タイトル: | 特許公報(B2)_ゲラニルゲラニオールおよびその類縁化合物の製造法 |
出願番号: | 2000401927 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12P 7/04,C12N 15/09,C12R 1/645 |
村松 正善 小畑 充生 JP 4123718 特許公報(B2) 20080516 2000401927 20001228 ゲラニルゲラニオールおよびその類縁化合物の製造法 トヨタ自動車株式会社 000003207 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 村松 正善 小畑 充生 20080723 C12P 7/04 20060101AFI20080703BHJP C12N 15/09 20060101ALN20080703BHJP C12R 1/645 20060101ALN20080703BHJP JPC12P7/04C12N15/00 AC12P7/04C12R1:645C12N15/00 AC12R1:645 C12P 7/00- 7/66 C12N 15/00-15/90 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開昭55−120794(JP,A) Biosci.Biotechnol.Biochem.,Vol.64,No.3(Mar.2000)p.660-664 Appl.Microbiol.Biotechno1.,Vol.52,No.3(1999)p.298-310 J.Biol.Chem.,Vol.246,No.22(1971)p.6913-6928 植物の化学調節,Vol.33,No.2(1998)p.182-192 Biosci.Biotechnol.Biochem.,Vol.60,No.6(1996)p.1040-1042 J.Biol.Chem.,Vol.272,No.35(1997)p.21706-21712 Plant Cell Physiol.,Vol.37,No.6(1996)p.847-854 10 2002199884 20020716 15 20050401 三原 健治 【0001】【発明の属する技術分野】本発明はジベレリン生産菌を用いたゲラニルゲラニオールおよびその類縁化合物であるゲラニルゲラニルモノリン酸、ゲラニルゲラニル二リン酸、ファルネソール、ファルネシルモノリン酸、ファルネシル二リン酸の製造法に関するものである。該化合物は医薬品・香料・化粧品・食品に利用可能なテルペン類、カロチノイド類、ステロイド類の生合成中間体として有用である。とりわけ、ゲラニルゲラニオールは胃炎薬プラウノトール、制ガン剤であるゲラニルゲラニルアミン誘導体(特開平9−291030)の原料になる重要な化合物である。【0002】【従来の技術】ゲラニルゲラニオールおよびその類縁化合物はアセチルCoAからメバロン酸、イソペンテニル二リン酸を経由して合成される。イソペンテニル二リン酸(IPP)はIPPイソメラーゼによってヂメチルアリル二リン酸(DMAPP)に変換され、DMAPPに炭素鎖5のIPPが縮重合することにより、炭素鎖5のイソプレンユニットを構成単位とする一連の鎖長のイソプレノイドが合成される。ゲラニルゲラニル二リン酸はゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素によって4つのイソプレンユニットが縮重合した化合物で、βカロチン、ジベレリン等のジテルペン化合物の出発物質になる。また、ファルネシル二リン酸はファルネシル二リン酸合成酵素によって3つのイソプレンユニットが縮重合した化合物でステロイド、セスキテルペンの出発物質になる。ゲラニルゲラニオールはゲラニルゲラニル二リン酸がフォスファターゼまたは酸・アルカリによって加水分解されることにより合成されると考えられ、多くの植物で見られるが、その存在量はわずかである。最近、トウダイクサ科植物の培養細胞を用いて、ゲラニルゲラニオール及びゲラニルゲラニル二リン酸を合成する方法が開発されたが(特開平9−238692)、植物の培養細胞を用いることから培養に光照射が必要であり量産化が難しいといった問題がある。また、ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素を大腸菌で生産し、基質であるIPP,DMAPPより酵素的にゲラニルゲラニル二リン酸を合成する方法も開発されているが[J.B.C.,269, 20, 14792-14797 (1994)]、化学的に不安定なIPP、DMAPPを量産することが難しい。