タイトル: | 特許公報(B2)_新規界面活性剤およびその生産方法 |
出願番号: | 2001037180 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | B01F 17/56,C02F 1/40,C09K 3/32,C12N 1/20,C12R 1/01 |
三浦 彰 飯山 利夫 JP 5210474 特許公報(B2) 20130301 2001037180 20010214 新規界面活性剤およびその生産方法 JX日鉱日石エネルギー株式会社 000004444 藤野 清也 100090941 藤野 清規 100076244 吉見 京子 100113837 後藤 さなえ 100127421 一般財団法人石油エネルギー技術センター 590000455 藤野 清也 100090941 吉見 京子 100113837 藤野 清規 100076244 三浦 彰 飯山 利夫 20130612 B01F 17/56 20060101AFI20130527BHJP C02F 1/40 20060101ALI20130527BHJP C09K 3/32 20060101ALI20130527BHJP C12N 1/20 20060101ALI20130527BHJP C12R 1/01 20060101ALN20130527BHJP JPB01F17/56C02F1/40 DC09K3/32 JC12N1/20 AC12R1:01 B01F 17/56 C02F 1/40 C09K 3/32 C12N 1/20 C12R 1/01 CA/REGISTRY(STN) JSTPlus(JDreamII) 特開昭62−091236(JP,A) 国際公開第99/005392(WO,A1) 4 FERM BP-7406 FERM BP-7407 FERM BP-7408 FERM BP-7409 2002239368 20020827 10 20071129 八次 大二朗 本発明は、油などに対して、優れた乳化性能を有し、海上流出油処理剤などに使用できる界面活性剤、界面活性剤を生産する微生物、およびこの微生物を使用した界面活性剤を生産する方法に関する。 界面活性剤は、洗浄剤、乳化剤、消泡剤などとして、幅広く利用されているが、近年、安全性、環境適合性の高い界面活性剤が求められており、特に、タンカー事故時などに使用される流出油処理剤など、環境中で利用される分野においては、この傾向は強くなっている。 現在、日本国内で販売されている流出油処理剤は、ポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステルなどの生分解性、安全性の比較的高い界面活性剤20〜30%と、溶剤としてノルマルパラフィン70〜80%程度含むものが一般的となっている。しかし、これら流出油処理剤は、処理剤散布時に攪拌を必要とするものであるから、航空機散布し、波力のみによって攪拌させて利用する自己攪拌型には使用できない。自己攪拌型の油処理剤は、欧米では既に使用されているものの、我が国で一般的に使用している油処理剤より毒性の高い点が問題となっており、より安全性が高く、乳化能などの物性面でも優れた界面活性剤が強く求められてきている。 このような、安全性の高い界面活性剤の一つとして、微生物由来の界面活性剤(バイオサーファクタント)が知られている。バイオサーファクタントとしては、アシネトバクター・カルコアセティカスの生産するエマルサン、トロルプシス・ボンビコーラが生産するソホロリピッド、ロドコッカス属の生産するトレハロースリピッドなどが知られているが、実用化されている例としては、ソホロリピッド誘導体が化粧品として利用された例や、エマルサンが、タンカー油槽の洗浄剤に使用された例など、数例に過ぎず、油処理剤などの用途では、物性面および生産コスト面で化学合成品を上回るものは知られていない。発明が解決しようとする課題 したがって、本発明は、流出油処理剤などに使用できる環境負荷の低い新規界面活性剤を提供することを目的とする。 また、本発明は、このような界面活性剤の生産方法及びこの界面活性剤の用途を提供することを目的とする。 さらに、本発明は、このような界面活性剤を産生する微生物を提供することを目的とする。課題を解決するための手段 本発明者等は、微生物の生産する界面活性剤(バイオサーファクタント)が、このような海上に流出した油等の処理等の用途に使用できないか、鋭意検討したところ、土壌等から分離されるGordonia属またはRhodococcus属微生物の生産する界面活性剤が、優れた乳化能を有し、流出油処理剤としても利用できる可能性があることを見出すに至った。