タイトル: | 特許公報(B2)_L−アルギニンの製造法 |
出願番号: | 2000153471 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 1/21,C12P 13/10,C12R 1/15 |
桑原 陽子 倉橋 修 中松 亘 JP 4178720 特許公報(B2) 20080905 2000153471 20000524 L−アルギニンの製造法 味の素株式会社 000000066 遠山 勉 100089244 松倉 秀実 100090516 川口 嘉之 100100549 桑原 陽子 倉橋 修 中松 亘 JP 1999156616 19990603 20081112 C12N 15/09 20060101AFI20081023BHJP C12N 1/21 20060101ALI20081023BHJP C12P 13/10 20060101ALI20081023BHJP C12R 1/15 20060101ALN20081023BHJP JPC12N15/00 AC12N1/21C12P13/10 BC12N15/00 AC12R1:15C12N1/21C12R1:15C12P13/10 BC12R1:15 C12N 15/00-15/90 C12P 13/00-13/24 MEDLINE/CAplus/BIOSIS/WPIDS(STN) PubMed Science Direct JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開昭63−214189(JP,A) 特開昭61−268185(JP,A) アミノ酸発酵,学会出版センター,1986年 5月,p.243-263 3 2001046082 20010220 11 20050801 戸来 幸男 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、L−アルギニン生産菌及びL−アルギニンの製造法に関する。L−アルギニンは、肝機能促進薬、アミノ酸輸液及び総合アミノ酸製剤等の成分として、産業上有用なアミノ酸である。【0002】【従来の技術】従来、発酵法によるL−アルギニンの製造は、コリネ型細菌野生株;サルファ剤、2−チアゾールアラニン又はα−アミノ−β−ヒドロキシ吉草酸等の薬剤に耐性を有するコリネ型細菌;2−チアゾールアラニン耐性に加えて、L−ヒスチジン、L−プロリン、L−スレオニン、L−イソロイシン、L−メチオニンまたはL−トリプトファン要求性を有するコリネ型細菌(特開昭54−44096号);ケトマロン酸、フルオロマロン酸又はモノフルオロ酢酸に耐性を有するコリネ型細菌(特開昭57−18989号);アルギニノールに耐性を有するコリネ型細菌(特開昭62−24075号);または、X−グアニジン(Xは脂肪酸又は脂肪鎖の誘導体)に耐性を有するコリネ型細菌(特開平2−186995号)等を用いて行われている。【0003】一方、組換えDNA技術によりL−アルギニンの生合成酵素を増強することによって、L−アルギニンの生産能を増加させる種々の技術が開示されている。例えば、エシェリヒア属に属する微生物由来のアセチルオルニチンデアセチラーゼ、N−アセチルグルタミン酸−γ−セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、N−アセチルグルタモキナーゼ、及びアルギニノサクシナーゼの遺伝子を含むDNA断片とベクターDNAとの組換え体DNAを保有せしめたコリネバクテリウム属又はブレビバクテリウム属に属する微生物(特公平5−23750号)を用いてL−アルギニンを製造する方法等が開示されている。【0004】ところで、L−グルタミン酸デヒドロゲナーゼはα−ケトグルタル酸を還元アミノ化してL−グルタミン酸を生成する反応を触媒する酵素であり、同酵素活性を増強するとL−グルタミン酸生産量が増加することが知られている(特開昭61-268185号、特開昭63-214189号)が、同酵素活性とL−アルギニンの生産能との関係は、知られていない。【0005】【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来よりもさらに改良された発酵法によるL−アルギニンの製造法、及びそれに用いる微生物を提供することを課題とする。【0006】【課題を解決するための手段】本発明者等は、コリネ型L−グルタミン酸生産菌の育種に関する研究の過程で、同細菌のグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(以下、「GDH」ともいう。)の活性を増強すると、L−グルタミン酸生産能だけでなくL−アスパラギン酸の生産能も上昇することを見い出している。これは、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼによるオキサロ酢酸からアスパラギン酸を生成する反応がGDH反応と共役し、GDH反応が進行することによってアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼによる反応が進行する結果である可能性があると考えられた。