧延ロールを差分メッシュに分割し,適当な境界条件を与えて各メッシュにおける圧延ロール温度の計算を行い,各メッシュの熱膨張量を圧延ロールの半径方向に足し合わせることによって該半径方向の変位量,即ちサーマルクラウンを求める。実際には圧延中の圧延ロールにおいて,回転軸方向,半径方向に加え,周方向にも温度分布が生じるが,前記サーマルクラウン予測計算においては,圧延ロールの周方向の温度分布は平均化されるものとして,軸方向と半径方向の温度分布のみが解かれる。従って,圧延ロールの周方向の境界条件は,周方向で平均化されたたものが用いられる。例えば,文献1(岩脇ら:石川島播磨技法 第17巻第2号 1978年3月 pp.95−104)によれば,前記圧延ロールへの単位長さ当たりの入熱量qは,パス中(圧延中)及びあるパスの終了時から次のパスの開始時までのパス間の各等価境界温度Teq',Teq'',同各等価境界熱伝達率αeq',αeq'',同各時間τ',τ'',前記圧延ロールの摩擦発熱量QF,及び前記圧延ロールの半径Rから次式(1)で求められる。ここで,各前記等価境界熱伝達率α',α''及び各前記等価境界温度T'',T''は,各々次式(2)〜(5)により,前記圧延ロールの周方向で平均化して求められる。前記(2)〜(5)式において,α2,α3は,前記圧延ロールの周面における各々クーラントによる冷却部,前記被圧延材との接触部と前記冷却部とを除く残りの空冷部の各熱伝達率を,S1,S2,S3は,各々前記圧延ロール周面における前記接触部,前記冷却部,前記空冷部の各周方向の長さを,T1,T2,T3は,各々被圧延材温度,前記クーラントの温度,前記空冷部の雰囲気温度をそれぞれ表す。前記(2)〜(5)式を前記(1)式に代入すると,次式のようになり,前記圧延ロールへの単位長さ当たりの入熱量qが,前記熱伝達率α1と正の相関関係にあることがわかる。従って,例えば,前記熱伝達率α1に試験的に平均的な値を用いて熱の移動計算を行い,前記圧延ロール温度を予測計算すると,一般に,前記圧下量の大きい上流工程の圧延装置(上流スタンド)における実際の熱伝達率α1は平均的な値より小さいため,前記圧延ロールへの計算上の入熱量qが実際よりも大きくなり,その結果前記圧延ロール温度の計算値が実測値よりも高く計算されてしまう。逆に前記圧下量の小さい下流スタンドでは前記圧延ロール温度が実測値よりも低く計算されてしまう。このようなことから,従来は,前記熱伝達率α1に,スタンド毎及び被圧延材の種類(材質,厚み等)毎に,予め稼働条件と合わせた圧延条件での実測により求めた前記熱伝達率α1を設定し,サーマルクラウン予測を行っていた(従来技術甲)。例えば,文献2(北浜ら:塑性と加工(日本塑性加工学会誌)第36巻 第417号(1995−10)pp.1163−1168)に示されるサーマルプロフィルモデルにおいても,前記熱伝達率α1は実測値から決定される定数として扱われている。(従来技術乙)【0003】【発明が解決しようとする課題】しかし,前記従来技術甲及び乙では,例えば従来にない厚みの被圧延材の圧延を行う場合や,ある圧延工程を従来と異なるスタンドで行うような圧延スケジュールの組み替えを行う場合等,新たな圧延条件となった場合には,事前に実測により前記熱伝達率α1を求めたときの圧延条件と異なるため,該熱伝達率α1に誤差が生じ,これにより前記圧延ロールの予測温度に誤差が生じる。その結果サーマルクラウン予測にも誤差が生じて被圧延材のクラウン品質が悪化するという問題点があった。したがって、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、実測データのない新たな圧延条件となった場合でも,高精度に圧延ロールのサーマルクラウンを予測できるサーマルクラウン予測方法及びその予測プログラム並びその予測システムを提供することである。