タイトル: | 特許公報(B2)_細胞DNAを染色するための組成物および方法 |
出願番号: | 2000502393 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | G01N 33/48,C09B 55/00,G01N 1/30,G01N 33/50 |
ラム、ポール・ポン・シン ペイン、ピーター・ウイリアム ガーナー、デビット・マイケル パルシック、ブルーノ JP 4212232 特許公報(B2) 20081107 2000502393 19980707 細胞DNAを染色するための組成物および方法 オンコメトリックス・イメージング・コーポレーション 598050524 ONCOMETRICS IMAGING CO RPORATION 鈴江 武彦 100058479 村松 貞男 100084618 橋本 良郎 100092196 白根 俊郎 100095441 ラム、ポール・ポン・シン ペイン、ピーター・ウイリアム ガーナー、デビット・マイケル パルシック、ブルーノ US 08/888,434 19970707 20090121 G01N 33/48 20060101AFI20081225BHJP C09B 55/00 20060101ALI20081225BHJP G01N 1/30 20060101ALI20081225BHJP G01N 33/50 20060101ALI20081225BHJP JPG01N33/48 PC09B55/00 AG01N1/30G01N33/50 P G01N 33/48 C09B 55/00 G01N 1/30 G01N 33/50 JMEDPlus(JDreamII) JSTPlus(JDreamII) 特開平01−127956(JP,A) 特開平06−058926(JP,A) 特開昭58−501968(JP,A) S L DUTTA, S K SAHA,EFFECT OF ORGANIC SOLVENTS ON DYE-DNA INTERACTION,INDIAN JOURNAL OF CHEMISTRY,1986年11月 1日,V25AN11,P1001-1003 24 CA1998000658 19980707 WO1999002960 19990121 2001509591 20010724 14 20050706 白形 由美子 【0001】【発明の分野】本発明は、一般に細胞DNAを染色するための組成物および方法に関し、より詳細には、カチオン染料を含む組成物およびその使用方法に関する。【0002】【発明の背景】細胞病理学および組織病理学において、新生物発生前の病巣内もしくは新生物性病巣内で異数体の細胞集団を検出するために、イメージサイトメトリーは頻繁に利用されてきている。DNAイメージサイトメトリーは、ヒトの癌に関する診断情報および予後情報を得るための手段として、病理学および細胞病理学において広く認められている。このような診断は、細胞のDNA含量を正確に測定することを必要とする。従って、核DNAを定量的に染色する種々の方法が開発されている。幾つかの定量的DNA染料の再現性および信頼性が、近年報告されている。"A Comparative Study of Quantitative Stains for DNA in Image Cytometry," Mickel,U.V.and Becker,Jr.,R.L., Analytical and Quantitative Cytology and Histology 1991, 13: 253-260。【0003】細胞DNAを染色するための種々の技術の中で推奨されるのは、フォイルゲン(Feulgen)染色技術である。Feulgen,R.and Voit K., Z.Physiol.Chem. 1924, 136: 57-61。フォイルゲンは、固定された組織の加水分解(即ち、DNAの加水分解)により、細胞核内に存在するデオキシペントースがアルデヒド形態で晒されることを発見した。その後フォイルゲンは、細胞DNAの温和な酸加水分解に続いて、シッフ試薬を添加することによりDNA含有構造が赤紫色を呈することを見出した。フォイルゲン技術は、細胞DNAを定量するための方法として実用化されることに寄与し、フォイルゲン技術は一般に、核酸を酸化してアルデヒドを提供する工程と、前記アルデヒドをシッフ試薬と反応させて、DNAの存在を示唆する赤紫色を形成させる工程とを含む。