タイトル: | 特許公報(B2)_油脂の製造方法 |
出願番号: | 2000299204 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | C11B 3/12,A23D 9/02,C11C 3/08,C11C 3/12,C12P 7/64 |
岡田 忠幸 山口 浩太郎 JP 4945838 特許公報(B2) 20120316 2000299204 20000929 油脂の製造方法 不二製油株式会社 000236768 岡田 忠幸 山口 浩太郎 20120606 C11B 3/12 20060101AFI20120517BHJP A23D 9/02 20060101ALI20120517BHJP C11C 3/08 20060101ALI20120517BHJP C11C 3/12 20060101ALI20120517BHJP C12P 7/64 20060101ALI20120517BHJP JPC11B3/12A23D9/02C11C3/08C11C3/12C12P7/64 C11B 1/00-15/00 C11C 1/00- 5/02 A23D 7/00- 9/06 C12P 7/00-41/00 国際公開第96/010643(WO,A1) 特開昭62−273293(JP,A) 特開平04−179444(JP,A) 特開昭62−272982(JP,A) 特開平04−261497(JP,A) 特表平08−507566(JP,A) 特開昭62−061589(JP,A) 5 2002105484 20020410 6 20070926 井上 恵理 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は油脂の製造方法に関する。【0002】【従来の技術】エステル交換は油脂の改質法として有効な手段の1つである。エステル交換は従来より化学的な手法、即ちアルカリ金属アルコラート、アルカリ金属、アルカリ金属水酸化物等の物質を触媒として使用するランダムにエステル交換する金属触媒法とリパーゼを使用して位置特異性又はランダムにエステル交換する、酵素的エステル交換法の二種に大別される。【0003】金属触媒法、及び酵素的エステル交換法では、当該エステル交換反応終了時、未反応の脂肪酸エステルが残存したり、反応副生成物であるジグリセリドやモノグリセリドあるいは遊離脂肪酸が生成される。これら、脂肪酸エステル、ジグリセリド、モノグリセリド、遊離脂肪酸の存在は、エステル交換油脂の品質に時として悪影響を及ぼすことが知られている。例えば、トリグリセリドと脂肪酸エステルとをリパーゼを用いた酵素的エステル交換することで得られるカカオ脂を代表とする高付加価値の対称型トリグリセリドを製造する方法においては、上記の不要成分は、高付加価値の対称型トリグリセリドの品質に対して大きく影響を及ぼす為、可及的除去が必要である。【0004】通常、トリグリセリドの主要成分である1,3−飽和−2−不飽和トリグリセリド(以下、SUSと記載することがある)の製造は、トリグリセリド(TG)と脂肪酸またはその1価アルコールエステルとを酵素によるエステル交換反応を行ない、反応後SUSトリグリセリドと脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)が生成されるため、蒸留精製によって脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)を留去している。蒸留精製後、SUS成分を高めるためにSUSトリグリセリドを分別処理により濃縮している。【0005】【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明者らはかかる問題に鑑み、油脂を蒸留精製する際に、異性化を可及的抑制する方法を提供することを目的とする。【0006】本発明者らは、鋭意検討した結果、エステル交換終了後の反応油脂を蒸留精製する際に有機酸を添加して酸性条件下で蒸留精製するとSUS成分の異性化が抑制されることを見い出し、本発明を完成するに至った。【0007】【課題を解決するための手段】即ち、本発明は、トリグリセリド(TG)及び脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)を含む混合物(MX)から脂肪酸またはその1価アルコールエステルの一部または全部を蒸留精製して除去するにあたり、有機酸を添加して行なうことを特徴とする油脂の製造方法を骨子とする。本発明は次の態様を含む。(1)混合物(MX)が選択的エステル交換反応物である上記の方法。(2)混合物(MX)中のトリグリセリド(TG)と脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)合計が95%以上である上記の方法。(3)有機酸添加を有機酸水溶液と混合物(MX)の接触処理により行なう上記の方法。(4)混合物(MX)からの脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)の一部のみを除去後新たな脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)を加えて再度選択的エステル交換反応に供する上記の方法。