【0004】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明は、被圧延材の熱間圧延における圧延ロールのサーマルクラウン予測方法において,前記圧延ロールと前記被圧延材との接触部の熱伝達率を,該圧延ロールが前記被圧延材と接触する周面の周方向の長さである接触弧長S1 の関数である熱伝達率関数F(S1 )により求めることを特徴とするものである。また,前記熱伝達率関数F(S1 )が,前記被圧延材の温度,定常状態の前記圧延ロールの温度,前記圧延ロールがクーラントによって冷却されているクーラント冷却部の熱伝達率,前記クーラントの温度,前記圧延ロールの前記クーラント冷却部以外の空冷部の熱伝達率,該空冷部の雰囲気温度,前記圧延ロールと前記被圧延材との摩擦発熱量,圧延パス時間,及びある圧延パス終了時から次の圧延パス開始時までの圧延パス間時間を含む定常パラメータに基づき決定されるものが考えられる。また,前記熱伝達率関数F(S1 )が,複数の前記定常状態における前記定常パラメータと,これに対応する前記接触弧長S1 とに基づき決定するものであってもよい。また,前記熱伝達率関数F(S1 )が,前記定常パラメータ及びこれに対応する前記接触弧長S1 に基づく統計計算により予め決定されるものも考えられる。また,被圧延材の熱間圧延における圧延ロールのサーマルクラウン予測工程を実行するための圧延ロールのサーマルクラウン予測プログラムにおいて,前記圧延ロールと前記被圧延材との接触部の熱伝達率を,該圧延ロールが前記被圧延材と接触する周面の周方向の長さである接触弧長S1 の関数である熱伝達率関数F(S1 )により求める工程を実行するコンピュータ読み取り可能な圧延ロールのサーマルクラウン予測プログラムとして構成することも考えられる。さらに,被圧延材の熱間圧延における圧延ロールのサーマルクラウン予測システムにおいて,前記圧延ロールと前記被圧延材との接触部の熱伝達率を,該圧延ロールが前記被圧延材と接触する周面の周方向の長さである接触弧長S1 の関数である熱伝達率関数F(S1 )により求める圧延ロールのサーマルクラウン予測システムとして構成することも考えられる。【0005】【発明の実施の形態】以下,添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態及び実施例について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施の形態及び実施例は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。ここに、図1は実測データから求められた熱伝達率と接触弧長との相関図,図2は本発明の実施の形態に係るサーマルクラウン予測方法を使用する場合としない場合の圧延ロールの予測温度と実測温度の相関図である。【0006】本発明の実施の形態に係る圧延ロールのサーマルクラウン予測方法は,例えば前記従来技術乙(前記文献2)に示されるサーマルプロフィルモデル等の手法を用いて圧延ロールのサーマルクラウン予測を行う際に,鉄鋼,アルミ,アルミ合金等の被圧延材と前記圧延ロールとの間の熱の移動計算に用いる主要な入力変数の1つである,前記圧延ロールと前記被圧延材との接触部の熱伝達率α1を高精度に予測する方法に特徴を有するものである。従って,前記サーマルクラウン予測における前記熱伝達率α1の計算以外の範囲の計算方法については,前記従来技術乙の他,知られたものがあるのでここでは説明を省略する。即ち,この実施の形態における前記熱伝達率α1の計算方法は,圧延の際に前記圧延ロールが前記被圧延材と接触する周面の周方向の長さである接触弧長S1 を入力として前記熱伝達率α1を求める関数である熱伝達率関数F(S1 )によって計算するものである。以下,前記熱伝達関数F(S1)の導出方法について説明する。前記熱伝達率関数F(S1)は,複数の圧延条件下での定常状態において,後述する定常パラメータにより求められる前記熱伝達率α1と,前記圧延条件から求められる前記接触弧長S1 との相関関係を統計計算することによって導出する。