タイトル: | 特許公報(B2)_大豆7Sグロブリンと11Sグロブリンの分画および製造法 |
出願番号: | 2000608771 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,A23J3/16,A23J3/34,C12P21/06 |
齋藤 努 津村 和伸 釘宮 渉 河野 光登 JP 3649126 特許公報(B2) 20050225 2000608771 20000330 大豆7Sグロブリンと11Sグロブリンの分画および製造法 不二製油株式会社 000236768 青山 葆 100062144 田中 光雄 100081422 齋藤 努 津村 和伸 釘宮 渉 河野 光登 JP 1999089834 19990330 20050518 7 A23J3/16 A23J3/34 C12P21/06 JP A23J3/16 A23J3/34 C12P21/06 7 A23J 3/16 A23J 3/34 C12P 21/06 BIOSIS/WPI(DIALOG) CA(STN) REGISTRY(STN) 特開昭61−187755(JP,A) 特開昭48−18450(JP,A) 特開昭51−125300(JP,A) 特開2001−69920(JP,A) Biosci.Biotechnol.Biochem.,Vol.65,No.4(2001)p.884-887 4 JP2000002051 20000330 WO2000058492 20001005 12 20020606 高堀 栄二 技術分野本発明は、大豆蛋白を含む溶液から7Sグロブリンに富んだ画分と11Sグロブリンに富んだ画分を分画および製造する方法に関する。背景技術大豆の貯蔵蛋白は、pH4.5付近で沈殿し、比較的簡単に蛋白以外の成分と分けることができる。これは大豆分離蛋白といわれ、食品工業における利用は多くこの形でなされる。蛋白はさらに超遠心分析による沈降定数から、2S、7S、11S、15Sの各グロブリンに分類される。このうち、7Sグロブリンと11Sグロブリンはグロブリン画分の主要な構成蛋白成分(注: 7Sグロブリン、11Sグロブリンは沈降法による分類名であり、免疫学的命名法にいうβ- コングリシニン、グリシニンに実質的に相当する。)であり、この両者は粘性・凝固性・界面活性等において特異的な異なる性質を有する。したがって、7Sグロブリンと11Sグロブリンに分画することにより両蛋白の性質を利用することが可能となり、産業における蛋白利用分野の拡大が期待できる。7Sグロブリン、11Sグロブリンは幾つかのサブユニットからなり、7Sグロブリンはα、α' 、βの3種類のサブユニット、11Sグロブリンは酸性ポリペプチド(A)と塩基性ポリペプチド(B)を一対とした数種のサブユニットからなっている。7Sグロブリンと11Sグロブリンの性質は、分子量も荷電の状態もよく似ている。特に、両グロブリンはサブユニットの組み合わせにより多様性を持つ蛋白で、これらの性質はある程度幅があり、相互にオーバーラップしている。したがって、両者を有効に分離するには、何らかの本質的な違いを見つけなければならない。従来から知られている分画法を以下に示す。すなわち、等電点の違いを利用するもの:抽出pHを11Sグロブリンの等電点近傍で行い、7Sグロブリンのみを抽出させる方法(特開昭55-124457号公報)。カルシウムとの反応性の違いを利用するもの:抽出時に少量のカルシウム塩を添加、7Sグロブリンに富む画分を抽出させる方法(特開昭48-56843号公報)。pH・イオン強度での溶解性の違いを利用する方法:pH1.2〜4.0の塩化ナトリウムまたは塩化カリウム存在下で不溶性区分を除去して7S蛋白を製造する方法(特開昭49-31843号公報)、等電点沈殿したスラリーをpH5.0〜5.6に調整し、かつ塩化ナトリウム濃度を0.01〜0.2Mのモル濃度に調整して、7S、11S画分を分離する方法(特開昭58-36345号公報)。