この反応は化学量論的であるため、過剰な試薬が洗い落とされれば、色の強度はサンプル中のDNA量に直接関連がある。【0004】1954年、チオニン−亜硫酸塩試薬が、マウスの腎臓および肝臓の細胞核のうち、加水分解された切片標本の核のみを染色することが発見された。Van Duijn,P., J.Histochem.Cytochem. 1956, 4: 55-63。アルデヒド試薬は、t-ブタノールおよび水の媒質中にチオニンおよび二酸化硫黄を含んでいた。このチオニン試薬は、チオニンのt-ブタノール水溶液(水:t-ブタノール, 1:1)を塩酸水溶液で酸性化し、その後メタ重亜硫酸ナトリウムを添加することにより調製した。Van Duijnは、チオニンと二酸化硫黄と核酸との間の反応の正確な化学的性質は明らかではないが、チオニン−亜硫酸塩/t-ブタノール試薬が、アルデヒドと反応する一以上の構成成分を含有していることを、組織化学的データから結論づけた。フォイルゲン染色法は、今日まで継続して利用され、種々の化合物がフォイルゲン染料として使用されている。核の染料として一般に見なされるチオニンは、フォイルゲン手法においてより一般に使用される染料の一つである。【0005】チオニン−フォイルゲン染料試薬が初めて報告されてから何年も経過したにもかかわらず、前記試薬の組成は変化しないままである(即ち、塩酸水溶液でpHを約1.5に調整した、チオニンおよびメタ重亜硫酸ナトリウムのt-ブタノール水溶液である)。【0006】1950年代に開発されたフォイルゲンのチオニン染色法は、定量的なDNA測定を容易にしたが、従来のチオニン染色試薬の溶媒としてt-ブタノールを使用することにはかなり欠点がある。第一に、t-ブタノールは刺激性物質であり、取り扱いに危険がある。第二に、t-ブタノールは融点が約25℃であるため、しばしば室温で固体であり、試薬を調製する際に液体として投与するためには加熱および融解を必要とする。t-ブタノールは、多くの他の低分子量のアルコールと違って、適切に処分することが難しい。更にt-ブタノールはその危険な性質のために、t-ブタノールと関連したシッピング(shipping)に制限がある。他の単純なアルコールに対して、t-ブタノールは非常に高価である(例えば、メタノールもしくはエタノールのリットルあたり約2$と比べて、リットルあたり45$である)。おそらく最も重大なことは、チオニン/t-ブタノール染色溶液の有効な保存寿命が約2日であることである。このような短い保存寿命は、その保存を妨げ、その結果この試薬の商業的実用性を妨害し、フォイルゲン染色法でチオニン試薬を使用したい人は使用直前にその試薬を調製する必要がある。【0007】従って、前記試薬の主要成分であるt-ブタノールに付随する不利益がなく、従来のチオニン/t-ブタノール染色試薬により得られる細胞DNA定量の利益を提供してくれるチオニン主成分の試薬が必要とされている。より詳細には、長く且つ安定な保存寿命を有するチオニン染色試薬が必要とされている。本発明は、前記必要性を満たし、更に関連した利益を提供することに努める。【0008】【発明の概要】一つの見方において、本発明は、細胞DNAを染色するのに有効な組成物を提供する。一般に前記組成物は、式:【化5】(ここでR1およびR2は、水素およびメチル基から独立に選択され、Xは対イオンである)のカチオン染料;メタ重亜硫酸塩;並びにメタノール、エタノール、およびメタノールとエタノールの混合物の一つから選択されるアルコールを含むアルコール水溶液である。好ましい態様において、カチオン染料は、チオニンアセテート(即ち、R1およびR2は水素、Xはアセテート)である。【0009】別の見方において、本発明は、細胞DNAを染色する方法を提供する。前記方法において、上記組成物を細胞に適用し、染色された核を有する細胞を提供する。本発明は、細胞を上記組成物で染色して、染色された核を有する細胞を提供する工程と、その後染色された核の光学密度を測定して、核に存在するDNAの存在もしくは量を決定する工程とを含む細胞DNAの定量方法を更に提供する。【0010】更に別の見方において、本発明は、上記組成物を含む細胞DNAの染色用キットを提供する。【0011】【好ましい態様の詳細な説明】本発明は、一般に細胞DNAを染色するための組成物および方法に関する。