さらに、これら微生物の培養条件を検討したところ、ある条件では、多量の界面活性剤を培養液中に蓄積することを見出した。 本発明に用いられる微生物としては、Gordonia属またはRhodococcus 属に属する微生物で、界面活性剤生産能を有するものぶ用いられ、その例として、土壌から採取された、JE1058株、BS481株、BS567株、YT634株などが挙げられる。これら菌株の菌学的性質を表1に示す。これら4株の微生物はいずれも非運動性のグラム陽性不規則桿菌で、カタラーゼ陽性、オキシダーゼ陰性であることから、コリネ型細菌と推定した。そこで、API Coryne system(Bio Merieux社:表1の硝酸塩還元からゼラチン液化までがその結果)により迅速同定を行った結果、いずれもRhodococcus属に属する微生物と同定された。さらに16S rDNA塩基配列分析を実施し、他の微生物との相同性を解析したところ、JE1058株は、Gordonia polyisoprenivoransと 98.58%の最も高い相同性を示した。API Coryne system では、Gordonia属微生物はRhodococcus属として同定されうること(J.Clin.Microbiol. vol35, 3122-3126, 1997)、および16S rDNA塩基配列の相同性解析の結果から、JE1058株については、Gordonia sp.と同定できる。YT634、BS567株の16S rDNA塩基配列は、Rhodococcus fasciansとの相同性がそれぞれ98.8%、99.8%で最も高く、BS481 株の16S rDNA塩基配列はRhodococcus globerulusと99.8%一致していた。これらの結果からYT634、BS481 、BS567 株は Rhodococcus sp.と同定できる。 本発明ではこれらの菌株を通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した。そして、JE1058株はFERM BP-7406、BS481 株はFERM BP-7408、BS567株株はFERM BP-7409、YT634 株はFERM BP-7407として受託番号が付されている。 本発明で示した界面活性剤は、微生物の生育炭素源としてノルマルパラフィンを使用したときに培養液中に蓄積されるもので、例えば次の方法によって回収することができる。まず、本菌株をノルマルパラフィンを含む炭素源、窒素源、無機塩を含む培地で培養し、遠心分離によって菌体等を分離した後、上清に硫安などの塩を飽和になるような濃度添加して、塩析により界面活性剤を析出させる。その後、透析により脱塩したのち、凍結乾燥などの方法で水分を除去する。こののち、回収物に炭素源として添加した.ノルマルパラフィンなどが残存する場合には、ヘキサンで洗浄後、真空乾燥を行ってノルマルパラフィンは除去できる。しかし、油処理剤として使用する場合であれば、ノルマルパラフィンは油処理剤の溶剤として使用できるので、ヘキサン洗浄は必ずしも行わなくてもよい。また、培養液を加熱などにより滅菌した液体、または菌体などを遠心分離や、静置分離などの方法で除去した水溶液の状態でも油処理剤として使用可能である。また、回収品をノルマルパラフィンと混合したものを、油処理剤として使用することができる。 本発明におけるノルマルパラフィンとしては、炭素数11〜18のものを用いることが、添加の容易さ、揮発ロスの低減、経済性等から好ましい。これらのノルマルパラフィンとして、n-ウンデカン、n-ドデカン、n-トリデカン、n-テトラデカン、n-ペンタデカン、n-ヘキサデカン、n-ヘプタデカン、n-オクタデカン等を例示できる。 回収した界面活性剤は、その主な構成成分として糖および脂肪酸を主成分とし、蛋白質を含む場合もある。最も油分散能の高いJE−1058株の生産する界面活性剤では、構成成分として、中性糖、飽和脂肪酸、3−ヒドロキシ脂肪酸が主な構成成分となっているが、これらの組成は、培養条件によって異なる。また、回収した界面活性剤は分子量40万から120万(高速液体クロマトグラフィー法)であること、アルカリ加水分解により脂肪酸が遊離すること、酸分解により糖が遊離することから、本界面活性剤は多糖に脂肪酸がエステル結合した化合物が主成分である。従来ロドコッカス属の生産する界面活性剤としては、トレハロースジコリノミコレートや、スクシノイルトレハロースリピッドなどのトレハロースリピッドが知られている(Antonie Van Leeuwenhoek,vol74,59−70(1998))が、本発明で得られる界面活性剤は既知のトレハロースリピッド類とは異なる化合物である。