【0003】一方、イネ馬鹿苗病菌Gibberella fujikuroiは植物生長ホルモンであるジベレリンを1g/L培養液あまり合成し,ジベレリンは現在でも本菌により発酵法により生産されている。現在,ジベレリンを量産できる菌はこのほかにキャッサバの徒長病菌Sphaeceloma monihoticola[Biochem.Biophys.Res.Comm.,91,35 (1979)]とPhaeosphaeria sp.(特許2797331)を含め3種しかなく、これらはこのような複雑な化合物が大量に分泌生産される点からしても異例な微生物であるといえる。ゲラニルゲラニル二リン酸およびその類縁化合物はジベレリンの生合成中間体であることからこれらの菌が生産していることが考えられる。しかしながら、イネ馬鹿苗病菌Gibberella fujikuroiをはじめとするジベレリン生産菌を用いたジベレリン生産に関する研究は数多くあるが、これまでにこれら微生物においてゲラニルゲラニオール及びその類縁化合物が合成されたといった報告はなく、実際に本発明者らがこれらを培養し検出を試みても培養条件によってはわずかに合成が確認できる程度の量であった。【0004】イネ馬鹿苗病菌Gibberella fujikuroiは植物生長ホルモンであるジベレリンを1g/L培養液あまり合成し、ジベレリンは現在でも本菌により発酵法により生産されている。ジベレリンは原料であるアセチルCoAより20あまりの酵素反応によって合成される。このような複雑な生合成経路にもかかわらず大量に合成されることから、この経路は微生物内において非常に効率的に機能していると考えられる。【0005】【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は微生物を用いて、ゲラニルゲラニオールおよびその類縁化合物を合成することである。【0006】【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、アセチルCoAからジベレリンに至る数段階からなる複雑な生合成経路の上流部分においてゲラニルゲラニオール類が反応中間体として合成されることに着目し、ゲラニルゲラニル二リン酸のすぐ下流の酵素反応、即ち、ゲラニルゲラニル二リン酸からコパリルCoAへの合成反応を触媒するエントカウレン(ent-kaurene)合成酵素を試薬または遺伝子破壊により人為的に阻害することにより、エントカウレン合成酵素活性を低下または欠失させたジベレリン生産菌を培養したところ、ゲラニルゲラニオール類を菌体内外に合成蓄積せしめることに成功し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の(1)〜(3)の発明である。【0007】(1) エントカウレン合成酵素活性を低下または欠失させたジベレリン生産菌を培地に培養し、ゲラニルゲラニオールおよびその類縁化合物を菌体内外へ生成蓄積せしめ、これを採取することを特徴とする、ゲラニルゲラニオールおよびその類縁化合物の製造法。【0008】(2) エントカウレン合成酵素活性の低下または欠失が、ジベレリン生産菌の培養培地にエントカウレン合成酵素阻害剤を添加することにより行われることを特徴とする、上記(1)の方法。(3)エントカウレン合成酵素活性の低下または欠失が、ジベレリン生産菌の有するエントカウレン合成酵素遺伝子を破壊または改変することにより行われることを特徴とする、上記(1)の方法。以下、本発明を詳細に説明する。【0009】【発明の実施の形態】本発明においては、エントカウレン成酵素活性を低下または欠失させたジベレリン生産菌を培養することによって、ゲラニルゲラニオール及びその類縁化合物を製造する。【0010】本発明によって得られるゲラニルゲラニオール及びその誘導体とは主として生成されるゲラニルゲラニオール、ゲラニルゲラニル二リン酸、ファルネソール、ファルネシル二リン酸をさすが、これ以外に、菌体内外に蓄積するゲラニルゲラニル二リン酸及びファルネシル二リン酸が酸またはアルカリが触媒となって加水分解し生成するゲラニルリナノール、ネロリドール、ファルネソールの酸化物であるファルネサール、二重結合が一部飽和したジヒドロファルネソールのほか、ゲラニルゲラニルモノリン酸、ファルネシルモノリン酸、リナロール、ゲラニオール、ゲラニルモノリン酸、ゲラニル二リン酸等をも含む。エントカウレン合成酵素活性の低下または欠失は、エントカウレン合成酵素阻害剤を培地に添加するか、ジベレリン生産菌が有するエントカウレン合成酵素遺伝子を人為的に破壊または改変することにより行う。【0011】ジベレリン生産菌は、ジベレリンを生産することのできる菌株であれば特に制限はないが、イネ馬鹿苗病菌Gibberella fujikuroi、キャッサバの徒長病菌Sphaeceloma monihoticola 、Phaeosphaeria sp.