タイトル: | 特許公報(B2)_ヘモグロビン小胞体の光還元法 |
出願番号: | 2000175611 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | A61K 38/16,A61K 9/08,A61K 47/10,A61K 47/18,A61K 47/22,A61K 47/26,A61M 1/36,A61P 7/00 |
土田 英俊 酒井 宏水 小沼 浩人 武岡 真司 JP 4181290 特許公報(B2) 20080905 2000175611 20000612 ヘモグロビン小胞体の光還元法 学校法人早稲田大学 899000068 鈴江 武彦 100058479 河野 哲 100091351 中村 誠 100088683 蔵田 昌俊 100108855 峰 隆司 100075672 福原 淑弘 100109830 村松 貞男 100084618 橋本 良郎 100092196 土田 英俊 酒井 宏水 小沼 浩人 武岡 真司 20081112 A61K 38/16 20060101AFI20081023BHJP A61K 9/08 20060101ALI20081023BHJP A61K 47/10 20060101ALI20081023BHJP A61K 47/18 20060101ALI20081023BHJP A61K 47/22 20060101ALI20081023BHJP A61K 47/26 20060101ALI20081023BHJP A61M 1/36 20060101ALI20081023BHJP A61P 7/00 20060101ALI20081023BHJP JPA61K37/14A61K9/08A61K47/10A61K47/18A61K47/22A61K47/26A61M1/36 535A61P7/00 A61K 38/42 A61K 9/08 A61P 7/00 BIOSIS(STN) CAplus(STN) EMBASE(STN) MEDLINE(STN) JSTPlus(JDreamII) JMEDPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) 特開平04−059735(JP,A) 特開昭62−224368(JP,A) 酒井 宏水 他,高分子学会予稿集,1999年,Vol.48, No.12,pp.2965-2966 酒井 宏水 他,高分子学会予稿集,2000年 5月,Vol.49, No.5,p.941 小沼 浩人 他,日本化学会講演予稿集,2000年 3月,Vol.78th, No.2,p.711 EVERSE, J.,METHODS IN ENZYMOLOGY,1994年,Vol.231,pp.524-536 3 2001354585 20011225 10 20041012 安居 拓哉 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、酸素輸液であるヘモグロビン小胞体分散液において、ヘモグロビンの酸化により失った酸素結合能を復元させ、酸素輸液の酸素運搬機能を長時間持続させるための方法に関する。【0002】なお、ヘモグロビン小胞体を含む小胞体分散液は、医学および薬学において広く応用が可能であり、特に、種々の添加物を加えて臨床治療における血液代替物として利用される。【0003】【従来の技術】人血を血管内に注入する現行の輸血システムには、次のような問題点が指摘されている:1)感染(肝炎、エイズウイルスなど)の可能性があること;2)赤血球の保存期限が3週間であること;3)高齢化社会の到来で、輸血患者のうち高齢者の割合が高くなる一方、健康献血者総数が低下し続けていること;4)保存中に汚染の危険があること;5)信仰上の理由で輸血を拒否する患者に対して適用できないこと;6)災害時の緊急需要に対応できないこと。【0004】従って、血液型に関係なく何時でも即応できる代替物に対する要求が大きく、その一つとして、電解質輸液、膠質輸液等の輸液製剤が従来広く使用されてきた。しかし、これらの輸液製剤は血液の最も重要な機能、即ち酸素を運搬する赤血球機能の代替機能を有してないため、この酸素運搬機能をも代替する物質(酸素輸液)の開発が課題になっている。