タイトル: | 特許公報(B2)_窒素同位体比の測定方法 |
出願番号: | 2001062989 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | G01N 31/00,G01N 31/02,G01N 27/62,G01N 1/10 |
坂田 昌弘 JP 3810645 特許公報(B2) 20060602 2001062989 20010307 窒素同位体比の測定方法 財団法人電力中央研究所 000173809 村瀬 一美 100087468 坂田 昌弘 20060816 G01N 31/00 20060101AFI20060727BHJP G01N 31/02 20060101ALI20060727BHJP G01N 27/62 20060101ALI20060727BHJP G01N 1/10 20060101ALI20060727BHJP JPG01N31/00 FG01N31/00 YG01N31/02G01N27/62 VG01N1/10 D G01N31/00〜31/22 G01N1/00〜1/34 G01N27/62 CAplus(STN) JICST(JOIS) 特開平03−146862(JP,A) 特開平01−127955(JP,A) 日本化学会誌 1991,(5),399−403 Anal. Chem. 1985,57(11),2143−2145 Soil. Sci. Soc. Am. J. 1989,53(3),763−768 Marine Chemistry 1995,48(3),271−282 3 2002267652 20020918 10 20030317 特許法第30条第1項適用 2000年9月25日〜27日 日本地球化学会主催の「2000年度日本地球化学会第47回年会山形大会」において文書をもって発表 竹中 靖典 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、環境試料中の窒素化合物、特に窒素酸化物、硝酸およびアンモニアの窒素同位体比を測定する方法に関する。さらに詳述すると、本発明は元素分析計を連結した質量分析計により窒素同位体比を測定するための前処理に関する。【0002】【従来の技術】大気や水、土壌等の環境試料中の窒素酸化物、硝酸およびアンモニアの窒素同位体比(15N/14N)は発生源ごとに異なることが知られている。これら窒素化合物は酸性雨や富栄養化の原因となるので、窒素同位体比の変動を利用することにより、それらの発生源や反応メカニズムを解明することが進められている。また、窒素酸化物の窒素同位体比が発生源ごとに異なる性質を利用して、石炭燃焼で窒素酸化物とともに大気中に排出される水銀等のガス状微量物質の寄与率を推定することが可能になると考えられる。【0003】環境試料中の窒素酸化物、硝酸およびアンモニアの窒素同位体比の測定方法としては、環境試料中の窒素酸化物、硝酸およびアンモニアを水溶液に溶解させて生じた硝酸イオンとアンモニウムイオンを蒸留法やイオン交換法などで分離した後、得られた水溶液をいわゆる蒸発法により前処理してから質量分析計で窒素同位体比を測定していた。この蒸発法は、水溶液の水分を全て蒸発させて残渣を掻き取り集めて質量分析計に測定させるか、あるいは水溶液の水分を全て蒸発させずに残った少量の水溶液の一部をスズカプセル(質量分析計に連結させた元素分析計に試料を導入するために使用)に移して液体窒素で冷却し凍結乾燥してから質量分析計に測定させるものである。【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した蒸発法では、水分を全て蒸発させるために処理に長時間を要してしまう。また、蒸発させる水溶液中の窒素化合物の含有量が非常に少なく、この窒素化合物を残渣として掻き取って集めているので、作業が面倒になってしまう。また、蒸発で濃縮した水溶液の一部を冷却して凍結乾燥するときは、冷却のために液体窒素等を使用しなければならず作業性が悪い。【0005】そこで、本発明は、前処理の簡易化および迅速化を図れる窒素同位体比の測定方法を提供することを目的とする。【0006】【課題を解決するための手段】かかる目的を達成するために請求項1記載の窒素同位体比の測定方法は、アンモニウムイオンを含む試料水溶液を蒸留して、蒸留により得られたアンモニアを含む水蒸気を凝縮して酸性の溶液に溶かして留出液を得て、留出液にテトラフェニルホウ酸ナトリウムを加えてテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を沈殿生成して、このテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を濾過により分離回収して、得られたテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩の窒素同位体比を測定するようにしている。