等のジベレリンの高生産菌が好適に使用できる。具体的には、国内で入手可能な公知の菌株であるGibberella fujikuroi IFO5268、6349、6356、6604、6605、6606、6607、9976、9977、30336、30337、31251等、国外ではATCC Gibberella fujikuroi 0704、12616、12781、12782、14164、14842、20136、58109、38938、38939、38940、38941、52124、52125、12765、12776、12780、38937、42052、42112、42178、52126、52127、52128、52129、12777、38932、38933、38934、38935、52130、52131、52132、52133、ATCC Sphaceloma monihoticola44291、44292等を挙げることができるが、これらに限定はされない。また、これら以外に微少ではあるがジベレリンが生産されることが報告されているものとして、Nevrospora crassa、Sporisorium reilianum、Rhizobium phaseoli、Azospirillium lipoferumなどのカビを挙げることができる。【0012】本発明の一態様である、エントカウレン合成酵素阻害剤を培地に添加し、培養を行う場合、用いるエントカウレン合成酵素阻害剤としては、特に限定されないが、例えば2’−イソプロピル−4’−(トリメチルアンモニウムクロライド)−5’−メチルフェニルピペリジン−1−カルボキシレート(AMO1618)または(2−クロルエチル)トリメチルアンモニウムクロライド(サイソセル)またはトリブチルー2、4ジクロロベンジルフォスフォニウムクロライド(フォスフォンD)等が挙げられる。【0013】阻害剤の添加量としては0.00005〜0.2%を培養開始時に添加すればよく、好ましくは0.0003〜0.05%がよい。これらの阻害剤は培養開始時に添加し培養することが好ましいが、培養途中で添加することによっても効果が得られる。【0014】本発明の他の態様である、ジベレリン生産菌が有するエントカウレン合成酵素遺伝子を人為的に破壊または改変する場合は、紫外線照射または化学変異剤処理によるエントカウレン合成酵素欠損株の取得、相同組換えによるエントカウレン合成酵素遺伝子の破壊またはそのプロモーターの改変などにより行う。【0015】紫外線照射または化学変異剤処理によるエントカウレン合成酵素欠損株は以下の手順の操作を行えば得ることができる。変異処理は菌糸または胞子に対し行えばよいが、ヘテロカリオンであることから胞子に対する処理が効果的である。胞子形成培地で培養したジベレリン生産菌を紫外線照射、放射線照射、NTG,EMS等を施し突然変異を誘発させることができる。胞子形成培地としてはたとえば0.1%酵母エキス(Difco社製)、0.1%硝酸アンモン、0.1%リン酸2水素カリウム、0.05%硫酸マグネシウムを含む1.6%寒天培地などを挙げることができる。当該菌の紫外線照射、NTG処理条件はAppl. Env. Micro., 49, 1, p187-191, (1985)などを参考にして行えばよい。【0016】得られた変異株を培養し、培養液をフォスファターゼ処理した後、ペンタン、石油エーテル等の有機溶媒で抽出し、GC/MS分析に供し、ゲラニルゲラニオール生産を分析することにより高生産株を得ることができる。分析数を増やすため96穴のマイクロタイタプレートで当該菌を培養後、硫酸溶液を添加し蛍光強度を測定し〔Appl. Env. Micro., 57, 11, p3378-3382, (1991)〕、ジベレリン生産のない株を一次スクリーニングしGC/MSに供してもよい。【0017】相同組換えによる変異株は以下の手順の操作を行えば得ることができる。まず、エントカウレン合成酵素遺伝子を常法に従いクローニングする。クローニング法は、たとえばPCRを用いた方法、オリゴヌクレオチドを使ったコロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリぜーション、さらには抗体を用いたクローニングなどを実施することができる。簡便なPCRを用いたクローニングに関して説明すると、ICI培地等のジベレリン生産培地で7〜10日間培養した当該菌より常法によりmRNAを調製し、cDNAを合成すればよく、たとえば、mRNA Purification Kit (ファルマシア)とTime Sever cDNA Synthasis Kit(ファルマシア)と組み合わせれば簡単にcDNAライブラリーを調製することができる。