(5)混合物(MX)からの脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)の一部のみの除去を混合物(MX)からの脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)の全部の除去に比べて15℃以上低温で実施する上記の方法。(6)新たな脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)が混合物(MX)から分離した脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)の水素添加物である上記の方法。【0008】【発明の実施の形態】上記有機酸としては、クエン酸、アスコルビン酸、コハク酸、マレイン酸、シュウ酸等が例示される。有機酸の当該混合物(MX)への添加方法は、水あるいは低級アルコールを含む水溶液に溶解ないしは分散させた状態で添加、または、粉末状態で添加することができる。これらの有機酸は添加、混合することで油脂中に溶解されることが好ましい。【0009】ただ、有機酸の当該混合物(MX)への溶解度は低く、溶けにくいため有機酸が結晶状態で当該混合物(MX)に残存することがあり、このまま蒸留精製すると、脂肪酸またはその1価アルコールエステルが留去される際、有機酸も留去され、留去された有機酸が蒸留装置の配管を詰まらせることがある為、結晶状態で油脂に残存する有機酸は濾過等で除くことが好ましい。【0010】有機酸の添加量は特に限定するものではないが、好ましくは当該混合物(MX)に対し、0.1〜2重量%添加が適当である。添加量が少なすぎると、異性化抑制効果を得難く、過剰に添加しても有機酸の当該混合物(MX)に溶解する量は変わらないため、異性化抑制効果が増加することはない。それよりも上述した当該混合物(MX)に溶解しないで結晶状態での残存する有機酸を除去する手間を要してしまうことから、上記範囲内で添加することが好ましい。【0011】本発明において、混合物(MX)は、トリグリセリド(TG)と脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)のエステル交換反応油脂が代表的に挙げられる。このエステル交換反応は、好ましくはリパーゼ等のエステル活性を有する酵素の存在下で、より好ましくは固定化もしくは菌体内1,3位選択性的リパーゼの存在下で行う。固定化に用いられる1,3位選択性リパーゼとしては、リゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属等の微生物由来のリパーゼ、膵臓リパーゼ等がある。また、混合物(MX)は選択的エステル交換反応油脂に限定されるものではなく、蒸留精製される油脂一般をも広く対象とするものであるが、本発明においての異性化抑制方法は、ハードバターの原料油脂と成り得るSUS成分を主要なトリグリセリド成分とするエステル交換反応油に対して、異性化の抑制効果が大きく現れる。【0012】本発明においては、ハードバターの原料油脂と成り得るSUS成分を主要なトリグリセリド成分とするエステル交換反応油の場合、不要成分(モノグリセリド、ジグリセリド等)が多くなると、ハードバターとしての機能が低下することから、混合物(MX)中のトリグリセリド(TG)と脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)合計が95%以上、好ましくは98%以上であるのがよい。【0013】本発明において、特にステアリン酸エチルとオレイン酸に富んだ油脂とをエステル交換してSUS成分含量の高い油脂を製造する場合、先ず第一段としてステアリン酸エチルとオレイン酸に富んだ油脂とをエステル交換し、反応が終了した段階で反応済みのオレイン酸を結合する1価アルコールエステルを蒸留により留去し、次いで第二段として新しいステアリン酸エチルと先のエステル交換反応油脂とを再度エステル交換反応させて、第一段の反応油脂よりもSUS成分含量の高いエステル交換反応油脂を得、かかる反応油脂から反応済みのオレイン酸を結合する1価アルコールエステルやモノグリセリドあるいは遊離脂肪酸を留去して、SUS成分含量の高いエステル交換反応油脂を製造する方法を採用するのが有利である。以上の方法において、第二段に使用する新しいステアリン酸エチルの代わりに、第一段蒸留時に留去された反応済みのオレイン酸を結合する1価アルコールエステルを水素添加したものが有効に利用できる。【0014】以上の方法において、第一段目の蒸留精製時に留去する反応済みのオレイン酸を結合する1価アルコールエステルは、留去分を一部に留めることにより低い蒸留温度で済むことから熱履歴が少なく異性化反応を軽減できる。この場合、一段目の蒸留温度は二段目の蒸留温度に比べ、15℃以上低温で実施するのが好ましい。【0015】このような方法を採用する場合、第一段の反応終了後に反応済みのオレイン酸を結合する1価アルコールエステルを蒸留精製によって留去する第一段目の蒸留温度は、減圧条件下(通常5トル以下)で約160℃〜200℃であり、次いで第二段の反応終了後に反応済みのオレイン酸を結合する1価アルコールエステルやモノグリセリドあるいは遊離脂肪酸を蒸留精製によって留去する第二段目の蒸留温度は、減圧条件下(通常5トル以下)で約215〜240℃で実施するのであるが、一段目及び二段目蒸留精製時に有機酸を添加し油脂中に混合溶解しておく。