タイトル: | 特許公報(B2)_光学活性化合物の製造法 |
出願番号: | 2000314580 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C12P 41/00,C12R 1/72 |
北 泰行 赤井 周司 中 忠篤 武部 靖 JP 3820866 特許公報(B2) 20060630 2000314580 20001016 光学活性化合物の製造法 ダイソー株式会社 000108993 岸本 瑛之助 100060874 岸本 守一 100024418 渡邊 彰 100079038 日比 紀彦 100083149 清末 康子 100069338 北 泰行 赤井 周司 中 忠篤 武部 靖 JP 1999293149 19991015 20060913 C12P 41/00 20060101AFI20060824BHJP C12R 1/72 20060101ALN20060824BHJP JPC12P41/00 CC12P41/00 CC12R1:72 C12P 41/00 CA/BIOSIS/WPIDS(STN) JST7580(JDream2) JSTPlus(JDream2) 特開平10−057094(JP,A) 3 2001178493 20010703 8 20021217 福間 信子 【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は、医薬、農薬、生理活性物質などの合成中間体として有用な光学活性エステルの製造法に関する。【0002】【従来技術および解決すべき課題】酵素を用いたアルコール類のエステル化反応は、不斉合成の有力な手段として広く利用されている。これは、有機溶媒中で極めて簡単な操作で反応が進行し、高収率、高光学純度の光学活性化合物が得られるためである。特に、アシル化剤として、反応性が高く非可逆的にアセトアルデヒドが生じて反応が進行するビニルエステルは幅広く利用されているものの一つである(J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1991, 1198-1200)。【0003】しかし、このようなアシル化剤を利用する従来法では、アルデヒドが酵素を不活性化したり、また、不安定なアシル基など多種多様なアシル基部分を持つアシル化剤を調製するのが困難であり、このことが酵素反応のより効果的で広範囲な応用や新しい酵素触媒反応の開発に際し妨げとなっている。【0004】これらの問題を解決するものとして、ケテンアセタール型アセチル化剤である脂肪酸1−エトキシビニルを用いるアルコールの光学分割法が提案されているが、この方法でも満足いく効果が得られない(Tetrahedron Lett., 1996, 37, 7369-7372, Tetrahedron Lett., 1997, 38, 4243-4246)。【0005】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、基質アルコールの光学分割に非常に有効で分割効率も高くかつ反応活性も高い、新しいタイプのアシル化剤を見出し、本発明を完成するに至った。【0006】 本発明による光学活性化合物の製造法は、一般式[I]【化4】(式中、R4とR5は互いに結合して脂肪族単環を形成しているアルキル基であり、同単環には芳香環が縮合していてもよい。)で表されるプロキラルな1,3−ジオールまたは一般式[II]【化5】(R6およびR7は、互いに同一であり、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基またはアラルキル基である。R6およびR7の各アルキル基は互いに結合して脂肪族単環を形成していてもよく、さらに同単環には芳香環が縮合していてもよい。)で表されるプロキラルなmeso−1,2−ジオールを、キャンジダ属由来のリパーゼの存在下に、有機溶媒中で、一般式[III]【化6】(式中、Rは複素環基、R1はアルキル基、アリール基、アラルキル基または複素環基である。)で表わされるアシル化剤と作用させて光学活性エステルを生成することを特徴とする光学活性化合物の製造法である。【0007】 本発明による方法において、基質は、上記一般式[I]で表されるプロキラルな1,3−ジオールまたは上記一般式[II]で表されるプロキラルなmeso−1,2−ジオールである。【0009】本明細書全体を通して、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、脂肪族単環基、芳香環基および複素環基はいずれも、置換基を有していてもよい基を意味することとする。