PCRを用いたクローニングの場合、プライマー設計がポイントになるが、糸状菌のエントカウレン合成酵素の遺伝子配列はPhaeosphaeria sp.(J. Biol. Chem. 1997, 272, 35, 21706-21712)とGibberella fujikuroi IFO 303306(Biosci. Biotechnol. Biochem., 2000, 64, 3, 660-664およびCurr. Genet. 1998, 34, 3, 234-240)で明らかにされており、これら糸状菌間で相同性が高い配列から容易に設計することができる。たとえばGibberella fujikuroi IFO 303306の以下に示すアミノ酸配列を基にいずれの糸状菌より当該遺伝子を増幅できるPCRプライマーを設計すればよい。【0018】153-Asp-Thr-Asn-His-Ile-Gly-Val-Glu、219-Gly-Lys-Leu-Asp-Phe-Asp、233-Gly-Ser-Met-Met-Ala-Ser-Pro-Ser-Ser-Thr-Ala-Ala、324-Gly-Val-Ile-Gly-Phe-Ala-Pro-Arg、334-Asp-Val-Asp-Asp-Thr-Ala-Lys、383-His-Val-Leu-Leu-Ser-Leu、426-Leu-Ser-His-Leu-Tyr-Pro-Thr-Met-Leu、537-Trp-Thr-Ser-Lys-Thr-Ala-Tyr、541-Ile-Pro-Phe-Thr-Trp-Val-Gly-Cys-Asn-Asn-Arg-Ser-Arg-Thr、806-His-Val-Ala-Cys-Ala-Tyr-Ser-Phe-Ala-Phe【0019】いうまでもなくPhaeosphaeria spまたはGibberella fujikuroi IFO 303306であれば開示されているcDNA配列のいずれの部分をもとにプライマーを設計しても簡単にエントカウレン合成酵素遺伝子断片を増幅することができる。次に、増幅した断片をプローブに用いゲノムDNAライブラリーより同遺伝子をクローニングすることができる。【0020】次に、ハイグロマイシン耐性遺伝子の配列をマーカー配列として挿入破壊したエントカウレン合成酵素遺伝子断片を調製する。ハイグロマイシン耐性遺伝子、即ち、ハイグロマイシンBフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子は、放線菌Streptomyces hygroscopicusよりクローニングされ公知であるので(Nuc.Acids Res., 1986, 14, 4, 1565-1581)、PCRを用いてクローニングすることができる。クローニングしたエントカウレン合成酵素遺伝子(上流、下流部分の非翻訳領域を含む)を分断するようハイグロマイシン耐性遺伝子配列をインフレームで挿入した配列を構築し、たとえばMolecular Plant-Microbe Interactions, 1992, 5, 3, 249-256記載の方法でジベレリン生産菌を相同組換えし、ハイグロマイシン耐性菌をプレートで探せばエントカウレン合成遺伝子の破壊株を得ることができる。また、この他、ベクターを用いたtransformation-mediated mutagenesisの手法(Appl. Environ. Microbiol. 1999, 65, 6, 2558-2564)、PCRを用いた遺伝子破壊(Yeast, 1998, 14, 1139-1146)等によっても破壊株を得ることが可能である。また、相同組換えによりプロモーターを改変しジベレリン生産菌のエントカウレン合成酵素遺伝子のプロモーター活性を低下させ同様の効果を得ることもできる。【0021】以上の変異株を培養すればゲラニルゲラニオール及びその類縁化合物を培養液または菌体内に生産することができる。培養に際し、培地としては高いジベレリン生産が行われるものを用いればよい。例えば、ICI培地[Plant and Cell Physiology., 20, 75 (1979) ]または以下の組成のオートミール培地等を挙げることができる。【0022】8% グルコース0. 5% イーストエキス1. 5% オートミール0.12% NH4NO30. 5% KH2PO41. 01% MgSO4・7H2O【0023】培養方法は当該培地を用いて好気条件下で3〜10日間液体培養すればよく、たとえば、試験管または坂口フラスコによる振盪培養、シリコセンまたは綿栓をした三角フラスコの回転培養、ジャーファーメンターを用いた通気攪拌培養によって行えばよい。