【0005】酸素の結合解離機能を有するヘモグロビン(ヒトヘモグロビン、ウシヘモグロビン、および組換えヘモグロビン)を用いた酸素輸液の開発も進められており、分子内架橋ヘモグロビン、水溶性高分子結合ヘモグロビン、分子間架橋重合ヘモグロビンなどの臨床試験が欧米で進行しているが、非細胞型構造に起因する各種の副作用が指摘されるにつれ、ヘモグロビンをカプセルに封入した所謂細胞型構造の重要性が明確になってきた。【0006】生体成分であるリン脂質が単独で小胞体あるいはリポソーム構造を形成することが発見され、DjordjevichとMiller(Fed. Proc. 36, 567, 1977)がリン脂質/コレステロール/脂肪酸からなるリポソームを利用したヘモグロビン小胞体の検討を開始して以来、出願人らのグループを含む幾つかのグループで、ヘモグロビン小胞体の研究が精力的に展開されてきた。ヘモグロビン小胞体は、1)ヘモグロビンを修飾せずにそのまま使えること;2)粘度、膠質浸透圧および酸素親和度を任意の値に調節できること;3)血中滞留時間が延長されること;4)各種添加剤を小胞体内水相に高濃度で封入できる等の利点を有する。これらのうち、特に4)の利点は本発明において重要である。発明者等は、これまでにヘモグロビン小胞体の効率的な調製法を独自に確立し、諸物性値が血液に極めて近いヘモグロビン小胞体輸液を得ており、これについては動物投与試験でも優れた酸素運搬能を確認している(Tsuchida ed. Blood Substitutes Present and Future Perspectives, Elsevier, Amsterdam, 1998)。【0007】ヘモグロビンは4個のヘムを含有しており、そのヘム鉄が二価鉄(Fe2+)であるときは酸素を可逆的に結合できるが、ヘム鉄が酸化型の三価鉄(Fe3+)になったメトヘモグロビンは酸素を結合できない。また、酸素を結合したヘモグロビンは徐々にスーパーオキシドアニオンを遊離してメトヘモグロビンとなる。更に、このスーパーオキシドアニオンが酸化剤として作用し、メトヘモグロビンの生成を促進する。赤血球内にはメトヘモグロビン還元系および活性酸素消去系が存在し、メトヘモグロビン含量が増大しない機構が作用するが、精製ヘモグロビンを用いるヘモグロビン小胞体では、精製工程でこれらの酵素系をすべて除去しているので、保存中および投与後にヘモグロビンの酸化が生じて酸素運搬能力が低下する。この酸化反応を抑制する方法として、ヘモグロビン精製工程で酵素活性を喪失しないような穏和な条件で精製を行う方法(緒方ら、人工血液2、62-66、1994)、グルタチオン、ホモシステインおよび/またはアスコルビン酸などの還元剤、並びにカタラーゼおよび/またはスーパーオキシドディスムターゼ等のような活性酸素を消去する酵素を添加する方法(Sakai et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 1994)、および電子伝達物質としてメチレンブルーを小胞体膜に導入し、小胞体の外水相に添加したNADHからの電子移動により小胞体に内包されたメトヘモグロビンを還元する方法(Takeoka et al., Bull. Chem. Soc. Jpn, 70, 1171-1178, 1997)等が試みられている。【0008】一方、メトヘモグロビンあるいはチトクロムCが光照射により還元される現象が、酸素輸液とは関係なく、VorkinkおよびCusanovichによって最初に報告された(Photochem. Photobiol. 19, 205-215, 1974)。これ以外にも、ミオグロビン、チトクロムオキシダーゼ等でも同様に、光照射により還元反応が進行する現象が見出されて以来、多くの生化学者によってヘムタンパク質の光還元が研究されてきた(Kitagawa & Nagai, Nature, 281, 503-504, 1979;Kitagawa et al., J. Sm. Chem. Soc. 106, 1860-1862, 1984;Morikis et al., J. Biol. Chem. 265, 12143-22145, 1990;Sage et al., J. Chem. Phys. 90, 3015-3032, 1989;Gu et al., J. Am. Chem. Soc. 115, 4993-5004, 1993;Pierre et al., Eur. J. Biochem. 124, 533-537, 1982;Bazin et al., Eur. J. Biochem. 124, 539-544, 1982)。