【0007】また、請求項2記載の窒素同位体比の測定方法は、硝酸イオンを含む試料水溶液を還元蒸留して、還元蒸留により得られたアンモニアを含む水蒸気を凝縮して酸性の溶液に溶かして留出液を得て、留出液にテトラフェニルホウ酸ナトリウムを加えてテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を沈殿生成して、このテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を濾過により分離回収して、得られたテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩の窒素同位体比を測定するようにしている。【0008】さらに、請求項3記載の窒素同位体比の測定方法は、硝酸イオンおよびアンモニウムイオンを含む試料水溶液を蒸留して、蒸留により得られたアンモニアを含む水蒸気を凝縮して酸性の溶液に溶かして留出液を得て、留出液にテトラフェニルホウ酸ナトリウムを加えてテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を沈殿生成して、このテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を濾過により分離回収して、得られたテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩の窒素同位体比を測定する一方、試料水溶液を蒸留した残りの溶液中の硝酸イオンを還元蒸留して、還元蒸留により得られたアンモニアを含む水蒸気を凝縮して酸性の溶液に溶かして留出液を得て、留出液にテトラフェニルホウ酸ナトリウムを加えてテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を沈殿生成して、このテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を濾過により分離回収して、得られたテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩の窒素同位体比を測定するようにしている。【0009】したがって、いわゆる沈殿法を用いているので、従来の蒸発法のように全ての水分を蒸発させる必要が無く処理時間を大幅に短縮することができる。また、硝酸イオンあるいはアンモニウムイオンを最終的にテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩として沈殿させて濾過して取り出してるので、従来のように残渣を掻き取って集めたり蒸発で濃縮した水溶液の一部を液体窒素により凍結乾燥する必要が無く作業性が良くなる。さらに、テトラフェニルホウ酸アンモニウム塩の窒素同位体比を測定しているので、従来の硝酸塩あるいはアンモニウム塩の窒素同位体比を測定する場合に比べて、同じ量の窒素を測定するのであれば質量分析計に測定させる物質の量を多くすることができ、計量が容易になって作業性を高めることができる。【0010】【発明の実施の形態】以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。図1に本発明の窒素同位体比の測定方法の実施形態の一例を示す。この窒素同位体比の測定方法では、硝酸イオンおよびアンモニウムイオンを含む試料水溶液を蒸留して、アンモニウムイオンを含む留出液にテトラフェニルホウ酸ナトリウムを加えてテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を沈殿生成してアンモニアに由来する窒素同位体比を測定すると共に、試料水溶液を蒸留した残りの溶液中の硝酸イオンを還元蒸留して、アンモニウムイオンを含む留出液にテトラフェニルホウ酸ナトリウムを加えてテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を沈殿生成して硝酸に由来する窒素同位体比を測定するようにしている。このため、沈殿法を用いているので、従来の蒸発法のように全ての水分を蒸発させる必要が無く処理時間を大幅に短縮することができる。また、硝酸イオンおよびアンモニウムイオンを最終的にテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩として沈殿させて濾過して取り出してるので、従来のように残渣を掻き取って集めたり蒸発で濃縮した水溶液の一部を液体窒素により凍結乾燥する必要が無く作業性が良くなる。