また、微生物の生産する多糖系界面活性剤としては、アシネトバクター・カルコアセティカスの生産するエマルザンやBSF−217が知られている(特開平3−130073号公報)が、これらも、化学組成および分子量で、本発明での界面活性剤とは異なる化合物である。 本発明によって生産される界面活性剤は、洗浄剤、乳化剤など、界面活性剤として各種用途に利用可能である。その中でも特に、流出油処理剤として使用した場合、非常に高い能力を発揮する。とくに、自己攪拌型の油処理剤としてMDPC法(油防除資機材の性能の評価および再評価に関する調査研究報告書III、海上災害防止センター、平成12年3月)により分散能の評価をおこなったところ、非常に高い重油分散能を示すことが明らかとなった。発明の効果 本発明により、流出油油処理剤などの用途で有用な微生物由来の界面活性剤、およびその生産微生物が提供される。また、界面活性剤を成分とする油処理剤が提供される。 次に実施例により本発明を説明する。 各種の土壌から分離した菌の培養液を希釈し、重油を添加した後、試験管ミキサーで20秒間撹拌し、静置後の水層の濁度を測定し、濁度の高いものについて、高い重油乳化能を有する菌株として選択した。選択された微生物について、フラスコ中、30℃、160rpmの振とう数で酵母エキス1g/L、ノルマルテトラデカン1容積%含む培地中、4日間培養し、得られた培養液50mL、JIS2510(潤滑油さび止め性能試験法)に規定された人工海水500mL、C重油(JIS K2205 規格3種1号に適合するもの)1gを添加し、横揺れ振とう法での自己攪拌型油処理剤としての能力を室温(25℃)条件で分散率を測定した。結果を表2に示す。 なお、分散率は次の方法により測定した。 分液ロートに人工海水550 ml(実施例1では培養液を含む)を添加後、試験油を1g加えたのち、30分、35往復、振幅40mmで水平方向に寝かせて振とうする。振とう後、分液ロートを立て、10分間静置後、分液ロート下部より100mlの乳化層を取る。乳化層を塩化メチレン20mlで3回抽出し、5mlのイソプロパノールを加え、さらに塩化メチレンを加えて全量を100mlとした抽出液の、波長580nm による吸光度を測定する。そして、あらかじめ試験油により作成した検量線により、抽出液中の油分量を求め、次式により分散率を求める。分散率(%)=(抽出液中の油分量(g)/分液ロートに加えた試験油の全量(g))×550上記に示した高い乳化能を示す菌株を上記条件で4日間培養した培養液から、界面活性剤成分の回収を行った。JE1058株の培養液については、培養液1Lしに硫酸アンモニウム472gを添加して、界面活性成分を塩析した後、析出物を透析膜中、2日間室温で流水中に晒すことで、透析による脱塩をし、凍結乾燥した。 YT634 株、BS481株、BS567 株の培養液については、硫酸アンモニウムでの塩析後、析出物をヘキサン洗浄した後、上記と同様に透析による脱塩、凍結乾燥を行った。 上記回収物を、ノルマルパラフィンを4%含むC重油と混合し、横揺れ振とう法での自己撹拌型油処理剤評価試験を室温条件で実施した。C重油に対する濃度(重量%)、および分散率を表3に示す。また市販油処理剤(カクタスクリーンL10-A、株式会社テスコ)、特開平9-296162号公報の表1実施例1に示した成分に調製した高粘度型油処理剤を、C重油に対してそれぞれ4%混合した条件と比較したところ、JE1058株からの回収物については対C重油1%添加で、その他の菌株からの回収物については、対重油4〜10%添加で、高粘度油処理剤を上回る分散率を示した。 JE1058株について、グルタミン酸1ナトリウム20g/L、酵母エキス10g/L、表4に示した各種ノルマルパラフィン20容積%含む培地50mLに一白金耳植菌し、500mL 坂口フラスコ中、30℃、160 回転/分の条件で7日間培養を行った。遠心分離により、菌体およびノルマルパラフィンと、水層とを分離後、水層に硫酸アンモニウムを添加し塩析により界面活性剤を析出させ、遠心分離後、界面活性剤を回収した。回収物を、透析、凍結乾燥、さらに、ノルマルヘキサンにより洗浄後、真空乾燥を行い、培地100mLから表4に示す量の界面活性剤を回収した。この回収した界面活性剤について、実施例2と同様の方法で、4%のノルマルパラフィンを含むC重油に対し、1%の界面活性剤を添加し、分散率を測定した。その結果を表4に示す。 