より詳細には、本発明は、フォイルゲン染色法で試薬として使用され、細胞DNAの存在もしくは量を染色し且つ測定する際に使用される組成物を提供する。本発明の組成物は、カチオン染料、メタ重亜硫酸塩、並びに好ましくはメタノール、エタノール、およびエタノールとメタノールの混合物から選択されるアルコールを含むアルコール水溶液である。【0012】本発明の組成物に使用されるカチオン染料は、フェノチアジン誘導体、より詳細には、3,7-ジアミノ-5-フェノチアジン誘導体である。カチオン染料は、以下の式により示され:【化6】ここで、R1およびR2は、水素、メチル基、または水素およびメチル基の組み合わせの何れかであり、Xは対イオンである。本発明の組成物に使用されるカチオン染料は、上記式により示されるが、カチオン染料は、【化7】および【化8】など他の同等の式によって示され得ることも認識されたい。適切なカチオン染料には、Azure A(R1およびR2はメチル基)、およびAzure C(R1はメチル基、R2は水素)などがある。好ましい態様において、カチオン染料はチオニン(R1およびR2は水素)である。適切な対イオンXには、染色手法においてカチオン染料の性能に負の影響を及ぼさないアニオンが含まれ、アセテート、塩化物、および臭化物などである。好ましい態様において、対イオンはアセテートである。特に好ましい態様において、カチオン染料は、チオニンアセテート(R1およびR2は水素、Xはアセテート)である。【0013】カチオン染料は、約1.0×10-3 M〜約2.5×10-2 M、好ましくは約4.0×10-3 M〜約8.0×10-3 Mの濃度で組成物中に存在する。【0014】カチオン染料に加えて、本発明の組成物は、好ましくは更にメタ重亜硫酸塩を含む。重亜硫酸塩を含む本発明の態様が、染色溶液として有用であるが、メタ重亜硫酸塩を含む溶液が最良の染色結果を提供することが見出された。適切なメタ重亜硫酸塩は、本発明の組成物の染色性能に負の影響を及ぼさない。適切なメタ重亜硫酸塩には、メタ重亜硫酸リチウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、およびメタ重亜硫酸カリウムのようなメタ重亜硫酸金属が含まれる。好ましくは、本発明の組成物は、メタ重亜硫酸ナトリウムまたはメタ重亜硫酸カリウムの何れかを含む。好ましくは、メタ重亜硫酸塩は、約1.0×10-3 M〜約2.5×10-2 M、好ましくは約4.0×10-3 M〜約8.0×10-3 Mの濃度で組成物中に存在する。当該分野で公知のフォイルゲン染色溶液では、メタ重亜硫酸塩:チオニンのモル比が4〜10:1であるのに対し、本発明の組成物では、メタ重亜硫酸塩:チオニンのモル比は1:1であることが好ましい。【0015】本発明の組成物は、アルコール水にカチオン染料およびメタ重亜硫酸塩を含む。前記アルコール水溶液は、染料およびメタ重亜硫酸塩を溶解するだけでなく、該溶液中に形成された任意の活性DNA染色成分を溶解する役目を果たす。従ってアルコールは、水と混和性があり、試薬調製の容易性から室温で液体であることが好ましい。前記組成物に使用されるアルコールには、C1〜C3のアルコール(即ち、メタノール、エタノール、n-プロパノール、およびイソプロパノール)、並びに前記アルコールの混合物が含まれる。好ましいアルコールとしては、メタノール、エタノール、およびメタノールとエタノールの混合物である。好ましくは、アルコール水溶液は、約20%〜約60%のアルコール、より好ましくは約40%のアルコールを含む。本発明の組成物は、好ましくはpH約1.0〜約2.0、より好ましくはpH約1.3〜約1.5の酸性水溶液である。前記組成物のpHは、多数の酸のうちの任意の一つを用いて調整することができるが、前記溶液のpHは、好ましくは塩酸水溶液で調整される。【0016】本発明の代表的な組成物、チオニン/メタノール染色溶液の調製は、例1に記載されている。【0017】一般に、上記カチオン染料とメタ重亜硫酸塩との反応により、加水分解されたDNAに結合する活性成分が形成される。このように本発明の組成物は、細胞DNAを染色するのに有効である。従って、別の見方において、本発明は細胞DNAを染色する方法を提供する。この方法において、上記組成物を細胞に適用して、染色された核を有する細胞を提供する。細胞固定、脱水、清浄、染色、および封入(mounting)などの基本的手法、並びにフォイルゲン技術、核酸染色、および細胞構成要素の染色などの特定の染色方法は、当業者に周知である。