【0024】代表的な通気攪拌培養条件として、培養温度25〜30℃、攪拌速度0〜700rpm、通気量0.5〜2vvmとすることが例示される。いずれの培養方法においても培養は通常20〜40℃で行い、培養開始後、5時間〜20日でゲラニルゲラニオール及びその類縁化合物を培養液中及び菌体内に生成蓄積させることができる。【0025】次に、このように生産したゲラニルゲラニオール及びその類縁化合物の精製法について説明する。即ち、培養液を直接ペンタン、酢酸エチル、クロロホルム,ノルマルブタノール等の溶媒抽出に供した後、溶媒層を濃縮することにより高濃度のゲラニルゲラニオール及びその類縁化合物を得ることができる。また、培養液を活性炭、アルミナ、シリカゲル等を詰めたカラム、ODS等の逆相カラム、セファデックス等のゲル濾過カラムに通し、直接高純度のゲラニルゲラニオール類を得ることもできるし、溶媒抽出後にこの操作を行えば高純度の目的物が得られる。その他、蒸留、超臨界抽出等も考えられ、常法と組み合わせることによりさらに純度を上げることができる。【0026】ゲラニルゲラニオール及びその類縁化合物はほとんどが菌体外に分泌されるため、当該精製法により調製すれば良いが、より生産効率を上げるためには菌体を常法により破砕処理後、単離・抽出すれば菌体内に合成された当該化合物も含めて効率的に抽出することができる。菌体の破砕方法としては、たとえば、超音波破砕、凍結融解による破砕、ガラスビーズ、海砂、金属球等を用いた菌体破砕機、フレンチプレスによる加圧破砕、ペクチナーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、グルカナーゼ等の細胞壁破砕酵素を用いた溶菌及びこれらの組み合わせが考えられ、一般的にカビ・酵母の菌体破壊に用いられている方法であればいずれでもよい。【0027】また、種々の膜ろ過、ケイ藻土濾過、遠心分離等により菌体を除去した培養上清より種々の溶媒・カラムクロマトグラフィーを用いて当該化合物を大量調製することも可能である。上清液より調製した場合、菌体由来の夾雑物の混入を防ぐことができるため、精製が容易になる。【0028】上記のようにして、ジベレリン生産微生物においてゲラニルゲラニル二リン酸よりコパリル二リン酸への反応を触媒するエントカウレン合成酵素を阻害すれば、ゲラニルゲラニオール及びその類縁化合物を生産することができる。同酵素を阻害した場合、その基質であるゲラニルゲラニル二リン酸を蓄積することができるが、これはゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素の生成物であることからさらにゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素が阻害され、その基質であるファルネシル二リン酸を蓄積することができる。ファルネソール、ゲラニルゲラニオールが合成されることより、これらイソプレニル二リン酸は菌体内外のフォスファターゼによって加水分解を受け、プレニルアルコールになると考えられる。従って、さらに生産効率を上げるためには培養液、または菌体破砕抽出物をあらかじめフォスファターゼ処理した後、抽出操作を行えばよい。フォスファターゼとしては種々の酸性、中性、アルカリ性フォスファターゼが考えられ、例えば、ポテト酸性フォスファターゼ、小麦胚芽酸性フォスファターゼ、大腸菌アルカリフォスファターゼ、牛小腸アルカリフォスファターゼなどを用いればよい。酵素反応は培養液1ml当たり数0.1単位〜数十単位加え、数時間〜一晩酵素反応を行なえばよい。また、10〜50%のメタノール等のアルコールを添加して加水分解効率を上げることもできる。【0029】【実施例】以下に本発明を実施例にてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。〔実施例1〕(エントカウレン合成酵素阻害剤添加培地を用いた培養でのゲラニオゲラニオール類の生産)(1)菌の培養Gibberella fujikuroi IFO30336株を8% グルコース、0. 5%リン酸二水素カリウム、0.1%硫酸マグネシウム7水和物、0.048%硝酸アンモニウム、0.000322%硫酸亜鉛7水和物、0.0002%硫酸第一鉄7水和物、0.00003%硫酸銅5水和物、0.00002%硫酸マンガン7水和物、0.00002%モリブデン酸アンモニウム4水和物及びジベレリン合成阻害剤(エントカウレン合成酵素阻害剤、エントカウレン酸化酵素阻害剤、3β−ヒドロキシラーゼ阻害剤)を含む培地(ICI培地)100mlを入れたバッフル付300ml三角フラスコに一白金耳植菌し、25℃で10日間回転培養(150rpm)した。