冷沈現象と還元剤等を利用するもの:11Sグロブリンが低温下では溶解性が低下する現象(冷沈現象とよぶ)を利用したもので、大豆蛋白原料を亜硫酸化合物、グルタチオン化合物、またはシステイン化合物の存在下、かつpH6.5以上の水系下処理しpH5.5〜7.0かつ20℃以下の範囲に調整して7Sグロブリンに富んだ可溶性画分と11Sグロブリンに富んだ不溶性画分に分画する方法(特開昭61-187755号公報)。これら従来から知られている分画方法は、7Sグロブリンと11SグロブリンのpH、イオン強度、ある種の塩の存在、温度等による溶解性の違いをたくみに利用した技術であるが、上述のように両者の性質がオーバーラップしているため明確な分画を示さない、あるいはある程度明確な分画を示しても実験室的方法の域を免れず、工業的な分画法としては不適当であるという問題点があり、実用面で問題を残していた。例えば、特開昭61-187755号公報の方法では、冷沈現象は温度に強く依存するため5℃程度まで冷却する必要があり、工業的な低い遠心力で分離するには大量の亜硫酸化合物など添加を要するという実用面での問題と、可溶性画分への11Sグロブリンの混入が少なからずあるという分画精度面での問題を残していた。したがって、可溶性および不溶性各画分への相互の混入率が少なく、かつ簡便に効率よく工業規模での製造が行える7Sグロブリンに富んだ画分と11Sグロブリンに富んだ画分の分画法の開発が望まれていた。一方、フィチン酸は植物種子中に多く存在する有機リン酸化合物(ミオ- イノシトール- 6リン酸:イノシトールに6つのリン酸基が結合)で、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩の形で存在する。大豆には約1%のリンが含まれているが、その大部分はフィチン態として存在している。フィチン酸は栄養上重要なミネラル成分(カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛など)とキレート結合して難溶解性の化合物を形成するので、生体中でこれらの微量金属の吸収を低下させることが指摘されている。また、蛋白および多価の金属陽イオンと複合体を形成する傾向にあり、通常大豆蛋白は蛋白重量あたり1〜3重量%のフィチン酸を含んでいる。ここで、フィチン酸分解活性とはフィチン酸からリン酸を遊離させる活性のことであり、その代表的な酵素としてフィターゼがあげられる。大豆蛋白へのフィチン酸分解活性を有する酵素であるフィターゼの利用は、ミネラル吸収阻害物質と見なされるフィチン酸の除去を目的としたものと酸性下(pH5以下)で高溶解性の蛋白を回収することを目的としたものに大別される。前者では特開昭49-7300 号公報、特開昭50-130800 号公報、特開平4-503002号公報が公開されている。後者ではフィチン含有大豆蛋白物質の水性懸濁液にフィターゼを添加してフィチンを分解し、この懸濁液のpHを約4.6に調節して不溶性沈殿物を形成させ、蛋白溶液を採取し、この蛋白溶液のpHを約5.0ないし5.4に調節して蛋白画分を沈殿させ、そして沈殿した蛋白画分を採取することからなるフィチン酸含有蛋白物質から溶性蛋白画分を単離する方法(特開昭48-18450号公報)、植物性蛋白質原料を等電点で水で洗い、この洗浄植物性蛋白質原料を酸性フィターゼで消化し、可溶性蛋白質を含有する液体抽出物を不溶の消化残渣より分けることにより、植物性蛋白原料より蛋白質を採取する方法(特開昭51-125300 号公報)が公開されている。フィターゼを作用させる条件は次の通り(何れも実施例より抜粋)。