基本的な細胞学的技術および組織化学的技術は、以下の文献に記載されており:Histological and Histochemical Methods: Theory and Practice, 2nd Ed., J.A.Kierenan, ed., Pergamon Press, New York, 1990, およびAnimal Tissue Techniques, 4th Ed., Gretchen L.Humason, W.H.Freeman & Company, San Francisco, 1979、ともに参照により本明細書の開示内容の一部とする。【0018】上述したとおり、本発明の方法は、細胞に上記組成物を適用することを含む。本発明の組成物および方法は、核を有する任意の細胞(例えば、上皮細胞、筋細胞、神経細胞、および結合組織細胞)を実際に染色するのに有効である。前記方法において、多数の細胞標本のうち任意の一つを使用することができ、例えば対象の細胞標本には、慣用的なスミア、組織学的標本、および単層標本などがある。一般に、細胞は染色用の顕微鏡スライド上に置く。細胞をスライド上に置いた後、スライドを固定溶液中に浸漬することにより細胞を固定し、その後リンスする。リンスした後、スライドを酸性溶液中に浸漬することにより細胞DNAを加水分解する。更にリンスした後、スライドを染色溶液中に浸漬することにより細胞を染色する。更にリンスした後、エタノール溶液中に浸漬することにより細胞を脱水し、次いでキシレンで清浄する。この時点で、手動および自動技術など多数の技術のうち任意の一つ、例えば顕微鏡およびイメージサイトメトリー技術により、染色結果を可視化することができる。本発明の方法を含む代表的な染色手法の詳細な方法は、例1に記載されている。染色手法は手動でもできるが、本発明の方法は自動染色手法も含み得る。【0019】本発明の染色方法は、細胞DNAを染色するための定量的方法であるため、本発明の染色溶液で細胞を染色する工程と、得られた染色核の光学密度を測定する工程を組み合わることにより、細胞の核に存在するDNAの存在もしくは量を決定することができる。従って別の見方において、本発明は、上記組成物で細胞を染色する工程と、その後染色された核の光学密度を測定し、核に存在するDNAの存在もしくは量の何れかを決定する工程とを含む細胞DNAの定量方法を提供する。染色された核の光学密度は、例えば光学スキャナー、顕微鏡、および他のイメージサイトメーターなどの手動および自動技術により測定することができる。染色された細胞の光学密度を測定する適切な装置は、当該分野で公知であり、以下の文献に記載されている装置を含み:"The Design and Development of an Optical Scanner for Cell Biology," Jaggi,B.and Palcic,B., IEEE Proc.Eng. Med. Biol. 1985; 2: 980-985; "Cell Recognition Algorithms for the Cell Analyzer," Jaggi,B.and Palcic B., IEEE Proc.Eng. Med. Biol. 1987; 4: 1454-1456; および"Design of a Solid State Microscope," Jaggi,B., Deen,M.J.,and Palcic B., Opt.Engineer 1989; 28(6): 7675-682、それぞれ参照により本明細書の開示内容の一部とする。【0020】本発明の方法は、染色された細胞をデジタル画像にし、得られたデジタル強度画像をコンピューターで操作して種々の細胞特性を測定する技術において有効である。核のサイズ、形状、およびDNA含量、並びに核内のクロマチンの空間分布を描写する他の特性などの細胞特性を、計算することができる。クロマチン分布を描写する特性を、総体的に組織特性(texture features)と称し、組織特性は、クロマチンパターンの種々の描写クラスを識別する能力、およびある病気に関連したクロマチンパターンの変化の程度(例えば悪性度)に関して定量的情報を提供する能力について選択することができる。