培地中のノルマルパラフィンとしてn−テトラデカンを使用し、実施例3に示した方法で培養液から回収したJE1058株の界面活性剤の組成分析を行った。糖の組成分析として、中性糖についてはオルシノール硫酸法、ウロン酸についてはカルバゾール法、アミノ糖はElson-Morgan法を用いて分析した。その結果、本界面活性剤は、重量比で、中性糖34.5%、ウロン酸4.9%、アミノ糖0.5%を含んでいた。 さらに、JE1058株の培養液から回収した界面活性剤を2Nトリフルオロ酢酸中、100℃で6時間加水分解し、減圧乾固後、乾固物を純水に溶解し、ポストラベル蛍光検出法によるHPLC分析を行った。HPLC測定条件は、カラムTSK-gel suger AXG15cm×4.6mm I.D.(東ソー)、カラム温度70℃、移動相0.5Mホウ酸カリウム緩衝液pH8.7、流速0.4mL/minとし、ポストカラム標識として、反応試薬1%アルギニン/3%ホウ酸を用い、反応温度150℃、検出波長 EX320nm、EM430nmにて測定した。 各種中性糖の検量線から、JE1058株の界面活性剤に含まれる中性糖の含量を測定した結果、ラムノース0.4%、マンノース1.9%、ガラクトース6.7%、グルコース23.1%(いずれも重量比)が含まれていた。 また、本界面活性剤を5%塩酸・メタノール中、100℃にて3時間加熱し、ヘキサン抽出により得られた画分をガスクロマトグラフィーにより分析した。その結果、本界面活性剤は脂肪酸として、n−オクタン酸2.1%、n−デカン酸3.8%、3−ヒドロキシデカン酸2.8%、3−ヒドロキシドデカン酸6.9%(いずれも重量%)を含んでいることがわかった。また、本界面活性剤をカラムとしてTSK−gelG6000PWXL(東ソー(株))を用いて、ゲルろ過高速液体クロマトグラフィーを用いて分子量分析を行った。このとき、展開溶剤は0.1Mリン酸水素2ナトリウム水溶液、標準物質として、ポリエチレンオキシドを使用した。その結果、本界面活性剤は、分子量100万であった。 実施例2で示した方法により培養液から回収したJE1058株の界面活性剤を用いて、排出油防除資材の性能試験基準(昭和59年運輸省舶査第52号)に定める方法に従い、油処理剤としての乳化率を測定した。ただし、用いる油として、基準ではJISK2205の規定する重油のうち規格2種、すなわちB重油を使用することになっているが、本実施例では、B重油より粘度が高く、乳化し難いC重油を使用した。また、油処理剤添加量は上記基準では「B重油10mlに対し、油処理剤を2ml添加して混合油とする」となっているところを、「C重油10gに対し、ノルマルパラフィン0.4g、回収した界面活性剤0.1g添加して混合油」とし、抽出溶媒としては四塩化炭素のかわりに、ジクロロメタンを使用した。その結果、判定基準では、乳化率が静置開始後30秒で60%以上、10分で20%以上が合格とされるのに対し、杢界面活性剤を使用すると、乳化率は静置開始後30秒で91.2%、10分で70.5%と、判定基準を上回る乳化率を示した。 ゴルドニア(Gordonia)属または、ロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物を用いて生産され、高速液体クロマトグラフィー法による分子量が40万から120万であって、多糖に脂肪酸がエステル結合した化合物を構成成分とし、油の分散性を有する界面活性剤。 ゴルドニア属またはロドコッカス属に属し、油の分散性を有する界面活性剤生産菌を、生育炭素源としてノルマルパラフィンを含有する生産培地に接種して培養し、高速液体クロマトグラフィー法による分子量が40万から120万であって、多糖に脂肪酸がエステル結合した化合物を構成成分とする界面活性剤を培養液中に産生せしめ、これを培養液から回収することを特徴とする高速液体クロマトグラフィー法による分子量が40万から120万であって、多糖に脂肪酸がエステル結合した化合物を構成成分とし、油の分散性を有する界面活性剤の生産方法。 請求項1記載の界面活性剤を有効成分として含有する海上流出油処理剤。 高速液体クロマトグラフィー法による分子量が40万から120万であって、多糖に脂肪酸がエステル結合した化合物を構成成分とし、油の分散性を有する界面活性剤産生能を有するGordonia sp.JE1058(FERM BP−7406)、Rhodococcus sp.YT634(FERM BP−7407)、Rhodococcus sp.BS481(FERM BP−7408)またはRhodococcus sp.BS567(FERM BP−7409)。