タイトル: | 特許公報(B2)_セルロースの液相接触変換方法およびレボグルコセノンの製造方法 |
出願番号: | 2001000066 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C07D 493/04 |
河本 晴雄 JP 4362237 特許公報(B2) 20090821 2001000066 20010104 セルロースの液相接触変換方法およびレボグルコセノンの製造方法 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 西澤 利夫 100093230 河本 晴雄 20091111 C07D 493/04 20060101AFI20091022BHJP JPC07D493/04 106A C07C 45/60 C07C 47/12 C07D 307/50 C07D 493/04 C07H 3/08 C07H 15/203 JSTPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) 特開昭55−053280(JP,A) 米国特許第03926947(US,A) 特開平02−101093(JP,A) 特開平01−224386(JP,A) 特公昭35−018370(JP,B1) 6 2002205970 20020723 6 20050715 特許法第30条第1項適用 2000年7月1日 セルロース学会第7回年次大会運営委員会発行の「セルロース学会第7回年次大会 2000 Cellulose R&D 講演要旨集」に発表 井上 千弥子 【0001】【発明の属する技術分野】この出願の発明は、セルロースの液相接触変換方法およびレボグルコセノンの製造方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、樹木、古紙、あるいは木綿等の天然繊維に含有されているセルロースを液相可溶化して有用ケミカルスへ高効率で選択的に変換することのできる、新しい液相接触変換方法およびレボグルコセノンの製造方法に関するものである。【0002】【従来の技術と発明の課題】セルロースは、樹木の主要構成成分であって、グルコースの直鎖状ポリマーとして剛直な高結晶性高分子であることが知られている。セルロースは、樹木には約50%程度含まれており、残りはヘミセルロース(25%)、リグニン(25%)である。また、セルロースは、その純度の高い廃棄物として、古紙や、木綿などの天然繊維として多量に存在している。【0003】しかしながら、樹木をはじめ、これらの廃棄物に存在するセルロースは、重要な資源であることは認識されているものの、これを有効に利用すること、特に、医薬、農薬、医療材料、樹脂等の製造のための有用ケミカルス(化学品)として利用することはほとんど実現されていない。【0004】このことは、高分子で固体であるセルロースを選択的に低分子化することが容易でないことに大きな理由がある。もちろん、セルロースについては、従来より、酸加水分解、酵素セルラーゼによる加水分解によって繰り返し単位のグルコースにまで低分子化できることが知られているが、セルロースが高結晶性であるが故に、試薬や酵素のアクセスビリティが低く、これらの手法を含む化学および生化学的手法でのセルロースの効率的な低分子化は一般的に困難である。【0005】このような背景から、この出願の発明者は、セルロースの効率的で選択的な低分子化についてその可能性を鋭意検討してきた。その結果として固体物質のセルロースをスルホラン等の非プロトン性極性溶媒中で熱分解を行うことにより、セルロースを溶媒可溶化物質に変換することを可能とした。そして、この溶媒可溶化物質は、糖の一種としてのレボグルコサンであることも確認している。【0006】しかしながら、発明者のその後の検討によれば、上記方法により生成されたレボグルコサンは不安定な物質であって、熱分解の反応操作や可溶化状態、さらにはレボグルコサンそのものの取扱いが必ずしも容易でなく、効率的に、かつ選択的に、実際的な有用ケミカルスへ導くことが難しいという問題が見出されていた。【0007】 そこで、この出願の発明は、以上のとおりの問題点を解消し、簡便な反応操作で、しかもより効率的に、かつ選択的に、セルロースを有用ケミカルスに変換することのできる、改善された新しい方法およびレボグルコセノンの製造方法を提供することを課題としている。【0008】【課題を解決するための手段】この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、セルロースまたは主としてセルロース含有のセルロース物質を、非プロトン性極性溶媒中において、酸の存在下に加熱して、セルロースをレボグルコセノンに変換することを特徴とするセルロースの液相接触変換方法を提供する。【0009】 また、この出願の発明は、上記方法について、第2には、酸が、ポリリン酸であることを特徴とする液相接触変換方法を提供し、第3には、非プロトン性極性溶媒の沸点以下の温度において加熱することを特徴とする液相接触変換方法を提供する。【0010】さらに、この出願の発明は、第4には、セルロースまたは主としてセルロース含有のセルロース物質を、非プロトン性極性溶媒中において、酸の存在下に加熱して、セルロースからレボグルコセノンを製造することを特徴とするレボグルコセノンの製造方法を、第5には、酸が、ポリリン酸であることを特徴とするレボグルコセノンの製造方法を、第6には、非プロトン性極性溶媒の沸点以下の温度において加熱することを特徴とするレボグルコセノンの製造方法を提供する。【0011】【発明の実施の形態】この出願の発明は、上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。