そして、この知見に基づいて、L−アルギニン生合成経路のシトルリンからアルギニノコハク酸を生成する反応においてアスパラギン酸が取り込まれることに着目し、L−アルギニン生産菌のGDH活性を増強したところ、L−アルギニン生産能が上昇することを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下のとおりである。【0007】(1)細胞中のGDH活性が増強され、かつL−アルギニン生産能を有する微生物。(2)前記GDH活性の増強が、前記細菌細胞内のGDHをコードする遺伝子のコピー数を高めることによるものである(1)の微生物。(3)前記GDHをコードする遺伝子がコリネ型細菌由来である(2)の微生物。(4)前記微生物が、コリネ型細菌、バチルス属細菌、セラチア属細菌、エシェリヒア属細菌、又はサッカロマイセス属もしくはキャンディダ属に属する酵母である(1)の微生物。(5)前記(1)〜(4)のいずれかの微生物を培地に培養し、該培養物中にL−アルギニンを生成蓄積せしめ、該培養物からL−アルギニンを採取することを特徴とするL−アルギニンの製造法。【0008】本発明において「L−アルギニン生産能」とは、本発明の微生物を培地に培養したときに、培地中にL−アルギニンを蓄積する能力をいう。【0009】【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。【0010】<1>本発明の微生物本発明の微生物は、L−アルギニン生産能を有し、かつ、細胞内のグルタミン酸デヒドロゲナーゼ活性が増強された微生物である。本発明の微生物としては、元来L−アルギニン生産能を有するか、細胞内のグルタミン酸デヒドロゲナーゼ活性が増強されることによりL−アルギニン生産能を獲得する微生物であれば特に制限されないが、具体的にはコリネ型細菌、バチルス属細菌、セラチア属細菌、エシェリヒア属細菌、サッカロマイセス属又はキャンディダ属に属する酵母が挙げられる。これらの中ではコリネ型細菌が好ましい。【0011】バチルス属細菌としてはバチルス・サブチリスが、セラチア属細菌としてはセラチア・マルセッセンスが、エシェリヒア属細菌としてはエシェリヒア・コリが、サッカロマイセス属酵母としてはサッカロマイセス・セレビシエが、キャンディダ属酵母としてキャンディダ・トロピカリスが挙げられる。【0012】アルギニン生産能を有する微生物としては、5-アザウラシル、6-アザウラシル、2-チオウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-アザシトシン、6-アザシトシン等に耐性なバチルス・サブチリス、アルギニンヒドロキサメート、2-チオウラシルに耐性なバチルス・サブチリス、アルギニンヒドロキサメート及び6-アザウラシルに耐性なバチルス・サブチリス(特開昭49-1268191号参照)、ヒスチジンアナログ又はトリプトファンアナログに耐性なバチルス・サブチリス(特開昭52-114092号参照)、メチニオン、ヒスチジン、スレオニン、プロリン、イソロイシイン、リジン、アデニン、グアニンまたはウラシル(またはウラシル前駆体)の少なくとも一つに要求性を有するバチルス・サブチリス変異株(特開昭52-99289号参照)、アルギニンヒドロキサメートに耐性なバチルス・サブチリス(特公昭51-6754号参照)、コハク酸要求性又は核酸塩基アナログに耐性なセラチア・マルセッセンス(特開昭58-9692号)、アルギニン分解能を欠損し、アルギニンのアンタゴニスト及びカナバニンに耐性を有し、リジンを要求するセラチア・マルセッセンス(特開昭52-8729号参照)、argA遺伝子を導入されたエシェリヒア・コリ(特開昭57-5693号参照)、アルギニン、アルギニンヒドロキサメート、ホモアルギニン、D−アルギニン、カナバニン耐性、アルギニンヒドロキサメート及び6−アザウラシル耐性のサッカロマイセス・セレビシエ(特開昭53-143288号参照)、及びカナバニン耐性のキャンディダ・トロピカリス(特開昭53-3586号参照)、が挙げられる。【0013】また、コリネ型細菌は、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが現在コリネバクテリウム属に統合された細菌を含み(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255 (1981))、またコリネバクテリウム属と非常に近縁なブレビバクテリウム属細菌を含む。このようなコリネ型細菌の例として以下のものが挙げられる。