タイトル: | 特許公報(B2)_光学活性なフラバノン及びクロマノン類の製造法 |
出願番号: | 2001136978 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C07D 311/32,C07D 495/10 |
野田 吉弘 JP 3829273 特許公報(B2) 20060721 2001136978 20010508 光学活性なフラバノン及びクロマノン類の製造法 学校法人日本大学 899000057 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 有賀 三幸 100068700 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 浅野 康隆 100089048 的場 ひろみ 100101317 村田 正樹 100117156 山本 博人 100111028 野田 吉弘 20061004 C07D 311/32 20060101AFI20060914BHJP C07D 495/10 20060101ALI20060914BHJP JPC07D311/32C07D495/10 C07D311/32 C07D495/10 CA(STN) REGISTRY(STN) CASREACT(STN) 特開昭52−137456(JP,A) Journal of the American Chemical Society ,1962年, Vol.84,pp.2938-2941 2 2002332282 20021122 10 20021031 特許法第30条第1項適用 平成13年3月15日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第79春季年会2001年講演予稿集▲II▼」に発表 渕野 留香 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は医薬品、化粧品等の配合成分として有用なフラバノン及びクロマノン類の光学活性体の選択的な製造法に関する。【0002】【従来の技術】天然には種々のフラバノン誘導体やクロマノン誘導体が存在しており、その中には様々な生理活性を示す物質が含まれている。例えば、フラバノン誘導体としては、ナリンゲニン(Naringenin)、ヘスペレチン(Hesperetin)等が、クロマノン誘導体としてはディクタホリン−A(Dictafolin-A)、LL−D253α等が知られている。これらの化合物は、2位に不斉炭素原子を有しており、天然には光学活性体として存在する。【0003】これらの化合物のラセミ体の合成はいくつか報告されているものの、光学活性体の合成法については、光学活性なメチル p−トリルスルホキシドを用いる方法が報告されているにすぎない(TETRAHEDRON:Asymmetry 10(1999) 2739-2747, Tetrahedron Vol.46, No.18. pp6565-6574, 1990)。【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これら従来の方法においては、(1)メチル p−トリルスルホキシドの反応部位がクロマン骨格の3位であることから不斉炭素を2個にしてしまうため副生物を多く経由することになる;(2)クロマン骨格の2位へのメチル化やフェニル化反応後は光学分割が必要になる等の問題があった。従って、本発明の目的は光学分割操作をすることなく、選択的に光学活性なフラバノン及びクロマノン類を製造する方法を提供することにある。【0005】【課題を解決するための手段】そこで本発明者は、サリチルアルデヒドから容易に得られるチオアセタール化合物を原料として用い、これに光学活性なエポキシドを反応させた後、閉環し、次いでチオアセタール基を加水分解によりケトンに変換すれば、選択的に光学活性なフラバノン又はクロマノン類が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。【0006】本発明方法は次の反応式で表すことができる。【0007】【化7】【0008】(式中、R1及びR2は、それぞれ水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキル基又はヒドロキシアルキル基を示し;R3はヒドロキシ基及び/又はアルコキシ基が置換していてもよいフェニル基、又はメチル基を示し;nは2又は3の数を示し;*は不斉炭素原子の位置を示す)【0009】すなわち、本発明は一般式(1)で表されるチオアセタール化合物に一般式(2)で表される光学活性エポキシドを反応させて一般式(3)で表される光学活性アルコールを得、これを閉環させて一般式(4)で表される光学活性スピロ化合物を得、次いでこれを加水分解することを特徴とする光学活性フラバノン又はクロマノン類の製造法を提供するものである。【0010】また本発明は、製造中間体として有用な上記一般式(4)で表される光学活性スピロ化合物を提供するものである。【0011】【発明の実施の形態】上記反応式中、R1及びR2で示されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられるが、このうちメトキシ基が特に好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられるが、このうちメチル基が特に好ましい。ヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基等の炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基が挙げられるが、ヒドロキシメチル基が特に好ましい。R3で示されるアルコキシ置換フェニル基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基が置換したフェニル基が挙げられ、メトキシフェニル基が好ましい。【0012】R1及びR2としては水素原子、ヒドロキシ基又はメトキシ基が特に好ましい。R3としてはヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、ヒドロキシ基とメトキシ基が置換したフェニル基、ジメトキシフェニル基、メチル基が好ましい。【0013】nとしては3がより好ましい。【0014】原料化合物であるチオアセタール化合物(1)は、例えば、サリチルアルデヒド類にエチレンチオグリコール又は1,3−プロパンジチオールを反応させることにより得ることができる。また、光学活性なエポキシ化合物(2)のうち、R3がメチル基又はフェニル基である化合物(2)は市販されており、容易に入手することができる。またR3がヒドロキシ基及び/又はアルコキシ基が置換したフェニル基である化合物(2)はJ. Org. Chem., 61, 5372(1996)の記載に準じて合成することができる。【0015】チオアセタール化合物(1)と光学活性エポキシ化合物(2)との反応は、まずチオアセタール化合物(1)をn−ブチルリチウム等のアルキルリチウムで処理した後にエポキシ化合物(2)を反応させることにより行われる。チオアセタール化合物(1)のアルキルリチウム処理は、例えばチオアセタール化合物(1)の無水テトラヒドロフラン溶液中に約−20℃でn−ブチルリチウムのヘキサン溶液を滴下して攪拌することにより行なわれる。また、続くエポキシ化合物の反応は、例えばエポキシ化合物(2)の無水テトラヒドロフラン溶液を添加して攪拌することにより行なわれる。【0016】得られた化合物(3)の閉環反応は光延法を用いるのが好ましい。すなわち、トリフェニルホスフィンの無水テトラヒドロフラン溶液にジエチル アゾジカルボキシレート等のジアルキル アゾジカルボキシレートを加え、室温で1〜数時間攪拌する。これに化合物(3)のテトラヒドロフラン溶液を加えて室温で1〜数時間攪拌すればよい。【0017】得られた化合物(4)の加水分解は、例えば塩化水銀(II)等を用いて行うのが好ましい。反応は、例えば塩化水銀(II)と炭酸カルシウムをアセトニトリル−水の混合溶液に懸濁させ、これに化合物(4)を加えて室温で攪拌すればよい。【0018】原料として用いる光学活性なエポキシ化合物(2)の立体配置により、目的とする化合物(5)の立体配置が決定される。反応の途中で立体配置は反転し、光学純度の高い光学活性な化合物(5)を高収率で得ることができる。【0019】【実施例】次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。【0020】実施例1(1)チオアセタールの合成アルゴンガス雰囲気下サリチルアルデヒドのクロロホルム溶液に1.3当量の1,3−プロパンジチオールを加え、さらに三フッ化ホウ素エーテル錯体0.25当量を加え、室温で24時間攪拌した。反応混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え反応を停止させ、塩化メチレンで2回抽出し有機層を食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧下溶媒を留去、得られた結晶を塩化メチレン・ヘキサンの混合溶媒で再結晶を行ない、下記式のチオアセタールを得た(収率95%)。【0021】【化8】【0022】(2)光学活性アルコールの合成(R3=フェニル)アルゴンガス雰囲気下チオアセタール(1)の無水テトラヒドロフラン溶液を−18℃に冷却し、2.5当量のn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.5mol/L)を加え、同温度で3時間攪拌した。反応混合物に(R)−(+)−スチレンオキシド(または(S)−(−)−スチレンオキシド)のテトラヒドロフラン溶液を加え、さらに同温度で3時間攪拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えエーテルで3回抽出し、エーテル層を食塩水で2回洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過後溶媒を減圧留去する。残渣をクロマトグラフィーで分離し油状物質として下記の光学活性アルコールをそれぞれ得た。【0023】【化9】【0024】(3)閉環体の合成(R3=フェニル)アルゴンガス雰囲気下、4当量のトリフェニルホスフィンの無水テトラヒドロフラン溶液に4当量のジエチルアゾジカルボキシレートを加え、1時間攪拌した。反応混合物に上記(2)で得た光学活性アルコール(R体又はS体のテトラヒドロフラン溶液を加え、室温で2時間攪拌した。