それぞれ添加したジベレリン合成阻害剤濃度および入手先を以下に示す。【0030】(エントカウレン合成酵素阻害剤)Cysocel(サイソセル) (15mg/L) GLサイエンスAMO1618 (15mg/L) 和光純薬Phosfone D(フォスフォンD) (15mg/L) GLサイエンス(エントカウレン酸化酵素阻害剤)Ancimidol(アンシミドール) (15mg/L) GLサイエンスInabenfide(イナベンファイド) (15mg/L) GLサイエンスPaclobutrazol(パークロブトラゾール)(15mg/L) GLサイエンスUniconazol(ウニコナゾール) (15mg/L) GLサイエンスUnikonazol-P(ウニコナゾールP) (15mg/L) GLサイエンス(3β−ヒドロキシラーゼ阻害剤)Prohexadione(プロヘキサジオン) (15mg/L) 林純薬【0031】(2)菌体破砕・ファオファターゼ処理培養液20mlを遠心分離し(5500g、10分、4℃)、菌体と上清に分離した。遠心した残渣を20mlの0.025%トリトンX-100を含む250mM酢酸緩衝液pH4.7に懸濁し、ビードビーター(BIOSPEC社製)による破砕に供した。菌体懸濁液全量を同装置の50mlセルに入れ、酵母破砕用グラスビーズ(シグマ製) をセルの9分目付近まで添加して装置に装着し、氷で冷やしながら3分間破砕した。フォスファターゼ処理が必要な菌体破砕溶液は抽出前に11unitのポテト酸性フォスファターゼ Type ll (シグマ)を加え37℃で一晩酵素処理した後、以下の抽出に供した。【0032】(3)抽出(3−1)培養液上清からのゲラニルゲラニオール及びその誘導体の抽出50mlコーニングチューブに入れた上清液20mlに等量(20ml)のペンタン及び10mlのメタノールを添加し十分に攪拌後、遠心分離(1500g、10分、4℃)し、ペンタン層を新しいコーニングチューブに移す。湯浴中でペンタンを乾固させ、200μlのペンタンに再溶解させバイアル瓶に詰めた。バイアル瓶には内部標準として10μlのウンデカノール溶液(1μl/mlエタノール)をあらかじめいれおく。【0033】なお、フォスファターゼ処理が必要な上清液は抽出前に5mlの1M酢酸緩衝溶液 (pH4.8)、125μlの5%(w/v) Triton X-溶液および11unitのポテト酸性フォスファターゼ Type ll (シグマ)を加え37℃で一晩酵素処理した後、同様の抽出に供した。【0034】(3−2)菌体破砕液からのゲラニルゲラニオール類及びその誘導体の抽出ビードビーターで破砕した菌体破砕溶液を50mlコーニングチューブに移し、10mlのペンタン2ml及びメタノールを添加し十分に攪拌後、遠心分離(16000rpm、10分、4℃)し、ペンタン層を新しい50mlコーニングチューブに移す。次に、室温でペンタンを乾固させた後、200μlのペンタンに再溶解させバイアル瓶に詰めた。この時、培養液上清の場合と同様にバイアル瓶には内部標準をあらかじめいれておいた。【0035】(4)分析こうして得られたゲラニルゲラニオール類及びその誘導体はヒューレットパッカード社製GC/MS5973を用い以下の分析条件で分析した。【0036】【0037】ファルネシルピロリン酸、ゲラニルゲラニルピロリン酸はGC/MSでは直接分析することはできない。フォスファターゼ処理した試料はファルネシルピロリン酸、ゲラニルゲラニルピロリン酸がそれぞれゲラニルゲラニオール、ファルネソールに加水分解しGCMSで測定することができる。従って、フォスファターゼ処理した試料はゲラニルゲラニルピロリン酸とゲラニルゲラニオール、またはファルネシルピロリン酸ファルネソールとが合算した値となる。分析結果を表1に示す。【0038】【表1】【0039】阻害剤非存在下でGibberella fujikuroiを培養した場合、ゲラニルゲラニオール及びファルネソールは検出されないが、エントカウレン合成酵素の阻害剤であるサイソセルまたはAMO1618を培地中に添加すると顕著にファルネソールおよびゲラニルゲラニオールが合成されることがわかる。【0040】〔実施例2〕 (エントカウレン合成酵素阻害剤添加培地を用いた培養でのゲラニオゲラニオール類の生産)実施例1のICI培地を8%グルコース、1.2%硝酸アンモニウム、0.5%りん酸二水素カリウム、0.1%硫酸マグネシウム(7水和物)、0.5%酵母エキス(Difco社製)、1.5%オートミール及び終濃度15mg/Lのサイソセル(GLサイエンス社製)を含む培地(オートミール培地)に換え同様の実験を行なった。分析結果を表2に示す。