【0014】コリネバクテリウム・アセトアシドフィラムコリネバクテリウム・アセトグルタミカムコリネバクテリウム・アルカノリティカムコリネバクテリウム・カルナエコリネバクテリウム・グルタミカムコリネバクテリウム・リリウム(コリネバクテリウム・グルタミカム)コリネバクテリウム・メラセコーラコリネバクテリウム・サーモアミノゲネスコリネバクテリウム・ハーキュリスブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカム)ブレビバクテリウム・インマリオフィラムブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)ブレビバクテリウム・ロゼウムブレビバクテリウム・サッカロリティカムブレビバクテリウム・チオゲニタリスブレビバクテリウム・アルバムブレビバクテリウム・セリヌムミクロバクテリウム・アンモニアフィラム【0015】L−アルギニン生産能を有するコリネ型細菌としては、L−アルギニン生産能を有するものであれば特に制限されないが、例えば、コリネ型細菌野生株;サルファ剤、2−チアゾールアラニン又はα−アミノ−β−ヒドロキシ吉草酸等の薬剤に耐性を有するコリネ型細菌;2−チアゾールアラニン耐性に加えて、L−ヒスチジン、L−プロリン、L−スレオニン、L−イソロイシン、L−メチオニンまたはL−トリプトファン要求性を有するコリネ型細菌(特開昭54−44096号);ケトマロン酸、フルオロマロン酸又はモノフルオロ酢酸に耐性を有するコリネ型細菌(特開昭57−18989号);アルギニノールに耐性を有するコリネ型細菌(特開昭62−24075号);X−グアニジン(Xは脂肪酸又は脂肪鎖の誘導体)に耐性を有するコリネ型細菌(特開平2−186995号)等が挙げられる。【0016】具体的には、下記のような菌株を例示することができる。ブレビバクテリウム・フラバムAJ11169(FERM P-4161)ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ12092(FERM P-7273)ブレビバクテリウム・フラバムAJ11336(FERM P-4939)ブレビバクテリウム・フラバムAJ11345(FERM P-4948)ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ12430(FERM BP-2228)【0017】AJ11169株及びAJ12092株は特開昭54−44096号記載の2−チアゾールアラニン耐性株、AJ11336株は特公昭62−24075号記載のアルギニノール耐性及びサルファダイアジン耐性を有する株、AJ11345株は特公昭62−24075号記載のアルギニノール耐性、2−チアゾールアラニン耐性、サルファグアニジン耐性、及びヒスチジン要求性を有する株、及びAJ12430株は特開平2−186995号記載のオクチルグアニジン耐性及び2−チアゾールアラニン耐性を有する株である。【0018】<2>GDH活性の増幅微生物細胞中のGDH活性を増幅するには、GDHをコードする遺伝子断片を、該細菌で機能するベクター、好ましくはマルチコピー型のベクターと連結して組み換えDNAを作製し、これをL−アルギニン生産能を有する微生物に導入して形質転換すればよい。形質転換株の細胞内のGDHをコードする遺伝子のコピー数が上昇する結果、GDH活性が増幅される。【0019】GDHをコードする遺伝子は、コリネ型細菌の遺伝子を用いることも、エシェリヒア属細菌等の他の生物由来の遺伝子のいずれも使用することができる。コリネ型細菌のGDHをコードする遺伝子(gdh遺伝子)の塩基配列は既に明らかにされている(Molecular Microbiology (1992) 6 (3), 317-326)ので、その塩基配列に基づいて作製したプライマー、例えば配列表配列番号1及び2に示すプライマーを用いて、コリネ型細菌染色体DNAを鋳型とするPCR法(PCR:polymerase chain reaction; White,T.J. et al ;Trends Genet. 5,185(1989)参照)によって、gdh遺伝子を取得することができる。コリネ型細菌等の他の微生物のGDHをコードする遺伝子も、同様にして取得され得る。【0020】染色体DNAは、DNA供与体である細菌から、例えば、斎藤、三浦の方法(H.Saito and K.Miura Biochem.Biophys.Acta, 72,619,(1963)、生物工学実験書、日本生物工学会編、97〜98頁、培風館、1992年参照)等により調製することができる。【0021】PCR法により増幅されたgdh遺伝子は、エシェリヒア・コリ及び/又はコリネ型細菌等の目的とする微生物の細胞内において自律複製可能なベクターDNAに接続して組換えDNAを調製し、これをエシェリヒア・コリ細胞に導入しておくと、後の操作がしやすくなる。エシェリヒア・コリ細胞内において自律複製可能なベクターとしては、プラスミドベクターが好ましく、宿主の細胞内で自立複製可能なものが好ましく、例えば pUC19、pUC18、pBR322、pHSG299、pHSG399、pHSG398、RSF1010等が挙げられる。