【0009】また、酸化型フラビンを各種犠牲試薬とトンにメトヘモグロビン溶液に添加して450nm付近の可視光を照射すると還元型フラビンが生成し、これがメトヘモグロビンを還元する現象も良く知られている(Yubisui et al., J. Biol. Chem. 255, 11694-11697, 1980;Everse, Methods Enzymol. 231, 524-536, 1994)。【0010】【発明が解決しようとする課題】上記で述べた酸化したヘモグロビン小胞体の従来の還元法には以下に示すような問題がある。【0011】まず、血液を原料として使用する場合の基本的問題として、ヘモグロビンの精製工程においてウイルスの不活性化が必要とされるため、アルブミン製剤と同様に、ヘモグロビンについても60℃で10時間以上の加熱が望まれる。その際に、赤血球に本来存在するメトヘモグロビン還元酵素系も変成して失活する。これら酵素系の活性を残すために低張溶血法による穏和な精製に止めれば、得られるヘモグロビン小胞体の酸化は抑制できるが、ウイルスの不活性化を達成できない。また、酵素系は化学的に不安定であるために、保存中に活性が低下する。【0012】そこで、上記で述べたようにグルタチオンやホモシステインのような比較的穏和な還元剤をヘモグロビン小胞体に内包させれば、三価鉄に酸化されたヘム鉄が二価鉄へと還元され、総体的に酸化反応は抑制される。しかし、これらの還元剤は、メトヘモグロビンが存在しない場合でも酸素により僅かながら酸化されて次第に失活する。従って、メトヘモグロビン含量が増大したときにだけ還元活性を示し、これをヘモグロビンに還元する系が望まれている。【0013】また、既述したように、希薄なメトヘモグロビン溶液に光照射して還元反応を開始させる現象について報告があるが、実際には、この現象は均一溶液系では効率が極めて低いという問題がある。【0014】本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、酸化により可逆的な酸素結合能力を喪失したヘモグロビン小胞体を効率的に復元するための方法および装置を提供することを目的とする。【0015】【課題を解決するための手段】発明者らは長年に亘って酸素輸液の系統的研究を重ね、メトヘモグロビンを生じたヘモグロビン小胞体の酸素結合能を復元する方法を開発すべく鋭意努力を続けた結果、上記の問題を解決できる本発明に想到したものである。【0016】即ち、本発明は、酸素輸液として使用するヘモグロビン小胞体分散液の低下した酸素結合能を回復させる方法であって:リン脂質小胞体内にヘモグロビン水溶液を内包し且つ前記小胞体の内水相に電子供与体を含有するヘモグロビン小胞体の分散液に対して、前記ヘモグロビンが酸化してメトヘモグロビンとなり酸素結合能が低下したときに光を照射することにより、メトヘモグロビンをヘモグロビンに還元し、その酸素結合能を回復させることを特徴とする方法である。【0017】また、本発明による装置は、上記本発明の方法を実施するための装置であって:請求項1で定義したヘモグロビン小胞体分散液を生体内に静脈投与した後、その酸素結合能がメトヘモグロビンの生起により低下したときに血液を生体外に取り出すための採血手段と;該採血手段から得られた血液から、前記ヘモグロビン小胞体を分離するための分離手段と;分離された前記ヘモグロビン小胞体の酸素結合能を回復するために、該小胞体に光を照射するための手段と;前記酸素結合能を回復したヘモグロビン小胞体を、前記生体内に戻すための手段とを具備した装置である。【0018】【実施の形態】以下、本発明の方法を詳細に説明する。【0019】本発明におけるヘモグロビン小胞体は、発明者らが既に公表した方法(Sakai et al., Biotechnol. Progress, 12, 119-125, 1996;Bioconjugate Chem. 8, 23-30, 1997)によって調製することができる。本発明を適用するためのヘモグロビン小胞体は、この公知の方法でヘモグロビン小胞体を調製する際に、該小胞体に内包させる濃厚ヘモグロビン溶液に、予め電子供与体を含有させておくことにより得ることができる。この電子供与体としては、例えば1〜300 mMの、水酸基を有するアルコール類(グリセリン、クエン酸等;更に、マンニトール、グルコース、スクロース、マルトース、ヒアルロン酸等の糖類を含む)またはアミノ酸(例えばトリプトファン、チロシン、ヒスチジン、メチオニン、セリン等)を用いることができる。