【0041】【表2】【0042】実施例1と同様にサイソセル、AMO1618を添加するとファルネソール、ゲラニルゲラニオールが合成されるが、実施例1のICI培地に比べ実施例2のオートミール培地では生産性高いことがわかる。【0043】〔実施例3〕(エントカウレン合成酵素阻害剤濃度によるゲラニオゲラニオール類の生産に対する影響)実施例2と同様のオートミール培地10mlに、終濃度0〜200mg/L−培養液のサイソセル(GLサイエンス社製)または終濃度0〜2000mg/L−培養液のフォスフォンDを添加後、Gibberella fujikuroi IFO30336株を植菌し、150rpm、24℃で回転培養した。培養容器はバッフル付きの100ml三角フラスコに綿栓したものを用い、サイソセル、フォスフォンDはメタノールに溶解後フィルター滅菌して添加した。培養開始後、5日、10日、14日目にけん濁液0.8mlを2mlのガラスセルにサンプリングし、等量の海砂Bを加えた後、安井機械社製マルチビーズショッカー MB−200を用いて菌体を完全に破砕した(2500rpm、20分、室温)。次に内容物を内径16mm長さ100ミリの試験管に移し、6mM塩化マグネシウムを含む2Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)0.5ml及び 2.5ユニットの宝酒造社製大腸菌アルカリフォスファターゼを混合し65℃、30分間静置加温し、ゲラニルゲラニル二リン酸の加水分解を行なった。氷上で十分に冷やした後1mlのメタノール及び2mlのペンタンを添加し、十分に攪拌後、ベックマン社製遠心分離機CP Centrifugeで遠心し(500g、5分、室温)、水層と有機溶媒層とに分離した。有機溶媒層を注意深く新しい内径16mm長さ100ミリの試験管に移し、ドラフト内で一晩風乾した。次に、200μlのペンタンに抽出物を溶解し、GCMSバイアル瓶に移した。この時、内部標準として1μl/mlのウンデカノールを含むエタノール溶液10μlをあらかじめバイアル瓶に添加しておいた。生成したゲラニルゲラニオールはヒューレットパカード社製GCMS5973にて以下の条件で分析した。【0044】【0045】このときの分析結果を表3及び4に示す。表3からわかるように添加するサイソセル濃度は0.5〜200mg/L―培養液が好ましいことがわかる。また、実施例1、2ではフォスフォンDの添加効果が認められなかったが、サイソセル、AMO1618に比べ高濃度で用いれば効果があることがわかる。表4から明らかなようにフォスフォンDでは15〜2000mg/L―培養液でゲラニルゲラニオール生成効果が認められた。従って、濃度差はあるにせよエントカウレン合成酵素阻害剤を培地中に添加してGibberella fujikuroiを培養すればゲラニルゲラニオール及びファルネソールを生産できることがわかる。【0046】【表3】【0047】【表4】【0048】〔実施例4〕(ジベレリン合成酵素阻害剤の添加時期によるゲラニオゲラニオール類の生産に対する影響)8%グルコース、1.2%硝酸アンモニウム、0.5%りん酸二水素カリウム、0.1%硫酸マグネシウム(7水和物)、0.5%酵母エキス(Difco社製)、1.5%オートミールを含む培地(オートミール培地)10mlにGibberella fujikuroi IFO30336株を植菌し、150rpm、24℃で14日間回転培養した。なお、培養開始時、開始後3日、5日、7日目に終濃度15mg/Lのサイソセルを添加し培養途中に阻害剤を添加した場合の効果を調べた。培養容器はバッフル付きの100ml三角フラスコを用い、培養開始後5、10、14日目に培養液0.8mlをサンプリングし、実施例3と同様の方法で抽出、GCMS分析した。結果を5に示す。【0049】【表5】【0050】表5から明らかなように培養時、いずれの時期にサイソセルを添加してもゲラニルゲラニオールを合成することができるが、培養初期より添加することが最も効果的であることがわかる。【0051】〔実施例5〕(種々のジベレリン生産株を用いたゲラニオゲラニオール類の生産)IFO5268、IFO9977、IFO30336、IFO30337、IFO31251株をそれぞれ8%グルコース、1.2%硝酸アンモニウム、0.5%りん酸二水素カリウム、0.1%硫酸マグネシウム(7水和物)、0.5%酵母エキス(Difco社製)、1.5%オートミール15mgサイソセル(GLサイエンス社製)を含む培地10mlに植菌し、150rpm、30℃で回転培養した。培養容器はバッフル付きの100ml三角フラスコに綿栓したものを用いた。培養開始後、5日、9日、14日目にけん濁液0.8mlを2mlのガラスセルにサンプリングし、実施例3と同様の方法で抽出し、GCMS分析に供した。