【0011】この窒素同位体比の測定方法の手順を図1に示すフローチャートに基づいて説明する。【0012】まず、環境試料中の窒素酸化物、硝酸およびアンモニアを水または酸性・アルカリ性の水溶液に溶解させて試料水溶液を生成させる(ステップ1)。環境試料が大気であれば、窒素酸化物および硝酸は大気を過酸化水素等の酸化剤を含むアルカリ性水溶液中でバブリングすることにより硝酸イオンを含む試料水溶液、アンモニアは大気を酸性水溶液中でバブリングすることによりアンモニウムイオンを含む試料水溶液がそれぞれ生成される。また、環境試料が海水や陸水(湖水、河川水、地下水など)や雨水であれば、それをそのまま試料水溶液とする。あるいは、環境試料が土壌や大気粉塵であれば、その土壌や大気粉塵を水で抽出することにより硝酸イオンとアンモニウムイオンを含む試料水溶液を生成する。【0013】そして、得られた試料水溶液を蒸留する(ステップ2)。これにより、アンモニウムイオンがガス化して試料水溶液から蒸発すると共に硝酸イオンが残留するので、アンモニアが試料水溶液から分離される。【0014】そして、アンモニアは水蒸気とともに冷却により凝縮されて水溶液となる。この溶液は硫酸の溶液に添加されて留出液とされる(ステップ3)。ここで、アンモニウムイオンを含む溶液はアルカリ性であるため、酸性の溶液に容易に溶解することができる。使用される酸性の溶液の種類としては窒素源を含有しないものであれば特に限定されず、硫酸以外に塩酸等の無機酸を用いることができ、またその酸濃度としては50mmol/L程度であることが好ましい。【0015】そして、留出液にテトラフェニルホウ酸ナトリウム水溶液を加えて、テトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を沈殿生成する(ステップ4)。このテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を濾過により分離回収して乾燥させる(ステップ5)。テトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を得てから(ステップ6)、その窒素同位体比を質量分析計によって測定する(ステップ7)。これにより、試料水溶液中のアンモニウムイオンに由来する窒素同位体比を測定することができる。【0016】ここで、アンモニウムイオンの濃度が低い場合には、テトラフェニルホウ酸アンモニウム塩が一部しか沈殿しないことがある。この場合でも、図2に示すように例えば沈殿率が約60%以上の範囲でほぼ等しい窒素同位体比を測定することができたので、必ずしも全量が沈殿しなくても高精度の測定を確保できる。よって、無理に全量を沈殿させる必要が無いので、窒素同位体比の測定の簡易化および迅速化を図ることができる。【0017】一方、試料水溶液からアンモニアを蒸留した残りの溶液(ステップ8)を還元蒸留する(ステップ9)。この還元蒸留は還元触媒の存在下、例えばデバルダ合金(Cu 50%、Al 45%、Zn 5%の合金で、例えば和光純薬工業製)等の触媒金属を利用して行う。これにより、この溶液に含まれる硝酸イオンが還元されてアンモニウムイオンになる。なお、還元触媒としてはデバルダ合金には限られず、他の既存あるいは新規のものを使用することができる。さらに、アンモニウムイオンがガス化して溶液から蒸発することにより、アンモニウムイオンが溶液から分離される(ステップ10)。そして、蒸留および還元蒸留によっても取り出されなかった成分は残渣になる(ステップ11)。【0018】還元蒸留によりガス化されたアンモニアは冷却により凝縮されて液化される。この溶液は硫酸の溶液に添加されて留出液とされる。そして、留出液にテトラフェニルホウ酸ナトリウム水溶液を加えて、テトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を沈殿生成する(ステップ12)。このテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を濾過により分離回収して乾燥させる(ステップ13)。テトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を得てから(ステップ14)、その窒素同位体比を質量分析計によって測定する(ステップ15)。これにより、試料水溶液中の硝酸イオンに由来する窒素同位体比を測定することができる。【0019】ここで、硝酸イオンの濃度が低い場合には、テトラフェニルホウ酸アンモニウム塩が一部しか沈殿しないことがある。この場合でも、上述したアンモニウムイオンが低濃度の場合と同様に、必ずしも全量が沈殿しなくても高精度の測定を確保できる。【0020】上述した窒素同位体比の測定方法によれば、試料の窒素同位体比を測定するまでの前処理に要する時間が2時間程度になり、従来の蒸発法での所要時間(約4時間)に比べて大幅に短縮することができる。