反応混合物に水を加え、エーテルで3回抽出後、食塩水で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過し溶媒を減圧留去し、カラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:ヘキサン=1:1)で分離後、塩化メチレン、ヘキサンにて再結晶を行ない、下記の閉環体をそれぞれ得た。得られた閉環体のフェニル基の絶対配置は、アルコール体とは逆転していた。【0025】【化10】【0026】(4)フラバノンの合成(R3=フェニル)アルゴンガス雰囲気下、アセトニトリル−水4:1の混合溶液に2.5当量の塩化水銀(II)を懸濁させ、炭酸カルシウムを加え、さらに上記(3)で得た閉環体(R体又はS体)を加え、室温で1時間攪拌した。反応混合物をセライトを通して濾過した後、塩化メチレンで3回抽出し、食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過後溶媒を減圧留去しシリカゲルクロマトグラフィーで分離後、塩化メチレン・ヘキサンで再結晶を行ない、R−(+)−フラバノン及びS−(−)−フラバノンをそれぞれ得た。【0027】【化11】【0028】実施例2(1)光学活性アルコールの合成(R3=メチル)アルゴンガス雰囲気下チオアセタールの無水テトラヒドロフラン溶液を−18℃に冷却し、2.5当量のn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.5mol/L)を加え、同温度で3時間攪拌した。反応混合物に(S)−(+)−プロピレンオキシド(または(R)−(−)−プロピレンオキシド)のテトラヒドロフラン溶液を加え、さらに同温度で3時間攪拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えエーテルで3回抽出し、エーテル層を食塩水で2回洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過後溶媒を減圧留去する。残渣をクロマトグラフィーで分離し油状物質として、下記の光学活性アルコールをそれぞれ得た。【0029】【化12】【0030】(2)閉環体の合成(R3=メチル)アルゴンガス雰囲気下、4当量のトリフェニルホスフィンの無水テトラヒドロフラン溶液に4当量のジエチルアゾジカルボキシレートを加え、1時間攪拌する。反応混合物に上記(1)で得た光学活性アルコール(R体又はS体)のテトラヒドロフラン溶液を加え、室温で2時間攪拌した。反応混合物に水を加え、エーテルで3回抽出後、食塩水で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過し溶媒を減圧留去し、カラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:ヘキサン=1:1)で分離後、塩化メチレン、ヘキサンにて再結晶を行ない、下記の閉環体をそれぞれ得た。得られた閉環体のフェニル基の絶対配置は、アルコール体とは逆転していた。【0031】【化13】【0032】(3)クロマノンの合成(R3=メチル)アルゴンガス雰囲気下、アセトニトリル・水4:1の混合溶液に2.5当量の塩化水銀(II)を懸濁させ、炭酸カルシウムを加え、さらに上記(2)で得た閉環体(R体又はS体)を加え、室温で1時間攪拌した。反応混合物をセライトを通して濾過した後、塩化メチレンで3回抽出し、食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過後溶媒を減圧留去しシリカゲルクロマトグラフィーで分離後、塩化メチレン−ヘキサンで再結晶を行ない、R−(+)−クロマノン及びS−(−)−クロマノンをそれぞれ得た。【0033】【化14】【0034】【発明の効果】本発明方法によれば、医薬品や化粧品原料として有用な光学活性フラバノン及びクロマノン類が高収率で得られる。 一般式(1)(式中、R1及びR2は、それぞれ水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキル基又はヒドロキシアルキル基を示し;nは2又は3の数を示す)で表されるチオアセタール化合物に一般式(2)(式中、R3はヒドロキシ基及び/又はアルコキシ基が置換していてもよいフェニル基、又はメチル基を示し;*は不斉炭素原子の位置を示す)で表される光学活性なエポキシドを反応させて一般式(3)(式中、R1、R2、R3、n及び*は前記と同じ)で表される光学活性アルコールを得、これを閉環させて一般式(4)(式中、R1、R2、R3、n及び*は前記と同じ)で表される光学活性スピロ化合物を得、次いでこれを加水分解することを特徴とする一般式(5)(式中、R1、R2、R3、n及び*は前記と同じ)で表される光学活性フラバノン又はクロマノン類の製造法。 一般式(4)(式中、R1及びR2は、それぞれ水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキル基又はヒドロキシアルキル基を示し;R3はヒドロキシ基及び/又はアルコキシ基が置換していてもよいフェニル基、又はメチル基を示し;nは2又は3の数を示し;*は不斉炭素原子の位置を示す)で表される光学活性スピロ化合物。