この置換基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、アシル基、ジアルキルアミノ基、アミド基などであってよい。【0010】 本発明に用いられるアシル化剤[III]において、Rはチエニル基、フリル基、ピリジル基などの複素環基であり、好ましくはフリル基である。R1はメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのアルキル基;フェニル基、o−トルイル基、m−トルイル基、p−トルイル基、o−クロロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基などの無置換または置換アリール基;ベンジル基、o−メチルベンジル基、m−メチルベンジル基、p−メチルベンジル基などの無置換または置換アラルキル基、チエニル基、フリル基、ピリジル基などの複素環基である。【0011】 アシル化剤[III]は、たとえば文献(J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1993, 2999-3005)記載の方法で合成することができる。【0014】 プロキラルな1,3−プロパンジオール[I]において、R4とR5の各アルキル基は互いに結合してシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂肪族単環を形成している。さらに同脂肪族単環には無置換または置換芳香環が縮合していてもよい。R4とR5の各アルキル基が互いに結合して脂肪族単環を形成し、同単環に芳香環が縮合してなる縮合環は、例えば、インダン環、テトラヒドロナフタレン環、ベンズ[e]インダン環などである。【0015】 プロキラルなmeso−1,2−ジオール[II]において、R6およびR7は、互いに同一であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのアルキル基;エテニル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基;エチニル基、プロピニル基、ブチニル基などのアルキニル基;フェニル基、o−トルイル基、m−トルイル基、p−トルイル基、o−クロロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基などの無置換または置換アリール基;ベンジル基、o−メチルベンジル基、m−メチルベンジル基、p−メチルベンジル基などの無置換または置換アラルキル基である。また、R6およびR7の各アルキル基は互いに結合してシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂肪族単環を形成していてもよい。さらに同脂肪族単環には無置換または置換芳香環が縮合していてもよい。R6およびR7の各アルキル基が互いに結合して脂肪族単環を形成し、同単環に芳香環が縮合してなる縮合環は、例えば、インダン環、テトラヒドロナフタレン環、ベンズ[e]インダン環などである。 基質すなわち上記一般式[I]で表されるプロキラルな1,3−ジオールまたは上記一般式[II]で表されるプロキラルなmeso−1,2−ジオールは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、アシル基、ジアルキルアミノ基、アミド基などの置換基、特にハロゲン原子および/または低級アルコキシ基を有していてもよい。【0016】本発明に用いられる酵素は、精製品でも粗製品でもよく、また、その使用形態についてはこれらを粉末状そのまま用いても、適当な担体に担持させて用いてもよい。担体としては、活性炭、セライト、ゼオライト、アルミナ、シリカゲル、などの金属酸化物などの無機材料、ポリスチレン、デンプン、などの有機材料などが用いられる。【0017】 本発明に用いられる酵素は市販品であってよい。リパーゼAY(以上は天野製薬社製)、リパーゼMY、リパーゼOF(以上は名糖社製)、CRL(シグマ社製)などのキャンジダ・ルゴーサ由来の酵素が好ましく用いられる。【0018】本発明に用いられる有機溶媒は、上記酵素を溶解せず、かつ失活させないものであれば、いずれのものでもよい。このような有機溶媒の例としてはt−ブタノールなどの嵩高い3級アルコール類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテルなどのエーテル類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなどのエステル系溶媒;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒などが挙げられる。好ましくは、アルコール系、エーテル系、炭化水素系または芳香族系などの溶媒が用いられる。【0019】本発明では含水有機溶媒を用いる場合もある。特に、酵素としてキャンジダ・ルゴーサ由来のリパーゼ、例えばリパーゼAY、リパーゼMY、リパーゼOF、CRLなどを用いる場合、含水有機溶媒を用いる方が、反応性および選択性が向上する。【0020】含水有機溶媒使用の場合、有機溶媒中の水の量は有機溶媒1容に対し好ましくは0.0001から0.05容、より好ましくは0.0001から0.01容である。【0021】反応は加圧下に行うこともできるが、通常は常圧で行う。反応温度は、常圧反応の場合、−50℃から溶媒の沸点までの間で行うことができるが、好ましくは0℃〜50℃である。【0022】 基質の濃度は好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは0.1〜20重量%である。基質に対するアシル化剤の量は、好ましくは0.5〜20当量、より好ましくは1〜8当量である。また、酵素濃度は反応液中好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは0.1〜20重量%である。【0023】 生成した光学活性エステルおよび/または残存物を分離取得するには、一般的な分離方法、例えば蒸留、カラムクロマトグラフィーなどの手段が使用できる。【0024】【発明の実施の形態】以下、本発明ケテンアセタール型アシル化剤を用いたリパーゼによる光学分割を示す実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限られたものではない。【0025】実施例1(参考) 50mlねじ口試験管に、アシル化剤として1−エトキシビニル2−フロアート109mg(0.60mmol)と、溶媒として0.1容量%含水イソプロピルエーテル3mlを入れ、さらに基質として2−アリル−2−フェニル−1,3−プロパンジオール(0.20mmol)と、酵素としてリパーゼAY(天野製薬社製)125mgを加えた。試験管にねじ蓋をし、全体を30℃で24時間攪拌した。 次いで、反応液をセライトろ過し、固形物をイソプロピルエーテルで洗浄した。ろ液と洗浄液を合わせて減圧下濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン−酢酸エチル)で精製した。 こうして、光学活性2−アリル−3−ヒドロキシ−2−フェニルプロピル2−フロアートを得た。収率は91%、光学純度は80%eeであった。【0026】次いで、反応液をセライトろ過し、固形物をイソプロピルエーテルで洗浄した。ろ液と洗浄液を合わせて減圧下濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン−酢酸エチル)で精製した。【0027】こうして、光学活性2−アリル−3−ヒドロキシ−2−フェニルプロピル2−フロアートを得た。収率は91%、光学純度は80%eeであった。【0028】実施例2基質ジオールを1,1−ジ(ヒドロキシメチル)−7−メトキシインダンに変え、酵素をリパーゼMY(名糖社製)に変えた以外、実施例1と同様の操作で反応を行った。反応は5時間で終了し、精製後、光学活性(1−ヒドロキシメチル−7−メトキシインダニル)メチル2−フロアートを得た。収率は67%、光学純度は81%eeであった。【0029】実施例3基質ジオールを6−クロロ−1,1−ジ(ヒドロキシメチル)インダンに変え、酵素をリパーゼMY(名糖社製)に変えた以外、実施例1と同様の操作で反応を行った。反応は5時間で終了し、精製後、光学活性(6−クロロ−1−(ヒドロキシメチル)インダニル)メチル2−フロアートを得た。収率は71%、光学純度は85%eeであった。【0030】実施例4基質ジオールを1,1−ジ(ヒドロキシメチル)−5−メトキシインダンに変え、酵素をリパーゼMY(名糖社製)に変えた以外、実施例1と同様の操作で反応を行った。反応は5時間で終了し、精製後、光学活性(1−ヒドロキシメチル−5−メトキシインダニル)メチル2−フロアートを得た。収率は35%、光学純度は92%eeであった。【0031】実施例5基質ジオールを1,1−ジ(ヒドロキシメチル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレンに変え、酵素をリパーゼMY(名糖社製)に変えた以外、実施例1と同様の操作で反応を行った。反応は5時間で終了し、精製後、光学活性(1−ヒドロキシメチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフチル)メチル2−フロアートを得た。収率は84%、光学純度は61%eeであった。