或いは、電子移動の中間体として、1μM〜100 mMのフラビン類(フラビンモノヌクレオチド:FMN、フラビンアデニンジヌクレオチド:FAD、ルミフラビン、ジクロロリボフラビン、リボフラビン:ビタミンB2、10-メチルイソアロキサジン)等のイソアロキサジン環を有する物質を添加する。また、その他の中間体としては、例えばフェナジンメトサルフェート等のフェナジン環を有する物質、メチレンブルー等のフェノチアジン環を有する物質、1,1’-ジメチル-4,4’-ビピリジルおよびルテニウムトリ(2,2’-ビピリジン)などのビピリジル基を有する物質、クレシルブルー等のフェナゾニウム環を有する物質、インジゴスルホン酸等のインジゴ基を有する物質、1-ナフトール-2-スルホン酸インドフェノール等のインドフェノール環を有する物質、トルイレンブルーなどのインダミン類の物質、アントラキノン-1,5-ジスルホン酸等のアントラキノン環を有する物質、1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸等のナフトキノン環を有する物質、ベンゾキノン環を有する物質、N,N,N,N-テトラメチル-p-フェニレンジアミン等のベンゾアミン環を有する物質、カルバゾール基を有する物質、インドール環を有する物質、ポルフィリン環を有する物質等、いわゆる光増感剤として作動する物質を選んで添加する。なお、これら電子移動の中間媒質は、還元体のときにメトヘモグロビンへの電子供与体として作動するので、この中間媒体への電子供与体としてメチオニン、システイン等のアミノ酸、ニコチン、アスコルビン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジメチルアミノプロパノール等を1〜300mMの量で同時に添加する。【0020】上記で得られたヘモグロビン小胞体は、ヘモグロビンがメトヘモグロビンに酸化された後に本発明を適用することにより、これをヘモグロビンに還元して酸素結合能を回復することができる。例えば、自動酸化により生じたメトヘモグロビンを含有するヘモグロビン小胞体分散液、または亜硝酸ナトリウムの添加によりメトヘモグロビンに酸化したヘモグロビン小胞体分散液を用いて、本発明の効果を確認することができる。即ち、この分散液を生理塩水溶液で所定の成分濃度(例えば、ヘモグロビン濃度2.5μM)に希釈する。このとき、ヘモグロビン小胞体分散液を希釈しても、小胞体内水相の成分濃度は希釈されずにそのまま維持される。このことは、本発明の方法を適用する上で極めて有利である。次いで、光を透過するガラス製、プラスチック製もしくは石英製の密封セル、または循環できるセルに収容し、これに紫外・可視領域の光(280〜600 nm)を照射する。その際、所望の波長領域の光を得るために、フィルターの組合わせおよびレーザー光源を選択すればよい。これにより、小胞体中のメト化したメトヘモグロビンは次第に還元される。【0021】本発明の方法は、生体内に投与された後に生体内でメト化したヘモグロビン小胞体を、生体外に取り出して光還元により酸素結合能を回復させ、これを再度生体内に投与する態様で実施することもできる。例えば、出血性ショックの際の蘇生液、血液希釈、体外循環等の各種の適用において、上記ヘモグロビン小胞体を生体内に投与すると、これに含まれるヘモグロビンは次第にメトヘモグロビンに酸化されて酸素運搬能力が低下する。このようなときに、カテーテルを経由して血液の一部を体外に取り出した後、例えば図1に示すような装置を用いて本発明の方法を実施するのが好ましい。【0022】図1の装置において、カテーテルを介して採取された血液は、ポンプ1により遠心分離ユニット2に送られる。遠心分離ユニット2では、血液を血球成分層とヘモグロビン小胞体を含有する血漿層とに分離する。ヘモグロビン小胞体の粒径は200〜300 nmであり、血球成分に比較して1/40と小さいため両者は容易に分離され、ヘモグロビン小胞体は血漿層に浮遊した状態で回収される。ヘモグロビン小胞体を含有する血漿層は、ポンプ3により透明な照射装置5に通される。照射装置を通る際に、血液は光源6から所定波長の光を照射されて、メトヘモグロビンのヘモグロビンへの還元が行われる。このように、血球成分とヘモグロビン小胞体とを分離し、ヘモグロビン小胞体にのみ光照射を行うので、赤血球内ヘモグロビンの光吸収による光還元の阻害や、血球成分自体への光照射の影響を低減することができる。