【0012】この出願の発明においては、非プロトン性極性溶媒中においてセルロース、または、主としてセルロース含有のセルロース物質を加熱するが、この場合の非プロトン性極性溶媒としては、たとえば、アセトン、メチルエチルケトン。DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、スルホラン等が例として挙げられる。プロトン性の極性溶媒、そして非極性のベンゼン、ヘキサン等の溶媒はこの発明においては有効ではない。【0013】上記の非プロトン性極性溶媒は、1種でもよいし、2種以上の混合溶媒として使用してもよい。【0014】これら溶媒中で加熱処理するための対象物はセルロース、あるいは主としてセルロース含有の物質である。主としてセルロース含有の物質としては、樹木や、古紙、天然繊維等の廃棄物であってもよい。このようなセルロースや主としてセルロース含有の物質は、固形物として用いられることになるが、反応処理効率や、取扱いの容易さ等の観点からは、粉末や細片状とするのが望ましい。より好ましくは、数ミリメートル以下の大きさとして用いることである。【0015】前記の溶媒に対してのこのようなセルロースや主としてセルロース含有の物質の割合については、濃度として、通常は、1g/ml以下とするのが望ましい。一般的には、1g/mlを超えた濃度では、炭化物が生成するおそれがある。【0016】非プロトン性極性溶媒中での加熱反応においては、この出願の発明では、酸を存在させることを特徴とし、かつ必須としている。【0017】酸は、酸性脱水触媒として機能するものと考えられるが、通常は、無機酸、たとえば、硫酸、リン酸、ポリリン酸、WやMo、V等との複合リン酸、ホウ酸等がその例として挙げられる。【0018】これらの酸は、この発明の方法での加熱においては消失することはなく、また、前記の溶媒についても同様とする。【0019】使用する酸の種類に応じて、加熱反応の条件については適宜に設定すればよい。たとえば、ホウ酸を使用する場合には、炭化反応が促進される傾向にあることから、反応温度をより低く設定するなどの変更も考慮される。【0020】酸の使用量についても、それらの繊維や加熱温度、さらには可溶化物質の種類や組成に応じて定めることができる。たとえば、一般的にはその濃度として10%以下、さらには5%以下とすること、より具体的には、0.5〜5%程度とすることが望ましい。【0021】反応温度も、たとえば、150℃〜320℃、より好ましくは200℃〜300℃程度の範囲である。【0022】加熱反応は、通常は常圧(大気圧)で行われてよいが、加圧下でも問題は生じない。また、雰囲気は、窒素やアルゴン等の不活性ガス中とすることが好ましい。【0023】この出願の発明の方法においては、生成された溶媒可溶性の物質としては、酸を使用しない場合にその生成が確認されるレボグルコサン(LG)は見出されない。本質的に、LGとは別異な低分子物質が生成されることになる。【0024】使用する酸の種類、そして反応条件の選択によって相違があるものの、この発明の方法においては、有用ケミカルスとして、低分子のカルボニル化合物を、効率的に、しかも選択的に生成させることができる。たとえば、酸としてポリリン酸を使用することによって、レボグルコセノンを選択的に生成させることができ、硫酸を使用することによって、フルフラールを選択的に生成させることができる。【0025】そこで、以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん、以下の例によってこの出願の発明が限定されることはない。【0026】【実施例】セルロース粉末(東洋濾紙製、セルロースA)20mgを、1%の酸を含むスルホラン2.0ml中に分散させ、N2 雰囲気下、常圧において、200〜280℃で熱分解反応を行い、反応溶液のHPLC分析を行った。【0027】酸として、ポリリン酸および硫酸を用いた場合、各々について、酸を用いない場合よりも著しく短い時間で、セルロースは完全に可溶化し、褐色の溶液が得られた。【0028】次の表1に示したように、【0029】【表1】【0030】1%ポリリン酸の場合、200℃、240℃のいずれの反応温度においても、19.8モル%の収率で、ほぼ特異的にレボグルコセノンのみが得られた。生成されたレボグルコセノンは、糖誘導体の合成シントンとして医薬品の合成等において有用な、しかも高価な化合物である。【0031】一方、1%硫酸の場合には、280℃の温度12分の条件で、モル収率17.5%でフルフラールを得た。【0032】これは、酸を使用しない場合の、実に38.6倍の生成倍率である。【0033】フルフラールは、樹脂原料等として各方面で利用されている有用化合物である。【0034】【発明の効果】以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、簡便な反応操作で、効率的に、かつ、選択的に、有用ケミカルスの生成を可能とするセルロースの交換方法およびレボグルコセノンの製造方法が提供される。 セルロースまたは主としてセルロース含有のセルロース物質を、非プロトン性極性溶媒中において、酸の存在下に加熱して、セルロースをレボグルコセノンに変換することを特徴とするセルロースの液相接触変換方法。 酸が、ポリリン酸であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースの液相接触変換方法。 非プロトン性極性溶媒の沸点以下の温度において加熱することを特徴とする請求項1または2の液相接触変換方法。 セルロースまたは主としてセルロース含有のセルロース物質を、非プロトン性極性溶媒中において、酸の存在下に加熱して、セルロースからレボグルコセノンを製造することを特徴とするレボグルコセノンの製造方法。 酸が、ポリリン酸であることを特徴とする請求項4のレボグルコセノンの製造方法。 非プロトン性極性溶媒の沸点以下の温度において加熱することを特徴とする請求項4または5のレボグルコセノンの製造方法。