特開昭49-7300 号公報:内在性フィターゼ、pH5、65℃、9.3時間、特開昭50-130800 号公報:小麦フィターゼ、pH5.5、45℃、16時間、特開平4-503002号公報:微生物フィターゼ、pH5.0、40℃、4時間、特開昭48-18450号公報:小麦フィターゼ、pH6、50〜55℃、24時間、特開昭51-125300 号公報:微生物フィターゼ、pH2.8、50℃、10時間である。一般に細菌はpH5以上で発育しやすいため、加熱殺菌などの殺菌処理を施していない通常の大豆蛋白を含む溶液は腐敗しやすい。したがってpH5以上での長時間作用は避けなければならない。また、pH2.8のような強酸性下での長時間作用は蛋白が酸変性しやすいため、7Sグロブリンと11Sグロブリンの分画に悪影響を及ぼす。また、特開昭51-125300 号公報ではフィターゼ作用後、溶解した画分をオカラ成分と分画するものであり、7Sグロブリンと11Sグロブリンの分画を促進することを教えていない。発明の目的本発明の目的は、酵素を利用するという7Sグロブリンと11Sグロブリンの新規な分画および製造法を提案するとともに、相互の混入率が少ない分画精度の高い分画法、かつ簡便に効率よく工業規模での製造が行える分画法を提供することである。発明の概要本発明者らは、鋭意検討の結果以下のことを見出した。大豆蛋白を含む溶液に、あるpHでフィチン酸分解活性を有する酵素であるフィターゼを作用させ、7Sグロブリンと11Sグロブリンの分解性が向上することを発見した。さらに、大豆蛋白を含む溶液にフィチン酸分解活性を有する酵素または酵素剤を作用させ、含有するフィチン酸およびその塩を分解し、かつ適切なpH範囲で分離することにより、室温下かつ還元剤等の添加なく7Sグロブリンに富んだ画分を可溶性画分に、11Sグロブリンに富んだ画分を不溶性画分に相互にオーバーラップなく簡便に移行させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。この現象のメカニズムについては推測の域をでないが、フィターゼを作用させ蛋白及び多価の金属イオンと複合体を形成するフィチン酸およびその塩を分解することにより7Sグロブリンと11Sグロブリンの溶解挙動に変化が生じた結果、特定のpHでその差が大きくなり分画が可能になったものと考えられる。本発明は、大豆蛋白を含む溶液にフィチン酸分解活性を有する酵素または酵素剤を作用させ、特定のpHで可溶性画分と不溶性画分に分離することを特徴とする、7Sグロブリンに富んだ画分と11Sグロブリンに富んだ画分に分画および製造する方法である。発明の詳細な説明以下に本発明の好ましい態様を記載する。本発明に用いる大豆蛋白は、水不溶性残渣(オカラ)を除去したものが好ましく、豆乳(乾燥粉末も含む)、分離大豆蛋白などであって、蛋白が未変性もしくは低変性であること、つまり蛋白変性を伴わない、もしくは蛋白変性が軽度の加工処理にとどめた大豆蛋白であるのがよい。一般的には、n-ヘキサンを抽出溶剤として低温抽出を行った脱脂大豆が出発原料として適当であり、特にNSI (窒素可溶係数)が60以上、好ましくは80以上の低変性脱脂大豆が好ましい。このような低変性脱脂大豆から水不溶性残渣を除去した脱脂豆乳や、分離大豆蛋白が本発明に好適に用いられる。また、その製造工程(抽出工程、pH調整の工程など)おいても可及的に加熱や過酷な条件(強酸性、強アルカリ性など)等による蛋白変性を避けることが好ましく、加熱殺菌工程も避けるのが好ましい。このようにして得られる未変性もしくは低変性である大豆蛋白を含む溶液中のフィチン酸含量は通常蛋白重量あたり1〜3%である。大豆蛋白を含む溶液中の蛋白が加熱などにより変性を受けているか否かは、蛋白質のDSC(Differential Scanning Calorimetry )分析することにより判別することができる(Nagano et al.,J.Agric.Food Chem.,40,941-944(1992))。