【0021】なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では試料水溶液の硝酸およびアンモニアの窒素同位体比を測定しているが、これには限られず一方のみを測定するようにしても良い。例えば硝酸の窒素同位体比を測定する場合は、図1に示すフローチャートのステップ3〜7を省略することができる。また、アンモニウムイオンの窒素同位体比を測定する場合は、同フローチャートのステップ8〜15を省略することができる。したがって、必要な測定作業のみを行うようにできるので、無駄な作業を省略して作業性を高めることができる。【0022】【実施例】500mlのフラスコを含む蒸留装置を用意した。ここでは、JIS(K0102)の工業排水の検査用に設計された蒸留装置を利用した。また、窒素同位体比の測定のために、元素分析計(商品名:カルロエルバEA1108、ファイソンズ社製)にコンフローIIインターフェースで連結された質量分析計(商品名:フィニガンマット Delta-plus、サーモクエスト社製)を利用した。【0023】測定対象となる試料水溶液のアンモニウムイオンと硝酸イオンの各濃度をイオンクロマトグラフィーで測定した。そして、蒸留装置により試料水溶液を蒸留した。【0024】蒸留はJIS(K0102)の工業排水の試験方法に基づいて行った。まず試料水溶液を500mlフラスコに注いで、300g/Lの水酸化ナトリウム10mlを添加して溶液をアルカリ化した。この溶液に脱イオン水を添加して、350mlにした。そして、この溶液を蒸留し、25mmol/Lの硫酸溶液50mlを入れたメスシリンダにアンモニウムイオンを含む約140mlの留出液が得られるまで行われた。【0025】アンモニア蒸留後の試料水溶液の残渣を冷却した後、脱イオン水を添加して350mlにした。この溶液に3gのデバルダ合金を添加して、硝酸イオンを還元した。そして、この還元した溶液を蒸留してアンモニアを蒸留させて硫酸溶液に留出させた。【0026】そして、最初の蒸留により得られたアンモニウムイオンを含む硫酸酸性の留出液と次の還元蒸留により得られたアンモニウムイオンを含む硫酸酸性の留出液とのそれぞれに脱イオン水を添加して200mlにした。これにより、試料水溶液のアンモニウムイオンを分離した200mlの硫酸酸性溶液(pH2.0)と硝酸イオンを分離した200mlの硫酸酸性溶液(pH2.0)とを得た。【0027】各硫酸酸性溶液に0.1mol/Lのテトラフェニルホウ酸ナトリウム50mlを添加して30分かき混ぜた。これにより、アンモニウムイオンがテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩として沈殿した。ここで、沈殿生成は約30分で平衡に到達することが判明した。また、テトラフェニルホウ酸アンモニウム塩の沈殿率は、溶液中のアンモニウムイオンの濃度およびテトラフェニルホウ酸ナトリウムの濃度に依存するが、硫酸酸性溶液中でテトラフェニルホウ酸が析出することはない。約0.02mol/Lのテトラフェニルホウ酸ナトリウムが添加されていればアンモニウムイオンの濃度のみに依存する。【0028】沈殿したテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を0.22μmのフィルタで濾過して回収し、約60℃で乾燥させた。乾燥したテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を2.5mgだけ量り取ってスズカプセルに封入した。そして、テトラフェニルホウ酸アンモニウム塩をスズカプセルごと燃焼して、元素分析計および質量分析計により窒素同位体比を測定した。ここでは、NISTの標準物質である硫酸アンモニウム(RM8547:IAEA−N1、窒素同位体比=0.43±0.07パーミル)から生成されたテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を標準窒素として同位体比の校正に使用した。【0029】(実施例1)上述した装置および手順により標準物質の窒素同位体比を測定した。ここでの標準物質としては、NIST(National Institute of Standards and Technology)により定められた硫酸アンモニウム(RM8548:IAEA−N2、RM8550:USGS25)と硝酸カリウム(RM8549:IAEA−N3)とを採用した。これらの物質を脱イオン水に溶かして、1000mg/Lのアンモニウムイオンまたは硝酸イオンを含む試料水溶液とした。各試料水溶液は窒素を0.45mg含む350mlの溶液にして分析に使用した。