【0022】コリネ型細菌の細胞内において自律複製可能なベクターとしては、pAM330(特開昭58-67699号公報参照)、pHM1519(特開昭58-77895号公報参照)等が挙げられる。また、これらのベクターからコリネ型細菌中でプラスミドを自律複製可能にする能力を持つDNA断片を取り出し、前記エシェリヒア・コリ用のベクターに挿入すると、エシェリヒア・コリ及びコリネ型細菌の両方で自律複製可能ないわゆるシャトルベクターとして使用することができる。【0023】このようなシャトルベクターとしては、以下のものが挙げられる。尚、それぞれのベクターを保持する微生物及び国際寄託機関の受託番号をかっこ内に示した。【0024】これらのベクターは、寄託微生物から次のようにして得られる。対数増殖期に集められた細胞をリゾチーム及びSDSを用いて溶菌し、30000×gで遠心分離して溶解物から得た上澄液にポリエチレングリコールを添加し、セシウムクロライド−エチジウムブロマイド平衡密度勾配遠心分離により分別精製する。【0025】GDH遺伝子とベクターを連結して組み換えDNAを調製するには、GDH遺伝子を含むDNA断片の末端に合うような制限酵素でベクターを切断する。連結は、T4DNAリガーゼ等のリガーゼを用いて行うのが普通である。【0026】上記のように調製した組換えDNAを微生物に導入するには、これまでに報告されている形質転換法に従って行えばよい。例えば、エシェリヒア・コリ K−12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel,M.and Higa,A.,J. Mol. Biol., 53, 159 (1970))があり、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法( Duncan,C.H.,Wilson,G.A.and Young,F.E., Gene, 1, 153 (1977))がある。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法( Chang,S.and Choen,S.N.,Molec. Gen. Genet., 168, 111 (1979);Bibb,M.J.,Ward,J.M.and Hopwood,O.A.,Nature, 274, 398 (1978);Hinnen,A.,Hicks,J.B.and Fink,G.R.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 1929 (1978))も応用できる。また、コリネ型細菌の形質転換は、電気パルス法(杉本ら、特開平2-207791号公報)によっても行うことができる。【0027】GDH活性の増強は、gdh遺伝子を上記宿主の染色体DNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。微生物の染色体DNA上にgdh遺伝子を多コピーで導入するには、染色体DNA上に多コピー存在する配列を標的に利用して相同組換えにより行う。染色体DNA上に多コピー存在する配列としては、レペッティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーティッド・リピートが利用できる。あるいは、特開平2-109985号公報に開示されているように、gdh遺伝子をトランスポゾンに搭載してこれを転移させて染色体DNA上に多コピー導入することも可能である。いずれの方法によっても形質転換株内のgdh遺伝子のコピー数が上昇する結果、GDH活性が増幅される。【0028】GDH活性の増強は、上記の遺伝子増強による以外に、gdh遺伝子の発現調節配列をgdh遺伝子の発現が増強するように改変することによっても達成される。具体的には、染色体DNA上又はプラスミド上のgdh遺伝子のプロモーター等の発現調節配列を強力なものに置換する(特開平1-215280号公報参照)。例えば、コリネ型細菌の細胞内で機能するプロモーターのうち強力なものとしては、大腸菌のlacプロモーター、tacプロモーター、trpプロモーター等がある(Y.Morinaga,M.Tsuchiya,K.Miwa and K.Sano,J.Biotech.,5,305-312(1987))。また、コリネバクテリウム属細菌のtrpプロモーターも好適なプロモーターである(特開昭62-195294号公報)。これらのプロモーターへの置換により、gdh遺伝子の発現が強化されることによってGDH活性が増強される。発現調節配列の改変は、gdh遺伝子のコピー数を高めることと組み合わせてもよい。【0029】また、本発明の微生物は、GDH活性の増強に加えて、さらに他のL−アルギニン生合成を触媒する酵素の活性が増強されていてもよい。