従って、本発明の組成物および方法は、核の組織測定(texture measurement)の際に有効であり、その結果、ある種の病気の診断および予後に有効である。イメージサイトメトリーでの核の組織測定、並びにヒトの癌の診断および予後における有用性は、以下の文献に記載されており:A.Doudkine, C.MacAulay, N.Poulin, and B.Palcic, "Nuclear Texture Measurements in Image Cytometry," Pathologica 1995; 87: 286-299、これは参照により本明細書の開示内容の一部とする。【0021】本発明の代表的な染色溶液、および従来のチオニン/t-ブタノール染料により染色された細胞の集中光学密度(Integrated Optical Density, IOD)、即ち核の特性測定は、例3に記載されている。【0022】上述したとおり、従来のチオニン/t-ブタノールのフォイルゲン染色技術にとって最も重大な欠点の一つは、t-ブタノールを主成分とする染色溶液の保存寿命が短いことである。対照的にメタノールおよびエタノールを主成分とする本発明の組成物は、有意にかなり長い保存寿命を有する。本発明の代表的な組成物(即ち、チオニン/メタノールおよびチオニン/エタノール染色溶液)の染色性能と、従来のフォイルゲン染色試薬(即ち、チオニン/t-ブタノール染色溶液)の染色性能との比較は、例2に記載されている。表1および表2に要約された結果により、(1)本発明の組成物が、標準的なチオニン/t-ブタノール染色溶液に匹敵する細胞DNAの染色を提供すること、並びに(2)本発明の組成物が細胞DNAを有効に染色する能力は、約5週間にわたって本質的に一定であることが明らかに実証された。対照的に、従来のチオニン/t-ブタノール染色溶液は、わずか4日間で染色能力の約40%を失ってしまう。従来の染色溶液と比較して本発明の組成物の安定性が高まることで、意義深いことに実用的な利点および商業的利点が付与される。例えば、従来の染色溶液は、開業医もしくは臨床医により染色の直前に新たに調製しなければならないが、本発明の組成物は、その安定性および長い保存寿命のおかげで、調製して保存し、比較的長い期間繰り返し使用することができる。【0023】細胞内DNAを定量的に染色する際に、本発明の組成物および方法が有用であり好結果をもたらすことは、種々の化学的処理に対する定量DNA法の充分に確立された感度から考えて注目に値するものである。定量的なDNA測定は、例えば細胞固定法に大きく影響を受けることは公知である。固定法、並びにより詳細には特定の方法で使用される試薬および溶媒が、細胞内DNAの定量に劇的に影響を及ぼすことが示されている。染色可能な細胞DNA量の変動は、ある方法で観察される細胞DNA量の変動の一根拠として提案される。細胞内で、DNAはタンパク質と結合している。細胞固定は、ある程度、結合したタンパク質を変性させてDNAを晒し、染色可能なDNAを作成する役割を果たす。固定法は、典型的には、アルコールを含む溶媒を使用してタンパク質を変性させる。一般に、結合しているタンパク質が変性する程度、並びにDNAが測定可能になる程度は、使用する試薬および方法に大きく依存する。例えば、ホルマリン固定法において、固定試薬中のアルコール濃度は、タンパク質の変性に重大な影響を与え、その結果、細胞内DNAの定量測定に重大な影響を及ぼすことが見出された。一般に、定量DNA法に対する特定の溶媒もしくは試薬の効果は、ほとんど予測不可能であり、典型的には実験により経験的に決定され得る。【0024】種々の試薬および溶媒に対する定量DNA法の周知の感度にもかかわらず、本発明の組成物および方法は、細胞内DNAを定量する際に有効であることが見出された。例2および例3で示された染色結果により実証されるとおり、本発明の組成物は、標準的なt-ブタノール主成分の組成物と同等に細胞内DNAの染色に有効である。更に本発明の組成物は、標準的な染色組成物より非常に長く且つ安定な保存寿命を有する染色試薬を提供する。【0025】従って別の見方において、本発明は細胞DNAの染色用キットを提供する。本発明のキットは、上記組成物を含む。一般に組成物の構成成分は、前記キットにおいて一以上の容器に含有されている。例えばある態様において、前記キットは、単一の溶液中に本発明の組成物の構成成分を全て組み込んだ染色試薬(即ち、pHを約1.5に調整された、カチオン染料およびメタ重亜硫酸塩のアルコール水溶液)を含む。