この場合、溶解しない酸は、蒸留精製前に濾過等により除去しておくのが好ましい。有機酸が残っていると、蒸留精製に配管が詰まって支障を来す場合があるので除いておくことが好ましい。【0016】【実施例】以下、実施例により本発明の実施態様を説明するが、これは例示であって本発明の精神がこれらに制限されるものではない。なお、例中、部及び%は何れも重量基準を意味する。【0017】[実施例1]市販ステアリン酸エチル(C18純度97.8%)80部と、ハイオレイックひまわり油20部を混合し、1,3特異性を持ちリパーゼを担持したケイソウ土を充填したカラムにてエステル交換反応させた。得られた反応後の混合組成物に終濃度0.2%となるようにイオン交換水に溶かしたクエン酸水溶液を加え、80℃で30分間攪拌した。次いで、110℃で30分脱水を行い、析出したクエン酸を濾過にて除いたものを蒸留精製(2Torr、180℃ 60分)により脂肪酸またはその1価アルコールエステルの一部を除去し、油脂グリセリドを濃縮した。この濃縮された油脂グリセリドに上記の蒸留精製で留去された脂肪酸またはその1価アルコールエステル混合組成物を不飽和脂肪酸エステル及び不飽和脂肪酸が飽和脂肪酸エステル及び飽和脂肪酸になるまで極度硬化し、トリグリセリド/エステル比を20/80になるように加えた。それから水分含量を70ppmに再調整し、再度カラム内で酵素によるエステル交換反応を行った。得られた再反応後の混合組成物を再度クエン酸水溶液を添加処理し蒸留精製(2Torr、230℃ 90分)により脂肪酸エステル及び脂肪酸の全てを除去し、エステル交換油脂グリセリドを得た。その油脂グリセリドの組成をHPLC、TLCにて分析した。また、エステル交換油脂47部とPOPパーツ油脂(「ユニレートP−110N」不二製油(株)製)53部を混合融解し、Jensen C. C.法(BS 684:Section 1.13 Determination of cooling curve)に基づいて冷却曲線を測定した。その分析結果を表1に示す。【0018】[実施例2]実施例1において、反応後の混合組成物に終濃度0.2%となるようにイオン交換水に溶かしたアスコルビン酸水溶液を加え、80℃で30分間攪拌した。次いで、110℃で30分脱水を行い、析出したアスコルビン酸をろ過にて除いたものを蒸留精製した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。【0019】[比較例1]実施例1においてクエン酸による処理を行わずに蒸留精製した以外は、実施例1と同様に行った。結果を実施例1、2と共に表1に示す。【0020】【表1】【0021】また、実施例1、2、及び比較例1で得られた混合油脂(エステル交換反応油脂45部とPOPパーツ油脂(「ユニレートP−110N」不二製油(株)製)55部)12部、カカオマス40部、粉糖48部、レシチン0.5部、の配合でチョコレートを作成しテンパリング特性(剥離性、ブルーム耐性)を確認したところ、比較例1は品質は良好であったが、実施例1、2は比較例1に比べ品質は極めて良好であった。【0022】以上の結果、エステル交換終了後の反応油脂を蒸留精製する際に、反応油脂中に有機酸を添加して蒸留精製すると、SUS成分が異性化を起こし難く、品質良好なエステル交換反応油脂を得る事ができる。【0023】【発明の効果】以上のように、本発明により、従来より油脂を蒸留精製する際に起こりがちなSUS成分の異性化を抑制し得る方法を提供することができるようになった。 トリグリセリド(TG)及び脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)を合計95%重量以上含む選択的エステル交換反応物である混合物(MX)から脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)の一部または全部を蒸留精製して除去して油脂を製造する方法であって、当該除去をクエン酸、アスコルビン酸、コハク酸、マレイン酸およびシュウ酸からなる群より選ばれた有機酸を添加して行うことを特徴とする油脂の製造方法。 有機酸添加を有機酸水溶液と混合物(MX)の接触処理により行う請求項1記載の方法。 混合物(MX)からの脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)の一部のみを除去後新たな脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)を加えて再度選択的エステル交換反応に供する請求項1または2記載の方法。 混合物(MX)からの脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)の一部のみの除去を混合物(MX)からの脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)の全部の除去に比べて15℃以上低温で実施する請求項1乃至3いずれかに記載の方法。 新たな脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)が混合物(MX)から分離した脂肪酸またはその1価アルコールエステル(FA)の水素添加物である請求項3記載の方法。