また、酸素は本発明の光還元を阻害する場合があるので、酸素除去装置4(例えば人工肺)等を利用して、溶液中の酸素を除去することが好ましい。なお、光還元反応における光照射の効率を高めるために、被照射液を希釈したり液厚をできるだけ薄くする必要があるので、照射装置5では、例えば被照射液を中空ファイバー内で循環させたり、液膜を形成させてこれに光を照射するようにするのが好ましい。こうして光還元された血漿層は、遠心分離ユニット2で分離された血球層と合体され、ポンプ7により体内に返血される。【0023】以上説明したように、本発明によれば、ヘモグロビン小胞体が酸化されて酸素結合能力が低下したときに、光照射をすることによって酸素結合能を回復することができる。例えば長期保存後にメトヘモグロビンが生じている場合に、光照射により還元してから体内投与を行えば、酸素運搬能を最大限活用することができる。また、体内投与すると血管内を循環するうちに次第にメトヘモグロビン量が増大するが、このときにも経皮的にまたは上述の体外循環経路を設けて光照射すれば、酸化したヘモグロビン小胞体は還元型ヘモグロビン小胞体に変換され、再度酸素を結合することができ、結果として酸素輸液としての機能を持続することができる。【0024】本発明の作用において留意すべき重要なことは、電子供与体としての添加剤とヘモグロビンが濃度高く小胞体に内包されているので、均一溶液系よりも速やかな還元が可能になることである。また光照射を停止すれば還元反応も停止するので、電子供与体の酸素酸化による消費も抑えられる。【0025】【実施例】次に、実施例を挙げて本発明をより詳しく説明する。【0026】実施例1無菌的雰囲気において、献血液由来のヒト赤血球から精製して得た高純度ストロマフリーヘモグロビン溶液(40g/dL,6.2mM)に、マンニトールを濃度10mMおよび100mMとなるように添加した。このときのモル比[マンニトール]/[ヘモグロビン]はそれぞれ1.6,16である。RemolinoTM(日本Millipore社製)を用いて孔径0.22μmのFMミクロフィルター(富士フィルム社製)で濾過し、仕込みヘモグロビン溶液を得た。混合脂質粉末Presone PPG-I(ホスファチジルコリン/コレステロール/ホスファチジルグリセロールの混合物、日本精化社製)を脂質濃度が4.5wt%となるように少量ずつ添加し、4℃で終夜撹拌してヘモグロビン内包多重層小胞体を得た。Remolinoを用いたエクストルージョン法により粒径及び被覆層数の制御を行った。FMミクロフィルターを孔径3,0.8,0.65,0.45,0.3,0.22μmの順に使用した。得られたヘモグロビン小胞体溶液を生理食塩水で希釈し、超遠心分離(50,000g,40min)後に上澄みヘモグロビン溶液を吸引除去した。生理食塩水に溶解させたポリオキシエチレン結合脂質[N-(モノメトキシポリエチレングリコール-カルバミル)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン;N-(monomethoxy polyethyleneglycol-carbamyl)distearoyl phosphatidylethanolamine、ポリエチレングリコール鎖の分子量は5300]を、小胞体外表面の脂質の0.3mol%分を滴下し、25℃で二時間撹拌後に4℃で終夜撹拌してヘモグロビン小胞体の表面をポリエチレングリコールで修飾した。ヘモグロビン濃度を10g/dLとし、Dismic-25:0.45μmフィルター(ADVANTEC)で濾過し、ポリエチレングリコールで修飾したヘモグロビン小胞体を得た。【0027】ヘモグロビン小胞体分散液に亜硝酸ナトリウムを添加し、メトヘモグロビン含量をほぼ100%とした。超遠心分離により小胞体を沈殿させて上清の亜硝酸ナトリウムを完全に除去した後、石英製のセルにメトヘモグロビン濃度2.5μMになるようにリン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)入れて、一酸化炭素を通気した。超高圧水銀ランプ(USH-250D,ウシオ電機)とフィルター(U-360,HOYA)を組合わせて、365nmを中心とする光を照射した。メトヘモグロビンの最大吸収波長は405nmであるが、これが次第に減少して代わって419nmの一酸化炭素結合ヘモグロビン小胞体に変換した。