或いは別の態様において、前記キットは、ドライ(即ち粉末状)形態で染色試薬を含む。このような態様において、前記キットは、一つの容器に固形のカチオン染料を含み、もう一つの容器に固形のメタ重亜硫酸塩を含むことができる。この態様において、前記組成物の液体成分はドライ試薬に添加され、次いでこれを本発明の染色溶液を提供するために混合する。更に別の態様において、前記キットは単一の容器に固形のカチオン染料およびメタ重亜硫酸塩の組み合わせを含むことができる。【0026】前記染色試薬に加えて、前記キットは、リンス試薬(即ち、メタ重亜硫酸塩の酸性水溶液)を更に含む。染色試薬について上述したとおり、リンス試薬は、固形物として、または溶液内で提供され得る。前記キットは、例えば、染色手法の質の標準をモニターするために、顕微鏡スライド上の未染色の培養細胞(コントロールスライド)を任意に含むことができる。前記キットは、染色手法を指示し、適用される態様には、キットの試薬から染色溶液の調製を指示する使用説明書を更に含むことができる。【0027】以下の実施例は、本発明を説明するためのものであって、限定するものではない。【0028】【実施例】例1細胞DNA染色の代表的手法この例では、チオニンのアルコール溶液を用いて細胞DNAを染色する代表的な手法を記載している。DNA染色手法で使用される試薬、チオニンのメタノールおよびt-ブタノール溶液、並びに固定溶液、およびリンス溶液などは、以下に記すとおり調製された。【0029】染色試薬の調製:A. 本発明の代表的な染色溶液[チオニン/メタノール染色溶液]1.0.5g チオニン(Aldrich Chemical Co., Milwaukee, WI)および0.5g メタ重亜硫酸ナトリウムを、スターラーバーの入った500 mLガラス瓶に添加する。2.200 mL メタノールを添加する。充分に混合する。3.250 mL 蒸留水を添加する。4.50 mLの1N塩酸を添加し、瓶に蓋をする。5.1時間染色溶液を撹拌する。アルミホイルで瓶を覆うことにより溶液を光から保護する。冷却しない。6.使用直前に、蒸気フードで濾紙(No.1グレード)により染色溶液を濾過する。【0030】B. 従来のフォイルゲン染色溶液[チオニン/t-ブタノール染色溶液]1.0.5g チオニンを、2000 mL エルレンマイアーフラスコ中で435 mL 蒸留水に添加する。2.約5分間溶液を沸騰させて加熱し、次いでほぼ室温まで冷却する。3.435 mL t-ブタノールを添加する。(必要であれば、水浴でt-ブタノールを融解する。t-ブタノールの融点は25〜26℃であるため、約25℃以下の温度では固定である。)4.130 mLの1N塩酸水溶液を添加する。5.8.7g メタ重亜硫酸ナトリウムを添加する。6.スターラーバーを添加し、パラフィルムMで容器を密封する。7.少なくとも1時間染色溶液を撹拌する。光から保護し、冷却しない。8.使用直前に、蒸気フードで濾紙(No.1グレード)により染色溶液を濾過する。【0031】他の試薬の調製:[Bohm-Sprenger固定液]1.320 mL メタノールと60 mL ホルムアルデヒド水溶液(37%)を、500 mL ガラス瓶中で混合する。2.20 mL 氷酢酸を添加する。3.充分に混合し、パラフィルムMで密封する。【0032】[リンス溶液]1.7.5g メタ重亜硫酸ナトリウムを、2000 mL エルレンマイアーフラスコ中で1425 mL 蒸留水に溶解する。2.75 mLの1N塩酸水溶液を添加する。3.スターラーバーを添加し、溶解するまで撹拌する。フラスコをパラフィルムMで密封する。【0033】[1%酸アルコール]1.280 mL 無水エタノールと120 mL 蒸留水を混合する。2.4 mL 濃塩酸を添加する。3.充分に混合する。【0034】上述のとおり調製した試薬を、その後以下の方法により細胞DNAを染色するために使用した。対象細胞(例えば、子宮頸サンプル由来の細胞)の標本、例えば慣用的なスミアおよび単層標本を、当該方法に使用することができる。当該方法において、細胞は一般に染色用の顕微鏡スライド上に置く。【0035】染色手法:1.顕微鏡スライド上に細胞を置く。2.Bohm-Sprenger固定液にスライドを浸漬することにより細胞を固定する:30〜60分。3.スライドを蒸留水でリンスし:1分、旋回させる。4.