このときの分析結果を表6に示す。【0052】【表6】【0053】表6から明らかなようにサイソセルを添加することにより種々のGibberella fujikuroiにおいてゲラニルゲラニオールが生産されることがわかる。【0054】〔実施例6〕8%グルコース、0.5%りん酸二水素カリウム、0.1%硫酸マグネシウム(7水和物)、0.5%酵母エキス(Difco社製)、1.5%オートミール含むオートミール培地100mlをバッフル付きの500ml三角フラスコに入れ、オートクレーブ滅菌した。別滅菌した硝酸アンモニウム及びメタノールに溶解後フィルター滅菌したサイソセル(GLサイエンス社製)をそれぞれ終濃度1.2%、及び15mg/Lになるよう添加した。Gibberella fujikuroi IFO30336株のスラントより一白金耳三角フラスコに植菌し、150rpm、30℃で3日間回転培養した。次に、400gグルコース、25gりん酸カリウム、5g硫酸マグネシウム(7水和物)、25g酵母エキス(Difco社製)、3.75gオートミール、5mlアデカノールL−61(旭電化社製)を含む培地5Lを丸菱バエイオエンジ社製10LジャーファーメンターMSJ−U2Wに入れ蒸気滅菌した。滅菌後温度が室温に戻った後、別滅菌した100mlの6%硝酸アンモニウム溶液及びメタノール0.5mlに溶解した75mgサイソセル(GLサイエンス社製、フィルター滅菌)を添加し本培養液を調製した。三角フラスコの培養液100ml全量を加え、30℃、アジテーター400rpm、通気量1vvm、pH制御なしで84時間培養した。植菌後、経時的にサンプリングし、実施例3に準じてゲラニルゲラニオール及びその誘導体を抽出し、分析した。この時の培養プロフィールを図1に示す。図1から明らかなように糖源であるグルコースが資化されるとともにゲラニルゲラニオール(ゲラニルゲラニル二リン酸を含む)及びファルネソール(ファルネシル二リン酸を含む)がそれぞれ、1.2mg/L、0.3mg/L生成された。【0055】【発明の効果】本発明によれば、医薬品・香料・化粧品・食品に利用可能なテルペン類、カロチノイド類、ステロイド類の生合成中間体として有用な、ゲラニルゲラニオールおよびその類縁化合物を大量にかつ安価に生産することができる。【図面の簡単な説明】【図1】Gibberella fujikuroi IFO30336株のジャーファーメンターを用いた培養プロフィールを示す。 エントカウレン合成酵素活性を低下または欠失させたジベレリン生産菌を培地に培養し、ゲラニルゲラニオールおよびその類縁化合物を菌体内外へ生成蓄積せしめ、これを採取することを特徴とする、ゲラニルゲラニオールおよびその類縁化合物の製造方法。 エントカウレン合成酵素活性の低下または欠失が、ジベレリン生産菌の培養培地にエントカウレン合成酵素阻害剤を添加することにより行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。 エントカウレン合成酵素活性剤が、2’−イソプロピル−4’−(トリメチルアンモニウムクロライド)−5’−メチルフェニルピペリジン−1−カルボキシレートまたは(2−クロルエチル)トリメチルアンモニウムクロライドまたはトリブチル−2、4ジクロロベンジルフォスフォニウムクロライドである、請求項2に記載の方法。 エントカウレン合成酵素活性の低下または欠失が、ジベレリン生産菌の有するエントカウレン合成酵素遺伝子を破壊または改変することにより行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。 培養後、菌体内外へ生成蓄積せしめたゲラニルゲラニオールおよびその類縁化合物を、有機溶媒を添加・混和し、抽出・濃縮することによって採取することを特徴とする、請求項1に記載の方法。 培養後、有機溶媒を添加・混和する前に、ジベレリン生産菌を破砕する工程を含む、請求項5に記載の方法。 培養後、有機溶媒を添加・混和する前に、フォスファターゼを添加、加温する工程を含む、請求項5に記載の方法。 培養後、有機溶媒を添加・混和する前に、ジベレリン生産菌を破砕し、フォスファターゼを添加、加温する工程を含む、請求項5に記載の方法。 ジベレリン生産菌がGibberella属に属する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。 生産されるゲラニルゲラニオールおよびその類縁化合物がゲラニルゲラニオール、ゲラニルゲラニルモノリン酸、ゲラニルゲラニル二リン酸、ファルネソール、ファルネシルモノリン酸、ファルネシル二リン酸であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。