【0032】実施例6基質ジオールを1,1−ジ(ヒドロキシメチル)−ベンズ[e]インダンに変え、酵素をリパーゼMY(名糖社製)に変えた以外、実施例1と同様の操作で反応を行った。反応は5時間で終了し、精製後、光学活性[1−(ヒドロキシメチル)ベンズ[e]インダニル]メチル2−フロアートを得た。収率は93%、光学純度78%eeであった。【0033】実施例750mlねじ口試験管に、基質としてシス1,2−シクロヘキサンジオール50mg(0.43mmol)、アシル化剤として1−エトキシビニル2−フロアート196mg(1.08mmol)および酵素としてリパーゼMY(名糖社製)450mgを入れ、溶媒としてt−ブチルメチルエーテル10mlを加え、試験管にねじ蓋をした。全体を45℃で二日間撹拌した。【0034】その後、反応混合物を室温まで放冷し、セライトろ過した。ろ液を減圧下濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル)で精製し、光学活性2−シクロヘキシル2−フロアートを得た。収率は77%、光学純度は97%eeであった。【0035】実施例8(参考) 50mlねじ口試験管に、基質として2−フェニル−2−メチル−1,3−プロパンジオール30mg(0.18mmol)と、酵素として固定化したリパーゼtypeVII (シグマ社製)100mgを入れ、溶媒として0.1容量%含水イソプロピルエーテル1.06mlを入れ、さらにアシル化剤として1−エトキシビニル−2−フロアート49mg(0.27mmol)の含水イソプロピルエーテル溶液0.94mlを加えた。試験管にねじ蓋をし、全体を30℃で5時間撹拌した。【0036】次いで、反応液をセライト濾過し、固形物をイソプロピルエーテルで洗浄した。濾液と洗浄液を合わせて減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液;ヘキサン−酢酸エチル)で精製した。こうして、光学活性2−ヒドロキシメチル−2−フェニルプロピル−2−フロアートを得た。収率は66%、光学純度は99%eeであった。【0037】上記固定化酵素はつぎのように調製した。【0038】イオン交換水(20ml)を入れたナス型フラスコ(容量200ml)を氷水で冷却した。ここにリパーゼLIPASE type VII (シグマ社製)300mgを入れ、同温で撹拌して均一溶液とした後、さらにハイフロスーパーセル(キシダ化学社製)3.0gを加え、全体を均一な懸濁液とした。この懸濁液を寒剤(ドライアイス−アセトン)で氷結させた後、凍結乾燥した(減圧度0.5mmHg、約9時間)。得られた固形物を更に乾燥用シリカゲルを入れたデシケータ内で一夜減圧乾燥(0.5mmHg)し、3.2gの固定化酵素を得た。ハイフロスーパーセルは、市販品を事前にアセトン及びイオン交換水で各々数回洗浄し、その後減圧乾燥した物を使用した。【0039】比較例1アシル化剤を安息香酸1−エトキシビニル115mgに変えた以外、実施例1と同様の操作で反応を行った。反応は1日で終了した。精製後、2−アリル−3−ヒドロキシ−2−フェニルプロピルベンゾエートを得た。光学純度は46%eeであった。【0040】比較例2アシル化剤を安息香酸1−エトキシビニル115mgに変えた以外、実施例4と同様の操作で反応を行った。反応は4日で終了した。精製後の1−ヒドロキシメチル−5−メトキシインダニル)メチルベンゾエートを得た。光学純度は69%eeであった。 一般式[I](式中、R4とR5は互いに結合して脂肪族単環を形成しているアルキル基であり、同単環には芳香環が縮合していてもよい。)で表されるプロキラルな1,3−ジオールまたは一般式[II](R6およびR7は、互いに同一であり、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基またはアラルキル基である。R6およびR7の各アルキル基は互いに結合して脂肪族単環を形成していてもよく、さらに同単環には芳香環が縮合していてもよい。)で表されるプロキラルなmeso−1,2−ジオールを、キャンジダ属由来のリパーゼの存在下に、有機溶媒中で、一般式[III](式中、Rは複素環基、R1はアルキル基、アリール基、アラルキル基または複素環基である。)で表わされるアシル化剤と作用させて光学活性エステルを生成することを特徴とする光学活性化合物の製造法。 R4とR5は互いに結合して脂肪族単環を形成しているアルキル基であり、同単環には芳香環が縮合している請求項1記載の製造法。 一般式[I]で表されるプロキラルな1,3−ジオールまたは上記一般式[II]で表されるプロキラルなmeso−1,2−ジオールがハロゲン原子および/または低級アルコキシ基を有する請求項1または2記載の製造法。