スライドを5N塩酸に浸漬することにより細胞をDNAを加水分解する:室温で60分。5.スライドを蒸留水でリンスし:15ディップ(dip)、旋回させる。6.新たに濾過されたチオニン染色溶液を適用することにより細胞を染色する:75分。7.スライドを蒸留水で洗浄する:6チェンジ(change)、各20ディップ。8.新たに調製したリンス溶液でスライドをリンスする:3チェンジ:最初の2回のリンスは30秒、最後のリンスは5分。9.スライドを蒸留水でリンスする:3チェンジ、各20ディップ。10.ムコイドのサンプルのみ:任意に1%酸アルコールでスライドをリンスする:2分。11.スライドを蒸留水でリンスする:3チェンジ、各20ディップ。12.50%、75%エタノール水溶液、2チェンジの100%エタノールにスライドを連続して浸漬することにより細胞を脱水する:各1分。13.キシレンに浸漬することによりスライドを清浄する:5分。14.スライド上をカバーガラスで封入する。15.所望ならばバーコードラベルでスライドを識別する。【0036】例2細胞DNAの染色結果:時間に関しての性能この例は、チオニン/メタノール染色溶液と、チオニン/t-ブタノール染色溶液との間で、細胞DNAの染色性能を時間に関して比較する。この比較研究において、チオニン溶液は、上記例1で記載したとおり、メタノールもしくはt-ブタノール中で調製し、細胞標本を染色し、染色された核の光学密度を測定した。各チオニン染色溶液の性能に対する時間の効果を決定するため、一定の時間の間隔で(以下の表1参照)、同じストック染色溶液を用いて、各チオニン溶液での細胞染色を行った。実際この比較実験により、調査した特定のチオニン染色試薬それぞれの有効な保存寿命が決定された。【0037】細胞標本(American Type Culture SelectionからのHL-60細胞)を、上記例1で記載した手法により染色した。各サンプルの集中光学密度(IOD)を、光学スキャナーを用いた定量的イメージサイトメトリー、および以下の文献に記載の方法により測定した:"CytoSavant and Its Use in Automated Screening of Cervical Smears," Garner,D.M., Harrison,A., MacAulay,C.,and Palcic,B., in Compendium on the Computerized Cytology and Histology Laboratory, Wied,G.L., Bartels,P.H., Rosenthal,D.L.,and Schenck,U., eds., Tutorials of Cytology, Chicago, 1994; "The Design and Development of an Optical Scanner for Cell Biology," Jaggi,B. and Palcic,B., IEEE Proc.Eng.Med.Biol. 1985; 2: 980-985; "Cell Recognition Algorithms for the Cell Analyzer," Jaggi,B. and Palcic B., IEEE Proc.Eng.Med.Biol. 1987; 4: 1454-1456; および"Design of a Solid State Microscope," Jaggi,B., Deen,M.J.,and Palcic B., Opt.Engineer 1989; 28(6): 7675-682、全て参照により本明細書の開示内容の一部とする。各データの時間に対して、3スライドを染色し、次いでその光学密度を測定した。二種類のチオニン染色溶液の性能(即ち、細胞DNAを染色し、光学的に濃い核を提供する能力)を、以下の表1に要約する。【0038】【表1】【0039】表1に示すとおり、t-ブタノールを主成分とするチオニン染色溶液の性能は、時間とともに劇的かつ急激に低下する。染色された核の光学密度により測定されるとおり、わずか4日後に、この溶液の有効性は、元の値の約60%まで減少した。対照的に、チオニン/メタノール染色溶液およびチオニン/エタノール染色溶液の性能は、4週間の期間にわたって本質的に変化しないままである。これらの結果は、チオニンのメタノール溶液およびエタノール溶液が、チオニンのt-ブタノール溶液より有意に安定であることを実証している。