そのような酵素としては、アセチルオルニチンデアセチラーゼ、N−アセチルグルタミン酸−γ−セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、N−アセチルグルタモキナーゼ、アルギニノサクシナーゼ、N−アセチルグルタミン酸シンターゼ、N−アセチルグルタミン酸キナーゼ、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ、N−アセチルオルニチナーゼ、オルニチンカルバミルトランスフェラーゼ、及びアルギニノコハク酸シンターゼ等が挙げられる(特公平5−23750号公報、特公平7−28749号公報参照)。【0030】上記のL−アルギニン生合成酵素遺伝子及びgdh遺伝子は、同一のベクター上に保持させてもよく、それぞれ別個に2又はそれ以上のベクターに保持させてもよい。【0031】<3>L−アルギニンの生産上記のようにして得られる微生物を培地で培養し、該培養物中にL−アルギニンを生成蓄積せしめ、該培養物からL−アルギニンを採取することにより、L−アルギニンを効率よく製造することができる。【0032】使用する培地は、微生物を用いたアミノ酸の発酵生産に従来より用いられてきた周知の培地を用いてかまわない。つまり、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地である。【0033】炭素源としては、グルコース、シュクロース、ラクトース、ガラクトース、フラクトースやでんぷんの加水分解物などの糖類、グリセロールやソルビトールなどのアルコール類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類を用いることができる。【0034】窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。【0035】有機微量栄養源としては、ビタミンB1、L−ホモセリンなどの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じて、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。【0036】培養は好気的条件下で1〜7日間実施するのがよく、培養温度は24℃〜37℃、培養中のpHは5〜9がよい。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。発酵液からのL−アルギニンの採取は通常イオン交換樹脂法その他の公知の方法を組み合わせることにより実施できる。【0037】【実施例】以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。【0038】<1>コリネ型細菌由来のgdh遺伝子の単離とgdh遺伝子導入用プラスミドの作製コリネバクテリウム・グルタミカムの既知のgdh遺伝子配列(Molecular Microbiology (1992) 6 (3), 317-326)をもとに配列番号1及び2に示すプライマーを作製し、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869の染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、gdh遺伝子断片を得た。DNAの合成はApplied Biosystems社製DNA合成機 model 380Bを使用し、ホスホアミダイト法を用いて(Tetrahedron Letters(1981),22,1859参照)常法に従って合成した。PCR反応は、94℃1分、55℃1秒、72℃ 2.5分の反応を25サイクル繰り返すことにより行った。増幅されたDNA断片をクローニングベクターpHSG399(宝酒造(株)製)のマルチクローニングサイト内のSmaI部位クローニングし、pHSG-GDHを作製した。【0039】次に、pHSG-GDHをコリネ型細菌で自律複製可能にするために、既に取得されているコリネ型細菌で自律複製可能なプラスミドpHM1519(Miwa,k. et.al. Agric.Biol.Chem.48(1984)2901-2903、特開昭58-192900号)由来の複製起点(特開平5-7491号公報)を導入した。具体的には、pHM1519を制限酵素BamHIおよびKpnIで消化し、複製起点を含む遺伝子断片を取得し、得られた断片を宝酒造(株)製Blunting kitを用いて平滑末端化した後、SalIリンカー(宝酒造(株)製)を用いてpHSG-GDHのSalI部位に挿入し、pGDHを作製した。pHM1519は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13058から調製することができる。【0040】<2>gdh遺伝子で形質転換されたコリネ型細菌のL−アルギニン生産菌の作製 pGDHをL−アルギニン生産菌ブレビバクテリウム・フラバムAJ11345株に導入した。プラスミドの導入は、電気パルス法(特開平2-207791号公報参照)を用いた。形質転換体は、4μg/mlのクロラムフェニコールを含むCM2Gプレート培地(ポリペプトン10g、酵母エキス10g、グルコース5g、NaCl5g、寒天15gを純水1Lに含む。