ここで,前記定常状態とは,前記被圧延材の材質,厚み,温度や前記圧下量等の圧延条件を同一にして圧延を継続したときに,前記圧延ロールが前記被圧延材から受ける熱量と,該圧延ロールがこれを冷却するクーラント等により奪われる熱量とが釣り合い,前記圧延ロール温度がほぼ一定の値に収束する状態をいう。従って,該定常状態では,前記(6)式において前記圧延ロールへの単位長さ当たりの入熱量q=0となることから,次式が成り立つ。α1(TR−T1)τ'・S1+α2(TR−T2)τ'・S2+α3(TR−T3)τ'・S3+QF ・τ'+α2(TR−T2)τ''・S2+α3(TR−T3)τ''・S3=0 …(6)従って,前記定常状態における前記各温度TR,T1,T2,T3を実測すれば,前記(6)式中,前記熱伝達率α1以外の他のパラメータは既知の値又は知られた方法により求められる値であるので,前記熱伝達率α1を求めることができる。この(6)式中,前記熱伝達率α1を除く残りのパラメータτ',τ'',α2,α3,TR,T1,T2,T3,QFが前述した定常パラメータである。一方,前記接触弧長S1は,前記圧延条件として与えられる,1パスの入側の前記被圧延材の厚みh1と,同出側の厚みh0と,前記圧延ロールの半径Rとにより表される次式,S1=√[R(h1―h0)] …(7)により求めることができる。【0007】ここに図1は,前記被圧延材の厚みや温度,前記圧下量,前記スタンド等,種々異なる圧延条件下で,前記定常状態における前記各温度TR,T1,T2,T3を実測し,これを含む前記定常パラメータから前記(6)式を用いて前記熱伝達率α1を求め,これと前記(7)式で求まる前記接触弧長S1との相関を示したグラフである。なお,前記各圧延条件において,前記圧延ロール及び前記被圧延材の材質については同一条件である。図1から明らかなように,前記熱伝達率α1と前記接触弧長S1との間には高い相関関係があることがわかる。この図1に示される相関関係から,例えば指数関数や2次式による近似や累乗近似等により前記接触弧長S1と前記熱伝達率α1との関係を表す近似式を求め,これを前記熱伝達率関数F(S1)とする。【0008】次に,このようにして求めた前記熱伝達率関数F(S1)の有効性を確認した結果について説明する。実際の圧延における前記圧延ロールの変形は,サーマルクラウン以外の要因によっても生じ,前記圧延ロールの変形量の実測値から,サーマルクラウンによる変形量のみを抽出することは困難であるため,ここでは,圧延中の圧延ロール温度の実測値と計算値との比較によって評価する。図2(a)は,前記被圧延材の厚みや温度,前記圧下量,前記スタンド等,種々異なる圧延条件下における圧延ロール温度実測値と,前記各圧延条件において前記熱伝達率α1を定数で与えることにより計算した圧延ロール温度計算値とを比較した散布図,図2(b)は,同じく前記圧延ロール温度実測値と,前記各圧延条件において前記熱伝達率α1を前述の手順で指数関数(k/S1p,ここでk,pは所定の係数)による近似によって導出した前記熱伝達率関数F(S1)を用いて算出した結果を与えることにより計算した圧延ロール温度計算値とを比較した散布図である。該圧延ロール温度計算値は,例えば前記従来技術甲(前記文献1)に示される温度シミュレーションモデルによって求めることができる。図2から明らかなように,本発明に係る前記熱伝達率関数F(S1)を用いた場合(図2(b)),これを用いない場合(図2(a))に比べ,前記圧延ロー温度実測値(図2の横軸)に対する計算値(図2の縦軸)の誤差がはるかに小さくなり,計算精度が向上していることがわかる。図2(a)と図2(b)とに示されるデータは,各々実設備稼働中のオンライン制御データであるため,各々同じ条件下で同時に実測及び計算されたものではないが,本発明を用いて計算された図2(b)のデータの方が,用いなかった図2(a)のデータよりも,より広範囲の圧延ロール温度域のデータであるにもかかわらず,前記誤差が小さく抑えられており,前記圧延条件により圧延状態が広範囲に変化しても本発明が有効に機能することがわかる。