この結果は、更に、チオニン染料の溶媒としてメタノールおよびエタノールが有効であり匹敵するものであること、並びにチオニン染料の溶媒として、t-ブタノールよりメタノールおよびエタノールが優れていることを実証している。【0040】本発明の好ましい態様を例証し説明してきたが、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、種々変化させることができることを認識されたい。 式:(ここでR1およびR2は、水素およびメチル基からなる群より独立に選択され、Xは対イオンである)のカチオン染料; メタ重亜硫酸塩;並びにメタノール、エタノール、およびその混合物からなる群より選択されるアルコールを含有するアルコール水溶液を含む組成物。 R1およびR2が水素である請求項1記載の組成物。 R1がメチル基であり、R2が水素である請求項1記載の組成物。 Xがアセテート、塩化物、および臭化物からなる群より選択される請求項1記載の組成物。 Xがアセテートである請求項1記載の組成物。 R1およびR2が水素であり、Xがアセテートである請求項1記載の組成物。 前記カチオン染料が、1.0×10-3 M〜2.5×10-2 Mの濃度で組成物中に存在する請求項1記載の組成物。 前記カチオン染料が、4.0×10-3 M〜8.0×10-3 Mの濃度で組成物中に存在する請求項1記載の組成物。 前記メタ重亜硫酸塩が、メタ重亜硫酸リチウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、およびメタ重亜硫酸カリウムからなる群より選択される請求項1記載の組成物。 前記メタ重亜硫酸塩が、1.0×10-3 M〜2.5×10-2 Mの濃度で組成物中に存在する請求項1記載の組成物。 前記メタ重亜硫酸塩が、4.0×10-3 M〜8.0×10-3 Mの濃度で組成物中に存在する請求項1記載の組成物。 前記組成物が、1.0〜2.0のpHを有する請求項1記載の組成物。 前記組成物が、1.3〜1.5のpHを有する請求項1記載の組成物。 細胞に染色溶液を適用して、染色された核を有する細胞を提供することを含む細胞DNAの染色方法であって、前記染色溶液が、式:(ここでR1およびR2は、水素およびメチル基からなる群より独立に選択され、Xは対イオンである)のカチオン染料; メタ重亜硫酸塩;並びにメタノール、エタノール、およびその混合物からなる群より選択されるアルコールを含有するアルコール水溶液を含む細胞DNAの染色方法。 R1およびR2が水素である請求項14記載の方法。 R1がメチル基であり、R2が水素である請求項14記載の方法。 Xがアセテート、塩化物、および臭化物からなる群より選択される請求項14記載の方法。 R1およびR2が水素であり、Xがアセテートである請求項14記載の方法。 前記カチオン染料が、1.0×10-3 M〜2.5×10-2 Mの濃度で組成物中に存在する請求項14記載の方法。 前記メタ重亜硫酸塩が、メタ重亜硫酸リチウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、およびメタ重亜硫酸カリウムからなる群より選択される請求項14記載の方法。 前記メタ重亜硫酸塩が、1.0×10-3 M〜2.5×10-2 Mの濃度で組成物中に存在する請求項14記載の方法。 前記組成物が、1.0〜2.0のpHを有する請求項14記載の方法。 細胞を組成物で染色して、染色された核を有する細胞を提供することと; 核に存在するDNAの存在もしくは量の指標として、染色された核の光学密度を測定することとを含む細胞DNAの定量方法であって、 前記組成物が、式:(ここでR1およびR2は、水素およびメチル基からなる群より選択され、Xは対イオンである)のカチオン染料; メタ重亜硫酸塩;並びにメタノール、エタノール、およびその混合物からなる群より選択されるアルコールを含有するアルコール水溶液を含む細胞DNAの定量方法。 式:(ここでR1およびR2は、水素およびメチル基からなる群より選択され、Xは対イオンである)のカチオン染料; メタ重亜硫酸塩;並びにメタノール、エタノール、およびその混合物からなる群より選択されるアルコールを含有するアルコール水溶液を含む細胞DNAの染色用キットであって、 前記カチオン染料、メタ重亜硫酸塩、およびアルコールが、一以上の容器に含有される細胞DNAの染色用キット。