また、1つの試料水溶液について複数回の測定を行った。【0030】各試料水溶液についての窒素同位体比の測定結果を表1に示す。また、各試料水溶液についてのNISTによる報告値も示す。【0031】【表1】同表に示すように、本実施例による測定値は報告値に良く一致した。したがって、高精度の測定を実現できることが確認された。しかも、異なるレベルのアンモニウムイオンおよび硝酸イオンであっても誤差が±0.12パーミル以下であり、極めて高い再現性を得られることが確認できた。【0032】(実施例2)上述した装置および手順により降水試料の窒素同位体比を測定した。ここでの降水試料は、森林域でウェットオンリー型採取装置(メティック社製)により採取した。各降水試料は分析するまで冷蔵庫に保存した。また、1つの降水試料について複数回の測定を行った。各降水試料についての窒素同位体比の測定結果を表2に示す。【0033】【表2】同表に示すように、本実施例によれば、異なるレベルのアンモニウムイオンおよび硝酸イオンであっても誤差が±0.20パーミル以下であり、極めて高い再現性を得られることが確認できた。【0034】 (実施例3) 上述した装置および手順により標準物質の窒素同位体比を測定した。ここでの標準物質としては、NISTの硫酸アンモニウム(RM8547:IAEA−N1)を採用した。この物質を脱イオン水に溶かして、1000mg/Lのアンモニウムイオンを含む試料水溶液とした。試料水溶液は窒素を種々の量(約0.2〜0.8mg)含む200mlの溶液にして実験に使用した。これらの溶液への0.1mol/Lテトラフェニルホウ酸ナトリウムの添加量を変えることにより、アンモニウムイオンの沈殿率が異なる実験を複数回実施し、それぞれの沈殿率に対して窒素同位体比を求めた。その結果を図2のグラフに示す。【0035】同図に示すように、沈殿率64〜96%の範囲で、窒素同位体比の殆どの値が0.38±0.09パーミルに収まった。したがって、アンモニウムイオンの沈殿率が少なくとも64%あれば、測定に極めて高い再現性が得られることが確認できた。よって、窒素同位体比の高精度な測定を行うために必ずしも100%の沈殿率が必要ではないので、測定作業を簡素化したり迅速化することができる。【0036】ところで、比較例に示すように、試料水溶液中の窒素濃度が約1mg/L以下であるとテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩の沈殿量が不十分になってしまう。この場合、沈殿物の窒素同位体比が試料水溶液の窒素同位体比と異なってしまう可能性(これを同位体分別という)が考えられる。しかし、図2に示す結果から明らかなように、沈殿率によらず窒素同位体比の値がほぼ一定であったので、そのような同位体分別の可能性は殆ど無いことが確認された。【0037】(実施例4)上述した装置および手順により標準物質の窒素同位体比を測定した。ここでの標準物質としては、NISTの硫酸アンモニウム(RM8547:IAEA−N1)を採用した。ここでは、NISTの硫酸アンモニウムのうちで、窒素同位体比の報告値が0.43±0.07パーミルであるものを使用した。この窒素同位体比のものを使用する理由は、地球上の窒素化合物の窒素同位体比の値が通常−15〜+20パーミルの範囲に入ることから当該範囲の中程度に合わせたためである。【0038】この試料水溶液を脱イオン水に溶かして、1000mg/Lのアンモニウムイオンを含む試料水溶液とした。試料水溶液は窒素を約5mg含む200mlの溶液にして実験に使用した。この溶液から生成したテトラフェニルホウ酸アンモニウムの沈殿物から種々の量(約1.0〜3.3mg)の試料を採取して、それぞれについて窒素同位体比を求めた。その結果を図3のグラフに示す。【0039】同図に示すように、テトラフェニルホウ酸アンモニウム塩2.1〜3.3mg(窒素では0.08〜0.14mg)の範囲で、窒素同位体比の殆どの値が0.42±0.12パーミルに収まった。したがって、テトラフェニルホウ酸アンモニウム塩が少なくとも2.1mgあれば、測定に極めて高い再現性が得られることが確認できた。しかも、窒素同位体比の測定値は、試料水溶液として使用したNISTの硫酸アンモニウムの窒素同位体比の報告値とほぼ一致した。【0040】ここで、例えば2.5mg程度のテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を得るためには試料水溶液中にどの位のアンモニウムイオンが必要かを逆算すると、約0.30mg(窒素で0.23mg)となる。よって、窒素同位体比の高精度な測定を行うために必ずしも多量の沈殿物が必要ではなく、その結果、試料水溶液中に多量のアンモニウムイオンが必要ではないので、測定作業を簡素化したり迅速化することができることが判明した。