pH7.2)にてクロラムフェニコールに耐性な株として選択し、AJ11345/pGDHを得た。【0041】ブレビバクテリウム・フラバムAJ11345は、1979年4月25日に通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(郵便番号305日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)に受託番号FERM P-4948として寄託され、1999年9月27日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-6894として寄託されている。【0042】<3>L−アルギニンの製造AJ11345及びAJ11345/pGDHを、グルコース0.5g/dl、ポリペプトン 1g/dl、酵母エキス 1g/dl、NaCl 0.5g/dl、クロラムフェニコール 5μg/lを含む寒天培地にぬりつけ、31.5℃で20時間培養して得た菌体1エーゼを、グルコース4g/dl、硫酸アンモニウム6.5g/dl、KH2PO4 0.1g/dl、MgSO4 0.04g/dl、FeSO4 0.001g/dl、MnSO4 0.01g/dl、VB1 5μg/dl、ビオチン5μg/dl、大豆加水分解物(N量として)45mg/dlを含む培地に植菌し、フラスコにて31.5℃で50時間振とう培養を行った。各菌株のα−ケトグルタル酸、L−アルギニン及びL−アスパラギン酸の生成量を表1に示した。【0043】【表1】表1【0044】表1の結果から、L−アルギニン生産菌のGDH活性を増強すると、α−ケトグルタル酸の減少分よりもL−アルギニンの生成量が多くなっていることがわかる。また、GDH活性を増強した株では、L−アスパラギン酸の副生量が増加している。このことから、L−アルギニンの生成量が増加したことは、単にα-ケトグルタル酸の副生量が減少し、L−アルギニンの前駆体であるL−グルタミン酸の生成量が増えたことのみによるものではないことがわかる。L−アルギニン生合成系ではアルギニノコハク酸シンターゼにより触媒される反応でL−アスパラギン酸が基質として取り込まれることが知られており、GDHによるアスパラギン酸の供給量の増加が、この反応を促進し、L−アルギニン生成量を増加させたものと考えられる。すなわち、GDH活性の増強により、L−グルタミン酸及びL−アスパラギン酸の供給量がともに増加し(参考例参照)、それによりL−アルギニン生産能が顕著に上昇したものと考えられる。【0045】【参考例】pGDHをL−グルタミン酸生産菌ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム AJ13029株に導入した。AJ13029株は、1994年9月2日付けで工業技術院生命工学工業技術研究所に、受託番号FERM P-14501として寄託され、1995年8月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-5189が付与されている。プラスミドの導入は、電気パルス法(特開平2-207791号公報参照)を用いた。形質転換体は、4μg/mlのクロラムフェニコールを含むCM2Gプレート培地(ポリペプトン10g、酵母エキス10g、グルコース5g、NaCl5g、寒天15gを純水1Lに含む。pH7.2)にてクロラムフェニコールに耐性な株として選択し、AJ13029/pGDHを得た。【0046】AJ13029及びAJ13029/pGDHを、グルコース60g、KH2PO4 2g、MgSO4・7H2O 1.5g、FeSO4・7H2O 15mg、MnSO4・4H2O 5mg、大豆蛋白加水分解液50ml、ビオチン2mg、サイアミン塩酸塩3mgを1Lに含む培地(pH8.0)に接種し、31.5℃にて振とう培養し、培地中の糖が消費されるまで振とう培養した。得られた培養物を、同じ組成の培地に5%量接種し、37℃にて培地中の糖が消費されるまで振とう培養した。各菌株のL−グルタミン酸及びL−アスパラギン酸の生成量を表2に示す。【0047】【表2】表2【0048】【発明の効果】本発明により、L−アルギニン生産能を有するコリネ型細菌等の微生物のL−アルギニン生産能を向上させることができる。【0049】【配列表】【0050】【0051】 細胞中のグルタミン酸デヒドロゲナーゼ活性が増強され、かつ、L−アルギニン生産能を有するコリネ型細菌を培地に培養し、該培養物中にL−アルギニンを生成蓄積せしめ、該培養物からL−アルギニンを採取することを特徴とするL−アルギニンの製造法。 前記グルタミン酸デヒドロゲナーゼ活性の増強が、前記細菌細胞内のグルタミン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子のコピー数を高めることによるものである請求項1記載の方法。 前記グルタミン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子がコリネ型細菌由来である請求項2記載の方法。