この分析方法によれば、例えば、未変性の分離大豆蛋白の場合、その主要構成成分である7Sグロブリン、11Sグロブリンに由来するそれぞれの吸熱ピークが認められるのに対して、過度の変性を受けている分離大豆蛋白の場合ではそれらの吸熱ピークが認められないので、変性の有無を容易に判別できる。本発明に使用するフィチン酸分解活性を有する酵素または酵素剤は、特に限定されず小麦や馬鈴薯等の植物に由来する酵素や腸管等の動物臓器に由来する酵素、細菌、酵母、カビ、放射菌など微生物由来の酵素でフィチン酸分解活性を有するフィターゼやホスファターゼ等の酵素を用いることができる。ただし、使用する酵素または酵素剤はプロテーゼ活性がない、もしくは低いことが望ましい。なぜなら、7Sグロブリン、11Sグロブリンがプロテアーゼにより加水分解されることにより、溶解挙動など性状に変化をきたし分画が阻害されるばかりでなく、7Sグロブリンおよび11Sグロブリンとして蛋白を回収できなくなることにつながるためである。例えば、プロテアーゼによる蛋白加水分解がない、もしくは低い態様は作用後の大豆蛋白のTCA可溶化率が20%以下好ましくは15%以下と規定することができる。ここで、TCA可溶化率とは全蛋白に対する0.22M トリクロロ酢酸(TCA)可溶性蛋白の割合をケルダール法、ローリー法等の蛋白定量法により測定したもので、分解率の尺度として用いられる。一般的に、微生物由来のフィチン酸分解活性を有する酵素または酵素剤の方が、植物由来のものに比べフィチン酸分解活性が高く、かつ、より共存するプロテアーゼ活性が低いことから蛋白の加水分解や腐敗を防ぐ上で利点が多い。本発明の実施に際して、7Sグロブリンに富んだ画分と11Sグロブリンに富んだ画分に分画するためには、大豆蛋白を含む溶液にフィチン酸分解活性を有する酵素または酵素剤を作用させ、含有するフィチン酸およびその塩を分解せしめることが必要である。フィチン酸およびその塩の分解程度は厳密に規定されないが、例えばフィチン酸含量を反応前の約50%以上に分解せしめるとよい。したがって、上記条件を満たせばフィチン酸分解活性を有する酵素または酵素剤の作用条件は各々の至適条件で作用させることができ、特に限定されない。また、作用方法も同じく限定されない。ただし、過酷な条件にさらすことによる蛋白の変性と長時間作用による腐敗を避けるために、pH3.5〜9.0、温度20〜70℃、5分間〜3時間の範囲内が好ましいが、蛋白の変性と腐敗が避ける他の手段が講じられるときは上記範囲外で作用させることに差し支えはない。例えば、低変性脱脂大豆を水抽出し、水不溶性画分(オカラ)と水溶性画分(豆乳)に分離し、該水溶性画分をpH3.5〜9.0、作用温度を20〜70℃においてフィチン酸分解作用を行う。フィチン酸分解活性を有する酵素または酵素剤は該水溶性画分をpH3.5〜9.0に調整したのち、該水溶性画分の蛋白重量に対して、0.1〜100unit/g、好ましくは0.5〜50unit/gの範囲で添加し、通常5分間〜3時間作用させれば良い。なるべく短時間で処理する必要があるなら、高いunitの酵素添加量で作用させればよい。なお、1unitのフィターゼ活性はpH5.5、37℃の下で、反応初期の1分間に基質のフィチン酸から1μmol のリン酸を遊離する酵素量を表す。フィチン酸およびその塩の分解の程度は、溶液中のフィチン酸含量を直接測定することにより求めた。フィチン酸含量の測定はAIii Mohamedの方法(Cereal Chemistry 63, 475,1980)に準拠して行った。フィチン酸分解活性を有する酵素または酵素剤を作用させた後の大豆蛋白を含む溶液をpH5.6〜6.6、好ましくはpH5.8〜6.4に調整すれば7Sグロブリンに富んだ画分と11Sグロブリンに富んだ画分の分離が容易になる。