還元はマンニトール10mM内包した系では10分で60%が、100mM内包した系では65%が還元された。またマンニトール10mM内包した系では50分で、100mM内包した系では30分以内に完了した。次に、ハロゲンランプ(500W)を用い、酸素通気下で3分間可視光照射すると、最大吸収波長は415nmに変化したことから、一酸化炭素結合ヘモグロビン小胞体は酸素を結合したオキシヘモグロビン小胞体に変換された。【0028】実施例2実施例1で調製した100mMのマンニトールを内水相に有するメトヘモグロビン小胞体を石英製のセルにメトヘモグロビン濃度2.5μMになるように入れて、アルゴン雰囲気下、同様の光照射をしたところ、デオキシヘモグロビン由来の430nmの吸収が増大し120分で80%の還元が進行した。これに酸素を通気すると415nmにピークが出現し、酸素を結合したオキシヘモグロビン小胞体の生成を確認した。【0029】比較例1メトヘモグロビン溶液(リン酸緩衝生理食塩水,pH7.4)を濃度2.5μMとし、これにマンニトールをモル比で16倍量添加し、ヘモグロビン小胞体と同一の条件で光還元を実施した。一酸化炭素雰囲気における還元は、120分で70%進行したに留まった。マンニトールの添加量をヘモグロビンに対して40000倍モル(100mM)までに高めると50分で還元が完了した。また、アルゴン雰囲気では還元は進行しなかった。従って、ヘモグロビン溶液ではヘモグロビン小胞体に比較して還元の効率が劣り、高濃度のマンニトール添加の必要があることが明らかとなった。【0030】実施例3実施例1のヘモグロビン小胞体調製法において、マンニトールの代わりにトリプトファンを内水相ヘモグロビンに10mMおよび100mM導入した場合について同様の調製法によりトリプトファン内包ヘモグロビン小胞体を得た。このときのモル比[トリプトファン]/[ヘモグロビン]はそれぞれ1.6,16である。37℃にてインキュベーションを48時間すると、メトヘモグロビン含量が42%に達した。これを石英製のセルにヘモグロビン濃度2.5μMになるように入れて、一酸化炭素を通気した。同様の方法により365nmを中心とする光を照射した。メトヘモグロビンの最大吸収波長は405nmであるが、これが次第に減少して代わって419nmのピークが増大し、一酸化炭素結合型ヘモグロビン小胞体に変換した。還元はトリプトファン10mM内包した系では10分で33%が、100mM内包した系では43%が還元された。またトリプトファン10mM内包した系では90分で、100mM内包した系では50分以内に完了した。続いて可視光を照射しながら酸素を通気させると速やかに最大吸収波長は415nmに変化したことから、酸素を結合したオキシヘモグロビン小胞体に変換されたことを確認した。【0031】実施例4実施例1のヘモグロビン小胞体調製法において、マンニトールの代わりにフラビンモノヌクレオチドを5 mMと、メチオニンを200 mM添加した場合について同様の調製法によりヘモグロビン小胞体を得た。37℃にて遮光してインキュベーションを48時間すると、メトヘモグロビン含量が40%に達した。これを硝子製のセルにヘモグロビン濃度2.5μMになるように入れて、窒素を通気した。ハロゲンランプ(500W)とフィルター(L-39/HA-30,HOYA)を組合わせて、400−600 nmの可視光を照射した。Q帯スペクトルは次第に555nmの最大吸収波長を示し、デオキシ型ヘモグロビン小胞体に還元されたことを確認した。還元は5分以内に完了した。続いて酸素を通気させるとQ帯のスペクトルは555nmのピークは消失し、かわって最大吸収波長541nm,576nmを示したことから、酸素を結合したオキシヘモグロビン小胞体に変換されたことを確認した。【0032】実施例5Wistar系ラット(雄、300g)をネンブタール腹腔内麻酔させたのち、頸動脈と頸静脈に挿管した。グルコース100mM内包ヘモグロビン小胞体分散液(ヘモグロビン濃度10g/dL,4mL)を頸静脈より1mL/minの速度で投与した。12時間後に頸動脈から2mLの血液を抜き取り、これをEDTA添加済の採血管(テルモ)に入れて遠心分離(2000g,10分)することでヘモグロビン小胞体分散液を上澄みに得た。下層の血球成分は生理食塩水で希釈して頸静脈より直ちに投与した。上層のヘモグロビン小胞体溶液は、30%のヘモグロビンが酸化されていた。このメトヘモグロビン小胞体を石英製のセルに入れて窒素をバブルしたのち365nmを中心とする光を照射し、還元を行った。