【0041】一方、アンモニウムイオンと硝酸イオンの含有量がより少ない場合、例えば本実施例では窒素が約0.23mg以下のときは、多量の試料水溶液を用いて水分を蒸発させ、約350mlに濃縮することが望ましい。また、多量の試料水溶液の蒸留が可能な大型の蒸留装置を製作して使用することが望ましい。【0042】また、試料水溶液が多量の有機窒素化合物を含む場合には、アンモニアの蒸留の間に有機窒素化合物が分解されアンモニウムイオンが生ずるおそれがある。この場合、試料水溶液を水酸化ナトリウムの代わりに酸化マグネシウムによりアルカリ化して、蒸留することによりアンモニウムイオンを分離することが望ましい。【0043】【発明の効果】以上の説明より明らかなように、請求項1から3までに記載の窒素同位体比の測定方法によれば、沈殿法を用いているので、従来の蒸発法のように全ての水分を蒸発させる必要が無く処理時間を大幅に短縮することができる。【0044】また、硝酸あるいはアンモニアを最終的にテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩として沈殿させて濾過して取り出してるので、従来のように残渣を掻き取って集めたり蒸発で濃縮した水溶液の一部を液体窒素により凍結乾燥する必要が無く作業性が良くなる。【0045】さらに、テトラフェニルホウ酸アンモニウム塩の窒素同位体比を測定しているので、従来の硝酸塩あるいはアンモニウム塩の窒素同位体比を測定する場合に比べて、同じ量の窒素を測定するのであれば質量分析計に測定させる物質の量を多くすることができ、計量が容易になって作業性を高めることができる。【図面の簡単な説明】【図1】本発明の窒素同位体比の測定方法の手順を示すフローチャートである。【図2】テトラフェニルホウ酸アンモニウム塩の沈殿率と窒素同位体比との関係を示すグラフである。【図3】テトラフェニルホウ酸アンモニウム塩の燃焼量と窒素同位体比との関係を示すグラフである。 アンモニウムイオンを含む試料水溶液を蒸留して、前記蒸留により得られたアンモニアを含む水蒸気を凝縮して酸性の溶液に溶かして留出液を得て、前記留出液にテトラフェニルホウ酸ナトリウムを加えてテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を沈殿生成して、このテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を濾過により分離回収して、得られたテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩の窒素同位体比を測定することを特徴とする窒素同位体比の測定方法。 硝酸イオンを含む試料水溶液を還元蒸留して、前記還元蒸留により得られたアンモニアを含む水蒸気を凝縮して酸性の溶液に溶かして留出液を得て、前記留出液にテトラフェニルホウ酸ナトリウムを加えてテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を沈殿生成して、このテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を濾過により分離回収して、得られたテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩の窒素同位体比を測定することを特徴とする窒素同位体比の測定方法。 硝酸イオンおよびアンモニウムイオンを含む試料水溶液を蒸留して、前記蒸留により得られたアンモニアを含む水蒸気を凝縮して酸性の溶液に溶かして留出液を得て、前記留出液にテトラフェニルホウ酸ナトリウムを加えてテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を沈殿生成して、このテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を濾過により分離回収して、得られたテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩の窒素同位体比を測定する一方、前記試料水溶液を蒸留した残りの溶液中の硝酸イオンを還元蒸留して、前記還元蒸留により得られたアンモニアを含む水蒸気を凝縮して酸性の溶液に溶かして留出液を得て、前記留出液にテトラフェニルホウ酸ナトリウムを加えてテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を沈殿生成して、このテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩を濾過により分離回収して、得られたテトラフェニルホウ酸アンモニウム塩の窒素同位体比を測定することを特徴とする窒素同位体比の測定方法。