この際、分離時の温度および還元剤添加の要不要は問わないので、特開昭61-187755 号公報の如く冷却工程(冷沈)することなく、かつ亜硫酸化合物、グルタチオン化合物、またはシステイン化合物を添加することなく分離できるので工業的には有効である。ただし、pHが5.6未満では不溶性画分への7Sグロブリンの混入が多くなり、逆にpHが6.6を越えると可溶性画分への11Sグロブリンの混入が多くなり良好な分画が行えない。好ましくは、大豆蛋白を含む溶液の酵素処理をpH5.6〜6.6、より好ましくはpH5.8〜6.4で行えば、pHの再調整なしで分離が行えるので一層効率がよい。分離の手段は、公知の分離手段(ろ別、遠心分離等)、特に連続式遠心分離機(例えばデカンター)等を用いても容易に分離することができる。むろんバッチ式等の非連続式遠心分離機の使用を妨げるものではない。本発明による7Sグロブリンに富んだ画分と11Sグロブリンに富んだ画分の分画状態は、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で得られたパターンで評価できる。また、不溶性画分と可溶性画分の7Sグロブリンと11Sグロブリンの存在量を数値化するため、不溶性画分と可溶性画分の蛋白回収率とSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で得られたパターンのデンシトメトリーによる面積比に基づき算出した。ここでいう7Sグロブリン含量はα、α' 、βサブユニットの総量を指し、11Sグロブリン含量は酸性ポリペプチド(A)と塩基性ポリペプチド(B)の総量を指す。分離後の可溶性画分および不溶性画分は、それぞれこのまま、あるいは濃縮して、あるいは中和して、あるいは乾燥して、7Sグロブリンに富んだ画分、11Sグロブリンに富んだ画分として用いることができる。濃縮手段として、可溶性画分を等電点沈殿(pH4.5〜5.3、好ましくはpH4.7〜5.1)させて沈殿カードを分離回収する方法は物性を向上する上で好ましく、また等電点沈殿の後中和、加熱殺菌処理し、あるいはさらにプロテアーゼ等を用いた酵素処理することもできる。殺菌、乾燥した形態が最も通常である。加熱殺菌処理は公知のHTST、UHT処理等で行うことができる。以下、実施例により本発明の実施態様を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によってその技術範囲が限定されるものではない。実施例1大豆を圧扁し、n-ヘキサンを抽出溶媒として油を抽出分離除去して得られた低変性脱脂大豆(窒素可溶指数:NSI 91)1重量部に7重量部の水を加え、室温、pH7において1時間抽出後、遠心分離し、脱脂豆乳を得た。この脱脂豆乳を塩酸にてpH6.2に調整後、40℃になるように加温した。この溶液(フィチン酸含量2.20%/蛋白重量、TCA 可溶化率8.6%)に蛋白重量あたり8unit相当のフィターゼ(ノボ社製「PHYTASE NOVO L」)を加え、30分間酵素作用を行った。反応後pH6.2のままこの酵素作用物(フィチン酸含量0.05%/蛋白重量、TCA 可溶化率は実質的に変動なし。)をバッチ式遠心分離機(2,000 G)で遠心分離し、不溶性画分および可溶性画分を得た。このとき不溶性画分と可溶性画分は明確に分離した。なお、この遠心分離時の溶液温度は約30℃付近であった。不溶性画分は加水(2重量部)し、苛性ソーダで中和した。一方、可溶性画分は塩酸にてpH4.8に調整後、遠心分離してホエー画分を除き、沈殿カードを得た。沈殿カードは加水(2重量部)し、苛性ソーダで中和した。各々中和した画分を140℃15秒間殺菌し、これを噴霧乾燥し、2種の分画大豆蛋白を得た。