還元型のデオキシヘモグロビン含量が95%になったところで光照射を止め、孔径0.45μmの滅菌フィルタを通過させた後に頸静脈より投与した。【0033】実施例6雑種犬(雄、8kg)を塩酸ケタミン筋注、ネンブタールで全身麻酔し、気管内挿管して機械呼吸管理とした。一回換気量20mL/kg,呼吸回数を12回/minとした。大腿動脈より240mLを急速脱血すると、体動脈圧は初期値の約50%にまで低下した。実施例4で調製したフラビンモノヌクレオチドを20μMと、メチオニンを100mMを内水相に含むヘモグロビン小胞体を静注したところ、血圧は脱血前と同等にまで回復した。12時間経過後にヘモグロビン小胞体のメト化率は40%に達していたので、血液を100mL大腿動脈から採血し、これを生理食塩水で三倍希釈したのち、限外濾過膜(Millipore社製、ミニカセットDVPP,公称分画径0.65μm、濾過面積0.1m2)を用いて血球成分とヘモグロビン小胞体を分離した。血球成分は循環相側で濃縮され、分離後に直ちに静注した。濾液のヘモグロビン小胞体の分散液は、1リットルの硝子容器に入れた後、撹拌しながら可視光(360W−ナトリウムランプ、理工科学産業)を照射した。95%以上の還元率に到達したことを確認後に照射を止め、限外濾過膜(Millipore社製、Biomax-1000,公称限外分子量1000kDa)にて濃縮後、静注した。【0034】実施例7ヌードラット(雄、250 g)をネンブタール腹腔内麻酔させた後、頚動脈と頚静脈に挿管し、頚動脈から血液を1 mL/minの速度で3 mLを採取し、出血ショック状態とした。30分後に実施例4で調製したフラビンモノヌクレオチド100μMを、メチオニン100 mMとを内水相に含むヘモグロビン小胞体分散液(ヘモグロビン濃度10 g/dL, 3mL)を頚静脈より1mL/minの速度で投与した。24時間経過後に頚動脈から血液を100μL抜き取り、ヘモグロビン小胞体のメトヘモグロビン含量を測定したところ、48%に達していた。ヌードラットを硝子板の上に置き、360Wのナトリウムランプ(理工化学産業)二本を用いて上下から可視光を照射した。目には光が当たらないように、頭部全体には黒い布をかぶせた。10分間照射した後、頚動脈より血液を100μL抜き取り、ヘモグロビン小胞体のメトヘモグロビン含量を測定したところ、21%にまで低下していた。これにより、本発明の方法は光りを経皮的に照射した場合にも効果が得られることが分かった。【図面の簡単な説明】【図1】本発明を体外循環に適用して実施する装置の一実施例を示す図である。【図2】マンニトールまたはトリプトファンを10mMまたは100mM内包したヘモグロビン小胞体を酸化させた後、一酸化炭素(CO)またはアルゴン(Ar)雰囲気において超高圧水銀ランプ(USH-250D,ウシオ電機)とフィルター(U-360,HOYA)を組合わせて、365nmを中心とする光を照射したときの還元率の推移を示した図である。Hb濃度は2.5μM。【符号の説明】1,3,6…ポンプ、2…遠心分離ユニット、4…照射装置、5…光源。 酸素輸液として使用するヘモグロビン小胞体分散液の長期保存中に低下した酸素結合能を回復させる方法であって: リン脂質小胞体内にヘモグロビン水溶液を内包し且つ前記小胞体の内水相に電子供与体を含有し、その状態では電子移動が生起しないヘモグロビン小胞体の分散液に対して、前記ヘモグロビンがメトヘモグロビンに酸化されて酸素結合能が低下したときに光を照射することを含んでなり、該光照射によってのみ電子移動が生起されてメトヘモグロビンがヘモグロビンに還元され、その酸素結合能が回復されることを特徴とする方法。 前記電子供与体がアミノ酸類、糖類、アルコール類およびフラビン類からなる群から選択される請求項1に記載の方法。 酸素輸液として使用するヘモグロビン小胞体分散液の低下した酸素結合能を回復させる方法を実施するための装置であって: 請求項1で定義したヘモグロビン小胞体分散液を生体内に静脈投与した後、メトヘモグロビンの生起によりその酸素結合能が低下したときに血液を生体外に取り出すための採血手段と、 該採血手段から得られた血液から、前記ヘモグロビン小胞体を分離するための分離手段と、 分離された前記ヘモグロビン小胞体の酸素結合能を回復するために、該小胞体に光を照射するための手段と、 前記酸素結合能を回復したヘモグロビン小胞体を、前記生体内に戻すための手段とを具備した装置。