しかも,図2(a)及び図2(b)に示すデータは,前記定常状態以外の非定常状態におけるデータを含むものであり,前記定常状態における前記定常パラメータに基づいて得た前記熱伝達率関数F(S1)が,前記非定常状態においても有効に機能することを示している。圧延ロールのサーマルクラウン予測では,圧延ロール温度の予測結果に基づいて熱膨張による変形量が求められるので,圧延ロール温度の予測精度が向上すれば,サーマルクラウンの予測精度も向上することは明らかである。このようにして求められた前記熱伝達率関数F(S1)を用いたサーマルクラウン予測システムは,例えば前記従来技術乙(前記文献2)に示されるサーマルクラウン計算方法において,定数で与えられている前記熱伝達率α1を前記熱伝達関数F(S1)によって求めるよう変更された計算方法を実現するプログラムをコンピュータに組み込むことによって実現できる。このように,前記統計計算が行える程度の数の圧延条件について,予め前記定常パラメータ等を実測しておけば,少なくとも圧延ロール及び前記被圧延材の材質が同条件であれば,実測データのない新たな圧延条件となった場合でも,高精度に圧延ロールのサーマルクラウン予測が行える。【0009】【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、圧延ロールによる鉄鋼,アルミ,アルミ合金等の被圧延材の圧延において,実測データのない新たな圧延条件となった場合でも,圧延ロールと被圧延材との間の熱伝達率が高精度に求められ,圧延ロールのサーマルクラウンの予測精度が向上し,その結果,被圧延材のクラウン品質が向上する。【図面の簡単な説明】【図1】実測データから求められた熱伝達率と接触弧長との相関図。【図2】本発明の実施の形態に係るサーマルクラウン予測方法を使用する場合としない場合の圧延ロールの予測温度と実測温度の相関図。 被圧延材の熱間圧延における圧延ロールのサーマルクラウン予測方法において,前記圧延ロールと前記被圧延材との接触部の熱伝達率を,該圧延ロールが前記被圧延材と接触する周面の周方向の長さである接触弧長S1 の関数である熱伝達率関数F(S1 )により求めることを特徴としてなる圧延ロールのサーマルクラウン予測方法。 前記熱伝達率関数F(S1 )が,前記被圧延材の温度,定常状態の前記圧延ロールの温度,前記圧延ロールがクーラントによって冷却されているクーラント冷却部の熱伝達率,前記クーラントの温度,前記圧延ロールの前記クーラント冷却部以外の空冷部の熱伝達率,該空冷部の雰囲気温度,前記圧延ロールと前記被圧延材との摩擦発熱量,圧延パス時間,及びある圧延パス終了時から次の圧延パス開始時までの圧延パス間時間を含む定常パラメータに基づき決定される請求項1に記載の圧延ロールのサーマルクラウン予測方法。 前記熱伝達率関数F(S1 )が,複数の前記定常状態における前記定常パラメータと,これに対応する前記接触弧長S1 とに基づき決定される請求項2に記載の圧延ロールのサーマルクラウン予測方法。 前記熱伝達率関数F(S1 )が,前記定常パラメータ及びこれに対応する前記接触弧長S1 に基づく統計計算により予め決定される請求項3に記載の圧延ロールのサーマルクラウン予測方法。 被圧延材の熱間圧延における圧延ロールのサーマルクラウン予測工程を実行するための圧延ロールのサーマルクラウン予測プログラムにおいて,前記圧延ロールと前記被圧延材との接触部の熱伝達率を,該圧延ロールが前記被圧延材と接触する周面の周方向の長さである接触弧長S1 の関数である熱伝達率関数F(S1 )により求める工程を実行することを特徴としてなるコンピュータ読み取り可能な圧延ロールのサーマルクラウン予測プログラム。 被圧延材の熱間圧延における圧延ロールのサーマルクラウン予測システムにおいて,前記圧延ロールと前記被圧延材との接触部の熱伝達率を,該圧延ロールが前記被圧延材と接触する周面の周方向の長さである接触弧長S1 の関数である熱伝達率関数F(S1 )により求めることを特徴としてなる圧延ロールのサーマルクラウン予測システム。