第1図は、実施例1の不溶性画分および可溶性画分のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動パターンである。上記分離後の不溶性画分と可溶性画分の7Sグロブリンと11Sグロブリンの存在量を数値化するため、不溶性画分と可溶性画分の蛋白回収率とSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で得られたパターンのデンシトメトリーによる面積比に基づき算出し、表1に示した。比較例1実施例1と同様に抽出した脱脂豆乳を、塩酸にてpH6.2に調整後、バッチ式遠心分離機(2,000 G)で遠心分離したが、不溶性画分および可溶性画分を明確に分離できなかった。そこで、バッチ式高速遠心分離機を用い10,000Gで遠心分離を行い、不溶性画分および可溶性画分を得た。なお、この遠心分離時の溶液温度は約25℃付近であった。第2図は、比較例1の不溶性画分および可溶性画分のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動パターンである。不溶性画分と可溶性画分の7Sグロブリンと11Sグロブリンの存在量を実施例1の方法で算出し、表2に示した。実施例1のフィターゼ処理区では2,000 Gの低遠心Gで分離が明確に行えるのに対し、比較例1の未処理区では明確な分離に10,000Gが必要であった。また、可溶性画分および不溶性画分の混入率の比較では、比較例1の未処理区で可溶性画分への11Sグロブリンの混入率が21.7%と高く、分画精度は高くない。これに対し実施例1のフィターゼ処理区では1.9%と低下しており、明らかに分画精度が向上した。これらの結果より、フィターゼ処理は工業的な低い遠心力で可溶性画分と不溶性画分を分離することが可能で、かつ相互の混入率の小さい分画法として有効であることが示された。実験例1実施例1と同様に抽出した脱脂豆乳を、塩酸にてpH6.2に調整後、40℃まで加温した。この溶液に蛋白重量あたり0.4および2unit相当のフィターゼ(ノボ社製「PHYTASE NOVO L」)を加え、30分間酵素作用を行った。反応後pH6.2のまま各酵素作用物(フィチン酸含量1.83%および0.87%/蛋白重量)をバッチ式遠心分離機(2,000 G)で遠心分離し、不溶性画分および可溶性画分を得た。実験例1の不溶性画分および可溶性画分の7Sグロブリンと11Sグロブリンの存在量を実施例1の方法で算出し、表3、表4に示した。これらの結果より、フィターゼ添加量は30分間の作用時間では蛋白重量あたりユニットが高いほど効果が期待できることがわかる(ただし、長時間作用させればこれらよりさらに低unitの酵素量でよい)。これより蛋白重量あたりのフィチン酸含量は、0.4unit相当のフィターゼで作用したとき1.83%、2unit相当のフィターゼで作用したとき0.87%であり、作用前のフィチン酸含量(2.20%/蛋白重量)をもとに低減化率を算出すると、16.8%と60.5%となる。いずれも2,000 Gにおける分画性は向上したが、少なくとも元のフィチン酸含量の50%以上のフィチン酸を分解することで分画精度が向上することがわかる。実施例2実施例1と同様に抽出した脱脂豆乳を、塩酸にてpH5.9およびpH6.4に調整後、40℃になるように加温した。これらの溶液に蛋白重量あたり8unit相当のフィターゼ(ノボ社製「PHYTASE NOVO L」)を加え、30分間酵素作用を行った。反応後pHをそのまま酵素作用物(フィチン酸含量両者同じく0.05%/蛋白重量)をバッチ式遠心分離機(3,000 G)で遠心分離し、不溶性画分および可溶性画分を得た。実施例2の不溶性画分および可溶性画分の7Sグロブリンと11Sグロブリンの存在量を実施例1の方法で算出し、表5、表6に示した。これらの結果より、遠心分離時のpH、すなわち分画のpHはある程度幅があることがわかる。実施例3実施例1と同様に抽出した脱脂豆乳を、塩酸にてpH4.0およびpH7.0に調整後、40℃まで加温した。これらの溶液に蛋白重量あたり8unit相当のフィターゼ(ノボ社製「PHYTASE NOVO L」)を加え、30分間酵素作用を行った。反応後、前者(フィチン酸含量0.05%/蛋白重量)は苛性ソーダで、後者(フィチン酸含量0.08%/蛋白重量)は塩酸でそれぞれpHを6.2に調整した後、バッチ式遠心分離機(3,000 G)で遠心分離し、不溶性画分および可溶性画分を得た。実施例3の不溶性画分および可溶性画分の7Sグロブリンと11Sグロブリンの存在量を実施例1の方法で算出し、表7、表8に示した。実施例4実施例1と同様に抽出した脱脂豆乳を、塩酸にてpH4.5に調整後、バッチ式遠心分離機(2,000 G)で遠心分離し、不溶性画分(以下酸沈殿カードという)および可溶性画分(ホエー)を分離した。酸沈殿カード(いわゆる分離大豆蛋白)に水を加え、十分分散させ、苛性ソーダでpHを6.2に調整後、この溶液(フィチン酸含量1.80%/蛋白重量、TCA 可溶化率4.8%)に蛋白重量あたり8unit相当のフィターゼ(ノボ社製「PHYTASE NOVO L」)を加え、30分間酵素作用を行った。この酵素作用物(フィチン酸含量0.05%/蛋白重量、TCA 可溶化率は実質的に変動なし。)をバッチ式遠心分離機(2,000 G)で遠心分離し、不溶性画分および可溶性画分を得た。このとき不溶性画分と可溶性画分は明確に分離した。なお、この遠心分離時の溶液温度は約30℃付近であった。不溶性画分は加水(2重量部)して苛性ソーダで中和し、可溶性画分はそのまま苛性ソーダで中和し、各々140℃15秒間殺菌し、これを噴霧乾燥し、分画大豆蛋白を得た。この分画大豆蛋白は従来の分離大豆蛋白よりも風味、色調が良かった。不溶性画分と可溶性画分の7Sグロブリンと11Sグロブリンの存在量を実施例1の方法に基づき算出し、表9に示した。この結果より、分画に用いる大豆蛋白溶液として、酸沈殿カード(いわゆる分離大豆蛋白)を使用しても精度良く分離できることが示された。比較例2実施例1と同様に抽出した脱脂豆乳を、沸騰湯浴中にて10分間ボイルした。水冷した後塩酸にてpH6.2に調整後、40℃になるように加温した。これらの溶液に蛋白重量あたり8unit相当のフィターゼ(ノボ社製「PHYTASE NOVO L」)を加え、30分間酵素作用を行った。反応後pHをそのまま酵素作用物(フィチン酸含量両者同じく0.05%/蛋白重量)をバッチ式遠心分離機(2,000 G)で遠心分離したが、不溶性画分および可溶性画分を明確に分離できなかった。そこで、バッチ式高速遠心分離機を用い10,000Gで遠心分離を行い、不溶性画分および可溶性画分を得た。しかしながら、不溶性画分と可溶性画分の分離が不明瞭であり、得られた不溶性画分の回収率も11%と低く、あきらかにフィターゼ処理前の加熱が分画に悪影響を及ぼしていた。 大豆蛋白を含む溶液にフィチン酸分解活性を有する酵素または酵素剤を作用させ、該溶液をpH5.6〜6.6に調整して7Sグロブリンに富んだ可溶性画分と11Sグロブリンに富んだ不溶性画分として分離することを特徴とする大豆7Sグロブリンと11Sグロブリンの分画及び製造法。 フィチン酸分解活性を有する酵素または酵素剤を作用させる大豆蛋白が未変性もしくは低変性である請求項1記載の分画及び製造法。 大豆蛋白を含む溶液にフィチン酸分解活性を有する酵素または酵素剤を作用させる条件が、pH3.5〜9.0、20〜70℃、かつ5分〜3時間である請求項1または請求項2記載の分画及び製造法。 分離した画分を中和、加熱殺菌、乾燥する請求項1乃至3いずれか1項記載の製造法。